説明

赤芽球の分類計数方法

【課題】経時変化を伴った抹消血液においても、精度よく、かつ安易、安価に赤芽球の測定を行うことができる方法を提供する。
【解決手段】(i)抹消血液に、白血球に特異的に結合する蛍光標識抗体を添加して白血球を蛍光染色し、(ii)工程(i)で得られた試料中の赤血球を溶血し、(iii)工程(ii)で得られた試料のpHおよび浸透圧を調整し、(iv)赤芽球の核を、前記蛍光標識抗体における蛍光と区別可能な蛍光スペクトルを有し、かつ通常細胞膜を透過しない核酸蛍光色素で蛍光染色し、(v)次いで、得られた試料をフローサイトメータに供して個々の細胞の少なくとも2つの蛍光信号を測定し、(vi)これら蛍光強度差に基づいて、抹消血液に含まれる赤芽球を分類し、分類された赤芽球を計数することからなる赤芽球の分類計数方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤芽球の分類計数方法に関し、より詳細には、フローサイトメトリを用いた赤芽球の分類計数方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の分野において、赤芽球を分類計数することは、疾患の診断及び疾患の経過の観察を行う上で極めて有用な情報を得ることができるため、有利である。つまり、赤芽球は有核赤血球ともよばれ、通常骨髄中に存在し、新生児を除いて、末梢血液中には存在しないため、末梢血液中に赤芽球が出現すれば、その患者は急性骨髄性白血病、溶血性貧血、鉄欠乏性貧血、悪性貧血、その他の非血液学的/腫瘍学的障害等の疾患である可能性を示している。よって、赤芽球の分類計数を行うことは、これらの疾患の診断及びこれらの疾患の経過の観察に非常に有用である。
【0003】
従来、赤芽球の分類計数を行うには、血液の塗抹標本を作製し、適当な染色を施した後に顕微鏡で観察しながら分類計数するのが一般的であった。しかし、このような方法では、観察のための煩雑な前処理が必要となるとともに、精度の良い結果を得るためには観察技師のかなりの熟練が必要となる。
【0004】
一方、近年、フローサイトメータの原理を応用した種々の全自動白血球分類計数装置が提供されており、このような装置を利用した血液成分の分析方法が提案されている。
【0005】
例えば、特開平4−268453号公報には、酸性低張処理を行うとともに、赤芽球の核を染色する蛍光色素で染色し、フローサイトメータで散乱光と蛍光とを検出し、赤芽球を分類計数する方法が記載されている。
【0006】
また、特開平5−34251号公報には、酸性低張処理後、蛍光色素であるアストラゾンイエロー3Gとニュートラルレッドとを含む4種類の色素で染色し、フローサイトメータで赤蛍光と緑蛍光とを測定して、赤芽球を測定する方法が記載されている。
【0007】
さらに、特表平8−507147号公報には、特定量の非第4アンモニウム塩、脂肪族アルデヒド、非リン酸塩緩衝液と、特定のpH、特定の浸透圧を有する試薬と、エチジウムホモダイマーのような核染料とを用いて、フローサイトメータで前方散乱光又は蛍光−側方散乱光を測定し、有核赤血球を測定する方法が記載されている。
【0008】
また、米国特許第5559037号には、赤血球と赤芽球との細胞膜を溶解し、白血球は染色しないが赤芽球を染色できる生体核染料で染色し、フローサイトメータで2つの角度の散乱光と蛍光とを測定して赤芽球を計数する方法が記載されている。しかし、これらの方法では、採血後の血液学的試料の経時変化により、赤芽球のみならず、白血球の細胞膜も損傷されやすくなるため、赤芽球の染色の際に白血球の一部が色素により染色されてしまい、例えば、散乱光と蛍光とによる検出では赤芽球及び白血球の出現位置が重なって、赤芽球を正確に測定することができないという問題がある。特に、リンパ球系細胞が傷害された場合には、傷害されたリンパ球と赤芽球とを明瞭に弁別することはさらに困難であり、赤芽球の出現を正確に把握することができないという問題がある。
【0009】
しかも、近年、医療経費の削減や医療機関の効率化のために、各医療機関で患者から採血した血液試料をある専門機関に集め、そこで集中的に検査することが行われるようになってきており、そのような場合には、採血から測定まで1日、あるいはそれ以上を要するものも稀ではない。
