説明

超音波プローブおよび超音波診断装置

【課題】腹壁から受ける超音波ビームの屈折の影響を低減してBモード画像の生成と正確な音速計測の生成を行うことができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】Bモード画像上に関心領域Rが設定されると、関心領域R内に複数の格子点が設定されると共に関心領域Rの上方に位置する被検体の腹壁Pの角度が腹壁検出部17により検出され、音速計測送信用振動子アレイ4の傾き角度が腹壁Pの角度とほぼ等しくなるように傾動部7が駆動され、これにより腹壁Pから受ける屈折の影響を低減しつつ関心領域R内の複数の格子点のそれぞれに送信焦点を形成して音速計測送信用振動子アレイ4から順次音速測定用の超音波ビームが送信される。受信信号がBモード画像送受信用振動子アレイ3で受信され、受信回路6で生成された受信データに基づいて音速計測生成部19で各格子点における局所音速値が演算され、音速計測が生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波プローブおよび超音波診断装置に係り、特に、Bモード画像の生成と音速の計測の双方を行うための超音波プローブおよび超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、振動子アレイを内蔵した超音波プローブと、この超音波プローブに接続された装置本体とを有しており、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーを超音波プローブで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
また、近年、被検体内の診断部位をより精度よく診断するために、診断部位における音速を測定することが行われている。
例えば、特許文献1には、診断部位の周辺に複数の格子点を設定し、各格子点に対して超音波ビームを送受信することにより得られる受信データに基づいて、局所音速値の演算を行う超音波診断装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−99452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送受信することで、診断部位における局所音速値を求めることができ、例えばBモード画像に局所音速値の情報を重畳させて表示することが可能となる。さらに、所定の領域内の各点における局所音速値の分布を示す音速マップを生成してBモード画像と共に表示すれば、診断部位の診断を行う上で有効なものとなる。
しかしながら、被検体内部の臓器等を覆っている腹壁付近は、脂肪の存在等に起因して他の箇所とは異なる音速を有しており、このため、超音波プローブから送信された超音波ビームが腹壁を透過する際に、腹壁に対する入射角によっては、超音波ビームが屈折して音速を正確に測定することができなくなるという問題がある。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、腹壁から受ける超音波ビームの屈折の影響を低減してBモード画像の生成と正確な音速の計測を行うことができる超音波プローブおよび超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る超音波プローブは、被検体に向けて超音波ビームを送信すると共に被検体による超音波エコーを受信する超音波プローブにおいて、Bモード画像用超音波ビームを送信するBモード画像用振動子アレイと、傾動可能に設置されると共に音速計測用超音波ビームを送信する音速計測用振動子アレイと、被検体の腹壁の角度に応じて音速計測用振動子アレイを傾動させるための傾動部とを備えたものである。
【0008】
好ましくは、Bモード画像用振動子アレイからBモード画像用超音波ビームを送信させると共に音速計測用振動子アレイから音速計測用超音波ビームを送信させる送信回路と、被検体による超音波エコーに基づく受信信号を処理することでBモード画像用受信データおよび音速計測用受信データを得る受信回路とをさらに備えている。
受信回路は、被検体による音速計測用超音波ビームの超音波エコーを受信したBモード画像用振動子アレイから出力される受信信号を処理することで音速計測用受信データを得ることができる。
【0009】
あるいは、受信回路は、被検体による音速計測用超音波ビームの超音波エコーを受信した音速計測用振動子アレイから出力される受信信号を処理することで音速計測用受信データを得ることもできる。
この場合、音速計測用振動子アレイが、送信用アレイと受信用アレイとを含み、受信回路は、送信用アレイから送信された音速計測用超音波ビームの被検体による超音波エコーを受信した受信用アレイから出力される受信信号を処理することで音速計測用受信データを得るようにしてもよい。
