説明

超硬合金粉末およびその製法

【課題】WC粉末とともに、微粒のCo粉末が均一に分布する超硬合金粉末およびその製法を提供する。
【解決手段】メタタングステン酸アンモニウム塩と硝酸コバルトとを含み、pHが4〜7のW−Co含有水溶液を調製する工程と、該W−Co含有水溶液を噴霧乾燥してWおよびCoを含む前駆体粉末を得る工程と、前記前駆体粉末をCO/H混合ガス中で加熱する工程とを経て得られ、WC粉末およびCo粉末を含む超硬合金粉末であって、前記WC粉末は平均粒径が50〜200nmであり、前記Co粉末は粒径が100nm以上のCo粉末数が全Co粉末数の4%以下の割合である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超硬合金粉末およびその製法に関し、特に、微細なCo粉末を有する超硬合金粉末とその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンカーバイド(WC)−コバルト(Co)系超硬合金は耐磨耗性、高温強度および高弾性率に優れているという理由から切削用工具や金型材料等の耐磨耗性部品の素材として広く利用されている。また、このWC−Co系超硬合金は、それを構成するWC粒子が微細になるほど耐摩耗性が向上するといわれている。一方、CoはWC−Co系超硬合金の中でWCの粒子間において結合相の役割を担うものであるが、WC−Co系超硬合金ではCoがWC−Co粒子間に均一な厚みになるように分散していることが要求されている。しかし、通常、WC−Co粒子の粒界にはCoプールと呼ばれるようなCoの大きな粒子が存在することがあり、このCoプールは破壊源になりやすく機械的強度の低下をもたらす原因となっている。
【0003】
そこで、近年、以下に記すような工法によって、WC−Co系超硬合金に用いるWC粉末およびCo粉末の微粒化が図られている。
【0004】
第1の工法は、WおよびCoを含有する水溶液を噴霧乾燥し、次いで、得られたWおよびCoを含有する前駆体粉末に炭素粉末を混合し加熱してWを炭化させるものである。このような製法によって約100nmのWC粉末が得られることが開示されている(例えば、特許文献1の0020段落参照)。
【0005】
第2の工法は、WおよびCoを含有する水溶液を噴霧乾燥し、次いで、得られたWおよびCoを含有する前駆体粉末に炭素粉末を添加して粉砕し、さらに、この炭素粉末とともに粉砕されたWおよびCoを含む粉末をCO/Hの混合ガスの雰囲気にて加熱するものである。この製法によって平均粒径が200nmの超硬合金粉末の前駆体が得られることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−317020号公報
【特許文献2】特開平2001−73012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記第1および第2の工法を用いた場合、WC粉末については上述のように微粒の粉末を得ることができるものの、Co粉末についてはWC粉末に比べて粒径の大きいものが含まれることがあり、このため、上記のWC粉末とCo粉末とを用いて超硬合金を作製した場合、超硬合金を構成するWC粒子間にCoプールほどの大きさの粗大粒子が形成されることがあり、このようなCoの粗大粒子を含む超硬合金は機械的強度および硬度低下の問題となっている。
【0007】
従って本発明は、WC粉末とともに、微粒のCo粉末が均一に分布する超硬合金粉末およびその製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超硬合金粉末は、WC粉末およびCo粉末を含む超硬合金粉末であって、前記WC粉末は平均粒径が50〜200nmであり、前記Co粉末は粒径が100nm以上のCo粉末数が全Co粉末数の4%以下の割合であることを特徴とする。
【0009】
上記超硬合金粉末では、前記Co粉末の平均粒径が40nm〜80nmであること、前記Co粉末の含有量が5〜15質量%であることが望ましい。
【0010】
また本発明の超硬合金粉末の製法は、メタタングステン酸アンモニウム塩と硝酸コバルトとを含み、pHが4〜7のW−Co含有水溶液を調製する工程と、該W−Co含有水溶液を噴霧乾燥してWおよびCoを含む前駆体粉末を得る工程と、前記前駆体粉末をCO/H混合ガス中で加熱する工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の超硬合金粉末は、上述のように、超硬合金粉末中に含まれるCo粉末の平均粒径が微粒であり、特に、100nm以上のサイズの個数の割合が4%以下と少なく微粒のCo粉末が均一に分布するものである。このため本発明の超硬合金粉末を用いて超硬合金を作製した場合、超硬合金を構成するWC粒子間にCoプールのような粗大なCo粒子を少なくできることから超硬合金の機械的強度および硬度を高めることができる。
