説明

超硬材における硬質被膜の除去方法及び超硬材の製造方法

【課題】超硬材工具類又は金型類等の超硬材表面の硬質被膜を選択的に除去でき、かつ、超硬母材の劣化を最小限に抑制することが可能な超硬材における硬質被膜の除去方法を提供する
【解決手段】第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する超硬合金粒子が、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素あるいはこれらの元素を含有する合金からなるバインダー金属で焼結された超硬母材の表面を、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第13族元素及び第14族元素(但し、炭素は除く。)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物又はホウ化物を含有する硬質被膜で被覆してなる超硬材における硬質被膜を除去する方法であって、前記超硬材を100℃以上250℃以下の温度でアルカリ薬液に接触させる超硬材における硬質被膜の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬材における硬質被膜の除去方法及び超硬材の製造方法に関する。詳しくは、その表面に硬質被膜が形成されてなる超硬工具類又は金型類などの超硬材において、これらの製作時の規格外品又はこれらを切削加工等に用いた使用劣化品の硬質被膜を除去するための薬液及びこの薬液を用いた硬質被膜の除去方法並びに当該硬質被膜を除去した超硬材に再度硬質被膜を成膜する超硬材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超硬材は、超硬母材の表面にCVD法(化学的気相成長法)又はPVD法(物理的気相成長法)などを用いて窒化物などの硬質被膜を形成させた超硬工具類又は金型類のことである。超硬材は、硬度、靭性、耐摩耗性等の特性に優れるため、これらの特性が要求される各種の切削加工や金型などの分野で起用されている。
【0003】
超硬母材は、WC(タングステンカーバイド)などの超硬合金粒子を、Fe、Co、Ni、Cu等のバインダー金属を用いて1500℃前後で焼結させたものであり、非常に高い硬度と靭性を有する。超硬母材は、超硬合金粒子の粒径とバインダー金属の量を変化させることにより硬度、靭性などの特性が変化するため、金属加工工具類や金型類などの使用用途の必要性に適したものが用いられている。通常、超硬合金粒子の粒径が小さい又はバインダー金属量が少ないほど超硬母材の硬度は高くなる傾向にある。
【0004】
硬質被膜は、超硬母材の耐摩耗性や耐食性の更なる向上を目的に、その母材表面にCVD法やPVD法を用いて形成した硬質材料からなる被膜のことであり、超硬工具類又は金型類の寿命向上に寄与する。硬質被膜に用いられる化合物としては、TiN、CrN、VN、TiAlN、AlCrN、TiAlCrN、TiSiN等の窒化物、TiC、CrC、VC等の炭化物、TiCN等の炭窒化物があり、これらを含有する物質を単層あるいは複層重ねて被覆して用いられる。
【0005】
ところで、超硬材はこれらの製作時において硬質被膜の被覆工程で被膜不良を生じた「規格外品」やその使用時に短時間で部分剥離や耐摩耗性不良等を生じた「欠陥品」、更には、通常の長時間使用で硬質被膜が磨耗してしまい寿命に達した「寿命劣化品」などが発生する。この様な「規格外品」「欠陥品」「寿命劣化品」は、資源保護の観点から、これらを粉砕して希少金属のタングステンをWC粉として回収してリサイクル使用されているのが殆どである。
しかし、現状のリサイクル方法では粉砕、分級、再焼結、形状加工と回収工程が多く、リサイクル費用が嵩んでしまう問題がある。
【0006】
一方、不良、欠陥又は寿命劣化した硬質被膜を超硬母材から除去して、硬質被膜を再被覆するリユース方法が効率的、コスト的にも有利である。そのため、従来から種々の除去薬液を用いた硬質被膜の除去方法が試みられている。
従来技術における薬液を用いた硬質被膜の除去方法として、酸をベースとした薬液を使用する方法や、過酸化水素を含有するアルカリ薬液を使用する方法が知られている。
酸をベースとした薬液を使用する方法の例として、特許文献1には、ステンレス鋼の表面に被覆されたTiN被膜を除去する方法で、該被膜が形成されたステンレス鋼を70℃以上に加温された15〜30体積%の硝酸水溶液に浸漬する方法が開示されている。また、過酸化水素を含有するアルカリ薬液を使用する方法の例として、特許文献2には、過酸化水素を1〜60重量%、界面活性剤を0.05〜5重量%含有し、かつ、pH7.5〜12のアルカリ性水溶液に被膜除去対象の部材を浸漬する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−41479号公報
【特許文献2】特開2005−48248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、酸をベースとした薬液では、硬質被膜は除去されるが、超硬母材表層からバインダー金属が溶解するため、超硬母材表層が脆化してしまう。そして、この上に硬質被膜を再被覆した再生品は切削加工等を行うと直ぐに母材が破損してしまうため、耐久性が不十分という問題がある。
また、過酸化水素を含有する薬液では、過酸化水素が直接、WC等の超硬合金粒子を浸食するため、同様に母材の強度の低下をきたし、再生品とした場合の耐久性が不十分である。
【0009】
このように従来の薬液を使用した硬質被膜の除去方法では、「硬質被膜の選択的除去」と「超硬母材の劣化防止」の両方を満足できる技術完成には至っていないのが現状であり、工業的に実施するには必ずしも適当なものとはいえなかった。
【0010】
かかる状況下、本発明の目的は、超硬材工具類又は金型類等の超硬材表面の硬質被膜を選択的に除去でき、かつ、超硬母材の劣化を最小限に抑制することを可能とする、超硬材における硬質被膜の除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する超硬合金粒子が、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素あるいはこれらの元素を含有する合金からなるバインダー金属で焼結された超硬母材の表面を、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第13族元素及び第14族元素(但し、炭素は除く。)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物又はホウ化物を含有する硬質被膜で被覆してなる超硬材における硬質被膜を除去する方法であって、
前記超硬材を100℃以上250℃以下の温度で、アルカリ薬液に接触させることを特徴とする超硬材における硬質被膜の除去方法。
<2> 前記アルカリ薬液が、超硬母材の腐食抑制剤を含有する前記<1>記載の硬質被膜の除去方法。
<3> 前記腐食抑制剤が、前記超硬母材を構成する第4族元素、第5族元素、第6族元素、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素からなる単体あるいは該元素を含む化合物である前記<1>又は<2>に記載の硬質被膜の除去方法。
<4> 前記腐食抑制剤が、コバルト化合物である前記<3>記載の硬質被膜の除去方法。
<5> 前記腐食抑制剤が、タングステン酸コバルト、水酸化コバルト又は酸化コバルト、コバルト金属である前記<4>に記載の硬質被膜の除去方法。
<6> 前記腐食抑制剤が、還元剤である前記<2>に記載の硬質被膜の除去方法。
<7> 前記還元剤が、下記一般式(1)で示される化合物である前記<6>記載の硬質被膜の除去方法。
【化1】

(式中、R1はカルボキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基のいずれか、R2は炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基、水酸基のいずれかであり、R1とR2が環構造を形成していてもよい。X1、X2はそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属のいずれかである。)
<8> 前記還元剤が、ジヒドロキシマレイン酸である前記<7>記載の硬質被膜の除去方法。
<9> 前記還元剤が、下記一般式(2)で示される化合物である前記<7>記載の硬質被膜の除去方法。
【化2】

(式中、R3は水素原子若しくは炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基であり、nは0又は1、X3、X4はそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属のいずれかである。)
<10> 前記還元剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸及びエリソルビン酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種である前記<9>記載の硬質被膜の除去方法。
<11> 前記還元剤が、下記一般式(3−a)、(3−b)で示される化合物及び/又はその塩である前記<6>に記載の硬質被膜の除去方法。
【化3】


