説明

超伝導量子ビット素子及びそれを用いた集積回路

【課題】量子ビット素子から大きな信号を得ることができる、超伝導量子ビット素子及びそれを用いた集積回路を提供する。
【解決手段】超伝導量子ビット素子1は、超伝導量子ビット部2と超伝導量子ビット部に接続された量子ビット読出部3とを備え、超伝導量子ビット部2は3つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子からなり、量子ビット読出部3は、2つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子からなり、量子ビット読出部3のジョセフソン接合の1つ2dを、超伝導量子ビット部3のジョセフソン接合の1つと共用できる。量子ビット読出部3は、量子ビットからの十分に大きな磁束信号を得ることができるため、ノイズが大きい環境でも量子ビットの信号を正確に読み出し得る。従来に比較して、必要なジョセフソン接合の個数を1個減らすことができるので、製作が容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子計算機に用いることができる超伝導量子ビット素子に係り、特に大きな信号が得られるような量子ビット読出部を備えた超伝導量子ビット素子及びそれを用いた集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピュータでは、状態の重ね合わせが可能であるため古典的コンピュータで行うことのできない演算が可能である。理論的には複数の入力を備えた計算を行うことができ、この種の演算のために、量子コンピュータには、重ね合わせ状態の生成の機能が不可欠な機能である。
【0003】
量子ビット素子とは、量子コンピュータの構成要素である。これにはいろいろな種類のものがある。例えば、特許文献1及び2に開示されている量子ビット素子は、磁束量子ビットと呼ばれる素子であり、3個のジョセフソン接合をもつ超伝導ループである。量子ビット素子で生成される磁束信号は、超伝導量子干渉素子(DC−SQUID)によって読み出される。従来は、DC−SQUIDを量子ビット素子に接近させて作り、磁束信号を読み出す方法が採用されていた。
【0004】
非特許文献1には、DC−SQUIDを量子ビット素子に接近させて作り、量子ビットの信号を観測したことが報告されている。図5は、非特許文献1で報告されたDC−SQUIDの臨界電流を示す図である。図5において、縦軸はDC−SQUIDの臨界電流であり、横軸は量子ビットに与えられた外部磁束であり、外部から印加した磁場に比例している。挿入図は外部磁束を広い範囲で示したもので、この一部を拡大すると、量子ビットの信号が小さなステップとして観測されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−260025号公報
【特許文献2】特開2005−302847号公報
【非特許文献1】Caspar H. van der Wal, A. C. J. ter Haar, F. K. Wilhelm, R. N. Schouten, C. J. P. M. Harmans, T. P. Orlando, Seth Lloyd and J.E. Mooij: Science, Vol.290, pp.773-777, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の量子ビット素子に接近させて形成したDC−SQUIDから磁束信号を読み出す方法は、量子ビットとDC−SQUIDの間の相互インダクタンスが小さいため、得られる磁束信号は微弱であるという課題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み、量子ビット素子から大きな信号を得ることができる、超伝導量子ビット素子及びそれを用いた集積回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の超伝導量子ビット素子は、超伝導量子ビット部と超伝導量子ビット部に接続された量子ビット読出部とを備え、超伝導量子ビット部は3つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子からなり、量子ビット読出部は、2つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子からなり、量子ビット読出部のジョセフソン接合の1つが、超伝導量子ビット部のジョセフソン接合の1つと共用するように構成されていることを特徴とする。
上記構成によれば、量子ビット読出部が超伝導量子ビット部のジョセフソン接合の1つを共通としたDC−SQUIDから構成されるので、超伝導量子ビット部で生成される磁束信号を高感度で検出することができる。
