説明

超速硬性セメント組成物及び超速硬性セメント組成物用分散剤

【課題】低温雰囲気下においても優れた流動性と可使時間及び初期強度発現性とを併せ持つ、高強度・超速硬性セメント組成物を提供する。
【解決手段】カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメント(A)とセメント分散剤(B)とを含み、該セメント分散剤(B)は、下記一般式(1);


で表される単量体に由来する繰り返し単位と、下記一般式(2);


で表される単量体に由来する繰り返し単位とを有する共重合体を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超速硬性を有するセメント組成物及び超速硬性セメント組成物用分散剤に関する。より詳しくは、土木・建築分野において補修や緊急工事などの用途に使用され、速硬性を維持したまま作業性を向上することができる超速硬性セメント組成物及び超速硬性セメント組成物用分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
超速硬性セメント組成物は、超速硬性セメント、水、細骨材及び粗骨材等を混合して製造されている。超速硬性セメント組成物は、速硬性に優れ、強度及び耐久性に優れた硬化物を与えることから、建築物外壁材、建築物構造体等の各種の補修、補強や緊急工事及びコンクリート製品の製造などにおいて、広く用いられている。このような超速硬性セメント組成物は、速硬性に優れるだけでなく、作業に支障をきたさない初期流動性と流動保持性を持ち、硬化後の強度及び耐久性に優れることが求められている。さらに、超速硬性セメント組成物は、硬化速度が低下する冬場において使用頻度が高いため、低温雰囲気下においても、これらの特性を発揮することが求められている。
【0003】
超速硬性セメント組成物には、カルシウムアルミネート類を速硬成分とするセメント(超速硬性セメント)が一般に用いられており、速硬成分であるカルシウムアルミネート類が混練水と急激に水和することにより優れた初期強度発現性を示すことが知られている。その一方で、カルシウムアルミネート類の急激な水和反応により、セメント組成物の流動性が著しく低下して、混練が困難になることから、このような水和反応をコントロールし、流動保持性及び可使時間を充分なものとして、作業性を改善することが求められていた。また、このようなセメント組成物においては、その中に含まれる単位水量を低減すると硬化物の性能が向上することになることから、混練水の単位水量を増加させずに作業性を改善することが求められていた。
【0004】
これまでに、超速硬性セメント組成物の初期流動性、可使時間等の特性を向上させるために、各種分散剤を添加したり、また、硬化物の強度を向上させるために、セメント組成物の中に含まれる単位水量を低減させたりすることが行われている。
従来の超速硬性セメント組成物に含まれる分散剤としては、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物やメラミンスルホン酸塩のホルマリン縮合物などを主成分とするセメント分散剤や、ポリカルボン酸系セメント分散剤が知られている。
しかしながら、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物やメラミンスルホン酸塩のホルマリン縮合物などを主成分とする分散剤は、添加量が一定以上になると、セメント分散効果や流動性改善効果が頭打ちになることから、要求される高流動性、低単位水量、初期流動性、可使時間、分散性等を実現できるセメント分散剤が求められていた。
【0005】
また作業期間中は充分な流動性を有する必要があるが、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物やメラミンスルホン酸塩のホルマリン縮合物などを主成分とする分散剤は、可使時間が充分ではない場合があり、分散剤を用いることにより実現した流動性を作業に必要な期間維持するためには、凝結遅延剤を添加する必要があることが知られている。しかし、凝結遅延剤は、特に低温において、その添加量が多いと超速硬性セメント組成物の初期強度発現性を低下させるおそれがあることから、凝結遅延剤の添加量が少なくても、又は無添加であっても、流動性を作業に必要な時間維持することができる超速硬性セメント組成物が求められていた。さらにこれらのセメント分散剤には、合成過程で使用したホルマリンが残存している場合があることから、環境上好ましい超速硬性セメント組成物が求められていた。
【0006】
ポリカルボン酸系セメント分散剤は、一般に、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物やメラミンスルホン酸塩のホルマリン縮合物などを主成分とするセメント分散剤よりも高い分散効果を持つことが知られている。ポリカルボン酸系混和剤は一般のポルトランドセメントに対して使用した場合、優れた分散性能を示し、単位水量を変えずにセメント組成物を著しく高流動化したり、又は、一定の流動性を維持したまま単位水量を著しく低減することが可能である。例えば、CaO/Alのモル比が0.5〜4.0であるカルシウムアルミネート類を主成分とする水硬性物質と、ポリカルボン酸系重合物を主成分とするセメント分散剤を含むセメント組成物が開示され、実施例においてはポリカルボン酸系セメント分散剤が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
ポリカルボン酸系セメント分散剤を超速硬性セメント組成物に適用した場合としては、速硬性を有するペースト、モルタル、コンクリートにポリカルボン酸(塩)を添加する高流動性速硬セメント配合物の製造方法(例えば、特許文献2参照。)や超速硬セメントと粉末状ポリカルボン酸系セメント分散剤を含む粉末状超速硬セメント組成物が開示され、実施例においてはポリカルボン酸系セメント分散剤が用いられている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、速硬性、高流動性、低単位水量、初期流動性、可使時間、分散性等において優れるだけでなく、低温雰囲気下においても優れた初期強度を発現し、得られる硬化物の強度が充分に優れたものとできる超速硬性セメント組成物とする工夫の余地があった。
【特許文献1】特開平11−217250号公報(第2−4頁)
【特許文献2】特開平7−17749号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開2000−34159号公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、通常の温度雰囲気下だけでなく低温雰囲気下においても優れた流動性と可使時間及び初期強度発現性とを併せ持ち、硬化物の強度及び耐久性を増進させる高強度・超速硬性セメント組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、超速硬性セメント組成物について種々検討したところ、カルシウムアルミネート類が速硬成分として有用であることに着目し、セメント分散剤としては、ポリエチレンオキシド鎖を持つポリアクリル酸系共重合体を含むものを用いると、ナフタレン系セメント分散剤や一般のポリカルボン酸系(主にメタクリル酸系)の従来のセメント分散剤に比較して、少ない添加量で良好な流動性が得られ、また凝結遅延剤の添加量を増すことなく流動性を保持できることを見いだした。また、従来のセメント分散剤では、著しく初期流動性が低い、又は、混練が不可能な低い水/セメント比においても、優れた流動性を付与するという優れた減水性能に起因して、従来よりも硬化後の強度が高いものとすることができることも見いだした。また、低温雰囲気下においても、優れた速硬性を有するだけでなく、流動性、可使時間等の作業性が優れ、強度及び耐久性に優れた硬化物とできることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、土木・建築分野において補修や緊急工事において用いることができ、高強度のセメントペースト、モルタル又はコンクリート用として好適に適用することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメント(A)とセメント分散剤(B)とを含んでなる超速硬性セメント組成物であって、上記セメント分散剤(B)は、下記一般式(1);