さらに、受信回路が、Bモード画像用受信回路と、音速計測用受信回路とを含み、送信用アレイから送信された音速計測用超音波ビームの被検体による超音波エコーを受信した受信用アレイから出力される受信信号を音速計測用受信回路で処理することで音速計測用受信データを得るように構成することもできる。
【0010】
この発明に係る超音波診断装置は、上記の超音波プローブと、受信回路で得られたBモード画像用受信データに基づいてBモード画像を生成する画像生成部と、画像生成部で生成されたBモード画像上で被検体の腹壁の角度を検出する腹壁検出部と、腹壁検出部で検出された腹壁の角度に応じて傾動部により音速計測用振動子アレイの傾き角度を調整する制御部と、受信回路で得られた音速計測用受信データに基づいて音速マップを生成する音速マップ生成部とを備えたものである。
制御部は、音速計測用超音波ビームが腹壁から受ける屈折の影響を低減するように傾動部により音速計測用振動子アレイの傾き角度を調整する。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、被検体の腹壁の角度に応じて音速計測用振動子アレイを傾動させるための傾動部を備えているので、腹壁から受ける超音波ビームの屈折の影響を低減してBモード画像の生成と正確な音速の計測を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波プローブを備えた超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る超音波プローブのBモード画像用振動子アレイと音速計測用振動子アレイを模式的に示す正面図である。
【図3】Bモード画像を模式的に示す図である。
【図4】実施の形態1における音速演算の原理を模式的に示す図である。
【図5】実施の形態1の変形例に係る超音波プローブのBモード画像用振動子アレイと音速計測用振動子アレイを模式的に示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図6】実施の形態2に係る超音波プローブの構成を示すブロック図である。
【図7】実施の形態3に係る超音波プローブの構成を示すブロック図である。
【図8】実施の形態3に係る超音波プローブのBモード画像用振動子アレイと音速計測用振動子アレイを模式的に示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図9】実施の形態3の変形例に係る超音波プローブのBモード画像用振動子アレイと音速計測用振動子アレイを模式的に示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る超音波プローブ1を備えた超音波診断装置の構成を示す。超音波プローブ1に診断装置本体2が接続されている。
超音波プローブ1は、Bモード画像送受信用振動子アレイ3と音速計測ビーム送信用振動子アレイ4を備え、これらBモード画像送受信用振動子アレイ3および音速計測ビーム送信用振動子アレイ4に送信回路5が接続されると共に、Bモード画像送受信用振動子アレイ3に受信回路6が接続されている。
【0014】
図2に示されるように、Bモード画像送受信用振動子アレイ3と音速計測ビーム送信用振動子アレイ4は、超音波プローブ1の被検体当接部1aの付近において、互いにアジマス方向が同一方向を向くように配置されると共に、音速計測ビーム送信用振動子アレイ4がBモード画像送受信用振動子アレイ3のアジマス方向に並んで位置している。Bモード画像送受信用振動子アレイ3は超音波プローブ1内に固定され、一方、音速計測ビーム送信用振動子アレイ4は超音波プローブ1内においてアジマス方向に傾動可能に取り付けられており、この音速計測ビーム送信用振動子アレイ4を傾動させるための傾動部7が音速計測ビーム送信用振動子アレイ4に連結されている。そして、送信回路5、受信回路6および傾動部7にプローブ制御部8が接続されている。
【0015】
診断装置本体2は、超音波プローブ1の受信回路6に接続された信号処理部11を有し、この信号処理部11にDSC(Digital Scan Converter)12、画像処理部13、表示制御部14および表示部15が順次接続されている。画像処理部13には、画像メモリ16が接続されると共に腹壁検出部17が接続されている。さらに、診断装置本体2は、超音波プローブ1の受信回路6に接続されたシネメモリ18と音速マップ生成部19を有している。そして、信号処理部11、DSC12、表示制御部14、腹壁検出部17、シネメモリ18および音速マップ生成部19に本体制御部20が接続されている。さらに、本体制御部20には、操作部21と格納部22がそれぞれ接続されている。
また、超音波プローブ1のプローブ制御部8と診断装置本体2の本体制御部20が互いに接続されている。
【0016】