【0009】
上記構成において、超伝導量子ビット部及び量子ビット読出部は、好ましくは、ループ状の細線からなり、細線の内、共用されるジョセフソン接合が形成される細線部が共用部として構成されている。
量子ビット読出部のループ内の磁束は、好ましくは、読み出し時に磁束量子の半整数又は整数倍以外の値に制御される。
上記構成によれば、超伝導量子ビット部と量子ビット読出部との相互インダクタンスを大きくすることができ、超伝導量子ビット部で生成される磁束信号を高感度で検出することができる。
【0010】
本発明の集積回路は、複数の超伝導量子ビット素子から構成され、超伝導量子ビット素子のそれぞれが超伝導量子ビット部と超伝導量子ビット部に接続される量子ビット読出部とを備え、超伝導量子ビット部は、3つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子からなり、量子ビット読出部は、2つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子からなり、量子ビット読出部のジョセフソン接合の1つが超伝導量子ビット部のジョセフソン接合の1つと共用するように構成されていることを特徴とする。
上記構成において、超伝導量子ビット部及び量子ビット読出部は、好ましくは、ループ状の細線からなり、細線の内、共用されるジョセフソン接合が形成される細線部が共用部として構成されている。
量子ビット読出部のループ内の磁束は、好ましくは、読み出し時に磁束量子の半整数又は整数倍以外の値に制御される。
上記構成によれば、集積回路を構成する超伝導量子ビット素子において、超伝導量子ビット部と量子ビット読出部との相互インダクタンスを大きくすることができ、超伝導量子ビット部で生成される磁束信号を高感度で検出することができる。
【0011】
上記構成において、磁束転送器は、好ましくは、隣り合う超伝導量子ビット素子の間に配置されている。
制御線は、好ましくは、超伝導量子ビット部に隣接して配置されるか又は磁束転送器に隣接して配置される。
上記構成によれば、隣り合う2つの超伝導量子ビット素子間の結合の強さを任意に制御することができると共に、各超伝導量子ビット素子の超伝導量子ビット部と量子ビット読出部との相互インダクタンスを大きくすることができ、超伝導量子ビット部で生成される磁束信号を高感度で検出することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の超伝導量子ビット素子及びそれを用いた集積回路によれば、超伝導量子ビット素子から十分に大きな磁束信号を得ることができるため、ノイズが大きい環境でも量子ビットの信号を正確に読み出すことができる。量子ビットの面積や流れる巡回電流が小さくても十分な信号を得ることができるので、量子ビットの面積や流れる巡回電流を小さくすることにより量子力学的重ね合わせ状態を保持する時間である量子コヒーレンス時間を、従来よりも延ばすことができる可能性がある。さらに、必要なジョセフソン接合の個数を1個減らすことができるので、製作が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
図1は、本発明の超伝導量子ビット素子1の構成を模式的に示す平面図である。超伝導量子ビット素子1は、超伝導量子干渉素子からなる超伝導量子ビット部2と、超伝導量子ビット部2に接続され、超伝導量子干渉素子からなる量子ビット読出部3と、から構成されている。本発明の超伝導量子ビット素子1は、基板上に形成することができる。
【0014】
超伝導量子ビット部2は、超伝導体からなるリング又は矩形などに形成された細線部2aと、3つのジョセフソン接合2b,2c,2dと、から形成されている超伝導量子干渉素子である。各ジョセフソン接合2b,2c,2dは、トンネル接合となるような薄い絶縁膜が細線部2aに挟まれた構造を有している。
【0015】
ここで、超伝導体の材料としては、Nb(ニオブ)、Pb(鉛)、Al(アルミニウム)、Sn(スズ)、In(インジウム)などを、絶縁膜としては、アルミ酸化物(AlO)、PbOなどを用いることができる。
【0016】
図2は、図1に示すジョセフソン接合2cのA−A方向に沿う部分断面図である。図2に示すように、ジョセフソン接合2cは、絶縁基板10上に形成される超伝導体層11と、この超伝導体層11上に形成されるトンネル層となる絶縁膜12と、絶縁膜12上に形成される超伝導体層13と、から形成することができる。トンネル層となる絶縁膜12の厚さは例えば約1nmである。他のジョセフソン接合2b,2dも同様の構造を有している。
【0017】
