説明

超電導ケーブル

【課題】 超電導導体を効率よく冷却すると共に、十分な絶縁強度を具える超電導ケーブル、及びこのケーブルに利用する冷媒の温度制御方法を提供する。
【解決手段】 断熱管15内に超電導材料からなる超電導導体1を具えるケーブルコア10を収納した超電導ケーブルである。ケーブルコア10は、超電導導体1の外周に低熱伝導管2Aを具え、低熱伝導管2Aの内外で用途が異なる冷媒が充填される。低熱伝導管2A内には、超電導導体1を超電導状態に維持するために冷却する導体用冷媒11が充填され、断熱管15内には、超電導導体1の電気絶縁を行う絶縁用冷媒12が充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導材料からなる超電導導体を具える超電導ケーブル、及びこの超電導ケーブルに利用する冷媒の温度制御方法に関するものである。特に、超電導導体を効率よく冷却することができると共に、十分な絶縁強度を具える超電導ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の超電導ケーブルとして、超電導導体を有するケーブルコアを断熱管内に収納させた構成のものが知られている。このような超電導ケーブルとして、例えば、断熱管内に1条のケーブルコアを収納した単心ケーブルや、3条のケーブルコアを撚り合わせて一括に収納した三心一括型のものがある。図5は、三心一括型の三相交流用超電導ケーブルの断面図である。この超電導ケーブル100は、断熱管101内に3条のケーブルコア102を撚り合わせて収納させたケーブルである。断熱管101は、外管101aと内管101bとからなる二重構造であり、両管101a,101b間に断熱材(図示せず)が配置され、かつ両管101a,101b間を真空引きされた構成である。各ケーブルコア102は、中心から順にフォーマ200、超電導導体201、電気絶縁層202、超電導シールド層203、保護層204からなり、内管101bと各ケーブルコア102とで囲まれる空間103が冷媒の流路となる。断熱管101の外周に配置される層は、防食層104である。
【0003】
ケーブルコア102の超電導導体201や超電導シールド層203は、空間103に流通される冷媒により冷却されて、超電導状態が維持される。このような冷媒として液体窒素がよく知られている。また、特許文献1には、中空のフォーマを利用し、フォーマ内に流通させる冷媒として液体空気を用い、断熱管内に流通させる冷媒として液体窒素を用いた超電導ケーブルが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−202837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体窒素は、冷却能力だけでなく、高い電気絶縁性能を有する。そのため、冷媒として液体窒素を利用することで、冷却及び電気絶縁の機能を果たすことができる。また、冷媒として液体窒素を用いた場合、超電導シールド層にシールド電流が十分に流れ、EMI(電磁干渉)問題を回避することができる。従って、従来の超電導ケーブルでは、超電導導体の冷却及び電気絶縁、EMI問題の回避を行うべく、通常、液体窒素を冷媒としている。
【0006】
ここで、超電導ケーブルでは、超電導導体の温度がより低温に維持されるほど臨界電流が大きく、超電導状態が良好に保持される。そのため、超電導導体を形成する超電導材料の使用量が同じ2条のケーブルがある場合、超電導導体を冷却する冷媒の温度が低いケーブルの方が臨界電流が大きくなり、より大きな電力を送電することができる。或いは、送電電力が同じ2条のケーブルがある場合、超電導導体を冷却する冷媒の温度が低いケーブルの方が超電導導体の形成に使用する超電導材料の量を少なくでき、超電導導体の径を小さくすることができる。また、超電導シールド層の形成に使用する超電導材料の量も少なくできる。従って、より低温の冷媒を用いることで、送電電力の増大や、超電導材料の使用量の低減などを図れる。しかし、従来の超電導ケーブルにおいて冷媒として液体窒素を用い、液体窒素の温度をより低くして送電電力の増大や、超電導導体の小径化を図ろうとすると、液体窒素の温度をより低温にするべく、冷却能力が高い冷却装置を用いなくてはならず、エネルギー効率がよくない。また、冷媒として液体窒素を使用している場合、低くできる温度に限界がある。
【0007】
一方、特許文献1に記載の超電導ケーブルは、フォーマ内に流通させる冷媒として液体空気を利用することで、冷媒として液体窒素を用いた場合と比較して超電導導体をより低温に冷却する構成である。しかし、超電導導体を冷却する冷媒として、液体空気以外の冷媒については検討されていない。また、この文献1の技術では、中空のフォーマのみを検討しており、中実のフォーマの場合については検討されていない。
【0008】
そこで、本発明の主目的は、送電電力を増大化したり、超電導材料の使用量を低減しながら、超電導導体の冷却と電気絶縁とを十分に行うことができる超電導ケーブルを提供することにある。また、本発明の他の目的は、中実のフォーマを用いていても、超電導導体の冷却及び電気絶縁を十分に行うことができる超電導ケーブルを提供することにある。更に、本発明の他の目的は、この超電導ケーブルに用いる冷媒の温度制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一つの冷媒で超電導導体の冷却及び電気絶縁を行うのではなく、超電導導体を冷却するための冷媒と、超電導導体の電気絶縁を行う冷媒とを分けて具えることで上記目的を達成する。具体的には、本発明は、超電導導体と電気絶縁層との間に熱伝導率が低い部材を配置し、この部材の内外で、導体冷却用の冷媒と電気絶縁用の冷媒とを分離する構成である。即ち、本発明は、ケーブルコアが収納される断熱管を具える超電導ケーブルであり、このケーブルコアは、超電導材料からなる超電導導体と、前記超電導導体の外周に配置される低熱伝導管と、前記低熱伝導管の外周に配置される電気絶縁層と、前記電気絶縁層の外周に配置され、超電導材料からなる外部超電導層とを具える。そして、上記低熱伝導管内には、上記超電導導体を超電導状態に冷却する導体用冷媒を流通させ、上記断熱管内には、上記超電導導体の電気絶縁を行う絶縁用冷媒を満たす。特に、導体用冷媒の温度は、絶縁用冷媒よりも低温とすることが好適である。以下、本発明をより詳しく説明する。