【0010】
さらに、一部のリンパ芽球出現検体又は化学療法などによって、白血球系細胞の細胞膜が溶血剤による障害を受けやすくなった検体では、経時変化していない場合でも、正確に赤芽球を分類計数することは困難である。
【0011】
また、特公平8−1434号公報には、チアゾールオレンジを試料に添加した後、2種の蛍光標識抗体である抗CD45及び抗CD71を添加し、フローサイトメータで少なくとも3種の蛍光チャネル及び少なくとも2種の光散乱チャネルで信号を検出して、有核赤血球等を同定する方法が記載されている。この方法によれば、特定の抗体と色素とを組み合わせることによって、有核赤血球を測定することができる。しかし、この方法では、2種の抗体と1種の蛍光色素を使用するため、測定試薬が非常に高価になるという問題があるため、安価に赤芽球を分析することが求められている。
【0012】
さらに、特開平2−73157号公報には、2種の蛍光核酸染料と蛍光標識モノクロナール抗体とを用い、フローサイトメータで少なくとも3種の蛍光チャネル及び少なくとも2種の光散乱チャネルで信号を検出して有核赤血球を含む種々の細胞を分析する方法が記載されている。しかし、この方法では、赤芽球を白血球と区別するために、蛍光標識モノクロナール抗体で染色し、側方散乱光を測定しているが、血小板、デブリスと赤芽球とを区別する方法が記載されていないため、正確に赤芽球を計数することはできない。
【0013】
また、日本特許第2620810号には、赤血球を溶解し、蛍光標識モノクロナール抗体を加え、固定剤を添加し、さらにDNAに優先的に結合する核酸染料を添加し、フローサイトメータで蛍光と散乱光とを検出する方法が記載されている。しかし、この方法によれば、まずサンプル中の赤血球を溶解する処理を行うため、その直後には遠心洗浄操作を行わなければならず、絶対計数は困難となる。また、この操作は煩雑であるため、測定技師の熟練度により測定結果に顕著な差が生じるという問題もある。

【特許文献1】特開平4−268453号公報
【特許文献2】特開平5−34251号公報
【特許文献3】特表平8−507147号公報
【特許文献4】米国特許第5559037号
【特許文献5】特公平8−1434号公報
【特許文献6】特開平2−73157号公報
【特許文献7】日本特許第2620810号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のように、採血後長時間を経過した血液学的試料においても、精度よく、かつ安易、安価に赤芽球の測定を行い、さらに赤芽球を成熟度に応じて分類計数することができる方法が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、(i)抹消血液に、白血球に特異的に結合する蛍光標識抗体を添加して白血球を蛍光染色し、(ii)工程(i)で得られた試料と、2.0〜5.0のpHおよび100mOsm/kg・H2O以下の浸透圧を有する第1液を混合して赤血球を溶血し、(iii)工程(ii)で得られた試料と、pH5.0〜11.0のpHおよび300〜1000mOsm/kg・H2Oの浸透圧を有する第2液を混合してpHおよび浸透圧を調整し、(iv)赤芽球の核を、前記蛍光標識抗体における蛍光と区別可能な蛍光スペクトルを有し、かつ通常細胞膜を透過しない核酸蛍光色素で蛍光染色し、(v)次いで、得られた試料をフローサイトメータに供して個々の細胞の少なくとも2つの蛍光信号を測定し、(vi)これら蛍光強度差に基づいて、抹消血液に含まれる赤芽球を分類し、分類された赤芽球を計数することからなる赤芽球の分類計数方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、工程(i)で用いる試料は、末梢血液である。
【0017】
また、白血球に特異的に結合する蛍光標識抗体における抗体とは、抗CD45抗体などが挙げられ、一般に市販されているものを使用することができる。
【0018】
