説明

超速硬性グラウト組成物

【課題】 若材齢(材齢2時間程度)での圧縮強度を低下させずに、強度発現性が良好で、可使時間を60分程度と長く確保することができ、またブリーディング抑制機能、消泡機能及び適度な流動性を確保する。
【解決手段】 グラウト組成物は、ガラス化率80%以上のカルシウムアルミネートと無機硫酸塩を所定の質量比で混合した急硬成分に対して所定の割合でアルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類からなる凝結調整剤を含む混和材とセメント鉱物と消石灰、消泡剤及び増粘剤を含む。凝結調整剤は、平均粒径45μmを越えかつ90μm以下の第1粒子を10〜45質量%含み、平均粒径90μmを越えかつ150μm以下の第2粒子を30〜70質量%含み、平均粒径150μmを越えかつ500μm以下の第3粒子を5〜30質量%含む。第2粒子を第3粒子より多く含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムアルミネート及び無機硫酸塩の急硬成分に、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類からなる凝結調整剤を含む混和剤と、普通ポルトランドセメント等のセメント鉱物とを含む超速硬性グラウト組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩とが重量比で1:(0.5〜3)の割合で混合された急硬成分をセメント鉱物に対して内割で15〜35%含む急硬セメントを主成分とし、この急硬セメントに対して内割重量でアルミン酸ナトリウム0.2〜5%、無機炭酸塩0.2〜5%及びカルボン酸類0.1〜2%を含む超速硬セメント組成物(例えば、特許文献1参照。)が開示されている。
このように構成された超速硬セメント組成物では、このセメント組成物に注水した後、少なくとも20分以上の硬化時間(可使時間)を保持できるとともに、1時間後の圧縮強度が19.6N/mm2以上となる。またその後の圧縮強度も順調に延び、長期耐久性に優れ、更に硬化体に斑点化現象を起こさないようになっている。
【0003】
また、ポルトランドセメント又はポルトランドセメントを含む混合セメントからなるセメント成分と、このセメント成分に対して内割りで2〜50重量%の速硬成分と、セメント成分及び速硬成分の合計重量に対して0.1〜5重量%の凝結調整剤とを含む温度緩衝型速硬性組成物(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。この温度緩衝型速硬性組成物では、速硬成分が、アルミン酸カルシウムを主成分とする微粉冶金滓40〜95重量%及びII型無水石膏5〜60重量%の混合物に、炭酸アルカリが内割で1〜10重量%添加され、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム及び硫酸アルミニウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上が1〜10重量%添加される。更に凝結調整剤が有機酸系凝結遅延剤と硫酸アルカリからなる。
このように構成された温度緩衝型速硬性組成物は、セメント成分、速硬成分及び凝結調整剤の所定量を添加混合して容易に調製することができ、混練水量30〜100重量%にて混練することにより、高強度の硬化体を得ることができる。この結果、温度緩衝型速硬性組成物を用いれば、幅広い施工温度において、安定かつ良好な凝結特性及び作業性を確保できるようになっている。
【0004】
更にカルシウムアルミネート、ポリアクリル酸類、ホウ酸類、炭酸塩及びカルボン酸類を含有するセメント組成物(例えば、特許文献3参照。)が開示されている。
このように構成されたセメント組成物は、流動性と可使時間を長く確保でき、適度な硬度時間を有するとともに、良好な強度を十分に発現でき、更に耐火性や高温強度に優れるとしている。
【特許文献1】特公平3−41420号公報(請求項1、明細書第2頁右欄第28行目〜同頁右欄33行目)
【特許文献2】特許第3125316号公報(請求項1、段落番号[0028]、段落番号[0039])
【特許文献3】特開平6−32642号公報(請求項1、段落番号[0066])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の特許文献1に示された超速硬セメントでは、若材齢(材齢2時間程度)での圧縮強度を低下させずに、可使時間を60分程度と長く確保することが難しかった。ここで、材齢とは、セメント組成物に水を加えた混合物の練り上がり直後から測定した時間をいい、若材齢(材齢2時間程度)での圧縮強度とは、セメント組成物に水を加えた混合物の練り上がり直後から2時間経過したときの硬化体の圧縮強度をいう。また可使時間とは、セメント組成物に水を加えた混合物の練り上がり直後からこの混合物に流動性がなくなるまでの時間をいう。
また、上記従来の特許文献1に示された超速硬セメントでは、注水後の混練温度が異なると凝結時間が変化してしまうという凝結時間の温度依存性が大きく、特に混練装置の違いによる凝結時間の温度依存性が大きい問題点があった。
