説明

走行車両

【課題】 急激な速度変化を防止しつつ、アンチストール機能の応答性を簡単な構造で改善する。
【解決手段】 HSTポンプ66によってHSTモータ57を駆動して走行装置4を駆動するHSTと、HSTポンプ66の斜板を制御する走行操作装置14とを備え、HSTポンプ66は、走行操作装置14からショック緩和用絞り77を介してパイロット圧が供給される一対の受圧部66a,66bの差圧によって斜板の角度が制御され、エンジン回転数の低下にともなって走行操作装置14の一次側圧力が降下してHSTポンプ66の斜板が中立側に戻ることでエンジンストールが防止される走行車両において、一端側が走行操作装置14の一次側の油圧流路に連通し他端側がショック緩和用絞り77と受圧部66aとの間の油圧流路に連通する逃がし油路83設け、逃がし油路83に、前記受圧部66aの圧力>走行操作装置14の一次側圧力、のときに開くチェック弁84を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンによって駆動される斜板形可変容量ポンプからなるHSTポンプによってHSTモータを駆動するように構成したHST(静油圧トランスミッション)により走行装置を駆動するようにしたトラックローダ、スキッドローダ等の自走式作業機などの走行車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンによって駆動される斜板形可変容量ポンプからなるHSTポンプと、このHSTポンプと一対の変速用油路により閉回路接続されていて該HSTポンプからの吐出油によって駆動されるHSTモータとを有するHSTによって走行装置を駆動するようにした走行車両が特許文献1にて開示されている。
この走行車両にあっては、エンジンによって駆動されるパイロットポンプの吐出油によって前記HSTポンプの斜板を制御する走行操作装置を備え、前記HSTポンプは該HSTポンプの斜板の角度を制御する斜板制御用シリンダを備え、該斜板制御用シリンダは、走行操作装置からパイロット圧が供給される一対の受圧部を備えていて、これら受圧部の差圧によってHSTポンプの斜板の角度が制御されるよう構成されている。
【0003】
前記走行装置をHSTによって駆動する走行車両にあっては、走行中にHSTモータに大きな負荷がかかると、該負荷はHSTポンプを介してエンジンに伝達されて該エンジンの回転数が低下するが、エンジンの回転数が低下すると、パイロットポンプの回転数が減少して該パイロットポンプの吐出量が減少することにより、走行操作装置の一次側圧力及び二次側圧力が低下し(斜板制御用シリンダの制御圧が低下し)、これによってHSTポンプの回転数が減少するように該HSTポンプの斜板角が自動調整されることでエンジンの負荷を減少させてエンジンストールを防止するアンチストール機能を備えている。
【0004】
また、前記走行車両にあっては、急激な車速の変動を防止するために、HSTポンプの各受圧部に対して走行操作装置からのパイロット圧を供給するための油圧流路にショック緩和用絞りが設けられているが、このショック緩和用絞りを設けると、HSTモータに急激に過負荷がかかったときにおけるアンチストール機能の応答性が悪くなるという問題がある。
そこで、前記走行車両にあっては、一端側が斜板制御用シリンダの受圧部に接続され、他端側が走行操作装置から斜板制御用シリンダの受圧部に至る油圧流路のショック緩和用絞りの上流側に接続されたバイパス油路が設けられていると共に、このバイパス油路に該バイパス油路を遮断する位置と開通する位置とに切換自在な開閉弁が設けられている。
【0005】
前記開閉弁は通常は前記バイパス油路を遮断する位置に切換えられていて、受圧部に対する圧油の給排はショック緩和用絞りを介して行われ、エンジンに急激に過負荷がかかりエンジンの回転数が許容下限回転数を下回った場合には、HSTポンプの斜板を素早く中立側に戻すべく、開閉弁を開いてバイパス油路を介して一方の受圧部の圧を減圧させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−245572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の走行車両にあっては、開閉弁は電磁弁によって構成され、エンジンの回転数をセンサによって検出して該エンジン回転数をコントローラに入力し、エンジンの回転数が許容下限回転数を下回った場合に、コントローラから開閉弁に励磁信号を発して該開閉弁を開くようにしている。
このように、エンジンに急激に過負荷が作用したときに素早くHSTポンプの斜板を中立側に戻すようにコントローラによってコントロールするように構成すると、構造が複雑化してコストアップを招くという問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明は、前記問題点に鑑み、急激な速度変化を防止しつつ、アンチストール機能の応答性を簡単な構造で改善することができる走行車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記技術的課題を解決するために本発明が講じた技術的手段は、エンジンによって駆動される斜板形可変容量ポンプからなるHSTポンプの吐出油によってHSTモータを駆動して走行装置を駆動するHSTと、前記エンジンによって駆動されるパイロットポンプから吐出される圧油によって前記HSTポンプの斜板を制御する走行操作装置とを備え、
前記HSTポンプは、前記走行操作装置からショック緩和用絞りを介してパイロット圧が供給される一対の受圧部を備えていて、これら受圧部の差圧によって斜板の角度が制御されるよう構成され、
前記エンジンの回転数の低下にともなって前記走行操作装置の一次側圧力が降下して前記HSTポンプの斜板が中立側に戻ることによりエンジンストールが防止されるよう構成された走行車両において、
一端側が前記走行操作装置の一次側の油圧流路に連通し他端側が前記ショック緩和用絞りと前記受圧部との間の油圧流路に連通する逃がし油路を設け、
この逃がし油路に、該逃がし油路の他端側に連通する前記受圧部の圧力が前記走行操作装置の一次側圧力よりも大であるときに開くチェック弁を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、前記走行操作装置の一次側の圧油の一部を絞りを介してドレンさせるブリード回路を設けるのがよい。
また、前記HSTポンプと前記HSTモータとを閉回路接続する一対の変速用油路に圧油を補充するためのチャージ回路を備え、このチャージ回路に、前記走行操作装置の一次側の圧油を供給するようにしてもよい。
