説明

超伝導回転機の固定子冷却構造

【課題】冷却効率の高い水(油)冷却方法を採択し、冷却チューブを通じて固定子コイル及び固定子ヨークを同時に直接冷却させることができる超伝導回転機の固定子冷却構造を提供する。
【解決手段】固定子コイル100がスロット200に保持され、その外側部に固定子ヨーク300が形成された超伝導回転機の固定子を冷却させるための冷却構造であって、固定子コイル100の一部が露出するように、スロット200に軸方向に空間部210が形成され、固定子コイル100が露出した部位と固定子ヨーク400の間に冷却チューブ410を配設する。これにより、固定子コイル100と固定子ヨーク400を同時に冷却し、折り曲げ部分を少なくすることで冷却チューブ410の詰まりを防止する。また、固定子にスロット200が存在するので、低速領域での高トルクが確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超伝導回転機、つまり超伝導モーターまたは発電機の固定子を冷却させるための冷却構造に係り、スロットに形成された空間部に固定子コイルを露出させて、冷却チューブを通じて固定子コイル及び固定子ヨークを同時に直接冷却させることができる超伝導回転機の固定子冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、既存のモーターの固定子は、空気の自然対流(natural convection)または強制対流(forced convection)によって冷却され、水冷または油冷を用いるものもある。空冷の場合は、固定子コイルに流し得る電流の密度が相対的に水冷または油冷の方式より低いが、自然対流空冷式は別途の冷却装置が全く必要でなく、強制対流空冷式は冷却用ファン(ブロワー)のみを設置すれば良い。
【0003】
水(油)冷式の場合は、1000馬力以上の大容量で使用され、空冷式よりは固定 子コイルに流し得る電流の密度が高いが、冷却のための装置がずっと複雑になる。
【0004】
一般に、既存モーターの水冷または油冷方式は、図1に示すように、一番多い熱が 発生する固定子コイル1を直接冷却する方式ではなく、コイルを取り囲む固定子鉄心 2を冷却して、固定子コイルとの熱伝逹によって発生する熱を除去する方式である。 したがって、固定子の冷却のための水または油が流れる通路3が固定子ヨーク鉄心を 冷却する構造になっている。
【0005】
既存のモーターは、このように、固定子コイルが伝熱性能に優れた鉄心で取り囲ま れているので、冷却通路を固定子ヨーク部にだけ設置しても、固定子コイルを充分に 冷却させることができる。
【0006】
一方、超伝導モーター及び発電機のような超伝導回転機は、鉄心を使用しなくて強 磁場を発生させることができる超伝導コイルを用いる。既存の回転機は銅製のコイル を用いるので、鉄心を使用しなくては所望の出力を得ることが難しく、固定子コイル と回転子コイルの磁束鎖交量を最大化させるために固定子鉄心と回転子鉄心の間の空 隙が非常に小さい。したがって、固定子コイルが鉄心でなるスロット(slot)に 挿入されて回転子との空隙を最小化する構造を持つ。しかし、このような鉄心でなる スロットに磁場が集中して回転子によって発生する磁場が回転するとき、スロット部 での交流損失が他の部分でより大きく発生し、スロット部とコイル部の透磁率(pe rmeability)が違うので、発電電圧波形のひずみ率が増加する要因になる。
【0007】
超伝導回転機は、このような既存の機器の問題点を解決するために、固定子スロットが鉄心でないFRP(Fiber−glass Reinforced Plastics)のような非磁性体で作製される。したがって、スロット部での損失がなくなり、発電電圧の波形が非常に正弦的(sinusoidal)である利点ある一方、FRPの熱伝導率が鉄心より非常に低いため、固定子コイルで発生する熱がほとんど放出されない欠点がある。
【0008】
船舶推進用モーターまたはタービン発電機のような既存の大型機器においては、図2に示すように、固定子コイルの間に冷却チューブ4を挿入するかコイル自体に冷却通路を持つ方式の水(油)冷却構造を持つ。
【0009】