【化4】

(式(3−a)、(3−b)中、R4はカルボキシル基、アルデヒド基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、又はアシル基、R5は水素原子又は水酸基である。)
【0013】
<12> 前記還元剤が、没食子酸、m−ガロイル没食子酸、カテコール及びヒドロキノンから選ばれた少なくとも1種である前記<11>記載の硬質被膜の除去方法。
<13> 前記還元剤が、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、オリゴ糖、多糖類である前記<6>に記載の硬質被膜の除去方法。
<14> 前記還元剤が、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、エリトロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、デオキシリボース、プシコース、グルコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、マンノース、イドース、タロース、フコース、ラムノース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ツラノース、セロビオース、ラフィノース、マルトトリオース、アカルボース、スタキオース、ガラクトース、リボース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、グリコーゲン、デンプン、セルロース、デキストリン、グルカン、レバン及びイヌリンから選ばれた少なくとも1種である前記<13>記載の硬質被膜の除去方法。
<15> 前記還元剤が、含リン系還元剤又は含イオウ系還元剤である前記<6>記載の硬質被膜の除去方法。
<16> 前記還元剤が、亜リン酸水素二ナトリウム又はチオ硫酸ナトリウムである前記<15>記載の硬質被膜の除去方法。
<17> 前記腐食抑制剤が、アゾール化合物又はその塩、チオ尿素化合物及びアセチレン系化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である前記<2>に記載の硬質被膜の除去方法。
<18> 前記アゾール化合物が、ベンゾトリアゾールである前記<17>記載の硬質被膜の除去方法。
<19> 前記チオ尿素化合物が、チオ尿素である前記<17>記載の硬質被膜の除去方法。
<20> 前記アセチレン系化合物が、2−プロピン−1−オール、1−ヘキシン−3−オール、3−ブチン−1−オールから選ばれた少なくとも1種である前記<17>記載の硬質被膜の除去方法。
<21> 超硬合金粒子が、W、Ti、Nb、Ta、V、Crからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する前記<1>乃至<20>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
【0014】
<22> バインダー金属が、Coを含有する前記<1>乃至<21>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<23> 硬質被膜が、Ti、V、Cr、Si及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物又は炭窒化物を含有することを特徴とする前記<1>乃至<22>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<24> 硬質被膜が、TiN、TiAlN、TiSiN、TiAlCrN、CrN、TiCrN、VN、TiC及びTiCNからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する前記<1>乃至<23>のいずれかに載の硬質被膜の除去方法。
<25> 硬質被膜が、単層あるいは複層の膜で構成されてなる前記<1>乃至<24>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<26> アルカリ薬液が、1〜20mol/L(OH-換算)のアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物を含有する前記<1>乃至<25>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<27> アルカリ薬液が、1〜20mol/L(OH-換算)の水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムを含有する前記<26>記載の硬質被膜の除去方法。
<28> 気相部分を不活性気体及び/又は還元性気体及び/又はアルカリ薬液から発生する蒸気で置換した気密性処理容器内で、前記超硬材から硬質被膜の除去を行う前記<1>乃至<27>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<29> 前記<1>乃至<28>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法により硬質被膜を除去し、再度硬質被膜を成膜する、硬質被膜に被覆された超硬材の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、超硬材工具類又は金型類等の超硬材における超硬母材の表面劣化を最小限に抑制しつつ、超硬母材表面の硬質被膜を選択的に除去することができるため、超硬材の効率的かつ安価なリユースを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の表面SEM像である(中央右側の黒ずみは電子線による焼けであり除膜処理によるダメージではない。)。
【図2】実施例2の表面SEM像である(中央右側の黒ずみは電子線による焼けであり除膜処理によるダメージではない。)。
【図3】実施例3の表面SEM像である。
【図4】実施例4の表面SEM像である(中央右側の黒ずみは電子線による焼けであり除膜処理によるダメージではない。)。
【図5】実施例5の表面SEM像である。
【図6】比較例1の表面SEM像である。
【図7】比較例2の表面SEM像である。
【図8】比較例3の表面SEM像である。
【図9】実施例6の表面SEM像である。
【図10】実施例7の表面SEM像である。
【図11】実施例8の表面SEM像である。
【図12】実施例9の表面SEM像である。
【図13】実施例10の表面SEM像である。
【図14】比較例4の表面SEM像である。
【図15】比較例5の表面SEM像である。
【図16】実施例11の表面SEM像である。
【図17】実施例12の表面SEM像である。
【図18】実施例13の表面SEM像である。
【図19】実施例14の表面SEM像である。
【図20】実施例15の表面SEM像である。
【図21】実施例16の表面SEM像である。(中央右側の黒ずみは電子線による焼けであり除膜処理によるダメージではない。)。
【図22】実施例17の表面SEM像である。
【図23】実施例18の表面SEM像である。
【図24】実施例19の表面SEM像である。
【図25】実施例7の断面分析結果(左図はSEM像、右図はEDXによるコバルトマッピング像)である。
【図26】実施例9の断面分析結果(左図はSEM像、右図はEDXによるコバルトマッピング像)である。
【図27】実施例10の断面分析結果(左図はSEM像、右図はEDXによるコバルトマッピング像)である。
【図28】実施例11の断面分析結果(左図はSEM像、右図はEDXによるコバルトマッピング像)である。
【図29】実施例15の断面分析結果(左図はSEM像、右図はEDXによるコバルトマッピング像)である。
【図30】実施例16の断面分析結果(左図はSEM像、右図はEDXによるコバルトマッピング像)である。
【図31】実施例18の断面分析結果(左図はSEM像、右図はEDXによるコバルトマッピング像)である。
【図32】実施例19の断面分析結果(左図はSEM像、右図はEDXによるコバルトマッピング像)である。
【図33】比較例4の断面分析結果(左図はSEM像、右図はEDXによるコバルトマッピング像)である。
【図34】比較例5の断面分析結果(左図はSEM像、右図はEDXによるコバルトマッピング像)である。
【図35】被膜被覆前のチップ(非研磨面)の表面SEM像である。
【図36】被膜被覆前のチップ(研磨面)の表面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する超硬合金粒子が、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素あるいはこれらの元素を含有する合金からなるバインダー金属で焼結された超硬母材の表面を、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第13族元素及び第14族元素(但し、炭素は除く。)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物又はホウ化物を含有する硬質被膜で被覆してなる超硬材における硬質被膜を除去する方法であって、前記超硬材を100〜250℃の温度でアルカリ薬液に接触させる超硬材における硬質被膜の除去方法(以下「本発明の方法」と称す。)に関する。
なお、本発明において、第4族元素、第5族元素、第6族元素は、それぞれ長周期型周期表の第4族、第5族、第6族に属する元素を意味する。
【0018】
本発明の方法の特徴は、前記超硬材と、アルカリ薬液(以下、「本発明の薬液」と称する場合がある。)を、100〜250℃、好ましくは170〜220℃の温度で接触させることにある。本発明の薬液を用い、上記温度範囲で処理することにより、超硬母材の表層劣化を最小限に抑制すると同時に硬質被膜の選択除去が可能となる。なお、接触させる温度が、低すぎると硬質被膜の除去が不十分となり、また、接触させる温度が高すぎると、加温設備、処理容器などに特別の設備を要することが多く、処理コストがかさむという問題が生じる。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の方法の対象となる超硬材について説明する。
超硬材は、バインダー金属を用いて超硬合金粒子を焼結結合してなる超硬母材の表面に硬質被膜を形成させた超硬工具類又は金型類のことである。
【0020】
超硬材の母材となる超硬合金粒子としては、Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wなどの第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物が挙げられ、これらの炭化物は1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
この中でも、特に、W、Ti、Nb、Ta、V、Crからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物であることが好ましく、特に高強度である点から、WCが特に好適である。また、超硬合金粒子としてWCを使用するには、性能向上のため、他の元素が添加されてもよい。添加元素としては、例えば、耐熱性向上のためのTi、Ta、Nb等が挙げられる。なお、上記超硬合金粒子において、化学式は構成元素を示すものであり、化学式の化学量論比は特に限定されない。
また、超硬合金粒子の粒径は、特に限定はないが、通常、0.1〜20μm程度である。
【0021】
バインダー金属は、超硬合金粒子を結合する、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素あるいはこれらの元素を含有する合金である。これらの中でも、特にCoを含有することが好ましい。
また、超硬材の粘り強さを高める観点からは、バインダー金属として、CoのみあるいはCoを主成分とした合金が靭性に優れるため好適に使用される。なお、本発明において、「Coを主成分とした合金」とは、Coを80mol%以上含有する合金を意味する。
また、超硬材の硬度、靭性などの性質を変化させるために、上記金属元素以外の元素をバインダー金属中に含んでもよい。
【0022】
硬質被膜は、超硬母材表面にCVD法やPVD法を用いて形成される。硬質被膜の材料は、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第13族元素及び第14族元素から成る群より選ばれた少なくとも1種の元素(但し、炭素は除く)の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物又はホウ化物を主体とする。
具体的には、TiN、CrN、VN、TiAlN、AlCrN、TiAlCrN、TiSiN等の窒化物、TiC、CrC、VC、BC等の炭化物、TiCN等の炭窒化物、TiO、AlO,ZrO等の酸化物、CrB等のホウ化物などが挙げられる。硬質被膜は、これらの化合物を含有する薄膜を単層あるいは複層重ねて被覆して形成されている。
これらの中でも硬質被膜が、Ti、V、Cr、Si及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物又は炭窒化物から成る群より選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましく、特に、TiN、TiAlN、TiSiN、TiAlCrN、CrN、TiCrN、VN、TiC及びTiCNからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物が好ましい。硬質被膜が、これらの化合物を含有すると、本発明の薬液によって容易に除去することができる。
なお、本発明では、上記窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物及びホウ化物において、化学式は構成元素を示すものであり、化学式の化学量論比は特に限定されない。
【0023】
次いで、本発明の薬液(アルカリ薬液)について説明する。
本発明の薬液は、pH7以上のアルカリ性水溶液である。本発明の薬液において、pHの調整は、アンモニアの溶解、水酸化物の添加などいかなる方法でおこなってもよいが、水酸化アルカリ、すなわち、Li、Na、K、Rb等のアルカリ金属水酸化物又はBe、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属水酸化物を単独あるいは複数種類含有することによって行われることが好ましい。なお、この中でも水への溶解度や比較的安価であることから水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いることが好ましい。
これらの水酸化物を、好ましくは1〜20mol/L(OH-換算)、特に好ましくは5〜15mol/Lの濃度範囲で含有する水溶液で用いると効率的に硬質被膜を除去することができる。
なお、溶媒として、水以外にも本発明の効果を損なわない範囲で、アルコール類などの水溶性の有機溶媒を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の薬液は、超硬母材表層の部分的腐食をより抑制する目的で、腐食抑制剤を含有することが好ましい。
【0025】
腐食抑制剤を含有する本発明の薬液を超硬材に接触させた場合、超硬母材表面に吸着した腐食抑制剤や、超硬母材のバインダー金属と腐食抑制剤との間の反応で生成した表面化合物によって、超硬母材のWC等の超硬合金粒子及びCo等のバインダー金属のアルカリ薬液による酸化などの腐食を抑制、ないしは、腐食速度を低下させ、超硬母材の腐食劣化を抑制することができる。
【0026】
このような腐食抑制剤としては、
腐食抑制剤(a):超硬母材金属の溶解によって生成する化学種をアルカリ薬液に予め含有させておくことで腐食を抑制する腐食抑制剤、
腐食抑制剤(b):アルカリ薬液中の溶存酸素等の酸化剤を還元することが可能であり、超硬母材の酸化を防ぐことにより腐食を抑制する腐食抑制剤、
腐食抑制剤(c):母材金属の表面に保護被膜を形成し腐食を抑制する腐食抑制剤、
が挙げられる。
なお、これらの腐食抑制剤は、複数種を同時にアルカリ薬液に含有させて用いてもよく、本発明の薬液に適当な腐食抑制剤を複数種含有させることにより、超硬母材の腐食の抑制効果をより向上させることができる場合がある。
以下、腐食抑制剤(a)、(b)及び(c)について詳細に説明する。
【0027】
「腐食抑制剤(a)」
腐食抑制剤(a)は、薬液中に添加することで超硬母材を構成する母材金属(超硬合金粒子やバインダー金属における金属元素)の溶解によって生成する化学種を予め薬液中に含有させることにより、腐食溶出の抑制を図るものである。
腐食抑制剤(a)は、前記超硬母材を構成する第4族元素、第5族元素、第6族元素、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素をからなる単体あるいは該元素を含む化合物からなり、使用される超硬母材における母材金属及び/又はバインダー金属によって適宜選択される。なお、腐食抑制剤(a)は複数種を同時に本発明の薬液に含有させてもよい。
アルカリ薬液による超硬材の腐食は、バインダー金属の腐食に主に起因するため、本発明の薬液は、腐食抑制剤(a)として、バインダー金属を構成するFe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む金属単体あるいは該元素を含む化合物を含有させることが好ましい。
特にバインダー金属として好適なCoを含有する合金を使用した超硬母材の場合には、本発明の薬液は、腐食抑制剤(a)として、コバルト化合物を含有することが好ましい。 このようなコバルト化合物としては、タングステン酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト等が挙げられ、この中でもタングステン酸コバルト、水酸化コバルトが好ましく、タングステン酸コバルトが特に好ましい。
例えば、超硬合金粒子としてWC,バインダー金属として、Coを含有する合金を使用した超硬母材の場合には、腐食抑制剤(a)として、コバルト金属、タングステン金属、酸化コバルト、酸化タングステン、水酸化コバルト、タングステン酸コバルト、タングステン酸ナトリウム、コバルト酸ナトリウム、リン酸コバルトなどが挙げられる。この中でもタングステン酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト、コバルト金属が好ましく、タングステン酸コバルトが特に好ましい。
【0028】
「腐食抑制剤(b)」
腐食抑制剤(b)は還元剤であり、アルカリ液系薬液中の溶存酸素等の酸化剤を還元して超硬母材の酸化を防ぐことにより、超硬材の腐食を抑制できる。
【0029】
腐食抑制剤(b)の好適な一例として、例えば、一般式(1)で示される化合物が挙げられ、好適な具体例としては、ジヒドロキシマレイン酸が挙げられる。
なお、一般式(1)で示される化合物は、還元性の水素を供出することによりアルカリ薬液中の酸化剤を還元し、超硬母材の腐食を抑制すると考えられている。
【0030】
【化5】

