説明

超電導酸化物材料の製造方法及び装置

【課題】基板上に良質の超電導酸化物膜が大面積で得られ、かつ制御が易しい超電導酸化物材料の製造方法を提供する。
【解決手段】
酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液を基板上に塗布し、乾燥させる工程(A)、レーザによって金属の有機化合物の有機成分を光分解するレーザ照射工程(B)、金属の有機化合物中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程(C)、超電導物質への変換を行う本焼成工程(D)を経てエピタキシャル成長させた超電導コーティング材料を製造するに際し、工程(B)のレーザ照射において、冷却体と基板(4)とを面接触させて基板(4)を冷却することにより、基板冷却をしながらレーザ照射することを特徴とする超電導酸化物材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力輸送、電力機器、情報機器分野で用いる超電導物質の製造方法、より詳しくは超電導物質をコーティングした超電導材料膜(限流器、マイクロ波フィルタ、テープ材料、線材)の製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術では、溶液分解法で超電導物質を製造する方法に関して、原料となる金属の有機化合物溶液に紫外光(レーザまたはランプ光)を照射する方法が提案されている(特許文献1参照)。
図1に示すものはその方法を図示したものであり、基板上に原料となる塗布溶液を塗った塗布膜に紫外光を照射する方法、仮焼成膜に紫外光を照射する方法、本焼成初期膜に紫外光を照射する方法が提案されている。
この方法によって、原料である有機塗布膜を紫外光で分解することで、均質な前駆体を作ることができ、結果的に特性が優れた超電導材料を得ることができるようになっていた。また、この方法は真空プロセスを使わないために装置が安価で済み、なおかつ連続製造ができるため大量生産に適している。

【0003】
さらに上記の応用技術として、基板の背面からレーザを照射する方法も出願されている(特許文献2参照)。
図2で示すものはその方法で、原料溶液を塗布した基板の背面からレーザを照射することで従来高特性の超電導薄膜を作ることができるとされている。
しかし、塗布膜あるいは塗布した反対側の面にスキャン照射する場合、例えば塗布面に照射する時は図3の様にスキャン方向各位置における照射直前の塗布膜及び基板の温度は照射開始位置では低いが、スキャンと共に基板全体が加熱されるため上昇する。
ある基板における最適照射条件で他の基板を照射する場合、基板の熱特性(例えば熱容量、熱伝導度)の違いによりビーム通過直後の塗布膜の温度がスキャン方向下流部では塗布膜中の残存溶媒の沸点T沸点を越えてしまう。この場合、同部分では残存溶媒が沸騰し塗布膜が剥離する。このため塗布膜の面積が減少し製造される超電導薄膜の面積が減少してしまう。
塗布膜が金属有機酸塩の溶液である場合、塗布膜のアブレーションを防ぐ方法として以下の2つがある(特許文献3参照)。第1の方法では最初の段階で弱いエネルギーを照射し残存溶媒を除去する。次に強いエネルギーを照射し金属有機酸塩を分解する。この方法を塗布膜の剥離防止に応用する場合、操作が煩雑になると共に照射時間が長くなってしまう。
また第2の方法では基板を極低温に保持し照射する。この方法を塗布膜の剥離防止に応用する場合、ビーム通過直後の塗布膜の温度は溶媒の沸点T沸点を超えない。そのため残存溶媒の沸騰による塗布膜の剥離は見られない。しかし塗布膜の温度が低いために溶媒の蒸発速度は低下し、金属有機酸塩の分解速度は低下してしまう。そのため溶媒を十分に蒸発させ、金属有機酸塩を十分に分解するためには長時間を要してしまう。