Bモード画像送受信用振動子アレイ3および音速計測ビーム送信用振動子アレイ4は、それぞれ1次元又は2次元に配列された複数の超音波トランスデューサを有している。Bモード画像送受信用振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサは、それぞれ送信回路5から供給される駆動信号に従ってBモード画像生成用の超音波を送信し、音速計測ビーム送信用振動子アレイ4の複数の超音波トランスデューサは、それぞれ送信回路5から供給される駆動信号に従って音速計測用の超音波を送信する。また、Bモード画像送受信用振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサは、被検体によるBモード画像生成用の超音波の超音波エコーを受信して受信信号を出力すると共に被検体による音速計測用の超音波の超音波エコーを受信して受信信号を出力する。すなわち、Bモード画像送受信用振動子アレイ3は、Bモード画像生成用と音速計測用の双方の超音波エコーの受信を行う。
【0017】
Bモード画像送受信用振動子アレイ3および音速計測送信用振動子アレイ4の各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
【0018】
そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0019】
送信回路5は、例えば、複数のパルサを含んでおり、プローブ制御部8からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、Bモード画像送受信用振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数の超音波トランスデューサに供給すると共に、音速計測ビーム送信用振動子アレイ4の複数の超音波トランスデューサから送信される超音波が音速測定すべき点に焦点を形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数の超音波トランスデューサに供給する。
【0020】
受信回路6は、Bモード画像送受信用振動子アレイ3の各超音波トランスデューサから送信される受信信号を増幅してA/D変換した後、プローブ制御部8からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、各受信信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれた受信データ(音線信号)が生成される。
【0021】
傾動部7は、プローブ制御部8からの制御信号に応じて音速計測ビーム送信用振動子アレイ4を傾動させるためのもので、電動モータ、電動シリンダ等を用いた各種のアクチュエータを利用することができる。
プローブ制御部8は、診断装置本体2の本体制御部20から伝送される各種の制御信号に基づいて、超音波プローブ1の各部の制御を行う。
【0022】
診断装置本体2の信号処理部11は、超音波プローブ1の受信回路6で生成された受信データに対し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。
DSC12は、信号処理部11で生成されたBモード画像信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
画像処理部13は、DSC12から入力されるBモード画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、Bモード画像信号を表示制御部14に出力する、あるいは画像メモリ16に格納する。
これら信号処理部11、DSC12、画像処理部13および画像メモリ16により画像生成部23が形成されている。
【0023】
表示制御部14は、画像処理部13によって画像処理が施されたBモード画像信号に基づいて、表示部15に超音波診断画像を表示させる。
表示部15は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部14の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
【0024】
腹壁検出部17は、画像処理部13によって画像処理が施されたBモード画像信号に基づいて、図3に示されるように、Bモード画像内に設定された関心領域Rの上方に位置する被検体の腹壁Pを検出すると共にこの腹壁Pの角度を検出する。
シネメモリ18は、受信回路6から出力される受信データを順次格納する。また、シネメモリ18は、本体制御部20から入力されるフレームレートに関する情報(例えば、超音波の反射位置の深度、走査線の密度、視野幅を示すパラメータ)を上記の受信データに関連付けて格納する。
音速マップ生成部19は、本体制御部20による制御の下で、シネメモリ18に格納されている受信データに基づいて、診断対象となる被検体内の組織における局所音速値を演算し、音速マップを生成する。