超伝導量子ビット部2に接続される量子ビット読出部3は、超伝導体からなるリング又は矩形などに形成された細線部3aと、超伝導量子ビット部2のジョセフソン接合2dとジョセフソン接合3bと、これらのジョセフソン接合2d,3bから約90°離れた位置に設けられた電流端子3c,3dと、から形成されている。細線部3aの左辺の一部は、超伝導量子ビット部2の細線部2aaと共用されるように構成されている。つまり、細線部2aaは、細線部3aの共通部分となっている。したがって、量子ビット読出部3のジョセフソン接合2d及び超伝導量子ビット部のジョセフソン接合2dは、共用つまり兼用されている。細線部3aのリングの大きさは、超伝導量子ビット部の細線部2aよりも大きくしても小さくしてもよい。本発明では、リングや矩形の形状を有する細線2a,3aを総称してループ状の細線と呼び、リングや矩形などの形状で決まる面積をループ面積と呼ぶことにする。
【0018】
ジョセフソン接合3aは、トンネル接合となるような薄い絶縁膜が超伝導体の材料からなる細線部3aに挟まれた構造を有している。つまり、量子ビット読出部3は、所謂DC−SQUID(直流−超伝導量子干渉素子)である。細線部3aの寸法は、幅が約200nm、厚さを50nm程度とすることができる。
【0019】
量子ビット読出部3に用いる超伝導体の材料及び絶縁膜は、超伝導量子ビット部2と同様の材料を用いることができる。
【0020】
図1に示すように、超伝導量子ビット部2及び量子ビット読出部3が、例えば共に正方形からなる細線部2a,3aである場合には、量子ビット読出部3の一辺の寸法を量子ビット部の正方形の一辺よりも長くしているが、短くしてもよい。超伝導量子ビット部2及び量子ビット読出部3は、細線部2aaが共通部分となり、相互インダクタンスが大きくなる。
【0021】
超伝導量子ビット部2のループとなる細線部2aを巡回する電流は、ループ内の磁束が磁束量子の半整数倍(1/2,3/2,5/2など)のときに反転する。したがって、ループ内の磁束が磁束量子の半整数倍付近のときに量子ビットとして振る舞う。
一方、量子ビット読出部3のDC−SQUIDによって量子ビットの信号を読み出すときには、量子ビット読出部3の細線部3aからなるループ内の磁束が磁束量子の半整数または整数倍であってはならない。なぜならば、この場合のDC−SQUIDの臨界電流は磁束変化に対して感度が非常に低いためである。したがって、超伝導量子ビット素子1に一様な磁場を加えて操作する場合は、量子ビット読出部3のループ面積が超伝導量子ビット部2のループ面積の整数倍であってはならない。ただし、超伝導量子ビット部2内の磁束または量子ビット読出部3内の磁束を制御するための制御線を設ければ、以上の面積に関する条件が必ずしも満たされなくてもよい。
【0022】
非特許文献1で代表されるような従来の超伝導量子ビット素子では、超伝導量子ビット部が量子ビット読出部であるDC−SQUIDの中に作られるため、超伝導量子ビット部は量子ビット読出部より小さな面積にするという制約条件がある。本発明の超伝導量子ビット部2は量子ビット読出部3の外側にあるので、超伝導量子ビット部2の面積は、量子ビット読出部3より小さくても大きくてもよい。
【0023】
本発明の超伝導量子ビット素子1では、量子ビット読出部3のDC−SQUIDにおいて、1個のジョセフソン接合2dを、超伝導量子ビット部2を構成する3個のジョセフソン接合2b,2c,2dのうちの1個と共用、つまり、兼用した構成を有している。
これにより、超伝導量子ビット部2のジョセフソン接合2b,2c,2dのもつジョセフソンインダクタンスが、量子ビット読出部3との間の相互インダクタンスに寄与するため、相互インダクタンス及び量子ビット読出部3で得られる磁束信号の大きさを著しく増強することができる。
【0024】
超伝導量子ビット素子1は、量子ビットの面積や流れる巡回電流が小さくても十分な信号を得ることができるので、量子ビットの面積や巡回電流を小さくすることにより量子コヒーレンス時間を従来より延ばすことができる可能性がある。
【0025】
従来の量子ビットの読出装置では、量子ビットから離れた位置にDC−SQUIDを形成しているので、合計で5個のジョセフソン接合が必要であったのに対して、本発明の超伝導量子ビット素子1では従来のものよりジョセフソン接合が1個減るので、製作も容易となる。
【0026】
次に、本発明の超伝導量子ビット素子1を用いた集積回路について説明する。
図3は、本発明の超伝導量子ビット素子からなる集積回路20を示す模式的な平面図である。集積回路20は、第1の超伝導量子ビット素子1と第2の超伝導量子ビット素子15と、これらの超伝導量子ビット素子1,15との間に配置されている磁束転送器22と、第1及び第2の超伝導量子ビット素子1,15及び磁束転送部22とにそれぞれ近接して配置される制御線23,24,25と、から構成されている。超伝導量子ビット素子15は、超伝導量子ビット素子1と同じ素子であり、対応する部位には同じ符号を付している。集積回路20は、超伝導量子ビット素子1,15及び磁束転送器22などからなる上記構成を1組として、複数の組が配置されてもよい。
