説明

超音波プローブおよび超音波診断装置

【課題】Bモード画像の生成と高精度の音速計測の双方を行うことができる超音波プローブを提供する。
【解決手段】アジマス方向に配列された複数チャンネルの振動子がそれぞれエレベーション方向の中央部に位置する第1の超音波トランスデューサ4と両側部に位置する第2の超音波トランスデューサ5を有し、所定のN1チャンネルにわたる第1の超音波トランスデューサ4により形成されたBモード画像用同時開口C1を用いてBモード画像用超音波ビームが送受信され、Bモード画像用同時開口C1よりもアジマス方向に長く形成された第1の音速計測用同時開口C2とこの第1の音速計測用同時開口C2よりもエレベーション方向に幅広く形成された第2の音速計測用同時開口C3を用いて音速計測用超音波ビームが送受信される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波プローブおよび超音波診断装置に係り、特に、Bモード画像の生成と音速の計測の双方を行うための超音波プローブおよび超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、振動子アレイを内蔵した超音波プローブと、この超音波プローブに接続された装置本体とを有しており、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーを超音波プローブで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
また、近年、被検体内の診断部位をより精度よく診断するために、診断部位における音速を測定することが行われている。
例えば、特許文献1には、診断部位の周辺に複数の格子点を設定し、各格子点に対して超音波ビームを送受信することにより得られる受信データに基づいて、局所音速値の演算を行う超音波診断装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−99452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送受信することで、診断部位における局所音速値を求めることができ、例えばBモード画像に局所音速値の情報を重畳させて表示することが可能となる。さらに、所定の領域内の各点における局所音速値の分布を示す音速マップを生成してBモード画像と共に表示すれば、診断部位の診断を行う上で有効なものとなる。
ここで、より正確な局所音速値を演算するためには、Bモード画像の生成に比べて、診断部位の周辺に設定された複数の格子点のそれぞれによく絞り込まれた送信焦点を形成するように超音波ビームを送信し、超音波エコーを広い開口で受信することが望ましい。
【0006】
一般に、超音波プローブの振動子アレイでは、振動子アレイを構成するアジマス方向に配列された複数チャンネルの振動子に対してチャンネル間の遅延量を調節することで、超音波ビームの送信焦点を任意の深さに形成することができるが、エレベーション方向については、振動子アレイの前部に配置された音響レンズにより決定される固定焦点とされることが多い。このため、音響レンズにより決定された固定焦点位置以外の深さに設定された格子点に対しては、絞り込まれた送信焦点を形成することが難しく、音速計測の精度が低下するという問題がある。
【0007】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、Bモード画像の生成と高精度の音速計測の双方を行うことができる超音波プローブおよび超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る超音波プローブは、被検体に向けて超音波ビームを送信すると共に被検体による超音波エコーを受信する超音波プローブにおいて、アジマス方向に配列された複数チャンネルの振動子を有すると共に各チャンネルの振動子がそれぞれエレベーション方向の中央部に位置する第1の超音波トランスデューサと、この第1の超音波トランスデューサに隣接してエレベーション方向の両側部に位置する第2の超音波トランスデューサを有する振動子アレイと、各チャンネルの第1の超音波トランスデューサから超音波の送受信を行う第1の送受信回路と、各チャンネルの第2の超音波トランスデューサから超音波の送受信を行う第2の送受信回路と、所定のチャンネル数の第1の超音波トランスデューサからなるBモード画像用同時開口を用いてBモード画像用超音波ビームの送受信を行うことによりBモード画像用受信データを取得するように第1の送受信回路を制御すると共にBモード画像用同時開口より広い音速計測用同時開口を用いて音速計測用超音波ビームの送受信を行うことにより音速計測用受信データを取得するように第1および第2の送受信回路を制御する制御部とを備えたものである。