また、上記従来の特許文献1に示された超速硬セメントでは、可使時間を長くするために、凝結調整剤の添加量を多くすると、若材齢(材齢2時間程度)での圧縮強度が低下する問題点もあった。
【0006】
また、上記従来の特許文献2に示された温度緩衝型速硬性組成物では、カルシウムアルミネートが粉末冶金滓であるため、強度発現性が悪く、凝結時間の温度依存性が未だ大きい問題点があった。
また、上記従来の特許文献3に示されたセメント組成物では、無水石膏等の無機硫酸塩を使用しないため、若材齢(材齢2時間程度)での圧縮強度が低い問題点があった。
【0007】
更に、上記従来の特許文献1〜3に示されたセメント組成物をグラウト材に使用とすると、ブリーディング抑制機能、消泡機能及び適度な流動性を確保することが困難な問題点があった。
【0008】
本発明の第1の目的は、若材齢(材齢2時間程度)での圧縮強度を低下させずに、強度発現性が良好で、可使時間を60分程度と長く確保することができ、またブリーディング抑制機能、消泡機能及び適度な流動性を確保できる、超速硬性グラウト組成物を提供することにある。
本発明の第2の目的は、注水後の混練温度が異なっても凝結時間が殆ど変化せず、凝結時間の温度依存性が小さくすることができる、超速硬性グラウト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩とが質量比で1:(0.5〜3)の割合で混合された急硬成分に対して内割でアルミン酸ナトリウム0.2〜35.0質量%、無機炭酸塩0.2〜35.0質量%及びカルボン酸類0.1〜15.0質量%からなる凝結調整剤を含む混和材と、セメント鉱物とを含む超速硬性グラウト組成物である。
この超速硬性グラウト組成物の特徴ある構成は、カルシウムアルミネートのガラス化率が80%以上であって、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類からなる凝結調整剤のうちのいずれか1種を100質量%とするとき他の2種をそれぞれ25〜300質量%含み、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩又はカルボン酸類のうちの少なくとも1種の凝結調整剤が、この選ばれた1種の凝結調整剤の総量を100質量%とするとき、平均粒径45μmを越えかつ90μm以下の第1粒子10〜45質量%と、平均粒径90μmを越えかつ150μm以下の第2粒子30〜70質量%と、平均粒径150μmを越えかつ500μm以下の第3粒子5〜30質量%とを含み、かつ第2粒子を第1及び第3粒子より多く含み、更にカルシウムアルミネートと無機硫酸塩とセメント鉱物の合計量に対して、消石灰を0.05〜1質量%、消泡剤を0.01〜0.1質量%、増粘剤を0.01〜1質量%それぞれ含むことにある。
【0010】
また超速硬性グラウト組成物は上記混和材を10〜40質量%及びセメント鉱物を90〜10質量%含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩とが所定の割合で混合された急硬成分に、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類からなる凝結調整剤を含む混和材と、セメント鉱物とを含む本発明の超速硬性グラウト組成物は、上記カルシウムアルミネートのガラス化率を80%以上にし、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類からなる群より選ばれた1種又は2種以上の混合物を所定の平均粒径の範囲毎に含有量を設定しているので、超速硬性グラウト組成物に水を加えて混合した後、硬化させた場合、硬化体の若材齢(材齢2時間程度)で圧縮強度を低下させずに、強度発現性が良好で、可使時間を60分程度と長く確保することができる。また消石灰、消泡剤及び増粘剤を含有させているので、ブリーディング抑制機能、消泡機能及び適度な流動性を確保することができる。更に注水後の混練温度が異なっても凝結時間が殆ど変化せず、凝結時間の温度依存性が小さくすることができる。
【0012】
この結果、どのような作業環境であっても、超速硬性グラウト組成物に注水して得られた混練物の粘性変化が略同一の条件で混練作業、打設作業等を行うことができる。また超速硬性グラウト組成物に注水すると、エトリンガイト[3CaO・Al23・3CaSO4・32H2O]又はモノサルフェート[3(3CaO・Al23・CaSO4・12H2O)]のいずれか一方又は双方が生成され、上記エトリンガイトやモノサルフェートが六価クロムを吸収できる。この結果、環境を汚染する有害物質として挙げられている六価クロムが地中に拡散されるのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の超速硬性グラウト組成物を構成する混和材は、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩とが質量比で1:(0.5〜3)の割合で混合された急硬成分に対して内割でアルミン酸ナトリウム0.2〜35.0質量%、好ましくは0.4〜5.0質量%と、無機炭酸塩0.2〜35.0質量%、好ましくは0.4〜5.0%と、カルボン酸類0.1〜15.0質量%、好ましくは0.2〜2.0質量%とからなる凝結調整剤を含む。