また、前記HSTポンプは、一方の受圧部の圧力が他方の受圧部の圧力よりも大であるときに走行装置を前進駆動するように斜板が傾転されると共に前記他方の受圧部の圧力が前記一方の受圧部の圧力よりも大であるときに走行装置を後進駆動するように斜板が傾転されるよう構成され、このHSTポンプの前記一方の受圧部の圧力が前記逃がし油路を介して逃がされるように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、逃がし油路の他端側に連通する受圧部の圧力が走行操作装置の一次側圧力よりも小であるときには、チェック弁が閉じていて、走行操作装置と受圧部との間の油圧流路をショック緩和用絞りを介してパイロット圧が流通することで、急激な速度変化が防止され、
エンジンに急激に過負荷が作用して走行操作装置の一次側圧力が急激に降下し、該走行操作装置の一次側圧力よりも逃がし油路の他端側に連通する受圧部の圧力が大になったときには、チェック弁が開いて、HSTポンプの前記受圧部の圧力が逃がし油路から走行操作装置の一次側に逃げることにより、HSTポンプの斜板が速やかに中立側に戻る。
【0012】
したがって、本発明によれば、ショック緩和用絞りによって急激な速度変化を防止しつつ、アンチストール機能の応答性を、逃がし油路にチェック弁を設けるという簡単な構造で改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】作業機の全体側面図である。
【図2】キャビンを持ち上げた状態の作業機の一部を示す側面断面図である。
【図3】作業機の油圧システムを示す油圧回路である。
【図4】走行系の油圧システムを示す油圧回路図である。
【図5】走行系の油圧システムを示す簡略油圧回路図である。
【図6】作業系の油圧システムを示す油圧回路図である。
【図7】作業系の油圧システムを示す簡略油圧回路図である。
【図8】作業系の他の油圧システムを示す簡略油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1、図2において、1は本発明に係る走行車両として例示するトラックローダ(作業機)であり、このトラックローダ1は、機体2と、この機体2に装着した作業装置3と、機体2を支持する左右一対の走行装置4とを備え、機体2の上部前部寄りにキャビン5(運転者保護装置)が搭載されている。
機体2は、鉄板等により構成されていて、底壁6と、左右一対の側壁7と、前壁8と、左右各側壁7の後部に設けられた支持枠体9とを備え、側壁7間は上方に開放状とされ、この機体2の後端部には、左右一対の支持枠体9間の後端開口を塞ぐ蓋部材10が開閉自在に設けられている。
【0015】
前記キャビン5は、前下端が機体2の前壁8の上縁部8aに接当載置されていると共に、背面の上下中途部が機体2の支持ブラケット11に、左右方向の支持軸12廻りに揺動自在に支持されており、前記支持軸12回りにキャビン5を上方に揺動することにより機体2内のメンテナンス等ができるよう構成されている。
キャビン5内には運転席13が設けられ、この運転席13の左右一側(例えば、左側)には、走行装置4を操作するための走行操作装置14が配置され、運転席13の左右他側(例えば、右側)には、作業装置3を操作するための作業操作装置15が配置されている。
【0016】
キャビン5は上面が屋根で塞がれ、左右の側面が多数の角孔を形成した側壁で塞がれ、背面上部がリヤガラスで塞がれ、底面の前後方向中央部が底壁により塞がれていて、前方が開口した箱形に形成され、前面側が乗降口とされている。
左右の各走行装置4は、前後一対の従動輪16と、前後の従動輪16間の上方で且つ後部寄りに配置した駆動輪17と、前後の従動輪16間に配置した複数の転輪18と、これら前後従動輪16,駆動輪17及び転輪18にわたって巻き掛けられた無端帯状のクローラベルト19とを備えてなるクローラ式走行装置により構成されている。
【0017】
前後従動輪16及び転輪18は、機体2に取付固定されたトラックフレーム20に横軸回りに回転自在に取り付けられ、駆動輪17は前記トラックフレーム20に取り付けられた油圧駆動式の走行モータ21L,21R(ホイルモータ)の回転ドラムに取り付けられ、該走行モータ21L,21Rによって駆動輪17を左右軸回りに回転駆動することによりクローラベルト19が周方向に循環回走され、これにより、作業機1が前後進するように構成されている。
作業装置3は、左右一対のアーム22と、該アーム22の先端側に装着したバケット23(作業具)とを備えている。
【0018】
左右一対のアーム22は、機体2及びキャビン5の左右両側に配置され、左右のアーム22はその前部側の中途部において連結体によって相互に連結されている。
左右の各アーム22は、該アーム22の先端側が機体2の前方側で昇降するように、その基部側(後部側)が機体2の後上部に第1リフトリンク24と第2リフトリンク25とを介して上下揺動自在に支持されている。
また、左右の各アーム22の基部側と機体2の後下部との間には、複動式油圧シリンダからなるリフトシリンダ26が設けられていて、左右のリフトシリンダ26を左右同時に伸縮させることにより左右のアーム22が上下に揺動動作する。
【0019】
左右の各アーム22の先端側には、それぞれ装着ブラケット27が左右軸回りに回動自在に枢支連結され、左右の装着ブラケット27にバケット23の背面側が取り付けられている。
また、装着ブラケット27とアーム22の先端側中途部との間には、複動式油圧シリンダからなるバケットシリンダ28が介装され、このバケットシリンダ28の伸縮によってバケット23が揺動動作(スクイ・ダンプ動作)するように構成されている。
バケット23は装着ブラケット27に対して着脱自在とされており、バケット23を取り外して装着ブラケット27に各種のアタッチメント(油圧駆動式の作業具)を取り付けることで、掘削以外の各種の作業(又は他の掘削作業)を行えるように構成されている。
【0020】
機体2の底壁6上の後側にはエンジン29が設けられ、機体2の底壁6上の前側には燃料タンク30と作動油タンク31とが設けられている。
エンジン29の前方には左右の走行モータ21L,21Rを駆動する油圧駆動装置32が設けられ、この油圧駆動装置32の前方に第1〜3ポンプP1,P2,P3が設けられ、機体2の右側壁7の前後方向中途部に、作業装置3用のコントロールバルブ33(油圧制御装置)が設けられている。
次に、図3〜7を参照して、作業機1の油圧システムについて説明する。
【0021】
第1〜3ポンプP1,P2,P3は、エンジン29の動力によって駆動される定容量型のギヤポンプによって構成されている。