【0009】
第1の送受信回路は、各チャンネルの第1の超音波トランスデューサから超音波の送信を行う第1の送信回路と、各チャンネルの第1の超音波トランスデューサにより超音波の受信を行う第1の受信回路から構成され、第2の送受信回路は、各チャンネルの第2の超音波トランスデューサから超音波の送信を行う第2の送信回路と、各チャンネルの第2の超音波トランスデューサにより超音波の受信を行う第2の受信回路から構成されることができる。
好ましくは、制御部は、各チャンネルの第1の超音波トランスデューサから送信される超音波と第2の超音波トランスデューサから送信される超音波との間の遅延量を設定することにより音速計測用超音波ビームの送信焦点の深さ方向の位置を調整するように第1および第2の送信回路を制御する。
制御部は、音速計測用同時開口がBモード画像用同時開口よりアジマス方向に広くなるように第1の送信回路および第1の受信回路を制御することができ、さらに、音速計測用同時開口がBモード画像用同時開口よりエレベーション方向に広くなるように第1および第2の送信回路並びに第1および第2の受信回路を制御することもできる。
【0010】
この発明に係る超音波診断装置は、上記の超音波プローブと、取得されたBモード画像用受信データに基づいてBモード画像を生成する画像生成部と、取得された音速計測用受信データに基づいて音速を演算する音速演算部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、振動子アレイの各チャンネルの振動子がそれぞれエレベーション方向の中央部に位置する第1の超音波トランスデューサと、この第1の超音波トランスデューサに隣接してエレベーション方向の両側部に位置する一対の第2の超音波トランスデューサを有し、所定のチャンネル数の第1の超音波トランスデューサからなるBモード画像用同時開口を用いてBモード画像用超音波ビームの送受信を行う一方、Bモード画像用同時開口より広い音速計測用同時開口を用いて音速計測用超音波ビームの送受信を行うので、Bモード画像の生成と高精度の音速計測の双方を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波プローブを備えた超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る超音波プローブで用いられた振動子アレイの構造を示す図である。
【図3】実施の形態1における音速演算の原理を模式的に示す図である。
【図4】実施の形態1におけるBモード画像用送受信開口と音速計測用送受信開口を模式的に示す図である。
【図5】実施の形態1における音速計測時の格子点の設定位置と超音波ビームの関係を示す図である。
【図6】実施の形態2における音速計測時の格子点の設定位置と超音波ビームの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る超音波プローブ1を備えた超音波診断装置の構成を示す。超音波プローブ1に診断装置本体2が接続されている。
超音波プローブ1は、超音波ビームを送受信するための振動子アレイ3を有している。この振動子アレイ3は、複数チャンネルの振動子を有し、各チャンネルの振動子がそれぞれ第1の超音波トランスデューサ4と、この第1の超音波トランスデューサ4の両側部に位置する一対の第2の超音波トランスデューサ5を有している。
【0014】
各チャンネルの第1の超音波トランスデューサ4に第1の送信回路6および第1の受信回路7がそれぞれ接続されると共に、各チャンネルの第2の超音波トランスデューサ5に第2の送信回路8および第2の受信回路9がそれぞれ接続され、これら第1の送信回路6、第1の受信回路7、第2の送信回路8および第2の受信回路9にプローブ制御部10が接続されている。
【0015】
診断装置本体2は、超音波プローブ1の第1の受信回路7に接続された信号処理部11を有し、この信号処理部11にDSC(Digital Scan Converter)12、画像処理部13、表示制御部14および表示部15が順次接続されている。画像処理部13には、画像メモリ16が接続されている。さらに、診断装置本体2は、それぞれ超音波プローブ1の第1の受信回路7及び第2の受信回路9に接続されたシネメモリ18と音速演算部19を有している。そして、信号処理部11、DSC12、表示制御部14、シネメモリ18および音速演算部19に本体制御部20が接続されている。さらに、本体制御部20には、操作部21と格納部22がそれぞれ接続されている。