【0012】
また、本発明の超硬合金粉末の製法は、WとCoの成分を含有する水溶液のpHを所定の範囲に制御する工法であるために、Coの水酸化物などの生成が低減され噴霧時の凝集がないために小径化が容易となること、また、得られたWの酸化物およびCoの酸化物を含む前駆体粉末をCO/H混合ガスで還元および炭化する工法であることから、W粉末の周囲に一様に炭素成分を分散でき、このため従来の炭素粉末を用いる場合のように炭素粉末の混合操作によるCo粉末の変形や局部的な反応が抑制され、より均一なWC粉末を容易に得ることができる。こうして上記した、WC粉末およびCo粉末を含む超硬合金粉末であって、前記WC粉末は平均粒径が50〜200nmであり、前記Co粉末は粒径が100nm以上のCo粉末数が全Co粉末数の4%以下の割合である超硬合金粉末を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の超硬合金粉末の電子顕微鏡写真である。
【0014】
本発明の超硬合金粉末は、それを構成するWC粉末の平均粒径が50〜200nmであることを特徴とするものであり、特に、50〜140nmであることが望ましい。WC粉末の平均粒径が上記の範囲のように微粒であると、このようなWC粉末を用いて形成される焼結体の硬度(ビッカース硬度Hv10 JISR1610)および室温曲げ強度(JIS1601)を高めることができるという利点がある。これに対して、WC粉末の平均粒径が50nmよりも小さい場合には室温曲げ強度および硬度の大きな低下が見られ、一方、WC粉末の平均粒径が200nmよりも大きい場合にも室温曲げ強度および硬度が低下する。また、本発明の超硬合金粉末は、前記Co粉末は粒径が100nm以上のCo粉末数が全Co粉末数の4%以下の割合であることを特徴とする。また、粒径が100nm以上のCo粉末数が全Co粉末数の4%以下であることが重要である。Co粉末が100nm以上のサイズの個数の割合が4%以下であると、たとえ、超硬合金粉末中に100nm以上のサイズのCo粉末が含まれていたとしても、その数が少ないためにCoの分散性が高く、しかもCo粉末同士が焼結中に凝集しにくくなり、このためWC粉末を用いて形成される焼結体においてWC粒子間にCoプールなどの粒径が100nm以上もあるような粗大な粒子が形成されにくくなるという利点がある。その結果、室温曲げ強度や硬度を高めることができる。
【0015】
また本発明の超硬合金粉末はCo粉末の平均粒径が40nm〜60nmであることが望ましい。Co粉末の平均粒径が40nm〜60nmであると粒径が100nm以上のCo粉末数が全Co粉末数を低減できるという理由がある。
【0016】
この場合、本発明の超硬合金粉末においては、Co粉末量が5〜15質量%であることが望ましい。超硬合金粉末においてCo粉末量が5〜15質量%であると、後述の実施例の結果から明らかなように平均粒径が50〜200nmであるWC粉末と混合したとき高強度および高硬度となる。これはWC粒子の周囲にCoの結合相を均一に形成できるためである。
【0017】
また本発明の超硬合金粉末は、V、Cr、TaおよびNbから選ばれる少なくとも1種を炭化物換算で0.1〜2質量%含有することが望ましい。WC粉末およびCo粉末に上記V、Cr、TaおよびNbの炭化物を添加すると、WC−Co系の超硬合金においてWC粒子およびCo粒子の粒成長が抑えられるという利点がある。これは上記V、Cr、TaおよびNbなどの炭化物が高融点であるためにWC粉末およびCo粉末に対して粒成長抑制剤としてはたらくことに起因する。また、これらの粉末から形成された焼結体においてV、Cr、TaおよびNbなどの炭化物はWC粒子とCo粒子との界面における中間体としてはたらくため、WC粒子とCo粒子との結合を強固にできるという作用を有する。そのためWC−Co系の超硬合金中のV、Cr、TaおよびNbの炭化物が少ないと室温曲げ強度や硬度が低下し、一方、V、Cr、TaおよびNbの炭化物が多い場合にはCo粒子の粒成長が起こり低硬度となる。V、Cr、TaおよびNbの炭化物は粉末の調整時にWC粉末やCo粉末に付着し、または一部固溶しているものであり、その粒径はWC粉末よりも細かく、10〜100nmであることがWC粉末同士の焼結性を高めるという点で望ましい。
【0018】
