説明

超音波工具ホルダ

【課題】 加工精度が高く、かつ信頼性の高い超音波加工する工具ホルダを提供すること。
【解決手段】 超音波工具ホルダ1は、回転軸に取り付けるテーパー状の鋼製のホルダ部2があり、そのホルダ部2の中に顎5そしてマニピュレータ把持用溝6がある。ホルダ部2の円筒形状の空間23を持つ部分のリアマス11に複数の貫通するスリット24を設ける。ホルダ部2のテーパー状の部分と同じくホルダ部2の顎5の間に回転側のフェライト製のロータリートランス8を配置する。そしてその回転側のロータリートランス8を固定するためにメネジを持つ鋼製の固定リング7により締め付け固定する。超音波工具ホルダ1のホルダ部2、リアマス11、そしてチャック筒3は一体の鋼材で作成する。そしてリアマス11と鋼製のフロントマス13の間に圧電セラミック12a、12b入れ、締め付け一体化する。そして、チャック筒3に焼嵌めにより超硬製の工具4であるエンドミルを接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転する工具を保持する超音波工具ホルダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、いわゆる難加工材料を加工するために超音波振動を工具または、ワークに与え加工する方法が多用されるようになってきた。このような加工方法は、超音波切削加工と呼ばれて、例えば、非特許文献1に詳しく記載されている。また、本発明者の出願特許2006−308423に記載の切断装置において、毎分1万回転を超えるブレードに超音波振動を印加することにより従来切断が困難であったサファイア基板を切断することも可能となった。
【0003】
超音波研削装置は、非特許文献2に詳しく記載されている。図1に示す超音波研削装置は回転軸を回転させるためのモータがあり、その回転軸にスリップリング、超音波振動子が備えられている。さらに、回転軸にはブースタ、ホーンそして研削工具であるダイヤモンド砥石が接続されている。また回転自在に支持するための軸受が配置されている。また超音波交流電圧を超音波振動子に印加するための超音波発振器とブラシを備えている。
【0004】
上記の超音波研削装置の概略の運転方法は以下の通りである。まずモータを動作させるとほぼ同時に超音波発振器からブラシを介して回転するスリップリングに超音波交流電圧を印加する。スリップリングに与えられた交流電圧は超音波振動子に印加され、超音波振動子は超音波振動する。この超音波振動が、ブースタそしてホーンを伝播し、そして研削工具であるダイヤモンド砥石に伝播する。
【非特許文献1】超音波便覧編集委員会、「超音波便覧」、丸善株式会社、平成11年8月、p679−684
【非特許文献2】日本電子機械工業会、「超音波工学」、株式会社コロナ社、1993年、p218−229
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1の超音波研削装置は、回転軸に超音波振動子を取り付けているため、回転軸も超音波振動するので軸受を通して装置全体に不要な振動を発生させる。この不要な振動は、加工精度を低下させる。また回転軸および軸受に異常な磨耗が発生する恐れがある。
【0006】
さらに、工具を効率的に振動させるためには工具を保持する装置より先の工具の長さにより駆動周波数を変化させなければならないが、工具に比較してランジュバン型超音波振動子、回転軸及びホーンの質量が大きいため、主に前記ランジュバン型超音波振動子などの固有振動数でしか効率的に振動を励起することができない。したがって、工具に最適な振動を励起することができないという問題点もある。
【0007】
本発明の目的は、高効率、高精度および高い信頼性をもつ超音波加工法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、回転加工装置の工具を保持する超音波工具ホルダにおいて、工具と超音波振動子部の間のホルダ部に複数の空間部を有するものである。
【0009】
本発明はまた、前記超音波工具ホルダに保持固定される工具が、エンドミル、ドリル、リーマそしてタップであるものとすることである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の超音波工具ホルダを使用して、旋盤、フライス盤、ミリング装置などの機械加工機に用いて超音波加工を行うことにより高精度かつ高速加工を可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図2は、本発明の第1の実施の形態の超音波工具ホルダ1の基本的な構成を示す斜視図である。焼嵌め式の超音波工具ホルダ1は、回転軸に取り付けるテーパー状の鋼製のホルダ部2があり、そのホルダ部2の中に顎5そしてマニピュレータ把持用溝6がある。ホルダ部2のテーパー状の部分と同じくホルダ部2の顎5の間に回転側のフェライト製のロータリートランス8を配置する。そしてその回転側のロータリートランス8を固定するためにメネジを持つ鋼製の固定リング7により締め付け固定する。
【0012】