【0004】
また関連技術としてセラミックス成形品の加圧脱脂技術がある。この場合、有機バインダーの飽和蒸気圧よりも脱脂炉の雰囲気圧力を大きくする。これによりバインダーの沸騰を抑え成形体の破損を防いでいる。同技術を応用し図4の様な加圧チャンバーを用いた照射を考える。この場合溶媒の沸点は上昇する。しかし例えば20mm×20mmの正方形LAO基板を用いる場合、トータル照射エネルギー約500mJ/cm2で照射した時、照射直前の塗布膜及び基板の温度は照射終了位置では100℃である。溶媒として例えばメタノールを用いる場合、その大気圧下の沸点64℃を100℃以上とし残存溶媒の沸騰による塗布膜の剥離を防ぐためには、チャンバー内を353kPa以上とする必要がある。そのため高圧チャンバーを要し、照射処理費用が高価となってしまうという問題があった。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】:特開2007-070216号公報
【特許文献2】:特開2008-037726号公報
【特許文献3】:特開2001-031417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記超電導薄膜製造工程内のレーザ照射工程において、基板冷却をせずに塗布膜にレーザをスキャン照射すると、スキャンと共に基板、膜が加熱され、温度が上昇する。温度が上昇した状態の膜にレーザを照射すると、膜にヒビが入り、それを起点とする応力集中による膜の剥離や、基板温度の急上昇や急降下による熱応力に起因する基板破損が生じる。また、スキャン照射上流側と下流側において、上流側での照射直前の膜温度と下流側での照射直前の膜温度で差が生じる。
以上のことから、塗布膜および基板の劣化により、特性が均一な超電導薄膜を得られないという問題があった。

【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記問題を解決するために、ペルチェ素子を用いることにより、基板上に良質の超電導酸化物膜が大面積で得られ、かつ制御が易しい超電導酸化物材料の製造方法を提供する。
すなわち、本発明は、酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液を基板上に塗布し、乾燥させる工程(A)、レーザによって金属の有機化合物の有機成分を光分解するレーザ照射工程(B)、金属の有機化合物中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程(C)、超電導物質への変換を行う本焼成工程(D)を経てエピタキシャル成長させた超電導コーティング材料を製造するに際し、工程(B)のレーザ照射において、冷却体と基板(4)とを面接触させて基板(4)を冷却することにより、基板冷却をしながらレーザ照射することを特徴とする超電導酸化物材料の製造方法である。
また本発明は、レーザ照射時の基板を冷却体と面接触で冷却するに際して、ペルチェ素子(1)により冷却した、高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)を用い、高い熱伝導率を有する金属板を介しまたは介さずに、高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)と基板のレーザ照射面の裏面とを面接触させて、基板をレーザ照射面の裏面側から冷却することができる。
【0008】
さらに、本発明は上記の超電導酸化物材料の製造方法において用いる
高い熱伝導率を有する柔軟性を持ったシート(2)でペルチェ素子(1)を挟み、高い熱伝導率を有する柔軟性を持ったシート(2)の基板側面と、基板のレーザ照射面の裏面とを面接触させてペルチェ素子(1)により基板(4)が冷却されることを特徴とする基板冷却装置である。
また、本発明の基板冷却装置において、高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)でペルチェ素子(1)を挟み、さらに高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)を、高い熱伝導率を有する金属板(3)で挟んで、ペルチェ素子(1)と高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)、金属板(3)と高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)の接触面をそれぞれ面接触させ、ペルチェ素子(1)により基板(4)を冷却することができる。