上記抗体を蛍光標識抗体とするための蛍光標識化合物としては、フィコエリスリン(phycoerythrin)、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate:FITC)、アロフィコシアニン(allophycocyanin)、テキサスレッド(Texas Red)、CY5、ペリジニンクロロフィルコンプレックス(peridinin chlorophyll complex)及びそれらのフィコエリスリン結合体などによる標識化合物が挙げられる。これら蛍光標識化合物は、後述する核酸蛍光色素とは異なる蛍光スペクトルを有していることが好ましい。なかでも、フィコエリスリン、フルオレセインイソチオシアネートが好ましい。
【0019】
末梢血液と蛍光標識抗体との混合比は、用いる末梢血液の状態、蛍光標識抗体の種類等により適宜調整することができるが、例えば、10:1〜2:1程度の容量比があげられる。この際の反応温度、反応時間は、適宜調整することができるが、例えば、室温で15〜30分間、アイスバスで30〜45分間程度が好ましい。
【0020】
本発明の工程(ii)〜(iv)では、通常細胞膜を透過しない核酸蛍光色素の、赤芽球の細胞膜透過性を亢進させ、赤芽球を蛍光染色する。
【0021】
核酸蛍光色素としては、例えば、プロピジウムアイオダイド、N−メチル−4−(1−ピレン)ビニル−プロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、TOTO-1、TOTO-3、YOYO-1、YOYO-3、BOBO-1、BOBO-3、エチジウムホモダイマー−1(EthD-1)、エチジウムホモダイマー−2(EthD-2)、POPO-1、POPO-3、BO-PRO-1、YO-PRO-1、TO-PRO-1等が挙げられる。なかでも、プロピジウムアイオダイドが好ましい。これら核酸蛍光色素は、上述したように、工程(ii)における白血球に特異的に結合する蛍光標識抗体の蛍光標識化合物とは異なる蛍光スペクトルを有していることが好ましい。核酸蛍光色素の終濃度は、0.003〜200mg/L程度、好ましくは0.03〜70mg/L程度、より好ましくは0.3〜35mg/Lである。ここで、終濃度とは、フローサイトメータに供される末梢血液、蛍光標識抗体及び核酸蛍光色素の混合物中の濃度、あるいは、後述するような他の試薬を用いる場合においても、フローサイトメータに供される混合物中の濃度を意味する。
【0022】
上記核酸蛍光色素の赤芽球の細胞膜透過性を亢進させる方法としては、例えば、工程(i)で得られた末梢血液(少なくとも赤芽球及び白血球を含有する)に、pHを酸性域に保つための緩衝剤からなる低浸透圧の第1液を添加、混合する(工程(ii))。そして、得られた末梢血液及び第1液の混合液を中和し、溶液pHを染色に適したpHにするための緩衝剤と白血球の形態を保持する浸透圧に調整するための浸透圧調整剤とからなる第2液を添加、混合する(工程(iii))方法が挙げられる。
【0023】
工程(ii)における第1液は、赤血球を有効に溶血させるために、pHが酸性域、例えば、2.0〜5.0程度、より好ましくは2.5〜4.0程度、さらに好ましくは、3.0〜3.5程度に保持されたものである。pHが低すぎる場合には、赤血球のみならず、白血球、赤芽球及び白血球に特異的に結合する蛍光標識抗体にも過度の傷害を与え、一方、pHが高すぎる場合には、赤血球を断片化する作用が明らかに妨げられるため、好ましくない。
【0024】
上記pHを保持するための緩衝剤としては、酸解離定数pKaが3.0±2.0程度の緩衝剤が挙げられる。具体的には、例えば、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、リン酸、グッドの緩衝剤等が挙げられる。緩衝剤の濃度は、第1液をpH2.0〜5.0程度に維持するのに必要な濃度であれば特に限定されるものではなく、例えば、5〜50mM/Lが挙げられる。
【0025】
また、この緩衝液の浸透圧は、低浸透圧であることが必要であり、例えば、100mOsm/kg・H2O程度以下の浸透圧が挙げられ、より好ましくは10〜60mOsm/kg・H2O程度である。このような浸透圧に調整するために使用する浸透圧調整剤の種類は特に限定されないが、例えばアルカリ金属塩類、糖類等があげられる。具体的には、塩化ナトリウム、しょ糖等を0.1g/L〜2.0g/L程度の濃度で使用することができる。ただし、上述の緩衝剤のみで、上記浸透圧が補償される場合は、浸透圧調整剤を使用しなくてもよい。