【0010】
本発明超電導ケーブルは、断熱管内にケーブルコアを具える。このケーブルコアは、超電導導体、低熱伝導管、電気絶縁層、外部超電導層を具えるものとし、コアの外周面と断熱管の内周面との間に空隙を有するように断熱管内に収納配置する。断熱管に収納するケーブルコアは、1条(単心(1心))としてもよいし、複数条(複数心)としてもよい。具体的には、例えば、本発明超電導ケーブルを3相交流送電に用いる場合、3条のコアを撚り合わせて断熱管に収納するとよく、単相交流送電に用いる場合、1条のコアを断熱管に収納するとよい。本発明超電導ケーブルを直流送電(単極送電)に用いる場合、例えば、1条を断熱管に収納するとよく、直流送電(双極送電)に用いる場合、2条のコア又は3条のコアを撚り合わせて断熱管に収納するとよい。このように本発明超電導ケーブルは、直流送電、交流送電のいずれにも利用することができる。
【0011】
ケーブルコアに具える超電導導体は、超電導材料にて形成する。超電導材料としては、例えば、Bi系酸化物材料、より具体的には、Bi2223を含有する酸化物材料が挙げられる。超電導導体は、このような酸化物超電導材料からなる複数本のフィラメントが銀シースなどのマトリクス中に配されたテープ状線材をフォーマ上に螺旋状に巻回して層状に形成することが挙げられる。巻回層は、単層でも多層でもよく、多層の場合、層間絶縁層を設けてもよい。層間絶縁層の形成は、クラフト紙などの絶縁紙やPPLP(住友電気工業株式会社 登録商標)などの半合成絶縁紙を巻回することが挙げられる。フォーマは、超電導導体の形状維持部材として機能するものであり、銅やアルミニウムなどの金属材料にて形成した中実体又は中空体が利用できる。中空体のフォーマとしては、例えば、スパイラル鋼帯や金属管などが挙げられる。金属管は、表面が平滑なフラット管でもよいし、表面に凹凸を有するコルゲート管としてもよい。フォーマとしてコルゲート管を用いる場合、可撓性に優れて好ましい。中空体のフォーマを利用する場合、後述する導体用冷媒は、少なくともフォーマ内に充填して、超電導導体を冷却する。中実体のフォーマとしては、例えば、銅線などの金属線を複数本撚り合わせた構成が挙げられる。銅線などの金属線は、絶縁被覆されたものを利用してもよい。コルゲート管や金属線の撚り合わせ構造などのように表面に凹凸があるフォーマを利用する場合、超電導材料からなる線材が巻回しにくいことが考えられる。また、超電導線材及びフォーマの双方が共に金属で形成されていることで、両者を直接接触させると、超電導線材が損傷するなどの不具合が生じる恐れもある。このような不具合を回避するべく、フォーマの表面にクラフト紙やカーボン紙などを巻回して表面を平滑にするクッション層を設けてもよい。
【0012】
上記超電導導体の外周には、低熱伝導管を配置し、低熱伝導管内に超電導導体を冷却するための導体用冷媒(後述)を流通させる。また、この低熱伝導管の外部(断熱管(後述)内)に超電導導体の電気絶縁を行うための絶縁用冷媒(後述)を充填する。即ち、低熱伝導管は、導体用冷媒と絶縁用冷媒とを区画する部材として機能し、同管の内外で両冷媒が流通し合うことを防止する。この低熱伝導管は、超電導導体の直上に超電導導体と接するように設けてもよいし、同管として、その内径が超電導導体の外径よりも大きなものを利用し、同管の内周面と超電導導体の外周面との間に隙間を有するように同管内に超電導導体を挿入配置してもよい。超電導導体の直上に低熱伝導管を形成する場合、フォーマは中空体を用い、フォーマ内に後述する導体用冷媒を充填して、超電導導体の冷却を行う。この場合、低熱伝導管の内側において導体用冷媒が流通され、同管自体は導体用冷媒と接触しない構成である。上記低熱伝導管と超電導導体との間に隙間を有するように低熱伝導管を形成する場合、フォーマは中実体でも中空体でもよく、中実体の場合、同隙間に導体用冷媒を充填する、即ち、低熱伝導管内に導体用冷媒を充填する。この場合、低熱伝導管自体が導体用冷媒と接触する構成である。中空体の場合、フォーマ内及び上記低熱伝導管と超電導導体との間の隙間の双方に導体用冷媒を充填してもよいし、フォーマ内のみに導体用冷媒を充填してもよい。後者の場合、上記隙間は、フォーマ内の導体用冷媒の熱が低熱伝導管の外部にある程度伝わって、絶縁用冷媒を冷却できるように、真空度の低い真空状態としてもよいし、導体用冷媒と同程度に冷却した導体用冷媒と異なる流体を充填してもよい。
【0013】
上記低熱伝導管は、熱伝導性が低いものとする。熱伝導性が低いとは、具体的には、ケーブルコアを収納する断熱管よりも断熱性能が低いものとする。低熱伝導管の熱伝導性が高過ぎる、即ち、熱が伝わり過ぎる低熱伝導管であると、同管に流通させる導体用冷媒が絶縁用冷媒よりも低温である場合、導体用冷媒により同管の外側に存在する絶縁用冷媒が冷却されて固化し、過剰に固化することで絶縁用冷媒の流通上好ましくない恐れがある。或いは、導体用冷媒が絶縁用冷媒よりも低温の液体の場合、絶縁用冷媒により導体用冷媒が温められて気化し、導体用冷媒の体積が増加し過ぎると好ましくない恐れがある。そこで、低熱伝導管の熱伝導性は、導体用冷媒が過剰に気化したり、絶縁用冷媒が過剰に固化したりすることで、ケーブルの運転に支障を来たさない程度に高いものとする。本発明ケーブルは、このような熱伝導性を有する低熱伝導管を具えることで、同管の内側と外側間において、同管の内側から外側に向かって温度が比較的緩やかに高くなるような温度勾配を形成することができる。従って、絶縁用冷媒の熱損失を導体用冷媒により補償することが可能である。即ち、絶縁用冷媒が侵入熱により温度が上昇しても、導体用冷媒により冷却されることで絶縁用冷媒の温度上昇を低減することができる。
【0014】