第1ポンプP1(メインポンプ)は、リフトシリンダ26、バケットシリンダ28又はアーム22の先端側に取り付けられるアタッチメントの油圧アクチュエータを駆動するために使用される。
第2ポンプP2(パイロットポンプ、チャージポンプ)は、主として制御信号圧力(パイロット圧)の供給用に使用される。
【0022】
第3ポンプP3(サブポンプ)は、アーム22の先端側に取り付けられる油圧駆動式のアタッチメントの油圧アクチュエータが大容量を必要とする油圧アクチュエータである場合に該油圧アクチュエータに供給する作動油の流量を増量するのに使用される。
走行操作装置14は、前進用のパイロット弁36と、後進用のパイロット弁37と、右旋回用のパイロット弁38と、左旋回用のパイロット弁39と、これらパイロット弁36,37,38,39について共通の(1本の)走行レバー40と、第1〜4シャトル弁41,42,43,44とを有する。
【0023】
また、この走行操作装置14は、第1〜4の出力ポート46,47,48,49と、第2ポンプP2からの圧油を入力するポンプポート50と、作動油タンク31に連通するタンクポート51とを有する。
前記第2ポンプP2には、該第2ポンプP2から吐出される吐出油(パイロット油)を流通させるメイン供給路aが接続され、このメイン供給路aには、リリーフ弁52を有するリリーフ回路53が接続されている。
前記メイン供給路aは分岐点bで第1供給路cと、第2供給路dと、第3供給路eとに分岐され、第3供給路eはさらに第4供給路fと第5供給路gとに分岐されている。
【0024】
第1供給路cは前記走行操作装置14のポンプポート50に接続されており、第2ポンプP2の吐出油がパイロット油として走行操作装置14に供給され、この走行操作装置14に供給されたパイロット油は該走行操作装置14の各パイロット弁36,37,38,39に供給可能とされていると共に、使用されないパイロット油がタンクポート51からドレンされるよう構成されている。
前記第1供給路cには、電磁方式の二位置切換弁からなる走行ロック弁54と、この走行ロック弁54と前記分岐点bとの間に位置する圧力補償弁55とが設けられている。
【0025】
第1供給路cを流通するパイロット油は走行ロック弁54を励磁することにより走行操作装置14に供給可能とされ、該走行ロック弁54が消磁されることにより第1供給路cのパイロット油が走行操作装置14に供給不能とされて走行操作装置14が操作不能となるように構成されている。
圧力補償弁55は、該圧力補償弁55の一次側圧力及び第2〜5供給路d〜gの圧力を所定の設定圧力(例えば30kgf/cm2)に確保する。
この作業機1の油圧システムには、第2ポンプP2の吐出油の一部を絞り56aを介してドレンさせるブリード回路56(これをメインブリード回路という)が設けられている。
【0026】
このメインブリード回路56は、圧力補償弁55の上流側の圧油の一部をドレンさせるものであって、一端側が圧力補償弁55及び前記リリーフ弁52の上流側の油圧流路に接続され他端側が作動油タンク31に連通するブリード油路56bと、このブリード油路56bに介装された絞り56aとを有する。
このメインブリード回路56の絞り56aの径は、エンジン29がアイドリング回転(約1050rpm)のときでも圧力補償弁55の一次側圧力及び第2〜5供給路d〜gの圧力を前記設定圧力(30kgf/cm2)に確保することができる径に形成されていると共に、エンジン29の回転数が500rpmのときに圧力補償弁55の一次側圧力及び第2〜5供給路d〜gの圧力が、例えば圧力補償弁55の設定圧力の略半分程度(15kgf/cm2程度)に降下するように径が設定されている。
【0027】
左右の各走行モータ21L,21Rは、高低2速に変速可能な斜板形可変容量アキシャルモータによって構成されたHSTモータ57(走行用の油圧モータ)と、このHSTモータ57の斜板の角度を切り換えることによりHSTモータ57を高低2速に変速操作する斜板切換シリンダ58と、HSTモータ57の出力軸57a(走行モータ21L,21Rの出力軸57a)を制動するブレーキシリンダ59と、フラッシング弁60と、フラッシング用リリーフ弁61と、フラッシング用絞り62とを有する。
前記斜板切換シリンダ58は、該斜板切換シリンダ58に圧油が作用していないときにはHSTモータ57を1速状態とし、該斜板切換シリンダ58に圧油が作用しているときにはHSTモータ57を2速状態に切り換えるよう構成されている。
【0028】
この斜板切換シリンダ58に圧油を作用させるか否かはパイロット方式の二位置切換弁からなるシリンダ切換弁63によって行われ、このシリンダ切換弁63は、第2供給路dに設けられた電磁方式の二位置切換弁からなる2速切換弁64によって切換え操作される。
すなわち、2速切換弁64が消磁されていて該2速切換弁64によって第2供給路dが遮断されているときには、シリンダ切換弁63にパイロット圧が作用していないと共に斜板切換シリンダ58に圧油が作用していなく、HSTモータ57は1速状態とされている。そして、操作手段によって2速切換弁64を励磁することにより、前記シリンダ切換弁63に第2供給路dのパイロット圧(第2ポンプP2の吐出油)が作用するように2速切換弁64が切り換えられ、これにより圧油が斜板切換シリンダ58に作用するようにシリンダ切換弁63が切換えられて、HSTモータ57が2速状態となる。
【0029】
前記ブレーキシリンダ59は、バネの付勢力によってHSTモータ57の出力軸57aを制動し、第4供給路fに設けられた電磁方式の二位置切換弁からなるブレーキ解除弁65を励磁することにより該ブレーキシリンダ59に第4供給路fのパイロット油(第2ポンプP2の吐出油)が作用して、HSTモータ57の出力軸57aの制動を解除する。
前記走行ロック弁54及びブレーキ解除弁65には、例えば、キャビン5から降りる時に操作されるロックレバーによって同時に消磁信号が送られ、解除スイッチによって同時に励磁信号が送られる。
【0030】
フラッシング弁60及びフラッシング用リリーフ弁61については後述する。
前記油圧駆動装置32は、左走行モータ21L用の駆動回路32A(左用駆動回路)と、右走行モータ21R用の駆動回路32B(右用駆動回路)とを備えており、各駆動回路32A,32Bは、一対の変速用油路h,iによって対応する走行モータ21L,21RのHSTモータ57に閉回路接続されたHSTポンプ(走行用の油圧ポンプ)66と、高圧側の変速用油路h,iの圧が設定以上になると低圧側の変速用油路h,iに逃がす高圧リリーフ弁67と、第2ポンプP2からの圧油をチェック弁68を介して低圧側の変速用油路h,iに補充するためのチャージ回路jとを備えている。
【0031】
油圧駆動装置32の各構成要素はハウジング内に組み込まれている。
