説明

超音波トランスデューサアレイ

【課題】安価な超音波トランスデューサアレイ1を提供することを目的とする。
【解決手段】超音波トランスデューサアレイ1は、複数の圧電素子2と、それぞれの圧電素子2の振動方向にほぼ垂直に配される複数の振動板3と、振動板3を支持する支持部材4とを備える。また、複数の圧電素子2のそれぞれの一方の電極7は、共通して振動板3に接続され、複数の振動板3と支持部材4とは一体成型されている。これによれば、非常に容易な構成、かつ、少ない部品点数により、低コストの超音波トランスデューサアレイ1を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波領域の周波数で振動する音波を発生するための超音波トランスデューサアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気自動車の走行時やハイブリッドカーのモータ駆動走行時に、車両が近づいていることを車両外の人に認識させるために、車両の外部にオーディオスピーカを設置して、そのオーディオスピーカから車両の存在を知らせる報知音(擬似エンジン音や擬似走行音等)を発生させる車両存在報知装置がある(特許文献1、2参照)。
【0003】
しかし、オーディオスピーカから発せられる音は周囲に拡散するため、危険位置にいない歩行者(例えば、前進走行中の後方にいる歩行者等)や車室内にいる人にまで報知音が聞こえてしまい、危険位置にいる歩行者以外にとっては不快感を与える。
【0004】
そこで、出願人は、特願2009−58456において、可聴音に応じて変調された超音波信号に基づき超音波を空中に放射することで報知音を発生させる車両存在報知装置を提案した。この車両存在報知装置で発せられる報知音は指向性がよいため、危険を知らせる必要のある歩行者等のみに車両の存在を知らせることができ、危険位置にいない歩行者等や車室内にいる人に対して報知音による不快感を与えないようにすることができる。
【0005】
ところで、出願人が提案した上記車両存在報知装置に用いる超音波領域の周波数で振動する音波を発生するためのスピーカ装置として、市販の超音波トランスデューサを同一平面状に複数個並べた超音波トランスデューサアレイを用いることが考えられるが、この場合、スピーカ装置のコストが高くなる上に、スピーカ装置の寸法などの設計の自由度が低いという問題が生じる。
【0006】
なお、超音波トランスデューサアレイとして、前面プレートと裏面プレートとの間に複数の圧電素子を設けてアレイ状にしたものがある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−199110号公報
【特許文献2】特開平10−201001号公報
【特許文献3】特開2009−10940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、安価な超音波トランスデューサアレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載の超音波トランスデューサアレイは、複数の圧電素子と、それぞれの圧電素子の振動方向にほぼ垂直に配される金属製の複数の振動板と、振動板を支持する支持部材とを備える。
また、それぞれの圧電素子の一方の電極は、それぞれの振動板に接続され、複数の振動板と支持部材とは一体成型されている。
【0010】
これにより、非常に容易な構成、かつ、少ない部品点数により、超音波トランスデューサアレイを提供することができ、コストを削減することができる。また、この超音波トランスデューサアレイによれば、圧電素子の数と配列に合わせた設計の自由度が高い。
また、超音波トランスデューサアレイであれば、車両存在報知装置のスピーカ装置として車両に搭載する場合に、スピーカ装置のコストを低減することができるとともに、スピーカ装置の設計の自由度が高くなる。
【0011】
ところで、超音波トランスデューサアレイからの報知音の指向性は、アレイ内での各圧電素子による振動位置同士の間隔によって左右されるが、市販の超音波トランスデューサを並べてアレイを構成する場合には、個々の超音波トランスデューサの寸法誤差の積み重ねや、アレイ内での超音波トランスデューサの配置位置のばらつき等により、所望の指向性を得るのが困難である。
これに対して、本発明の超音波トランスデューサアレイは、複数の振動板を一体成型するため、誤差が少なく、所望の指向性を得やすい。
【0012】