カルシウムアルミネートの組成としては、12CaO・7Al23、11CaO・7Al23・CaX2(Xはハロゲン元素である。)、3CaO・Al23、CaO・Al23などが挙げられる。このカルシウムアルミネートはガラスクリンカから得られるため、強度発現性が良好である。また無機硫酸塩としては、無水石膏(組成:CaSO4)、硫酸ナトリウム等が挙げられる。更に無機炭酸塩としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられ、カルボン酸類としては、クエン酸、酒石酸、グルコン酸又はリンゴ酸、或いはこれらの酸のナトリウム、カリウム、カルシウム等の水溶性塩が挙げられる。
【0014】
ここで、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩との混合割合を1:(0.5〜3)の範囲に限定したのは、この範囲外では可使時間(作業時間)が短くなるか、或いは若材齢(材齢2時間程度)での圧縮強度が低下してしまうからである。アルミン酸ナトリウムの急硬成分に対する混合割合を内割で0.2〜35.0質量%の範囲に限定したのは、0.2質量%未満では硬化体が所定の圧縮強度に達せず、35.0重量%を越えると凝結調整剤を用いても所定の可使時間を確保できないからである。また無機炭酸塩の急硬成分に対する混合割合を内割で0.2〜35.0質量%の範囲に限定し、カルボン酸類の急硬成分に対する混合割合を内割で0.1〜15.0質量%の範囲に限定したのは、これらの範囲外では施工に必要な作業時間(可使時間)を確保できないか、或いは圧縮強度が低下するからである。
【0015】
本発明の超速硬性グラウト組成物の特徴ある構成は、カルシウムアルミネートのガラス化率(非結晶化率)を80%以上とし、好ましくは80〜98%、更に好ましくは90〜95%とするとともに、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩とセメント鉱物の合計量に対して消石灰を0.05〜1質量%、消泡剤を0.01〜0.1質量%、増粘剤を0.01〜1質量%それぞれ含むところにある。ここで、カルシウムアルミネートのガラス化率を80%以上に限定したのは、80%未満では、可使時間を長くしたときの強度発現性が低下するからである。また、カルシウムアルミネートのガラス化率が98%を越えると、歩留まりが低下して製造コストを押上げるため好ましくない。なお、上記カルシウムアルミネートのガラス化率(%)は、試料を粉末X線回折法により分析し、メインピークの高さの比により算出する。
【0016】
消石灰は、このグラウト組成物に水を加えて混練した後の混練物のブリーディングの発生を抑制する。消石灰の好ましい含有量は、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩とセメント鉱物の合計量に対して0.1〜0.5質量%である。消石灰の含有量が0.05質量%未満であると凝結時間が長くなり、かつブリーディングの発生を抑制できない。1質量%を超えると凝結が速くなり過ぎる欠点がある。
消泡剤は、混練時にグラウト組成物に発生する気泡を消すことを目的とする。消泡剤の好ましい含有量は、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩とセメント鉱物の合計量に対して0.01〜0.05質量%である。消泡剤の含有量が0.01質量%未満であると消泡効果を期待できない。0.1質量%を超えると凝結が遅延する傾向になる欠点がある。
増粘剤は、グラウト組成物の流動性を調節することを目的とする。増粘剤の好ましい含有量は、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩とセメント鉱物の合計量に対して0.05〜0.5質量%である。増粘剤の含有量が0.01質量%未満であると流動性が速くなり過ぎ、1質量%を超えると流動性が遅延し過ぎる欠点がある。
【0017】
一方、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類からなる凝結調整剤のうちのいずれか1種を100質量%とするとき、本発明の超速硬性グラウト組成物は、他の2種をそれぞれ25〜300質量%、好ましくは50〜200質量%、更に好ましくは60〜160質量%含む。例えば、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩又はカルボン酸類のうちの任意の1種としてアルミン酸ナトリウムを選び、アルミン酸ナトリウムを混和材の総量に対して0.4質量%含み、無機炭酸塩を混和材の総量に対してそれぞれ0.6質量%%含み、カルボン酸類を混和材の総量に対して0.4質量%含む場合、アルミン酸ナトリウムを基準(100質量%)として、無機炭酸塩及びカルボン酸類がそれぞれ150質量%及び100質量%含むことになり、上記設定範囲内となる。またアルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩又はカルボン酸類のうちの少なくとも1種の凝結調整剤が、この選ばれた1種の凝結調整剤の総量を100質量%とするとき、平均粒径45μmを越えかつ90μm以下の第1粒子10〜45質量%、好ましくは15〜40質量%と、平均粒径90μmを越えかつ150μm以下の第2粒子30〜70質量%、好ましくは35〜65質量%と、平均粒径150μmを越えかつ500μm以下の第3粒子5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%とを含む。第1〜第3粒子の平均粒径が上記範囲に限定されるのは、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩又はカルボン酸類のうちのいずれか1種でもよく、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類からなる群より選ばれた2種でもよく、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類の全てでもよい。また上記選ばれた1種の凝結調整剤が第1〜第3粒子のみからなる場合には、第1〜第3粒子の合計が100質量%となり、上記選ばれた1種の凝結調整剤が第1〜第3粒子の他に平均粒径45μm未満の微粒子などを含む場合には、第1〜第3粒子の合計は100質量%未満となる。更に第2粒子を第1及び第3粒子より多く含む。なお、第3粒子は第1粒子と同量か或いは第1粒子より多く含むことが好ましい。
【0018】
ここで、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類からなる凝結調整剤のうちのいずれか1種を100質量%とするとき他の2種をそれぞれ25〜300質量の範囲に限定したのは、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類の混和剤の総量に対する混合割合が比較的広いため、上記選ばれた1種の凝結調整剤の総量より他の種類の凝結調整剤の総量が遙かに多く、かつ他の種類の凝結調整剤の第3粒子の混合割合が上記設定範囲より大幅に多い場合、他の種類の凝結調整剤の影響が大きくなってしまい、若材齢(材齢2時間程度)での圧縮強度を低下させずに可使時間を60分程度と長く確保することができないからである。また、第1粒子の混合割合を10〜45質量%の範囲に限定したのは次の理由に基づく。第1粒子の混合割合が10質量%未満であると、混和材とセメント鉱物を含むグラウト組成物に注水した場合、反応初期に溶解する薬剤(選ばれた凝結調整剤)が少なくなり、反応開始が遅れるか、或いは凝結の遅延作用が小さくなって凝結が速く進行してしまうため、エトリンガイト[3CaO・Al23・3CaSO4・32H2O]やモノサルフェート[3(3CaO・Al23・CaSO4・12H2O)]等の水和物の生成等に悪影響を与え、若材齢強度(材齢2時間程度)の発現性が悪くなると考えられるからである。第1粒子の混合割合が45質量%を越えると、混和材とセメント鉱物を含むグラウト組成物に注水した場合、反応初期に薬剤(選ばれた凝結調整剤)が多く溶解し、初期の反応が急激に進むか、或いは凝結の遅延作用が大きくなって凝結が遅く進行してしまうため、エトリンガイト等の水和物の生成等に悪影響を与え、若材齢強度(材齢2時間程度)の発現性が悪くなると考えられるからである。
【0019】
第2粒子の混合割合を30〜70質量%の範囲に限定したのは次の理由に基づく。第2粒子の混合割合が30質量%未満であると、混和材とセメント鉱物を含むグラウト組成物に注水した場合、反応中期に溶解する薬剤(選ばれた凝結調整剤)が少なくなり、水和反応が順調に継続しなくなってしまうため、エトリンガイト等の水和物の生成等に悪影響を与え、若材齢強度(材齢3時間程度)の発現性が悪くなると考えられるからである。第2粒子の混合割合が70質量%を越えると、混和材とセメント鉱物を含むグラウト組成物に注水した場合、反応中期に溶解する薬剤(選ばれた凝結調整剤)が多くなり、初期から中期にかけての反応が急激に進んでしまうため、エトリンガイト等の水和物の生成等に悪影響を与え、若材齢強度(材齢2時間程度)の発現性が悪くなると考えられるからである。第3粒子の混合割合を5〜30質量%の範囲に限定したのは次の理由に基づく。第3粒子の混合割合が5質量%未満であると、混和材とセメント鉱物を含むグラウト組成物に注水した場合、反応後期に溶解する薬剤(選ばれた凝結調整剤)が少なくなり、水和反応が順調に継続しなくなってしまうため、エトリンガイト等の水和物の生成等に悪影響を与え、若材齢強度(材齢2時間程度)の発現性が悪くなると考えられるからである。第3粒子の混合割合が30質量%を越えると、混和材とセメント鉱物を含むグラウト組成物に注水した場合、反応後期に溶解する薬剤(選ばれた凝結調整剤)が多くなり、中期から後期にかけての反応が急激に進んでしまうため、エトリンガイト等の水和物の生成等に悪影響を与え、若材齢強度(材齢2時間程度)の発現性が悪くなると考えられるからである。更に第2粒子を第1及び第3粒子より多く含むとしたのは、混和材とセメント鉱物を含むグラウト組成物に注水した場合、反応中期に寄与する第2粒子を比較的多めにすることにより、急激な反応を抑え、連続的に穏やかな水和反応が起こるようにし、若材齢強度(材齢2時間程度)の発現性の良い水和物を生成するためである。