また、超音波プローブ1のプローブ制御部10と診断装置本体2の本体制御部20が互いに接続されている。
【0016】
振動子アレイ3は、図2に示されるように、アジマス方向に配列された複数の振動子を有し、これら複数の振動子により複数のチャンネルが形成されている。各チャンネルの振動子は、エレベーション方向に3つの素子に分割されている。すなわち、各振動子は、エレベーション方向の中央部に位置する第1の超音波トランスデューサ4と、この第1の超音波トランスデューサ4に隣接してエレベーション方向の両側部に位置する一対の第2の超音波トランスデューサ5を有している。
各チャンネルの一対の第2の超音波トランスデューサ5は、互いに共通の第2の送信回路8および第2の受信回路9に接続されているが、第1の超音波トランスデューサ4は、第2の超音波トランスデューサ5とは異なる第1の送信回路6および第1の受信回路7に接続されている。このため、第1の超音波トランスデューサ4と第2の超音波トランスデューサ5は、互いに独立して超音波の送受信を行うことができる。
【0017】
各チャンネルの第1の超音波トランスデューサ4は、第1の送信回路6から供給される駆動信号に従ってBモード画像生成用の超音波または音速計測用の超音波を送信し、被検体による超音波エコーを受信して受信信号を第1の受信回路7に出力する。一方、各チャンネルの第2の超音波トランスデューサ5は、第2の送信回路8から供給される駆動信号に従って音速計測用の超音波を送信し、被検体による超音波エコーを受信して受信信号を第2の受信回路9に出力する。
【0018】
第1の超音波トランスデューサ4および第2の超音波トランスデューサ5は、それぞれ例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した素子によって構成される。
【0019】
そのような超音波トランスデューサの電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0020】
第1の送信回路6は、例えば、複数のパルサを含んでおり、プローブ制御部10からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、振動子アレイ3の複数の第1の超音波トランスデューサ4から送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数の第1の超音波トランスデューサ4に供給する。
第1の受信回路7は、複数の第1の超音波トランスデューサ4から送信される受信信号をそれぞれ増幅してA/D変換した後、プローブ制御部10からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、各受信信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれた受信データ(音線信号)が生成される。
【0021】
第2の送信回路8は、第1の送信回路6と同様に、例えば、複数のパルサを含んでおり、プローブ制御部10からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、振動子アレイ3の複数の第2の超音波トランスデューサ5から送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数の第2の超音波トランスデューサ5に供給する。
第2の受信回路9は、複数の第2の超音波トランスデューサ5から送信される受信信号をそれぞれ増幅してA/D変換した後、プローブ制御部10からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、各受信信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行い、超音波エコーの焦点が絞り込まれた受信データ(音線信号)を生成する。
プローブ制御部10は、診断装置本体2の本体制御部20から伝送される各種の制御信号に基づいて、超音波プローブ1の各部の制御を行う。
【0022】
診断装置本体2の信号処理部11は、超音波プローブ1の第1の受信回路7で生成された受信データに対し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。
DSC12は、信号処理部11で生成されたBモード画像信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
画像処理部13は、DSC12から入力されるBモード画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、Bモード画像信号を表示制御部14に出力する、あるいは画像メモリ16に格納する。