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基を表す。nは、平均付加モル数を表し、10〜300の数である。)で表される単量体に由来する繰り返し単位と、下記一般式(2);
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Mは、水素原子、一価金属原子、二価金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)で表される単量体に由来する繰り返し単位とを有する共重合体を含むものである超速硬性セメント組成物である。
本発明はまた、カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメントを分散するために用いるセメント分散剤であって、上記セメント分散剤は、下記一般式(1);
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基を表す。nは、平均付加モル数を表し、10〜300の数である。)で表される単量体に由来する繰り返し単位と、下記一般式(2);
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Mは、水素原子、一価金属原子、二価金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)で表される単量体に由来する繰り返し単位とを有する共重合体を含むものであるセメント分散剤でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0019】
本発明は、カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメント(A)とセメント分散剤(B)とを含んでなる超速硬性セメント組成物である。
超速硬性セメント組成物とは、カルシウムアルミネート類を必須成分とすることによって、一般的なセメント組成物よりも硬化速度が速いものであるが、その硬化速度としては、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じて測定した材齢3時間の圧縮強度が20N/mm以上であることが好ましい。なお、上限としては、特に制限されないが、60N/mm以下であることが好適である。
上記超速硬性セメント(A)としては、カルシウムアルミネート類を必須成分とするものであり、カルシウムアルミネート類は、超速硬性セメント組成物において速硬性を高める成分である。
【0020】
上記カルシウムアルミネート類としては、C11・CaX、CA、CA、CAS、CA、C・CaSO、C12、CAF及びCAF(式中、Cは、CaOを表す。Aは、Alを表す。Sは、SiOを表す(ただし、CaSOのSは、硫黄原子を示す。)。Fは、Feを表す。Xは、ハロゲン元素を表す。)及び非晶質カルシウムアルミネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分とするものが好ましい。これらの中でも、より好ましくは、C11・CaF、非晶質カルシウムアルミネートであり、更に好ましくは、C11・CaFである。
上記カルシウムアルミネート類の含有量としては、超速硬性セメント(A)100質量%に対し、10〜30質量%であることが好ましい。10質量%未満であると、速硬性が充分に発揮されないおそれがあり、30質量%を超えると、可使時間が充分に確保されず、作業性が充分に優れたものとならないおそれがある。
【0021】
上記セメント分散剤(B)は、上記一般式(1)で表される単量体に由来する繰り返し単位(繰り返し単位(I)又は構成単位(I)ともいう)と、上記一般式(2)で表される単量体に由来する繰り返し単位(繰り返し単位(II)又は構成単位(II)ともいう)とを有する共重合体(ポリエチレンオキシド鎖を持つポリアクリル酸系共重合体、又は、ポリアクリル酸系共重合体ともいう)を含むものである。このようなポリエチレンオキシド鎖を持つポリアクリル酸系共重合体を含むものを用いると、少ない添加量で良好な流動性が得られ、また凝結遅延剤の添加量を増すことなく流動性を保持できる。また、上記構造を有するポリアクリル酸系共重合体は、セメント分散剤として用いる場合、速硬性に優れ、超速硬性セメント組成物として好適に使用することができる。
【0022】
上記超速硬性セメント組成物において、超速硬性セメント(A)とセメント分散剤(B)との質量割合としては、(B)/(A)=0.01/100〜8.0/100が好ましい。0.01/100未満であると、分散効果が不十分となり、8.0/100を超えると、分散効果が頭打ちになるので不経済となるおそれがある。より好ましくは、(B)/(A)=0.2/100〜0.4/100である。
上記超速硬性セメント(A)の超速硬性セメント組成物に対する質量割合としては、超速硬性セメント/超速硬性セメント組成物=10/100〜80/100が好ましい。10/100未満であると、強度、耐久性不足となり、80/100を超えると、均一な混練がしにくくなるおそれがある。
【0023】
上記超速硬性セメント組成物は、更に凝結遅延剤を含有することが好ましい。凝結遅延剤(単に、遅延剤ということもある)を含むことにより、高い分散保持性能を発揮することができ、超速硬性セメント組成物の作業の可使時間を調節することができる。
上記凝結遅延剤としては、使用される超速硬性セメントの水和反応を遅延するものであれば特に制限されないが、オキシカルボン酸化合物であることが好ましい。上記オキシカルボン酸化合物とは、分子内に水酸基とカルボキシル基又はその塩を有する化合物をいう。オキシカルボン酸化合物としては、炭素原子数4〜10のオキシカルボン酸又はその塩が好ましい。例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、及び、これらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等の無機塩又は有機塩等の1種又は2種以上が好適である。これらの中でも、グルコン酸又はその塩を用いることが好ましい。
【0024】
上記凝結遅延剤の含有量(凝結遅延剤/超速硬性セメント(質量比))としては、超速硬性セメント(A)100質量%に対して=0.01〜1.0であることが好ましい。凝結遅延剤が0.01未満であると、流動保持性が充分ではなくなるおそれがあり、1.0を超えると、初期強度発現性が充分ではなくなるおそれがある。より好ましくは、0.02〜0.5であり、更に好ましくは、0.05〜0.4である。
上記超速硬性セメント組成物は、更にポリアルキレンイミンにアルキレンオキサイドが付加してなる化合物(以下、「PAI/PAO付加物」とも称する)を含有することが好ましい。PAI/PAO付加物を含むことにより、超速硬性セメントの急激な水和により生じる水和生成物同士の凝集を防ぐことができ、超速硬性セメント組成物のこわばり現象を緩和することができる。
上記ポリアルキレンイミンとしては、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミン等の炭素数2〜8のアルキレンイミンの1種又は2種以上を常法により重合して得られる、これらのアルキレンイミンの単独重合体や共重合体が好ましい。より好ましくは、エチレンイミンが主体を占めるポリエチレンイミン重合体である。これらのアルキレンイミンの単独重合体や共重合体においては、ポリアルキレンイミン鎖が形成されることになり、該ポリアルキレンイミン鎖は、分岐状の構造必須とすることになる。また、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等を重合して得られるものであってもよい。このようなポリアルキレンイミンでは、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子をもつ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。また、ポリアルキレンイミンの重量平均分子量としては、100〜100000が好ましく、より好ましくは300〜50000、更に好ましくは500〜10000である。