【0026】
末梢血液と第1液との反応時間は、赤血球の溶血を完了するのに十分な時間が必要であり、例えば5秒〜120秒間程度、好ましくは10秒〜60秒間程度、さらに好ましくは20〜40秒間程度である。末梢血液と第1液との混合比は特に限定されないが、フローサイトメータでの測定を考慮すると、1:5〜1:200程度の容量比が好ましい。
【0027】
工程(iii)における第2液は、末梢血液と第1液との混合液を中和し、溶液pHを染色に適したpHにするための緩衝剤と白血球の形態を保持する浸透圧に調整するための浸透圧調整剤とからなる。
【0028】
第1液の酸を中和し、染色に適した第2液のpHは、例えば、5.0〜11.0程度であり、好ましくは、7.5〜10.0程度である。このpHに保持するために用いられる緩衝剤の種類は特に限定されないが、pKaが9.0±2.0付近にある緩衝剤が好ましい。具体的には、リン酸、HEPES、トリシン等が挙げられる。緩衝剤の濃度は、第2液をpH5.0〜11.0程度に維持するのに必要な濃度であれば特に限定されないが、通常5〜100mM/L程度が挙げられる。
【0029】
白血球の形態を保持するのに好適な浸透圧の範囲は、例えば300〜1000mOsm/kg・H2O程度、より好ましくは400〜600mOsm/kg・H2O程度である。このような浸透圧に調整するために使用する浸透圧調整剤の種類は特に限定されないが、アルカリ金属塩類、糖類等があげられる。具体的には、塩化ナトリウム、しょ糖等を10.0g/L〜20.0g/L程度の濃度で使用することができる。
【0030】
第1液と第2液との混合比は、先に使用した第1液のpH、量、第1液の浸透圧調整剤の濃度、第2液のpH、第2液の浸透圧調整剤の濃度等により適宜調整することができる。たとえば、第1液のpHが3.0、浸透圧が16mOsm/kg・H2O程度、第2液のpHが7.5、浸透圧が400mOsm/kg・H2O程度の場合、第1液と第2液との混合比は、1:1〜1:5程度が好ましい。
【0031】
なお、本発明の工程(iii)において、末梢血液の白血球の形態を保持するためには、第1液及び第2液を混合した後の浸透圧が100〜500mOsm/kg・H2Oの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは200〜400mOsm/kg・H2Oの範囲である。第1液及び第2液を混合した後の浸透圧がこの範囲を外れる場合には、第2液に、さらに浸透圧補償剤を含むことが好ましい。浸透圧補償剤の種類は、特に限定されないが、アルカリ金属又は糖類等、通常、生物学的細胞を生理的浸透圧に保つための物質が好ましい。
【0032】
本発明の工程(iv)では、赤芽球の核を、前記蛍光標識抗体における蛍光と区別可能な蛍光スペクトルを有し、かつ通常細胞膜を透過しない核酸蛍光色素で蛍光染色する。赤芽球の核を蛍光染色するとは、上記工程で処理された末梢血液を、核酸蛍光色素で染色する工程である。具体的には、予め第1液又は第2液に、核酸蛍光色素を添加しておき、核酸蛍光色素を含有する第1液又は第2液を、末梢血液と混合する方法が挙げられる。また、核酸蛍光色素を含む溶液を調製しておき、この溶液を添加してもよい。なかでも、核酸蛍光色素は第1液に予め添加しておくことが好ましい。この際の赤芽球の核の染色に要する時間は、末梢血液とすべての試薬を混合した後、1〜120分間程度であり、好ましくは3〜30分間程度、より好ましくは5〜10分間程度である。
【0033】
本発明の工程(v)において使用するフローサイトメータは、特に限定されるものではなく、一般に市販されているものを用いることができる。このようなフローサイトメータにより、個々の細胞の少なくとも2つの蛍光信号を測定する。この際の蛍光信号は、使用する蛍光標識抗体の標識化合物、核酸蛍光色素の種類により異なるが、例えば、赤蛍光と緑蛍光との組み合わせ、赤蛍光と橙蛍光の組み合わせ、橙蛍光と緑蛍光との組み合わせ等が挙げられる。なかでも、赤蛍光と緑蛍光との組み合わせが好ましい。
【0034】