【0027】
磁束転送器22は、磁束転送部22aと超伝導量子干渉素子部22bとから構成されている。磁束転送部22aは、略長方形の超伝導体の細線から形成されている。超伝導量子干渉素子部22bは、矩形の超伝導体からなる細線により形成されている。超伝導量子干渉素子部22bの下側の辺は、磁束転送部22aにおける上側の辺の一部とで共通部分となり兼用されている。
【0028】
磁束転送部22a及び超伝導量子干渉素子部22bの細線の寸法は、幅を約200nm、厚さを50nm程度とすることができる。磁束転送部22aの大きさは、一例として4μm×10μm程度とすることができる。矩形の超伝導量子干渉素子部22bは、一例として3μm×3μm程度とすることができる。超伝導量子干渉素子部22bにおける上下の長辺の中央部にジョセフソン接合22c及び22dが形成されている。超伝導量子干渉素子部22bは所謂DC−SQUIDである。このDC−SQUIDのトンネル絶縁膜の厚さは約1nmとすればよい。
【0029】
図3の場合には、磁束転送部22aの左右の短辺は、第1及び第2の超伝導量子干渉素子1,15における超伝導量子ビット部2のジョセフソン接合2bに対向するように配置されている一例を示している。超伝導量子ビット部2のジョセフソン接合2bは、磁束転送部22aの左右の短辺側に配置しなくてもよい。例えば、ジョセフソン接合2bは、ジョセフソン接合2cと対向するように配置されることができる。
【0030】
第1の超伝導量子ビット素子1に隣接して配置されている制御線23は、超伝導量子ビット部2の下側の辺に平行する直線部23aと、この直線部23aの両端で垂直に折れ曲がるように延出した垂直部23b,23cとから構成されている。垂直部23b,23cの下端側は、図示しない電流源に接続されている。直線部23aは超伝導量子ビット部2と電磁結合している。つまり、相互インダクタンスが、制御線23と超伝導量子ビット部2との間に生じるようにされている。これにより、制御線23に電流を印加することで磁場が発生し、この磁場により第1の超伝導量子ビット素子1における超伝導量子ビット部2の状態を制御することができる。
【0031】
第2の超伝導量子ビット素子15に隣接して配置されている制御線24は、超伝導量子ビット部2の下側の辺に平行する直線部24aを有し、この直線部24aの両端で垂直に折れ曲がるように延出した垂直部24b,24cとから構成されている。垂直部24b,24cの下端側は、図示しない電流源に接続されている。直線部24aは超伝導量子ビット部2と電磁結合している。つまり、相互インダクタンスが、制御線24と超伝導量子ビット部2との間に生じるようにされている。これにより、制御線24に電流を印加することで、磁場が発生し、この磁場により第2の超伝導量子ビット素子15における超伝導量子ビット部2の状態を制御することができる。
【0032】
磁束転送部22に隣接して配置される制御線25は、超伝導量子干渉素子部22bにおける上辺に隣接し、この上辺と平行に配置されている直線部25aと、この直線部25aの両端で垂直に折れ曲がるように延出した垂直部25b,25cとから構成されている。垂直部25b,25cの上端側は、図示しない電流源に接続されている。直線部25aは超伝導量子干渉素子部22bと電磁結合している。つまり、相互インダクタンスが、制御線25と超伝導量子干渉素子部22bとの間に生じるようにされている。これにより、制御線25に電流を印加することで、磁場が発生し、この磁場により磁束転送器22における超伝導量子干渉素子部22bの状態を制御することができる。
【0033】
制御線23,24,25はアルミニウムなどの材料を用い、その寸法は、幅が約200nm、厚さを50nm程度とすることができる。
【0034】
磁束転送器22において、超伝導量子干渉素子部22bを貫く磁束を、磁束量子Φの整数倍の値にすると、第1の超伝導量子干渉素子1と第2の超伝導量子干渉素子15との間の結合を形成することができる。つまり、第1及び第2の超伝導量子干渉素子1,15間の結合状態がオン(ON)の状態となる。磁束量子Φは下記(1)式で表わされる。
Φ=h/(2e) (1)
ここで、hはプランク定数(6.626×10−34J・s)であり、eは電子の単位電荷(1.602×10−19C)である。
【0035】
一方、磁束転送器22において、超伝導量子干渉素子部22bを貫く磁束を磁束量子Φの半奇数倍の値にすると、第1の超伝導量子干渉素子1と第2の超伝導量子干渉素子15との間の結合を無くすことができる。つまり、第1及び第2の超伝導量子干渉素子1,15間の結合状態がオフ(OFF)の状態となる。
【0036】