このような低熱伝導管は、例えば、断熱性能を低くした断熱構造管を利用したり、熱伝導率が低い材料にて管状に形成することが挙げられる。断熱性能を低くするには、例えば、低熱伝導管を内管、外管の二重構造とし、両管の間に配置する断熱材の量を少なくして両管の間を真空引きしたり、断熱材を全く用いないで両管の間を真空引きしたり、両管の間を低真空度に真空引きしたりすることが挙げられる。熱伝導率が低い材料としては、例えば、一般に熱伝導率が高いとされる金属よりも熱伝導率が低い樹脂が挙げられる。具体的な樹脂としては、テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂やFRP(繊維強化プラスチック)などが挙げられる。このような材料を中空の管状(筒状)に形成し、同管内にフォーマ上に形成された超電導導体を挿通配置してもよいし、上記樹脂材料を超電導導体の直上に押し出して被覆することで低熱伝導管を形成してもよい。また、低熱伝導管は、金属管と樹脂管とを複合させた構造としてもよい。
【0015】
低熱伝導管上には、電気絶縁層を設ける。電気絶縁層は、低熱伝導管の直上にPPLP(登録商標)などの半合成絶縁紙やクラフト紙などの絶縁紙を巻回して形成することが挙げられる。好ましくは、低熱伝導管の直上には、導体電位となる電極部を設けておく。電極部を設けた場合は、電極部の上に電気絶縁層を設ける。電極部は、銅などの導電性材料にて形成することが挙げられる。この電気絶縁層の内外周の少なくとも一方、つまり低熱伝導管(又は電極部)と電気絶縁層との間や、電気絶縁層と外部超電導層(後述)との間に半導電層を形成してもよい。前者の内部半導電層、後者の外部半導電層を形成することで、低熱伝導管と電気絶縁層間、又は電気絶縁層と外部超電導層間での密着性を高め、部分放電の発生などに伴う劣化を抑制する。半導電層は、カーボン紙などにて形成することが挙げられる。
【0016】
本発明超電導ケーブルを直流送電に用いる場合、上記電気絶縁層には、その径方向(厚さ方向)の直流電界分布が平滑化されるように、電気絶縁層の内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるようにρグレーディングを施してもよい。このようにρグレーディングを施して、電気絶縁層の厚さ方向において段階的に抵抗率を異ならせることで、電気絶縁層の厚さ方向全体の直流電界分布を平滑化でき、電気絶縁層の厚みを低減することができる。抵抗率を異ならせる層数は、特に問わないが、実用的には、2,3層程度である。特に、これら各層の厚みを均等にすると、直流電界分布の平滑化をより効果的に行える。
【0017】
ρグレーディングを施すには、抵抗率(ρ)の異なる絶縁材料を用いるとよく、例えば、クラフト紙といった絶縁紙を利用する場合、クラフト紙の密度を変化させたり、クラフト紙にジシアンジアミドを添加するなどにより、抵抗率を変えることができる。絶縁紙とプラスチックフィルムからなる複合紙、例えばPPLP(登録商標)の場合、複合紙全体の厚みTに対するプラスチックフィルムの厚みtpの比率k=(tp/T)×100を変えたり、絶縁紙の密度、材質、添加物などを変えることにより、抵抗率を変えることができる。比率kの値は、例えば40%〜90%程度の範囲が好ましい。通常、比率kが大きいほど抵抗率ρが大きくなる。
【0018】
更に、電気絶縁層は、超電導導体の近傍に、他の箇所よりも誘電率が高い高ε層を有すると、直流耐電圧特性の向上に加えて、Imp.耐圧特性も向上させることができる。なお、誘電率ε(20℃)は一般的なクラフト紙で3.2〜4.5程度、比率kが40%の複合紙で2.8程度、同60%の複合紙で2.6程度、同80%の複合紙で2.4程度である。特に、比率kが高く、かつ気密度も高めのクラフト紙を用いた複合紙により電気絶縁層を構成すれば、直流耐電圧とImp.耐圧の双方に優れて好ましい。
【0019】
上記ρグレーディングに加えて、電気絶縁層は、その内周側ほど誘電率εが高く、外周側ほど誘電率εが低くなるように構成すると、交流送電にも適したケーブルとなる。このεグレーディングも電気絶縁層の径方向全域に亘って形成する。また、上述のようにρグレーディングを施すことで本発明超電導ケーブルは、直流特性に優れたケーブルとなり、直流送電に好適に利用することができる。一方、現行の送電線路は、大半が交流で構成されている。今後、送電方式を交流から直流へ移行することを考えた場合、直流送電に移行する前に過渡的に本発明ケーブルを用いて交流を送電するケースが想定される。例えば、送電線路の一部のケーブルを本発明超電導ケーブルに交換したが残部が交流送電用ケーブルのままであるとか、送電線路の交流送電用ケーブルを本発明超電導ケーブルに交換したが、ケーブルに接続される送電機器は交流用のままとなっている場合などである。この場合、本発明ケーブルで過渡的に交流送電を行い、その後、最終的に直流送電に移行されることになる。そのため、本発明ケーブルにおいては、直流特性に優れているのみならず、交流特性をも考慮した設計とすることが好ましい。交流特性をも考慮した場合、内周側ほど誘電率εが高く、外周側ほど誘電率εが低い電気絶縁層とすることで、サージなどのインパルス特性に優れたケーブルを構築することができる。そして、上記過渡期が過ぎて直流送電が行われることになった場合には、過渡期に用いていた本発明ケーブルをそのまま直流ケーブルとして利用することができる。即ち、ρグレーディングに加えてεグレーディングを施した本発明ケーブルは、直流送電用、交流送電用のそれぞれに好適に利用できるだけでなく、交流直流両用のケーブルとして好適に利用することができる。
【0020】
通常、上述したPPLP(登録商標)は、比率kを高くすると高ρ低εとなる。そのため、電気絶縁層の外周側ほど比率kの高いPPLP(登録商標)を用いて電気絶縁層を構成すれば、外周側ほど高ρになり、同時に外周側ほど低εにできる。
【0021】
一方、クラフト紙は、一般に気密度を高くすると高ρ高εになる。そのため、クラフト紙だけで外周側ほど高ρであると共に外周側ほど低εの電気絶縁層を構成することは難しい。そこで、クラフト紙を用いる場合は、複合紙と組み合わせて電気絶縁層を構成することが好適である。例えば電気絶縁層の内周側にクラフト紙層を形成し、その外側にPPLP層を形成することで、抵抗率ρはクラフト紙層<PPLP層となり、誘電率εはクラフト紙層>PPLP層となるようにすればよい。
