超電導線材およびその製造方法
【課題】高い生産性を示し、効率的に製造可能な超電導線材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】超電導線材の製造方法は、準備工程と、溶液塗布工程と、前駆体膜を形成する工程としての仮焼成工程と、焼成前処理工程と、焼成工程とを備える。溶液塗布工程では、テープ状基材の表面に、超電導体を構成する元素を含む溶液を塗布し、溶液膜を形成する。仮焼成工程では熱処理することにより、テープ状基材の表面の溶液膜から超電導体の前駆体膜であるMOD膜を形成する。焼成前処理工程では、MOD膜が形成されたテープ状基材である線材20を巻回してパンケーキ状コイルを形成するとともに、パンケーキ状コイルにおける径方向に隣接するテープ状基材の部分の間に反応抑制層19を配置する。焼成工程では、パンケーキ状コイルに対して熱処理を行なうことにより、MOD膜から超電導層を形成する。
【解決手段】超電導線材の製造方法は、準備工程と、溶液塗布工程と、前駆体膜を形成する工程としての仮焼成工程と、焼成前処理工程と、焼成工程とを備える。溶液塗布工程では、テープ状基材の表面に、超電導体を構成する元素を含む溶液を塗布し、溶液膜を形成する。仮焼成工程では熱処理することにより、テープ状基材の表面の溶液膜から超電導体の前駆体膜であるMOD膜を形成する。焼成前処理工程では、MOD膜が形成されたテープ状基材である線材20を巻回してパンケーキ状コイルを形成するとともに、パンケーキ状コイルにおける径方向に隣接するテープ状基材の部分の間に反応抑制層19を配置する。焼成工程では、パンケーキ状コイルに対して熱処理を行なうことにより、MOD膜から超電導層を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超電導線材およびその製造方法に関し、より特定的には、高い生産性を示し低コストで製造可能な超電導線材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化物超電導体を用いた超電導線材が知られている。また、超電導線材の製造方法の1つとして、有機金属塩塗布熱分解法(MOD:Metal Organic Deposition法)が知られている(たとえば、特許文献1参照)。MOD法とは、基材の表面に超電導体の材料を含む有機金属塩の溶液を塗布し、仮焼成、本焼成といった熱処理を行なうことにより超電導体膜を形成する方法である。このようなMOD法を実施する方法として、帯状の基板をコイル状とし、当該コイルから基板を巻き戻して走行させながら上記溶液の塗布、仮焼成、本焼成といった工程を行なう方法(Reel−to−Reel方式)が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。また、異なる方法として、基板への溶液の塗布および仮焼成後の帯状の基材を、円筒状のベース体に螺旋状に巻付けてからバッチ式の熱処理を行なう方法も提案されている(たとえば、非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−308746号公報
【非特許文献1】アレックス ピー マロツェモフ(Alexis P. Malozemoff)、”第2世代HTS線材(Second Generation HTS Wire: An Assessment)”、図5、[on line]、2004年12月、アメリカンスーパーコンダクタ(American Superconductor)、[平成20年10月1日検索]、インターネット(URL:http://www.amsc.com/products/htswire/documents/4122GWhitePaper_v5.pdf)
【非特許文献2】”イットリウム系酸化物超電導線材低コスト化技術の実用化に目処 昭和電線ケーブルシステム”、[on line]、2007年4月、[平成20年10月1日検索]、インターネット(URL:http://semrl.t.u-tokyo.ac.jp/supercom/86/86_2.html)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述した方法では、以下のような問題があった。すなわち、上記Reel−to−Reel方式の製造方法では、超電導線材の生産性の向上に限界がある。たとえば、工業的に妥当な超電導線材の製造速度として100m/h程度の速度を考え、また焼成に要する時間がたとえば5時間と長い場合、上述したReel−to−Reel方式では処理ラインの長さが500m必要となり、生産性の向上は難しく、さらに実現性も低いと思われる。そこで、処理ラインの長さをより短縮するため、ロールを用いて帯状の基材の進行方向を反転させて加熱部を当該基材が複数回通過するような構成、いわゆるマルチターン化した構造を処理ラインに採用することも考えられる。しかし、この場合であっても、処理ラインの構成が複雑化することから、やはり実現性の点で問題がある。
【0004】
また、上記非特許文献2のように、円筒状のベース体に基材を巻付けて熱処理を行なう場合、熱処理炉の炉内に当該ベース体を配置したときの炉内の有効活用体積は極めて小さく、効率的ではない。また、長尺の基材を熱処理するためにはベース体や熱処理炉のサイズを大きくする必要があり、やはり現実的ではなかった。たとえば、幅が1cm、長さが1000mの基材を用い、機材を巻付けるベース体の直径を1mとした場合、当該ベース体の長さは約6m必要となり、結果的に熱処理炉のサイズも非常に大きなものとなる。そして、熱処理炉は処理対象の基材の長さや幅を大きくするにつれて大型化する必要がある。このため、当該方法についても生産性の向上には限界があった。
【0005】
そこで、生産性を向上させるため、溶液を塗布した帯状の基材をパンケーキ状コイルとしてから仮焼成、本焼成などの熱処理を行なうことが考えられる。しかし、基材を巻回してパンケーキ状コイルにした場合、基材に塗布された溶液層と、隣接する基材の裏面とが接触した状態となるため、当該裏面と溶液層とが熱処理の実施中に反応する(つまり超電導線材を正常に製造できない)という問題があった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、高い生産性を示し、効率的に製造可能な超電導線材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従った超電導線材の製造方法は、テープ状基材を準備する工程と、塗布する工程と、前駆体膜を形成する工程と、反応抑制層を配置する工程と、超電導体膜を形成する工程とを備える。溶液を塗布する工程では、テープ状基材の表面に、超電導体を構成する元素を含む溶液を塗布する。前駆体を形成する工程では、溶液が塗布されたテープ状基材を熱処理することにより、テープ状基材の表面に塗布された溶液から超電導体の前駆体膜を形成する。反応抑制層を配置する工程では、前駆体膜が形成されたテープ状基材を巻回してパンケーキ状コイルを形成するとともに、パンケーキ状コイルにおける径方向に隣接するテープ状基材の部分の間に反応抑制層を配置する。超電導体膜を形成する工程では、パンケーキ状コイルに対して熱処理を行なうことにより、前駆体膜から超電導体膜を形成する。
【0008】
このようにすれば、熱処理を行なうときに、パンケーキ状コイルを構成するテープ状基材の部分の間に反応抑制層が配置されているので、前駆体膜と、当該前駆体膜に隣接するテープ状基材の部分とが直接接触しない。このため、前駆体膜と上記テープ状基材の部分とが熱処理により反応することを防止できる。この結果、前駆体膜が形成されたテープ状基材をパンケーキ状コイルとして熱処理を行なうことが可能になり、長尺のテープ状基材を用いて超電導線材を比較的容易に(高い生産性で)製造することが可能になる。
【0009】
この発明に従った超電導線材は、テープ状基材と、超電導体膜と、反応抑制層とを備える。超電導体膜は、テープ状基材の一方の主表面上に形成される。反応抑制層は、テープ状基材において一方の主表面と反対側の裏面に形成される。
【0010】
このようにすれば、超電導線材を形成する熱処理を行なうために、テープ状基材を巻回してパンケーキ状コイルを形成したときに、当該パンケーキ状コイルにおける径方向でのテープ状基材の部分の間に反応抑制層が配置されることになる。このため、当該熱処理によって上記径方向において隣接するテープ状基材の部分同士(具体的には、たとえばテープ状基材の裏面と、テープ状基材の表面側に形成された超電導体の前駆体)とが反応することを、当該反応抑制層により防止することができる。このため、パンケーキ状コイルとして熱処理を行なうことが可能になるので、生産性の高い製造工程により当該超電導線材を製造することができる。この結果、製造コストの低減化を図ることにより、低コストな超電導線材を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、超電導線材を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明による超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。図2は、図1に示すMOD膜形成工程の内容を示すフローチャートである。図3は、図2に示す溶液塗布工程を説明するための模式図である。図4は、図1の焼成前処理工程の内容を示すフローチャートである。図5は、図1に示す焼成工程を説明するための模式図である。図6は、図5の線分VI−VIにおける断面模式図である。図7は、図1に示した製造方法により得られた超電導線材を示す断面模式図である。図1および図7を参照して、本発明による超電導線材の製造方法を説明する。
【0014】
図1を参照して、本発明による超電導線材の製造方法では、まず準備工程(S10)を実施する。具体的には、たとえば配向処理されたニッケル合金からなる基板を準備する。この基板は帯状(テープ状)であって、たとえばその幅が10mm、厚みが0.1mmである。そして、この基板の表面上にスパッタリングなどの従来周知の方法により中間層を形成する。このようにして、超電導体からなる層(超電導層)を形成するためのベースとなるテープ状基材を準備する。
【0015】
次に、図1に示すように、MOD膜形成工程(S20)を実施する。具体的には、図2に示すような工程を実施する。図2を参照して、上述したMOD膜形成工程(S20)においては、まず溶液塗布工程(S21)を実施する。具体的には、超電導層を構成する超電導体の材料となる元素を含有する溶液を準備し、当該溶液を上述した基板の表面に塗布する。溶液の塗布方法としては、従来周知の任意の方法を用いることができるが、たとえば図3に示すような方法を用いることができる。
【0016】
図3は、基板の表面に中間層を形成したテープ状基材に溶液を塗布する処理装置1を示している。処理装置1は、テープ状基材6がパンケーキコイル状に巻かれたコイルからテープ状基材6を巻戻す供給部2と、巻戻されたテープ状基材6に対して溶液を塗布する塗布ノズル7と、塗布された溶液を仮焼成するためのヒータ10と、仮焼成が終了したことによりMOD膜11が形成されたテープ状基材6をコイル状に巻取る巻取部3とからなっている。テープ状基材6は、供給部2からガイドロール4を介して塗布ノズル7の下にまで案内される。塗布ノズル7から吐出される溶液がテープ状基材6の表面(中間層が形成された表面)上に塗布される。そして、塗布ノズル7から見て下流側(巻取部3側)に位置するヒータ10の間をテープ状基材6が通過するときに、当該テープ状基材6に塗布された溶液はヒータ10により加熱される。この結果、塗布された溶液が焼成され超電導体の前駆体であるMOD膜11が形成される。その後、ガイドロール5により案内されたMOD膜11付のテープ状基材6は、巻取部3においてコイル状に巻取られる。
【0017】
塗布ノズル7には、溶液タンク9が接続されている。この溶液タンク9に、塗布ノズル7からテープ状基材6の表面へと供給する溶液が保持されている。この塗布ノズル7から供給された溶液が、テープ状基材6の表面において溶液膜8となる。この溶液膜8は、上述のようにヒータ10により加熱されて仮焼成される。この結果、ヒータ10の出側においては、当該溶液膜8はMOD膜11となっている。つまり、図3に示した装置および方法では、図2における溶液塗布工程(S21)および仮焼成工程(S22)が連続して行なわれる。
【0018】