また、前記油圧駆動装置32は、走行操作装置14からのパイロット油を入力する第1〜第4の入力ポート69〜72を有する。
第1入力ポート69は第1出力油路73を介して走行操作装置14の第1出力ポート46に接続され、第2入力ポート70は第2出力油路74を介して走行操作装置14の第2出力ポート47に接続され、第3入力ポート71は第3出力油路75を介して走行操作装置14の第3出力ポート48に接続され、第4入力ポート72は第4出力油路76を介して走行操作装置14の第4出力ポート49に接続されている。
【0032】
第1〜第4の出力油路73〜76には、それぞれショック緩和用絞り77が設けられている。
前記チャージ回路jには、前記第1供給路cから分岐されて各チャージ回路jに接続されたチャージ圧供給路kの圧油(第2ポンプP2の吐出油・走行操作装置14の一次側のパイロット油)が供給可能とされている。
前記チャージ圧供給路kは、第1供給路cの、圧力補償弁55の下流側で且つ走行ロック弁54の上流側から分岐されてチャージ回路jに接続されている。
【0033】
また、左用駆動回路32Aには、各駆動回路32A,32Bのチャージ回路jの回路圧を設定するチャージリリーフ弁78が設けられている。
前記第2ポンプP2は、本実施形態では、走行操作装置14の各パイロット弁36,37,38,39、シリンダ切換弁63及びブレーキシリンダ59にパイロット油を供給するパイロットポンプであると共に、チャージ回路jに圧油を供給するチャージポンプでもある。
各駆動回路32A,32BのHSTポンプ66は、エンジン29の動力によって駆動される斜板形可変容量アキシャルポンプであると共にパイロット圧で斜板の角度が変更されるパイロット方式の油圧ポンプ(斜板形可変容量油圧ポンプ)である。
【0034】
すなわち、HSTポンプ66は、パイロット圧が作用する前進用受圧部66aと後進用受圧部66bとを備えており、これら受圧部66a,66bに作用するパイロット圧によって斜板の角度が変更されて作動油の吐出方向や吐出量が変更され、これによって走行モータ21L,21Rの回転出力を作業機1を前進させる方向(正転方向)或いは作業機1を後進させる方向(逆転方向)に無段階に変速することができるよう構成されている。
左用駆動回路32AのHSTポンプ66の前進用受圧部66aは第1接続油路79を介して第1入力ポート69に接続され、該HSTポンプ66の後進用受圧部66bは第2接続油路80を介して第3入力ポート71に接続されている。
【0035】
右用駆動回路のHSTポンプ66の前進用受圧部66aは第3接続油路81を介して第4入力ポート72に接続され、該HSTポンプ66の後進用受圧部66bは第4接続油路82を介して第2入力ポート70に接続されている。
前記第1接続油路79及び第3接続油路81は、逃がし油路83を介してチャージ圧供給路k(走行操作装置14の一次側の油圧流路)に連通している。
この逃がし油路83は、一端側がチャージ圧供給路kに接続されている。
また、逃がし油路83の他端側は第1分岐路83aと第2分岐路83bとに分岐され、第1分岐路83aは第1接続油路79に接続され、第2分岐路83bは第3接続油路81に接続されていて、該逃がし油路83の他端側はHSTポンプ66の前進用受圧部66aに連通している。
【0036】
前記第1分岐路83aと第2分岐路83bには、それぞれチェック弁84が設けられている。
このチェック弁84は、走行操作装置14の一次側圧力>前進用受圧部66aの圧力、であるときには閉じていて、チャージ圧供給路kから第1・3接続油路79,81への圧油の流通を阻止し、走行操作装置14の一次側圧力<前進用受圧部66aの圧力、になると開いて、第1・3接続油路79,81からチャージ圧供給路kへの圧油の流通を許容する。
【0037】
なお、逃がし油路83の他端側はショック緩和用絞り77と前進用受圧部66aとの間の油圧流路に接続されていればよい。
走行モータ21L,21Rの前記フラッシング弁60は、高圧側の変速用油路h,iの圧によって低圧側の変速用油路h,iをフラッシング用リリーフ油路mに接続するように切り換えられ、低圧側の変速用油路h,iに作動油を補充させるべく該低圧側の変速用油路h,iの作動油の一部をフラッシング用リリーフ油路mを介して走行モータ21L,21Rのハウジング内の油溜まりに逃がすものである。なお、走行モータ21L,21Rのハウジング内の油溜まりの油はドレン回路nを介して作動油タンク31に戻される。
【0038】
前記フラッシング用リリーフ弁61及びフラッシング用絞り62は、フラッシング用リリーフ油路mに介装されており、フラッシング用リリーフ弁61はフラッシング弁60とフラッシング用絞り62との間に介装されている。
前記走行モータ21L,21RのHSTモータ57及びフラッシング弁60等と駆動回路32A,32Bと一対の変速用油路h,iとで分離型のHST(静油圧トランスミッション)を構成している。
前記走行操作装置14の走行レバー40は、中立位置から、前後左右と前後左右の間の斜め方向に傾動操作可能とされ、該走行レバー40を傾動操作することにより、走行操作装置14の各パイロット弁36,37,38,39が操作されると共に、走行レバー40の中立位置からの操作量に比例したパイロット圧が該操作されたパイロット弁36,37,38,39から出力されるよう構成されている。
【0039】
走行レバー40を前側(図1では矢示A1方向)に傾動させると、前進用パイロット弁36が操作されて該パイロット弁36からパイロット圧が出力され、該パイロット圧は第1シャトル弁41を介して左用駆動回路32AのHSTポンプ66の前進用受圧部66aに作用すると共に第2シャトル弁42を介して右用駆動回路32Bの前進用受圧部66aに作用し、これにより左右の走行モータ21L,21Rの出力軸57aが走行レバー40の傾動量に比例した速度で正転(前進回転)して作業機1が前方に直進する。
また、走行レバー40を後側(図1では矢示A2方向)に傾動させると、後進用パイロット弁37が操作されて該パイロット弁37からパイロット圧が出力され、該パイロット圧は第3シャトル弁43を介して左用駆動回路32AのHSTポンプ66の後進用受圧部66bに作用すると共に第4シャトル弁44を介して右用駆動回路32BのHSTポンプ66の後進用受圧部66bに作用し、これにより左右の走行モータ21L,21Rの出力軸57aが走行レバー40の傾動量に比例した速度で逆転(後進回転)して作業機1が後方に直進する。
【0040】