【0020】
一方、超速硬性グラウト組成物は上記混和材を10〜40質量%、好ましくは15〜30質量%とセメント鉱物を90〜60質量%、好ましくは85〜70質量%含むことにより調製される。セメント鉱物としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低発熱セメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等が挙げられる。ここで、混和材の混合割合を10〜40質量%の範囲に限定したのは、10質量%未満では早期材齢(若材齢)の強度発現性が低下し、40質量%を越えると製造コストが増大するとともにセメント鉱物が少なくなって長期強度の発現性が低下するからである。なお、本発明におけるグラウト組成物は、上記以外に細骨材を含むモルタルや、細骨材及び粗骨材を含むコンクリートを包含する。モルタル及びコンクリートには、必要に応じて混和材が混合される。
【0021】
このように構成されたグラウト組成物では、カルシウムアルミネートのガラス化率を80%以上とし、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類の混合割合を所定の範囲に設定し、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩又はカルボン酸類のうちの少なくとも1種の凝結調整剤の第1〜第3粒子の混合割合を所定の範囲に設定し、更に第2粒子を第1及び第3粒子より多く含むように設定したので、このグラウト組成物に、水を加えて混合すると、反応開始が速やかに開始し、水和反応が順調に継続する、即ち急激な反応を抑え、連続的に穏やかな水和反応が起こるようにすることにより、有益なエトリンガイト又はモノサルフェートのいずれか一方又は双方が速やかに生成される。また消石灰、消泡剤及び増粘剤を含有させているので、ブリーディング抑制機能、消泡機能及び適度な流動性を確保することができる。この結果、上記グラウト組成物に注水して硬化させた硬化体の若材齢(材齢2時間程度)で圧縮強度を低下させずに、強度発現性が良好で、可使時間を60分程度と長く確保することができる。また注水後の混練温度が異なっても凝結時間が殆ど変化せず、凝結時間の温度依存性が小さくすることができる。従って、どのような作業環境であっても、上記混和材を含むグラウト組成物に水を加えた混練物の粘性変化が略同一の条件で混練作業、打設作業等を行うことができる。
一方、上記混和材とセメント鉱物を含むグラウト組成物に注水して生成されたエトリンガイト又はモノサルフェートのいずれか一方又は双方は六価クロムを吸収することができる。この結果、環境を汚染する有害物質として挙げられている六価クロムが地中に拡散されるのを防止できる。
【実施例】
【0022】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
先ず使用材料の種類及び略号、即ちカルシウムアルミネート、無機硫酸塩、セメント鉱物、アルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類の種類及び略号を次の表1に示す。なお、表1において、『C12A7』は『12CaO・7Al23』である。またブレーン値は、1gのカルシウムアルミネート粒子の総表面積であり、ブレーン空気透過式比表面積測定法で測定される。
【0023】
【表1】

【0024】
上記表1中のアルミン酸ナトリウム、無機炭酸塩及びカルボン酸類をそれぞれ所定の平均粒径の範囲毎に混合割合を変えた。その混合割合を表2に示す。なお、表1中の『0-45』は『0μmを越えかつ45μm以下』であり、『45-90』は『45μmを越えかつ90μm以下』であり、『90-150』は『90μmを越えかつ150μm以下』であり、『150-500』は『150μmを越えかつ500μm以下』であることを意味する。
【0025】
【表2】

【0026】
表2において、使用材料の略号『Al-2』、『K-2』、『Na-2』、『Ci-2』、『Ta-2』及び『CiNa-2』で示す第1〜第3粒子の混合割合は全て本発明の範囲内、即ち請求項1で設定した範囲内にあり、上記以外の使用材料の第1〜第3粒子のうちの少なくとも1種の混合割合が本発明の範囲外、即ち請求項1で設定した範囲外にある。
更に表1のカルシウムアルミネートのうち略号CA70、CA80、CA94及びCA94-5の化学組成毎の含有割合をガラス化率及びブレーン値とともに表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
<実施例1>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−2を0.6質量%と、炭酸カリウムK−1を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を実施例1とした。