これまで開発された大部分の超伝導回転機の固定子の水(油)冷却構造は、図3及び図4に示すように、既存の回転機に使用される形態を持つ。このような構造は、FRP6の内部の狭いスロットに冷却チューブ8を固定子コイル5とともに巻線しなければならなく、固定子コイル5の端部が曲がる形状によって冷却チューブ8が折り曲げられる部分17があり、各部分の冷却チューブを多数箇所で熔接しなければならない。よって、冷却チューブが狭くなるか詰まりが発生しやすく、製作が大変難しい欠点がある。また、固定子スロットの内部に導体が占めるべき空間に冷却チューブが配置されるので、スロットの内部の固定子導体点積率が減少して機器のサイズが大きくなる要因になる。
【0010】
既存の方式と違う固定子冷却構造として、図5のような形態の特許文献1が登録されている。ここでは、スロットがなくなり、固定子コイル9が単層(Single layer)に巻線方式でなっている。冷却チューブ10は単層になる固定子コイルの上下部に螺旋状にコイルを取り囲む形態を取っている。このような方式は、固定子コイルが受ける電磁気力(トルク)を保持する構造物がないので、1800rpm以上で回転し、固定子コイルに比較的小さい電磁気力が作用する産業用モーターに適している。
【0011】
しかし、一般的な産業用モーターに比べ、1/10倍以下の回転速度を有するとともに高トルクが作用する船舶推進用モーターや風力発電機などの固定子コイルには非常に大きな電磁気力がかかるので、図5のように、固定子コイル9を保持するスロットを使用しなければ、機器の破損を生じさせてしまうことになる。
【0012】
また、このような方式は、冷却チューブ10がコイルをまったく取り囲む一体型であるので、固定子コイル9が焼損した場合、コイルのみを補修するのが大変難しく、各相のコイルが重なって製作されるので、電気的絶縁が脆弱になりやすい。よって、固定子コイルが受ける電磁気力が比較的小さい高速及び低トルクの産業用モーターなどには適用することができるが、固定子コイルが受ける電磁気力が非常に大きい低速及び高トルクの船舶推進用モーターまたは風力発電機などの分野には適しなく、高トルクを保持することができる構造が必要である。
【0013】
そして、コイルを上下から覆っている冷却チューブ10によって固定子コイル部の体積が増加して機器の大きさがもっと増加し、超伝導界磁コイルと固定子コイルの間の空隙(Air−gap)が他の方法によるものより増加するので、目標出力を得るための磁束鎖交量を確保するために、高価な超伝導線材が界磁コイルにもっと多く必要になるので、機器の製造費用をさらに増加させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,489,701 B1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明は前記問題点を解決するためになされたもので、低速及び高トルクの超伝導回転機に、冷却効率が空冷式より高い水(油)冷却方法を採用するとともに、発生する高トルクを保持するスロットを除去せずに冷却チューブを通じて固定子コイル及び固定子ヨークを同時に直接冷却させることができる超伝導回転機の固定子冷却構造を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を達成するために、本発明は、固定子コイルがスロットに保持され、その外側部に固定子ヨークが形成された超伝導回転機の固定子を冷却させるための冷却構造であって、前記固定子コイルの一部が露出するように、前記スロットに軸方向に空間部が形成され、前記固定子コイルが露出した部位と前記固定子ヨークの間に冷却チューブが配設されることにより、前記固定子コイルと固定子ヨークを同時に冷却させる、超伝導回転機の固定子冷却構造を提供する。
【0017】
前記スロットに形成された空間部は軸方向に多数形成されることができる。
【0018】
前記冷却チューブは、前記固定子コイルが露出した部位に螺旋状に巻き付けられてなることができる。
【0019】
前記冷却チューブは前記固定子コイルが露出した部位に螺旋状に巻き付けられ、隣接した冷却チューブとは前記固定子の外側で連結されることができる。
【0020】
前記冷却チューブは前記固定子ヨークに形成された引込路及び引出路に収容されて前記固定子の外部で連結されることができる。
【発明の効果】
【0021】
前記構成によって、本発明は、前記冷却チューブが固定子コイルと固定子ヨークに同時に接する構造であるので、固定子コイルだけではなく固定子ヨークも同時に冷却させることができる効果がある。
【0022】
また、前記冷却チューブが固定子スロットの内部に配置される方式ではないので、冷却チューブが折り曲げられる部分で冷却チューブが詰まるおそれがなく、多数の冷却チューブを連結する必要がないので、冷却チューブの間の熔接の際に発生し得る詰まりも減らすことができ、固定子コイルの外面に螺旋状に冷却チューブを巻くことでよいので、製作が非常に簡単であり、機器が小型になるだけでなく、スロットの内部で固定子コイルが占める体積率を高めることができ、回転子の磁束と鎖交量も一層小さいので、冷却チューブで発生し得る渦電流も大幅に減らすことができる効果がある。
【0023】
また、固定子にスロットが存在するので、固定子コイルに作用する電磁気力(トルク)を保持することができ、特に低速及び高トルクの船舶推進用モーターや風力発電機で発生する非常に大きな電磁気力を保持することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】既存の水(油)冷式モーターの固定子構造を示す部分破断斜視図である。
【図2】既存の水(油)冷式発電機の固定子スロットの内部構造を示す断面図である。
【図3】既存の水(油)冷式超伝導モーターまたは発電機の横断面形状を示す断面図である。
【図4】既存の水(油)冷式超伝導モーターまたは発電機の縦断面形状を示す断面図である。
【図5】従来技術による固定子コイル及び冷却チューブ形状を示す斜視図である。
【図6】本発明の超伝導モーターまたは発電機の横断面形状を示す断面図である。
【図7】本発明の超伝導モーターまたは発電機の縦断面形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。図6及び図7は本発明による超伝導回転機の固定子冷却構造の横断面図及び縦断面図である。
【0026】
本発明は、超伝導回転機、つまり超伝導モーターまたは発電機の固定子コイルで発生する熱を効果的に冷却させるための冷却構造に関するもので、スロットの内部に水(油)冷却配置する方法を避け、固定子コイルの外面と固定子ヨークの間に螺旋状に冷却チューブを配設することで、固定子コイルが受ける電磁気力を耐えるように、非磁性体のスロットを維持するとともに軸方向にスロットの間に空間部を設け、これに螺旋状の冷却チューブを配設することにより、固定子コイルだけではなく固定子ヨークの部分も冷却させることができる超伝導回転機の固定子冷却構造である。
【0027】
図6に示す横断面を見れば、前記冷却チューブ400は、固定子コイル100と固定子ヨーク300の間に円周方向に配置される。図7に示す縦断面を見れば、軸方向に積層された非磁性体のFRPスロット200の間に空間部210が形成され、前記空間部210によって外部に露出した固定子コイル100の部分、前記固定子ヨーク300及び前記FRPスロット200によって形成される空間に冷却チューブ400が配設されて、前記固定子コイル100と固定子ヨーク300に冷却チューブ400が同時に接する構造であるので、前記固定子コイル100と固定子ヨーク300を同時に冷却させることができる。
【0028】
このように、前記冷却チューブ400がスロット200の内部に配置される方式ではないので、冷却チューブ400が折り曲げられる部分でチューブが詰まるおそれがなく、多数のチューブを連結する必要がないので、チューブ間の熔接の際に発生し得る詰まりも減らすことができる。
【0029】
また、固定子にスロット200が存在するので、固定子コイル100に作用する電磁気力(トルク)を保持することができ、特に低速及び高トルクの船舶推進用モーターや風力発電機で発生する非常に大きな電磁気力を保持することができる。そして、冷却チューブ400を固定子スロット200の内部に配設しないので、スロット200のサイズを減らすことができ、ロット200の内部で固定子コイルが占める点積率を高めることができる。よって、既存の方式に比べて高電力密度に設計することができ、コイルの端部に冷却水(油)を供給するための別途の連結部などが不要であるので、機器の軸方向長さも減らすことができる。
【0030】
ここで、固定子コイル100が受ける電磁気力の強度または固定子コイル100のサイズによって、前記スロット200に形成された空間部210が軸方向に多数形成され、各空間部210には冷却チューブ400が巻き付けられる。
【0031】
また、前記冷却チューブ400は前記固定子コイル100が露出した部位に円周方向に螺旋状に巻き付けられ、前記それぞれの固定子コイル100の露出した部位に螺旋状に巻き付けられた冷却チューブ400は隣接した冷却チューブ400と前記固定子の外部で連結される。
【0032】
したがって、従来のスロット200の内部に冷却チューブ400が配置される方式は固定子コイル100の巻線の際に冷却チューブ400を挿入するため、その構造も複雑になり製作が難しいが、本発明は、固定子コイル100の外面に螺旋状に冷却チューブ400を巻き付けることでよいので、製作が非常に簡単であり、前記冷却チューブ400が円周方向に巻き付けられるので、折曲部がなく、冷却チューブ400間の連結(熔接)部を大幅に減らすことができるので、チューブが詰まるおそれが一層小さい。そして、回転子の磁束と鎖交量も遥かに小さいので、冷却チューブ400で発生し得る渦電流も大幅に減らすことができる。
【0033】
また、前記冷却チューブ400は、前記固定子の外面で互いに連結されるとき、一般的に珪素鋼板が積層されてなる固定子ヨーク300に形成された引込路及び引出路310に収容されて連結されることにより、前記冷却チューブ400は固定子コイル100に引き込まれるか引き出されるように形成される。
【0034】
ここで、それぞれの引込路及び引出路310に対して引き込まれるか引き出される冷却チューブ400の末端は隣接した冷却チューブ400の末端と熔接410で直列に連結されることにより、単一の水(油)路を構成するようになる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
このように、本発明は、冷却チューブの折曲部をなくし、既存の冷却チューブの配置における難点を解決する超伝導回転機のための新規の固定子水(油)冷却配置方法を提案する。また、これは、船舶推進または風力発電などの低速及び高トルクの分野に適用することができるように、固定子コイルが受ける電磁気力を保持するスロットの構造を維持するようにしたものである。
【符号の説明】
【0036】
100 固定子コイル
200 スロット
210 空間部
300 固定子ヨーク
310 引込路及び引出路
400 冷却チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子コイル100がスロット200に保持され、その外側部に固定子ヨーク300が形成された超伝導回転機の固定子を冷却させるための冷却構造であって、
前記固定子コイル100の一部が露出するように、前記スロット200に軸方向に空間部210が形成され、前記固定子コイル100が露出した部位と前記固定子ヨーク300の間に冷却チューブ400が配設されることにより、前記固定子コイル100と固定子ヨーク300を同時に冷却させることを特徴とする、超伝導回転機の固定子冷却構造。
【請求項2】
前記スロット200に形成された空間部210は軸方向に多数形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の超伝導回転機の固定子冷却構造。
【請求項3】
前記冷却チューブ400は、前記固定子コイル100が露出した部位に螺旋状に巻き付けられてなることを特徴とする、請求項1または2に記載の超伝導回転機の固定子冷却構造。
【請求項4】
前記冷却チューブ400は前記固定子コイル100が露出した部位に螺旋状に巻き付けられ、隣接した冷却チューブ400とは前記固定子の外側で連結されることを特徴とする、請求項3に記載の超伝導回転機の固定子冷却構造。
【請求項5】
前記冷却チューブ400は前記固定子ヨーク300に形成された引込路及び引出路310に収容されて前記固定子の外部で連結されることを特徴とする、請求項4に記載の超伝導回転機の固定子冷却構造。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−213561(P2010−213561A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173072(P2009−173072)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(501339126)韓国電気研究院 (5)
【住所又は居所原語表記】28‐1,Seongju‐dong,Changwon‐city,Gyeonsangnam‐do,Republicofkorea
【Fターム(参考)】