超音波探触子の製造方法、および、超音波探触子
【課題】より簡易に超音波探触子を製造でき得る製造方法を提供する。
【解決手段】振動子10の背面に形成された振動子側電極20と中継基板30の上面に形成された基板側電極32とを互いに密着させた状態で、振動子10および中継基板30を接合する際には、予め、位置合わせすべき範囲、すなわち、振動子側電極基板20の形成範囲、および、基板側電極32の形成範囲にのみ、濡れ性向上のための表面処理を施す。その後、電極形成範囲に液状接着剤38を塗布し、振動子10および中継基板30を重ね合わせる。このとき、濡れ性が高まった電極形成範囲にのみ広がった接着剤38の表面張力により、自動的に、振動子10および中継基板30の位置決めがなされる。その後、振動子10を中継基板30に押し当て、電極間の接着剤38を押し出した後、加圧しながら加熱し、接着剤を硬化させる。
【解決手段】振動子10の背面に形成された振動子側電極20と中継基板30の上面に形成された基板側電極32とを互いに密着させた状態で、振動子10および中継基板30を接合する際には、予め、位置合わせすべき範囲、すなわち、振動子側電極基板20の形成範囲、および、基板側電極32の形成範囲にのみ、濡れ性向上のための表面処理を施す。その後、電極形成範囲に液状接着剤38を塗布し、振動子10および中継基板30を重ね合わせる。このとき、濡れ性が高まった電極形成範囲にのみ広がった接着剤38の表面張力により、自動的に、振動子10および中継基板30の位置決めがなされる。その後、振動子10を中継基板30に押し当て、電極間の接着剤38を押し出した後、加圧しながら加熱し、接着剤を硬化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動子の背面にアレイ状に配設された振動子側電極と、基板の上面にアレイ状に配設された基板側電極と、が互いに密着した状態で振動子および基板が接合された振動子ユニットを内蔵した超音波探触子、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野において、超音波画像を利用した医療診断が実用化されている。超音波画像は、被検体の体内にある診察対象部位に超音波振動子を内蔵した超音波探触子から超音波を送信し、その際得られるエコー信号に基づいて形成される。
【0003】
超音波探触子のケース内部には、バッキング材、バッキング材の上面にアレイ上に配置された圧電材、各圧電材の上面に配置された整合層からなる振動子が収容されている。この振動子の背面(バッキング材の背面)には、各圧電材から引き出された信号線が接続された電極がアレイ状に形成されている。
【0004】
この超音波探触子を製造する際には、この振動子の背面(バッキング材の背面)の振動子側電極を、基板上にアレイ状に形成された基板側電極にそれぞれに接合する必要がある。この接合は、通常、基板上に形成された位置決めマークに、振動子の外形を合わせたうえで行われている。そして、この接合により、各振動子側電極が、基板側電極に接触することで、各圧電材から引き出された信号線が、振動子側電極、基板側電極を介して、後段の回路またはケーブルに電気的に接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−270869号公報
【特許文献2】特開2001−87953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、基板の上に振動子を載置し、その状態で、振動子の外形を、基板上の位置決めマークに合わせて接合する従来の製造方法は、極めて複雑で、すなわち、精度も低くなりがちという問題があった。すなわち、従来の製造方法では、接合の際に、振動子背面の振動子側電極を直接見ることが出来ないため、振動子の外形を介した間接的な位置決めとならざるを得ず、誤差が累積し、位置決め制度が低下しやすかった。また、かかる位置決めの際には、顕微鏡で基板上の位置決めマークと振動子外形とを観察する必要があり、非常に手間であった。さらに、位置決めマークの分だけ基板を大きくする必要があり、ひいては、超音波探触子の小型化が困難であった。つまり、従来、好適な超音波探触子を簡易に製造でき得る技術はなかった。
【0007】
なお、特許文献1には、プラズマ処理などの表面処理により、生体からの油脂の超音波探触子内部への侵入を防止する技術が開示されているが、振動子の基板に対する位置決めに対しては何ら開示されていない。また、特許文献2には、表面張力を利用して、部品の位置合わせをする技術が開示されているが、そのためには、位置決めすべき部分をガラスまたは多結晶シリコンで形成する必要があり、非常に手間であると言える。また、この特許文献2では、超音波探触子の製造に関しては、何ら記載されていない。