これら信号処理部11、DSC12、画像処理部13および画像メモリ16により画像生成部23が形成されている。
【0023】
表示制御部14は、画像処理部13によって画像処理が施されたBモード画像信号に基づいて、表示部15に超音波診断画像を表示させる。
表示部15は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部14の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
【0024】
シネメモリ18は、超音波プローブ1の第1の受信回路7および第2の受信回路9から出力される受信データを順次格納する。また、シネメモリ18は、本体制御部20から入力されるフレームレートに関する情報(例えば、超音波の反射位置の深度、走査線の密度、視野幅を示すパラメータ)を上記の受信データに関連付けて格納する。
音速演算部19は、本体制御部20による制御の下で、シネメモリ18に格納されている受信データのうち音速計測用の受信データに基づいて、診断対象となる被検体内の組織における局所音速値を演算すると共に音速マップを生成する。
本体制御部20は、操作者により操作部21から入力された指令に基づいて超音波診断装置各部の制御を行う。
【0025】
操作部21は、操作者が入力操作を行うためのもので、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパネル等から形成することができる。
格納部22は、動作プログラム等を格納するもので、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、DVD−ROM等の記録媒体を用いることができる。
なお、信号処理部11、DSC12、画像処理部13、表示制御部14および音速演算部19は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。
【0026】
操作者は操作部21から次の3つの表示モードのいずれかを選択することができる。すなわち、Bモード画像を単独で表示するモード、Bモード画像に音速マップを重畳して表示するモード、Bモード画像と音速マップとを並べて表示するモードのうち、所望のモードによる表示を行うことができる。
【0027】
Bモード画像を表示する際には、まず、超音波プローブ1の第1の送信回路6から供給される駆動信号に従って振動子アレイ3の複数の第1の超音波トランスデューサ4から超音波が送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各第1の超音波トランスデューサ4から受信信号が第1の受信回路7に出力され、第1の受信回路7で受信データが生成される。さらに、この受信データを入力した診断装置本体2の信号処理部11でBモード画像信号が生成され、DSC12でBモード画像信号がラスター変換されると共に画像処理部13でBモード画像信号に各種の画像処理が施された後、このBモード画像信号に基づいて表示制御部14により超音波診断画像が表示部15に表示される。
【0028】
一方、局所音速値の演算は、例えば特開2010−99452号公報に記載の方法により行うことができる。
この方法は、図3(A)に示されるように、被検体内に超音波を送信した際に、被検体の反射点となる格子点Xから振動子アレイ3に到達する受信波Wxに着目したとき、図3(B)に示されるように、格子点Xよりも浅い位置、すなわち振動子アレイ3に近い位置に複数の格子点A1、A2、・・・を等間隔に配列し、格子点Xからの受信波を受けた複数の格子点A1、A2、・・・からのそれぞれの受信波W1、W2、・・・の合成波Wsumが、ホイヘンスの原理により、格子点Xからの受信波Wxに一致することを利用して、格子点Xにおける局所音速値を求める方法である。
【0029】
まず、すべての格子点X、A1、A2、・・・に対する最適音速値をそれぞれ求める。ここで、最適音速値とは、各格子点に対し、設定音速に基づきフォーカス計算をして撮影を行うことにより超音波画像を形成し、設定音速を種々変化させたときに画像のコントラスト、シャープネスが最も高くなる音速値であり、例えば特開平8−317926号公報に記載のように、画像のコントラスト、スキャン方向の空間周波数、分散等に基づいて最適音速値の判定を行うことができる。
【0030】
次に、格子点Xに対する最適音速値を用いて、格子点Xから発せられる仮想的な受信波Wxの波形を算出する。