本体制御部20は、操作者により操作部21から入力された指令に基づいて超音波診断装置各部の制御を行う。
【0025】
操作部21は、操作者が入力操作を行うためのもので、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパネル等から形成することができる。
格納部22は、動作プログラム等を格納するもので、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、DVD−ROM等の記録媒体を用いることができる。
なお、信号処理部11、DSC12、画像処理部13、表示制御部14および音速マップ生成部19は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。
【0026】
操作者は操作部21から次の3つの表示モードのいずれかを選択することができる。すなわち、Bモード画像を単独で表示するモード、Bモード画像に音速マップを重畳して表示するモード(例えば、局所音速値に応じて色分けまたは輝度を変化させる表示、あるいは局所音速値が等しい点を線で結ぶ表示)、Bモード画像と音速マップ画像とを並べて表示するモードのうち、所望のモードによる表示を行うことができる。
【0027】
Bモード画像を表示する際には、まず、超音波プローブ1の送信回路5から供給される駆動信号に従ってBモード画像送受信用振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサから超音波が送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサから受信信号が受信回路6に出力され、受信回路6で受信データが生成される。さらに、この受信データを入力した診断装置本体2の信号処理部11でBモード画像信号が生成され、DSC12でBモード画像信号がラスター変換されると共に画像処理部13でBモード画像信号に各種の画像処理が施された後、このBモード画像信号に基づいて表示制御部14により超音波診断画像が表示部15に表示される。
【0028】
一方、局所音速値の演算は、例えば本願の出願人により出願された特開2010−99452号公報に記載の方法により行うことができる。
この方法は、図4(A)に示されるように、被検体内に超音波を送信した際に、被検体の反射点となる格子点Xから振動子アレイ1に到達する受信波Wxに着目したとき、図4(B)に示されるように、格子点Xよりも浅い位置、すなわち振動子アレイ1に近い位置に複数の格子点A1、A2、・・・を等間隔に配列し、格子点Xからの受信波を受けた複数の格子点A1、A2、・・・からのそれぞれの受信波W1、W2、・・・の合成波Wsumが、ホイヘンスの原理により、格子点Xからの受信波Wxに一致することを利用して、格子点Xにおける局所音速値を求める方法である。
【0029】
まず、すべての格子点X、A1、A2、・・・に対する最適音速値をそれぞれ求める。ここで、最適音速値とは、各格子点に対し、設定音速に基づきフォーカス計算をして撮影を行うことにより超音波画像を形成し、設定音速を種々変化させたときに画像のコントラスト、シャープネスが最も高くなる音速値であり、例えば特開平8−317926号公報に記載のように、画像のコントラスト、スキャン方向の空間周波数、分散等に基づいて最適音速値の判定を行うことができる。
【0030】
次に、格子点Xに対する最適音速値を用いて、格子点Xから発せられる仮想的な受信波Wxの波形を算出する。
さらに、格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて、それぞれ格子点A1、A2、・・・からの受信波W1、W2、・・・の仮想的な合成波Wsumを算出する。このとき、格子点Xと各格子点A1、A2、・・・との間の領域Rxaにおける音速は一様で、格子点Xにおける局所音速値Vに等しいものと仮定する。格子点Xから伝播した超音波が格子点A1、A2、・・・に到達するまでの時間はXA1/V、XA2/V、・・・となる。ここで、XA1、XA2、・・・は、それぞれ格子点A1、A2、・・・と格子点Xとの間の距離である。そこで、格子点A1、A2、・・・からそれぞれ時間XA1/V、XA2/V、・・・だけ遅延して発した反射波を合成することにより、仮想的な合成波Wsumを求めることができる。
【0031】
次に、このように格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて算出された複数の仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差をそれぞれ算出し、誤差が最小になる仮定的な局所音速値Vを格子点Xにおける局所音速値と判定する。ここで、仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差の算出方法としては、互いの相互相関をとる方法、受信波Wxに合成波Wsumから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法、合成波Wsumに受信波Wxから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法等を採用することができる。