【0025】
上記ポリアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜8のアルキレンオキシドが好適である。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でもエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドが好ましい。更にエチレンオキシド、プロピレンオキシドを主成分とするものがより好ましい。
上記アルキレンオキシド付加物では、オキシアルキレンの平均付加モル数としては、0を超えて、300以下とするのが好ましい。より好ましくは、1以上、更に好ましくは3以上である。また、より好ましくは200以下であり、更に好ましくは150以下、特に好ましくは100以下である。
上記超速硬性セメント組成物において、セメント分散剤(B)とPAI/PAO付加物(C)との質量割合としては、(C)/(B)=1/100〜100/100が好ましい。1/100未満であると、こわばり防止効果が充分発揮されず、100/100を超えると、こわばり防止効果が頭打ちとなり不経済となるおそれがある。より好ましくは、(C)/(B)=5/100〜30/100である。
【0026】
上記超速硬性セメント組成物は、水/セメント比35質量%以下で混練して製造されるものであることが好ましい。水/セメント比とは、超速硬性セメント(A)に対する水の質量比をいう。水/セメント比が35質量%を超えると、超速硬性セメント組成物を硬化した後の強度を向上させる効果を期待することができない。より好ましくは、30質量%以下であり、更に好ましくは、25質量%以下である。下限値としては、20質量%以上が好適である。
上記超速硬性セメント組成物は、15℃以下の雰囲気温度で混練、打設されることができる。15℃以下の雰囲気温度で混練、打設されることにより、超速硬性セメント組成物の需要が高い冬場においても他の超速硬性セメント組成物において生じる強度低下を起こすことなく好適に用いることができる。混練、打設される雰囲気温度として、より好ましくは、10℃以下であり、更に好ましくは、5℃以下である。下限値としては、0℃以上が好適である。
【0027】
上記超速硬性セメント組成物は、速硬性を維持したまま作業性を向上することができ、低い水/セメント比や、低温雰囲気下においても本発明の作用効果を充分に発揮できることから、土木・建築分野等において補修や緊急工事などの用途に使用され、セメントペースト、モルタル又はコンクリート用として好適に用いることができる。また、本発明の超速硬性セメント組成物は、硬化後の強度が充分に高いものであることから、高強度のセメントペースト、モルタル又はコンクリート用としても好適に用いることができる。
【0028】
上記高強度のセメントペースト、モルタル又はコンクリート用とは、高強度コンクリートとしての性能を満たすコンクリートを用いた施工への用途、又は、当該コンクリート中のモルタル分やペースト分と同等の組成を有するモルタルやペーストを用いた施工への用途をいう。
なお、高強度コンクリートとは、設計基準強度が36N/mmを超えるコンクリートをいう。
【0029】
本発明はまた、カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメントを分散するために用いるセメント分散剤であって、上記セメント分散剤は、上記一般式(1)で表される単量体に由来する繰り返し単位と、上記一般式(2)で表される単量体に由来する繰り返し単位とを有する共重合体を含むものであるセメント分散剤でもある。
上記セメント分散剤に含まれる共重合体(ポリアクリル酸系共重合体)としては、上記一般式(1)で表される単量体に由来する繰り返し単位(繰り返し単位(I))と、上記一般式(2)で表される単量体に由来する繰り返し単位(繰り返し単位(II))とを有するものであり、繰り返し単位(I)を与える単量体と繰り返し単位(II)を与える単量体を必須成分として含む単量体成分を共重合して製造することができる。このような単量体成分は、構成単位(III)を与える単量体を更に含むものでもよい。なお、上記ポリアクリル酸系共重合体において、繰り返し単位(I)、繰り返し単位(II)及び必要に応じて含まれることになる構成単位(III)の共重合の形態としては、ランダム共重合、ブロック共重合、交互共重合等のいずれであってもよい。
【0030】
上記一般式(1)において、Rは、同一若しくは異なって、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基を表す。炭素数1〜18のアルキル基としては、直鎖状若しくは分岐状であってもよい。Rとしては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基が好適であり、これらの中でも、水素原子が好適である。オキシエチレン基の平均付加モル数nは、10〜300の数であり、好ましくは、15〜200であり、更に好ましくは、25〜100である。
【0031】
上記一般式(2)において、Mは、水素原子、一価金属原子、二価金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。一価の金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等が好適であり、二価金属原子としては、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等が好ましい。また、有機アミン基としては、エタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基や、トリエチルアミン基、有機アンモニウム基等が好適である。これらの中でも、ナトリウム、カルシウムであることが好ましい。すなわち、上記一般式(2)で表される単量体は、ナトリウム塩、カルシウム塩であることが好ましい。
【0032】
上記ポリアクリル酸系共重合体において、繰り返し単位(I)と繰り返し単位(II)とその他の構成単位(III)の比率は、質量比で、繰り返し単位(I)/繰り返し単位(II)/その他の構成単位(III)=98〜2/2〜98/0〜50であることが好ましい。より好ましくは、95〜50/5〜50/0〜50であり、更に好ましくは、95〜70/5〜30/0〜50である。ただし、繰り返し単位(I)、繰り返し単位(II)及び構成単位(III)の合計は100質量%である。
【0033】
本発明で用いることができる構成単位(I)を与える単量体としては、3−メチル−2−ブテン−1−オールにエチレンオキシドの10〜300モル重合体を付加した化合物、3−メチル−2−ブテン−1−オールにエチレンオキシドの10〜300モル重合体を付加させた後、末端の水酸基をアルキル基で置換した化合物、3−メチル−2−ブテン−1−オールにポリエチレングリコールモノアルキルエーテルを反応させた化合物が挙げられる。本発明で用いることができる構成単位(II)を与える単量体としては、アクリル酸が挙げられる。
【0034】
本発明で用いることができる構成単位(III)を与える単量体としては、他の単量体の少なくとも1つと共重合可能な単量体であればよく、下記のものが好適である。
マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜4のアルコールとのハーフエステル、ジエステル;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのハーフアミド、ジアミド;上記アルコールやアミンに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと上記不飽和ジカルボン酸類とのハーフエステル、ジエステル;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数2〜18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールとのハーフエステル、ジエステル。