(式中、R1はカルボキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基のいずれか、R2は炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基、水酸基のいずれかであり、R1とR2が環構造を形成していてもよい。X1、X2はそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属のいずれかである。)
【0031】
また、上記一般式(1)で示される化合物のR1とR2が環構造を形成した場合の一例である一般式(2)で示される化合物も、腐食抑制剤(b)の好適な一例である。
【0032】
【化6】

(式中、R3は水素原子若しくは炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基であり、nは0又は1、X3、X4はそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属のいずれかである。)
【0033】
一般式(2)で示される化合物としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウムが挙げられ、本発明の薬液にこれらの化合物を少なくとも1種含有させることが好ましい。
【0034】
また、腐食抑制剤(b)の他の好適な一例として、一般式(3−a)、(3−b)で示される化合物が挙げられる。
【0035】
【化7】


【化8】

(式(3−a)、(3−b)中、R4はカルボキシル基、アルデヒド基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、又はアシル基、R5は水素原子又は水酸基である。)
【0036】
一般式(3−a)、(3−b)で示される化合物の中でも、オルト又はパラの位置関係にある水酸基(OH)の組を少なくとも一組持つ化合物は、還元性の水素を供出した後のベンゼン環が安定な共役構造の六員環を形成し、高い還元力を有するため好適である。
上記化合物の例として、没食子酸、m−ガロイル没食子酸、カテコール、ヒドロキノンが挙げられ、本発明の薬液にこれらの化合物を少なくとも1種含有させることが好ましい。また、これらの中でも没食子酸が特に好適である。
【0037】
また、腐食抑制剤(b)の他の好適な一例として、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、オリゴ糖又は多糖類が挙げられる。
なお、還元性を示す糖類は、環式構造が解けて鎖式構造になる際に還元性の官能基であるアルデヒド基が現れることにより還元性を示す。また、一部の糖は鎖式構造になった際に現れるケトン基が構造変化してアルデヒド基となることにより還元性を示す。
また、その構造上、還元性を持たない二糖類、三糖類、四糖類、オリゴ糖又は多糖類も、薬液中で加水分解が進行することで還元性を持つ糖類が生成し、還元性を示す。これらの例としてスクロースが挙げられる。
具体的には、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、エリトロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、デオキシリボース、プシコース、グルコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、マンノース、イドース、タロース、フコース、ラムノース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ツラノース、セロビオース、ラフィノース、マルトトリオース、アカルボース、スタキオース、ガラクトース、リボース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、グリコーゲン、デンプン、セルロース、デキストリン、グルカン、レバン及びイヌリン等が挙げられ、本発明の薬液にこれらの糖類を少なくとも1種含有させることが好ましい。
この中でも、本発明の薬液にマルトース、ラクトース、スクロース、グルコース及びフルクトースを少なくとも1種含有させることが好ましい。
【0038】
また、腐食抑制剤(b)の他の好適な一例として、含リン系還元剤又は含イオウ系還元剤が挙げられる。
含リン系還元剤又は含イオウ系還元剤は、アルカリ液系薬液中の溶存酸素等の酸化剤を還元することが可能であり、超硬母材の酸化を防ぐことにより、腐食抑制できる。含リン系還元剤又は含イオウ系還元剤として、例えば、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられ、この中でもチオ硫酸ナトリウムが好適である。
【0039】
「腐食抑制剤(c)」
腐食抑制剤(c)は、母材金属と結合し表面に保護被膜を形成し腐食を抑制するタイプの腐食抑制剤であり、アゾール化合物又はその塩、チオ尿素化合物及びアセチレン系化合物が挙げられる。
【0040】
腐食抑制剤(c)の一例であるアゾール化合物又はその塩は、アゾール構造に含まれる窒素の孤立電子対が金属に配位することにより超硬母材の表面に安定な被膜を形成し、酸化剤等の侵入を防止して腐食を抑制しているものと考えられる。アゾール化合物又はその塩として具体的には、1H−テトラゾール、5−アミノ−1H−テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、1−メチル−5−エチル−テトラゾール、1−メチル−5−メルカプト−テトラゾール、5−(2−アミノフェニル)−1H−テトラゾール、1−シクロヘキシル−5−メルカプト−テトラゾール、1−フェニル−5−メルカプト−テトラゾール、1−カルボキシメチル−5−メルカプト−テトラゾール及びこれらのアルカリ塩、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、ジメチルベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾールなどが挙げられ、この中でもベンゾトリアゾールが好適である。
【0041】
腐食抑制剤(c)の一例であるチオ尿素化合物は、一般式(4)で示される構造を分子中に持つ化合物の総称であり、窒素や硫黄を含む極性基が超硬母材を構成する金属元素にキレート吸着し、酸化剤等の侵入を防ぎ腐食抑制できるものと考えられる。チオ尿素化合物として具体的には、チオ尿素、メチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素、エチレンチオ尿素などが挙げられ、この中でもチオ尿素が好適である。
【化9】