【0008】
そこで、本発明では、より簡易に製造でき得る超音波探触子、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超音波探触子の製造方法は、振動子の背面にアレイ状に配設された振動子側電極と、基板の上面にアレイ状に配設された基板側電極と、が互いに密着した状態で振動子および基板が接合された振動子ユニットを内蔵した超音波探触子の製造方法であって、予め、前記振動子および基板のうち、互いに位置合わせすべき対象範囲にのみ、濡れ性を高める表面処理を施す表面処理工程と、前記振動子および基板のうち少なくとも一方の対象範囲に熱硬化性の液状接着剤を塗布したうえで、前記振動子および基板の対象範囲が対向するべく、前記振動子を基板上に載置する載置工程と、前記振動子を基板に押し当てる予備加圧を行い、前記振動子側電極および基板側電極の間に介在する接着剤を押し出す予備加圧工程と、前記振動子および基板を、互いに密着する方向に加圧する本加圧を行いつつ加熱することで、前記接着剤を硬化させる硬化工程と、を備え、前記載置工程および予備加圧工程の過程で、前記対象範囲に広がる接着剤の表面張力により振動子および基板の位置決めがなされる、ことを特徴とする。
【0010】
好適な態様では、前記予備加圧工程は、粘度可変体を底面に塗布した上部ブロック体を、前記粘度可変体を液状化させたうえで、振動子の上に載置し、粘度可変体の表面張力で上部ブロック体が支持された状態にする工程と、前記載置工程の後、前記粘度可変体を固体化させたうえで、前記上部ブロック体を振動子側に押圧する工程と、を備える。この場合、前記粘度可変体は、少なくとも前記接着剤の硬化温度において溶融するワックスであり、前記硬化工程において、接着剤硬化のための加熱により溶融したワックスが、前記上部ブロック体を振動子側に押圧する本加圧により、上部ブロックと振動子との間から押し出される、ことが望ましい。
【0011】
他の好適な態様では、前記濡れ性を高める表面処理は、プラズマ処理であり、前記表面処理工程においては、前記振動子および基板のうち前記対象範囲以外の範囲をマスクした状態で、前記振動子および基板に対してプラズマ処理を施す。他の好適な態様では、振動子の対象範囲は、振動子背面のうちアレイ状の振動子側電極の形成範囲であり、基板の対象範囲は、基板上面のうちアレイ状の基板側電極の形成範囲である。
【0012】
他の本発明である超音波探触子は、振動子の背面にアレイ状に配設された振動子側電極と、基板の上面にアレイ状に配設された基板側電極と、が互いに密着した状態で振動子および基板が接合された振動子ユニットを内蔵した超音波探触子であって、互いに位置合わせすべき対象範囲にのみ、濡れ性を高める表面処理を施した前記振動子および基板が、当該対象範囲に塗布された熱硬化性接着剤により、位置決めされたうえで、振動子側電極と基板側電極とが互いに密着した状態で接合されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着剤の表面張力により自動的に位置決めがなされるため、簡易に超音波探触子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態である超音波探触子に用いられる振動子ユニットの上面図および側面図である。
【図2】振動子の上面図、側面図、底面図である。
【図3】中継基板の上面図および側面図である。
【図4】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図5】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図6】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図7】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図8】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図9】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図10】表面張力の作用を示す図である。
【図11】従来の超音波探触子における中継基板の上面図である。