また、走行レバー40を右側(図1では矢示A3方向)に傾動させると、右旋回用パイロット弁38が操作されて該パイロット弁38からパイロット圧が出力され、該パイロット圧は第1シャトル弁41を介して左用駆動回路32AのHSTポンプ66の前進用受圧部66aに作用すると共に第4シャトル弁44を介して右用駆動回路32BのHSTポンプ66の後進用受圧部66bに作用し、これにより左走行モータ21Lの出力軸57aが正転し且つ右走行モータ21Rの出力軸57aが逆転して作業機1が右側に旋回する。
また、走行レバー40を左側(図1では矢示A4方向)に傾動させると、左旋回用パイロット弁39が操作されて該パイロット弁39からパイロット圧が出力され、該パイロット圧は第2シャトル弁42を介して右用駆動回路32BのHSTポンプ66の前進用受圧部66aに作用すると共に第3シャトル弁43を介して左用駆動回路32AのHSTポンプ66の後進用受圧部66bに作用し、これにより右走行モータ21Rの出力軸57aが正転し且つ左走行モータ21Lの出力軸57aが逆転して作業機1が左側に旋回する。
【0041】
また、走行レバー40を斜め方向に傾動させると、各駆動回路32A,32Bの前進用受圧部66aと後進用受圧部66bとに作用するパイロット圧の差圧によって、走行モータ21L,21Rの出力軸57aの回転方向及び回転速度が決定され、作業機1が前進又は後進しながら右旋回又は左旋回する(すなわち、走行レバー40を左斜め前側に傾動操作すると該走行レバー40の傾動角度に対応した速度で作業機1が前進しながら左旋回し、走行レバー40を右斜め前側に傾動操作すると該走行レバー40の傾動角度に対応した速度で作業機1が前進しながら右旋回し、走行レバー40を左斜め後側に傾動操作すると該走行レバー40の傾動角度に対応した速度で作業機1が後進しながら左旋回し、走行レバー40を右斜め後側に傾動操作すると該走行レバー40の傾動角度に対応した速度で作業機1が後進しながら右旋回する)。
【0042】
また、HSTポンプ66の前進用受圧部66a及び後進用受圧部66bに対する走行操作装置14からのパイロット油の供給又は前進用受圧部66a及び後進用受圧部66bからのパイロット油の戻りはショック緩和用絞り77を介して行われるので、急激な車速の変動が防止される。
前記エンジン29は、アクセル装置によってアイドリング回転から定格回転へと増大可能とされ、エンジン29の回転数を増大させると、HSTポンプ66の回転数が増加して該HSTポンプ66の吐出量が上がり、走行速度が増加する。
【0043】
前記チャージ圧供給路kにはブリード回路85(これを走行用ブリード回路85と言う)が接続されている。
この走行用ブリード回路85は、一端側がチャージ圧供給路kに接続され他端側が油圧駆動装置32のハウジングの油溜まりに連通するブリード油路85aと、このブリード油路85aに介装された絞り85bとを有する。
油圧駆動装置32のハウジングの油溜まりの油はドレン回路nを介して作動油タンク31に戻されるよう構成されている。
【0044】
前記第2ポンプP2から吐出されて第1供給路cを介して前記走行操作装置14に供給されるパイロット油は、チャージ圧供給路kを介してチャージ回路jにも供給されると共に、一部が走行用ブリード回路85によって該ブリード回路85の絞り85bを介してドレンされる。
なお、走行用ブリード回路85を介してドレンされる油を作動油タンク31に直接、戻すようにしてもよいが、油圧駆動装置32のハウジング(HSTポンプ66のハウジング)内に漏らすことにより、HSTポンプ66等の冷却を図ることができる。
【0045】
また、前記油圧システムにおいて、フラッシング用リリーフ弁61は設けられていなくてもよい。
また、前記ブリード油路85aの他端側を、チャージリリーフ弁78から油圧駆動装置32のハウジングの油溜まりにドレンされる油を案内するリリーフ油路oに連通させてもよい。
前記構成の作業機1にあっては、例えば、作業機1を前進させて山積みされた土砂等にバケット23を突っ込ませた場合などHSTモータ57に負荷がかかった場合、該HSTモータ57にかかった負荷がHSTポンプ66を介してエンジン29に伝達して該エンジン29の回転数が低下する。
【0046】
すると、第2ポンプP2の回転数が減少して該第2ポンプP2の吐出量が減少し、この第2ポンプP2の吐出量に対する走行用ブリード回路85からの油の漏れの割合が大きくなることから、走行操作装置14の一次側圧力が降下して該走行操作装置14から出力されるパイロット圧がエンジン29の回転数低下に応じて低下し、これによって、回転数を減少させるように(斜板が中立側に戻るように)HSTポンプ66の斜板角が自動調整されてエンジン29の負荷を減少させ、エンジン29のストールを防止する。
また、前記走行用ブリード回路85を設けない場合にあっても、フラッシング用絞り62からの油の逃げと、チャージリリーフ弁78のオーバーライド特性(チャージリリーフ弁78からの油の逃げ)とによって、エンジン29回転数の低下とともにHSTポンプ66の斜板の制御圧を減少させるアンチストール特性を作ることができるが、それではアンチストールの効果が小さい。
【0047】
これに対し、本実施形態にあっては、フラッシング用絞り62からの油の逃げと、チャージリリーフ弁78のオーバーライド特性に加えて、走行用ブリード回路85からの油の漏れによって、良好なアンチストール特性を作ることができる(良好なアンチストール機能を発揮させることができる)。
また、急激な車速の変動を防止するために、HSTポンプ66の受圧部66a,66bに対するパイロット油の給排がショック緩和用絞り77を介して行われるものにあっては、作業機1を前進させて山積みされた土砂等にバケット23を突っ込ませてエンジン29に急激に過大な負荷が作用した場合に、ショック緩和用絞り77を介して前進用受圧部66aの圧抜けが行われると、HSTポンプ66の前進用受圧部66aの圧力降下が走行操作装置14の一次側圧力の降下よりも遅れてしまうことが考えられる。
【0048】
しかしながら、本実施形態にあっては、走行操作装置14の一次側圧力<前進用受圧部66aの圧力、になると、前記逃がし油路83に設けられたチェック弁84が開いて、第1・3接続油路79,81からチャージ圧供給路kへの圧油の流通が許容されて前進用受圧部66aの圧抜けが行われるので、エンジン29に急激に過負荷が作用した場合でも、HSTポンプ66の斜板が速やかに中立側に戻されて、エンジン29のストールが防止される。
したがって、本実施形態では、ショック緩和用絞り77によって急激な速度変化を防止しつつ、アンチストール機能の応答性を、逃がし油路83にチェック弁を設けるという簡単な構造で改善することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、逃がし油路83及びチェック弁84からなる逃がし回路は、前進用受圧部66aに対して設けているが、後進用受圧部66bに対しても設けてもよい。