【発明の効果】
【0009】
本発明では工程(B)のレーザ照射において、冷却体と基板(4)とを面接触させて基板(4)を冷却することにより、基板(4)を冷却体により効率よく均一に冷却することができる。
また、本発明では冷却源であるペルチェ素子(1)と高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)を設置し、その接触面を面接触にすることでペルチェ素子(1)の冷却効率と放熱効果を向上させることにより、基板(4)を効率良くかつ均一に冷却しながら照射を行うことができ、これにより、スキャン照射の過程で温度が上昇した膜にレーザが照射されることによる、膜の剥離や熱応力による基板(4)の破損を防ぎ、レーザが照射される直前の膜の温度を30℃程度以下の低温かつ、スキャン上流側と下流側とで均一にすることができ、臨界電流密度特性が高く、均一な超電導薄膜を得られる。
また、ペルチェ素子(1)の出力や設置面積を変更することにより、基板サイズや種類によらず効率良くかつ均一に基板(4)を冷却でき、プロセスウィンドウが広がる。
また、基板を極低温に保持することなくスキャン照射することができ、短時間で残存溶媒を蒸発させ、金属有機酸塩を分解することが可能である。
加えて、高圧チャンバー等を要しないため、安価な照射処理費用でスキャン方向下流部での塗布膜の剥離防止が可能である。

【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】超電導薄膜を製造する工程において、塗布した原料溶液にレーザ照射を行うもの(表面照射)
【図2】図1で示されるプロセスにおいて、原料溶液を塗布した基板の反対の面からレーザを照射するもの(背面照射)
【図3】基板冷却をせずに、塗布面にスキャン照射する場合のスキャン方向各位置における照射直前の基板の温度の一例(LAO基板、20mm角基板)
【図4】加圧チャンバーを用いて照射する場合のビーム通過直後の塗布膜の温度の一例
【図5】本件発明の概念図
【図6】本件発明を適用した時の、塗布面にスキャン照射する場合のスキャン方向各位置における照射直前の基板の温度の一例(LAO基板、20mm角基板)
【図7】本件発明を適用した時の、塗布面にスキャン照射する場合のスキャン方向各位置における照射直前の基板の温度の一例(サファイア基板、20mm角基板)
【図8】基板冷却をせずに、塗布面にスキャン照射する場合のスキャン方向各位置における照射直前の基板の温度の一例(サファイア基板、20mm角基板)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、酸化物が超電導物質を形成する金属としては、Y, La, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho,
Er, Tm, Yb, Luから選ばれる希土類元素の1種若しくは2種以上、バリウム及び銅の金属が挙げられる。酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液を作成するには、これらの金属のアセチルアセトナト若しくはCn=1〜8の直鎖カルボン酸塩を、ピリジンとCn=1〜8の直鎖カルボン酸の混合液に溶解させ、一度溶媒の大部分を除去した後、C=1〜9の直鎖アルコールに再溶解させる。また、酸化物が超電導物質を形成する金属としては、Y, La, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho,
Er, Tm, Yb, Luから選ばれる希土類元素の1種若しくは2種以上、バリウム及び銅の金属の組み合わせることは自体は周知であって、本発明においては周知の組み合わせのものを利用することができる。また実施例で示した酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液が、とくに好ましく用いられる。
本発明で用いる冷却体としては、基板と面接触でき、高い熱伝導率を有するものであればよく、冷却手段としては熱ポンプ、冷却媒体、ペルチェ素子等が挙げられるが、制御が容易なことからペルチェ素子が好ましく用いられる。
また、本発明で用いる高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシートは、金属粉や炭素粉を分散させた天然ゴム、合成ゴム、シリコーンゴム等で作ることができ、金属粉や炭素粉の具体例としては銅、銀、アルミや、カーボンナノチューブ、グラファイト、フラーレン等が挙げられる。
またさらに、高い熱伝導率を有する金属板としては、銅板、銀板、アルミ板等を挙げることができる。