【0042】
腐食抑制剤(c)の一例であるアセチレン系化合物は、分子中にC≡C三重結合を含む有機化合物の総称であり、三重結合のπ電子を母材金属元素の空軌道に供出することで母材金属との間に結合を形成し、酸化剤の侵入を防止でき、腐食抑制効果を発揮すると考えられる。例えば、2−プロピン−1−オール、1−ヘキシン−3−オール、3−ブチン−1−オールなどが挙げられ、2−プロピン−1−オールは好適である。
【0043】
これらの腐食抑制剤の添加量は、本発明の薬液による硬質被膜を除去する作用を損なわない範囲で適宜決定される。また、上述のように腐食抑制剤は、複数種を同時にアルカリ薬液に含有させて用いてもよい。
具体的には、腐食抑制剤(a),(b)及び(c)のそれぞれを一種類だけ添加する場合におけるアルカリ薬液中の濃度は、腐食抑制剤(a)の場合で、通常、0.001〜10mol/L、好適には0.01〜1mol/Lの範囲であり、腐食抑制剤(b)の場合で、通常、0.001〜10mol/L、好適には0.01〜1mol/Lの範囲であり、腐食抑制剤(c)の場合で、通常、0.001〜10mol/L、好適には0.05〜2mol/Lの範囲である。
但し、この範囲に限定されたものではなく、腐食抑制剤量が多過ぎると硬質被膜の除膜が困難となる場合があり、一方、少な過ぎると超硬母材の腐食抑制効果が小さくなる可能性があり、アルカリ薬液の種類や濃度又は処理温度を、硬質被膜の除去速度と超硬母材の腐食抑制効果を考慮して最適な条件に設定する必要がある。
具体例を挙げると、超硬合金粒子がWC、バインダー金属が、Coを主成分とする合金、硬質被膜が、TiAlN、TiSiN及びTiAlCrNからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する単層、あるいは複層の膜(厚み:1〜5μm程度)で構成されている場合において、温度170〜220℃にて、10mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対して、腐食抑制剤として、タングステン酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルトを各々単独で使用した場合の好適な濃度範囲は0.01〜1mol/L、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、マルトースを各々単独で使用した場合の好適な濃度範囲は0.01〜1mol/L、ベンゾトリアゾール、2−プロピン−1−オールを各々単独で使用した場合の各々の好適な濃度範囲は、0.05〜2mol/Lである。
【0044】
また、これらの腐食抑制剤を複数種類混合して使用する場合、相乗効果によって単独の腐食抑制剤のみを含有させた場合と比較して、各腐食抑制剤の好適な濃度範囲は減少する傾向にあるため、組み合わせる腐食剤の種類により最適な条件に設定する必要がある。
他の腐食抑制剤と組み合わせる場合の好適な濃度は、腐食抑制剤(a)の場合で、0.0001〜0.1mol/L、腐食抑制剤(b)の場合で、0.0001〜0.5mol/L、腐食抑制剤(c)の場合で、0.0005〜1mol/Lである。
具体例を挙げると、超硬合金粒子がWC、バインダー金属が、Coを主成分とする合金、硬質被膜が、TiAlN、TiSiN及びTiAlCrNからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する単層、あるいは複層の膜(厚み:1〜5μm程度)で構成されている場合において、温度170〜220℃にて、10mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対して、腐食抑制剤として、水酸化コバルトとアスコルビン酸を混合して使用する場合、各々の好適な濃度範囲は水酸化コバルトが0.0001〜0.1mol/L、アスコルビン酸が0.0001〜0.5mol/Lであり、各々を単独で使用した場合に比べて好適な濃度範囲が減少する。
【0045】
なお、本発明の薬液は、腐食抑制剤以外にも本発明の目的を損なわない範囲で他の添加成分を含んでいてもよい。例えば、pH緩衝剤、安定化剤、界面活性剤、ラジカル捕捉剤などを適宜添加することができる。
【0046】
次に本発明の好適な実施方法について説明する。尚、本発明は以下に述べる実施方法に限定されるものではない。
【0047】
1)アルカリ薬液の調製
上述のように本発明の薬液におけるpH調節には、水酸化アルカリが好適に使用される。所定濃度の水酸化アルカリ水溶液の調製は、以下の手順で行うことができる。
まず、耐食性のある容器に所定量の水を入れ、これに選定した所定量の水酸化アルカリ化合物を攪拌しながら室温で徐々に添加して溶解又は分散させる。なお、水酸化アルカリ化合物の添加時に発熱を伴い、容器破損又は突沸等が考えられる場合は、冷却しながら添加することが好ましい。また、この様に得られた水酸化アルカリ水溶液に上述の腐食抑制剤を添加する場合は、選定された腐食抑制剤が所定濃度となる量を計量し、計量された腐食抑制剤を前記水酸化アルカリ水溶液に撹拌しながら、徐々に添加して溶解又は分散させて腐食抑制剤含有水酸化アルカリ水溶液を調製すればよい。尚、腐食抑制剤の添加は、水酸化アルカリ化合物の添加と、同時に又は引き続いて行ってもよい。
【0048】
2)超硬材とアルカリ薬液との接触
超硬材とアルカリ薬液との接触は、超硬材をアルカリ薬液に浸漬する方法、超硬材上にアルカリ薬液を滴下する方法などが挙げられるが、通常、超硬材をアルカリ薬液に浸漬する方法で行われる。具体的には、まず、前記アルカリ薬液に対して耐食性を有する耐圧容器に、除膜対象となる超硬材が完全に浸漬できる所定量のアルカリ薬液を入れ、続いて室温で、超硬材をアルカリ薬液に浸漬して耐圧容器の蓋を閉め密閉する。尚、この時に酸化性ガス排除の目的で、耐圧容器気相部の空気を窒素又はアルゴンガス等の不活性ガス、硫化水素等の還元性ガス又はアルカリ薬液から発生する蒸気で置換することが好ましい。
【0049】
3)除膜処理
通風型オーブン、オイルバス又は蒸気ジャケット付き加熱機等の加熱装置に、前述の超硬材が浸漬された耐圧容器をセットし、加熱装置を所定の温度まで昇温して所定時間保持することで除膜処理を行なう。尚、加熱装置は、本発明の所定温度で加熱ができるものであれば前記したものに限定されるものではない。なお、処理時間(浸漬時間)は、硬質被膜の膜種(構成元素)、膜厚、処理温度などを考慮して適宜決定されるが、通常、1時間〜100時間(好適には5〜72時間)である。時間が短すぎると、十分に除膜できない場合があり、100時間で除膜が十分に行われるので、これ以上の時間をかける必要はないことが多い。
【0050】
4)取り出し、水洗
加熱装置内にセットされた耐圧容器が60℃以下になるまで冷却したのち、耐圧容器から除膜処理された超硬材を取出し、該超硬材を水洗することによりアルカリ薬液を除去する。
【0051】
5)乾燥
水洗によりアルカリ薬液が除去された超硬材表面の付着水を除去する目的で、通常の乾燥機で水分を乾燥除去して、硬質被膜が除去された超硬材が得られる。尚、この時の乾燥は水分が乾燥除去できるのであれば乾燥機及び乾燥条件は、特に限定されない。
【0052】
6)硬質被膜の再コーティング
硬質被膜が除去された超硬材表面にアルゴンガスを用いたイオンボンバードクリーニングを実施し、表層に形成される酸化被膜層などの不純物層を除去する。この後にCVD法やPVD法によって、硬質被膜を形成する。又、硬質被膜形成に先立って、油脂分除去のための溶剤洗浄や、超硬母材表面に発生した脆弱層を除去するためのブラストや研磨等の物理的処理を実施しても構わない。
以上のように、本発明の方法により超硬母材表面を硬質被膜で被覆してなる超硬材において、製造時不良品及び使用劣化による寿命到達品の硬質被膜を選択的に除去し、かつ再度硬質被膜をコーティングすることによりリサイクルすることが可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
使用した試薬、除膜装置、分析装置は次の通りである。
「試薬」
・水酸化ナトリウム(和光純薬(株)製)
・ベンゾトリアゾール(関東化学(株)製)
・タングステン酸コバルト (三津和化学薬品(株)製)
・水酸化カリウム (和光純薬(株)製)
・アンモニア水 (高杉製薬(株)製)
・過酸化水素水 (三菱瓦斯化学(株)製)
・硝酸 (高杉製薬(株)製)
・2−プロピン−1−オール (和光純薬(株)製)
・没食子酸(和光純薬(株)製)
・亜リン酸水素二ナトリウム(和光純薬(株)製)
・チオ硫酸ナトリウム(和光純薬(株)製)
・マルトース(和光純薬(株)製)
・スクロース(和光純薬(株)製)
・グルコース(和光純薬(株)製)
【0055】
「除膜処理装置」
1)耐圧容器:オーエムラボテック社製(形式:MR98)の仕様
最高使用温度:250℃、最高使用圧力:5MPa
容量:98mL
材質:外筒SUS316/内筒PTFE
2)オーブン:ADVANTEC社製 FS−620の仕様
内寸法:W610×D525×H500mm(内容積:160L)
内装材質:SUS304
使用温度範囲:25〜250℃
【0056】
「分析装置」
1)−1走査型電子顕微鏡(SEM) (日本電子株式会社製、型番:JSM5600)
加速電圧:5kV
作動距離:10mm
スポットサイズ:20
図1、図2、図3、図4、図5、図6、図7、図8、図16は本機で撮影。
1)−2走査型電子顕微鏡(SEM) (日本電子株式会社製、型番:JSM6510)
加速電圧:5kV
作動距離:10mm
スポットサイズ:20
図9、図10、図11、図12、図13、図14、図15、図17、図18、図19、図20、図21、図22、図23、図24、図35、図36は本機で撮影。
2)エネルギー分散型X線分析装置(EDX) (EDAX INC.社、型番:Genesis XM2)
SEM側条件(日本電子株式会社製、型番:JSM6510)
加速電圧:20kV
作動距離:10mm
スポットサイズ:50
EDX側条件(断面マッピング時)
マッピング画素数:512×400
積算回数:64回
3)硬質被膜密着強度測定装置(CSM Instruments S.A.社製、型番:RVT 9-181)
(測定原理)
先端120°±30’先端±0.2R±0.02の圧子を使用して、100N/minの速度で荷重を負荷しながら10mm/minの速度でテーブル移動させて膜表面をスクラッチする。
【0057】
「硬質被膜形成装置」
アークイオンプレーティング装置 (神戸製鋼所製、型番:AIP70TK)
(コーティング条件)
組成Ti:Al=50:50のターゲットを使用して中間層無しの単層膜を生成した。処理中テーブルを自公転させ、条件、ワーク温度420℃、コート時間60分で処理を実施した。
【0058】
実施例及び比較例に使用した工具を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例1
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。
この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、超硬合金粒子がWCであり、かつ、バインダー金属がCoを主体とする合金からなる超硬母材(以下、「WC/Co系超硬母材」と称す場合がある。)の表面に、硬質被膜を構成する化合物として、TiAlNとTiAlCrNとを二層に被覆したエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)を、前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミルを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミルを得た。処理後のエンドミル(母材)の表面SEM像(1000倍)を図1に示す。また、除膜条件及び評価結果を表2に示す。なお、処理後のエンドミル(母材)の表面SEM像において、処理前のエンドミル(母材)の表面SEM像(図示せず)との目立った外観変化はなかった。