本発明の工程(vi)においては、赤芽球は上述した少なくとも2つの蛍光信号の強度差に基づいて、分類計数することができる。例えば、2つの蛍光信号を測定した場合には、2軸をそれぞれ白血球に特異的に結合する蛍光標識抗体に基づく蛍光及び核酸蛍光色素に基づく蛍光とし、2次元分布(たとえば、スキャッタグラム)を得ることが好ましい。この2次元分布から白血球及び赤芽球の分布領域を設定し、それぞれの領域の細胞数を計数し、赤芽球の細胞数を白血球の細胞数で除算することにより、白血球に対する赤芽球の比率を求めることができる。
【0035】
また、薬剤投与の影響等で白血球膜が過度に傷害され、白血球に特異的に結合する蛍光標識抗体に基づく蛍光(実施例では緑蛍光)及び核酸蛍光色素に基づく蛍光(実施例では赤蛍光)を2軸とする2次元分布上で、赤芽球の弁別が明瞭でないときは、工程(iv)において、さらに、(a)同時に散乱光信号を測定し、散乱光信号(たとえば、側方散乱光、前方散乱光、好ましくは側方散乱光)と蛍光標識抗体に基づく蛍光信号とをそれぞれ2軸とする2次元分布を得て、その分布から白血球集団を特定し(図6)、(b)核酸蛍光色素と蛍光標識抗体に基づく蛍光とをそれぞれ2軸とする2次元分布上で、対応する白血球集団の分布領域を特定し(図7)、(c)(b)の2次元分布上で白血球集団と赤芽球集団との境界(A)を設定することにより、赤芽球をより精度よく弁別することができる。
【0036】
さらに、工程(iv)において、核酸蛍光色素を0.003mg/L〜10mg/Lの濃度範囲にした場合、核酸蛍光色素に基づく蛍光の強度差によって、少なくとも2つの異なる成熟度の赤芽球に分類することが可能である。核酸蛍光色素の濃度は、より好ましくは0.03mg/L〜3mg/Lの範囲である。
【0037】
この場合には、工程(vi)において、核酸蛍光色素に基づく蛍光の強度差から、成熟度の異なる赤芽球を分類計数することができる。つまり、2次元分布から赤芽球の分布領域を設定し、さらに核酸蛍光色素に基づく蛍光の強度差によって赤芽球の領域内に各成熟段階の赤芽球の領域を設定することにより、それぞれの領域の細胞数を計数することができる。さらに、各成熟段階の赤芽球の細胞数を全赤芽球数で除算することにより、全赤芽球に対する各成熟度段階の赤芽球の比率をも求めることができる。
【0038】
赤芽球を成熟段階に応じて分類するとは、たとえば、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染性赤芽球、正染性赤芽球等を少なくとも2つの赤芽球グループに分類計数することをいう。
【実施例】
【0039】
以下に本発明の赤芽球の分類計数方法の実施例を具体的に説明する。
実施例1まず、以下の組成の試薬を調製した。
蛍光標識抗体・FITC標識抗CD45抗体第1液(pH3.0、浸透圧:16mOsm/kg・H2O)
・緩衝剤 クエン酸一水和物 2.10g/L リン酸二ナトリウム 0.56g/L ・核酸蛍光色素 プロピジウムアイオダイド 100mg/L ・精製水第2液(pH7.5、浸透圧:420mOsm/kg・H2O)
・緩衝剤 リン酸一ナトリウム二水和物 0.95g/L リン酸二ナトリウム 6.24g/L ・浸透圧調整剤 塩化ナトリウム 10.2g/L ・精製水
【0040】
まず、抗凝固剤処理した末梢血液に患者の血液50μLを加え、血液学的試料を調製した。なお、この際に用いた末梢血液及び患者の血液は採取後8時間経過したものであった。FITC標識抗CD45抗体10μLを、得られた血液学的試料に加え、室温で約15分間インキュベーションした。
【0041】
その後、第1液を500μL加え、室温で約30秒間インキュベーションし、さらに第2液を1000μL加え、室温で約5分間インキュベーションし、得られた血液学的試料に含有されている個々の細胞について、光源として488nmのアルゴンイオンレーザを装備したフローサイトメータで、530nm(緑)、650nm(赤)の波長の蛍光を測定した。
【0042】
図1に緑蛍光強度と赤蛍光強度とを座標軸とする個々の細胞の分布を描いたスキャッタグラムを示す。図1では、白血球、赤蛍光染色白血球、赤芽球、ゴーストの4集団が認められた。解析は、図2に示したように、白血球及び赤蛍光染色白血球をウィンドウ(W1)によって囲み、白血球のみの数を計数し、全白血球数を計数した。