【図12】従来技術における振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図13】従来技術における振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図14】従来技術における振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である超音波探触子で用いる振動子ユニットの上面図および側面図である。また、図2は、振動子10の上面図、側面図、底面図である。図3は、中継基板30の上面図および側面図である。本実施形態の超音波探触子のケース内部には、二次元アレイ振動子10と、当該振動子10に接合された中継基板30と、からなる振動子ユニットが内蔵されている。
【0016】
振動子10は、図1、図2に示すように、バッキング材12、短冊状に分割された複数の圧電材14、整合層16が配設されている。整合層16は、圧電材14と生体との中間的な音響インピーダンスを持つ材料からなり、音響インピーダンスの違いによる反射を低減させる部材である。図面では、この整合層16を一層のみとしているが、実際には、多層構造としてもよい。その場合は、生体に近い整合層16ほど、生体の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを持つように、各整合層16の材料を選定することが望ましい。この整合層16の前面(圧電材14とは反対側の面)には、最終的には、超音波ビームをスライス方向に収束させる音響レンズが配される。
【0017】
圧電材14は、音(振動)を電圧に電圧を音に変換するものである。この圧電材14としては、PZTや、チタン酸バリウムなどの圧電セラミックス、あるいは、PZT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)や、PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)などの圧電体単結晶が用いられる。なお、図面では、圧電材14を一層のみとしているが、実際には、多層構造としてもよい。
【0018】
バッキング材12は、圧電材14の背面に設けられ、後方への音を吸収する部材である。かかるバッキング材12を設けることにより、余分な振動をおさえられ、パルス幅を短くすることができる。
【0019】
このバッキング材12の内部には、各圧電材14から引き出された信号線18(リード)が挿通されている。バッキング材12の背面(すなわち、振動子10の背面)には、この信号線18と電気的に接続された電極パッド(以下「振動子側電極20」と呼ぶ)が、アレイ状に配設されている。なお、圧電材14の信号線18とは反対側にはグランド電極取り出し部があるが、ここでは図示を省略している。
【0020】
中継基板30は、各振動子10と、後段の回路またはケーブルとを電気的に接続するための基板である。この中継基板30の上面には、アレイ状に配設された振動子側電極20と対応する電極パッド(以下「基板側電極32」と呼ぶ)が、アレイ状に配設されている。各基板側電極32は、多層基板によって左右のケーブル接続用電極パッド34に配線されている。
【0021】
超音波探触子を製造する際には、各振動子側電極20と、対応する基板側電極32と、が互いに密着するように振動子10を中継基板30に位置決めしたうえで、振動子10を中継基板30に接合する必要がある。しかしながら、従来、この振動子10の位置決めや接合の作業は、極めて煩雑であり、また、十分な位置精度を保つのが困難であった。また、従来の位置決め、接合の技術では、中継基板30が大型になりやすいという問題があった。これについて、図11〜図14を参照して説明する。
【0022】
図11は、従来技術で用いられてきた中継基板30の上面図である。なお、従来技術で用いられてきた振動子10は、後述するように、表面処理の範囲が異なる点を除いて、ほぼ同様であるため、ここでの図示は省略する。
【0023】
従来の中継基板30の上面には、本実施形態の中継基板30と同様に、基板側電極32がアレイ状に配設されている。一方で、本実施形態と異なり、従来の中継基板30には、この基板側電極32のアレイの周囲に、位置決めマーク58が設けられている。この位置決めマーク58は、後述するように、振動子10の外形位置、より正確には、振動子10の外形コーナーの位置を示すマークである。かかる位置決めマーク58を設けるために、従来の中継基板30は、基板側電極32のアレイ状配設に必要な面積よりも、一回り大きくする必要があった。
【0024】
この中継基板30に、振動子10を接合する際には、まず、振動子10の背面(すなわちバッキング材12の背面)、および、中継基板30の接合面のほぼ全体に、表面処理を行う。この表面処理は、振動子10背面と中継基板30の接着面の洗浄と表面活性化による接着性向上を目的に行うもので、例えば、酸素やアルゴンガスを用いたプラズマ処理などが施される。