【0022】
上記電気絶縁層(又は外部半導電層)上には、外部超電導層を設ける。この外部超電導層は、電磁干渉を防止するべく、超電導導体に流れる電流とほぼ同じ大きさで逆向きの電流(シールド電流)を流すシールド層として機能させる。この外部超電導層に流れる電流によりつくられる磁界にて、超電導導体に流れる電流によりつくられる磁界を打ち消し、電磁干渉を回避することができる。また、本発明超電導ケーブルを直流送電に利用する場合、この外部超電導層を帰路導体(単極送電)、或いは中性線層(双極送電)として利用してもよい。特に、双極送電を行う場合、この外部超電導層は、正極と負極でアンバランスが生じた際のアンバランス電流を流したり、一方の極に異常が生じて双極送電から単極送電に変更する際、超電導導体に流れる送電電流と同等の電流を流す帰路導体に利用できる。このような外部超電導層は、超電導材料にて形成する。超電導材料は、超電導導体と同様のものを用いて、超電導導体と同様に超電導線材を巻回して形成してもよい。この外部超電導層上には、電気絶縁を兼ねた保護層を設けていてもよい。保護層は、外部超電導層の直上にクラフト紙などを巻回して形成することが挙げられる。
【0023】
上記構成を具えるケーブルコアは、断熱管内に収納配置する。断熱管内に設けられた空隙、即ち、断熱管の内周面とコアの外周面とで囲まれる空間には、後述する絶縁用冷媒を充填する。断熱管に満たされた絶縁用冷媒は、保護層、外部超電導層、電気絶縁層に順に浸漬することで、外部超電導層を冷却して超電導状態を維持しながら、電気絶縁層と共に超電導導体の電気絶縁を行う。従って、本発明超電導ケーブルは、電気絶縁層及び絶縁用冷媒により十分な電気絶縁が行われると共に、本発明ケーブルを交流送電に利用する際、外部超電導層には、超電導導体から誘導されるシールド電流が十分に流れ、電磁干渉を低減する、或いは回避することができる。また、本発明ケーブルを直流送電のうち単極送電に利用する際、外部超電導層を帰路導体とすることで、外部超電導層をシールドとしても機能させることができ、電磁干渉の低減又は回避を図ることができる。なお、本発明ケーブルを直流送電のうち双極送電に利用する場合は、正極送電に利用されるコアと、負極送電に利用されるコアとが同一の断熱管に収納されるというように両コアが近接して配置されることで互いに磁界を打ち消し合うことができるため、ケーブル外部への漏れ磁場がほとんどない。
【0024】
上記断熱管は、同管の外部から同管の内部への侵入熱によって同管の内部に満たされる絶縁用冷媒の温度の上昇を抑制するべく、上記低熱伝導管と異なり、断熱性能が高い構成とする。例えば、断熱管は、外管と内管とからなる二重構造で、両管の間に断熱材を具えると共に、高い真空度で真空引きした構成が挙げられる。このとき、内管内に絶縁用冷媒を充填する。このような断熱管は、可撓性を有するコルゲート管を利用することが好ましい。特に、強度に優れるステンレスなどの金属材料にて形成されたものが好ましい。
【0025】
本発明の最も特徴とするところは、超電導導体の冷却用に導体用冷媒を利用し、超電導導体の電気絶縁用に上記導体用冷媒と異なる絶縁用冷媒を用いることにある。導体用冷媒は、超電導導体を超電導状態に維持できる冷却能力を有するものであればよいが、特に、より低温なものほど超電導導体の超電導状態を良好に保持してより大きな電力を得ることができる、或いは超電導導体に使用する超電導材料を低減して同導体のコンパクト化が可能になる。そのため、導体用冷媒は、より低温なものが好ましく、特に、絶縁用冷媒よりも低温の冷媒が適する。一方、絶縁用冷媒は、超電導導体の電気絶縁を行うのに十分な絶縁性能を有すると共に、外部超電導層を冷却して超電導状態を維持するのに十分な冷却能を有するものを用いる。
【0026】
導体用冷媒は、絶縁用冷媒よりも低温であれば、絶縁用冷媒と同種の冷媒でもよい。例えば、絶縁用冷媒として電気絶縁強度に優れる液体窒素を用いる場合、絶縁用冷媒は、沸点近傍の75〜77K程度の液体窒素を用い、導体用冷媒は、より低温にした液体窒素、例えば、融点近傍の63〜65K程度を用いてもよい。
【0027】
導体用冷媒と絶縁用冷媒とは異種の冷媒でもよく、例えば、絶縁用冷媒を液体窒素とし、導体用冷媒として、液体窒素以外のより低温な流体を用いてもよい。このようなより低温の流体として、例えば、液体ヘリウムや液体水素、液体空気、液体ネオン、その他、液体窒素よりも低温にした液体酸素、液体窒素よりも低温にしたヘリウムガス、液体窒素よりも低温にした水素ガス、液体窒素よりも低温にした液体水素と水素ガスの混合流体が挙げられる。導体用冷媒として、液体を利用する場合、通電による超電導導体の発熱により液体が気化することが考えられる。冷媒が気化した際、体積膨張が著しいと、最悪の場合、超電導導体が破壊される恐れがある。そこで、このような事故を防止するべく、予め低温にしたガスを利用してもよいし、ガスを混合した流体を利用してもよい。或いは、上記気化が起こらないような温度に導体用冷媒を保持しておいてもよい。
【0028】
液体水素や水素ガス、或いはこれらの混合流体を導体用冷媒として利用する場合、本発明超電導ケーブルは、圧縮水素や液体水素を貯留する水素ステーションや液体水素を製造する水素プラントで用いられている各種電力機器への電力供給に利用すると、導体用冷媒を同ステーションや同プラントに具える水素貯留タンクから流用することができて好ましい。これらステーションやプラントでは、貯留する液体水素を適切な温度に保持するべく冷却装置を具え、温度調整を適宜行っている。そのため、上記液体水素などを導体用冷媒として利用する本発明超電導ケーブルを用いた線路を上記水素ステーションや水素プラントに構築した際、導体用冷媒の冷却装置を別途具えていなくてもよく、これらステーションなどに具える冷却装置を導体用冷媒の冷却装置としても利用することができる。或いは、導体用冷媒の温度を微調整するための温度調整装置を具えるだけで導体用冷媒に用いる水素ガスや液体水素、或いはこれらの混合流体を所定の温度に維持することができる。従って、この構成を具える本発明超電導ケーブルは、エネルギー効率をより向上させることができる。