また、市販の超音波トランスデューサを用いる場合、1つの圧電素子から各2本のリード線が引き出されているため配線が複雑化してしまうが、本発明では、複数の圧電素子の一方の電極側は、一体成型された振動板及び支持部材を共通のリードとしているので、配線が単純化する。これにより、駆動電圧を供給するための回路基板との接続も単純化し、コスト削減に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、超音波トランスデューサアレイの上面図、(b)は、(a)のA−A断面図、(c)は、超音波トランスデューサアレイの下面図である(実施例)。
【図2】(a)〜(e)は超音波トランスデューサアレイによる可聴音放射原理を示す図である(実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態の超音波トランスデューサアレイは、複数の圧電素子と、それぞれの圧電素子の振動方向にほぼ垂直に配される金属製の複数の振動板と、振動板を支持する支持部材とを備える。
また、それぞれの圧電素子の一方の電極は、それぞれの振動板に接続され、複数の振動板と支持部材とは一体成型されている。
【実施例】
【0015】
〔実施例の構成〕
実施例の超音波トランスデューサアレイ1の構成を、図1を用いて説明する。
超音波トランスデューサアレイ1は、例えば、電気自動車の走行時やハイブリッドカーのモータ駆動走行時に、車両が近づいていることを車両外の人に認識させるために、車両の存在を知らせる報知音(擬似エンジン音や擬似走行音等)を発生させる車両存在報知装置のスピーカ装置として用いられる。
【0016】
超音波トランスデューサアレイ1は、複数(本実施例では16個)の圧電素子2と、各圧電素子2の前方(振動方向の一方)に圧電素子2の振動方向にほぼ垂直に配される複数の振動板3と、振動板3を支持する支持部材4とを備える。
【0017】
圧電素子2は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電セラミックスの両端に電極7、8を形成して構成されており、電極7、8に、電圧が印加されると伸縮するものである。
【0018】
振動板3と支持部材4とは、アルミ合金等の金属により一体成型されている。すなわち、振動板3と支持部材4とは、例えば、金属板に圧電素子2の個数に対応した数の円柱状の凹所10を設けるようにプレス加工されて形成されている。そして、凹所10の底壁11の中央部分は壁厚が薄くなっており振動板3をなし、底壁11の振動板3の外周部分及び凹所10の周壁12が支持部材4をなす。
振動板3は、支持部材4をなす部分よりも剛性が低くなっており、振動しやすくなっている。
【0019】
凹所10は、図1(a)、(c)に示すように、図示上下に3列に並ぶように形成されており、第1列目に左右等間隔に5個の凹所10、第2列目に左右等間隔に6個の凹所10、第3列目に左右等間隔に5個の凹所10が形成されている。そして、奇数列(第1、3列)の凹所10は、偶数列(第2列)の凹所10に対して、半径分左右にずれたハニカム状配列になっている。なお、複数の凹所10が格子状に並ぶように形成してもよい。
【0020】
そして、各凹所10には、各圧電素子2の振動方向が振動板3の面方向にほぼ垂直になるように、圧電素子2が1つずつ収容される。そして、圧電素子2の一方の電極7は、共通して振動板3に接続され、振動板3は支持部材4及び接地リード15を介して接地電位に保たれる。
また、圧電素子2の他方の電極8は、共通のリード線16に接続され、リード線16を介して駆動電圧が供給される。すなわち、各圧電素子2に同一の駆動電圧が供給される。
【0021】
〔実施例の作動〕
圧電素子2に駆動電圧が供給されると、圧電素子2が伸縮し、振動板3が振動する。この振動により、超音波領域の周波数で振動する音波が発生される。
【0022】
なお、本実施例では、再生したい可聴音(再生したい疑似走行音等)に応じて変調された超音波信号を圧電素子2に入力している。
すなわち、再生したい可聴音の可聴音波信号(図2(a)参照)に応じて超音波信号(図2(b)参照)を変調し、変調された超音波信号(図2(c)参照)を増幅した信号を圧電素子2に入力している。
【0023】
これにより、超音波トランスデューサアレイ1は、変調された超音波(被変調波)信号に基づいて振動板3が振動することで、被変調波を空気中に放射する。すると、空気中に放射された被変調波は、空気中を進行するにつれて、空気の非線形特性により波形がひずみ(図2(d)参照)、元の可聴音波信号に基づく可聴音(図2(e)参照)が自己復調され、報知音として歩行者等に認識される。