【0035】
マレアミド酸と炭素原子数2〜18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールとのハーフアミド;トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレート類;トリエチレングリコールジマレート、ポリエチレングリコールジマレート等の(ポリ)アルキレングリコールジマレート類。
【0036】
ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2−(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4−(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びにそれらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等不飽和モノカルボン酸系類、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩。
【0037】
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルクロトネート、エチルクロトネート、プロピルクロトネート等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜4のアルコールとのエステル;メチル(メタ)アクリルアミドのように不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのアミド類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等のビニル芳香族類;1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等のジエン類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等の不飽和シアン類。
【0038】
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジブチルアミノエチル、ビニルピリジン等の不飽和アミン類;ジビニルベンゼン等のジビニル芳香族類;トリアリルシアヌレート等のシアヌレート類;(メタ)アリルアルコール、グリシジル(メタ)アリルエーテル等のアリル類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の不飽和アミノ化合物類;メトキシポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等のビニルエーテル又はアリルエーテル類。
ポリジメチルシロキサンプロピルアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサンアミノプロピレンアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサン−ビス−(プロピルアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(ジプロピレンアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン−(1−プロピル−3−アクリレート)、ポリジメチルシロキサン−(1−プロピル−3−メタクリレート)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(1−プロピル−3−アクリレート)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(1−プロピル−3−メタクリレート)等のシロキサン誘導体;2−アクリロイロキシエチルホスフェート、2−メタクリロイロキシエチルホスフェート等の不飽和リン酸エステル類。
【0039】
ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン等のポリアルキレンポリアミンとマロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アゼライン酸、セバチン酸、又はこれらと炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物等の二塩基酸又は二塩基酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステルとの縮合物に更に(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等の不飽和エポキシ化合物等とを特定の割合で縮合させたポリアマイドポリアミンにアルキレンオキシドを特定量付加させた化合物;ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン等のポリアルキレンイミンの活性水素にエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加した化合物と(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物又は(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等の不飽和エポキシ化物との縮合物等の窒素原子を有するカチオン性単量体。
【0040】
上記ポリアクリル酸系共重合体を得るには、重合開始剤を用いて上記単量体成分を重合させればよい。重合は、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行うことができる。溶媒中での重合は回分式でも連続式でも行うことができ、その際使用される溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール等の低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族又は脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物の1種又は2種以上が好適である。原料単量体及び得られるポリアクリル酸系共重合体の溶解性並びにポリアクリル酸系共重合体の使用時の便宜性からは、水及び炭素原子数1〜4の低級アルコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。その場合、炭素原子数1〜4の低級アルコールの中でも、メチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール等が特に有効である。
【0041】
上記ポリアクリル酸系共重合体を得るために水媒体中で重合を行うときには、重合開始剤としてアンモニウム若しくはアルカリ金属の過硫酸塩又は過酸化水素等の水溶性の重合開始剤を使用することが好ましい。この際、亜硫酸水素ナトリウム、モール塩、アスコルビン酸(塩)、ロンガリット等の促進剤を併用することもできる。また、低級アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル化合物又はケトン化合物を溶媒とする重合には、ベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が重合開始剤として用いることが好ましい。この際、アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。更に、水−低級アルコール混合溶剤を用いる場合には、上記の種々の重合開始剤又は重合開始剤と促進剤との組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。重合温度は、用いる溶媒や重合開始剤により適宜定められるが、通常0〜120℃であり、30℃以上が好ましい。より好ましくは50℃以上である。また、100℃以下が好ましい。より好ましくは95℃以下である。
【0042】
また塊状重合を行うときには、通常では重合開始剤としてベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物を用い、50〜200℃で行なわれる。