【0061】
実施例2
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gとベンゾトリアゾール:1.2gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液を撹拌しながら60mL分取し、前述の耐圧容器に仕込み、続いてWC/Co系超硬母材の表面に、硬質被膜として、TiSiNとTiAlCrNとを交互に多層被覆したドリル(φ6mm、長さ82mm、刃部長さ42mm)を前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からドリルを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理ドリルを得た。処理後のドリル(母材)の表面SEM像(1000倍)を図2に示す。また、除膜条件及び評価結果を表2に示す。なお、処理後のドリル(母材)の表面SEM像において、処理前のドリル(母材)の表面SEM像(図示せず)との目立った外観変化はなかった。
【0062】
実施例3
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gとタングステン酸コバルト:3.4gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(タングステン酸コバルトは未溶解分が残るためスラリー液となる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液を60mL分取し、前述の耐圧容器に仕込み、続いてWC/Co系超硬母材の表面に、硬質被膜として、TiSiNとTiAlCrNとを交互に多層被覆したドリル(φ6mm、長さ82mm、刃部長さ42mm)を前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からドリルを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理ドリルを得た。処理後のドリル(母材)の表面SEM像(1000倍)を図3に示す。また、除膜条件及び評価結果を表2に示す。なお、処理後のドリル(母材)の表面SEM像において、処理前のドリル(母材)の表面SEM像(図示せず)との目立った外観変化はなかった。
【0063】
実施例4
100mLメスフラスコに水酸化カリウム:56gとベンゾトリアゾール:1.2gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液を撹拌しながら60mL分取し、前述の耐圧容器に仕込み、続いてWC/Co系超硬母材の表面に、硬質被膜として、TiAlNを被覆したチップ(厚さ4.8mm、一辺長さ16.5mmの三角形)を前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理チップを得た。処理後のチップの表面SEM像(1000倍)を図4に示す。また、除膜条件及び評価結果を表2に示す。なお、処理後のチップの表面SEM像において、処理前のチップの表面SEM像(図示せず)との目立った外観変化はなかった。
【0064】
実施例5
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gとベンゾトリアゾール:1.2gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液を撹拌しながら60mL分取し、前述の耐圧容器に仕込み、続いてWC/Co系超硬母材の表面に、硬質被膜として、TiSiNとTiAlCrNとを交互に多層被覆したドリル(φ6mm、長さ82mm、刃部長さ42mm)を前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からドリルを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理ドリルを得た。処理後のドリル(母材)の表面SEM像(1000倍)を図5に示す。また、除膜条件及び評価結果を表2に示す。なお、処理後のドリル(母材)の表面SEM像において、処理前のドリル(母材)の表面SEM像(図示せず)との目立った外観変化はなかった。
【0065】
実施例6
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて超硬母材がWC/Co系超硬母材である、スローアウェイチップ(一辺12mm、厚さ3mmの四角形、コバルト含有量2.5重量%)の表面に、PVD装置を用いてTiAlNを主体とする硬質被膜(膜厚4μm)を形成した超硬工具を前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図9に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表2に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)との目立った外観変化はなかった。除膜処理後、アルゴンガスを用いたイオンボンバードクリーニングを75分間実施し、スローアウェイチップの表面をクリーニングした。クリーニング後、前述のPVD装置で、Ti:Al=50:50のターゲットと、プロセスガスとして窒素を使用し、チャンバー内圧力4Pa、ワーク温度420℃、成膜速度2〜4μm/hr、バイアス電圧30Vの条件で除膜スローアウェイチップの表面に硬質被膜を形成した。硬質被膜を形成し再生したスローアウェイチップと除膜処理を行っていない新品のスローアウェイチップの被膜密着強度と比較したところ、新品:60.5ニュートンに比べ、36.0ニュートンであった。除膜条件及び被膜密着強度評価結果を表4に示す。
【0066】
実施例7
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gとタングステン酸コバルト:3.4gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(タングステン酸コバルトは未溶解分が残るためスラリー液となる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図10に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表3に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)との目立った外観変化はなく、SEM−EDX法による表面コバルト濃度を測定したところ、2.4重量%であった。また、この処理後スローアウェイチップの断面分析結果を図25に示す。SEM−EDX法による表面深さ方向のコバルトマッピング分析の結果、コバルト脱離は認められなかった。除膜処理後、アルゴンガスを用いたイオンボンバードクリーニングを75分間実施し、スローアウェイチップの表面をクリーニングした。クリーニング後、前述のPVD装置で、Ti:Al=50:50のターゲットとプロセスガスとして窒素を使用し、チャンバー内圧力4Pa、ワーク温度420℃、成膜速度2〜4μm/hr、バイアス電圧30Vの条件で除膜スローアウェイチップの表面に硬質被膜を形成した。硬質被膜を形成し再生したスローアウェイチップと除膜処理を行っていない新品のスローアウェイチップの被膜密着強度と比較したところ、新品:60.5ニュートンに比べ、65.1ニュートンと同程度であった。除膜条件及び被膜密着強度評価結果を表4に示す。
【0067】
実施例8
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム40gとベンゾトリアゾール:1.2gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図11に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表2に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)との目立った外観変化はなかった。
【0068】
実施例9
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gとアスコルビン酸:3.5gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で12時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図12に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表3に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)との目立った外観変化はなく、SEM−EDX法による表面コバルト濃度を測定したところ、2.1重量%であった。また、この処理後スローアウェイチップの断面分析結果を図26に示す。SEM−EDX法による表面深さ方向のコバルトマッピング分析の結果、コバルト脱離は認められなかった。除膜処理後、アルゴンガスを用いたイオンボンバードクリーニングを75分間実施し、スローアウェイチップの表面をクリーニングした。クリーニング後、前述のPVD装置で、Ti:Al=50:50のターゲットと、プロセスガスとして窒素を使用し、チャンバー内圧力4Pa、ワーク温度420℃、成膜速度2〜4μm/hr、バイアス電圧30Vの条件で除膜スローアウェイチップの表面に硬質被膜を形成した。硬質被膜を形成し再生したスローアウェイチップと除膜処理を行っていない新品のスローアウェイチップの被膜密着強度と比較したところ、新品:60.5ニュートンに比べ、72.5ニュートンと同等以上であった。除膜条件及び被膜密着強度評価結果を表4に示す。
【0069】
実施例10
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gと水酸化コバルト:3.5gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(水酸化コバルトは未溶解分が残るためスラリー液となる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図13に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表3に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)との目立った外観変化はなく、SEM−EDX法による表面コバルト濃度を測定したところ、2.5重量%であった。また、この処理後スローアウェイチップの断面分析結果を図27に示す。SEM−EDX法による表面深さ方向のコバルトマッピング分析の結果、コバルト脱離は認められなかった。
【0070】
実施例11