【0025】
その後、中継基板30の接合面、および、振動子10の背面それぞれに熱硬化性の液状接着剤38を塗布する。そして、図12に示すように、中継基板30の接合面の上に振動子10を載置し、中継基板30および振動子10の接合面を合わせて、粗く位置合わせを行う。
【0026】
次に、位置決めマーク58を用いて、振動子10の中継基板30に対する位置合わせを行う。図13は、この位置合わせの際の様子を示す図である。位置合わせの際には、顕微鏡で、振動子10および中継基板30を真上から観察する。図13に示すとおり、このとき、振動子10の背面(ひいては振動子側電極20)も、中継基板30の接合面(ひいては基板側電極32)も、視認できない。したがって、作業者は、電極同士の位置関係を直接確認することはできない。そこで、従来、作業者は、振動子10の外形を、中継基板30の上面に形成された位置決めマーク58に合わせることで、間接的に電極同士の位置決めを行っていた。したがって、当然ながら、位置決めマーク58は、振動子10の外形に合わせることで、電極20,32同士が位置決めできるような位置に設けられている。
【0027】
位置決めマーク58を利用した位置決め作業が完了すれば、続いて、作業者は、図14に示すように、振動子10を基板30側に軽く押し当て、電極20,32間の接着剤38を押し出し、電極同士を接触させる予備加圧を実行する。その後、位置決めした振動子10と中継基板30を加圧治具に設置して本加圧を行い、この加圧した状態で加熱して接着剤38を硬化させ、振動子10を中継基板30に接合する。ここで、本加圧に先立って呼び加圧を行うのは、本加圧の際に、振動子10が横滑りし、位置ズレが生じるのを避けるためである。
【0028】
以上の説明から明らかなとおり、従来では、目視により位置決めを行っていた。そのため、作業工程が煩雑になるばかりでなく、熟練の技が必要で、位置決め精度を高く保つことが困難であった。また、振動子10の外形寸法を介した間接的な位置決めであるため、誤差が累積しやすく、位置決め精度の低下を招きやすかった。また、従来の技術では、中継基板30に位置決めマーク58を設ける必要があり、当該位置決めマーク58の分だけ、中継基板30が大型になり、結果として、超音波探触子の小型化が難しかった。
【0029】
本実施形態は、こうした従来の問題に鑑みて構成されており、より簡易に、好適な超音波探触子が製造できるようになっている。以下、本実施形態での超音波探触子の製造工程のうち振動子10と中継基板30との接合工程を図4〜図9を参照して詳細に説明する。
【0030】
振動子10と中継基板30とを接合する際には、まず、振動子10の背面および中継基板30の上面、すなわち、両者の接合面に表面処理を施す。この表面処理は、接合面の洗浄や活性化を目的とした接着性向上のための処理であると同時に、濡れ性向上を目的とした処理でもある。この表面処理としては、例えば、酸素やアルゴンガスを用いたプラズマ処理などを採用することができる。
【0031】
ここで、本実施形態では、従来技術と異なり、振動子10および中継基板30の接合面の全面ではなく、互いに位置合わせすべき範囲(対象範囲)にのみ表面処理を施している。すなわち、振動子10と中継基板30は、その接合面に形成された電極20,32同士が、接合するべく位置合わせされることが望まれている。換言すれば、振動子10の背面のうち振動子側電極20の形成範囲と、中継基板30の上面のうち基板側電極32の形成範囲と、のみが互いに位置合わせされるのであれば、振動子10の外形位置が(外形寸法の誤差に起因して)ずれたとしても問題ないといえる。
【0032】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、振動子10の背面のうち振動子側電極20の形成範囲のみが露出するように、メタルマスク等でマスクをかけたうえで、表面処理を実施している。これにより、振動子側電極20の形成範囲のみが、他の範囲に比して、濡れ性が高まることになる。同様に、中継基板30についても、基板側電極32の形成範囲のみが露出するようにマスクをかけたうえで、表面処理を実施し、当該形成範囲の濡れ性を他の範囲に比して高めている。
【0033】
規定の範囲に表面処理を施せば、続いて、マスクを取り外し、振動子10の接合面および中継基板30の接合面のうち表面処理を施した範囲に、熱硬化性の液状接着剤38を塗布する。なお、ここでは、振動子10および中継基板30の両方に接着剤38を塗布しているが、場合によっては、いずれか一方のみに塗布するのでもよい。
【0034】