<実施例2>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−1を0.6質量%と、炭酸カリウムK−2を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を実施例2とした。
<実施例3>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−1を0.6質量%と、炭酸カリウムK−3を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を実施例3とした。
【0029】
<実施例4>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−1を0.6質量%と、炭酸カリウムK−1を0.6質量%と、クエン酸Ci−2を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を実施例4とした。
<実施例5>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−1を0.6質量%と、炭酸カリウムK−1を0.6質量%と、クエン酸Ci−3を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を実施例5とした。
<実施例6>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−2を0.6質量%と、炭酸カリウムK−2を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を実施例6とした。
【0030】
<実施例7>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−1を0.6質量%と、炭酸カリウムK−2を0.6質量%と、クエン酸Ci−2を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を実施例7とした。
<実施例8>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−2を0.6質量%と、炭酸カリウムK−2を0.6質量%と、クエン酸Ci−2を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を実施例8とした。
<比較例1>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−1を0.6質量%と、炭酸カリウムK−1を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を比較例1とした。
【0031】
<比較例2>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−2を0.6質量%と、炭酸カリウムK−1を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、水を50質量%とを混合した。消石灰、消泡剤及び増粘剤は全く混合しなかった。この混合物を比較例2とした。
【0032】
<比較例3>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−2を0.6質量%と、炭酸カリウムK−1を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、消石灰Lを0.02質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を比較例3とした。
【0033】
<比較例4>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−2を0.6質量%と、炭酸カリウムK−1を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、消石灰Lを2質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を比較例4とした。
【0034】
<比較例5>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−2を0.6質量%と、炭酸カリウムK−1を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。消泡剤は全く混合しなかった。この混合物を比較例5とした。
【0035】
<比較例6>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−2を0.6質量%と、炭酸カリウムK−1を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.2質量%と、増粘剤Mを0.06質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を比較例6とした。