【0043】
次に、すべての赤芽球をウィンドウ(W2)によって囲み、赤芽球のみの数を計数し、全赤芽球数を計数した。全赤芽球数を、上記で求めた全白血球で除算することにより、白血球に対する赤芽球の比率を求めた。
【0044】
また、実施例1とは別に、実施例1と同様の血液学的試料を用いて、用手法(メイグリュンワルド−ギムザ染色、1000カウント)により赤芽球を分類計数した。図3に、本実施例のフローサイトメータで測定した赤芽球数と、用手法で測定した赤芽球数との相関図を示す。
【0045】
図3から、相関係数Rは0.991となり、実施例1の方法が赤芽球の分類計数について非常に精度が高いことが確認された。
【0046】
実施例2実施例1と同様の方法により、末梢血液(採血後8時間後、24時間後、48時間後、血液は室温保存)及び2人の患者の血液を用い、白血球及び赤芽球の測定を行った。その結果を図4(a)〜(c)及び5(a)〜(c)にそれぞれ示す。
【0047】
また、各検体について、実施例1と同様の方法によって全白血球に対する全赤芽球の比率を求めた。その結果を表1に示す。
【表1】

【0048】
図4(a)〜(c)、図5(a)〜(c)及び表1から明らかなように、本実施例の方法によれば、時間の経過にかかわらず、ほぼ同様の測定結果が得られることが確認された。
【0049】
実施例3まず、以下の組成の試薬を調製した。
蛍光標識抗体・FITC標識抗CD45抗体第1液(pH3.0、浸透圧:16mOsm/kg・H2O)
・緩衝剤 クエン酸一水和物 2.10g/L リン酸二ナトリウム 0.56g/L ・核酸蛍光色素 プロピジウムアイオダイド 1mg/L ・精製水第2液(pH7.5、浸透圧:420mOsm/kg・H2O)
・緩衝剤 リン酸一ナトリウム二水和物 0.95g/L リン酸二ナトリウム 6.24g/L ・浸透圧調整剤 塩化ナトリウム 10.2g/L ・精製水
【0050】
まず、FITC標識抗CD45抗体10μLに、抗凝固剤処理した末梢血液に赤芽球が出現した患者の血液50μLを加え、室温で約15分間インキュベーションした。その後、第1液を500μL加え、室温で約30秒間インキュベーションし、さらに第2液を1000μL加え、室温で約5分間インキュベーションし、得られた血液学的試料に含有されている個々の細胞について、光源として488nmのアルゴンイオンレーザを装備したフローサイトメータで、530nm(緑)、650nm(赤)の波長の蛍光を測定した。
【0051】
図8に緑蛍光強度と赤蛍光強度とを座標軸とする個々の細胞の分布を描いたスキャッタグラムを示す。図8では、白血球、赤蛍光染色白血球、成熟赤芽球、未成熟赤芽球1、未成熟赤芽球2、ゴーストの6集団が認められた。解析は、図9に示したように、白血球及び赤蛍光染色白血球をウィンドウ(W1)によって囲み、白血球のみの数を計数し、全白血球数を計数した。次に、すべての赤芽球をウィンドウ(W2)によって囲み、赤芽球のみの数を計数し、全赤芽球数を計数した。
【0052】
さらに、ウィンドウ(W2)中の赤芽球をステージI、II、IIIとしてそれぞれウィンドウ(W3)、ウィンドウ(W4)及びウィンドウ(W5)によって囲み、それぞれの数を計数した。得られた各ウィンドウの赤芽球数を、全赤芽球数で除算することにより、全赤芽球に対する各ステージにおける赤芽球の比率を求めた。
【0053】
また、実施例3とは別に、実施例3と同様の血液学的試料を用いて用手法(メイグリュンワルド−ギムザ染色)により、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染性赤芽球、正染性赤芽球の赤芽球に分類計数した。
【0054】
表2に、実施例3のフローサイトメータで測定した結果と、用手法で測定した結果を示す。なお、表2においては、ステージI、II及びIIIは、それぞれ図8における未成熟赤芽球2、未成熟赤芽球1及び成熟赤芽球に対応する。
【表2】

【0055】
表2から、本方法と用手法との結果がほぼ一致しており、実施例3の方法が赤芽球の分類計数について非常に精度が高いことが確認された。
【0056】