続いて、図5に示すように、振動子10および中継基板30の接合面が互いにあわさるように、中継基板30のうえに、振動子10を載置する。この載置の際、中継基板30に対する振動子10の位置が多少ずれていても、接着剤38の表面張力により自動的にずれが修正される。すなわち、図10に示すように、振動子10の電極形成範囲と、中継基板30の電極形成範囲がずれた状態で振動子10を載置したとする。この場合であっても、電極形成範囲以外の部分、すなわち、濡れ性の低い部分には接着剤38は付着しづらく、濡れ性の高い電極形成範囲にのみ接着剤38が広がる。そして、この接着剤38という液体がもつ表面張力(表面を出来るだけ小さくしようとする力)により、振動子10および中継基板30には、電極形成範囲(濡れ性の高い範囲)が互いに重なる方向の力が作用し、自動的にズレが修正され、図5の状態となる。なお、この重ね合わせる前段階で、振動子10の上面には、当該振動子10を保護する保護シート44を貼着しておくことが望ましい。
【0035】
振動子10を中継基板30の上に載置すれば、続いて、振動子側電極20と基板側電極32との間に介在する接着剤38を押し出す予備加圧を行う。具体的には、まず、上部加圧ブロック50の底面にワックス48を塗布する。この上部加圧ブロック50は、振動子10の上面より十分に大きい底面を持っている。また、ワックス48は、温度に応じて粘度が変わる粘度可変体として機能するものである。本実施形態では、このワックス48として、少なくとも接着剤38の硬化温度(たとえば80度など)で溶融するもので、かつ、液状化した際の粘度が低いもの、例えば、日化精工株式会社製のアルコワックスや、フルウチ化学株式会社製のエレクトロンワックスなどを用いることができる。
【0036】
上部加圧ブロック50の底面にワックス48を塗布すれば、続いて、この上部加圧ブロック50を加熱し、ワックス48を溶融、液化する。そして、図6に示すように、その状態で、この液化したワックス48が振動子10の上面に接触する高さまで、上部加圧ブロック50を下ろす。液化したワックス48が振動子10の上面に接触した高さで上部加圧ブロック50を離すと、図7に示すように、ワックス48の表面張力により支えられた状態で上部加圧ブロック50が静止する。このとき、上部加圧ブロック50は、表面張力により、水平に保たれており、振動子10には、上部加圧ブロック50の重さ分の力が均等に働くことになる。この均等な荷重を受けて、振動子10が軽く押され、振動子10と中継基板30との間にある接着剤38が、濡れ性の高い範囲、すなわち電極形成範囲の全体に広がる。このとき、接着剤38がもつ表面張力により、電極形成範囲同士が重なり合うように、振動子10および中継基板30の位置がより正確に合わせられる。つまり、本実施形態によれば、目視による位置確認が不要となり、極めて簡易に位置合わせを行うことができる。
【0037】
次に、図8に示すように、上部加圧ブロック50をペルチェなどを用いて冷却し、当該上部加圧ブロック50と振動子10との間に介在するワックス48を固化させる。そして、その状態で、上部加圧ブロック50を下方に押す予備加圧を行い、電極20,32間の接着剤38を押し出す。
【0038】
その後、図9に示すように、加圧治具を用いて、本加圧を実行するとともに、振動子ユニット全体を加圧し、接着剤38を硬化させる。このとき、固化していたワックス48が溶融し、上部加圧ブロック50と振動子10との間に介在していたワックス48が外部に押し出される。そして、最終的に、接着剤38が硬化した後に、ブロック50,52を取り外せば、振動子10と中継基板30との接合が完了となる。
【0039】
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態によれば、振動子10および中継基板30のうち、互いに位置合わせが必要な範囲、すなわち、電極形成範囲のみに濡れ性向上処理を施している。その結果、表面張力による自動的な位置決めが可能となり、より簡易、かつ、より高精度に両者の接合を行うことができる。また、ワックス48を介してブロックを配置することにより、振動子10に均等に力を加えることが可能となり、表面張力による位置決めを妨げることなく予備加圧を行うことができる。さらに、本実施形態によれば、中継基板30上に位置決めマーク58を設ける必要がないため、中継基板30、ひいては、超音波探触子を小型化することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 振動子、12 バッキング材、14 圧電材、16 整合層、18 信号線、20 振動子側電極、30 中継基板、32 基板側電極、34 ケーブル接続用電極パッド、38 接着剤、44 保護シート、48 ワックス、50,52 加圧ブロック。