【0029】
上記のように導体用冷媒は、絶縁用冷媒よりも低温であり、絶縁用冷媒をある程度冷却することができる程度の熱伝導性を有する低熱伝導管(或いは、低熱伝導管内に配置されるフォーマ)内に充填される。この構成により、低熱伝導管の外部に存在する絶縁用冷媒を冷却することができる。即ち、導体用冷媒を絶縁用冷媒の冷却材として使用することができる。従って、導体用冷媒の温度を調整したり、導体用冷媒の循環条件を調整したり、低熱伝導管の材料特性や低熱伝導管の断熱性能などにより低熱伝導管の熱伝導特性を調整することで、絶縁用冷媒の冷却程度を調整して絶縁用冷媒の温度調節を行い、絶縁用冷媒の温度をほぼ一定に保持することが可能である。このように絶縁用冷媒の温度調整に、導体用冷媒の温度制御や循環条件、低熱伝導管の材料特性や断熱性能を利用することで、絶縁用冷媒を所定の温度に冷却するにあたり、冷却装置を不要、或いは冷却能力が低い冷却装置とすることができる。また、絶縁用冷媒の温度変化が若干である場合、絶縁用冷媒の流量や温度の微調整を行える程度の温度調整機構を具えるだけでよい。ここで、超電導ケーブル線路を構築する場合、線路には冷媒を冷却するための冷凍機や冷媒を圧送させるためのポンプなどが適宜具えられ、これらの機器により冷媒が適切な温度で循環されるように循環路の大きさ(冷却区間)が決められる。上記のように絶縁用冷媒の温度調節に対し、大掛かりな設備を簡易なものとすることができることで、本発明超電導ケーブルで線路を構築する場合、1冷却区間長を長尺化すると共に、設備の簡易化を図ることができる。
【0030】
低熱伝導管の材料の熱伝導率や断熱性能は、使用する導体用冷媒、絶縁用冷媒により適宜変化させるとよい。熱伝導率は、材料により異ならせることができる他、低熱伝導管の厚みを変化させることでも異ならせることができる。断熱性能は、上記のように断熱材の使用量や真空度などを変化させることで異ならせることができる。導体用冷媒の循環条件の調整としては、循環時間や循環量などを調整することが挙げられる。例えば、導体用冷媒を随時循環させることで、絶縁用冷媒を十分に冷却できる場合、絶縁用冷媒は、循環させなくてもよいし、循環させてもよい。また、導体用冷媒を随時循環させることで、絶縁用冷媒が冷却されすぎる場合、導体用冷媒の流量を少なくするなどして調整したり、随時循環させるのではなく停止と循環とを繰り返すようにしてもよい。このとき、絶縁用冷媒は、循環させなくてもよい。なお、導体用冷媒により絶縁用冷媒を冷却することで、絶縁用冷媒の一部、特に、低熱伝導管に接触している箇所では、絶縁用冷媒が固化することが考えられる。本発明では、超電導導体の電気絶縁に十分な絶縁性能を有し、運転に支障を来たさない程度に絶縁用冷媒を流通させることが可能であれば、絶縁用冷媒の固化を許容する。
【0031】
更に、導体用冷媒をより低温とすることで臨界電流値を大きくすることができるため、短絡などの事故時に大電流が超電導導体に流れても、超電導導体が破壊するなどの不具合が生じない、或いは、導体用冷媒の流量を増大して超電導導体を速やかに所定の温度に冷却することができるため、上記不具合を防止することができる。
【0032】
このような本発明超電導ケーブルは、各種電力機器や需要家などへの電力供給用ケーブルとしての利用に適する。特に、上記のように液体水素などの流体プラントやステーションなどに具えられる各種電力機器の電力供給に本発明ケーブルを利用する場合、プラント内などの流体を導体用冷媒に利用することができ、ケーブル線路の構築に際し、導体用冷媒の冷却装置を別途設けなくてもよい。そのため、本発明超電導ケーブルは、エネルギー効率に優れたケーブル線路を提供できる。
【0033】
また、本発明超電導ケーブルは、直流送電、交流送電のいずれにも利用することができる。3相交流送電を行う場合、本発明ケーブルは、上記ケーブルコアを3条撚り合わせて断熱管に収納した3心ケーブルとし、各コアの超電導導体をそれぞれ相の送電に利用し、各コアの外部超電導層をシールド層として利用するとよい。単相交流送電を行う場合、本発明ケーブルは、上記ケーブルコアを1条断熱管に収納した単心ケーブルとし、このコアの超電導導体を相の送電に利用し、外部超電導層をシールド層として利用するとよい。単極直流送電を行う場合、本発明ケーブルは、上記ケーブルコアを1条断熱管に収納した単心ケーブルとし、このコアの超電導導体を往路導体に利用し、外部超電導層を帰路導体として利用するとよい。双極直流送電を行う場合、本発明ケーブルは、上記ケーブルコアを2条断熱管に収納した2心ケーブルとし、一つのコアの超電導導体を正極送電に利用し、他のコアの超電導導体を負極送電に利用し、両コアの外部超電導層を中性線層として利用するとよい。
【発明の効果】
【0034】
上記構成を具える本発明超電導ケーブルは、超電導導体の超電導状態を良好に維持して、送電電力の増大或いは超電導導体の小径化を図ることができると共に、電気絶縁を十分に行うことができるという優れた効果を奏する。また、超電導導体を小径化した場合、本発明超電導ケーブルは、導体用冷媒の流通路を十分に確保することができる。更に、導体用冷媒を利用して絶縁用冷媒の温度制御を行うことで、本発明超電導ケーブルを用いて線路を構築する際、絶縁用冷媒のための冷却装置を不要としたり、簡単な温度調節機構を具えるだけで絶縁用冷媒を所定の温度に保持することができる。加えて、本発明超電導ケーブルを水素プラントや水素ステーションなどにおいて電力供給に利用し、導体用冷媒として液体水素や低温の水素ガスを利用する場合、導体用冷媒の冷却には、プラントなどに具える設備を利用することができるため、別途導体用冷媒の冷却装置を不要とすることができる。
【0035】