また、前記構成の作業機1において、エンジン29の回転数が低下して第2ポンプP2の吐出流量が減少し、走行用ブリード回路85等によるアンチストール機能により走行操作装置14の一次側圧力が圧力補償弁55の設定圧以下になると圧力補償弁55が閉じるが、前記メインブリード回路56が設けられていないものにあっては、前記のような場合において圧力補償弁55が閉じると第2ポンプP2の吐出油の逃げ場がなくなるので、圧力補償弁55の上流側の圧が高くなって再び圧力補償弁55が開き、また走行操作装置14の一次側圧力が圧力補償弁55の設定圧以下になると圧力補償弁55が閉じるという現象が繰り返される。
【0050】
これに対し、本実施形態のように、圧力補償弁55の上流側の圧油の一部をドレンさせる前記メインブリード回路56を設けているものにあっては、エンジン29の回転数が低下して第2ポンプP2の吐出流量が減少することにより圧力補償弁55が閉じると、それ以降は、メインブリード回路56からの油の漏れによって圧力補償弁55の上流側の圧が上がらないので、圧力補償弁55は閉じたままとなり、第2ポンプP2からの圧油は圧力補償弁55の下流側(走行用ブリード回路85)へとは流れない。
したがって、前記メインブリード回路56を設けることにより、走行用ブリード回路85によるアンチストール機能を効果的に発揮させることができる。
【0051】
前記作業操作装置15は、アーム上げ用パイロット弁86と、アーム下げ用パイロット弁87と、バケットダンプ用パイロット弁88と、バケットスクイ用パイロット弁89と、これらパイロット弁86,87,88,89について共通の(1本の)操作レバー90とを有する。
この作業操作装置15の各パイロット弁86,87,88,89には、電磁方式の二位置切換弁からなる作業ロック弁91を励磁することにより第5供給路gを介して第2ポンプP2からのパイロット油が供給可能とされ、前記作業ロック弁91が消磁されることにより第2ポンプP2からの圧油が供給不能とされて作業操作装置15が操作不能となるように構成されている。
【0052】
作業ロック弁91には、例えば、前記走行ロック弁54及びブレーキ解除弁65と同様に、降車時に操作されるロックレバーによって消磁信号が送られ、解除スイッチによって励磁信号が送られる。
作業装置用コントロールバルブ33は、リフトシリンダ26を制御するアーム用制御弁92と、バケットシリンダ28を制御するバケット用制御弁93と、アーム22の先端側等に取り付けられるアタッチメントの油圧アクチュエータを制御する予備用制御弁94(これをSP用制御弁という)とを有し、前記各制御弁92,93,94は、パイロット方式の直動スプール形三位置切換弁から構成されている。
【0053】
アーム用制御弁92、バケット用制御弁93及びSP用制御弁94は、シリーズ回路を構成するように、第1ポンプP1の吐出路qに接続された作業系供給油路rに、上流側からアーム用制御弁92、バケット用制御弁93、SP用制御弁94の順で設けられていて、第1ポンプP1からの作動油が、アーム用制御弁92を介してリフトシリンダ26に、又はバケット用制御弁93を介してバケットシリンダ28に、或いはSP用制御弁94を介してアタッチメントの油圧アクチュエータにそれぞれ供給可能とされている。
作業系供給油路rはSP用制御弁94を経た後にドレン油路sに接続されている。
【0054】
また、作業系供給油路rの、アーム用制御弁92より上流側には、バイパス油路tの一端側が接続され、該バイパス油路tの他端側は、作業系供給油路rの、SP用制御弁94よりも下流側に接続されており、バイパス油路tには、該作業系供給油路rの回路圧を設定するメインリリーフ弁96が設けられている。
また、作業装置用コントロールバルブ33には、リフトシリンダ26を保護するためのアーム用リリーフ弁97と、バケットシリンダ28を保護するためのバケット用リリーフ弁98と、アタッチメントの油圧アクチュエータを保護するためのSP用リリーフ弁99とが設けられている。
【0055】
前記作業操作装置15の操作レバー90は、中立位置から、前後左右と前後左右の間の斜め方向に傾動操作可能とされ、該操作レバー90を傾動操作することにより、作業操作装置15の各パイロット弁86,87,88,89が操作されると共に、操作レバー90の中立位置からの操作量に比例したパイロット圧が該操作されたパイロット弁86,87,88,89から出力されるよう構成されている。
前記操作レバー90を後側に(図2では矢示B1方向に)傾動させると、アーム上げ用パイロット弁86が操作されて該パイロット弁86からパイロット圧が出力され、該パイロット圧がアーム用制御弁92の一方の受圧部に作用して該制御弁92が操作されることでリフトシリンダ26が伸長し、操作レバー90の傾動量に比例した速度でアーム22が上がる。
【0056】
操作レバー90を前側に(図2では矢示B2方向に)傾動させると、アーム下げ用パイロット弁87が操作されて該パイロット弁87からパイロット圧が出力され、該パイロット圧がアーム用制御弁92の他方の受圧部に作用して該制御弁92が操作されることでリフトシリンダ26が縮小し、操作レバー90の傾動量に比例した速度でアーム22が下がる。
また、操作レバー90を右側に(図2では矢示B3方向に)傾動させると、バケットダンプ用パイロット弁88が操作されて該パイロット弁88からパイロット圧が出力され、該パイロット圧がバケット用制御弁93のダンプ側の受圧部93aに作用して該制御弁93が操作されることでバケットシリンダ28が伸長し、操作レバー90の傾動量に比例した速度でバケット23がダンプ動作(下方に揺動動作)する。
【0057】
また、操作レバー90を左側に(図2では矢示B4方向に)傾動させると、バケットスクイ用パイロット弁89が操作されて該パイロット弁89からパイロット圧が出力され、該パイロット圧がバケット用制御弁93のスクイ側の受圧部93bに作用して該制御弁93が操作されることでバケットシリンダ28が縮小し、操作レバー90の傾動量に比例した速度でバケット23がスクイ動作(上方に揺動動作又はかき込み動作)する。
また、操作レバー90を斜め方向に傾動させると、アーム22の上げ又は下げ動作と、バケット23のスクイ又はダンプ動作とを複合した動作が行える。
【0058】
前記バケット用制御弁93は、第1ポンプP1からの圧油を入力する第1、第2のポンプポート101,102と、バケットシリンダ28のロッド側油室28aに連通するシリンダポート103(これをスクイポートという)と、バケットシリンダ28のボトム側油室28bに連通するシリンダポート104(これをダンプポートという)と、SP用制御弁94を介してドレン油路sに連通するタンクポート105とを有すると共に、バケット23を動作させない中立位置93Aと、バケット23をスクイ動作させるスクイ位置93Bと、バケット23をダンプ動作させるダンプ位置93Cとに切り換え自在な5ポート3位置切換弁で構成されている。