以上のようにして、超音波プローブ1の受信回路6で生成された受信データに基づき、被検体内の局所音速値を高精度に演算することができる。さらに、同様にして、設定された関心領域内の局所音速値の分布を示す音速マップを生成することができる。
【0032】
次に、実施の形態1の動作について説明する。
まず、超音波プローブ1の送信回路5からの駆動信号に従ってBモード画像送受信用振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサからBモード画像用の超音波ビームが送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサから受信信号が受信回路6に出力されてBモード画像用の受信データが生成され、さらに、診断装置本体2の画像生成部23で生成されたBモード画像信号に基づいて表示制御部14によりBモード画像が表示部15に表示される。
【0033】
ここで、操作者が操作部21を操作することにより、表示部15に表示されているBモード画像上に関心領域Rが設定されると、本体制御部20により関心領域R内に複数の格子点が設定される。さらに、図3に示されるように、関心領域Rの上方に位置する被検体の腹壁Pの角度が腹壁検出部17により検出される。検出された腹壁Pの角度は、診断装置本体2の本体制御部20から超音波プローブ1のプローブ制御部8へ伝送され、音速計測ビーム送信用振動子アレイ4の傾き角度が腹壁Pの角度とほぼ等しくなるように、プローブ制御部8により傾動部7が駆動される。
【0034】
次に、プローブ制御部8により送信回路5および受信回路6が制御され、関心領域R内に設定された複数の格子点のそれぞれに送信焦点を形成して順次音速測定用の超音波ビームの送受信が行われる。このとき、送信回路5からの駆動信号が音速計測ビーム送信用振動子アレイ4に供給されて音速計測ビーム送信用振動子アレイ4の複数の超音波トランスデューサから超音波ビームが送信されるが、音速計測ビーム送信用振動子アレイ4は、関心領域Rの上方に位置する腹壁Pの角度とほぼ等しい傾き角度に調整されているため、音速計測ビーム送信用振動子アレイ4から送信された超音波ビームは腹壁Pに対してほぼ垂直に入射し、腹壁Pからほとんど屈折の影響を受けることなく、腹壁Pを透過して各格子点に送信焦点を形成することとなる。そして、被検体からの超音波エコーがBモード画像送受信用振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサで受信される。
【0035】
このようにして超音波ビームを受信する毎に受信回路6で生成される音速測定用の受信データは順次シネメモリ18に格納される。関心領域R内のすべての格子点に関して音速測定用の受信データが取得されると、本体制御部20から音速マップ生成部19に音速マップ形成の指令が出力され、音速マップ生成部19は、シネメモリ18に格納されている受信データのうち、音速測定用の受信データを用いて、各格子点における局所音速値を演算し、関心領域R内の音速マップを生成する。音速マップ生成部19で得られた音速マップに関するデータは、DSC12でラスター変換され、画像処理部13で各種の画像処理が施された後、表示制御部14に送られる。そして、操作者により操作部21から入力された表示モードに従って、Bモード画像に音速マップを重畳した状態で表示部15に表示される、あるいは、Bモード画像と音速マップ画像とが並べて表示部15に表示される。
【0036】
なお、受信回路6で生成される音速測定用の受信データは、シネメモリ18に格納されるだけでなく、画像生成部23の信号処理部11にも入力されるが、このとき本体制御部20からの指令により、信号処理部11は作動が停止され、音速測定用の受信データに対してBモード画像信号が生成されることは防止される。
【0037】
このように、傾動部7を用いて音速計測ビーム送信用振動子アレイ4の傾き角度を関心領域Rの上方に位置する被検体の腹壁Pの角度と等しくなるに調整することで、腹壁Pから受ける超音波ビームの屈折の影響が低減され、正確な音速の計測を行うことが可能となる。
【0038】
なお、Bモード画像送受信用振動子アレイ3のチャンネル数、音速計測ビーム送信用振動子アレイ4のチャンネル数、Bモード画像用の超音波ビームの中心周波数、音速測定用の超音波ビームの中心周波数は、適宜選択することができる。
また、上記の実施の形態1では、図2に示したように、音速計測ビーム送信用振動子アレイ4がBモード画像送受信用振動子アレイ3のアジマス方向に並んで配置されていたが、これに限るものではなく、図5(A)および(B)に示される超音波プローブ31のように、Bモード画像送受信用振動子アレイ3のエレベーション方向に並べて配置された音速計測ビーム送信用振動子アレイ4をアジマス方向に傾動させるように構成してもよい。