本発明超電導ケーブルに具えるコアにおいて、ρグレーディングを施した電気絶縁層とすることで、電気絶縁層の厚さ方向の全体にわたって直流電界分布を平滑化して、直流耐電圧特性を改善し、電気絶縁層の厚みを減少することができる。ρグレーディングに加えて超電導導体の近傍が高εとなるように電気絶縁層を設けることで、上述した直流耐電圧特性の向上に加えて、Imp.耐圧特性も向上できる。特に、電気絶縁層の内周側ほど高εとし外周側ほど低εとすることで、本発明超電導ケーブルは、交流の電気特性にも優れたケーブルとすることができる。そのため、本発明超電導ケーブルは、直流送電用、交流送電用のそれぞれに好適に利用できるだけでなく、送電方式を交流と直流の間で変更する過渡期においても好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0037】
図1は、本発明超電導ケーブルの概略断面図である。以下、図において同一符号は同一物を示す。本発明超電導ケーブルは、断熱管15内に超電導材料からなる超電導導体1を具えるケーブルコア10を収納したものであり、ケーブルコア10は、超電導導体1の外周に低熱伝導管2Aを具える。そして、低熱伝導管2A内には、超電導導体1を超電導状態に維持するために冷却する導体用冷媒11が充填され、断熱管15内には、超電導導体1の電気絶縁を行う絶縁用冷媒12が充填される。即ち、この超電導ケーブルは、低熱伝導管2Aの内外に用途の異なる冷媒を具え、この管2Aにより、両冷媒を区画する構成である。
【0038】
本例で利用した超電導ケーブルは、断熱管15に3条のケーブルコア10を撚り合わせて収納させた構成であり、各コア10は、基本的な構成は図5に示す従来の超電導ケーブルと同様であり、超電導導体1の外周(超電導導体1と電気絶縁層4との間)に低熱伝導管2Aを具える点が異なる。具体的には、ケーブルコア10は、中心から順にフォーマ3A、超電導導体1、低熱伝導管2A、電気絶縁層4、外部超電導層5、保護層6を具える。なお、本例では、3心としたが、1心や2心としてもよい。このことは、以下の実施例についても同様である。また、図1では示していないが、低熱伝導管2Aの直上に、導体電位となる電極部を設けている。
【0039】
超電導導体1及び外部超電導層5は、Bi2223系酸化物からなる超電導テープ線(Ag-Mnシース線)にて形成した。超電導導体1はフォーマ3A上に、外部超電導層5は電気絶縁層4上にそれぞれ上記超電導テープ線を螺旋状に巻回して構成した。フォーマ3Aは、銅線を複数本撚り合わせた中実体とした。フォーマ3Aと超電導導体1との間には、絶縁紙によりクッション層(図示せず)を形成した。電気絶縁層4は、低熱伝導管2A上に半合成絶縁紙(PPLP:住友電気工業株式会社 登録商標)を巻回して構成した。電気絶縁層4の内周側(電極部上)に内部半導電層、同外周側(外部超電導層5下)に外部半導電層を設けてもよい。保護層6は、外部超電導層5上にクラフト紙を巻回して設けた。このようなケーブルコア10を3条用意し、熱収縮に必要な収縮代を有するように弛みを持たせて撚り合わせ、断熱管15内に収納している。
【0040】
超電導導体1の外周に配置される低熱伝導管2Aは、FRP製管であり、その内径を超電導導体1の外径よりも大きくしている。従って、低熱伝導管2Aの内部にフォーマ3A上に設けた超電導導体1を挿通配置した際、管2Aの内周面と超電導導体1の外周面との間に空隙が設けられる。この低熱伝導管2A内の空隙に導体用冷媒11を充填して、超電導導体1の冷却を行う。本例では、導体用冷媒11として、液体水素(使用温度約20K)を用いた。なお、導体用冷媒11は、絶縁用冷媒12よりも低温であればよく、例えば、20〜50K程度に冷却した水素ガスや、同水素ガスと液体水素との混合流体を利用してもよい。そして、この低熱伝導管2Aは、管2Aの外部から内部への熱伝導(熱侵入)をある程度を許容する熱伝導性を有する。また、この低熱伝導管2Aは、導体用冷媒11と絶縁用冷媒12とが混合されないように両冷媒11,12を分離する機能を有する。即ち、低熱伝導管2A内から外部へ、或いは外部から内部へ冷媒が流入することを防止する。
【0041】
ケーブルコア10の外周に配置される断熱管15は、SUS製コルゲート管であり、外管15aと内管15bとからなる二重管の間に断熱材(図示せず)を多層に配置し、かつ外管15aと内管15bとの間を高真空度で真空引きした真空多層断熱構成である。従って、上記低熱伝導管2Aと異なり、断熱管15の外部への熱伝導、或いは管15外部からの熱伝導を実質的に許容しない。断熱管15のうち、内管15b内において管15bの内周面と3心のケーブルコア10の外周面とで囲まれる空間に絶縁用冷媒12を充填して、超電導導体1の電気的絶縁を行うと共に、外部超電導層5の冷却を行う。本例では、絶縁用冷媒12として液体窒素(使用温度約77K)を利用した。なお、断熱管15上に具える層は、防食層16である。
【0042】
上記構成を具える本発明超電導ケーブルは、超電導導体の冷却と、超電導導体の電気的絶縁とに異なる冷媒を用い、特に、超電導導体の冷却用冷媒(導体用冷媒)は、絶縁用冷媒よりも低温の冷媒とすることで、超電導導体を形成する超電導材料の量を同じとする場合、送電電力の増大化を図ることができる。或いは、送電電力を同じとする場合、超電導導体を形成する超電導材料の使用量を低減することができるため、超電導導体の小径化を図ることができる。また、外部超電導層を形成する超電導材料の使用量も低減することができる。従って、低熱伝導管内に十分な導体用冷媒を流通させることができ、超電導導体の超電導状態をより良好に保つことができる。かつ、絶縁用冷媒により超電導導体の電気絶縁を十分に行うことができると共に、外部超電導層にシールド電流を確実に流すことができ、電磁干渉を防止することができる。
【0043】