【0059】
前記バケット用制御弁93は、中立位置93Aでは、第1ポンプポート101とタンクポート105とが連通すると共に第2ポンプポート102,スクイポート103及びダンプポート104が遮断され、スクイ位置93Bでは、第2ポンプポート102とスクイポート103とが連通すると共にタンクポート105とダンプポート104とが連通してバケットシリンダ28のロッド側油室28aに圧油が供給されると共にボトム側油室28bから圧油が排出され、ダンプ位置93Cでは、第2ポンプポート102とダンプポート104とが連通すると共にタンクポート105とスクイポート103とが連通してバケットシリンダ28のボトム側油室28bに圧油が供給されると共にロッド側油室28aから圧油が排出される。
【0060】
また、第1ポンプポート101は、バケット用制御弁93のダンプ位置93Cでは遮断されているが、スクイ位置93Bでは、ブリード回路106(これをバケット用ブリード回路という)を介してタンクポート105に連通されていて、該スクイ位置93Bにおいて、第1ポンプP1からバケットシリンダ28に供給される圧油の一部が前記バケット用ブリード回路106を介してドレンされるよう構成されている。
このバケット用ブリード回路106は、第1ポンプポート101とタンクポート105とを連通するブリード油路106aと、このブリード油路106aに設けられた絞り106bとを有する。
【0061】
また、バケット用制御弁93のスクイ位置93Bにおいて、バケットシリンダ28のボトム側油室28bから排出された油をタンクポート105へと送る戻し油路107の一端側はダンプポート104に連通され、戻し油路107の他端側は前記ブリード油路106aの、前記絞り106bの上流側に接続されている。
また、この戻し油路107にはブリード油路106aからダンプポート104へと圧油が流通するのを阻止するチェック弁108が設けられている。
前記構成のバケット用制御弁93において、バケット23をスクイ動作させる際にあっては、エンジン29が高回転(例えば定格回転:2400rpm)のときには第1ポンプP1の吐出流量に対するバケット用ブリード回路106からの漏れ量の割合は少なく(第1ポンプP1からバケットシリンダ28へと供給される圧油の圧力降下はほとんどなく)、バケット23をスクイ動作させる際の高負荷作業が可能であるが、エンジン29の回転数がダウンしてくると、第1ポンプP1の吐出流量に対するバケット用ブリード回路106からの漏れ量の割合が徐々に大きくなり、第1ポンプP1からバケットシリンダ28へと供給される圧油の圧力降下は徐々に大きくなって、高負荷作業ができなくなる。
【0062】
これによって、エンジン回転数の低下に伴って自動的にバケット23の作業負荷が落ちるため、第1ポンプP1の負荷が軽減されて、エンジン29の消費トルクが下がるようになっている。
前記バケット用ブリード回路106の漏れ量(絞り106bの径)は、例えば、エンジン29のアイドリング回転時において、第1ポンプP1からバケットシリンダ28へと供給される圧油のスクイ動作時における最大圧力が、メインリリーフ弁96の設定圧力と略同等の圧力に確保されるよう設定される(換言すると、エンジン回転数がアイドリング回転未満では、スクイ動作時にメインリリーフ弁96が開かないように設定される)。
【0063】
また、前記構成のものにあっては、バケットシリンダ28のロッド側油室28aに圧油を供給してバケットシリンダ28を収縮(バケットシリンダ28のピストンロッドを後退)させることによりバケット23をスクイ動作させるようにしており、バケット23(バケットシリンダ28)は、バケット用ブリード回路106を設けていない場合において、ダンプ時よりもスクイ時の方が動作速度が速いため、バケット用ブリード回路106によって第1ポンプP1からの圧油を漏らしても、バケット23のスクイ時とダンプ時とにおける作業速度のマッチングに問題はない。
【0064】
前記バケット用ブリード回路106を設けていないものにあっては、作業機1を前進させて山積みされた土砂にバケット23を突っ込むと共に該バケット23をスクイ動作させてバケット用リリーフ弁98が開いた場合において、前記走行用ブリード回路85を設けるだけではエンジンストールに対処できない場合があるが、走行用ブリード回路85に加えてバケット用ブリード回路106を設けることにより、作業機1を前進させて山積みされた土砂にバケット23を突っ込むと共に該バケット23をスクイ動作させた場合に、走行用ブリード回路85によってエンジン29の負荷軽減が図られると共に、バケット用ブリード回路106によって第1ポンプP1の負荷を軽減させることによりエンジン29の負荷軽減が図られ、これらによって、作業機1を前進させて土砂にバケット23を突っ込むと共に該バケット23をスクイ動作させた場合における(HSTポンプ66と第1ポンプP1とに同時に高負荷がかかるような状況における)エンジン29のストールが良好に防止される。
【0065】
また、本実施形態のように、バケット用制御弁93の上流側にアーム用制御弁92が設けられている場合、アーム用制御弁92のスプールがフルストロークすると、第1ポンプP1からの圧油がバケット用制御弁93へと流れないので、前述したバケット用ブリード回路106の効果がなく、作業機1を前進させて山積みされた土砂にバケット23を突っ込むと共に該バケット23をスクイ動作させ且つアーム用制御弁92のスプールをフルストロークさせてアーム用リリーフ弁97が開いている場合におけるエンジンストールに対処できないことが考えられる。
【0066】
しかしながら、この問題に対して、本実施形態の作業機1にあっては、圧力補償弁55の上流側に前記メインブリード回路56を設けていて、第2ポンプP2から作業操作装置15に供給されるパイロット油の一部がドレンされるよう構成されていることにより、エンジン29の回転数がアイドリング未満にダウンした場合に、第5供給路gの圧力が圧力補償弁55で設定された圧力未満に降下するように構成されている。
これによって、作業操作装置15の一次側及び二次側圧力が下がり、作業操作装置15から出力されるパイロット圧によってアーム用制御弁92及びバケット用制御弁93のスプールをフルストロークさせることができないようになっている。
【0067】