さらに、格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて、それぞれ格子点A1、A2、・・・からの受信波W1、W2、・・・の仮想的な合成波Wsumを算出する。このとき、格子点Xと各格子点A1、A2、・・・との間の領域Rxaにおける音速は一様で、格子点Xにおける局所音速値Vに等しいものと仮定する。格子点Xから伝播した超音波が格子点A1、A2、・・・に到達するまでの時間はXA1/V、XA2/V、・・・となる。ここで、XA1、XA2、・・・は、それぞれ格子点A1、A2、・・・と格子点Xとの間の距離である。そこで、格子点A1、A2、・・・からそれぞれ時間XA1/V、XA2/V、・・・だけ遅延して発した反射波を合成することにより、仮想的な合成波Wsumを求めることができる。
【0031】
次に、このように格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて算出された複数の仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差をそれぞれ算出し、誤差が最小になる仮定的な局所音速値Vを格子点Xにおける局所音速値と判定する。ここで、仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差の算出方法としては、互いの相互相関をとる方法、受信波Wxに合成波Wsumから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法、合成波Wsumに受信波Wxから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法等を採用することができる。
以上のようにして、超音波プローブ1の第1の受信回路7および第2の受信回路9で生成された音速計測用の受信データに基づき、被検体内の局所音速値を高精度に演算することができる。さらに、同様にして、設定された関心領域内の局所音速値の分布を示す音速マップを生成することができる。
【0032】
ここで、図4を参照して、振動子アレイ3におけるBモード画像用超音波ビームを送受信する際の同時開口と音速計測用超音波ビームを送受信する際の同時開口について説明する。
まず、Bモード画像用超音波ビームを送受信する際には、図4(A)に示されるように、所定のN1チャンネルにわたる第1の超音波トランスデューサ4によりBモード画像用同時開口C1が形成される。
【0033】
これに対して、音速計測用超音波ビームを送受信する際には、それぞれBモード画像用同時開口C1より広い、次の2種類の同時開口C2およびC3が形成される。
すなわち、第1の音速計測用同時開口C2は、図4(B)に示されるように、Bモード画像用同時開口C1のN1チャンネルより多い所定のN2チャンネルにわたる第1の超音波トランスデューサ4により、Bモード画像用同時開口C1よりもアジマス方向に長く形成される。一方、第2の音速計測用同時開口C3は、図4(C)に示されるように、第1の音速計測用同時開口C2と同様にN2チャンネルにわたるが、各チャンネルが中央部の第1の超音波トランスデューサ4だけでなく、両側部の第2の超音波トランスデューサ5も含めて、第1の音速計測用同時開口C2よりもエレベーション方向に幅広く形成される。
【0034】
次に、実施の形態1の動作について説明する。
まず、図4(A)に示した所定のN1チャンネルにわたる第1の超音波トランスデューサ4によりBモード画像用同時開口C1が設定され、第1の送信回路6からの駆動信号に従ってBモード画像用同時開口C1に含まれるチャンネル数N1の第1の超音波トランスデューサ4によりBモード画像用の超音波ビームの送受信が行われ、これらの第1の超音波トランスデューサ4から受信信号が第1の受信回路7に出力されてBモード画像用の受信データが生成される。この受信データは、診断装置本体2のシネメモリ18と画像生成部23に出力され、シネメモリ18に順次格納されると共に、画像生成部23でBモード画像信号が生成され、Bモード画像信号に基づいて表示制御部14によりBモード画像が表示部15に表示される。
【0035】
ここで、操作者が操作部21を操作することにより、表示部15に表示されているBモード画像上に関心領域Rが設定されると、本体制御部20により関心領域Rの内部および周辺に音速計測のための複数の格子点が設定される。
例えば、図5に示されるように、振動子アレイ3の複数チャンネルの超音波トランスデューサの配列ピッチで形成される音線S1〜S13のうち音線S6〜S8にまたがると共に深度L1〜L2にわたる関心領域Rが設定され、この関心領域Rに対して、関心領域Rの上端部の深度L1で且つ音線S3〜S11上に9個の格子点E1が設定され、関心領域Rの下端部の深度L2で且つ音線S6〜S8上に3個の格子点E2が設定されるものとする。図5では、格子点E1およびE2が「●」で示されている。