超音波工具ホルダ1のホルダ部2、リアマス11、そしてチャック筒3は一体の鋼材で作成する。そしてリアマス11と鋼製のフロントマス13の間に圧電セラミック12a、12b入れ、締め付け一体化する。このようにしてランジュバン型の超音波振動子部9を作成する。そして、チャック筒3に焼嵌めにより超硬製の工具4であるエンドミルを接合する。
【0013】
ここで、図2の断面を示す図3を用いてさらに説明する。焼嵌め式の超音波工具ホルダ1の回転軸側には鋼製のプルスタッド10をネジにより接続している。
【0014】
ホルダ部2の円筒形状の空間23を持つ部分のリアマス11に複数の貫通するスリット24を設ける。これらのスリット24は、軸方向に2段となっており、かつ上下のスリット24は必ず円周方向に重なる。このようにすることで超音波振動子部9の超音波振動はスリット24の空間と円筒形状の空間23で、超音波振動は反射し、ホルダ部2には伝達しない。したがって超音波振動子部9の超音波振動は、チャック筒3そして工具4だけ伝達する。そして、スリット24の間隔により機械的強度も調整する。
【0015】
ここでスリット24の中に図示しない発泡ポリウレタンを充填する。この発泡ポリウレタンは非常に多くの空間を持つので、スリット24の空間はそれほど減少しないので超音波反射性能をそれほど低下させない。スリット24に発泡ポリウレタンを充填しているので回転軸が回転し、超音波工具ホルダ1が回転しても騒音を発生させない。また、切削液がスリット24の中に入るのを防ぐことができる。ここでは、発泡ポリウレタンを用いたが、シリコンスポンジなど気孔を多く含む材料でもよい。
【0016】
チャック筒3には、焼嵌めにより工具4を固定保持する。誘導加熱装置の加熱コイルの中にチャック筒3を挿入し、スイッチを入れ電磁誘導によりチャック筒3を誘導加熱する。そしてチャック筒3は、加熱されることにより、膨張する。そして膨張したチャック筒3に工具4のシャンク部を挿入して焼き嵌めする。工具4の焼嵌めについては、例えば特許文献1および特許文献2に詳しく記述してある。
【特許文献1】特開2002−355727公報
【特許文献2】特開2002−120115公報
【0017】
次に焼嵌め式の超音波工具ホルダ1を回転軸19に取り付けた構成について断面図4を用いて説明する。焼嵌め式の超音波工具ホルダ1のホルダ部2のテーパー部を回転軸19のテーパー穴20に挿入し、プルスタッド10を引き具14により引き込み取付ける。回転軸19は回転軸ハウジング15の軸受け22で回転自在に支持されている。軸受け22は、転がり軸受けだけでなく、エア軸受け、流体静圧軸受けなど任意である。
【0018】
さらに本発明の焼嵌め式の超音波工具ホルダ1を用いた超音波加工装置の運転方法を、同じく図4を用いて説明する。まず図示しないモータの電源を入れ回転軸19を回転させる。これとほぼ同時に超音波発振器21のスイッチを入れ固定側のロータリートランス8a、回転側のロータリートランス8bを介して圧電セラミック12a、12bに約40KHzの交流電圧を印加すると、超音波振動子部9そしてチャック筒3を超音波振動が伝播し、工具先端に約15μmの縦振動が励起される。図4の中では、超音波発振器21の位置を図の下方に位置させているが、実際は図示しないコントロールボックスの中に収められている。
【0019】
ここで回転側のロータリートランス8bから圧電セラミック12a、12bへの電力の供給経路を詳しく説明する。ホルダ部2にリード線18a、18bを通すリード線穴17a、17bを設ける。リード線穴17は回転バランスを維持するためにさらに追加してもよい。回転側のロータリートランス8bと電極板16a、16bをリード線穴17a、17bを通したリード線18a、18bにより電気的に接続する。
【0020】
この構成において工具4を焼嵌めによりチャック筒3に固定するので、工具4とチャック筒3は機械的に一体化できる。コレットチャックと比較すると、コレットチャックは、コレットとコレット締め付け手段により工具を保持する構成であるので、超音波振動の伝播経路、振動モードが複雑になる。そして、各接触部で振動エネルギーが熱に変換されてしまう。また、超音波振動によりコレットの締め付け力が変化する虞がある。
【0021】
焼嵌めによる工具のチャックは、コレットチャックに比較して把握力、精度、剛性、回転バランス等の性能を高めることが可能である。高速回転対応するためには、同転バランスと遠心力により低下する把握力が重要であり、焼嵌め式工具ホルダは、コレットチャックの2〜4倍の把握力を持ち、回転バランスについても締め付け用の部品が無いので、工具の着脱に伴う回転バランスのばらつきが発生しないのである。
【0022】
さらに、焼嵌め式工具ホルダの利点としては、加工に耐えうる最小限の工具把持部の肉厚と把持長を持つことであり、他の方式の工具ホルダと異なってチャック部の外形形状をある程度自由に設計できることである。そして、加工時の工具ホルダと加工物や治具との干渉を防ぐ最適形状を採用することで他の工具ホルダと比較して剛性が高まり、加工時間の短縮や加工精度の向上を図ることができる。
【0023】
超音波振動子部9が軸受け22より先端部にあるため、軸受け22には超音波振動による損傷の虞はない。