また、本発明超電導ケーブルでは、導体用冷媒を絶縁用冷媒よりも低温とし、低熱伝導管が同管外部からの熱侵入をある程度許容することで、導体用冷媒により絶縁用冷媒を冷却することができる。従って、導体用冷媒を絶縁用冷媒の温度調節に利用することができる。絶縁用冷媒が導体用冷媒により冷却される度合いは、本例の場合、低熱伝導管の厚みを変化させる他、導体用冷媒を循環させる場合は導体用冷媒の流量、導体用冷媒の循環時間などにより変化させることができる。例えば、導体用冷媒の循環と停止とを繰り返し行うことで、絶縁用冷媒の温度調整を行うことができる。このとき、絶縁用冷媒は、外部超電導層の超電導状態を十分に保持することができる温度に維持される場合、循環させなくてもよい。従って、絶縁用冷媒の循環ポンプを不要とすることができるだけでなく、ポンプに必要な電力も不要にできる。その他、導体用冷媒の循環流量が多い循環時間と、循環流量が少ない循環時間とを設けて絶縁用冷媒の温度調整を行ってもよい。このように絶縁用冷媒の冷却に導体用冷媒を利用することで、絶縁用冷媒の冷却に必要な冷却装置や循環設備などを削減する、或いは簡易なものとすることができる。また、本発明超電導ケーブルを水素プラントや水素ステーションにおける電力供給手段として利用する場合、導体用冷媒としてプラントなどに貯留される液体水素を流用し、導体用冷媒の冷却装置としてプラントなどの設備を利用すれば、導体用冷媒のための冷却設備を別途設ける必要がなく、設備の軽減を図ることができる。なお、導体用冷媒による冷却で絶縁用冷媒の一部が固化した場合であっても、電気絶縁に必要な電気絶縁強度を有する場合、この絶縁用冷媒の固化を許容する。
【0044】
更に、本発明超電導ケーブルは、短絡事故などで超電導導体に大電流が流れる際、導体用冷媒をより低温にしたり、或いは流量を増大したりすることで、超電導導体を所定の温度に素早く冷却することができ、上記事故による超電導導体の破壊を防止することができる。これらの効果は、後述する実施例2〜4の実施例
についても同様である。
【0045】
このような本発明超電導ケーブルは、直流送電、交流送電のいずれにも利用することができる。直流送電を行う場合、電気絶縁層4において内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるようにρグレーディングを施すと、電気絶縁層4の厚み方向の直流電界分布を平滑化することができる。抵抗率は、比率kが異なるPPLP(登録商標)を用いることで変化させることができ、比率kが大きくなると抵抗率が高くなる傾向にある。また、電気絶縁層4において超電導導体1の近傍に高ε層を設けると、直流耐電圧特性の向上に加えて、Imp.耐圧特性も向上させることができる。高ε層は、例えば、比率kが小さいPPLP(登録商標)を用いて形成することが挙げられる。このとき、高ε層は、低ρ層ともなる。更に、上記ρグレーディングに加えて、内周側ほど誘電率εが高く、外周側ほど誘電率εが低くなるように電気絶縁層4を形成すると、交流特性にも優れる。従って、上記超電導ケーブルを交流送電にも好適に利用することができる。例えば、以下のように比率kが異なるPPLP(登録商標)を用いて、抵抗率及び誘電率が3段階に異なるように電気絶縁層を設けることが挙げられる。以下の三層は、内周側から順に具えるとよい(X,Yは定数)。
低ρ層:比率k=60%、抵抗率ρ(20℃)=X Ω・cm、誘電率ε=Y
中ρ層:比率k=70%、抵抗率ρ(20℃)=約1.2X Ω・cm、誘電率ε=約0.95Y
高ρ層:比率k=80%、抵抗率ρ(20℃)=約1.4X Ω・cm、誘電率ε=約0.9Y
【0046】
上記超電導ケーブルを用いて単極送電を行う場合、3心のケーブルコア10のうち、2心のコアを予備心とし、一つのコア10の超電導導体1を往路導体、このコア10の外部超電導層5を帰路導体としてもよいし、各コア10の超電導導体1を往路導体、このコア10の外部超電導層5を帰路導体として、3回線の単極送電線路を構築してもよい。上記超電導ケーブルを用いて双極送電を行う場合、3心のコア10のうち、1心のコア10を予備心とし、一つのケーブルコア10の超電導導体1を正極線路、別のコア10の超電導導体1を負極線路、両コア10の外部超電導層5を中性線層とするとよい。また、この超電導ケーブルは、上記交流送電を行った後、単極送電や双極送電といった直流送電を行うことも可能である。このようにρグレーディングやεグレーディングを施した絶縁層を具える本発明超電導ケーブルでは、直流交流両用ケーブルとして好適に利用することができる。これらρグレーディング、εグレーディングに関する事項は、後述の実施例2〜4についても同様である。
【実施例2】
【0047】
上記実施例1では、中実体のフォーマを用いた構成を説明したが中空体のフォーマを用いてもよい。図2は、本発明超電導ケーブルにおいてケーブルコアの概略断面図を示す。図2に示すケーブルコア20は、フォーマ3Bが中空体である以外は上記実施例1に示すケーブルコア10と同様の構成であり、コア20の外周には断熱管や防食層(共に図示せず)を具える。本例で用いたフォーマ3Bは、銅製の管である。そして、導体用冷媒11は、このフォーマ3B内に流通させる。このとき、低熱伝導管2A内において、管2Aの内周面と超電導導体1の外周面とがつくる空隙は、導体用冷媒11を流通させてもよいし、低真空度に真空引きしてもよい。低真空度とすることで、低熱伝導管2Aの内部に対して管2A外部からの熱侵入がある程度許容されるため、導体用冷媒11により絶縁用冷媒を冷却することができる。
【実施例3】
【0048】
上記実施例2では、低熱伝導管内において、同管の内周面と超電導導体の外周面との間に隙間を有する構成としていたが、この隙間がないように、即ち、同管と超電導導体とが接するように低熱伝導管を設けてもよい。図3は、本発明超電導ケーブルにおいてケーブルコアの概略断面図を示す。図3に示すケーブルコア30は、低熱伝導管2Cが超電導導体1の直上に設けられている以外は上記実施例2に示すケーブルコア20とほぼ同様の構成であり、コア30の外周には断熱管や防食層(共に図示せず)を具える。本例では、超電導導体1上にテフロン(登録商標)を押し出して低熱伝導管2Cを形成している。このように超電導導体1の直上に低熱伝導管2Cを形成する場合、実施例2のフォーマ3B(図2参照)と同様にフォーマ3Cは、中空体を用い、導体用冷媒11は、このフォーマ3C内に流通させ、超電導導体1の冷却を行う。また、低熱伝導管2Cは、実施例1,2と同様にある程度熱伝導性を有する樹脂で形成しているため、フォーマ3C内の導体用冷媒11により絶縁用冷媒を冷却することができる。
【実施例4】
【0049】