【0036】
<比較例7>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−2を0.6質量%と、炭酸カリウムK−1を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、水を50質量%とを混合した。増粘剤は全く混合しなかった。この混合物を比較例7とした。
【0037】
<比較例8>
カルシウムアルミネートCA94を7.5質量%と、フッ酸二型無水石膏S8を7.5質量%と、普通ポルトランドセメントNを85質量%と、アルミン酸ソーダAl−2を0.6質量%と、炭酸カリウムK−1を0.6質量%と、クエン酸Ci−1を0.6質量%と、消石灰Lを0.1質量%と、消泡剤Hを0.01質量%と、増粘剤Mを2質量%と、水を50質量%とを混合した。この混合物を比較例6とした。
【0038】
<比較試験及び評価>
実施例1〜8及び比較例1〜8の混合物について、混練時の雰囲気温度をそれぞれ5℃、20℃及び35℃として、練り上がり温度、JA漏斗流下時間、可使時間、始発時間、終結時間及び圧縮強度をそれぞれ測定した。ここで、練り上がり温度は、練り上がり直後の混合物の温度計により測定した温度である。JA漏斗流下時間は、プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(JSCE−F531)に準じた方法、即ちJA漏斗試験装置の漏斗に混合物を充填して、この漏斗の下端の孔から混合物を流出させたときの流下時間である。可使時間は、練り上がり直後から測定した時間であって、JA漏斗流下時間が11秒を越えるまでの時間である。また、凝結の始発時間及び凝結の終結時間は、JIS R 5201に準じて自動凝結試験機を用いて測定した。具体的には、凝結の始発時間は、練り上がり直後から測定した時間であって、混合物に対して直径1mmの針が底面から1mm上がった位置で止まるまでの時間であり、凝結の終結時間は、練り上がり直後から測定した時間であって、直径1mmの針が混合物に突き刺さらなくなるまでの時間である。更に圧縮強度は、JSCE−G531に準じて測定した強度であり、材齢2時間、材齢1日、材齢7日及び材齢28日での圧縮強度をそれぞれ測定した。なお、上記凝結の始発時間及び凝結の終結時間の両者を合せて凝結時間と呼ぶ。これらの結果を表4及び表5に示す。但し、圧縮強度は、材齢2時間及び28日でそれぞれ測定した。
【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
表4及び表5から明らかなように、混合物における消石灰の量が少ないと凝結が長くなり(比較例2、3)、消石灰の量が多いと凝結が速くなり過ぎる(比較例4)。また消泡剤の多いと凝結が遅延する(比較例6)。更に増粘剤の量が少ないと流動性が速くなり過ぎ(比較例2、7)、増粘剤の量が多いと流動性が遅延し過ぎる(比較例8)。これに対して、消石灰、消泡剤及び増粘剤の各量が請求項1記載の範囲内にある実施例1〜8の混合物は、適度の凝結時間、適度の流動性が得られるとともに他の物性値も適切であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネートと無機硫酸塩とが質量比で1:(0.5〜3)の割合で混合された急硬成分に対して内割でアルミン酸ナトリウム0.2〜35.0質量%、無機炭酸塩0.2〜35.0質量%及びカルボン酸類0.1〜15.0質量%からなる凝結調整剤を含む混和材と、セメント鉱物とを含む超速硬性グラウト組成物であって、
前記カルシウムアルミネートのガラス化率が80%以上であって、
前記アルミン酸ナトリウム、前記無機炭酸塩及び前記カルボン酸類からなる凝結調整剤のうちのいずれか1種を100質量%とするとき他の2種をそれぞれ25〜300質量%含み、
前記アルミン酸ナトリウム、前記無機炭酸塩又は前記カルボン酸類のうちの少なくとも1種の凝結調整剤が、この選ばれた1種の凝結調整剤の総量を100質量%とするとき、平均粒径45μmを越えかつ90μm以下の第1粒子10〜45質量%と、平均粒径90μmを越えかつ150μm以下の第2粒子30〜70質量%と、平均粒径150μmを越えかつ500μm以下の第3粒子5〜30質量%とを含み、かつ前記第2粒子を前記第1及び第3粒子より多く含み、
更に前記カルシウムアルミネートと前記無機硫酸塩と前記セメント鉱物の合計量に対して、消石灰を0.05〜1質量%、消泡剤を0.01〜0.1質量%、増粘剤を0.01〜1質量%それぞれ含むことを特徴とする超速硬性グラウト組成物。
【請求項2】
混和材を10〜40質量%及びセメント鉱物を90〜60質量%含む請求項1記載の超速硬性グラウト組成物。

【公開番号】特開2007−230833(P2007−230833A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55988(P2006−55988)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】