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gと2−プロピン−1−オール:3.5gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液を撹拌しながら60mL分取し、前述の耐圧容器に仕込み、続いてWC/Co系超硬母材の表面に、硬質被膜として、TiSiNとTiAlCrNとを交互に多層被覆したドリル(φ6mm、長さ82mm、刃部長さ42mm、コバルト含有量6.5重量%)を前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からドリルを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理ドリルを得た。処理後のドリル(母材)の表面SEM像(1000倍)を図16に示す。また、除膜条件及び評価結果を表3に示す。なお、処理後のドリル(母材)の表面SEM像において、処理前のドリル(母材)の表面SEM像(図示せず)との目立った外観変化はなく、SEM−EDX法による表面コバルト濃度を測定したところ、6.2重量%であった。また、この処理後ドリルの断面分析結果を図28に示す。SEM−EDX法による表面深さ方向のコバルトマッピング分析の結果、コバルト脱離は認められなかった。
【0071】
実施例12
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム40gと没食子酸:3.5gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図17に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表2に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)との目立った外観変化はなかった。
【0072】
実施例13
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム40gと亜リン酸水素二ナトリウム:3.5gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図18に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表2に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)との目立った外観変化はなかった。
【0073】
実施例14
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム40gとチオ硫酸ナトリウム:3.5gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図19に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表2に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)との目立った外観変化はなかった。
【0074】
実施例15
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム40gと水酸化コバルト:3.5gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(水酸化コバルトは未溶解分が残るためスラリー液となる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて片面を鏡面研磨した、超硬母材がWC/Co系超硬母材である、スローアウェイチップ(一辺12mm、厚さ3mmの四角形、コバルト含有量2.5重量%)の表面に、PVD装置を用いてTiAlNを主体とする硬質被膜(膜厚4μm)を形成した超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。鏡面研磨を行うことで、後述の、除膜−再コーティング後の被膜密着強度評価の際の測定値のバラツキが小さくなることが期待できる。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの研磨面の表面SEM像(1000倍)を図20に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表3に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材・研磨面)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材・研磨面)の表面SEM像(図36)との目立った外観変化はなく、SEM−EDX法により表面コバルト濃度を測定したところ、2.2重量%であった。また、この処理後スローアウェイチップの断面分析結果を図29に示す。SEM−EDX法による表面深さ方向のコバルトマッピング分析の結果、コバルト脱離は認められなかった。除膜処理後、アルゴンガスを用いたイオンボンバードクリーニングを75分間実施し、スローアウェイチップの表面をクリーニングした。クリーニング後、前述のPVD装置で、Ti:Al=50:50のターゲットとプロセスガスとして窒素を使用し、チャンバー内圧力4Pa、ワーク温度420℃、成膜速度2〜4μm/hr、バイアス電圧30Vの条件で除膜スローアウェイチップの表面に硬質被膜を形成した。硬質被膜を形成し再生したスローアウェイチップと除膜処理を行っていない新品のスローアウェイチップの鏡面研磨した面の被膜密着強度と比較したところ、新品:83.8ニュートンに比べ、78.0ニュートンであった。被膜密着強度測定値のバラツキが平均値からプラスマイナス15N程度の幅を持つことを勘案すれば、再生品の被膜密着強度は新品に比べて遜色ないといえる。除膜条件及び被膜密着強度評価結果を表5に示す。
【0075】
実施例16
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40g、アスコルビン酸:0.18gとタングステン酸コバルト:0.17gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(タングステン酸コバルトは未溶解分が残るため少量の沈殿が生じる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて片面を鏡面研磨した、超硬母材がWC/Co系超硬母材である、スローアウェイチップ(一辺12mm、厚さ3mmの四角形、コバルト含有量2.5重量%)の表面に、PVD装置を用いてTiAlNを主体とする硬質被膜(膜厚4μm)を形成した超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。鏡面研磨を行うことで、後述の、除膜−再コーティング後の被膜密着強度評価の際の測定値のバラツキが小さくなることが期待できる。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの研磨面の表面SEM像(1000倍)を図21に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表3に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材・研磨面)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材・研磨面)の表面SEM像(図36)との目立った外観変化はなく、SEM−EDX法により表面コバルト濃度を測定したところ、2.5重量%であった。また、この処理後スローアウェイチップの断面分析結果を図30に示す。SEM−EDX法による表面深さ方向のコバルトマッピング分析の結果、コバルト脱離は認められなかった。除膜処理後、アルゴンガスを用いたイオンボンバードクリーニングを75分間実施し、スローアウェイチップの表面をクリーニングした。クリーニング後、前述のPVD装置で、Ti:Al=50:50のターゲットとプロセスガスとして窒素を使用し、チャンバー内圧力4Pa、ワーク温度420℃、成膜速度2〜4μm/hr、バイアス電圧30Vの条件で除膜スローアウェイチップの表面に硬質被膜を形成した。硬質被膜を形成し再生したスローアウェイチップと除膜処理を行っていない新品のスローアウェイチップの鏡面研磨した面の被膜密着強度と比較したところ、新品:83.8ニュートンに比べ、78.0ニュートンであった。被膜密着強度測定値のバラツキが平均値からプラスマイナス15N程度の幅を持つことを勘案すれば、再生品の被膜密着強度は新品に比べて遜色ないといえる。除膜条件及び被膜密着強度評価結果を表5に示す。
【0076】
実施例17
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム40gとマルトース:7.2gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。窒素ガスで内部を置換したグローブボックス内で、調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬した。このようにして耐圧容器の気相部分を窒素ガスで置換した形で容器を密閉した。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図22に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表2に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)との目立った外観変化はなかった。
【0077】
実施例18
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム40gとスクロース:0.34g、水酸化コバルト:0.05gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した(水酸化コバルトは未溶解分が残るため少量の沈殿が生じる)。窒素ガスで内部を置換したグローブボックス内で、調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬した。このようにして耐圧容器の気相部分を窒素ガスで置換した形で容器を密閉した。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図23に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表3に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)との目立った外観変化はなく、SEM−EDX法による表面コバルト濃度を測定したところ、2.4重量%であった。また、この処理後スローアウェイチップの断面分析結果を図31に示す。SEM−EDX法による表面深さ方向のコバルトマッピング分析の結果、コバルト脱離は認められなかった。
【0078】
実施例19
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム40gとグルコース:0.18g、水酸化コバルト:0.05gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した(水酸化コバルトは未溶解分が残るため少量の沈殿が生じる)。窒素ガスで内部を置換したグローブボックス内で、調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記アルカリ薬液に浸漬した。このようにして耐圧容器の気相部分を窒素ガスで置換した形で容器を密閉した。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図24に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表3に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像において、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)との目立った外観変化はなく、SEM−EDX法による表面コバルト濃度を測定したところ、2.5重量%であった。また、この処理後スローアウェイチップの断面分析結果を図32に示す。SEM−EDX法による表面深さ方向のコバルトマッピング分析の結果、コバルト脱離は認められなかった。
【0079】
比較例1
300mLポリビーカーに、純水:106g、35%過酸化水素水:86gを量り取り続いて、撹拌しながら室温下で25%アンモニア水:8gを徐々に加えて除膜薬液を調製した。続いてこの薬液にWC/Co系超硬母材の表面に、硬質被膜として、TiAlNとTiAlCrNとを二層に被覆したエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)を浸漬して、15℃〜25℃で9時間の除膜処理を行なった。なお、硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
所定時間経過後、ビーカーからエンドミルを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミルを得た。処理後のエンドミル(母材)の表面SEM像(1000倍)を図6に示す。また、除膜条件及び評価結果を表2に示す。なお、処理後のエンドミル(母材)の表面SEM像において、処理前のエンドミル(母材)の表面SEM像(図示せず)との目立った外観変化はなかった。しかしながら、目視観察によると明らかに表面の金属光沢が失われ灰色に変化していた。
【0080】
比較例2
200mLガラス製メスフラスコに、67.5%硝酸:74mLを入れ、純水にて定容して除膜薬液を調整した。この液を300mLガラスビーカーに全量仕込み、続いてこの薬液にWC/Co系超硬母材の表面に、硬質被膜として、TiAlNとTiAlCrNとを二層に被覆したエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)を浸漬して、ウォーターバス中で80℃まで昇温したのち48時間保持して除膜処理を行った。なお、硬質被膜の膜厚は4μm程度である。所定時間経過後、ビーカーからエンドミルを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミルを得た。処理後のエンドミルの表面SEM像(1000倍)を図7に示す。また、除膜条件及び評価結果を表2に示す。なお、処理後のエンドミル(母材)の表面SEM像は、処理前のエンドミル(母材)の表面SEM像(図示せず)と比較して、表面あれ(腐食)が激しかった。
【0081】
比較例3
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gとベンゾトリアゾール:1.2gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液を撹拌しながら60mL分取し、前述の耐圧容器に仕込み、続いてWC/Co系超硬母材の表面に、硬質被膜として、TiSiNとTiAlCrNとを交互に多層被覆したドリル(φ6mm、長さ82mm、刃部長さ42mm)を前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、95℃まで昇温し、この温度で48時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からドリルを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理ドリルを得た。処理後のドリル(母材)の表面SEM像(1000倍)を図8に示す。また、除膜条件及び評価結果を表2に示す。なお、処理後のドリル(母材)の表面SEM像は、処理前のドリル(母材)の表面SEM像(図示せず)と比較して、表面あれ(腐食)が激しかった。
【0082】
比較例4
300mLポリビーカーに、純水:106g、35%過酸化水素水:86gを量り取り続いて、撹拌しながら室温下で25%アンモニア水:8gを徐々に加えて除膜薬液を調製した。続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記除膜薬液に浸漬して耐圧容器を密閉し、15℃〜25℃で39時間の除膜処理を行なった。
所定時間経過後、ビーカーからスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図14に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表3に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像は、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)と比較して、表面あれ(腐食)が激しかった。SEM−EDX法による表面コバルト濃度を測定したところ、3.2重量%と除膜前母材より高いことから超硬材のタングステンカーバイトが除膜操作により脱離したと思われる。また、この処理後スローアウェイチップの断面分析結果を図33に示す。SEM−EDX法による表面深さ方向のコバルトマッピング分析の結果、コバルト脱離は認められなかった。除膜処理後、アルゴンガスを用いたイオンボンバードクリーニングを75分間実施し、スローアウェイチップの表面をクリーニングした。クリーニング後、前述のPVD装置で、Ti:Al=50:50のターゲットとプロセスガスとして窒素を使用し、チャンバー内圧力4Pa、ワーク温度420℃、成膜速度2〜4μm/hr、バイアス電圧30Vの条件で除膜スローアウェイチップの表面に硬質被膜を形成した。硬質被膜を形成し再生したスローアウェイチップと除膜処理を行っていない新品のスローアウェイチップの被膜密着強度を比較したところ、再生スローアウェイチップの被膜密着強度はゼロニュートンであり、新品に比べて著しく劣る結果であった。除膜条件及び被膜密着強度評価結果を表4に示す。
【0083】
比較例5
200mLガラス製メスフラスコに、67.5%硝酸:74mLを入れ、純水にて定容して除膜薬液を調製した。この液を300mLガラスビーカーに全量仕込み、続いてスローアウェイチップ上にTiAlNを主体とする硬質被膜を形成させた実施例6と同様の超硬工具を、前記除膜薬液に浸漬して耐圧容器を密閉し、ウォーターバス中で80℃まで昇温したのち30時間保持して除膜処理を行った。
所定時間経過後、ビーカーからスローアウェイチップを取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理スローアウェイチップを得た。処理後のスローアウェイチップの表面SEM像(1000倍)を図15に、除膜処理スローアウェイチップの諸物性を表3に示す。処理後のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像は、硬質被膜被覆前のスローアウェイチップ(母材)の表面SEM像(図35)と比較して、表面あれ(腐食)が激しかった。SEM−EDX法による表面コバルト濃度を測定したところ、ゼロ重量%と除膜操作により、その殆どが脱離していた。また、この処理後スローアウェイチップの断面分析結果を図34に示す。SEM−EDX法による表面深さ方向のコバルトマッピング分析の結果、コバルト脱離深さは表面から12.5μm程度の深さまで脱離していた。除膜処理後、アルゴンガスを用いたイオンボンバードクリーニングを75分間実施し、スローアウェイチップの表面をクリーニングした。クリーニング後、前述のPVD装置で、Ti:Al=50:50のターゲットとプロセスガスとして窒素を使用し、チャンバー内圧力4Pa、ワーク温度420℃、成膜速度2〜4μm/hr、バイアス電圧30Vの条件で除膜スローアウェイチップの表面に硬質被膜を形成した。硬質被膜を形成し再生したスローアウェイチップと除膜処理を行っていない新品のスローアウェイチップの被膜密着強度を比較したところ、再生スローアウェイチップの被膜密着強度は2.0ニュートンと新品に比べて著しく劣る結果であった。除膜条件及び被膜密着強度評価結果を表4に示す。
【0084】
以上の実施例1〜5及び比較例1〜3における硬質被膜の除去結果一覧を表2に、実施例6〜10及び比較例4,5における硬質被膜の除去結果一覧を表3に、実施例6,7,9及び比較例4,5において硬質被膜を除去した後、PVD装置で被膜を形成し、再生したスローアウェイチップの被膜密着強度測定の結果を表4に示す。なお、表2並びに表3中の記号の説明を以下に示す。
<表中記号の説明>
「除膜可否」
○:完全除膜、△:一部膜残、×:膜残多い
「目視外観」
○:処理前母材と同様(変色なし)、△:一部変色/表面荒れ、×:全面変色/荒れ多い
「SEM外観」
○:処理前母材と同様、△:処理前母材と同じ、×:全面荒れ激しい
「総合評価」
○:良好(処理前母材並)、△:ほぼ良好、×:全面腐食で不可
【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によると、超硬材において超硬母材の表面劣化を最小限に抑制しつつ、超硬母材表面の硬質被膜を選択的に除去できるため、超硬材の製造及び再生利用分野で非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する超硬合金粒子が、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素あるいはこれらの元素を含有する合金からなるバインダー金属で焼結された超硬母材の表面を、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第13族元素及び第14族元素(但し、炭素は除く。)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物又はホウ化物を含有する硬質被膜で被覆してなる超硬材における硬質被膜を除去する方法であって、
前記超硬材を100℃以上250℃以下の温度で、アルカリ薬液に接触させることを特徴とする超硬材における硬質被膜の除去方法。
【請求項2】
前記アルカリ薬液が、超硬母材の腐食抑制剤を含有する請求項1記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項3】
前記腐食抑制剤が、前記超硬母材を構成する第4族元素、第5族元素、第6族元素、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素からなる単体あるいは該元素を含む化合物である請求項2記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項4】
前記腐食抑制剤が、コバルト化合物である請求項3記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項5】
前記腐食抑制剤が、タングステン酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト又はコバルト金属である請求項4に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項6】
前記腐食抑制剤が、還元剤である請求項2に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項7】
前記還元剤が、下記一般式(1)で示される化合物である請求項6記載の硬質被膜の除去方法。
【化1】