【0012】
以下、この発明の一実施形態を図5に基づいて説明する。図5においては、ステージ(7)に支持台(6)を設けて、支持台(6)に基板(4)を取り付けた例を示した。レーザ照射工程の際に、被照射物である基板(4)に図5の様な、冷却源であるペルチェ素子(1)と高い熱伝導率を有する金属板(3)、前記ペルチェ素子(1)と金属板(3)とそれぞれ点接触では無く、面接触することにより、ペルチェ素子(1)の吸排熱を効率よくさせ、冷却効率向上と基板温度の均一化をする為の伝熱シート(2)を主な構成要素とする冷却装置を設置し、基板(4)を冷却しながらレーザ光(5)を照射するものである。
冷却源であるペルチェ素子(1)により、柔軟性があり、かつ熱伝導率の高い伝熱シート(2)及び高い熱伝導率を有する金属板(3)を冷却し、冷却した金属板(3)により基板(4)を冷却する。こうすることにより、効率よく、かつ均一に基板(4)を冷却することができ、照射直前の塗布膜の温度をスキャン照射上流部、中流部、下流部いずれの位置においても30℃程度に抑えることができ、塗布膜の剥離を防止できる。
さらに剥離した塗布膜が残存する塗布膜上に散乱し付着し、塗布膜を汚染することを防止することができる。

【0013】
本発明で使用することができる基板、原料溶液、照射に用いたレーザ光は次のとおりである。
本発明で用いられる基板としては、
(K1)市販のランタンアルミネート(LaAlO3)(100)基板(K2)市販のチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)(100)基板(K3)市販の酸化ランタンストロンチウムタンタルアルミニウム((LaxSr1-x)(AlxTa1-x)O3)(100)基板(K4)市販のネオジムガレート(NdGaO3)(110) 基板(K5)市販のイットリウムアルミネート(YAlO3)(110) 基板(K6)市販の酸化マグネシウム(MgO)(100)基板(KC1)市販の酸化アルミニウム(Al2O3)単結晶(サファイア)R面基板に酸化セリウム(CeO2)中間層を形成した基板(KC2)市販のイットリア安定化ジルコニア((Zr,Y)O2, YSZ)(100)にCeO2中間層を形成した基板(KC3)市販のMgO(100) 基板にCeO2中間層を形成した基板(KC4)市販のLaAlO3(100)基板にCeO2中間層を形成した基板(KC5)市販のSrTiO3(100)基板にCeO2中間層を形成した基板(KC6)市販の((LaxSr1-x)(AlxTa1-x)O3)(100)基板にCeO2中間層を形成した基板(KC7)市販のNdGaO3(110)基板にCeO2中間層を形成した基板(KC8)市販のYAlO3(110)基板にCeO2中間層を形成した基板(KYC1)市販のMgO(100)基板にYBCO、CeO2中間層を形成した基板
等が挙げられる。なお、中間層は、周知の層形成手段例えば蒸着、スパッタ、パルスレーザ蒸着、塗布熱分解法、塗布光分解法、ゾルゲル法等を利用して形成させることができる。
【0014】
本発明で用いられる原料溶液としては以下のものが挙げられる。
(Y1)モル比1:2:3のY,Ba,Cuのアセチルアセトナトをピリジンとプロピオン酸の混合液に溶解し、真空エバポレータを用いて約80℃で溶媒の大部分を除去した後メタノールに再溶解した溶液
(YC1)Y1でモル比1:2:3のY,Ba,Cuのアセチルアセトナトの代わりにモル比0.95:0.05:2:3のY,Ca,Ba,Cuのアセチルアセトナトとして調製した溶液
(Y2)Y,Ba,Cuのナフテン酸塩のトルエン溶液をモル比1:2:3で混合した溶液
(Y3)Y,Ba,Cuの2−エチルヘキサン酸塩のトルエン溶液をモル比1:2:3で混合した溶液
(Y4)Y1でプロピオン酸の代わりにトリフルオロ酢酸塩として調製した溶液
(Y5)Y,Ba,Cuのトリフルオロ酢酸塩のメタノール溶液をモル比1:2:3で混合した溶液
(Y6)モル比1:2:3のY,Ba,CuのCn=3の直鎖カルボン酸塩(プロピオン酸塩)をピリジンとプロピオン酸にCn=8の直鎖カルボン酸(n−オクタン酸)をYに対してモル比6となるように添加した混合液に溶解し、真空エバポレータを用いて約80℃で溶媒の大部分を除去した後Cn=1の直鎖アルコール(メタノール)に再溶解した溶液
(D1)Y1でY−アセチルアセトナトの代わりにDy−アセチルアセトナトとして調製した溶液
(E1)Y1でY−アセチルアセトナトの代わりにEr−アセチルアセトナトとして調製した溶液
【0015】
本発明で用いられるレーザ光としては以下のものが挙げられる。
(H1)KrFエキシマレーザ
(H2)XeClエキシマレーザ
(H3)ArFエキシマレーザ
本発明の具体例を示し、さらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
上記原料溶液を塗布せずに、基板KC1のみを室温でKrFエキシマレーザを縦方向にスキャンさせて照射した。照射条件は下記のとおりであった。
トータル照射エネルギー : 約500J/cm2