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動子の背面にアレイ状に配設された振動子側電極と、基板の上面にアレイ状に配設された基板側電極と、が互いに密着した状態で振動子および基板が接合された振動子ユニットを内蔵した超音波探触子、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野において、超音波画像を利用した医療診断が実用化されている。超音波画像は、被検体の体内にある診察対象部位に超音波振動子を内蔵した超音波探触子から超音波を送信し、その際得られるエコー信号に基づいて形成される。
【0003】
超音波探触子のケース内部には、バッキング材、バッキング材の上面にアレイ上に配置された圧電材、各圧電材の上面に配置された整合層からなる振動子が収容されている。この振動子の背面(バッキング材の背面)には、各圧電材から引き出された信号線が接続された電極がアレイ状に形成されている。
【0004】
この超音波探触子を製造する際には、この振動子の背面(バッキング材の背面)の振動子側電極を、基板上にアレイ状に形成された基板側電極にそれぞれに接合する必要がある。この接合は、通常、基板上に形成された位置決めマークに、振動子の外形を合わせたうえで行われている。そして、この接合により、各振動子側電極が、基板側電極に接触することで、各圧電材から引き出された信号線が、振動子側電極、基板側電極を介して、後段の回路またはケーブルに電気的に接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−270869号公報
【特許文献2】特開2001−87953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、基板の上に振動子を載置し、その状態で、振動子の外形を、基板上の位置決めマークに合わせて接合する従来の製造方法は、極めて複雑で、すなわち、精度も低くなりがちという問題があった。すなわち、従来の製造方法では、接合の際に、振動子背面の振動子側電極を直接見ることが出来ないため、振動子の外形を介した間接的な位置決めとならざるを得ず、誤差が累積し、位置決め制度が低下しやすかった。また、かかる位置決めの際には、顕微鏡で基板上の位置決めマークと振動子外形とを観察する必要があり、非常に手間であった。さらに、位置決めマークの分だけ基板を大きくする必要があり、ひいては、超音波探触子の小型化が困難であった。つまり、従来、好適な超音波探触子を簡易に製造でき得る技術はなかった。
【0007】
なお、特許文献1には、プラズマ処理などの表面処理により、生体からの油脂の超音波探触子内部への侵入を防止する技術が開示されているが、振動子の基板に対する位置決めに対しては何ら開示されていない。また、特許文献2には、表面張力を利用して、部品の位置合わせをする技術が開示されているが、そのためには、位置決めすべき部分をガラスまたは多結晶シリコンで形成する必要があり、非常に手間であると言える。また、この特許文献2では、超音波探触子の製造に関しては、何ら記載されていない。
【0008】
そこで、本発明では、より簡易に製造でき得る超音波探触子、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超音波探触子の製造方法は、振動子の背面にアレイ状に配設された振動子側電極と、基板の上面にアレイ状に配設された基板側電極と、が互いに密着した状態で振動子および基板が接合された振動子ユニットを内蔵した超音波探触子の製造方法であって、予め、前記振動子および基板のうち、互いに位置合わせすべき対象範囲にのみ、濡れ性を高める表面処理を施す表面処理工程と、前記振動子および基板のうち少なくとも一方の対象範囲に熱硬化性の液状接着剤を塗布したうえで、前記振動子および基板の対象範囲が対向するべく、前記振動子を基板上に載置する載置工程と、前記振動子を基板に押し当てる予備加圧を行い、前記振動子側電極および基板側電極の間に介在する接着剤を押し出す予備加圧工程と、前記振動子および基板を、互いに密着する方向に加圧する本加圧を行いつつ加熱することで、前記接着剤を硬化させる硬化工程と、を備え、前記載置工程および予備加圧工程の過程で、前記対象範囲に広がる接着剤の表面張力により振動子および基板の位置決めがなされる、ことを特徴とする。
【0010】
好適な態様では、前記予備加圧工程は、粘度可変体を底面に塗布した上部ブロック体を、前記粘度可変体を液状化させたうえで、振動子の上に載置し、粘度可変体の表面張力で上部ブロック体が支持された状態にする工程と、前記載置工程の後、前記粘度可変体を固体化させたうえで、前記上部ブロック体を振動子側に押圧する工程と、を備える。この場合、前記粘度可変体は、少なくとも前記接着剤の硬化温度において溶融するワックスであり、前記硬化工程において、接着剤硬化のための加熱により溶融したワックスが、前記上部ブロック体を振動子側に押圧する本加圧により、上部ブロックと振動子との間から押し出される、ことが望ましい。
【0011】
他の好適な態様では、前記濡れ性を高める表面処理は、プラズマ処理であり、前記表面処理工程においては、前記振動子および基板のうち前記対象範囲以外の範囲をマスクした状態で、前記振動子および基板に対してプラズマ処理を施す。他の好適な態様では、振動子の対象範囲は、振動子背面のうちアレイ状の振動子側電極の形成範囲であり、基板の対象範囲は、基板上面のうちアレイ状の基板側電極の形成範囲である。
【0012】
他の本発明である超音波探触子は、振動子の背面にアレイ状に配設された振動子側電極と、基板の上面にアレイ状に配設された基板側電極と、が互いに密着した状態で振動子および基板が接合された振動子ユニットを内蔵した超音波探触子であって、互いに位置合わせすべき対象範囲にのみ、濡れ性を高める表面処理を施した前記振動子および基板が、当該対象範囲に塗布された熱硬化性接着剤により、位置決めされたうえで、振動子側電極と基板側電極とが互いに密着した状態で接合されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着剤の表面張力により自動的に位置決めがなされるため、簡易に超音波探触子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態である超音波探触子に用いられる振動子ユニットの上面図および側面図である。
【図2】振動子の上面図、側面図、底面図である。
【図3】中継基板の上面図および側面図である。
【図4】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図5】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図6】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図7】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図8】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図9】振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図10】表面張力の作用を示す図である。
【図11】従来の超音波探触子における中継基板の上面図である。
【図12】従来技術における振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図13】従来技術における振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【図14】従来技術における振動子と中継基板との接合工程の過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である超音波探触子で用いる振動子ユニットの上面図および側面図である。また、図2は、振動子10の上面図、側面図、底面図である。図3は、中継基板30の上面図および側面図である。本実施形態の超音波探触子のケース内部には、二次元アレイ振動子10と、当該振動子10に接合された中継基板30と、からなる振動子ユニットが内蔵されている。
【0016】
振動子10は、図1、図2に示すように、バッキング材12、短冊状に分割された複数の圧電材14、整合層16が配設されている。整合層16は、圧電材14と生体との中間的な音響インピーダンスを持つ材料からなり、音響インピーダンスの違いによる反射を低減させる部材である。図面では、この整合層16を一層のみとしているが、実際には、多層構造としてもよい。その場合は、生体に近い整合層16ほど、生体の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを持つように、各整合層16の材料を選定することが望ましい。この整合層16の前面(圧電材14とは反対側の面)には、最終的には、超音波ビームをスライス方向に収束させる音響レンズが配される。
【0017】