次に、本発明の超硬合金粉末の製法について説明する。図2は、本発明の超硬合金粉末を製造するための工程図である。
【0019】
本発明の超硬合金粉末の製法は、W粉末およびCo粉末を調製するのにWを含む塩およびCoを含む塩を用いることを特徴とする。ここではWを含む塩として好適なものはメタタングステン酸アンモニウム((NH(H1240)であり、一方、Coを含む塩として硝酸コバルト(Co(NOを用いる。これらの出発原料を目的組成に合うように秤量してから水に溶かして水溶液を調製する。この場合、WやCo以外のV、Cr、Nb、Taなどの添加物についても硝酸塩などを用いて、水溶液として混合することができる。なお、上記したWおよびCoの成分を水溶液とする方法ではWおよびCoならびに他の添加剤の組成は任意に調整できることはいうまでもない。
【0020】
また本発明では、WおよびCoを含有する水溶液のpHを4〜7に調整することが重要である。WおよびCoを含有する水溶液のpHが7以下であると、水溶液の段階や噴霧直前の加熱された段階においてCoの水酸化物が生成するのを抑制でき、後述の噴霧乾燥を行った際にCo成分同士の凝集を抑制できるという利点がある。一方、pHが4以上であると水溶液の酸性度が弱くなり、噴霧乾燥時における突発的な酸性ガスの発生を抑制できるために中空状の粉末になりにくく中実球を容易に形成できることから、より微粒のタングステン粉末やコバルト粉末が得られるという利点がある。また酸性度が弱いために装置や人体への影響を低減できるという利点もある。
【0021】
次に、調製したW−Co含有水溶液を、噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥を行いW−Coの酸化物を含む前駆体を得る。本発明の製法では、この装置において4流体ノズル式の噴霧熱分解装置を用いることが望ましい。本発明の製法における噴霧乾燥の工程では、上記のように噴霧口に4流体ノズルを用いることを特徴とする。4流体ノズルは4つの噴霧口を有するものであるが、この場合、噴霧するWおよびCoを含有する水溶液用のほかにキャリアガスや水溶液の濃度や速度および液滴のサイズを調整するための媒体供給用となる。
【0022】
こうした構造を有する特殊なノズルを用いることにより噴霧される液滴のサイズを微小にでき、しかも噴霧乾燥に特有の得られる粉末の中空化を防止できる。この噴霧乾燥は後述の実施例によると、大気中、温度200〜400℃、供給流速は10〜80l/分程度が好適である。なお、WおよびCoを含む前駆体粉末の平均粒径が1000〜5000nmであることが望ましい。
【0023】
次に、得られたW−Coの前駆体を一旦100〜750℃の温度にNなどの不活性ガス中において加熱してW−Coの酸化物の前駆体中に残存している原料である水溶液の成分を除去することによりW−Coの複合酸化物を得る。
【0024】
次に、このW−Coの複合酸化物をCO/H混合ガスにより還元および炭化して本発明の超硬合金を得る。このときの温度はWおよびCoの還元を促進し、Wの炭化を速めるという点で700〜900℃が好ましい。なお、CO/Hの割合は0.5〜1.5/3〜5が好ましい。COガスの割合はWの炭化と、炭化の前のWおよびCoの酸化物を還元するという理由から上記の範囲が望ましい。
【0025】
この後、上記得られた超硬合金粉末を一旦解砕した後パラフィンワックスをイソプロピルアルコールを用いて添加して所定の形状に成形し、1200〜1400℃の温度で真空加圧焼成を行うことにより超硬合金の焼結体が得られる。
【0026】
このように本発明の超硬合金粉末の製法は、噴霧乾燥工程を取り入れた従来の製法に比較してWおよびCo成分を含む水溶液のpHを調整することにより、噴霧乾燥時の水溶液の温度上昇による水溶液に発生する水酸化物などの凝集を抑制できること、および噴霧乾燥後の前駆体粉末の中空化を抑制できるために微粒のCoやWを含有する前駆体を形成できる。
【実施例】
【0027】
W原料としてメタタングステン酸アンモニウム(純度99.9%、新日本無機化学)、Co原料として硝酸コバルト(純度99%、関東化学)、添加物としてバナジン酸アンモニウム、酢酸クロム、酢酸ニオブ、酢酸タンタル(全て純度99%、関東化学)を用意した。ここではW、Coおよび添加物の組成は表2に示す比率で変化させた。調合した塩などの粉末を、質量比で10〜20%になるようにイオン交換水に溶かし、マグネチックスターラーで1時間攪拌した。その際、WおよびCoを含む水溶液のpHをモニターし、アンモニア水もしくは塩酸を滴下してpHが2〜9になるように調整した。W−Co含有水溶液のpHをアルカリ性にする場合は溶液調整時にアンモニア水を添加した。一方、pHを低下させるために硝酸を添加した。