そして、アーム用制御弁92のスプールがフルストロークしない結果、アーム用制御弁92から作業系供給油路rを介してバケット用制御弁93に圧油が流通することによって前記バケット用ブリード回路106の効果が発揮され、第1ポンプP1から吐出される圧油の圧力の上昇を抑え、これによってエンジン29の負荷軽減を図ることにより、作業機1を土砂に突っ込むと共にバケット23をスクイ動作させ且つアーム22を動作させた場合のエンジン29のストールが良好に防止される。
また、メインブリード回路56は、エンジン29の回転数がアイドリング未満にダウンした場合に、作業操作装置15から出力されるパイロット圧によってアーム用制御弁92のスプールをフルストロークさせることができないように機能するので、バケット23を動作させない場合であっても、走行装置4に高負荷が作用すると共にアーム22を動作させて該アーム22に高負荷がかかるような際において、第1ポンプP1からアーム用制御弁92を介してリフトシリンダ26に供給される圧油の一部がバケット用制御弁93を通過してドレン油路sへと流れることによって、第1ポンプP1からの圧油の圧力が降下して該第1ポンプP1の負荷軽減が図れ(エンジン29の負荷軽減が図れ)、エンジン29のストールが良好に防止される。
【0068】
なお、前述したように、メインブリード回路56の絞り56aの径は、エンジン29がアイドリング回転のときでも第5供給路gの圧力を圧力補償弁55の設定圧力に確保することができる径に形成されているので、エンジン29がアイドリング回転のときでもアーム用制御弁92及びバケット用制御弁93のスプールをフルストローク操作することができる圧力が確保される。
前記実施形態にあっては、メインブリード回路56が、エンジン29の回転数が低下したときに作業操作装置15の一次側圧力を降下させることができる減圧手段を構成している。
【0069】
これに対し、図8に示す油圧システムは、作業機1を土砂に突っ込むと共にバケット23をスクイ動作させ且つアーム22を動作させた場合のエンジンストールに対する対策として(減圧手段として)、前記メインブリード回路56の代わりに、作業操作装置15の一次側圧力を減圧弁109によってコントロールするようにしたものである。
前記減圧弁109は電磁比例式のパイロット減圧弁109によって構成され、第5供給路gに設けられている。
また、この形態の油圧システムには、エンジン29の回転数を検出する回転センサ110と、前記減圧弁109を制御する制御装置111とが設けられており、前記回転センサ110で検出されたエンジン29の回転数は制御装置111に入力される。
【0070】
また、作業ロック弁91は設けられていなく、作業ロック弁91の役割を前記減圧弁109で兼ねる。
この図8に示す形態の油圧システムにあっては、エンジン29の回転数がアイドリング回転以上では、制御装置111から減圧弁109を全開状態(調圧なし)とする指令信号を出し、作業操作装置15の一次側圧力を圧力補償弁55の設定圧力に確保する。
そして、エンジン29の回転数がアイドリング回転よりもダウンすると、作業操作装置15の一次側圧力が圧力補償弁55の設定圧力よりも降下するように(例えば、エンジン29の回転数の減少量に比例して降下するように)減圧弁109で調圧されるよう制御装置111から指令信号が発信される。
【0071】
その他の構成については、図1〜図7に示す実施形態の油圧システムと同様に構成される。
【符号の説明】
【0072】
4 走行装置
14 走行操作装置
29 エンジン
57 HSTモータ
66 HSTポンプ
66a 受圧部
66b 受圧部
77 ショック緩和用絞り
83 逃がし油路
84 チェック弁
85 ブリード回路
P2 第2ポンプ(パイロットポンプ)
h 変速用油路
i 変速用油路
j チャージ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(29)によって駆動される斜板形可変容量ポンプからなるHSTポンプ(66)の吐出油によってHSTモータ(57)を駆動して走行装置(4)を駆動するHSTと、前記エンジン(29)によって駆動されるパイロットポンプ(P2)から吐出される圧油によって前記HSTポンプ(66)の斜板を制御する走行操作装置(14)とを備え、
前記HSTポンプ(66)は、前記走行操作装置(14)からショック緩和用絞り(77)を介してパイロット圧が供給される一対の受圧部(66a,66b)を備えていて、これら受圧部(66a,66b)の差圧によって斜板の角度が制御されるよう構成され、
前記エンジン(29)の回転数の低下にともなって前記走行操作装置(14)の一次側圧力が降下して前記HSTポンプ(66)の斜板が中立側に戻ることによりエンジンストールが防止されるよう構成された走行車両において、
一端側が前記走行操作装置(14)の一次側の油圧流路に連通し他端側が前記ショック緩和用絞り(77)と前記受圧部(66a)との間の油圧流路に連通する逃がし油路(83)を設け、
この逃がし油路(83)に、該逃がし油路(83)の他端側が連通する前記受圧部(66a)の圧力が走行操作装置(14)の一次側圧力よりも大であるときに開くチェック弁(84)を設けたことを特徴とする走行車両。
【請求項2】
前記走行操作装置(14)の一次側の圧油の一部を絞りを介してドレンさせるブリード回路(85)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の走行車両
【請求項3】
前記HSTポンプ(53)とHSTモータ(57)とを閉回路接続する一対の変速用油路(h,i)に圧油を補充するためのチャージ回路(j)を備え、このチャージ回路(j)に、前記走行操作装置(14)の一次側の圧油を供給するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の走行車両。
【請求項4】
前記HSTポンプ(66)は、一方の受圧部(66a)の圧力が他方の受圧部(66b)の圧力よりも大であるときに走行装置(4)を前進駆動するように斜板が傾転されると共に前記他方の受圧部(66b)の圧力が前記一方の受圧部(66a)の圧力よりも大であるときに走行装置(4)を後進駆動するように斜板が傾転されるよう構成され、このHSTポンプ(66)の前記一方の受圧部(66a)の圧力が前記逃がし油路(83)を介して逃がされるように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−270856(P2010−270856A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124253(P2009−124253)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】