上記実施例1〜3では、樹脂などからなる低熱伝導管を利用したが、断熱性能が低い断熱構造を具える低熱伝導管を利用してもよい。図4は、本発明超電導ケーブルにおいてケーブルコアの概略断面図を示す。図4に示すケーブルコア40は、低熱伝導管2Dが低断熱構造である以外は、上記実施例1に示すケーブルコア10と同様の構成であり、コア40の外周には断熱管や防食層(共に図示せず)を具える。本例で用いた低熱伝導管2Dは、図1に示す断熱管15と同様に、内管2diと外管2doとからなる二重管であり、内管2di内に流通させる導体用冷媒11によりコア40の外周に充填される絶縁用冷媒(図1参照)を冷却できるように低熱伝導管2Dの外部からの熱伝導をある程度許容するべく、両管2diと2doとの間を低真空度で真空引きした断熱性能の低い構造としている。このように低熱伝導管の熱伝導性は、実施例1〜3に示すように低熱伝導管の形成材料自体が有する熱伝導率や同管の厚みなどの調整だけでなく、本例に示すように同管の断熱性能を調整することでも調整することができる。なお、本例では、実施例1と同様に中実のフォーマを用いたが、実施例2,3と同様に中空のフォーマを利用してももちろんよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明超電導ケーブルは、各種の電力機器や需要家への電力供給手段として好適に利用することができる。特に、導体用冷媒として液体水素や低温の水素ガス、液体水素と水素ガスの混合流体を利用する場合、水素プラント、水素ステーションといった液体水素などを貯留している箇所の電力供給に本発明ケーブルを利用すると、導体用冷媒を簡単に流用できる他、導体用冷媒の冷却設備などを別途設ける必要がなく、経済性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明超電導ケーブルの概略断面図であり、フォーマが中実体である例を示す。
【図2】本発明超電導ケーブルに具えるケーブルコアの概略断面図であり、フォーマが中空体である例を示す。
【図3】本発明超電導ケーブルに具えるケーブルコアの概略断面図であり、低熱伝導管を押出にて形成した例を示す。
【図4】本発明超電導ケーブルに具えるケーブルコアの概略断面図であり、低熱伝導管が二重構造管からなる例を示す。
【図5】三心一括型の三相交流用超電導ケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 超電導導体 2A,2C,2D 低熱伝導管 2di 内管 2do 外管
3A,3B,3C フォーマ 4 電気絶縁層 5 外部超電導層 6 保護層
10,20,30,40 ケーブルコア 11 導体用冷媒 12 絶縁用冷媒 15 断熱管
15a 外管 15b 内管 16 防食層
100 三相交流用超電導ケーブル 101 断熱管 101a 外管 101b 内管
102 ケーブルコア 103 空間 104 防食層
200 フォーマ 201 超電導導体 202 電気絶縁層
203 超電導シールド層 204 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルコアが収納される断熱管を具える超電導ケーブルであって、
前記ケーブルコアは、
超電導材料からなる超電導導体と、
前記超電導導体の外周に配置される低熱伝導管と、
前記低熱伝導管の外周に配置される電気絶縁層と、
前記電気絶縁層の外周に配置され、超電導材料からなる外部超電導層とを具え、
前記低熱伝導管内で流通されて超電導導体を超電導状態に冷却する導体用冷媒と、
前記断熱管内に満たされて超電導導体の電気絶縁を行う絶縁用冷媒とを具えることを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項2】
導体用冷媒は、絶縁用冷媒よりも低温であることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル。
【請求項3】
絶縁用冷媒は、液体窒素であり、導体用冷媒は、液体窒素の沸点よりも低温の流体であることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル。
【請求項4】
導体用冷媒は、液体酸素、液体ヘリウム、ヘリウムガス、液体水素、水素ガス、液体空気、液体ネオン、液体水素と水素ガスの混合流体のいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の超電導ケーブル。
【請求項5】
電気絶縁層は、その径方向の直流電界分布が平滑化されるように、電気絶縁層の内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるようにρグレーディングが施されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超電導ケーブル。
【請求項6】
電気絶縁層は、超電導導体の近傍に、他の箇所よりも誘電率が高い高ε層を有することを特徴とする請求項5に記載の超電導ケーブル。
【請求項7】
電気絶縁層は、その内周側ほど誘電率εが高く、外周側ほど誘電率εが低く構成されていることを特徴とする請求項5に記載の超電導ケーブル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載される超電導ケーブルの絶縁用冷媒の温度制御方法であって、
導体用冷媒を利用して絶縁用冷媒の温度を制御することを特徴とする超電導ケーブルの絶縁用冷媒の温度制御方法。
【請求項9】
導体用冷媒により絶縁用冷媒を冷却し、導体用冷媒の流通と停止とを繰り返すことで、絶縁用冷媒の温度を制御することを特徴とする請求項8に記載の超電導ケーブルの絶縁用冷媒の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−156328(P2006−156328A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72047(P2005−72047)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】