【0039】
実施の形態2
図6に実施の形態2に係る超音波プローブ41の構成を示す。超音波プローブ41は、図1に示した実施の形態1の超音波プローブ1において、音速計測ビーム送信用振動子アレイ4の代わりに音速計測ビーム送受信用振動子アレイ42を内蔵し、この音速計測ビーム送受信用振動子アレイ42に送信回路5および受信回路6を接続すると共に傾動部7を連結させたものである。
【0040】
音速計測ビーム送受信用振動子アレイ42は、実施の形態1における音速計測ビーム送信用振動子アレイ4と同様に、送信回路5から供給される駆動信号に基づいて関心領域R内の複数の格子点に順次送信焦点を形成して音速測定用の超音波ビームを送信するだけでなく、送信されたこれらの超音波ビームに対応する超音波エコーを受信して受信信号を受信回路6へ出力する。
このように、音速計測ビーム送受信用振動子アレイ42を用いて音速測定用の超音波ビームの送受信を行うようにしても、実施の形態1と同様に、傾動部7により音速計測ビーム送受信用振動子アレイ42の傾き角度を調整することで、腹壁Pから受ける超音波ビームの屈折の影響を低減させて、正確な音速の計測を行うことが可能となる。
【0041】
実施の形態3
図7に実施の形態3に係る超音波プローブ51の構成を示す。超音波プローブ51は、図2に示した実施の形態2の超音波プローブ41において、音速計測ビーム送受信用振動子アレイ42の代わりに、音速計測ビーム送信用振動子アレイ53と音速計測ビーム受信用振動子アレイ54を含む音速計測用振動子アレイ52を用いたものである。音速計測ビーム送信用振動子アレイ53が送信回路5に接続され、音速計測ビーム受信用振動子アレイ54が受信回路6に接続される。
このようにしても、実施の形態1および2と同様に、傾動部7により音速計測用振動子アレイ52の傾き角度を調整することで、腹壁Pから受ける超音波ビームの屈折の影響を低減させて、正確な音速の計測を行うことが可能となる。
この場合、音速計測ビーム送信用振動子アレイ53の複数の超音波トランスデューサを、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックから形成する一方、音速計測ビーム受信用振動子アレイ54の複数の超音波トランスデューサを、例えばPVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子から形成することができる。
【0042】
このように、音速計測ビーム受信用振動子アレイ54の超音波トランスデューサとして、高分子圧電素子を用いれば、サイドローブによる影響を抑制して深さ方向および方位方向の分解能を向上させることが可能となる。
また、音速計測ビーム送信用振動子アレイ53から低周波の超音波ビームを送信させ、音速計測ビーム受信用振動子アレイ54で2次以上の高調波を受信することにより、メインローブを強調すると共にサイドローブをさらに低減させることもできる。
【0043】
図8(A)および(B)に示されるように、音速計測ビーム送信用振動子アレイ53および音速計測ビーム受信用振動子アレイ54を、Bモード画像送受信用振動子アレイ3のエレベーション方向に順次並べて配置し、これら音速計測ビーム送信用振動子アレイ53および音速計測ビーム受信用振動子アレイ54をアジマス方向に傾動させるように構成することができる。
また、図9(A)および(B)に示される超音波プローブ61のように、音速計測ビーム送信用振動子アレイ53と音速計測ビーム受信用振動子アレイ54をアジマス方向に並べて一体としたものをBモード画像送受信用振動子アレイ3のエレベーション方向に並置してもよい。
さらに、図示しないが、音速計測ビーム送信用振動子アレイ53と音速計測ビーム受信用振動子アレイ54をBモード画像送受信用振動子アレイ3のアジマス方向に並べて位置させることもできる。また、音速計測ビーム送信用振動子アレイ53と音速計測ビーム受信用振動子アレイ54を互いに積層形成することもできる。
【0044】
図7に示した実施の形態3の超音波プローブ51では、Bモード画像送受信用振動子アレイ3と音速計測ビーム受信用振動子アレイ54が共通の受信回路6に接続され、受信回路6がBモード画像用の受信データと音速測定用の受信データの双方を生成したが、受信回路6とは別に音速測定用の受信回路を追加し、この音速測定用の受信回路に音速計測ビーム受信用振動子アレイ54を接続して音速測定用の受信データを生成するようにしてもよい。
同様に、送信回路5とは別に音速測定用の送信回路を追加し、この音速測定用の送信回路から音速計測ビーム送信用振動子アレイ53に駆動信号を供給して音速測定用の超音波ビームを送信するように構成することもできる。
【0045】