【0028】
次に、攪拌後のW、Coおよび添加物を含む水溶液をローラーポンプを用いて60ml/分の流速で2流体および4流体ノズル式スプレードライ装置に送り、10〜80L/分の速度で250℃の熱風を送って噴霧乾燥を行った。また、一般のスプレードライ装置を用いる回転型の遠心式ノズルを使用した。
【0029】
噴霧乾燥処理後のW−Coの前駆体粉末はバグフィルターで回収した後、さらに110℃で12時間乾燥させた。
【0030】
次に、乾燥処理したW−Coの前駆体粉末を電気雰囲気炉に導入し、窒素雰囲気中700℃で2時間加熱し、余分な水分やアンモニアなどを熱分解して除去して複合酸化物を得た。さらに炉を表1に示す温度に上昇させ、CO/Hガスを1:4の比率で導入し、5時間熱処理することにより複合酸化物を還元・炭化して超硬合金粉末を得た。CO/Hガスの代わりに炭素粉末による炭化処理も行った。
【0031】
得られた超硬合金粉末におけるWC粉末およびCo粉末それぞれの平均粒径、および超硬合金粉末中におけるCo粉末の100nm以上の粒子の個数の割合を求めた。この場合、得られた超硬合金粉末を電子顕微鏡を用いて粉末が100個程度入るように1〜10万倍にて写真を撮り、写真に映し出された粉末を画像処理により輪郭を描き、その輪郭を円とみたてて各々直径を計測し平均化した。WCとCoは電子顕微鏡に付設の分析器(EDS)により同定し確認して測定を進めた。測定箇所は3箇所とした。
【0032】
前駆体粉末の平均粒径についても同じようにして求めた。この場合、写真内に30個ほど入る写真から求めた。これも測定箇所は3箇所とした。
【0033】
得られた超硬合金粉末にパラフィンワックスとIPAを混合して振動ミルで48時間混合し、噴霧乾燥して造粒した後、成形し、加圧焼成炉にて1300℃で焼成した。でき上がった焼結体は、表面を鏡面研磨し、3点曲げ強度(JIS1601)およびビッカース硬度(JIS1610)の測定を行った。以上の結果を表1に示した。
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
表1、2の結果から、本発明の製法によって調製した試料では、WC粉末の平均粒径が50〜200nmであり、Coの平均粒径が40〜80nmであり、かつ全Co粉末に対して0.1μm以上の平均粒径を有するCo粉末の割合が4%以下であった。また、本発明の実施例に該当する試料では、ビッカース硬度で1650以上の値を有し、3点曲げ強度で3200MPa以上であり、高強度でかつ高硬度な超硬材料が作製できることを確認できた。また、Co粉末の含有量を5〜15質量%の範囲とした試料ではビッカース硬度が2001以上の値を有し、3点曲げ強度で3840MPa以上であった。特に、WおよびCoを含有する水溶液のpHを4〜7に調整し、Co粉末の含有量をについて平均粒径が40〜60nmであり、100nm以上のサイズのCo粉末のない試料では、ビッカース硬度が2035以上の値を有し、3点曲げ強度で4000MPa以上であった。本発明の試料では最長径が1000nm以上のCoプールのようなCo粒子は観察されなかったがCo粒子の平均粒径が105nmおよび120nmを有する試料では最長径が1100nmおよび1200nmのCoプールのようなCo粒子が観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
WC粉末およびCo粉末を含む超硬合金粉末であって、前記WC粉末は平均粒径が50〜200nmであり、前記Co粉末は粒径が100nm以上のCo粉末数が全Co粉末数の4%以下の割合であることを特徴とする超硬合金粉末。
【請求項2】
前記Co粉末の平均粒径が40nm〜80nmである請求項1に記載の超硬合金粉末。
【請求項3】
前記Co粉末の含有量が5〜15質量%である請求項1または2に記載の超硬合金粉末。
【請求項4】
メタタングステン酸アンモニウム塩と硝酸コバルトとを含み、pHが4〜7のW−Co含有水溶液を調製する工程と、該W−Co含有水溶液を噴霧乾燥してWおよびCoを含む前駆体粉末を得る工程と、前記前駆体粉末をCO/H混合ガス中で加熱する工程とを具備することを特徴とする超硬合金粉末の製法。

【公開番号】特開2007−262475(P2007−262475A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88034(P2006−88034)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】