【0043】
更に得られるポリアクリル酸系共重合体の分子量調節のために、次亜リン酸(塩)やチオール系連鎖移動剤を併用することもできる。この際に用いられるチオール系連鎖移動剤は、一般式HS−R30−Eg(式中、R30は、炭素原子数1〜2のアルキル基を表す。Eは、−OH、−COOM、−COOR31又はSO3M基を表す。Mは、水素原子、一価金属、二価金属、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。R31は、炭素原子数1〜30のアルキル基を表す。gは、1〜2の整数を表す。)で表され、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチルが好適である。また、水酸基やカルボキシル基等の官能基をもたない炭素数3以上の炭化水素基をもつチオール化合物を連鎖移動剤として用いてもよい。ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノールがそのようなチオール化合物として好適である。また、四塩化炭素、四臭化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等のハロゲン化物;α−メチルスチレンダイマー、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン等の不飽和炭化水素化合物を連鎖移動剤として用いてもよい。これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、ポリアクリル酸系共重合体の分子量調整のためには、単量体(e)として(メタ)アリルスルホン酸(塩)類等の連鎖移動性の高い単量体を用いることも有効である。
【0044】
上記ポリアクリル酸系共重合体は、そのままでも用いることができるが、水に対する溶解性が不足するような場合には、水に対する溶解性を向上させて有機溶媒を含まない水媒体液の形態で取り扱うために、更に一価金属及び二価金属の水酸化物、塩化物及び炭素塩等の無機物;アンモニア;有機アミン等(好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の一価金属の水酸化物)のアルカリ性物質で中和して得られる重合体塩として用いることが好ましい。
【0045】
上記ポリアクリル酸系共重合体の重量平均分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という)によるポリエチレングリコール換算で、5000〜1000000が適当であるが、500000以下が好ましい。より好ましくは10000以上である。また、より好ましくは300000以下である。重量平均分子量が5000未満であると、材料分離低減性能が低下するおそれがあり、1000000を超えると、分散性能が低下するおそれがある。
【0046】
(重量平均分子量測定条件)
機種:Waters LCM1
検出器:Waters 410 示差屈折検出器
解析ソフト:Waters MILLENNIUM Ver.2.18
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合液に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶かし、更に30%水酸化ナトリウム水溶液でpH6.0に調整した溶離液を用いる。
溶離液流速:0.8ml/min
カラム温度:35℃
カラム:東ソー製 TSKgel GuardColumnSWXL+G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
標準物質:ポリエチレングリコール、重量平均分子量(Mw)272500、219300、85000、46000、24000、12600、4250、7100、1470
【0047】
本発明の超速硬性セメント組成物における上記セメント分散剤の配合割合(セメント分散剤/超速硬性セメント組成物)としては、超速硬性セメント組成物100質量%に対し、0.01質量%以上が好ましく、また、5.0質量%以下が好ましい。上記配合割合が0.01質量%未満であると、性能的に不充分となるおそれがあり、5.0質量%を超える多量を使用しても、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。より好ましくは0.02質量%以上であり、更に好ましくは0.05質量%以上である。また、より好ましくは2.0質量%以下であり、更に好ましくは1.0質量%以下であり、このような比率となる量を添加すればよい。この添加により、単位水量の低減、強度の増大、耐久性向上等の各種の好ましい諸効果がもたらされることとなる。
【0048】
次に、本発明の超速硬性セメント組成物における超速硬性セメント(A)について説明する。本発明における超速硬性セメントは、カルウシムアルミネート類を含むクリンカー鉱物と硫酸塩とを成分とするものである。クリンカー鉱物には、前述のカルシウムアルミネート類のほかに、CSやCSが含まれる。硫酸塩としては、芒硝(硫酸ナトリウム)、硫酸カリウムなどのアルカリ金属硫酸塩、硫酸マグネシウム、石こう(硫酸カルシウム)などのアルカリ土類金属硫酸塩、硫酸アルミニウムなどが挙げられ、強度発現性から、石こうの使用が、又は、石こうと芒硝の併用が好ましい。石こうとしては、無水石こう、半水石こう、2水石こう、又は、これらの混合物が例示できる。また、その他必要に応じて配合が可能な材料として消石灰が挙げられる。当該消石灰は強度増進のために添加される。
超速硬性セメント中のクリンカー鉱物、硫酸塩、また必要応じて添加される消石灰の割合は、それぞれ、70〜90質量%、10〜30質量%、0〜1質量%であることが好ましい。また、本発明の速硬成分を下記のポルトランドセメント等のセメントに混合してなる超速硬性セメント(A)でもよい。
超速硬性セメント組成物のセメント成分としては、更に、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加してもよい。また、超速硬性セメントに加えて、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)等の1種又は2種以上を用いてもよい。
【0049】
本発明の超速硬性セメント組成物は、超速硬性セメント(A)とセメント分散剤(B)と水とを必須成分として含み、更に凝結遅延剤を含んでもよいものであるが、更に、細骨材及び粗骨材等の骨材、その他の成分を含んでいてもよい。
上記細骨材としては、砂が好適であり、粗骨材としては、川砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が使用可能である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
本発明の超速硬性セメント組成物において、超速硬性セメント組成物の1m3あたりの単位水量(水/超速硬性セメント組成物)、セメント使用量(超速硬性セメントと必要に応じてその他のセメント成分)、粗骨材量及び遅延剤/超速硬性セメント組成物としては、単位水量100〜185kg/m3、使用セメント量250〜800kg/m3、単位粗骨材量500〜1500kg/m3、水/超速硬性セメント組成物比(質量比)=0.1〜0.7、遅延剤/超速硬性セメント組成物(質量比)=5×10−6〜5×10−3とすることが好ましい。単位水量は、120kg/m3以上がより好ましく、また、175kg/m3以下がより好ましい。超速硬性セメント使用量は、270kg/m3以上がより好ましく、また、800kg/m3以下がより好ましい。単位粗骨材量は、600kg/m3以上がより好ましく、更に好ましくは800kg/m3以上であり、また、1300kg/m3以下がより好ましく、更に好ましくは、1200kg/m3以下である。水/超速硬性セメント組成物比(質量比)は、0.15以上がより好ましく、0.2以上が更に好ましい。また、0.65以下がより好ましく、0.5以下が更に好ましい。遅延剤/超速硬性セメント組成物(質量比)は、5×10−5〜2×10−3がより好ましく、1×10−4〜1.2×10−3が更に好ましい。本発明の超速硬性セメント組成物は、貧配合〜富配合まで幅広く使用可能であり、単位セメント量の多い高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m3以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【0051】
本発明の超速硬性セメント組成物には、本発明の作用効果を奏する限り、上記のもの以外にも、ポリアクリル酸系以外のセメント分散剤、AE剤、消泡剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、急結剤、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、収縮低減剤、分離低減剤、中性化防止剤、防錆剤等の他のコンクリート混和剤、及び、その他の水溶性高分子化合物等を併用してもよい。
【0052】
上記ポリアクリル酸系以外のセメント分散剤の具体例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系;リグニンスルホン酸塩、変成リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系;ポリスチレンスルホン酸塩系;等の各種スルホン酸系セメント分散剤が挙げられる。
【0053】
本発明においてはまた、超速硬性セメント組成物に良質の空気を導入し、耐凍結融解性を向上させる場合には、更にAE剤を含有させることが好ましい。この場合、超速硬性セメント組成物製造時に混練時間を延長して使用するとき、すなわち超速硬性セメント組成物の搬送時に長時間混練し続けるようなときにも、上記超速硬性セメント組成物では連行空気量を安定に保って、その硬化物の耐凍結融解性や、強度、耐久性を優れたものとすることができる。
【0054】
本発明の超速硬性セメント組成物においては、また、アルキルエーテル型陰イオン界面活性剤タイプ、変性ロジン酸化合物系陰イオン界面活性剤タイプ、アルキルスルホン酸化合物系陰イオン界面活性剤タイプ、高アルキルカルボン酸塩系陰イオン界面活性剤タイプ、変性アルキルカルボン酸化合物系陰イオン界面活性剤タイプ等の種々のAE剤、ヴィンソル(商品名、山宗化学社製)又は、マイクロ−エアー(Micro−Air,商品名、マスタービルダーズ社製)等を併用してもよい。
【0055】
上記AE剤の具体例としては、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステル又はその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステル又はその塩、蛋白質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネート等が挙げられる。
【0056】
上記消泡剤としては、具体的には、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールへプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2−エチルヘキシルエーテル、炭素原子数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−へキシン−2,5−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンステアリルリン酸エステル等のポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物等)、アルキレンオキシドを付加させた硬化牛脂アミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物等)等のポリオキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド;等が挙げられる。これらの消泡剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。消泡剤の添加時期は、重合開始前・重合中・重合後のいずれであってもよい。また添加割合は、超速硬性セメント組成物用ポリマーの全質量に対して、0.0001〜10質量%とすることが好ましい。
【0057】
上記オキシアルキレン系以外の消泡剤の具体例としては、燈油、流動パラフィン等の鉱油系消泡剤;動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等の油脂系消泡剤;オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等の脂肪酸系消泡剤;グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等の脂肪酸エステル系消泡剤;オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコ−ル、アセチレンアルコール、グリコール類等のアルコール系消泡剤;アクリレートポリアミン等のアミド系消泡剤;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等の金属石鹸系消泡剤;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等のシリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0058】
上記硬化促進剤の具体例としては、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等の可溶性カルシウム塩;塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物;硫酸塩;水酸化カリウム;水酸化ナトリウム;炭酸塩;チオ硫酸塩;ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩;アルカノールアミン;アルミナセメント;カルシウムアルミネートシリケート等が挙げられる。
【0059】
上記水溶性高分子化合物の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の非イオン性セルロースエーテル類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の多糖類のアルキル化又はヒドロキシアルキル化誘導体の一部又は全部の水酸基の水素原子が、炭素原子数8〜40の炭化水素鎖を部分構造として有する疎水性置換基と、スルホン酸基又はそれらの塩を部分構造として有するイオン性親水性置換基で置換されてなる多糖誘導体;酵母グルカンやキサンタンガム、β−1,3グルカン類(直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、一例を挙げれば、カードラン、パラミロン、パキマン、スクレログルカン、ラミナラン等)等の微生物発酵によって製造される多糖類;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;デンプン;デンプンリン酸エステル;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン;分子内にアミノ基を有するアクリル酸のコポリマー及びその四級化合物等が挙げられる。
【0060】
本発明はまた、超速硬性セメント組成物の製造方法であって、上記製造方法は、超速硬性セメント組成物を水/セメント比35質量%以下で混練する工程を含む超速硬性セメント組成物の製造方法でもある。本発明は更に、超速硬性セメント組成物の製造方法であって、上記製造方法は、15℃以下の雰囲気温度で混練、打設する工程を含む超速硬性セメント組成物の製造方法でもある。本発明においては、(1)水/セメント比35質量%以下で混練する工程のような低い水/セメント比で混練することにより、硬化後の超速硬性セメント組成物の強度を充分なものとすることができる。また、(2)15℃以下の雰囲気温度で混練、打設する工程のような低温雰囲気下で混練、打設することにより、超速硬性セメント組成物の需要が高い冬場においても、優れた速硬性と充分な可使時間を確保することができる。本発明の製造方法においては、上記(1)及び/又は(2)を含むものであればよく、各製造原料の添加方法や順序等は特に限定されるものではない。
上述した超速硬性セメント組成物は、上記(1)及び/又は(2)を含む製造方法により好適に製造することができる。また本発明の製造方法における好ましい形態等は、本発明の超速硬性セメント組成物において説明したのと同様である。
【発明の効果】
【0061】
本発明の超速硬性セメント組成物及び超速硬性セメント組成物用分散剤は、上述の構成よりなり、通常の温度雰囲気下だけでなく低温雰囲気下においても優れた流動性と可使時間及び初期強度発現性とを併せ持ち、速硬性を維持したまま作業性を向上させることができ、硬化物の強度及び耐久性を増進させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0063】
実施例に使用した材料、性能評価方法を下記に示す。
[使用材料]
(1)超速硬性セメント
ジェットセメント(住友大阪セメント(株)製)
(2)セメント分散剤
ポリアクリル酸系セメント分散剤(ポリエチレンオキシド鎖を持つポリアクリル酸系共重合体を含む分散剤。以下「ポリアクリル酸系分散剤」という。表1〜3において同じ。)
ナフタレン系分散剤:ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物(花王社 マイティ150)
ポリメタクリル酸系分散剤:特開2001−192250号公報の比較製造例3に準じて製造したポリメタクリル酸系共重合体
【0064】
ポリアクリル酸系分散剤1の製造方法
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応器に、水76.91g、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキシドを平均50モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル149.28gを仕込み、攪拌下に反応容器内を窒素置換して窒素雰囲気下で60℃まで加熱した。内温が60℃で安定したところで、過酸化水素0.23gと水11.01gとを含む過酸化水素水溶液を添加した。次に、アクリル酸20.17gを3時間、並びに、水40.74gにL−アスコルビン酸0.3g、3−メルカプトプロピオン酸0.79gを溶解させた水溶液を3.5時間かけて滴下した。その後、1時間引き続いて60℃に温度を維持し、重合反応を終了した。重合終了後、水酸化ナトリウムで中和、水で希釈し重合成分の濃度が40質量%になるように調整した。得られたポリアクリル酸系共重合体(1)の重量平均分子量を下記の条件により求めたところ、37000であった。
【0065】
ポリアクリル酸系分散剤2の製造方法
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応器に、水76.91g、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキシドを平均50モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル149.28gを仕込み、攪拌下に反応容器内を窒素置換して窒素雰囲気下で60℃まで加熱した。内温が60℃で安定したところで、過酸化水素0.23gと水11.01gとを含む過酸化水素水溶液を添加した。次に、アクリル酸14.49gを3時間、並びに、水40.74gにL−アスコルビン酸0.3g、3−メルカプトプロピオン酸0.79gを溶解させた水溶液を3.5時間かけて滴下した。その後、1時間引き続いて60℃に温度を維持し、重合反応を終了した。重合終了後、水酸化ナトリウムで中和、水で希釈し重合成分の濃度が40質量%になるように調整した。得られたポリアクリル酸系共重合体(2)の重量平均分子量を下記の条件により求めたところ、37000であった。
【0066】
重量平均分子量測定条件
機種:Waters LCM1
検出器:Waters 410示差屈折検出器
解析ソフト:Waters MILLENNIUM Ver.2.18
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合液に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶かし、更に30%水酸化ナトリウムでpH6に調整した溶離液を用いる。
溶離液流速:0.8ml/min
カラム温度:35℃
カラム:東ソー製 TSKgel GuardColumnSWXL+G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
標準物質:ポリエチレングリコール、重量平均分子量(Mw)272500、219300、85000、46000、24000、12600、4250、7100、1470
【0067】
(3)添加剤
ポリアルキレンイミンアルキレンオキサイド付加物(PAI/PAO付加物)
ポリアルキレンイミンアルキレンオキサイド付加物(PAI/PAO付加物)の製造方法攪拌機、圧力計および温度計を備えた圧力容器に、市販のポリエチレンイミン(重量平均分子量600:エチレンイミン付加モル数=14)40g、および、水素化ナトリウム0.1gを仕込み、130℃まで昇温し、内温が130℃で安定したところで、プロピレンオキサイド324.8g(付加モル数=6)を3時間かけて添加し、130℃にて5時間熟成した後、エチレンオキサイド3285.3g(付加モル数=80)を12時間かけて添加し、130℃にて2時間熟成した後に降温し、ポリエチレンイミン/アルキレンオキサイド付加物(PAI/PAO)を得た。
(4)凝結遅延剤
ジェットセッター(住友大阪セメント(株)製 ジェットセメント用凝結遅延剤)
(5)砂
6号珪砂(三久海運(株)製)
【0068】
[性能評価試験]
セメント組成物の性能評価試験を以下のように行った。
表1〜3に示した配合で、常温(20℃)下で材料をホバートミキサーで3分間混合し、得られたモルタルに対して、流動性の評価としてフロー値を測定した。可使時間の評価として、上記モルタルを所定時間静置してフロー値を測定することにより、フロー値の経時変化を評価した。初期強度発現性の評価として、上記モルタルの材齢3時間の圧縮強度を測定した。フロー値及び圧縮強度はJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。
【0069】
実施例1〜3及び比較例1〜7
[超速硬性セメント組成物の配合]
ジェットセメント1000g、6号珪砂1200gとを分散剤を添加した混練水380gで混練して超速硬性モルタルとした。
表1に実施例及び比較例において用いたセメント分散剤の種類と添加量、凝結遅延剤の添加量及び測定結果を示す。なお、表1〜3中、分散剤及び凝結遅延剤の添加量(C×%)は、セメントに対する質量%を表す。
【0070】
【表1】

【0071】
[性能評価試験結果の説明]
(1)流動性
本発明の超速硬性セメント組成物では従来のナフタレンスルホン酸塩のホルマリン結合物を主成分とする分散剤(ナフタレン系分散剤)を用いたセメント組成物に比較して少量の分散剤添加量で同一の流動性を確保できた。また、ナフタレン系分散剤を用いたセメント組成物では、添加量を増加してもフロー値は頭打ちになったが、本発明のセメント組成物では、分散剤の添加量を調節することによりナフタレン系分散剤を用いた場合には実現できないフロー値を得ることができた。
【0072】
ポリメタクリル酸系混和剤(ポリメタクリル酸系分散剤)は、一般にナフタレン系分散剤よりも高いセメント分散性能を有しているが、比較例6及び7のポリメタクリル酸系混和剤では、同一フローを得るための添加量がナフタレン系分散剤よりも多く必要であった。このことから、超速硬性セメント組成物に対しては、全てのポリカルボン酸系分散剤が効果的であるのではなく、本発明に掲げるような組成を持つものでなければ十分な効果を発揮できない場合があることが明らかになった。
【0073】
(2)流動保持性