なお、上記の実施の形態1〜3では、受信回路6から出力される受信データを一旦シネメモリ18に格納し、音速マップ生成部19がシネメモリ18に格納された受信データを用いて関心領域R内の音速マップを生成したが、音速マップ生成部19が受信回路6から出力される受信データを直接入力して音速マップの生成を行うこともできる。
また、シネメモリ18には、音速測定用に用いられる受信データだけでなく、Bモード画像生成用の受信データも格納されているため、本体制御部20の制御により、必要に応じてシネメモリ18からBモード画像生成用の受信データを読み出し、画像生成部23でBモード画像を生成することもできる。
【0046】
なお、上記の実施の形態1〜3における超音波プローブ1、31、41、51、61と診断装置本体2との接続は、有線による接続および無線通信による接続のいずれの形態をとることもできる。
【符号の説明】
【0047】
1,31,41,51,61 振動子プローブ、1a 被検体当接部、2 診断装置本体、3 Bモード画像送受信用振動子アレイ、4 音速計測ビーム送信用振動子アレイ、5 送信回路、6 受信回路、7 傾動部、8 プローブ制御部、11 信号処理部、12 DSC、13 画像処理部、14 表示制御部、15 表示部、16 画像メモリ、17 腹壁検出部、18 シネメモリ、19 音速マップ生成部、20 本体制御部、21 操作部、22 格納部、23 画像生成部、42 音速計測ビーム送受信用振動子アレイ、52 音速計測用振動子アレイ、53 音速計測ビーム受信用振動子アレイ、54 音速計測ビーム送信用振動子アレイ、P 腹壁、R 関心領域、X,A1,A2 格子点、W1,W2,Wx 受信波、Wsum 合成波。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に向けて超音波ビームを送信すると共に被検体による超音波エコーを受信する超音波プローブにおいて、
Bモード画像用超音波ビームを送信するBモード画像用振動子アレイと、
傾動可能に設置されると共に音速計測用超音波ビームを送信する音速計測用振動子アレイと、
被検体の腹壁の角度に応じて前記音速計測用振動子アレイを傾動させるための傾動部と
を備えたことを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
前記Bモード画像用振動子アレイからBモード画像用超音波ビームを送信させると共に前記音速計測用振動子アレイから音速計測用超音波ビームを送信させる送信回路と、
被検体による超音波エコーに基づく受信信号を処理することでBモード画像用受信データおよび音速計測用受信データを得る受信回路と
をさらに備えた請求項1に記載の前記超音波プローブ。
【請求項3】
前記受信回路は、被検体による前記音速計測用超音波ビームの超音波エコーを受信した前記Bモード画像用振動子アレイから出力される受信信号を処理することで前記音速計測用受信データを得る請求項2に記載の超音波プローブ。
【請求項4】
前記受信回路は、被検体による前記音速計測用超音波ビームの超音波エコーを受信した前記音速計測用振動子アレイから出力される受信信号を処理することで前記音速計測用受信データを得る請求項2に記載の超音波プローブ。
【請求項5】
前記音速計測用振動子アレイは、送信用アレイと受信用アレイとを含み、
前記受信回路は、前記送信用アレイから送信された前記音速計測用超音波ビームの被検体による超音波エコーを受信した前記受信用アレイから出力される受信信号を処理することで前記音速計測用受信データを得る請求項4に記載の超音波プローブ。
【請求項6】
前記受信回路は、Bモード画像用受信回路と、音速計測用受信回路とを含み、
前記送信用アレイから送信された前記音速計測用超音波ビームの被検体による超音波エコーを受信した前記受信用アレイから出力される受信信号を前記音速計測用受信回路で処理することで前記音速計測用受信データが得られる請求項5に記載の超音波プローブ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の前記超音波プローブと、
前記受信回路で得られたBモード画像用受信データに基づいてBモード画像を生成する画像生成部と、
前記画像生成部で生成されたBモード画像上で被検体の腹壁の角度を検出する腹壁検出部と、
前記腹壁検出部で検出された腹壁の角度に応じて前記傾動部により前記音速計測用振動子アレイの傾き角度を調整する制御部と、
前記受信回路で得られた音速計測用受信データに基づいて音速マップを生成する音速マップ生成部と
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記音速計測用超音波ビームが腹壁から受ける屈折の影響を低減するように前記傾動部により前記音速計測用振動子アレイの傾き角度を調整する請求項7に記載の超音波診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate