説明

超音波乳房診断支援システム

【課題】 乳房に対して超音波を送受波することで、乳房とその近傍の鮮明な断層画像を自動的に取得し、乳房の画像を三次元的に表示して以て病変の有無などの診断を支援するシステムを提供する。
【解決手段】 本発明の超音波乳房診断支援システム1は、水槽2と、水槽2に垂下浸漬された乳房の形状を近似するためのプレスキャン手段と、乳房の内部の状態を測定するための本スキャン手段と、本スキャンで得られた断層画像から病変の疑われる部分を指摘する鑑別処理手段と、鑑別処理手段が指摘した箇所を再撮像するための再スキャン手段とを備えている。本スキャン手段及び再スキャン手段は、超音波プローブ4が乳房に略法線方向から超音波を入射するように移動するアーム機構3を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を対象となる生体の特定の部分に送受波することによって、対象の内部の状態を画像化するシステムに関する。特に、乳房に対して超音波を送受波することで、乳房とその近傍の断層画像を取得し、以て病変の有無などの診断を支援するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌の早期発見を主目的とする集団診断を支援するための種々の技術が開発されている。その1つが、X線による乳房の撮像技術を活用したマンモグラフィ検診である。しかしながら、マンモグラフィ検診では、組織密度が高い乳房をX線で撮像した場合に、病変が正常組織に隠されたりして、正確に病変部位を描画できない恐れがあった。又、マンモグラフィ検診は、乳房の上下又は左右を強く押圧した状態で撮影を行うため、被検者によっては苦痛を感じることがあった。このため、病変を見落とす可能性が低く、被検者への負担が少ない、超音波による乳房の画像撮影技術が検討されてきた。
【0003】
超音波検診を乳癌の集団検診(スクリーニング)に適用する場合には乳房全域をもれなく撮像することが重要となる。そのような目的の技術に関して、従来から種々の提案がなされている。非特許文献1には、超音波によって乳房をスキャン(走査)し、乳房の断層画像をわかりやすく画像化する技術と、超音波によって得られた画像をコンピュータで解析して病変部位を正確に指摘する技術が開示されている。
【0004】
特許文献1には、「水中軽度圧迫法」と呼ばれる乳房の超音波計測装置が開示されている。特許文献1の技術は、乳房を水槽中に垂下浸漬し、その下方に配置された超音波プローブを機械的に走査して乳房全領域を撮像する方法である。この水槽式では乳房は保形のために柔軟な薄膜を介して水槽中に浸漬されるが、乳房全体を隆起のあるほぼ自然な形のままで撮像することができる特徴がある。なお、同文献によれば、得られた超音波画像は動画としてモニタ表示し、または一旦録画した後に再生表示することによって読影診断に供することができる。
【0005】
特許文献2には、水槽式の乳腺超音波撮像法において、より劣化の少ない画像を得るために、個々の乳房の大きさに対応して超音波を送受波する位置を調整する超音波探触子走査装置が開示されている。特許文献2の超音波探触子走査装置は、予めプレスキャンを行って乳房の外形を測定し、得られた外形データから乳房の表面の傾斜を求め、この傾斜に沿うように超音波振動子を傾斜させることで、乳房に対して垂直に超音波を送受波しようと試みている。
【0006】
特許文献3には、超音波による断層像の取得位置を容易に把握する為の技術が開示されている。特許文献3の超音波診断装置に於いては、超音波プローブに光学センサを取り付けており、被検者の体表面状に配置する音響カプラに、光学センサで読み取り可能なパターンを形成している。超音波プローブが断層像を取得すると同時に光学センサがこのパターンを読み取っていくことで、断層像が得られた位置が特定される。
【0007】
特許文献4には、乳房の任意の断面の超音波画像を取得するために、アームに取り付けられた超音波探触子の傾斜角度を変えながら、探触子を乳頭を中心にして回転させつつ断層画像を得る乳房超音波診断装置が開示されている。
【非特許文献1】福岡大輔,原 武史,藤田広志・他:「乳房超音波断層像における腫瘤像の自動検出法」医用画像情報学会雑誌,14・3,148〜154,1997
【特許文献1】特開2002−336256号公報
【特許文献2】特開2007−301070号公報
【特許文献3】特開2007−236823号公報
【特許文献4】特開2007−222233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の乳房の超音波計測装置は、水槽の下方に配置された超音波探触子が平面的に移動して乳房の撮像を行う実施例が開示されている。このため、乳房に対する超音波探触子の角度が直角にならない箇所が発生する恐れがあり、一部に於いてフォーカスが充分合わなくなり、充分な画質の断層画像が得られない可能性があった。
【0009】
特許文献2の超音波探触子走査装置は、左右1対のリニアタイプ(棒状)の超音波振動子を用いて超音波の送受波を行っている。この超音波振動子は、鉛直方向の移動を行う昇降機構と、鉛直方向に垂直な面で回動させ、又乳房の表面の傾斜に合わせて角度を変更できる傾斜機構によってその位置姿勢を変えながら移動する。しかし、特許文献2の超音波探触子走査装置は、水槽に垂下された乳房の傾斜角がほぼ均一であるとみなして超音波振動子の傾斜角度を調整しているため、例えば超音波振動子の中央付近と、端部付近では、乳房までの距離が異なってしまう可能性がある。この結果、スキャンを行った領域の一部において充分な画質の断層画像が得られない可能性があった。
【0010】
又、乳ガン検診のための乳房の画像撮影に於いては、乳房だけではなく、上腕部の付け根に近い乳腺まで撮影することが一層好ましいとされるが、この領域は一般に乳房とは傾斜が異なる。このため、傾斜角を変えて測定を行う特許文献3の超音波診断装置であっても、鮮明な画像を得ることが困難な領域があった。
【0011】
更に、特許文献1から特許文献4においては、乳房全域を撮像することに種々の工夫はなされているが、撮像された断層画像の中に1枚でも病変が疑われる部分が発見された場合には、改めてその特定部分の精密な検査が必要となっていた。このため、実際には病変のない被検者に対しても再検査が必要となる場合があり、この再検査が被検者にとって大きな負担となっていた。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、様々な形状と大きさの乳房について、画像撮影が必要とされる領域全体に亘って鮮明な断層画像を得ることを目的としている。即ち、乳房に対して略法線方向から超音波を入射することにより、スキャン領域の全面に亘って鮮明な断層画像が得られる超音波乳房診断支援システムを提供することを目的としてなされたものである。
【0013】
更に本発明は、1回の検診の工程の中で病変が疑われる部分の撮像を複数回行うことで、より信頼性高く病変の有無の診断を支援できる超音波乳房診断支援システムを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、超音波乳房診断支援システムに関する。本発明の超音波乳房診断支援システムは、乳房を垂下浸漬可能な水槽と、水槽に垂下浸漬された乳房の形状を近似するためのスキャンを行うプレスキャン手段と、プレスキャンの結果を利用して乳房の内部の状態を測定するために超音波によるスキャンを行う本スキャン手段と、プレスキャン手段と本スキャン手段によって得られるデータから乳房の画像を合成する画像合成処理手段と、合成した画像から病変に関連した部位を検出しマーキングする病変自動検出手段と、マーキングした位置の良悪性を鑑別し悪性の可能性を出力する鑑別処理手段と、乳房の画像とマーキングの情報とを記録可能な記録手段と、乳房の画像とマーキングの情報とを表示可能な表示手段とを備えている。本発明の超音波乳房診断支援システムは、本スキャン手段が、超音波プローブと、乳房表面に対して略法線方向から超音波が入射するように前記超音波プローブの位置姿勢を制御するプローブ駆動保持機構とを備えており、且つ、鑑別処理手段が悪性の可能性を検出した箇所を、超音波プローブによって再度スキャンして断層像を得るための再スキャン手段を備えていることを特徴とする。
【0015】
プローブ駆動保持機構により、本発明の超音波乳房診断支援システムの超音波プローブは、様々な大きさや形状の乳房の表面に対して常に法線方向から超音波を送受波できるように位置姿勢を変えて移動することが可能となる。又、病変が疑われる部分については、本スキャンに加えて再スキャンによって再度断層像が得られるために、より信頼性高く病変の有無を判断することが可能となる。
【0016】
本発明の超音波乳房診断支援システムの本スキャン手段は、プローブ駆動保持機構が、複数の駆動軸を有していることを特徴とする。複数の駆動軸を有することで、超音波プローブの移動や回転の自由度が高くなり、超音波プローブの位置姿勢を任意に変更可能となる。
【0017】
又、本発明の本スキャン手段は、螺旋状、同心円状、放射線状、平面状若しくは予め規定された軌道を描くように超音波プローブを移動させてスキャンを行うことを特徴とする。このような軌道でスキャンを行うことによって、より効率よく乳房をくまなく撮像することが可能となる。
【0018】
本発明の超音波乳房診断支援システムのプレスキャン手段は、超音波プローブと、当該超音波プローブによるスキャンで得られる断層画像の中の病変に関連する部分をマーキングするマーキング処理手段とを備えている。更に、本発明のプレスキャン手段のプローブは、平面状、又は球面状の軌道を描くように移動してスキャンを行うことを特徴とする。
【0019】
超音波プローブを使用することによって、乳房の形状を近似するためのプレスキャンの際にも、乳房の断層像を得ることが可能となる。プレスキャンで得られた断層像に対し、病変の疑われる部分をマーキングすることによって、再スキャン手段がこの位置の断層像を再度撮影することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の超音波乳房診断支援システムは、プローブ駆動保持機構により、超音波プローブの位置姿勢を、様々な大きさや形状の乳房の表面に対して常に法線方向から超音波を送受波できるように移動させることが可能となる。その結果、スキャン領域の全域に亘って、鮮明な断層画像を得ることが可能となる。このような鮮明な断層画像を用いることにより、病変部の早期発見や発見の機会の増大といった被検者の利益を拡大することが可能となる。
【0021】
本発明の超音波乳房診断支援システムは、病変が疑われる部分について、本スキャンに加えて再スキャンによって再度断層像を取得するために、同一箇所を撮影した複数の断層像が一度の検診で得られることとなり、より信頼性高く病変の有無を判断することが可能となる。
【0022】
本発明の超音波乳房診断支援システムの本スキャン手段によって、乳房とその周辺のスキャン領域全域において鮮明な断層画像を自動的に取得することが可能となるために、検査者の手動操作の負担が軽減される。同時に、より迅速にスキャンが実施されることで、検診の効率化を図ることが可能となる。
【0023】
本発明の超音波乳房診断支援システムのプレスキャン手段に超音波プローブを用いることによって、乳房の正確な外形形状に関するデータに加えて、乳房の断層画像を得ることができる。同一箇所について断層像を得る機会が更に増えることで、一層病変部の検出の信頼性を向上することができる。
【0024】
本発明の超音波乳房診断支援システムは、乳房の正確な外形形状のデータを蓄積することができるため、これらのデータを他のシステムに活用することが可能となる。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明の超音波乳房診断支援システムの実施例を、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(第1実施例) 図1は、本発明の第1実施例の超音波乳房診断支援システム1の構成を模式的に示す図である。本実施例の超音波乳房診断支援システム1においては、プレスキャンと本スキャンと再スキャンとに、超音波を送受波することができる同一の超音波プローブ4が使用される。超音波プローブ4を保持し駆動する機構としては、多関節のアーム機構3が利用されている。アーム機構3は、その底部が、乳房を垂下浸漬可能な水槽2の底部に配置された回転台5の上に取り付けられている。超音波プローブ4は、アーム機構3の上端部に把持されている。
【0027】
又、超音波乳房診断支援システム1は、超音波プローブ4に超音波の送信を指示してその受波信号を受信する処理を行う送受信部11と、超音波プローブ4によるプレスキャンと本スキャンによって得られるデータから乳房の画像を合成する画像合成処理部12とを備えている。更に超音波乳房診断支援システム1は、合成した画像から病変に関連した部位を自動的に検出しマーキングする病変検出処理部17と、病変検出処理部17がマーキングした位置の良悪性を鑑別して、悪性の可能性のある部分の情報を出力する鑑別処理部16と、乳房の画像とマーキングの情報とを記録可能な記録部13とを備えている。これらの処理部は、コンピュータ10に実行可能なプログラムの形で記憶されている。又、コンピュータ10には、記憶部13が内蔵されていると同時に、乳房の画像とマーキングの情報とを表示可能な表示手段であるモニタ20が接続されており、モニタ20に画像とデータを表示するためのモニタ制御部14がコンピュータ10に含まれている。
【0028】
図2は、水槽2内のアーム機構3と、アーム機構3が設置される回転台5の構成を模式的に示す図である。回転台5は、内側の円板とそこに固定されたアーム機構3が回転可能な状態で、水槽2の底部に支持部材6によって固定されている。アーム機構3は、2本のアーム31、32と、関節部34と、把持部35とを有しており、水中で動作可能となっている。回転台5とアーム32の間には関節部33が設けられており、アーム32と超音波プローブ4との間には、把持部35が設けられている。関節部34と把持部35は3方向の回転の自由度を有するように構成されている。又、関節部33は回転台5に対するアーム32の角度を規定することが可能であり、関節部34は、アーム32に対するアーム31の角度を規定することができる。把持部35は、アーム31に対する超音波プローブ4の姿勢を規定することができる。関節部33,34と把持部35における回転と姿勢の制御は、それぞれの部分に内蔵されているモータがアーム駆動処理部15によって駆動されることで実行される。回転台5の回転と、関節部33,34及び把持部35の回転及び姿勢を制御することで、超音波プローブ4は水槽内の任意の位置で任意の姿勢をとることが可能となる。
【0029】
以下、本実施例の超音波乳房診断支援システム1のプレスキャンと本スキャンと再スキャンの工程を順に説明する。図1に示すように、被検者は、柔軟な薄膜7を挟んだ状態で、乳房を水槽2中に垂下浸漬する。超音波乳房診断支援システム1のアーム駆動処理部15は、プレスキャンの開始位置を、水槽2のいずれかの頂点近傍であって且つ乳房の乳頭部から垂直方向(図中Z方向で表示される方向)に距離を隔てた位置に定めている。プレスキャンの工程を開始する前に、アーム駆動処理部15はアーム機構3と回転台5とを駆動して、超音波プローブ4を開始位置に移動させている。送受信部11が超音波プローブ4に超音波の送受波を指示して、プレスキャンの工程が開始される。同時に、アーム駆動処理部15は、超音波プローブ4が水槽2内の所定の水平面上を動くようにアーム機構3と回転台5とを駆動してプレスキャンを行う。
【0030】
ここで、アーム駆動処理部15は、プレスキャンを行っているアーム機構3と超音波プローブ4が乳房に接触しないために、所定のZ座標を維持するように制御を行っている。このZ座標は、多数の乳房の形状を実測した数値に基づいて定められている。本実施例に於いては、アーム駆動処理部15に対して、超音波プローブ4の最も高い位置が、どのような形状の乳房であっても少なくとも5cm以上の距離を隔てるように設定がなされている。
【0031】
プレスキャンは、乳房から距離を隔てており、且つ超音波の入射角度が垂直ではないために、一部の領域で鮮明な断層画像を得ることが困難な場合がある。しかし、乳房の正確な外形形状のデータは、充分に取得することができる。超音波乳房診断支援システム1の画像合成処理部12は、プレスキャンによって得された乳房の外形形状をスプライン面に近似して、その面に対する法線ベクトル集合(H)を作成する。作成された乳房の外形形状データと法線ベクトル集合(H)は、記憶部13に記憶される。
【0032】
次に超音波乳房診断支援システム1は得られた外形形状データと法線ベクトル集合(H)を用いて、本スキャンの工程を行う。本実施例に於いて、超音波乳房診断支援システム1のアーム駆動処理部15は、記憶部13に記憶された作成された乳房の外形形状データと法線ベクトル集合(H)の値に基づいて、被検者の乳房の乳頭部を中心として螺旋状の軌道を描くように超音波プローブ4を移動させて、乳房全体とその周辺部の本スキャンを行う。
【0033】
本スキャンを行っている超音波プローブ4とアーム機構3の位置姿勢の一例を図3に示す。アーム駆動処理部15は、乳房の外形形状データに基づいて、超音波プローブ4の先端と乳房表面との距離を常に一定に保つ。この距離は、超音波プローブの送受波する超音波の出力によっても左右されるが、通常は2cm以上4cm以下の範囲に正確に制御される。又、超音波プローブ4の姿勢は、乳房の表面に対して常に略法線方向に超音波を送受波するように制御される。尚、ここでいう略法線方向とは、90°±15°の角度範囲のことを指す。
【0034】
アーム駆動処理部15は、本スキャン工程の超音波プローブ4の軌道を、螺旋状ではなく、同心円状、放射状、若しくは平面をつなぎ合わせた多角形形状の辺を通過する軌道の中から選択して設定することが可能である。本スキャン時の超音波プローブ4の軌道は、超音波によるスキャンを行っていない領域を作らず、且つ一度スキャンした領域はできる限り通らないように移動することができ、しかもアーム機構3の動作のアルゴリズムをより簡略化できる方法であれば、如何様にも変更が可能である。
【0035】
送受信部11は、本スキャンの工程で得られる超音波プローブ4の受波信号を受信する。同時に送受信部11は、超音波プローブ4の位置姿勢のデータをアーム駆動処理部15から受信する。送受信部11は、1枚の断層画像分に相当する超音波の受波信号を受信する毎に、そのときの超音波プローブ4の位置姿勢データを情報として付与して、画像処理部13に転送する。
【0036】
画像合成処理部12は、超音波の受波信号から乳房の断層画像を作成する。又、作成した断層画像に付与されている超音波プローブ4の位置姿勢を基にして、断層画像に定義されている座標系を、スキャン領域に定義されている三次元座標系に変換する。この座標変換が行われた断層画像は、スキャン領域に定義されている三次元座標系における位置が特定されたことになる。このようにしてスキャン領域における位置の特定された断層画像のデータは、順次スキャン領域に対応するように定義されている三次元座標空間のセル(ボクセル)に符号化して蓄積される。本スキャンによって得られた乳房全体とその周辺部の断層画像のデータをこのようなボクセルデータとして蓄積することにより、スキャン領域内の乳房画像が合成されてボリュームデータとして一括して保存される。本スキャンが完了した後に、乳房のボリュームデータは、外形形状データと共に、記憶部13に保存される。
【0037】
尚、本実施例における画像合成処理部12は、乳房の断層画像をボリュームデータとして蓄積する際に、乳頭後方の画像の欠損を防止する機能を含むことができる。乳頭を法線方向からのみスキャンした場合には、その後方の画像が得られない場合があるが、本実施例におけるアーム駆動処理部15は、被検者の乳房の乳頭部を中心として螺旋状の軌道を描くように超音波プローブ4を移動させて、乳房全体とその周辺部の本スキャンを行っているため、本スキャンの過程で乳頭の後方の画像が鮮明に得られている可能性が高い。画像合成処理部12は、得られた断層画像のうち、乳頭後方の位置の断層画像について欠損の有無を確認し、より鮮明に得られている断層画像のデータを選択的に保存する機能を含むことで、乳頭の後方の画像が欠損しないボリュームデータを得ることができる。
【0038】
本スキャンの間、モニタ制御部14は、超音波プローブ4から送信されるデータに基づいて画像合成処理部12が作成した乳房の断層画像を、リアルタイムにモニタ20に表示する。超音波乳房診断支援システム1の操作者は、本スキャンが進行している途中であっても、必要に応じてモニタ20の表示を切り替えて乳房の外形形状データを表示させたり、乳房のボリュームデータの表示を行ったりすることができる。
【0039】
本スキャンの終了と同時に、本実施例における画像合成処理部12は、乳房のボリュームデータから乳房の体積を算出する。更に、乳房のボリュームデータの画素値を解析して乳腺実質量を算出し、乳房の体積に対する乳腺実質量の割合を数値表示することができる。
【0040】
本スキャンが終了すると、病変検出処理部17は、乳房のボリュームデータの画素値を解析して、周囲とは画素値の異なる部分等、病変との関連の高い画像特性を有する部分とを自動的に検出し、病変に関連する部分としてマーキングを施す。ここでいうマーキングとは、病変検出処理部17が、検出された病変に関連する部分の位置の情報を乳房のボリュームデータの追加情報として記憶部13に記憶することである。
【0041】
鑑別処理部18は、病変検出処理部17がマーキングを施した部分の断層画像について、病変が疑われる部分の縦横比、大きさ、明瞭さ、周辺部との境界の形状、周辺画像の状態等の種々の特性について詳細な解析を行う。そして解析データからマーキングした位置の良悪性を鑑別し、悪性の可能性を数値として算出して、マーキングの情報と関連づけて記憶部13に記憶する。
【0042】
超音波乳房診断支援システム1は、病変検出処理部17がマーキングを施した位置の中で、鑑別処理部18によって悪性の可能性の数値が一定の水準以上と鑑別した位置とその周辺について再スキャンを行う。再スキャンのために、アーム駆動処理部15は再度アーム機構3を駆動し、超音波プローブ4は、マーキングされた位置とその周辺のみについて、超音波を送受波する。画像合成処理部12は、超音波の受波信号から乳房の断層画像を作成し、再スキャンで得られた断層画像として、再スキャン位置の情報と共に保存する。そして画像合成処理部12は、再スキャンを行った領域内の乳房画像についても、ボリュームデータとして一括して保存する。
【0043】
モニタ制御部14は、本スキャンで得られた乳房のボリュームデータを用いて、ボリュームレンダリング法によって乳房全体の画像を表示することができる。又、ボリュームデータから任意の断面を取り出して平面ディスプレイに表示することができる。そのためには、3次元で蓄積されている画像データを平面画像に変換する必要がある。超音波乳房診断支援システム1の操作者は、3次元空間内の1点の座標と2つの方向ベクトルを決定することで、乳房の2次元の断面図を表示させることができる。乳房のボリュームデータから任意の断面の2次元画像を取り出すためのインターフェースの一例を、図4に示す。画像合成処理部12は、乳房の外形形状の斜視図と、断面作成位置の指示手段として仮想的に表示される超音波プローブの画像データを作成し、モニタ制御部14がモニタ20にこれらを表示する。操作者は、モニタ20の中の乳房に対する超音波プローブの相対的な位置をマウス、タブレット、若しくは3軸の加速度センサーを内包する独自の入力手段によって移動させて、1点の座標と2つの方向ベクトルを指示する。指示された断面は、乳房の外形形状データの中に強調表示される。そして、指示された断面に該当するボクセルデータを取り出して表示することで、乳房の任意の位置における2次元の断面画像を表示することができる。
【0044】
又、モニタ制御部14は、病変に関する部分としてマーキングが施された部分を、乳房全体の画像の中で、異常が疑われる領域と異常のない領域で配色を変更するなど視覚効果の高い表示を行って、読影者により効果的に注意を喚起することができる。更に、超音波乳房診断支援システム1の操作者が、マーキングの施された部分を指定すると、本スキャンによって得られた画像と、再スキャンによって得られた画像とを並べて表示することも可能である。
【0045】
本実施例の超音波乳房診断支援システム1は、プレスキャンと、本スキャンと、再スキャンとを、アーム機構3に把持された超音波プローブ4を使用して行っている。アーム機構3は回転台5に搭載されており、回転台5の回転と、関節部33,34及び把持部35の回転及び姿勢を制御することで、超音波プローブ4は水槽内の任意の位置で任意の姿勢をとることが可能となる。この結果、超音波プローブ4は乳房の表面に対してほぼ法線方向から超音波を送受波することが可能となる。その結果、スキャン領域の全域に亘って、鮮明な断層画像を得ることが可能となる。又、本実施例の超音波乳房診断支援システムは、病変が疑われる部分を自動的に検出し、その部分について、本スキャンに加えて再スキャンによって再度断層像を取得するために、同一箇所を撮影した複数の断層像を用いることによって、より信頼性高く病変の有無を判断することが可能となる。
【0046】
(第2実施例) 図5は、本発明の第2実施例の超音波乳房診断支援システム100の構成のうち、第1実施例と異なる部分を模式的に示す図である。第1実施例と同一の構成を有するものについては、同一符号を付与して重複説明を割愛する。
【0047】
本実施例の超音波乳房診断支援システム100は、本スキャンと再スキャンの工程に第1実施例と同一のアーム機構3と超音波プローブ4と使用している。プレスキャンには、本スキャン及び再スキャンの工程とは異なる超音波プローブ104を用いている。超音波プローブ104は、走行台102に搭載されており、乳房とその周辺部をスキャンすることができる。走行台102は、駆動手段106によって、レール108の平面軌道上を走行する。本実施例におけるプレスキャン手段は、アーム機構3及び超音波プローブ4が設置されている水槽2の中に設置されている。
【0048】
超音波プローブ104と駆動手段106とを制御するモジュール110は、超音波プローブ104に超音波の送信を指示してその受波信号を受信する処理を行う送受信部111と、駆動手段106の駆動内容を指示するプローブ駆動処理部115とを備えている。又、モジュール110は、超音波プローブ104によるプレスキャンによって得られるデータから、乳房の外径形状データと法線ベクトル集合(H)とを算出すると共に、プレスキャンによって得られた乳房の断層画像を合成する画像合成処理部112とを備えている。
【0049】
又、モジュール110は、画像合成処理部112が作成した乳房の断層画像をモニタ20に表示するモニタ制御部114と、操作者がプレスキャンで得られた断層画像の中の病変に関連すると思われる部分にマーキングを行うためのマーキング処理手段21とが含まれている。更にモジュール110には、プレスキャンで得られた乳房の外径形状データと法線ベクトル集合(H)、乳房の断層画像、及び操作者によって入力されたマーキングの位置の情報とを一時記憶する記憶部113と、これらのデータを本スキャンと再スキャンのためのアーム駆動処理部15及び鑑別処理部16に転送するための通信処理部118とそ備えている。これらの処理部は、コンピュータ10に実行可能なプログラムの形で記憶されている。又、コンピュータ10には、記憶部113が内蔵されており、マーキング処理手段21は外部接続されている。
【0050】
本実施例におけるマーキング処理手段21は、具体的にはコンピュータ10のマウス、タブレット、若しくはフットスイッチ等の入力手段となる。超音波乳房診断支援システム100の操作者は、プレスキャンが行われている間、プレスキャンによって得られた乳房の断層画像をモニタ20に表示して監視し、病変が疑われる部分をリアルタイムでマーキング処理手段21で指定する。指定された内容は、病変が疑われる部分の位置情報として、断層画像と関連づけられて記憶部113に記憶される。プレスキャンの工程でこのようなマーキング処理がなされた断層画像は、鑑別処理部16によってマーキングした位置の良悪性が鑑別され、悪性の可能性のある部分についてはその情報が出力されて、再スキャンの対象位置として特定される。
【0051】
本実施例におけるプレスキャンの対象領域に対応する走行台102の走行経路の一例を、図6に示す。このような平面上の直線軌道を迅速に移動してプレスキャンを行うことで、プレスキャンに要する時間を短縮しつつ、本スキャンを行うために必要な乳房の外形形状に関するデータを得ることができる。
【0052】
本実施例における超音波乳房診断支援システム100においては、このような迅速なプレスキャンの工程から、乳房の正確な外形形状に関するデータに加えて、乳房の断層画像を得ることができる。しかも、操作者がプレスキャンで得られる断層画像について、目視によりリアルタイムでマーキングを施すことにより、一層病変部を検出する機会が増えて、診断の信頼性を向上することができる。
【0053】
(第3実施例)本実施例の超音波乳房診断支援システムは、過去に蓄積された乳房の外形形状データと法線ベクトル集合のデータを利用してプレスキャンを簡素化している。本実施例に於いては、年齢、体格情報、授乳歴などの被検者の情報と、複数の外形形状データと法線ベクトル集合をクラスタリングすることによって、プレスキャンの結果から法線ベクトル集合のデータベースを構築している。そして、アーム機構によるプレスキャンに代えて、他のプレスキャン手段による簡易なプレスキャンを迅速に行い、そこで得られた乳房の形状の情報を、データベースの値で補完して、他の実施例と同等の鮮明な画像の得られる本スキャンを実施する。
【0054】
(第4実施例)本実施例の超音波乳房診断支援システムは、プレスキャンの手段として、水槽2内に複数配置されたレーザ距離センサを適用している。レーザ距離センサは、より正確かつ迅速に乳房の外径形状データと法線ベクトル集合のデータを得ることができるため、検査者の負担を軽減することが可能である。
【0055】
以上、最良の実施例に基づいて本発明の構成を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体的な形態を様々に変形、変更したものが含まれる。又、第1実施例に挙げたプローブの駆動保持機構であるアームの構成は、2本のアームに2箇所の関節画も受けられた構成を示したが、アームの本数を増やすことでより複雑な動きを正確に行わせることが可能となる。その他、プレスキャン手段、本スキャン手段、及び再スキャン手段を駆動するコンピュータの構成と、結果の表示方法についても、その操作性を損なわない範囲で如何様にも変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施例の超音波乳房診断支援システム1の構成を模式的に示す図である。
【図2】水槽2内のアーム機構3とアーム機構3が設置される回転台5の構成を詳細に示す図である。
【図3】本スキャンを行っている超音波プローブ4とアーム機構3の位置姿勢の一例を示す図である。
【図4】モニタに表示される、乳房のボリュームデータから任意の断面の2次元画像を取り出すためのインターフェースの一例を示す図である。
【図5】第2実施例のの超音波乳房診断支援システム100のうち、プレスキャンに使用されるプレスキャン手段の構成を模式的に示す図である。
【図6】スキャン領域に対応する走行台102の走行経路を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1,100 超音波乳房診断支援システム
2 水槽
3 アーム機構
4,104 超音波プローブ
5 回転台
6 支持部材
7 薄膜
10 コンピュータ
11,111 送受信部
12,112 画像合成処理部
13,113 記憶部
14,114 モニタ制御部
15 アーム駆動処理部
20 モニタ
31,32 アーム
33,34 関節部
35 把持部
102 走行台
106 駆動手段
108 レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房を垂下浸漬可能な水槽と、前記水槽に垂下浸漬された乳房の形状を近似するためのスキャンを行うプレスキャン手段と、前記プレスキャンの結果を利用して乳房の内部の状態を測定するために超音波によるスキャンを行う本スキャン手段と、前記プレスキャン手段と前記本スキャン手段によって得られるデータから乳房の画像を合成する画像合成処理手段と、合成した画像から病変に関連した部位を検出しマーキングする病変自動検出手段と、マーキングした位置の良悪性を鑑別し悪性の可能性を出力する鑑別処理手段と、乳房の画像とマーキングの情報とを記録可能な記録手段と、乳房の画像とマーキングの情報とを表示可能な表示手段とを備えた超音波乳房診断支援システムであって、
前記本スキャン手段が、超音波プローブと、乳房表面に対して略法線方向から超音波が入射するように前記超音波プローブの位置姿勢を制御するプローブ駆動保持機構と、を備えており、
鑑別処理手段が悪性の可能性を検出した箇所を、前記超音波プローブによって再度スキャンして断層像を得るための再スキャン手段を備えていることを特徴とする超音波乳房診断支援シテム。
【請求項2】
プローブ駆動保持機構が、複数の駆動軸を有していることを特徴とする請求項1に記載の超音波乳房診断システム。
【請求項3】
本スキャン手段が、螺旋状、同心円状、放射線状、平面状若しくは予め規定された軌道を描くように超音波プローブを移動させてスキャンを行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波乳房診断支援システム。
【請求項4】
プレスキャン手段が、超音波プローブと、当該超音波プローブによるスキャンで得られる断層画像の中の病変に関連する部分をマーキングするマーキング処理手段とを備えており、
前記超音波プローブが、平面状、又は球面状の軌道を描くように移動してスキャンを行うことを特徴とする請求項1乃至3に記載の超音波乳房診断支援システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−225904(P2009−225904A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72795(P2008−72795)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜20年度、文部科学省、地域科学技術振興施策、委託研究(知的クラスター創成事業、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】