【0024】
またこの構成において超音波振動子部9の超音波振動が、チャック筒3そして工具4だけ伝達することにより、約40KHzで10μm以上の振動を工具の先端に励起できるので、従来の超音波加工機のように振動を拡大するためのホーンが不要になる。
【0025】
このことにより装置は小型化ができる。また、ホーンなどの大型部品を振動させる必要がないので省電力かできる。
【0026】
さらに、超音波振動子部、チャック筒および工具だけがほぼ振動するモードの固有振動数を超音波発振回路により追尾することにより、工具の長さが変化しても、最適な周波数の電圧を印加できる。そして、工具の長さが変化しても安定した振動を工具に与えることができる。
【0027】
上記の加工は超音波切削加工であり、ワークと工具との摩擦抵抗が小さくなるため、加工面の熱歪みが低減され加工精度が高くなり、そして工具の寿命が長くなるなどの利点を有している。
【0028】
上記の同様な超音波切削加工の効果については、非特許文献2の226ページから229ページに詳しく記述されている。
【0029】
また、当然回転軸にもほとんど振動が伝播しないので軸受または回転軸の振動による損傷の恐れはほとんどない。
【0030】
上記のように、超音波振動子部、チャック筒および工具にだけ振動を励起することができることにより加工精度の高い、信頼性の高い超音波加工を提供できる。
【0031】
図5は、本発明の第2の実施の形態の超音波工具ホルダ1の基本的な構成を示す断面図である。図4の断面図の超音波工具ホルダ1と異なるところは、超音波工具ホルダ1のスリット24の配置であり、スリット24は超音波振動子部9とホルダ部2の間に有り、径方向に2重になっている。また円周方向は必ず重なっている。そのスリット24の詳細を図6の平面図そして図6のA−A線での断面図7により示す。
【0032】
これらのスリット24の空間により超音波振動部9の振動はスリット24で反射して、超音波振動子部9、チャック筒3および工具4にだけ振動を励起することができる。その効果は、第1の実施の形態で述べたものと同様であるので省略する。
【0033】
図8は、本発明の第3の実施の形態の超音波工具ホルダ1の基本的な構成を示す断面図である。図3で示した超音波工具ホルダ1と異なるところは、超音波振動を反射するための空間の形状の構成であり、スリット24でなく多数の貫通する孔25を用いたものである。効果は第1の実施の形態の述べたものと同様であるので省略した。また超音波を反射するための空間の形状として、スリット、孔の他、材料内に多くの空間部を持つ発泡金属、多孔質金属でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の超音波工具ホルダは、多様な機械加工装置に用いて超音波加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来の超音波研磨装置を示す概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の超音波工具ホルダを示す斜視図である。
【図3】図2の側面断面図である。
【図4】回転軸に第1の実施の形態の超音波工具ホルダをつりつけた断面図である。
【図5】回転軸に第2の実施の形態の超音波工具ホルダをつりつけた断面図である。
【図6】図5の超音波工具ホルダのスリットの詳細を示す平面図である。
【図7】図6のA−A線での側面断面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態の超音波工具ホルダを示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 超音波工具ホルダ
2 ホルダ部
3 チャック筒
4 工具
5 顎
6 マニピュレータ把持用溝
7 固定リング
8 ロータリートランス
9 超音波振動子部
10 プルスタッド
11 リアマス
12 圧電セラミック
13 フロントマス
14 引き具
15 回転軸ハウジング
16 電極板
17 リード線穴
18 リード線
19 回転軸
20 テーパー穴
21 超音波発振器
22 軸受け
23 円筒形状の空間
24 スリット
25 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転加工装置の工具を保持する超音波工具ホルダにおいて、工具と超音波振動子部の間のホルダ部に複数の空間部を有することを特徴とする。
【請求項2】
工具ホルダに保持固定される工具が、エンドミル、ドリル、リーマそしてタップであることを特徴とする請求項1に記載の回転加工装置である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−88216(P2011−88216A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60215(P2008−60215)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(305027353)有限会社UWAVE (10)
【Fターム(参考)】