(式中、R1はカルボキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基のいずれか、R2は炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基、水酸基のいずれかであり、R1とR2が環構造を形成していてもよい。X1、X2はそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属のいずれかである。)
【請求項8】
前記還元剤が、ジヒドロキシマレイン酸である請求項7記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項9】
前記還元剤が、下記一般式(2)で示される化合物である請求項7記載の硬質被膜の除去方法。
【化2】

(式中、R3は水素原子若しくは炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基であり、nは0又は1、X3、X4はそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属のいずれかである。)
【請求項10】
前記還元剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸及びエリソルビン酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種である請求項9記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項11】
前記還元剤が、下記一般式(3−a)、(3−b)で示される化合物及び/又はその塩である請求項6記載の硬質被膜の除去方法。
【化3】


【化4】

(式(3−a)、(3−b)中、R4はカルボキシル基、アルデヒド基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、又はアシル基、R5は水素原子又は水酸基である。)
【請求項12】
前記還元剤が、没食子酸、m−ガロイル没食子酸、カテコール及びヒドロキノンから選ばれた少なくとも1種である請求項11記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項13】
前記還元剤が、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、オリゴ糖又は多糖類である請求項6記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項14】
前記還元剤が、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、エリトロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、デオキシリボース、プシコース、グルコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、マンノース、イドース、タロース、フコース、ラムノース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ツラノース、セロビオース、ラフィノース、マルトトリオース、アカルボース、スタキオース、ガラクトース、リボース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、グリコーゲン、デンプン、セルロース、デキストリン、グルカン、レバン及びイヌリンから選ばれた少なくとも1種である請求項13記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項15】
前記還元剤が、含リン系還元剤又は含イオウ系還元剤である請求項6記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項16】
前記還元剤が、亜リン酸水素二ナトリウム又はチオ硫酸ナトリウムである請求項15記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項17】
前記腐食抑制剤が、アゾール化合物又はその塩、チオ尿素化合物及びアセチレン系化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項2記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項18】
前記アゾール化合物が、ベンゾトリアゾールである請求項17記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項19】
前記チオ尿素化合物が、チオ尿素である請求項17記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項20】
前記アセチレン系化合物が、2−プロピン−1−オール、1−ヘキシン−3−オール、3−ブチン−1−オールから選ばれた少なくとも1種である請求項17記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項21】
超硬合金粒子が、W、Ti、Nb、Ta、V、Crからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する請求項1乃至20のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項22】
バインダー金属が、Coを含有する請求項1乃至21のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項23】
硬質被膜が、Ti、V、Cr、Si及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物又は炭窒化物を含有する請求項1乃至22のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項24】
硬質被膜が、TiN、TiAlN、TiSiN、TiAlCrN、CrN、TiCrN、VN、TiC及びTiCNからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する請求項1乃至23のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項25】
硬質被膜が、単層あるいは複層の膜で構成されてなる請求項1乃至24のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項26】
アルカリ薬液が、1〜20mol/L(OH-換算)のアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物を含有する請求項1乃至25のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項27】
アルカリ薬液が、1〜20mol/L(OH-換算)の水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムを含有する請求項26記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項28】
気相部分を不活性気体及び/又は還元性気体及び/又はアルカリ薬液から発生する蒸気で置換した気密性処理容器内で、前記超硬材から硬質被膜の除去を行う請求項1乃至27のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項29】
請求項1乃至28のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法により硬質被膜を除去し、再度硬質被膜を成膜することを特徴とする硬質被膜に被覆された超硬材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公開番号】特開2011−179108(P2011−179108A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170629(P2010−170629)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(594146179)株式会社新菱 (19)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】