【0036】
そして、まず、9個の格子点E1のそれぞれに送信焦点を形成するように音速計測用超音波ビームの送受信が行われる。
すなわち、図4(C)に示した所定のN2チャンネルにわたる第1の超音波トランスデューサ4および第2の超音波トランスデューサ5により第2の音速計測用同時開口C3が設定され、第1の送信回路6からの駆動信号に従って第2の音速計測用同時開口C3に含まれるチャンネル数N2の第1の超音波トランスデューサ4からそれぞれ超音波が送信されると共に、第2の送信回路8からの駆動信号に従って第2の音速計測用同時開口C3に含まれるチャンネル数N2の第2の超音波トランスデューサ5からもそれぞれ超音波が送信される。
【0037】
このとき、プローブ制御部10により第1の送信回路6および第2の送信回路8が制御され、各チャンネルの第1の超音波トランスデューサ4から送信される超音波と第2の超音波トランスデューサ5から送信される超音波の間に所定の遅延量が設定され、これにより、図5に示されるように、エレベーション方向において深度L1の各格子点E1に絞り込まれた送信焦点を形成する音速計測用超音波ビームB31が形成される。
深度L1の9個の格子点E1のそれぞれに送信焦点を形成して、このような音速計測用超音波ビームB31が順次送信され、被検体からの超音波エコーを受信した第2の音速計測用同時開口C3に含まれる第1の超音波トランスデューサ4から受信信号が第1の受信回路7に出力されると共に第2の音速計測用同時開口C3に含まれる第2の超音波トランスデューサ5から受信信号が第2の受信回路9に出力される。
このようにして第1の超音波トランスデューサ4および第2の超音波トランスデューサ5から受信信号を入力した第1の受信回路7および第2の受信回路9で音速計測用の受信データが生成され、それぞれシネメモリ18に格納される。
【0038】
9個の格子点E1に対する音速計測用超音波ビームの送受信に続いて、深度L2に設定された3個の格子点E2のそれぞれに送信焦点を形成するように音速計測用超音波ビームの送受信が行われる。
この場合も、図4(C)に示した所定のN2チャンネルにわたる第1の超音波トランスデューサ4および第2の超音波トランスデューサ5により第2の音速計測用同時開口C3が設定され、これらの第1の超音波トランスデューサ4および第2の超音波トランスデューサ5からそれぞれ超音波が送信される。ただし、プローブ制御部10の制御の下で、第1の送信回路6および第2の送信回路8により、各チャンネルの第1の超音波トランスデューサ4から送信される超音波と第2の超音波トランスデューサ5から送信される超音波との間に設定されていた遅延量が変更され、これにより、図5に示されるように、エレベーション方向において深度L2の各格子点E2に絞り込まれた送信焦点を形成する音速計測用超音波ビームB32が形成される。
【0039】
深度L2の3個の格子点E2のそれぞれに送信焦点を形成して、このような音速計測用超音波ビームB32が順次送信され、被検体からの超音波エコーを受信した第2の音速計測用同時開口C3に含まれる第1の超音波トランスデューサ4から受信信号が第1の受信回路7に出力されると共に第2の音速計測用同時開口C3に含まれる第2の超音波トランスデューサ5から受信信号が第2の受信回路9に出力されて音速計測用の受信データが生成され、それぞれシネメモリ18に格納される。
【0040】
このようにしてすべての格子点E1およびE2に関して音速計測用の受信データが取得されると、本体制御部20から音速演算部19に音速演算の指令が出力され、音速演算部19は、シネメモリ18に格納されている受信データのうち、音速計測用の受信データを用いて、関心領域R内の局所音速値を演算する。
音速演算部19では、さらに、関心領域R内の複数箇所の局所音速値に基づいて関心領域R内の音速マップが生成され、この音速マップに関するデータが、DSC12でラスター変換され、画像処理部13で各種の画像処理が施された後、表示制御部14に送られる。そして、操作者により操作部21から入力された表示モードに従って、Bモード画像に音速マップを重畳した状態で表示部15に表示される、あるいは、Bモード画像と音速マップ画像とが並べて表示部15に表示される。
【0041】
このようにしてBモード画像の生成と局所音速値の演算並びに音速マップの生成が行われる。
特に、Bモード画像用同時開口C1よりもアジマス方向およびエレベーション方向に広い第2の音速計測用同時開口C3が設定され、格子点E1およびE2の深度に応じて、第2の音速計測用同時開口C3に含まれる各チャンネルの第1の超音波トランスデューサ4から送信される超音波と第2の超音波トランスデューサ5から送信される超音波との間の遅延量が調整されるので、格子点E1およびE2のそれぞれに送信焦点が絞り込まれる音速計測用超音波ビームB32を形成することができ、高精度の音速計測を行うことが可能となる。
【0042】
実施の形態2
上記の実施の形態1では、深度L1およびL2の格子点E1およびE2に対してそれぞれ第2の音速計測用同時開口C3による音速計測用超音波ビームB31およびB32の送受信を行ったが、種々の深度に格子点が設定され、音速計測用超音波ビームの送信焦点位置を幅広い範囲内に形成することが望まれる場合は、第2の音速計測用同時開口C3だけでなく、深度に応じて、図4(B)に示したように、Bモード画像用同時開口C1よりもアジマス方向に長く形成された第1の音速計測用同時開口C2も用いることができる。
例えば、図6に示されるように、深度L2〜L3にわたる関心領域Rが設定され、この関心領域Rに対して、関心領域Rの上端部の深度L2で且つ音線S3〜S11上に9個の格子点E2が設定され、関心領域Rの下端部の深度L3で且つ音線S6〜S8上に「○」で示される3個の格子点E3が設定された場合、深度L2の格子点E2については、実施の形態1と同様に、第2の音速計測用同時開口C3による音速計測用超音波ビームB32の送受信が行われるが、さらに深い深度L3の格子点E3については、第1の音速計測用同時開口C2による音速計測用超音波ビームB2の送受信が行われる。
【0043】
すなわち、深度L2の格子点E2に対し、図4(C)に示した第2の音速計測用同時開口C3が設定され、この第2の音速計測用同時開口C3に含まれる第1の超音波トランスデューサ4から送信される超音波と第2の超音波トランスデューサ5から送信される超音波との間に遅延量が設定されることにより、図6に示されるように、エレベーション方向において深度L2の各格子点E2に絞り込まれた送信焦点を形成する音速計測用超音波ビームB32が形成される。
【0044】
深度L2の9個の格子点E2のそれぞれに送信焦点を形成して、このような音速計測用超音波ビームB32が順次送信され、被検体からの超音波エコーを受信した第2の音速計測用同時開口C3に含まれる第1の超音波トランスデューサ4から受信信号が第1の受信回路7に出力されると共に第2の音速計測用同時開口C3に含まれる第2の超音波トランスデューサ5から受信信号が第2の受信回路9に出力されて音速計測用の受信データが生成され、それぞれシネメモリ18に格納される。
【0045】
次に、深度L3の格子点E3に対し、図4(B)に示した第1の音速計測用同時開口C2が設定される。この第1の音速計測用同時開口C2に含まれるチャンネル数N2の第1の超音波トランスデューサ4から格子点E3のそれぞれに送信焦点を形成して音速計測用超音波ビームB2が送信される。
この音速計測用超音波ビームB2は、第2の超音波トランスデューサ5を使用せずに第1の超音波トランスデューサ4のみで形成されるため、第2の音速計測用同時開口C3による音速計測用超音波ビームB32に比べて、エレベーション方向において各送信焦点での絞り込みは弱いが、深度方向に広範囲にわたってビームの集束がなされている。このため、送信焦点位置を種々の深度に形成する場合に有効である。
深度L3の3個の格子点E3のそれぞれに送信焦点を形成して、このような音速計測用超音波ビームB2が順次送信され、被検体からの超音波エコーを受信した第1の音速計測用同時開口C2に含まれる第1の超音波トランスデューサ4から受信信号が第1の受信回路7に出力されて音速計測用の受信データが生成され、それぞれシネメモリ18に格納される。
【0046】
このようにして、すべての格子点E2およびE3に関して音速計測用の受信データが取得されると、音速演算部19により関心領域R内の局所音速値および音速マップが生成され、操作者により操作部21から入力された表示モードに従って、Bモード画像に音速マップを重畳した状態で表示部15に表示される、あるいは、Bモード画像と音速マップ画像とが並べて表示部15に表示される。
【0047】
なお、上記の実施の形態1および2では、第1の受信回路7および第2の受信回路9から出力される受信データを一旦シネメモリ18に格納し、音速演算部19がシネメモリ18に格納された受信データを用いて局所音速値を演算したが、音速演算部19が第1の受信回路7および第2の受信回路9から出力される受信データを直接入力して局所音速値の演算を行うこともできる。
また、シネメモリ18には、音速計測用に用いられる受信データだけでなく、Bモード画像用の受信データも格納されているため、本体制御部20の制御により、必要に応じてシネメモリ18からBモード画像用の受信データを読み出し、画像生成部23でBモード画像を生成することもできる。