本発明の超伝導量子ビット素子1,15からなる集積回路20によれば、磁束転送器22において、制御線25に流す電流を調整し、超伝導量子干渉素子部22bを貫く磁束を磁束量子Φの半奇数倍から整数倍の間の任意の値にすることにより、第1の超伝導量子干渉素子1と第2の超伝導量子干渉素子15との間の結合の強さを任意に制御することができる。
【0037】
同様な方式により、3個以上の超伝導量子ビット素子からなる集積回路をつくることができ、この集積回路内の任意の2個の超伝導量子ビット素子間における結合の強さを任意に制御することができる。このような特徴をもつ集積回路を用いることで、任意の量子計算を実行させることができることがわかっているので、原理的には量子計算機を実現することが可能である。
【0038】
本発明の超伝導量子ビット素子1,15からなる集積回路20によれば、超伝導量子ビット素子1,15の各量子ビット読出部3の1個のジョセフソン接合2dを、超伝導量子ビット部2を構成する3個のジョセフソン接合2b,2c,2dのうちの1個とで共用にした構成を有している。
これにより、超伝導量子ビット部2のジョセフソン接合2b,2c,2dのもつジョセフソンインダクタンスが、量子ビット読出部3との間の相互インダクタンスに寄与するため、相互インダクタンス及び得られる磁束信号の大きさを著しく増強することができる。
【0039】
超伝導量子ビット素子1,15においては、量子ビットの面積や流れる巡回電流が小さくても十分な信号を得ることができるので、量子ビットの面積や流れる巡回電流を小さくすることにより量子コヒーレンス時間を従来よりも延ばすことができる可能性がある。
【0040】
従来の量子ビットの読出装置では、量子ビットから離れた位置に隣接してDC−SQUIDを形成しているので、合計で5個のジョセフソン接合が必要であったのに対して、本発明の超伝導量子ビット素子1では従来のものよりジョセフソン接合が1個減るので、製作も容易となる。
【0041】
上記構成の超伝導量子ビット素子1として、図2に示すジョセフソン接合2cを用いる場合について説明する。
図2に示すように、絶縁性基板や熱酸化膜を有するSi(シリコン)基板10上に、所定の厚さの超伝導体層11を、スパッタ法等を用いて堆積し、図1に示す超伝導量子ビット部2及び量子ビット読出部3の細線部2a,3aの一部を、マスクを用いた選択エッチングにより形成する。
【0042】
次に、超伝導体層11上に所定の厚さの絶縁膜となるアルミナ酸化膜などの絶縁体材料を、スパッタ法やCVD法により堆積し、余分な絶縁体を選択エッチングにより除去して、トンネル絶縁膜12を形成する。
【0043】
最後に、トンネル絶縁膜12上に所定の厚さの超伝導体層をスパッタ法やCVD法などにより堆積し、余分な超伝導体層を選択エッチングにより除去して、超伝導体層13を形成することで、ジョセフソン接合2cを製作することができる。同様にして、超伝導量子ビット素子1及び集積回路20を製作することができる。
【0044】
ここで、各材料の堆積には、スパッタ法やCVD法以外には、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法などの通常の薄膜成膜法を用いることができる。また、所定の形状の接合や電流端子を形成するためのマスク工程には、光露光や電子ビーム(EB)露光などを用いることができる。
【実施例】
【0045】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
実施例として、図1に示す超伝導量子ビット素子1を、電子ビーム露光装置などを用いて製作した。超伝導量子ビット部2の細線部2aを一辺が4μmの正方形とし、量子ビット読出部3の細線部3aを一辺が5μmの正方形とした。細線部2a,3aの線幅は約200nm、厚さは約50nmとした。細線部2a,3aとなる超伝導体の材料としては、アルミニウムを使用した。各ジョセフソン接合2b,2c,2d,3bに用いた絶縁膜は酸化アルミニウムであり、その厚さは約1nmとした。各ジョセフソン接合2b,2c,2d,3bの形状は凡そ400nm×100nmの長方形とした。
【0046】
実施例で製作した超伝導量子ビット素子1の量子ビット読出部3の臨界電流を測定した。
図4は、実施例の量子ビット読出部3におけるDC−SQUIDの臨界電流を示す図である。図において、縦軸は臨界電流の統計平均値(nA)を示し、横軸は磁場を加えるための電磁石に流した電流(mA)であり、外部から印加されている磁場に比例している。
図4から明らかなように、実施例において、量子ビット読出部3のDC−SQUIDにより測定された臨界電流は中心付近で曲線が2度折れ曲がっているが(図4の矢印A,B参照)、この部分の変化が量子ビットの磁束信号によるものである。この部分以外の振動波形は、図5(非特許文献1参照)で示されているものと同じく、DC−SQUIDの臨界電流が磁場によって振動するという通常のDC−SQUIDの特性を表す。
【0047】
実施例の超伝導量子ビット素子1による磁束信号の大きさは、図5に示した非特許文献1の場合と比較して、約60倍であり、非常にバラツキの少ないスムーズな波形が得られることが分かる。
【0048】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の超伝導量子ビット素子の構成を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示すジョセフソン接合のA−A方向に沿う部分断面図である。
【図3】本発明の超伝導量子ビット素子からなる集積回路を示す模式的な平面図である。
【図4】実施例の量子ビット読出部におけるDC−SQUIDの臨界電流を示す図である。
【図5】非特許文献1で報告されたDC−SQUIDの臨界電流を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1:超伝導量子ビット素子(第1の超伝導量子ビット素子)
2:超伝導量子ビット部
2a:超伝導体からなる細線部
2aa:細線部3aとの共通部分
2b,2c,2d:ジョセフソン接合
3:量子ビット読出部
3a:超伝導体からなる細線部
3b:ジョセフソン接合
3c,3d:電流端子
10:絶縁基板
11,13:超伝導体層
12:絶縁膜
15:超伝導量子ビット素子(第2の超伝導量子ビット素子)
20:超伝導量子ビット素子を用いた集積回路
22:磁束転送器
22a:磁束転送部
22b:超伝導量子干渉素子部
22c,22d:ジョセフソン接合
23,24,25:制御線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導量子ビット部と該超伝導量子ビット部に接続された量子ビット読出部とを備え、
上記超伝導量子ビット部は3つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子からなり、
上記量子ビット読出部は、2つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子からなり、
上記量子ビット読出部のジョセフソン接合の1つが、上記超伝導量子ビット部のジョセフソン接合の1つと共用するように構成されていることを特徴とする、超伝導量子ビット素子。
【請求項2】
前記超伝導量子ビット部及び量子ビット読出部はループ状の細線からなり、上記細線の内、前記共用されるジョセフソン接合が形成される細線部が共用部として構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の超伝導量子ビット素子。
【請求項3】
前記量子ビット読出部のループ内の磁束が、読み出し時に磁束量子の半整数又は整数倍以外の値に制御されることを特徴とする、請求項1または2に記載の超伝導量子ビット素子。
【請求項4】
複数の超伝導量子ビット素子を用いた集積回路であって、
上記超伝導量子ビット素子のそれぞれが超伝導量子ビット部と超伝導量子ビット部に接続される量子ビット読出部とを備え、
上記超伝導量子ビット部は、3つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子からなり、
上記量子ビット読出部は、2つのジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子からなり、
上記量子ビット読出部のジョセフソン接合の1つが上記超伝導量子ビット部のジョセフソン接合の1つと共用するように構成されていることを特徴とする、集積回路。
【請求項5】
前記超伝導量子ビット部及び量子ビット読出部はループ状の細線からなり、該細線の内、前記共用されるジョセフソン接合が形成される細線部が共用部として構成されていることを特徴とする、請求項4に記載の集積回路。
【請求項6】
前記量子ビット読出部のループ内の磁束が、読み出し時に磁束量子の半整数又は整数倍以外の値に制御されることを特徴とする、請求項4または5に記載の集積回路。
【請求項7】
磁束転送器が、隣り合う前記超伝導量子ビット素子の間に配置されていることを特徴とする、請求項4に記載の集積回路。
【請求項8】
制御線が、前記超伝導量子ビット部に隣接して配置されることを特徴とする、請求項4に記載の集積回路。
【請求項9】
制御線が、前記磁束転送器に隣接して配置されることを特徴とする、請求項7に記載の集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−294167(P2008−294167A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137282(P2007−137282)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】