本発明の超速硬性セメント組成物の流動保持性は、ナフタレン系分散剤を使用した場合に比べて、凝結遅延剤の量と初期流動性(0分時のモルタルフロー値)とが同一である場合、フロー値の経時変化が少なく作業性が長期にわたり良好であった。ナフタレン系分散剤で同様の流動保持性を持たせるには凝結遅延剤を増量する必要があった。
【0074】
(3)初期強度発現性
凝結遅延剤の量と初期流動性とが同一である場合、材齢3時間の圧縮強度は、本発明の超速硬性セメント組成物とナフタレン系分散剤を使用した場合とでは、ほぼ同一であった。このとき、前述したように流動保持性ではナフタレン系分散剤よりも優れる。ナフタレン系分散剤の流動保持性を、凝結遅延剤を増量することにより改善した場合、材齢3時間の圧縮強度は凝結遅延剤の増量により著しく低下し、流動保持性と初期強度発現性の両立は困難であることがわかった。一方、本発明の超速硬性セメント組成物では、ナフタレン系分散剤では実現できなかった高流動性を付与した場合であっても材齢3時間の圧縮強度は同等で初期強度発現性には何ら問題はなかった。
【0075】
実施例4〜6及び比較例8〜11
[超速硬性セメント組成物の配合]
混練水の使用量を表2に示す割合とし、モルタルフロー値を初期値のみ測定した他は、実施例1と同様に行った。
表2に本発明及び比較例の超速硬性セメント組成物における水/セメント比、分散剤の種類と添加量、凝結遅延剤の添加量及び測定結果を示す。
【0076】
【表2】

【0077】
[性能評価試験結果の説明]
(1)流動性
水/セメント比が34%のとき、本発明の超速硬性セメント組成物では混練が可能で、良好な流動性を示す一方、ナフタレン系分散剤を用いた場合は、混練不可能であった。
水/セメント比が38%のとき、本発明の超速硬性セメント組成物とナフタレン系分散剤を用いた場合とでは流動性は同等であったが、本発明の超速硬性セメント組成物では、分散剤の添加量が少量で同等の結果が得られた。すなわち、この場合は、本発明分散剤を用いる方が分散剤の削減効果において際立って優れていた。
(2)初期強度発現性
本発明の超速硬性セメント組成物では、水/セメント比を38%、34%、30%と低減させることにより、圧縮強度が段階的に向上した。
【0078】
実施例7及び比較例12
[性能評価試験]
5℃の雰囲気温度において実施する他は、実施例2と同様にして行った。
表3に本発明及び比較例の超速硬性セメント組成物における分散剤の種類と添加量、凝結遅延剤の添加量及び測定結果を示す。
【0079】
【表3】

【0080】
[性能評価試験結果の説明]
(1)流動性
本発明の超速硬性セメント組成物では従来のナフタレン系分散剤を使用する場合に比べて、少量の分散剤添加量で同一の流動性を確保できた。
(2)初期強度発現性
凝結遅延剤の量と初期流動性を同一にした場合、材齢3時間の圧縮強度はナフタレン系分散剤に比較して本発明の超速硬性セメント組成物で著しく増進した。
【0081】
実施例8及び比較例13
[性能評価試験]
以下に示す配合、条件で常温(20℃)下でコンクリート試験を行った。
水道水:160kg/m
セメント(ジェットセメント):400kg/m
細骨材(滋賀県野洲産 川砂):748kg/m
粗骨材(大阪府高槻産 砕石):1074kg/m
パン型ミキサーで、セメントと骨材を30秒空練りした後、水を投入し、120秒間混練。
表4に本発明及び比較例の超速硬性セメント組成物における分散剤の種類と添加量、凝結遅延剤の添加量、及び、測定結果を示す。
また表4に示す配合のセメント組成物について、上述と同様に初期強度発現性を評価した。
【0082】
【表4】

【0083】
[性能評価試験結果の説明]
(1)流動保持性
本発明の超速硬性セメント組成物の流動保持性は、ナフタレン系分散剤を使用した場合に比べて、スランプの経時変化も少なく、また、静置時のこわばりもなく良好であった。
(2)初期強度発現性
材齢3時間の圧縮強度は、本発明の超速硬性セメント組成物とナフタレン系分散剤を使用した場合とでは、ほぼ同一であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメント(A)とセメント分散剤(B)とを含んでなる超速硬性セメント組成物であって、
該セメント分散剤(B)は、
下記一般式(1);
【化1】

(式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基を表す。nは、平均付加モル数を表し、10〜300の数である。)で表される単量体に由来する繰り返し単位と、
下記一般式(2);
【化2】

(式中、Mは、水素原子、一価金属原子、二価金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)で表される単量体に由来する繰り返し単位とを有する共重合体を含むものである
ことを特徴とする超速硬性セメント組成物。
【請求項2】
前記超速硬性セメント組成物は、水/セメント比35質量%以下で混練して製造されることを特徴とする請求項1記載の超速硬性セメント組成物。
【請求項3】
前記超速硬性セメント組成物は、15℃以下の雰囲気温度で混練、打設されることを特徴とする請求項1又は2記載の超速硬性セメント組成物。
【請求項4】
前記超速硬性セメント(A)の必須成分であるカルシウムアルミネート類は、C11・CaX、CA、CA、CAS、CA、C・CaSO、C12、CAF及びCAF(式中、Cは、CaOを表す。Aは、Alを表す。Sは、SiOを表す(ただし、CaSOのSは、硫黄原子を示す。)。Fは、Feを表す。Xは、ハロゲン元素を表す。)及び非晶質カルシウムアルミネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超速硬性セメント組成物。
【請求項5】
前記超速硬性セメント組成物は、更に凝結遅延剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超速硬性セメント組成物。
【請求項6】
前記凝結遅延剤は、オキシカルボン酸化合物であることを特徴とする請求項5に記載の超速硬性セメント組成物。
【請求項7】
前記超速硬性セメント組成物は、更にポリアルキレンイミンにアルキレンオキサイドが付加してなる化合物を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の超速硬性セメント組成物。
【請求項8】
前記超速硬性セメント組成物は、高強度のセメントペースト、モルタル又はコンクリート用であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の超速硬性セメント組成物。
【請求項9】
請求項1〜8記載の超速硬性セメント組成物の製造方法であって、
該製造方法は、超速硬性セメント組成物を水/セメント比35質量%以下で混練する工程を含むことを特徴とする超速硬性セメント組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8記載の超速硬性セメント組成物の製造方法であって、
該製造方法は、15℃以下の雰囲気温度で混練、打設する工程を含むことを特徴とする超速硬性セメント組成物の製造方法。
【請求項11】
カルシウムアルミネート類を必須成分とする超速硬性セメントを分散するために用いるセメント分散剤であって、
該セメント分散剤は、
下記一般式(1);
【化3】

(式中、Rは、同一若しくは異なって、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基を表す。nは、平均付加モル数を表し、10〜300の数である。)で表される単量体に由来する繰り返し単位と、
下記一般式(2);
【化4】

(式中、Mは、水素原子、一価金属原子、二価金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)で表される単量体に由来する繰り返し単位とを有する共重合体を含むものである
ことを特徴とするセメント分散剤。

【公開番号】特開2007−91580(P2007−91580A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232033(P2006−232033)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】