実施例4実施例3と同様の方法により、末梢血液(採血後8時間後、血液は室温保存)及び24人の血液疾患患者の血液を用い、赤芽球の測定を行った。また、実施例4とは別に、実施例4と同様の血液学的試料を用いて用手法(メイグリュンワルド−ギムザ染色)により、赤芽球の測定を行った。
【0057】
図10及び図11に、本実施例のフローサイトメータで測定した赤芽球数と、用手法で測定したステージII及びステージIIIにおける赤芽球数との相関図を示す。図10及び図11から、実施例4の方法が赤芽球の各ステージにおける分類計数について非常に精度が高いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の赤芽球の分類計数方法により測定されたスキャッタグラムである。
【図2】図1の模式図である。
【図3】本発明の方法と用手法とで測定された赤芽球数の相関関係を示す図である。
【図4】本発明の赤芽球の分類計数方法により、赤芽球測定の経時変化を示すスキャッタグタムである。
【図5】本発明の赤芽球の分類計数方法により、赤芽球測定の経時変化を示す別のサンプルによるスキャッタグラムである。
【図6】本発明の赤芽球の分類計数方法に散乱光信号を組み合わせた場合のスキャッタグラムである。
【図7】図6におけるGho+NRBCをさらに赤芽球とゴーストに弁別した場合のスキャッタグラムである。
【図8】本発明の赤芽球の分類計数方法により、緑蛍光強度と赤蛍光強度とを座標軸とする個々の細胞の分布を示すスキャッタグラムである。
【図9】図1の模式図である。
【図10】本発明の方法と用手法とで測定されたステージIIの赤芽球数の相関関係を示す図である。
【図11】本発明の方法と用手法とで測定されたステージIIIの赤芽球数の相関関係を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
WBC 全白血球
NRBC 赤芽球
leu 白血球
Gho ゴースト
Ly リンパ球
Mo 単球
Gran 顆粒球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)抹消血液に、白血球に特異的に結合する蛍光標識抗体を添加して白血球を蛍光染色し、
(ii)工程(i)で得られた試料と、2.0〜5.0のpHおよび100mOsm/kg・H2O以下の浸透圧を有する第1液を混合して赤血球を溶血し、
(iii)工程(ii)で得られた試料と、pH5.0〜11.0のpHおよび300〜1000mOsm/kg・H2Oの浸透圧を有する第2液を混合してpHおよび浸透圧を調整し、
(iv)赤芽球の核を、前記蛍光標識抗体における蛍光と区別可能な蛍光スペクトルを有し、かつ通常細胞膜を透過しない核酸蛍光色素で蛍光染色し、
(v)次いで、得られた試料をフローサイトメータに供して個々の細胞の少なくとも2つの蛍光信号を測定し、
(vi)これら蛍光強度差に基づいて、抹消血液に含まれる赤芽球を分類し、分類された赤芽球を計数することからなる赤芽球の分類計数方法。
【請求項2】
工程(i)における白血球に特異的に結合する蛍光標識抗体が、白血球表面に発現している抗原を認識し、その抗原に結合する蛍光標識抗体である請求項1記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項3】
工程(i)の蛍光標識抗体の蛍光標識化合物が、フィコエリスリン、フルオレセインイソチオシアネート、アロフィコシアニン、テキサスレッド、CY5、ペリジニンクロロフィルコンプレックス及びそれらのフィコエリスリン結合体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である請求項1又は2のいずれかに記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項4】
第1液または第2液が、核酸蛍光色素を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項5】
第1液の浸透圧が、10〜60mOsm/kg・H2Oである、請求項1〜4のいずれかに記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項6】