【0048】
なお、上記の実施の形態1および2における超音波プローブ1と診断装置本体2との接続は、有線による接続および無線通信による接続のいずれの形態をとることもできる。
【符号の説明】
【0049】
1 振動子プローブ、2 診断装置本体、3 振動子アレイ、4 第1の超音波トランスデューサ、5 第2の超音波トランスデューサ、6 第1の送信回路、7 第1の受信回路、8 第2の送信回路、9 第2の受信回路、10 プローブ制御部、11 信号処理部、12 DSC、13 画像処理部、14 表示制御部、15 表示部、16 画像メモリ、17 腹壁検出部、18 シネメモリ、19 音速マップ生成部、20 本体制御部、21 操作部、22 格納部、23 画像生成部、X,A1,A2 格子点、W1,W2,Wx 受信波、Wsum 合成波、C1 Bモード画像用同時開口、C2 第1の音速計測用同時開口、C3 第2の音速計測用同時開口、B2 Bモード画像用超音波ビーム、B31,B32 音速計測用超音波ビーム、R 関心領域、E1〜E3 格子点、L1〜L3 深度、S1〜S13 音線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に向けて超音波ビームを送信すると共に被検体による超音波エコーを受信する超音波プローブにおいて、
アジマス方向に配列された複数チャンネルの振動子を有すると共に各チャンネルの振動子がそれぞれエレベーション方向の中央部に位置する第1の超音波トランスデューサと、この第1の超音波トランスデューサに隣接してエレベーション方向の両側部に位置する第2の超音波トランスデューサを有する振動子アレイと、
各チャンネルの前記第1の超音波トランスデューサから超音波の送受信を行う第1の送受信回路と、
各チャンネルの前記第2の超音波トランスデューサから超音波の送受信を行う第2の送受信回路と、
所定のチャンネル数の前記第1の超音波トランスデューサからなるBモード画像用同時開口を用いてBモード画像用超音波ビームの送受信を行うことによりBモード画像用受信データを取得するように前記第1の送受信回路を制御すると共に前記Bモード画像用同時開口より広い音速計測用同時開口を用いて音速計測用超音波ビームの送受信を行うことにより音速計測用受信データを取得するように前記第1および第2の送受信回路を制御する制御部と
を備えたことを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
前記第1の送受信回路は、各チャンネルの前記第1の超音波トランスデューサから超音波の送信を行う第1の送信回路と、各チャンネルの前記第1の超音波トランスデューサにより超音波の受信を行う第1の受信回路とを含み、
前記第2の送受信回路は、各チャンネルの前記第2の超音波トランスデューサから超音波の送信を行う第2の送信回路と、各チャンネルの前記第2の超音波トランスデューサにより超音波の受信を行う第2の受信回路とを含む請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記制御部は、各チャンネルの前記第1の超音波トランスデューサから送信される超音波と前記第2の超音波トランスデューサから送信される超音波との間の遅延量を設定することにより前記音速計測用超音波ビームの送信焦点の深さ方向の位置を調整するように前記第1および第2の送信回路を制御する請求項2に記載の超音波プローブ。
【請求項4】
前記制御部は、前記音速計測用同時開口が前記Bモード画像用同時開口よりアジマス方向に広くなるように前記第1の送信回路および前記第1の受信回路を制御する請求項2または3に記載の超音波プローブ。
【請求項5】
前記制御部は、前記音速計測用同時開口が前記Bモード画像用同時開口よりエレベーション方向に広くなるように前記第1および第2の送信回路並びに前記第1および第2の受信回路を制御する請求項4に記載の超音波プローブ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の前記超音波プローブと、
取得されたBモード画像用受信データに基づいてBモード画像を生成する画像生成部と、
取得された音速計測用受信データに基づいて音速を演算する音速演算部と
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−183102(P2012−183102A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46579(P2011−46579)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】