【0024】
〔実施例の効果〕
本実施例の超音波トランスデューサアレイ1は、複数の圧電素子2と、それぞれの圧電素子2の振動方向にほぼ垂直に配される複数の振動板3と、振動板3を支持する支持部材4とを備える。
また、複数の圧電素子2のそれぞれの一方の電極7は、共通して振動板3に接続され、複数の振動板3と支持部材4とは一体成型されている。
【0025】
これによれば、非常に容易な構成、かつ、少ない部品点数により、低コストの超音波トランスデューサアレイ1を提供することができる。本実施例では、振動板3と支持部材4とをなす金属板と、圧電素子2のみで、超音波トランスデューサアレイ1を構成することができる。
【0026】
また、この超音波トランスデューサアレイ1によれば、部品点数も少なく、構造が単純であるので、圧電素子2の数と配列に合わせて、設計変更することが容易にでき、設計の自由度も高い。
また、本実施例の超音波トランスデューサアレイ1であれば、車両存在報知装置のスピーカ装置として車両に搭載する場合に、スピーカ装置のコストを低減することができるとともに、スピーカ装置の設計の自由度が高くなる。
【0027】
また、複数の振動板3を一体成型するため、複数の部品で構成する場合のような誤差の積み重ねが少なく、誤差を最小限にとどめることができる。このため、アレイ内での振動位置同士の間隔によって左右される指向性を所望の指向性に合わせやすい。
【0028】
また、複数の圧電素子2のそれぞれの一方の電極7は、一体成型された振動板3及び支持部材4を共通のリードとする。このため、市販の超音波トランスデューサを用いる場合のように圧電素子から各2本のリード線が引き出されて配線が複雑化することはない。これにより、配線が単純化するので、駆動電圧を供給するための回路基板との接続も単純化し、コスト削減に貢献する。
【0029】
〔変形例〕
超音波トランスデューサアレイ1の態様は、実施例に限定されず、様々な変形例を考えることができる。例えば、実施例では、金属板に圧電素子2の個数に対応した数の円柱状の凹所10を設けるようにプレス加工することにより、振動板3と支持部材4とを一体成型したが、切削加工により凹所10を形成してもよい。また、支持部材4は、圧電素子2の個数に対応した振動板3を圧電素子2の前方に支持できればよく、この態様に限られない。
【0030】
また、実施例では、各圧電素子2に同一の駆動電圧が供給される構成になっていたが、それぞれの圧電素子2の他方の電極8を、それぞれ別のリード線を接続して、それぞれ異なる駆動電圧を供給し、それぞれの圧電素子2の駆動態様(例えば周波数や振動パターン等)を異ならせてもよい。
この場合、隣接する振動板3同士が異なる振動パターンで振動することになるが、振動板3同士の間には剛性の高い周壁12が存在しているため、振動板3の振動が隣接する振動板3の振動に影響を与えることはない。
【0031】
また、実施例では、各圧電素子2の他方の電極8から引出されたリード線が共通のリード線16に接続されていたが、共通のリード線16が基板上に形成され、電極8と基板上のリード線16とを直接接合することで接続してもよい。
【0032】
また、実施例では、超音波トランスデューサアレイ1は、車両存在報知装置のスピーカ装置として用いたが、超音波トランスデューサアレイ1の用途はこれに限られるものではない。
【符号の説明】
【0033】
1 超音波トランスデューサアレイ
2 圧電素子
3 振動板
4 支持部材
7 一方の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧電素子と、
前記それぞれの圧電素子の振動方向にほぼ垂直に配される金属製の複数の振動板と、
前記振動板を支持する支持部材とを備え、
前記それぞれの圧電素子の一方の電極は、前記それぞれの振動板に接続され、
前記複数の振動板と前記支持部材とは一体成型されていることを特徴とする超音波トランスデューサアレイ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−151472(P2011−151472A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9151(P2010−9151)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】