第1液のpHが、7.5〜10.0である、請求項1〜5のいずれかに記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項7】
第2液を混合した後の試料の浸透圧が、400〜600mOsm/kg・H2Oである、請求項1〜6のいずれかに記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項8】
分類された赤芽球を、核酸蛍光色素の蛍光強度に基づいて、少なくとも2つの異なる成熟度の赤芽球に分類する工程をさらに備える請求項1〜7のいずれかに記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項9】
工程(iv)の核酸蛍光色素が、プロピジウムアイオダイド、N−メチル−
4−(1−ピレン)ビニル−プロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、TOTO-1、TOTO-3、YOYO-1、YOYO-3、BOBO-1、BOBO-3、エチジウムホモダイマー−1(EthD-1)、エチジウムホモダイマー−2(EthD-2)、POPO-1、POPO-3、BO-PRO-1、YO-PRO-1、TO-PRO-1からなる群から選択される少なくとも1種類の色素である請求項1〜8のいずれかに記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項10】
測定された個々の細胞の蛍光信号から、白血球に特異的に結合する蛍光標識抗体に基づく蛍光及び核酸蛍光色素に基づく蛍光をそれぞれ2軸として2次元分布を得ることからなる請求項1〜9のいずれかに記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項11】
2次元分布から赤芽球の分布領域を設定し、その領域の細胞数を計数する請求項10に記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項12】
2次元分布から白血球及び赤芽球の分布領域を設定し、それぞれの領域
の細胞数を計数し、赤芽球細胞数を白血球細胞数で除算することにより白血球に対する赤芽球の比率を求める請求項10又は11に記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項13】
核酸蛍光色素を、0.003mg/L〜10mg/Lの濃度範囲で使用する請求項1〜12に記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項14】
(1)測定された個々の細胞の蛍光信号から、白血球に特異的に結合する蛍光標識抗体に基づく蛍光及び核酸蛍光色素に基づく蛍光をそれぞれ2軸として2次元分布を得、
(2)2次元分布において、核酸蛍光色素に基づく蛍光の強度差で、赤芽球を少なくとも2つに分類する領域を設定し、各領域の細胞数を計数することによって、成熟度の異なる赤芽球を分類することからなる請求項8に記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項15】
2次元分布において、全赤芽球及び少なくとも2つの成熟度の異なる赤芽球の各領域の細胞数を計数し、2つの成熟度の異なる赤芽球の細胞数を全赤芽球数でそれぞれ除算することにより全赤芽球に対する成熟度の異なる赤芽球の各比率を求める請求項14に記載の赤芽球の分類計数方法。
【請求項16】
工程(i)において使用される蛍光標識抗体が、1種類である請求項1〜15に記載の赤芽球の分類計数方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−80122(P2009−80122A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278267(P2008−278267)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【分割の表示】特願平11−100193の分割
【原出願日】平成11年4月7日(1999.4.7)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】