なお、本実験で用いたペルチェ素子は冷却能力が77Wのものであり、
高い熱伝導率を有する金属板(3)は、熱伝導率が200W/mK程度のものであり、
柔軟性があり、かつ熱伝導率の高い伝熱シート(2)は、上記金属板(3)およびペルチェ素子(1)と面接触できる柔軟性がありかつ面方向の熱伝導率が200W/mK程度のアルミ板である。
照射直後から冷却を開始し、レーザ照射を行った。その結果、照射直前の基板温度は図6のように、スキャン上流、中流、下流部いずれの位置においても30℃程度以下に抑えられた。
【0017】
(比較例1)
実施例1において、ペルチェによる基板冷却をせずにレーザ照射を行った場合、図3のように照射直前基板温度がスキャン下流部において90℃を超える高温に達した。また、スキャン上流部と下流部での照射直前基板温度の差も50℃と大きく、実験条件に違いが生じてしまう。


【実施例2】
【0018】
塗布溶液Y1を20mm×20mmの基板KC1に4000rpm; 10秒間でスピンコートし、溶媒除去のため恒温槽中130℃で乾燥後、実施例1の照射条件でレーザ照射する。次に、このレーザ照射した試料を、あらかじめ500℃に保ったマッフル炉中に挿入し、30分間この温度に保って取り出す。ついで石英製管状炉中で、酸素分圧を100ppm に調整したアルゴンと酸素の混合ガス流中で昇温速度毎分約16℃で770℃まで加熱し、この温度に90分間保ち、ガスを純酸素に切り換えてさらに30分間保った後、徐冷する。このようにして作製した膜厚約100nmのYBa2Cu3O7(YBCO)膜について誘導法による臨界電流密度の平均Jc=5.0MA/cm2、ばらつき10%以下が得られた。
実施例1と同じペルチェによる基板冷却を行った。
【0019】
(比較例2)
実施例2においてペルチェによる基板冷却をしない他は同様にして作製した膜厚約100nmのYBCO膜について誘導法による平均Jc=2.5MA/cm2、ばらつき約20%であった。

【実施例3】
【0020】
実施例2において塗布溶液をY6とした他は同様にして作製した膜厚約100nmのYBCO膜について、誘導法による平均Jc=6.4MA/cm2、ばらつき10%以下が得られた。
実施例1と同じペルチェによる基板冷却を行った。
【0021】
(比較例3)
実施例3においてペルチェによる基板冷却をしない他は同様にして作製した膜厚約100nmのYBCO膜について誘導法による平均Jc=4.0MA/cm2、ばらつき約30%であった。

【実施例4】
【0022】
上記原料溶液を塗布せずに、基板KC2のみを室温でKrFエキシマレーザを縦方向にスキャンさせて照射した。照射条件は下記のとおりであった。
トータル照射エネルギー : 約500J/cm2


照射直後から冷却を開始し、レーザ照射を行った。その結果、照射直前の基板温度は図7のように、スキャン上流、中流、下流部いずれの位置においても30℃程度以下に抑えられた。
実施例1と同じペルチェによる基板冷却を行った。
【0023】
(比較例4)
実施例2において、ペルチェによる基板冷却をせずにレーザ照射を行った場合、図8のように照射直前基板温度がスキャン下流部において80℃を超える高温に達した。また、スキャン上流部と下流部での照射直前基板温度の差も50℃と大きく、実験条件に違いが生じてしまう。

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の超電導酸化物材料の製造方法は、制御が易しく大型で良好な超電導酸化物膜が得られるため、産業上きわめて利用可能性が高いものである。
【符号の説明】
【0025】
(1)・・・ペルチェ素子
(2)・・・高い熱伝導率を有する柔軟性を持ったシート
(3)・・・高い熱伝導率を有する金属板
(4)・・・基板
(5)・・・レーザ光
(6)・・・支持台
(7)・・・ステージ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液を基板上に塗布し、乾燥させる工程(A)、レーザによって金属の有機化合物の有機成分を光分解するレーザ照射工程(B)、金属の有機化合物中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程(C)、超電導物質への変換を行う本焼成工程(D)を経てエピタキシャル成長させた超電導コーティング材料を製造するに際し、工程(B)のレーザ照射において、冷却体と基板(4)とを面接触させて基板(4)を冷却することにより、基板冷却をしながらレーザ照射することを特徴とする超電導酸化物材料の製造方法。
【請求項2】
レーザ照射時の基板を冷却体と面接触で冷却するに際して、ペルチェ素子(1)により冷却した、高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)を用い、高い熱伝導率を有する金属板を介しまたは介さずに、高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)と基板のレーザ照射面の裏面とを面接触させて、基板をレーザ照射面の裏面側から冷却することを特徴とする請求項1に記載した超電導酸化物材料の製造方法。
【請求項3】
高い熱伝導率を有する柔軟性を持ったシート(2)でペルチェ素子(1)を挟み、高い熱伝導率を有する柔軟性を持ったシート(2)の基板側面と、基板のレーザ照射面の裏面とを面接触させてペルチェ素子(1)により基板(4)が冷却されることを特徴とする基板冷却装置。
【請求項4】
高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)でペルチェ素子(1)を挟み、さらに高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)を、高い熱伝導率を有する金属板(3)で挟んで、ペルチェ素子(1)と高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)、金属板(3)と高い熱伝導率と高い柔軟性を持ったシート(2)の接触面をそれぞれ面接触させ、ペルチェ素子(1)により基板(4)が冷却されることを特徴とする基板冷却装置。
【請求項5】
酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液が、希土類元素(Y, La, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho,
Er, Tm, Yb, Lu)の1種若しくは2種以上、バリウム、銅のアセチルアセトナト若しくはCn=1〜8の直鎖カルボン酸塩を、ピリジンとCn=1〜8の直鎖カルボン酸の混合液に溶解させ、一度溶媒の大部分を除去した後、Cn=1〜9の直鎖アルコールに再溶解させたことを特徴とする酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液を用いる請求項1又は請求項2に記載した超電導酸化物材料の製造方法。

【請求項6】
酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液が、Y ,Ba,Cu或いはY,Ca,Ba,Cuのアセチルアセトナト若しくはCn=1〜8の直鎖カルボン酸塩を、ピリジンとCn=1〜8の直鎖カルボン酸の混合液に溶解し、一度溶媒の大部分を除去した後、Cn=1〜9の直鎖アルコールに再溶解したことを特徴とする酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液。
【請求項7】
酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液が、Dy,Ba,Cu或いはEr,Ba,Cuのアセチルアセトナト若しくはCn=1〜8の直鎖カルボン酸塩を、ピリジンとCn=1〜8の直鎖カルボン酸の混合液に溶解し、一度溶媒の大部分を除去した後、Cn=1〜9の直鎖アルコールに再溶解したことを特徴とする酸化物が超電導物質を形成する金属の有機化合物溶液。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−275119(P2010−275119A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126121(P2009−126121)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】