なお、上述のようにオンラインでヒータ10による仮焼成を行なってもよいが、溶液膜8を形成したテープ状基材6をたとえばパンケーキ状に巻いた状態で熱処理することにより仮焼成工程を実施してもよい。このとき、溶液膜8が隣接する他のテープ状基材6の裏面部分と接触しないように、コイルの径方向において隣接するテープ状基材6の間に隙間を設けるように、テープ状基材6をパンケーキコイル状に巻くことが好ましい。
【0019】
そして、図2に示すように、仮焼成工程(S22)を実施した後で、形成されたMOD膜が所定の厚みになったかどうかを判断する工程(S23)が実施される。この工程(S23)において、当該MOD膜11の厚みが所定の厚みとなっていると判断された場合には、工程(S23)においてYESと判断されるため、図2に示したプロセスが終了する。一方、工程(S23)においてNOと判断された(すなわちMOD膜の厚みが所定の厚みとまだなっていないと判断された)場合には、図2に示すように再度溶液塗布工程(S21)および仮焼成工程(S22)が実施される。具体的には、図3の巻取部3において巻取られたテープ状基材6のコイルが、再び供給部2へ配置され、テープ状基材6においてすでにMOD膜11が形成された面上に、さらに溶液膜を形成し仮焼成工程を実施する。そして、工程(S23)においてMOD膜の厚みが所定の厚みとなっているかどうかを判別し所定の厚みとなるまで上述した工程を繰返す。このようにして、図1に示したMOD膜形成工程(S20)が実施される。
【0020】
次に、図1に示す焼成前処理工程(S30)が実施される。この焼成前処理工程(S30)においては、具体的にはその後に実施する焼成工程(S40)においてテープ状基材に形成された前駆体を焼成するために、当該テープ状基材をパンケーキコイル状に巻いた状態にする。ただし、この焼成前処理工程(S30)においては、図4に示すように、テープ状基材6において前駆体であるMOD膜11(図3参照)が形成されていない側の裏面に、焼成工程(S40)での不要な反応を防止するための反応抑制層19(図6および図7を参照)を形成するコーティング工程(S31)をまず実施する。反応抑制層19としては、たとえばイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、銀、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホルミウムなどからなる膜を形成することができる。この反応抑制層19の形成方法は、従来周知の任意の方法を用いることができる。このようにして、図4に示すコーティング工程(S31)が実施される。
【0021】
次に、図4に示すように、パンケーキ状コイル化工程(S32)を実施する。具体的には、図5に示すように、MOD膜11が形成されたテープ状基材6(図6の線材20)を巻回することでパンケーキ状コイル25とする。このとき、線材20の裏面には上述のように反応抑制層19(図6参照)が形成されているため、図6に示すようにパンケーキ状に巻かれた線材20は、間に反応抑制層19が配置された状態でパンケーキ状に巻かれている。
【0022】
次に、図1に示すように、焼成工程(S40)を実施する。この工程(S40)においては、上述した工程(S30)においてパンケーキ状に巻かれた線材20に対して熱処理を行なうことにより、前駆体層であるMOD膜11から超電導層17(図7参照)を生成する。このとき、パンケーキ状に巻かれた線材20は間に反応抑制層19が配置された状態となっているので、熱処理に起因してパンケーキ状コイルの径方向において隣り合う線材20同士が反応するといった問題の発生を抑制できる。また、パンケーキ状に線材20をコイル化して熱処理を行なうことができるので、従来よりも効率的に超電導線材を製造することができる。
【0023】
このような処理の後、後処理工程を実施する。具体的には、超電導層17(図7参照)の表面を覆うように後述する安定化層を形成する。この結果、図7に示すような超電導線材23を得ることができる。
【0024】
ここで、上述した実施の形態の記載と一部重複する部分もあるが、本願発明の特徴的な構成を要約すれば、この発明に従った超電導線材の製造方法は、図1〜図4に示すように、テープ状基材を準備する準備工程(S10)と、塗布する工程としての溶液塗布工程(S21)と、前駆体膜を形成する工程としての仮焼成工程(S22)と、反応抑制層を配置する工程としての焼成前処理工程(S30)と、超電導体膜を形成する工程としての焼成工程(S40)とを備える。溶液塗布工程(S21)では、図3に示すように、テープ状基材6の表面に、超電導体を構成する元素を含む溶液を塗布し、溶液膜8を形成する。前駆体を形成する仮焼成工程(S22)では、溶液が塗布されたテープ状基材6を熱処理することにより、テープ状基材6の表面に塗布された溶液膜8から超電導体の前駆体膜であるMOD膜11を形成する。反応抑制層を配置する焼成前処理工程(S30)では、MOD膜11が形成されたテープ状基材6である線材20を巻回してパンケーキ状コイル25を形成するとともに、パンケーキ状コイル25における径方向に隣接するテープ状基材6の部分の間に反応抑制層19を配置する。超電導体膜を形成する焼成工程(S40)では、パンケーキ状コイル25に対して熱処理を行なうことにより、MOD膜11から超電導体膜としての超電導層17(図7参照)を形成する。
【0025】
このようにすれば、熱処理を行なうときに、パンケーキ状コイル25を構成するテープ状基材6の部分の間に反応抑制層19が配置されているので、MOD膜11と、当該MOD膜11に隣接する(パンケーキ状コイル25の径方向においてMOD膜11より外周側に位置する)テープ状基材6の部分とが直接接触しない。このため、MOD膜11と上記テープ状基材6の部分とが熱処理により反応することを防止できる。この結果、MOD膜11が形成されたテープ状基材6をパンケーキ状コイル25として熱処理を行なうことが可能になり、長尺のテープ状基材6を用いて超電導線材23を比較的容易に(高い生産性で)製造することが可能になる。
【0026】
上記超電導線材の製造方法において、焼成前処理工程(S30)では、前駆体としてのMOD膜11が形成されたテープ状基材6において、図4に示すようにMOD膜11が形成された表面と反対側の裏面上に反応抑制層19を形成した後、テープ状基材6を巻回してパンケーキ状コイル25としてもよい。この場合、テープ状基材6の裏面に予め反応抑制層19が形成された状態となっているので、MOD膜11が形成されたテープ状基材6(すなわち線材20)を巻回すときに別部材の反応抑制層を一緒に巻回すといった複雑な工程を実施する必要がない。また、反応抑制層19をテープ状基材6の裏面に形成するので、反応抑制層19自体で自立できるように反応抑制層19を厚く形成する必要が無い。このため、反応抑制層19をテープ状基材6とは別部材として準備する場合より、反応抑制層19の厚みを薄くできる。この結果、パンケーキ状コイル25のサイズを一定とした場合に、より長いテープ状基材6を用いて超電導線材23を製造することができる。
【0027】
なお、上記超電導線材の製造方法において、超電導体膜を形成する工程である焼成工程(S40)では、パンケーキ状コイル25の径方向において隣接するテープ状基材6の間に間隙が形成されていてもよい。この場合、間隙が上述した反応抑制層19と同様の作用を発揮する。したがって、テープ状基材6の部分(係方向の内周側の表面部分)と対向する前駆体としてのMOD膜11との反応をより確実に防止することができる。
【0028】
また、上述のように間隙を形成する場合、パンケーキ状コイル化工程(S32)においては、パンケーキ状コイル25の径方向において隣接するテープ状基材6の部分の間に間隙を形成するように、当該パンケーキ状コイル25を構成するテープ状基材6を配置する溝が形成された治具上にパンケーキ状コイルを搭載してもよい。この場合、治具の溝にテープ状基材6を配置することで、パンケーキ状コイル25においてテープ状基材6の部分の間に(径方向において)間隙を容易に形成することができる。
【0029】
図7を参照して、上述した製造方法により得られた超電導線材23は、テープ状基材6と、このテープ状基材6の上部表面上に形成された超電導層17と、この超電導層17の表面を覆う安定化層18と、テープ状基材6の裏面側(超電導層17が形成された表面と反対側の表面)に形成された反応抑制層19とからなる。基材6は、帯状の基板15とこの基板15の一方の表面上に形成された中間層16とからなる。
【0030】
つまり、上述した超電導線材23は、テープ状基材6と、超電導体膜としての超電導層17と、反応抑制層19とを備える。超電導層17は、テープ状基材6の一方の主表面上に形成される。反応抑制層19は、テープ状基材6において一方の主表面と反対側の裏面に形成される。このようにすれば、上述のように超電導線材23を形成する熱処理(焼成工程(S40))を行なうために、テープ状基材6を巻回してパンケーキ状コイル25を形成したときに、図6に示すように当該パンケーキ状コイル25における径方向でのテープ状基材6の部分の間に反応抑制層19が配置されることになる。このため、当該熱処理によって上記径方向において隣接するテープ状基材6の部分同士(具体的には、テープ状基材6の裏面と、テープ状基材6の表面側に形成された超電導体の前駆体であるMOD膜11)とが反応することを、当該反応抑制層19により防止することができる。このため、パンケーキ状コイル25として熱処理を行なうことが可能になるので、生産性の高い製造工程により当該超電導線材23を製造することができる。
【0031】
上記超電導線材の製造方法または上記超電導線材23において、反応抑制層19は、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、銀(Ag)、酸化セリウム(CeO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ホルミウム(Ho2O3)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。具体的には、反応抑制層19として、上述した材料からなる膜を1層または複数層積層した構造を採用してもよい。この場合、熱処理を行なう際に、パンケーキ状コイル25のテープ状基材6の部分と、当該部分に隣接するMOD膜11との間の反応を確実に抑制することができる。
【0032】
(実施の形態2)
図8は、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2を説明するためのフローチャートである。図9は、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2を説明するための模式図である。図8および図9を参照して、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2を説明する。なお、図8は図4に対応し、図9は図6に対応する。
【0033】
本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2は、基本的には図1〜図7で説明した超電導線材の製造方法の実施の形態1と基本的に同様の構成を備えるが、図1に示す焼成前処理工程(S30)の内容が異なっている。具体的には、図1に示した準備工程(S10)およびMOD膜形成工程(S20)を実施した後、焼成前処理工程(S30)として、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2においては、図8に示すようにまずスペーサ準備工程(S33)を実施する。このスペーサ27(図9参照)とは、後述するようにMOD膜11が形成されたテープ状基材6からなる線材20(図3参照)をパンケーキ状に巻くときに、当該線材20と一緒に巻込むことによりパンケーキ状コイルとなった場合の径方向において隣接する線材20同士が直接接触することを防止するためのものである。このスペーサ27の形状としては帯状の外観を有していればよい。また、その幅は上述した線材20の幅と実質的に同一となっていることが好ましいが、当該幅は線材20の幅より狭くても、また広くなっていてもよい。また、反応抑制層としてのスペーサ27は、テープ状基材6と同じ構成の部材を用いることが好ましい。この場合、スペーサ27は十分な耐熱性を備えるとともに、後述する熱処理のときに、形成される超電導層に対する悪影響を及ぼす元素の発生源となる可能性が低いことから、超電導層の品質の低下といった問題の発生を抑制できる。
【0034】
次に、図8に示すように、パンケーキ状コイル化工程(S34)を実施する。この工程(S34)においては、上述のように準備したスペーサ27と線材20(図3参照)とを重ねてパンケーキ状に巻取る。この結果、図5に示すようなパンケーキ状コイル25を形成できる。但し、このパンケーキ状コイル25の断面においては、図9に示すようにパンケーキ状コイル25の径方向において隣接する線材20の部分の間にはスペーサ27が配置された状態となる。このスペーサ27は線材20の幅と実質的に同じ幅を有している。このようにすれば、線材20の主表面(パンケーキ状コイル25の径方向に垂直な面)の全面について、確実に隣接する線材20との接触、また加熱による固着といった問題が発生することを防止できる。
【0035】
そして、上述のようにパンケーキ状コイル25を形成した後、実施の形態1における製造方法と同様に焼成工程(S40)(図1参照)および後処理工程を実施することにより、超電導線材を得ることができる。但し、この実施の形態2において得られる超電導線材は、基本的には図7に示した超電導線材23と同様の構成を備えるが、図7に示した超電導線材23から反応抑制層19を除去した構成となっている。
【0036】
つまり、上述した超電導線材の製造方法は、基本的に本発明の実施の形態1における超電導線材の製造方法と同様であるが、反応抑制層を配置する工程としての焼成前処理工程(S30)では、テープ状基材6とは別部材である反応抑制層としてのスペーサ27が、パンケーキ状コイル化工程(S34)においてテープ状基材6とともに巻回されることにより配置される。この場合、テープ状基材6自体の構造は従来から変更することなく、別部材のスペーサ27をテープ状基材6と共に巻回すことで、スペーサ27が隣接するテープ状基材6の間に配置されたパンケーキ状コイル25を容易に形成することができる。この結果、テープ状基材6の裏面(前駆体としてのMOD膜11が形成される表面とは反対側の裏面)に反応抑制層19を形成する、といった工程を行なう必要が無いため、超電導線材の製造コストの増大を抑制できる。
【0037】
また、上記超電導線材の製造方法において、スペーサ27は、帯状のベース体と、当該ベース体の表面に形成された被覆層とからなっていてもよい。被覆層は、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、銀(Ag)、酸化セリウム(CeO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ホルミウム(Ho2O3)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。この場合、反応抑制層として、ベース体表面に所定の材料からなる被覆層を備えるスペーサ27を用いることになるので、ベース体に比較的強度の高い材料(たとえばステンレス鋼、あるいはニッケル基の耐熱合金など)を用いることができる。この結果、反応抑制層の強度を確保する一方、被服層によりテープ状基材6とMOD膜11との反応を確実に防止することができる。また、被服層として比較的強度の低い材料を用いることも可能になるので、反応抑制層としてのスペーサ27の構成の自由度を大きくできる。
【0038】
(実施の形態3)
図10は、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態3を説明するための模式図である。図10を参照して、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態3を説明する。なお、図10は図6に対応する。
【0039】
図10に示すように、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態3は、基本的には上述した本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2と同様の構成を備えるが、用いるスペーサ27の形状が異なっている。すなわち、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態1と同様に、準備工程(S10)、MOD膜形成工程(S20)を実施した後、焼成前処理工程(S30)を実施する。この工程(S30)において、準備するスペーサ27は、その幅が線材20の幅よりも十分狭くなったもの(好ましくは線材20の幅の半分以下の幅を有するスペーサ27)を用いる。そして、その後パンケーキ状コイル化工程(S34)(図8参照)を実施する。つまり、反応抑制層を配置する工程としてのパンケーキ状コイル化工程(S34)では、テープ状基材の幅(つまり線材20の幅)より狭い幅を有する反応抑制層としてのスペーサ27を用いている。その結果、図10に示すように、パンケーキ状に巻かれた線材20の間に、スペーサ27が存在することで形成される空間が存在する。このようなスペーサ27を用いることにより、線材20とスペーサ27との接触面積を小さくできる。このため、スペーサ27と線材20との接触部が加熱により固着するといった可能性を低減できる。なお、このとき用いる線材20の幅は1cm以上となっていることが好ましい。
【0040】
そして、この後焼成工程(S40)および後処理工程を実施することにより、上述した本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2によって得られる超電導線材と同様の構造を有する超電導線材を得ることができる。
【0041】
(実施の形態4)
図11は、本発明による半導体装置の製造方法の実施の形態4を説明するための模式図である。図12は、図11の線分XII−XIIにおける断面模式図である。図13は、図11の線分XIII−XIIIにおける断面を示す模式図である。また、図14は、図11に示したパンケーキ状コイルを形成するために用いられるスペーサを示す平面模式図である。図15は、図14の線分XV−XVにおける断面模式図である。図16は、図14の線分XVI−XVIにおける断面模式図である。図11〜図16を参照して、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態4を説明する。
【0042】
本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態4は、基本的には上述した本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態3と同様の構成を備えるが、用いるスペーサ27の形状が異なっている。すなわち、図8に示したようなパンケーキ状コイル化工程(S34)を実施して、図11に示すようなパンケーキ状コイル25を形成するが、このときに用いるスペーサ27は図14〜図16に示すような形状を有している。具体的には、スペーサ27は、その幅がほぼ線材20(図12参照)と同じである一方、一方の端部(スペーサ27の長手方向に対して垂直な方向であってスペーサ27の主表面に沿った方向(幅方向)における端部)には当該スペーサの長手方向(延在方向)での全長に亘って厚肉部32が形成されている。つまり、反応抑制層であるスペーサ27として、長手方向に対して交差する方向である幅方向における厚みが局所的に異なる部材を用いている。そして、上記一方の端部と反対側に位置する他方の端部には、所定の間隔を隔てて部分的な厚肉部33が形成されている。つまり、この局所的に厚みが厚くなった部分である肉厚部33は、スペーサ27の長手方向において間欠的に形成されている。なお、この厚肉部32、33以外の領域は、当該厚肉部33、32よりも厚みの薄い薄肉部31となっている。このようなスペーサ27を線材20と一緒に巻込んでパンケーキ状コイル25を形成する。この結果、図12および図13に示すように、スペーサ27の厚肉部32、33によって隣接する線材20の間の距離は保たれるとともに、薄肉部31と対向する領域には空隙34が形成される。すなわち、薄肉部31と対向する一方の空間(薄肉部31と厚肉部33、32とで囲まれた領域)に空隙34が形成されるので、薄肉部31の一方の表面と線材20の一方の表面とは直接接触しない。そして、線材20において、空隙34と対向する側の表面に、前駆体としてのMOD膜11が形成された表面が配置されるようにパンケーキ状コイル25を形成することで、スペーサ27と線材20のMOD膜11との間に反応が起きるといった可能性をより低減することができる。
【0043】
なお、厚肉部32、33と薄肉部31との配置は、図14〜図16に示すように、それぞれの一方の表面がほぼ同一平面上に延在するように構成されているが、薄肉部31が厚肉部32、33の厚み方向の中央に接続されるようにスペーサ27を形成してもよい。この場合、スペーサ27と隣接する線材20の表面とは厚肉部32、33の表面のみが接触することになるため、当該スペーサ27と線材20との間で加熱による反応が起きる可能性をより低減することができる。
【0044】
図17は、図14〜図16に示したスペーサの変形例を示す模式図である。図18は、図17の線分XVIII−XVIIIにおける断面模式図である。図19は、図17の線分XIX−XIXにおける断面模式図である。図17〜図19を参照して、スペーサの変形例を説明する。
【0045】
図17〜図19に示したスペーサ27は、全長に亘ってほぼ同じ厚みの帯状体を一部折り曲げ加工することにより形成されている。具体的には、スペーサ27の幅方向における両端部において、所定の間隔だけ離れた場所毎に切欠きを入れて折曲げた折曲げ部42、43を形成する。この折曲げ部42、43は、折曲げられたことにより、他の部分である平坦部41から見て、その厚み方向においてより高い位置まで到達するような構成となっている。このため、図17〜図19に示すスペーサ27を、図11〜図13に示したスペーサ27と同様に線材20と一緒に巻込むことでパンケーキ状コイルを形成すれば、図11〜図13に示したパンケーキ状コイルと同様に、径方向において線材20の間に間隙を形成すると同時に、隣接する線材20との間に空隙(図17〜図19に示したスペーサ27においては平坦部41と折曲げ部42、43とにより囲まれる空間)を配置することができる。この結果、図14〜図16に示したスペーサを用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0046】
さらに、図17〜図19に示したスペーサ27においては、図17に示した下端部においてもスペーサ27の長手方向での全長ではなく間欠的に折曲げ部42が形成されている。そのため、図14〜図16に示したスペーサよりもさらに線材20とのスペーサ27との接触部の面積を小さくすることができる。
【0047】
上述した各実施の形態において、超電導体膜としての超電導層17は、酸化物超電導体からなる膜であってもよく、特にRE123超電導体膜であることが好ましい。ここで、RE123超電導体とは、一般式REBa2Cu3Ox(REはたとえばY、Gd、Smなどの希土類元素の1種又は2種以上の元素を示す)で表される酸化物超電導体である。この場合、優れた特性の超電導線材を高い生産性で得ることができる。
【0048】
(実施例)
本発明の効果を確認するべく、以下のような実験を行なった。
【0049】
(MOD膜形成用の溶液の準備)
溶液1の作成:
ホルミウム(Ho)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のアセチルアセトナート塩を1:2:3の比で秤量し、ピリジンとプロピオン酸の混合液(体積比3:5)の溶媒に溶かし、2時間撹拌した。なお、未溶解物がある場合は少しずつ溶媒を追加し、撹拌を繰返し、飽和溶液を作製した。この溶液を55℃程度に加熱し、撹拌しながら大部分の溶媒を蒸発させた。残ったタール状の液体をメタノールに溶かし、全カチオン濃度が0.6mol/l程度になるよう希釈することで、溶液1を準備した。
【0050】
溶液2の作成:
ホルミウム(Ho)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のアセチルアセトナート塩を1:2:3の比で秤量し、ピリジンとプロピオン酸の混合液(体積比7:5)に溶かし、5時間撹拌した。その溶液を60℃程度に加熱し、撹拌しながら大部分の溶媒を蒸発させた。残ったタール状の液体を1−ブタノールに溶かし、全カチオン濃度が6mol/l程度になるよう希釈することで、溶液2を準備した。
【0051】
(線材の製造方法)
テープ状基材の準備:
配向処理されたNi−5%Wの基板(幅10mm×厚さ0.1mm)を準備した。当該基板の上に、スパッタリング法を用いてCeO2、YSZ、CeO2をそれぞれ0.15μm、0.4μm、0.15μmという厚みとなるように成膜することで積層構造を有する中間層を形成した。得られたテープ状基材(基板の表面に中間層が形成された基板)では、形成された中間層の面内配向性がΦ5〜6であり、中間層の表面粗度はRa=5〜10nmであった。なお、面内配向性は、X線回折の極点図測定により求めた。
【0052】
次に、図3に示した処理装置1を用いて、テープ状基材上に溶液を一定量供給しながら搬送させることで塗布し、その後ヒータ10を用いて大気中で加熱温度500℃、加熱時間15分という条件で仮焼を行なった。このような溶液塗布〜仮焼を繰り返し、0.4μm厚のMOD膜をテープ状基材表面に形成した。
【0053】
なお、溶液1と溶液2とをそれぞれ用いてMOD膜を形成した、2種類のテープ状基材を準備した。
【0054】
そして、得られた2種類のテープ状基材から、それぞれ10mの長さの試料を5本づつ、合計10本準備した。
【0055】
実施例1の試料の準備:
焼成前処理工程(S30)において上述した実施の形態2と同様にスペーサを挟み込んでテープ状基材を隙間無く巻取り(密巻きし)、パンケーキ状コイルを形成した。当該パンケーキ状コイルの内径は200mmとした。なお、ここでスペーサとしてはYSZが表面に形成されたテープ(以下、YSZテープという)を用いた。なお、このYSZテープとしては、表面にYSZ層が形成されていれば任意の構成を採用することができる。なおここではベースとなる帯状体としてテープ状基材の基板と同様のNi−5%Wの基板を用い、その基板の表面にYSZを厚み0.4μmだけスパッタリングで形成したものを用いた。
【0056】
このパンケーキ状コイルを形成する際の張力は0.980N(100gf)とし、線材同士が強く密着しないように考慮した。そして、当該パンケーキ状コイルについて、焼成工程(S40)(図1参照)を実施することによりMOD膜から超電導層を形成した。具体的には、不活性ガスとしてのアルゴン(Ar)を主成分とし、酸素濃度を100PPMとした雰囲気中で、加熱温度を750℃、加熱時間を0.5時間とした条件でパンケーキ状コイルを加熱した。当該加熱後、降温条件として温度が700℃から酸素100%の雰囲気中で徐冷した。このようにして、表面に厚さ0.4μmの超電導層(HoBa2Cu3Ox)が形成された超電導線材を得た。なお、実施例1の試料としては、溶液1を用いて形成したテープ状基材と溶液2を用いて形成したテープ状基材の2本について、上述のような熱処理を行なった。また、後述する実施例2、実施例3、参考例、比較例の各試料についても、それぞれ溶液1を用いて形成したテープ状基材と溶液2を用いて形成したテープ状基材の2本づつを用いて超電導線材を作製した。
【0057】
実施例2の試料の準備:
焼成前処理工程(S30)において上述した実施の形態1と同様に、テープ状基材の裏面に反応抑制層を形成してから当該テープ状基材を隙間無く巻取り、パンケーキ状コイルを形成した。
【0058】
具体的には、上述したテープ状基材の裏面(MOD膜が形成された表面と反対側の裏面)にスパッタリングによって銀(Ag)を厚さ5μm成膜した。その後、当該テープ状基材を隙間無く巻取り、パンケーキ状コイルを形成した。当該パンケーキ状コイルの内径は200mmとした。
【0059】
このパンケーキ状コイルを形成する際の張力は0.196N(20gf)とし、線材同士が強く密着しないようにした。その後、当該パンケーキ状コイルに対して、実施例1の試料に対する焼成工程と同様の条件で熱処理を行なった。このようにして、表面に超電導層(HoBa2Cu3Ox)が形成された超電導線材を得た。
【0060】
実施例3の試料の準備:
実施例1の試料と同様に、スペーサを挟み込んでテープ状基材を隙間無く巻取り、パンケーキ状コイルを形成した。スペーサとして、ニッケル基合金であるハステロイ(登録商標)のテープの両面に銀(Ag)を厚さ10μmコーティングしたものを用いた。当該パンケーキ状コイルの内径は200mmとした。
【0061】
このパンケーキ状コイルを形成する際の張力は0.490N(50gf)とし、線材同士が強く密着しないようにした。その後、当該パンケーキ状コイルに対して、実施例1の試料に対する焼成工程と同様の条件で熱処理を行なった。このようにして、表面に超電導層(HoBa2Cu3Ox)が形成された超電導線材を得た。
【0062】
参考例の試料の準備:
表面に幅5mm、深さ10mmの溝を渦巻き状に形成したステンレス製の円板(直径1m×厚さ20mm)を治具として用いて、パンケーキ状コイルを形成し、熱処理を行なった。なお、渦巻状の溝における、渦巻きの径方向において隣接する溝の間の距離は2mmとした。具体的には、上記円板に形成された溝の中に、MOD膜が形成されたテープ状基材(10m長さ)の端部を挿入し、隙間が開いた状態でパンケーキ状コイルを形成した。その後、当該パンケーキ状コイルに対して、実施例1の試料に対する焼成工程と同様の条件で熱処理を行なった。このようにして、表面に超電導層(HoBa2Cu3Ox)が形成された超電導線材を得た。
【0063】
比較例の試料の準備:
比較例の試料として、焼成前処理工程(S30)において、準備したテープ状基材をそのまま隙間無く巻取り、パンケーキ状コイルを形成した。つまり、スペーサを用いたり、反応抑制層を形成したりせず、パンケーキ状コイルを形成した。なお、このパンケーキ状コイルを形成する際の張力は0.980N(100gf)とした。その後、当該パンケーキ状コイルに対して、実施例1の試料に対する焼成工程と同様の条件で熱処理を行なった。
【0064】
(測定方法)
各試料について、四端子による通電法を用いて臨界電流値を測定した。なお、測定条件としては温度が77K、自己磁場下であってIc決定電界が1μV/cmという条件を用いた。
【0065】
(測定結果)
実施例1について:
2本の超電導線材について、臨界電流値を測定した結果、10m全長について75Aという平均値が得られた。
【0066】
実施例2について:
2本の超電導線材について臨界電流値を測定した結果、10m全長について82Aという平均値が得られた。
【0067】
実施例3について:
2本の超電導線材について臨界電流値を測定した結果、10m全長について83Aという平均値が得られた。
【0068】
参考例について:
2本の超電導線材について臨界電流値を測定した結果、10m全長について80Aという平均値が得られた。
【0069】
比較例について:
2本の超電導線材について、臨界電流値を測定した結果、いずれも0Aであった。なお、比較例の試料については、パンケーキ状コイルの状態で熱処理した後、巻き戻すときに、パンケーキ状コイルの径方向において隣接する線材同士が固着している部分が多く見られた。
【0070】
このように、本発明によれば蜜巻きしたパンケーキ状コイルの状態で、テープ状基材の本焼成(MOD膜から超電導層を生成するための熱処理)を行なうことが可能であることが分かる。なお、上述した実施例では、超電導層の厚みが0.4μmと薄いため、超電導線材の臨界電流値は約80A程度ときわめて高い値というわけではないが、本発明による超電導線材の製造方法は超電導層の厚み(すなわちMOD膜の厚み)に依存するものではなく、超電導層の厚みをより厚くした場合にも適用可能である。
【0071】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、特にMOD法を用いた超電導線材およびその製造方法に有利に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明による超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図1に示すMOD膜形成工程の内容を示すフローチャートである。
【図3】図2に示す溶液塗布工程を説明するための模式図である。
【図4】図1の焼成前処理工程の内容を示すフローチャートである。
【図5】図1に示す焼成工程を説明するための模式図である。
【図6】図5の線分VI−VIにおける断面模式図である。
【図7】図1に示した製造方法により得られた超電導線材を示す断面模式図である。
【図8】本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2を説明するための模式図である。
【図10】本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態3を説明するための模式図である。
【図11】本発明による半導体装置の製造方法の実施の形態4を説明するための模式図である。
【図12】図11の線分XII−XIIにおける断面模式図である。
【図13】図11の線分XIII−XIIIにおける断面を示す模式図である。
【図14】図11に示したパンケーキ状コイルを形成するために用いられるスペーサを示す平面模式図である。
【図15】図14の線分XV−XVにおける断面模式図である。
【図16】図14の線分XVI−XVIにおける断面模式図である。
【図17】図14〜図16に示したスペーサの変形例を示す模式図である。
【図18】図17の線分XVIII−XVIIIにおける断面模式図である。
【図19】図17の線分XIX−XIXにおける断面模式図である。
【符号の説明】
【0074】
1 処理装置、2 供給部、3 巻取部、4,5 ガイドロール、6 テープ状基材、7 塗布ノズル、8 溶液膜、9 溶液タンク、10 ヒータ、11 MOD膜、15 帯状基板、16 中間層、17 超電導層、18 安定化層、19 反応抑制層、20 線材、23 超電導線材、25 パンケーキ状コイル、27 スペーサ、31 薄肉部、32,33 厚肉部、34 空隙、41 平坦部、42,43 折曲げ部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、超電導線材およびその製造方法に関し、より特定的には、高い生産性を示し低コストで製造可能な超電導線材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化物超電導体を用いた超電導線材が知られている。また、超電導線材の製造方法の1つとして、有機金属塩塗布熱分解法(MOD:Metal Organic Deposition法)が知られている(たとえば、特許文献1参照)。MOD法とは、基材の表面に超電導体の材料を含む有機金属塩の溶液を塗布し、仮焼成、本焼成といった熱処理を行なうことにより超電導体膜を形成する方法である。このようなMOD法を実施する方法として、帯状の基板をコイル状とし、当該コイルから基板を巻き戻して走行させながら上記溶液の塗布、仮焼成、本焼成といった工程を行なう方法(Reel−to−Reel方式)が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。また、異なる方法として、基板への溶液の塗布および仮焼成後の帯状の基材を、円筒状のベース体に螺旋状に巻付けてからバッチ式の熱処理を行なう方法も提案されている(たとえば、非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−308746号公報
【非特許文献1】アレックス ピー マロツェモフ(Alexis P. Malozemoff)、”第2世代HTS線材(Second Generation HTS Wire: An Assessment)”、図5、[on line]、2004年12月、アメリカンスーパーコンダクタ(American Superconductor)、[平成20年10月1日検索]、インターネット(URL:http://www.amsc.com/products/htswire/documents/4122GWhitePaper_v5.pdf)
【非特許文献2】”イットリウム系酸化物超電導線材低コスト化技術の実用化に目処 昭和電線ケーブルシステム”、[on line]、2007年4月、[平成20年10月1日検索]、インターネット(URL:http://semrl.t.u-tokyo.ac.jp/supercom/86/86_2.html)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述した方法では、以下のような問題があった。すなわち、上記Reel−to−Reel方式の製造方法では、超電導線材の生産性の向上に限界がある。たとえば、工業的に妥当な超電導線材の製造速度として100m/h程度の速度を考え、また焼成に要する時間がたとえば5時間と長い場合、上述したReel−to−Reel方式では処理ラインの長さが500m必要となり、生産性の向上は難しく、さらに実現性も低いと思われる。そこで、処理ラインの長さをより短縮するため、ロールを用いて帯状の基材の進行方向を反転させて加熱部を当該基材が複数回通過するような構成、いわゆるマルチターン化した構造を処理ラインに採用することも考えられる。しかし、この場合であっても、処理ラインの構成が複雑化することから、やはり実現性の点で問題がある。
【0004】
また、上記非特許文献2のように、円筒状のベース体に基材を巻付けて熱処理を行なう場合、熱処理炉の炉内に当該ベース体を配置したときの炉内の有効活用体積は極めて小さく、効率的ではない。また、長尺の基材を熱処理するためにはベース体や熱処理炉のサイズを大きくする必要があり、やはり現実的ではなかった。たとえば、幅が1cm、長さが1000mの基材を用い、機材を巻付けるベース体の直径を1mとした場合、当該ベース体の長さは約6m必要となり、結果的に熱処理炉のサイズも非常に大きなものとなる。そして、熱処理炉は処理対象の基材の長さや幅を大きくするにつれて大型化する必要がある。このため、当該方法についても生産性の向上には限界があった。
【0005】
そこで、生産性を向上させるため、溶液を塗布した帯状の基材をパンケーキ状コイルとしてから仮焼成、本焼成などの熱処理を行なうことが考えられる。しかし、基材を巻回してパンケーキ状コイルにした場合、基材に塗布された溶液層と、隣接する基材の裏面とが接触した状態となるため、当該裏面と溶液層とが熱処理の実施中に反応する(つまり超電導線材を正常に製造できない)という問題があった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、高い生産性を示し、効率的に製造可能な超電導線材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従った超電導線材の製造方法は、テープ状基材を準備する工程と、塗布する工程と、前駆体膜を形成する工程と、反応抑制層を配置する工程と、超電導体膜を形成する工程とを備える。溶液を塗布する工程では、テープ状基材の表面に、超電導体を構成する元素を含む溶液を塗布する。前駆体を形成する工程では、溶液が塗布されたテープ状基材を熱処理することにより、テープ状基材の表面に塗布された溶液から超電導体の前駆体膜を形成する。反応抑制層を配置する工程では、前駆体膜が形成されたテープ状基材を巻回してパンケーキ状コイルを形成するとともに、パンケーキ状コイルにおける径方向に隣接するテープ状基材の部分の間に反応抑制層を配置する。超電導体膜を形成する工程では、パンケーキ状コイルに対して熱処理を行なうことにより、前駆体膜から超電導体膜を形成する。
【0008】
このようにすれば、熱処理を行なうときに、パンケーキ状コイルを構成するテープ状基材の部分の間に反応抑制層が配置されているので、前駆体膜と、当該前駆体膜に隣接するテープ状基材の部分とが直接接触しない。このため、前駆体膜と上記テープ状基材の部分とが熱処理により反応することを防止できる。この結果、前駆体膜が形成されたテープ状基材をパンケーキ状コイルとして熱処理を行なうことが可能になり、長尺のテープ状基材を用いて超電導線材を比較的容易に(高い生産性で)製造することが可能になる。
【0009】
この発明に従った超電導線材は、テープ状基材と、超電導体膜と、反応抑制層とを備える。超電導体膜は、テープ状基材の一方の主表面上に形成される。反応抑制層は、テープ状基材において一方の主表面と反対側の裏面に形成される。
【0010】
このようにすれば、超電導線材を形成する熱処理を行なうために、テープ状基材を巻回してパンケーキ状コイルを形成したときに、当該パンケーキ状コイルにおける径方向でのテープ状基材の部分の間に反応抑制層が配置されることになる。このため、当該熱処理によって上記径方向において隣接するテープ状基材の部分同士(具体的には、たとえばテープ状基材の裏面と、テープ状基材の表面側に形成された超電導体の前駆体)とが反応することを、当該反応抑制層により防止することができる。このため、パンケーキ状コイルとして熱処理を行なうことが可能になるので、生産性の高い製造工程により当該超電導線材を製造することができる。この結果、製造コストの低減化を図ることにより、低コストな超電導線材を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、超電導線材を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明による超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。図2は、図1に示すMOD膜形成工程の内容を示すフローチャートである。図3は、図2に示す溶液塗布工程を説明するための模式図である。図4は、図1の焼成前処理工程の内容を示すフローチャートである。図5は、図1に示す焼成工程を説明するための模式図である。図6は、図5の線分VI−VIにおける断面模式図である。図7は、図1に示した製造方法により得られた超電導線材を示す断面模式図である。図1および図7を参照して、本発明による超電導線材の製造方法を説明する。
【0014】
図1を参照して、本発明による超電導線材の製造方法では、まず準備工程(S10)を実施する。具体的には、たとえば配向処理されたニッケル合金からなる基板を準備する。この基板は帯状(テープ状)であって、たとえばその幅が10mm、厚みが0.1mmである。そして、この基板の表面上にスパッタリングなどの従来周知の方法により中間層を形成する。このようにして、超電導体からなる層(超電導層)を形成するためのベースとなるテープ状基材を準備する。
【0015】
次に、図1に示すように、MOD膜形成工程(S20)を実施する。具体的には、図2に示すような工程を実施する。図2を参照して、上述したMOD膜形成工程(S20)においては、まず溶液塗布工程(S21)を実施する。具体的には、超電導層を構成する超電導体の材料となる元素を含有する溶液を準備し、当該溶液を上述した基板の表面に塗布する。溶液の塗布方法としては、従来周知の任意の方法を用いることができるが、たとえば図3に示すような方法を用いることができる。
【0016】
図3は、基板の表面に中間層を形成したテープ状基材に溶液を塗布する処理装置1を示している。処理装置1は、テープ状基材6がパンケーキコイル状に巻かれたコイルからテープ状基材6を巻戻す供給部2と、巻戻されたテープ状基材6に対して溶液を塗布する塗布ノズル7と、塗布された溶液を仮焼成するためのヒータ10と、仮焼成が終了したことによりMOD膜11が形成されたテープ状基材6をコイル状に巻取る巻取部3とからなっている。テープ状基材6は、供給部2からガイドロール4を介して塗布ノズル7の下にまで案内される。塗布ノズル7から吐出される溶液がテープ状基材6の表面(中間層が形成された表面)上に塗布される。そして、塗布ノズル7から見て下流側(巻取部3側)に位置するヒータ10の間をテープ状基材6が通過するときに、当該テープ状基材6に塗布された溶液はヒータ10により加熱される。この結果、塗布された溶液が焼成され超電導体の前駆体であるMOD膜11が形成される。その後、ガイドロール5により案内されたMOD膜11付のテープ状基材6は、巻取部3においてコイル状に巻取られる。
【0017】
塗布ノズル7には、溶液タンク9が接続されている。この溶液タンク9に、塗布ノズル7からテープ状基材6の表面へと供給する溶液が保持されている。この塗布ノズル7から供給された溶液が、テープ状基材6の表面において溶液膜8となる。この溶液膜8は、上述のようにヒータ10により加熱されて仮焼成される。この結果、ヒータ10の出側においては、当該溶液膜8はMOD膜11となっている。つまり、図3に示した装置および方法では、図2における溶液塗布工程(S21)および仮焼成工程(S22)が連続して行なわれる。
【0018】
なお、上述のようにオンラインでヒータ10による仮焼成を行なってもよいが、溶液膜8を形成したテープ状基材6をたとえばパンケーキ状に巻いた状態で熱処理することにより仮焼成工程を実施してもよい。このとき、溶液膜8が隣接する他のテープ状基材6の裏面部分と接触しないように、コイルの径方向において隣接するテープ状基材6の間に隙間を設けるように、テープ状基材6をパンケーキコイル状に巻くことが好ましい。
【0019】
そして、図2に示すように、仮焼成工程(S22)を実施した後で、形成されたMOD膜が所定の厚みになったかどうかを判断する工程(S23)が実施される。この工程(S23)において、当該MOD膜11の厚みが所定の厚みとなっていると判断された場合には、工程(S23)においてYESと判断されるため、図2に示したプロセスが終了する。一方、工程(S23)においてNOと判断された(すなわちMOD膜の厚みが所定の厚みとまだなっていないと判断された)場合には、図2に示すように再度溶液塗布工程(S21)および仮焼成工程(S22)が実施される。具体的には、図3の巻取部3において巻取られたテープ状基材6のコイルが、再び供給部2へ配置され、テープ状基材6においてすでにMOD膜11が形成された面上に、さらに溶液膜を形成し仮焼成工程を実施する。そして、工程(S23)においてMOD膜の厚みが所定の厚みとなっているかどうかを判別し所定の厚みとなるまで上述した工程を繰返す。このようにして、図1に示したMOD膜形成工程(S20)が実施される。
【0020】
次に、図1に示す焼成前処理工程(S30)が実施される。この焼成前処理工程(S30)においては、具体的にはその後に実施する焼成工程(S40)においてテープ状基材に形成された前駆体を焼成するために、当該テープ状基材をパンケーキコイル状に巻いた状態にする。ただし、この焼成前処理工程(S30)においては、図4に示すように、テープ状基材6において前駆体であるMOD膜11(図3参照)が形成されていない側の裏面に、焼成工程(S40)での不要な反応を防止するための反応抑制層19(図6および図7を参照)を形成するコーティング工程(S31)をまず実施する。反応抑制層19としては、たとえばイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、銀、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホルミウムなどからなる膜を形成することができる。この反応抑制層19の形成方法は、従来周知の任意の方法を用いることができる。このようにして、図4に示すコーティング工程(S31)が実施される。
【0021】
次に、図4に示すように、パンケーキ状コイル化工程(S32)を実施する。具体的には、図5に示すように、MOD膜11が形成されたテープ状基材6(図6の線材20)を巻回することでパンケーキ状コイル25とする。このとき、線材20の裏面には上述のように反応抑制層19(図6参照)が形成されているため、図6に示すようにパンケーキ状に巻かれた線材20は、間に反応抑制層19が配置された状態でパンケーキ状に巻かれている。
【0022】
次に、図1に示すように、焼成工程(S40)を実施する。この工程(S40)においては、上述した工程(S30)においてパンケーキ状に巻かれた線材20に対して熱処理を行なうことにより、前駆体層であるMOD膜11から超電導層17(図7参照)を生成する。このとき、パンケーキ状に巻かれた線材20は間に反応抑制層19が配置された状態となっているので、熱処理に起因してパンケーキ状コイルの径方向において隣り合う線材20同士が反応するといった問題の発生を抑制できる。また、パンケーキ状に線材20をコイル化して熱処理を行なうことができるので、従来よりも効率的に超電導線材を製造することができる。
【0023】
このような処理の後、後処理工程を実施する。具体的には、超電導層17(図7参照)の表面を覆うように後述する安定化層を形成する。この結果、図7に示すような超電導線材23を得ることができる。
【0024】
ここで、上述した実施の形態の記載と一部重複する部分もあるが、本願発明の特徴的な構成を要約すれば、この発明に従った超電導線材の製造方法は、図1〜図4に示すように、テープ状基材を準備する準備工程(S10)と、塗布する工程としての溶液塗布工程(S21)と、前駆体膜を形成する工程としての仮焼成工程(S22)と、反応抑制層を配置する工程としての焼成前処理工程(S30)と、超電導体膜を形成する工程としての焼成工程(S40)とを備える。溶液塗布工程(S21)では、図3に示すように、テープ状基材6の表面に、超電導体を構成する元素を含む溶液を塗布し、溶液膜8を形成する。前駆体を形成する仮焼成工程(S22)では、溶液が塗布されたテープ状基材6を熱処理することにより、テープ状基材6の表面に塗布された溶液膜8から超電導体の前駆体膜であるMOD膜11を形成する。反応抑制層を配置する焼成前処理工程(S30)では、MOD膜11が形成されたテープ状基材6である線材20を巻回してパンケーキ状コイル25を形成するとともに、パンケーキ状コイル25における径方向に隣接するテープ状基材6の部分の間に反応抑制層19を配置する。超電導体膜を形成する焼成工程(S40)では、パンケーキ状コイル25に対して熱処理を行なうことにより、MOD膜11から超電導体膜としての超電導層17(図7参照)を形成する。
【0025】
このようにすれば、熱処理を行なうときに、パンケーキ状コイル25を構成するテープ状基材6の部分の間に反応抑制層19が配置されているので、MOD膜11と、当該MOD膜11に隣接する(パンケーキ状コイル25の径方向においてMOD膜11より外周側に位置する)テープ状基材6の部分とが直接接触しない。このため、MOD膜11と上記テープ状基材6の部分とが熱処理により反応することを防止できる。この結果、MOD膜11が形成されたテープ状基材6をパンケーキ状コイル25として熱処理を行なうことが可能になり、長尺のテープ状基材6を用いて超電導線材23を比較的容易に(高い生産性で)製造することが可能になる。
【0026】
上記超電導線材の製造方法において、焼成前処理工程(S30)では、前駆体としてのMOD膜11が形成されたテープ状基材6において、図4に示すようにMOD膜11が形成された表面と反対側の裏面上に反応抑制層19を形成した後、テープ状基材6を巻回してパンケーキ状コイル25としてもよい。この場合、テープ状基材6の裏面に予め反応抑制層19が形成された状態となっているので、MOD膜11が形成されたテープ状基材6(すなわち線材20)を巻回すときに別部材の反応抑制層を一緒に巻回すといった複雑な工程を実施する必要がない。また、反応抑制層19をテープ状基材6の裏面に形成するので、反応抑制層19自体で自立できるように反応抑制層19を厚く形成する必要が無い。このため、反応抑制層19をテープ状基材6とは別部材として準備する場合より、反応抑制層19の厚みを薄くできる。この結果、パンケーキ状コイル25のサイズを一定とした場合に、より長いテープ状基材6を用いて超電導線材23を製造することができる。
【0027】
なお、上記超電導線材の製造方法において、超電導体膜を形成する工程である焼成工程(S40)では、パンケーキ状コイル25の径方向において隣接するテープ状基材6の間に間隙が形成されていてもよい。この場合、間隙が上述した反応抑制層19と同様の作用を発揮する。したがって、テープ状基材6の部分(係方向の内周側の表面部分)と対向する前駆体としてのMOD膜11との反応をより確実に防止することができる。
【0028】
また、上述のように間隙を形成する場合、パンケーキ状コイル化工程(S32)においては、パンケーキ状コイル25の径方向において隣接するテープ状基材6の部分の間に間隙を形成するように、当該パンケーキ状コイル25を構成するテープ状基材6を配置する溝が形成された治具上にパンケーキ状コイルを搭載してもよい。この場合、治具の溝にテープ状基材6を配置することで、パンケーキ状コイル25においてテープ状基材6の部分の間に(径方向において)間隙を容易に形成することができる。
【0029】
図7を参照して、上述した製造方法により得られた超電導線材23は、テープ状基材6と、このテープ状基材6の上部表面上に形成された超電導層17と、この超電導層17の表面を覆う安定化層18と、テープ状基材6の裏面側(超電導層17が形成された表面と反対側の表面)に形成された反応抑制層19とからなる。基材6は、帯状の基板15とこの基板15の一方の表面上に形成された中間層16とからなる。
【0030】
つまり、上述した超電導線材23は、テープ状基材6と、超電導体膜としての超電導層17と、反応抑制層19とを備える。超電導層17は、テープ状基材6の一方の主表面上に形成される。反応抑制層19は、テープ状基材6において一方の主表面と反対側の裏面に形成される。このようにすれば、上述のように超電導線材23を形成する熱処理(焼成工程(S40))を行なうために、テープ状基材6を巻回してパンケーキ状コイル25を形成したときに、図6に示すように当該パンケーキ状コイル25における径方向でのテープ状基材6の部分の間に反応抑制層19が配置されることになる。このため、当該熱処理によって上記径方向において隣接するテープ状基材6の部分同士(具体的には、テープ状基材6の裏面と、テープ状基材6の表面側に形成された超電導体の前駆体であるMOD膜11)とが反応することを、当該反応抑制層19により防止することができる。このため、パンケーキ状コイル25として熱処理を行なうことが可能になるので、生産性の高い製造工程により当該超電導線材23を製造することができる。
【0031】
上記超電導線材の製造方法または上記超電導線材23において、反応抑制層19は、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、銀(Ag)、酸化セリウム(CeO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ホルミウム(Ho2O3)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。具体的には、反応抑制層19として、上述した材料からなる膜を1層または複数層積層した構造を採用してもよい。この場合、熱処理を行なう際に、パンケーキ状コイル25のテープ状基材6の部分と、当該部分に隣接するMOD膜11との間の反応を確実に抑制することができる。
【0032】
(実施の形態2)
図8は、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2を説明するためのフローチャートである。図9は、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2を説明するための模式図である。図8および図9を参照して、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2を説明する。なお、図8は図4に対応し、図9は図6に対応する。
【0033】
本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2は、基本的には図1〜図7で説明した超電導線材の製造方法の実施の形態1と基本的に同様の構成を備えるが、図1に示す焼成前処理工程(S30)の内容が異なっている。具体的には、図1に示した準備工程(S10)およびMOD膜形成工程(S20)を実施した後、焼成前処理工程(S30)として、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2においては、図8に示すようにまずスペーサ準備工程(S33)を実施する。このスペーサ27(図9参照)とは、後述するようにMOD膜11が形成されたテープ状基材6からなる線材20(図3参照)をパンケーキ状に巻くときに、当該線材20と一緒に巻込むことによりパンケーキ状コイルとなった場合の径方向において隣接する線材20同士が直接接触することを防止するためのものである。このスペーサ27の形状としては帯状の外観を有していればよい。また、その幅は上述した線材20の幅と実質的に同一となっていることが好ましいが、当該幅は線材20の幅より狭くても、また広くなっていてもよい。また、反応抑制層としてのスペーサ27は、テープ状基材6と同じ構成の部材を用いることが好ましい。この場合、スペーサ27は十分な耐熱性を備えるとともに、後述する熱処理のときに、形成される超電導層に対する悪影響を及ぼす元素の発生源となる可能性が低いことから、超電導層の品質の低下といった問題の発生を抑制できる。
【0034】
次に、図8に示すように、パンケーキ状コイル化工程(S34)を実施する。この工程(S34)においては、上述のように準備したスペーサ27と線材20(図3参照)とを重ねてパンケーキ状に巻取る。この結果、図5に示すようなパンケーキ状コイル25を形成できる。但し、このパンケーキ状コイル25の断面においては、図9に示すようにパンケーキ状コイル25の径方向において隣接する線材20の部分の間にはスペーサ27が配置された状態となる。このスペーサ27は線材20の幅と実質的に同じ幅を有している。このようにすれば、線材20の主表面(パンケーキ状コイル25の径方向に垂直な面)の全面について、確実に隣接する線材20との接触、また加熱による固着といった問題が発生することを防止できる。
【0035】
そして、上述のようにパンケーキ状コイル25を形成した後、実施の形態1における製造方法と同様に焼成工程(S40)(図1参照)および後処理工程を実施することにより、超電導線材を得ることができる。但し、この実施の形態2において得られる超電導線材は、基本的には図7に示した超電導線材23と同様の構成を備えるが、図7に示した超電導線材23から反応抑制層19を除去した構成となっている。
【0036】
つまり、上述した超電導線材の製造方法は、基本的に本発明の実施の形態1における超電導線材の製造方法と同様であるが、反応抑制層を配置する工程としての焼成前処理工程(S30)では、テープ状基材6とは別部材である反応抑制層としてのスペーサ27が、パンケーキ状コイル化工程(S34)においてテープ状基材6とともに巻回されることにより配置される。この場合、テープ状基材6自体の構造は従来から変更することなく、別部材のスペーサ27をテープ状基材6と共に巻回すことで、スペーサ27が隣接するテープ状基材6の間に配置されたパンケーキ状コイル25を容易に形成することができる。この結果、テープ状基材6の裏面(前駆体としてのMOD膜11が形成される表面とは反対側の裏面)に反応抑制層19を形成する、といった工程を行なう必要が無いため、超電導線材の製造コストの増大を抑制できる。
【0037】
また、上記超電導線材の製造方法において、スペーサ27は、帯状のベース体と、当該ベース体の表面に形成された被覆層とからなっていてもよい。被覆層は、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、銀(Ag)、酸化セリウム(CeO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ホルミウム(Ho2O3)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。この場合、反応抑制層として、ベース体表面に所定の材料からなる被覆層を備えるスペーサ27を用いることになるので、ベース体に比較的強度の高い材料(たとえばステンレス鋼、あるいはニッケル基の耐熱合金など)を用いることができる。この結果、反応抑制層の強度を確保する一方、被服層によりテープ状基材6とMOD膜11との反応を確実に防止することができる。また、被服層として比較的強度の低い材料を用いることも可能になるので、反応抑制層としてのスペーサ27の構成の自由度を大きくできる。
【0038】
(実施の形態3)
図10は、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態3を説明するための模式図である。図10を参照して、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態3を説明する。なお、図10は図6に対応する。
【0039】
図10に示すように、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態3は、基本的には上述した本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2と同様の構成を備えるが、用いるスペーサ27の形状が異なっている。すなわち、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態1と同様に、準備工程(S10)、MOD膜形成工程(S20)を実施した後、焼成前処理工程(S30)を実施する。この工程(S30)において、準備するスペーサ27は、その幅が線材20の幅よりも十分狭くなったもの(好ましくは線材20の幅の半分以下の幅を有するスペーサ27)を用いる。そして、その後パンケーキ状コイル化工程(S34)(図8参照)を実施する。つまり、反応抑制層を配置する工程としてのパンケーキ状コイル化工程(S34)では、テープ状基材の幅(つまり線材20の幅)より狭い幅を有する反応抑制層としてのスペーサ27を用いている。その結果、図10に示すように、パンケーキ状に巻かれた線材20の間に、スペーサ27が存在することで形成される空間が存在する。このようなスペーサ27を用いることにより、線材20とスペーサ27との接触面積を小さくできる。このため、スペーサ27と線材20との接触部が加熱により固着するといった可能性を低減できる。なお、このとき用いる線材20の幅は1cm以上となっていることが好ましい。
【0040】
そして、この後焼成工程(S40)および後処理工程を実施することにより、上述した本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2によって得られる超電導線材と同様の構造を有する超電導線材を得ることができる。
【0041】
(実施の形態4)
図11は、本発明による半導体装置の製造方法の実施の形態4を説明するための模式図である。図12は、図11の線分XII−XIIにおける断面模式図である。図13は、図11の線分XIII−XIIIにおける断面を示す模式図である。また、図14は、図11に示したパンケーキ状コイルを形成するために用いられるスペーサを示す平面模式図である。図15は、図14の線分XV−XVにおける断面模式図である。図16は、図14の線分XVI−XVIにおける断面模式図である。図11〜図16を参照して、本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態4を説明する。
【0042】
本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態4は、基本的には上述した本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態3と同様の構成を備えるが、用いるスペーサ27の形状が異なっている。すなわち、図8に示したようなパンケーキ状コイル化工程(S34)を実施して、図11に示すようなパンケーキ状コイル25を形成するが、このときに用いるスペーサ27は図14〜図16に示すような形状を有している。具体的には、スペーサ27は、その幅がほぼ線材20(図12参照)と同じである一方、一方の端部(スペーサ27の長手方向に対して垂直な方向であってスペーサ27の主表面に沿った方向(幅方向)における端部)には当該スペーサの長手方向(延在方向)での全長に亘って厚肉部32が形成されている。つまり、反応抑制層であるスペーサ27として、長手方向に対して交差する方向である幅方向における厚みが局所的に異なる部材を用いている。そして、上記一方の端部と反対側に位置する他方の端部には、所定の間隔を隔てて部分的な厚肉部33が形成されている。つまり、この局所的に厚みが厚くなった部分である肉厚部33は、スペーサ27の長手方向において間欠的に形成されている。なお、この厚肉部32、33以外の領域は、当該厚肉部33、32よりも厚みの薄い薄肉部31となっている。このようなスペーサ27を線材20と一緒に巻込んでパンケーキ状コイル25を形成する。この結果、図12および図13に示すように、スペーサ27の厚肉部32、33によって隣接する線材20の間の距離は保たれるとともに、薄肉部31と対向する領域には空隙34が形成される。すなわち、薄肉部31と対向する一方の空間(薄肉部31と厚肉部33、32とで囲まれた領域)に空隙34が形成されるので、薄肉部31の一方の表面と線材20の一方の表面とは直接接触しない。そして、線材20において、空隙34と対向する側の表面に、前駆体としてのMOD膜11が形成された表面が配置されるようにパンケーキ状コイル25を形成することで、スペーサ27と線材20のMOD膜11との間に反応が起きるといった可能性をより低減することができる。
【0043】
なお、厚肉部32、33と薄肉部31との配置は、図14〜図16に示すように、それぞれの一方の表面がほぼ同一平面上に延在するように構成されているが、薄肉部31が厚肉部32、33の厚み方向の中央に接続されるようにスペーサ27を形成してもよい。この場合、スペーサ27と隣接する線材20の表面とは厚肉部32、33の表面のみが接触することになるため、当該スペーサ27と線材20との間で加熱による反応が起きる可能性をより低減することができる。
【0044】
図17は、図14〜図16に示したスペーサの変形例を示す模式図である。図18は、図17の線分XVIII−XVIIIにおける断面模式図である。図19は、図17の線分XIX−XIXにおける断面模式図である。図17〜図19を参照して、スペーサの変形例を説明する。
【0045】
図17〜図19に示したスペーサ27は、全長に亘ってほぼ同じ厚みの帯状体を一部折り曲げ加工することにより形成されている。具体的には、スペーサ27の幅方向における両端部において、所定の間隔だけ離れた場所毎に切欠きを入れて折曲げた折曲げ部42、43を形成する。この折曲げ部42、43は、折曲げられたことにより、他の部分である平坦部41から見て、その厚み方向においてより高い位置まで到達するような構成となっている。このため、図17〜図19に示すスペーサ27を、図11〜図13に示したスペーサ27と同様に線材20と一緒に巻込むことでパンケーキ状コイルを形成すれば、図11〜図13に示したパンケーキ状コイルと同様に、径方向において線材20の間に間隙を形成すると同時に、隣接する線材20との間に空隙(図17〜図19に示したスペーサ27においては平坦部41と折曲げ部42、43とにより囲まれる空間)を配置することができる。この結果、図14〜図16に示したスペーサを用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0046】
さらに、図17〜図19に示したスペーサ27においては、図17に示した下端部においてもスペーサ27の長手方向での全長ではなく間欠的に折曲げ部42が形成されている。そのため、図14〜図16に示したスペーサよりもさらに線材20とのスペーサ27との接触部の面積を小さくすることができる。
【0047】
上述した各実施の形態において、超電導体膜としての超電導層17は、酸化物超電導体からなる膜であってもよく、特にRE123超電導体膜であることが好ましい。ここで、RE123超電導体とは、一般式REBa2Cu3Ox(REはたとえばY、Gd、Smなどの希土類元素の1種又は2種以上の元素を示す)で表される酸化物超電導体である。この場合、優れた特性の超電導線材を高い生産性で得ることができる。
【0048】
(実施例)
本発明の効果を確認するべく、以下のような実験を行なった。
【0049】
(MOD膜形成用の溶液の準備)
溶液1の作成:
ホルミウム(Ho)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のアセチルアセトナート塩を1:2:3の比で秤量し、ピリジンとプロピオン酸の混合液(体積比3:5)の溶媒に溶かし、2時間撹拌した。なお、未溶解物がある場合は少しずつ溶媒を追加し、撹拌を繰返し、飽和溶液を作製した。この溶液を55℃程度に加熱し、撹拌しながら大部分の溶媒を蒸発させた。残ったタール状の液体をメタノールに溶かし、全カチオン濃度が0.6mol/l程度になるよう希釈することで、溶液1を準備した。
【0050】
溶液2の作成:
ホルミウム(Ho)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のアセチルアセトナート塩を1:2:3の比で秤量し、ピリジンとプロピオン酸の混合液(体積比7:5)に溶かし、5時間撹拌した。その溶液を60℃程度に加熱し、撹拌しながら大部分の溶媒を蒸発させた。残ったタール状の液体を1−ブタノールに溶かし、全カチオン濃度が6mol/l程度になるよう希釈することで、溶液2を準備した。
【0051】
(線材の製造方法)
テープ状基材の準備:
配向処理されたNi−5%Wの基板(幅10mm×厚さ0.1mm)を準備した。当該基板の上に、スパッタリング法を用いてCeO2、YSZ、CeO2をそれぞれ0.15μm、0.4μm、0.15μmという厚みとなるように成膜することで積層構造を有する中間層を形成した。得られたテープ状基材(基板の表面に中間層が形成された基板)では、形成された中間層の面内配向性がΦ5〜6であり、中間層の表面粗度はRa=5〜10nmであった。なお、面内配向性は、X線回折の極点図測定により求めた。
【0052】
次に、図3に示した処理装置1を用いて、テープ状基材上に溶液を一定量供給しながら搬送させることで塗布し、その後ヒータ10を用いて大気中で加熱温度500℃、加熱時間15分という条件で仮焼を行なった。このような溶液塗布〜仮焼を繰り返し、0.4μm厚のMOD膜をテープ状基材表面に形成した。
【0053】
なお、溶液1と溶液2とをそれぞれ用いてMOD膜を形成した、2種類のテープ状基材を準備した。
【0054】
そして、得られた2種類のテープ状基材から、それぞれ10mの長さの試料を5本づつ、合計10本準備した。
【0055】
実施例1の試料の準備:
焼成前処理工程(S30)において上述した実施の形態2と同様にスペーサを挟み込んでテープ状基材を隙間無く巻取り(密巻きし)、パンケーキ状コイルを形成した。当該パンケーキ状コイルの内径は200mmとした。なお、ここでスペーサとしてはYSZが表面に形成されたテープ(以下、YSZテープという)を用いた。なお、このYSZテープとしては、表面にYSZ層が形成されていれば任意の構成を採用することができる。なおここではベースとなる帯状体としてテープ状基材の基板と同様のNi−5%Wの基板を用い、その基板の表面にYSZを厚み0.4μmだけスパッタリングで形成したものを用いた。
【0056】
このパンケーキ状コイルを形成する際の張力は0.980N(100gf)とし、線材同士が強く密着しないように考慮した。そして、当該パンケーキ状コイルについて、焼成工程(S40)(図1参照)を実施することによりMOD膜から超電導層を形成した。具体的には、不活性ガスとしてのアルゴン(Ar)を主成分とし、酸素濃度を100PPMとした雰囲気中で、加熱温度を750℃、加熱時間を0.5時間とした条件でパンケーキ状コイルを加熱した。当該加熱後、降温条件として温度が700℃から酸素100%の雰囲気中で徐冷した。このようにして、表面に厚さ0.4μmの超電導層(HoBa2Cu3Ox)が形成された超電導線材を得た。なお、実施例1の試料としては、溶液1を用いて形成したテープ状基材と溶液2を用いて形成したテープ状基材の2本について、上述のような熱処理を行なった。また、後述する実施例2、実施例3、参考例、比較例の各試料についても、それぞれ溶液1を用いて形成したテープ状基材と溶液2を用いて形成したテープ状基材の2本づつを用いて超電導線材を作製した。
【0057】
実施例2の試料の準備:
焼成前処理工程(S30)において上述した実施の形態1と同様に、テープ状基材の裏面に反応抑制層を形成してから当該テープ状基材を隙間無く巻取り、パンケーキ状コイルを形成した。
【0058】
具体的には、上述したテープ状基材の裏面(MOD膜が形成された表面と反対側の裏面)にスパッタリングによって銀(Ag)を厚さ5μm成膜した。その後、当該テープ状基材を隙間無く巻取り、パンケーキ状コイルを形成した。当該パンケーキ状コイルの内径は200mmとした。
【0059】
このパンケーキ状コイルを形成する際の張力は0.196N(20gf)とし、線材同士が強く密着しないようにした。その後、当該パンケーキ状コイルに対して、実施例1の試料に対する焼成工程と同様の条件で熱処理を行なった。このようにして、表面に超電導層(HoBa2Cu3Ox)が形成された超電導線材を得た。
【0060】
実施例3の試料の準備:
実施例1の試料と同様に、スペーサを挟み込んでテープ状基材を隙間無く巻取り、パンケーキ状コイルを形成した。スペーサとして、ニッケル基合金であるハステロイ(登録商標)のテープの両面に銀(Ag)を厚さ10μmコーティングしたものを用いた。当該パンケーキ状コイルの内径は200mmとした。
【0061】
このパンケーキ状コイルを形成する際の張力は0.490N(50gf)とし、線材同士が強く密着しないようにした。その後、当該パンケーキ状コイルに対して、実施例1の試料に対する焼成工程と同様の条件で熱処理を行なった。このようにして、表面に超電導層(HoBa2Cu3Ox)が形成された超電導線材を得た。
【0062】
参考例の試料の準備:
表面に幅5mm、深さ10mmの溝を渦巻き状に形成したステンレス製の円板(直径1m×厚さ20mm)を治具として用いて、パンケーキ状コイルを形成し、熱処理を行なった。なお、渦巻状の溝における、渦巻きの径方向において隣接する溝の間の距離は2mmとした。具体的には、上記円板に形成された溝の中に、MOD膜が形成されたテープ状基材(10m長さ)の端部を挿入し、隙間が開いた状態でパンケーキ状コイルを形成した。その後、当該パンケーキ状コイルに対して、実施例1の試料に対する焼成工程と同様の条件で熱処理を行なった。このようにして、表面に超電導層(HoBa2Cu3Ox)が形成された超電導線材を得た。
【0063】
比較例の試料の準備:
比較例の試料として、焼成前処理工程(S30)において、準備したテープ状基材をそのまま隙間無く巻取り、パンケーキ状コイルを形成した。つまり、スペーサを用いたり、反応抑制層を形成したりせず、パンケーキ状コイルを形成した。なお、このパンケーキ状コイルを形成する際の張力は0.980N(100gf)とした。その後、当該パンケーキ状コイルに対して、実施例1の試料に対する焼成工程と同様の条件で熱処理を行なった。
【0064】
(測定方法)
各試料について、四端子による通電法を用いて臨界電流値を測定した。なお、測定条件としては温度が77K、自己磁場下であってIc決定電界が1μV/cmという条件を用いた。
【0065】
(測定結果)
実施例1について:
2本の超電導線材について、臨界電流値を測定した結果、10m全長について75Aという平均値が得られた。
【0066】
実施例2について:
2本の超電導線材について臨界電流値を測定した結果、10m全長について82Aという平均値が得られた。
【0067】
実施例3について:
2本の超電導線材について臨界電流値を測定した結果、10m全長について83Aという平均値が得られた。
【0068】
参考例について:
2本の超電導線材について臨界電流値を測定した結果、10m全長について80Aという平均値が得られた。
【0069】
比較例について:
2本の超電導線材について、臨界電流値を測定した結果、いずれも0Aであった。なお、比較例の試料については、パンケーキ状コイルの状態で熱処理した後、巻き戻すときに、パンケーキ状コイルの径方向において隣接する線材同士が固着している部分が多く見られた。
【0070】
このように、本発明によれば蜜巻きしたパンケーキ状コイルの状態で、テープ状基材の本焼成(MOD膜から超電導層を生成するための熱処理)を行なうことが可能であることが分かる。なお、上述した実施例では、超電導層の厚みが0.4μmと薄いため、超電導線材の臨界電流値は約80A程度ときわめて高い値というわけではないが、本発明による超電導線材の製造方法は超電導層の厚み(すなわちMOD膜の厚み)に依存するものではなく、超電導層の厚みをより厚くした場合にも適用可能である。
【0071】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、特にMOD法を用いた超電導線材およびその製造方法に有利に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明による超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図1に示すMOD膜形成工程の内容を示すフローチャートである。
【図3】図2に示す溶液塗布工程を説明するための模式図である。
【図4】図1の焼成前処理工程の内容を示すフローチャートである。
【図5】図1に示す焼成工程を説明するための模式図である。
【図6】図5の線分VI−VIにおける断面模式図である。
【図7】図1に示した製造方法により得られた超電導線材を示す断面模式図である。
【図8】本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態2を説明するための模式図である。
【図10】本発明による超電導線材の製造方法の実施の形態3を説明するための模式図である。
【図11】本発明による半導体装置の製造方法の実施の形態4を説明するための模式図である。
【図12】図11の線分XII−XIIにおける断面模式図である。
【図13】図11の線分XIII−XIIIにおける断面を示す模式図である。
【図14】図11に示したパンケーキ状コイルを形成するために用いられるスペーサを示す平面模式図である。
【図15】図14の線分XV−XVにおける断面模式図である。
【図16】図14の線分XVI−XVIにおける断面模式図である。
【図17】図14〜図16に示したスペーサの変形例を示す模式図である。
【図18】図17の線分XVIII−XVIIIにおける断面模式図である。
【図19】図17の線分XIX−XIXにおける断面模式図である。
【符号の説明】
【0074】
1 処理装置、2 供給部、3 巻取部、4,5 ガイドロール、6 テープ状基材、7 塗布ノズル、8 溶液膜、9 溶液タンク、10 ヒータ、11 MOD膜、15 帯状基板、16 中間層、17 超電導層、18 安定化層、19 反応抑制層、20 線材、23 超電導線材、25 パンケーキ状コイル、27 スペーサ、31 薄肉部、32,33 厚肉部、34 空隙、41 平坦部、42,43 折曲げ部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状基材を準備する工程と、
前記テープ状基材の表面に、超電導体を構成する元素を含む溶液を塗布する工程と、
前記溶液が塗布された前記テープ状基材を熱処理することにより、前記テープ状基材の表面に塗布された前記溶液から前記超電導体の前駆体膜を形成する工程と、
前記前駆体膜が形成された前記テープ状基材を巻回してパンケーキ状コイルを形成するとともに、前記パンケーキ状コイルにおける径方向に隣接する前記テープ状基材の部分の間に反応抑制層を配置する工程と、
前記パンケーキ状コイルに対して熱処理を行なうことにより、前記前駆体膜から超電導体膜を形成する工程とを備える、超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記反応抑制層を配置する工程では、前記テープ状基材とは別部材である前記反応抑制層が、前記テープ状基材とともに巻回されることにより配置されている、請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記反応抑制層は、帯状のベース体と、前記ベース体の表面に形成された被覆層とからなり、
前記被覆層は、イットリウム安定化ジルコニア、銀、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホルミウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記反応抑制層として、前記テープ状基材と同じ構成の部材を用いる、請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記反応抑制層として、長手方向に対して交差する方向である幅方向における厚みが局所的に異なる部材を用いる、請求項2〜4のいずれか1項に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記反応抑制層を配置する工程では、前記前駆体が形成された前記テープ状基材において、前記前駆体が形成された表面と反対側の裏面上に前記反応抑制層を形成した後、前記テープ状線材を巻回する、請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項7】
前記反応抑制層は、イットリウム安定化ジルコニア、銀、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホルミウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項6に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項8】
前記反応抑制層を配置する工程では、前記テープ状基材の幅より狭い幅を有する反応抑制層を用いる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項9】
テープ状基材と、
前記テープ状基材の一方の主表面上に形成された超電導体膜と、
前記テープ状基材において前記一方の主表面と反対側の裏面に形成された、反応抑制層とを備える、超電導線材。
【請求項10】
前記反応抑制層は、イットリウム安定化ジルコニア、銀、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホルミウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項9に記載の超電導線材。
【請求項1】
テープ状基材を準備する工程と、
前記テープ状基材の表面に、超電導体を構成する元素を含む溶液を塗布する工程と、
前記溶液が塗布された前記テープ状基材を熱処理することにより、前記テープ状基材の表面に塗布された前記溶液から前記超電導体の前駆体膜を形成する工程と、
前記前駆体膜が形成された前記テープ状基材を巻回してパンケーキ状コイルを形成するとともに、前記パンケーキ状コイルにおける径方向に隣接する前記テープ状基材の部分の間に反応抑制層を配置する工程と、
前記パンケーキ状コイルに対して熱処理を行なうことにより、前記前駆体膜から超電導体膜を形成する工程とを備える、超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記反応抑制層を配置する工程では、前記テープ状基材とは別部材である前記反応抑制層が、前記テープ状基材とともに巻回されることにより配置されている、請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記反応抑制層は、帯状のベース体と、前記ベース体の表面に形成された被覆層とからなり、
前記被覆層は、イットリウム安定化ジルコニア、銀、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホルミウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記反応抑制層として、前記テープ状基材と同じ構成の部材を用いる、請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記反応抑制層として、長手方向に対して交差する方向である幅方向における厚みが局所的に異なる部材を用いる、請求項2〜4のいずれか1項に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記反応抑制層を配置する工程では、前記前駆体が形成された前記テープ状基材において、前記前駆体が形成された表面と反対側の裏面上に前記反応抑制層を形成した後、前記テープ状線材を巻回する、請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項7】
前記反応抑制層は、イットリウム安定化ジルコニア、銀、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホルミウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項6に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項8】
前記反応抑制層を配置する工程では、前記テープ状基材の幅より狭い幅を有する反応抑制層を用いる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項9】
テープ状基材と、
前記テープ状基材の一方の主表面上に形成された超電導体膜と、
前記テープ状基材において前記一方の主表面と反対側の裏面に形成された、反応抑制層とを備える、超電導線材。
【請求項10】
前記反応抑制層は、イットリウム安定化ジルコニア、銀、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホルミウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項9に記載の超電導線材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−129214(P2010−129214A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299727(P2008−299727)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]