圧電材14は、音(振動)を電圧に電圧を音に変換するものである。この圧電材14としては、PZTや、チタン酸バリウムなどの圧電セラミックス、あるいは、PZT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)や、PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)などの圧電体単結晶が用いられる。なお、図面では、圧電材14を一層のみとしているが、実際には、多層構造としてもよい。
【0018】
バッキング材12は、圧電材14の背面に設けられ、後方への音を吸収する部材である。かかるバッキング材12を設けることにより、余分な振動をおさえられ、パルス幅を短くすることができる。
【0019】
このバッキング材12の内部には、各圧電材14から引き出された信号線18(リード)が挿通されている。バッキング材12の背面(すなわち、振動子10の背面)には、この信号線18と電気的に接続された電極パッド(以下「振動子側電極20」と呼ぶ)が、アレイ状に配設されている。なお、圧電材14の信号線18とは反対側にはグランド電極取り出し部があるが、ここでは図示を省略している。
【0020】
中継基板30は、各振動子10と、後段の回路またはケーブルとを電気的に接続するための基板である。この中継基板30の上面には、アレイ状に配設された振動子側電極20と対応する電極パッド(以下「基板側電極32」と呼ぶ)が、アレイ状に配設されている。各基板側電極32は、多層基板によって左右のケーブル接続用電極パッド34に配線されている。
【0021】
超音波探触子を製造する際には、各振動子側電極20と、対応する基板側電極32と、が互いに密着するように振動子10を中継基板30に位置決めしたうえで、振動子10を中継基板30に接合する必要がある。しかしながら、従来、この振動子10の位置決めや接合の作業は、極めて煩雑であり、また、十分な位置精度を保つのが困難であった。また、従来の位置決め、接合の技術では、中継基板30が大型になりやすいという問題があった。これについて、図11〜図14を参照して説明する。
【0022】
図11は、従来技術で用いられてきた中継基板30の上面図である。なお、従来技術で用いられてきた振動子10は、後述するように、表面処理の範囲が異なる点を除いて、ほぼ同様であるため、ここでの図示は省略する。
【0023】
従来の中継基板30の上面には、本実施形態の中継基板30と同様に、基板側電極32がアレイ状に配設されている。一方で、本実施形態と異なり、従来の中継基板30には、この基板側電極32のアレイの周囲に、位置決めマーク58が設けられている。この位置決めマーク58は、後述するように、振動子10の外形位置、より正確には、振動子10の外形コーナーの位置を示すマークである。かかる位置決めマーク58を設けるために、従来の中継基板30は、基板側電極32のアレイ状配設に必要な面積よりも、一回り大きくする必要があった。
【0024】
この中継基板30に、振動子10を接合する際には、まず、振動子10の背面(すなわちバッキング材12の背面)、および、中継基板30の接合面のほぼ全体に、表面処理を行う。この表面処理は、振動子10背面と中継基板30の接着面の洗浄と表面活性化による接着性向上を目的に行うもので、例えば、酸素やアルゴンガスを用いたプラズマ処理などが施される。
【0025】
その後、中継基板30の接合面、および、振動子10の背面それぞれに熱硬化性の液状接着剤38を塗布する。そして、図12に示すように、中継基板30の接合面の上に振動子10を載置し、中継基板30および振動子10の接合面を合わせて、粗く位置合わせを行う。
【0026】
次に、位置決めマーク58を用いて、振動子10の中継基板30に対する位置合わせを行う。図13は、この位置合わせの際の様子を示す図である。位置合わせの際には、顕微鏡で、振動子10および中継基板30を真上から観察する。図13に示すとおり、このとき、振動子10の背面(ひいては振動子側電極20)も、中継基板30の接合面(ひいては基板側電極32)も、視認できない。したがって、作業者は、電極同士の位置関係を直接確認することはできない。そこで、従来、作業者は、振動子10の外形を、中継基板30の上面に形成された位置決めマーク58に合わせることで、間接的に電極同士の位置決めを行っていた。したがって、当然ながら、位置決めマーク58は、振動子10の外形に合わせることで、電極20,32同士が位置決めできるような位置に設けられている。
【0027】
位置決めマーク58を利用した位置決め作業が完了すれば、続いて、作業者は、図14に示すように、振動子10を基板30側に軽く押し当て、電極20,32間の接着剤38を押し出し、電極同士を接触させる予備加圧を実行する。その後、位置決めした振動子10と中継基板30を加圧治具に設置して本加圧を行い、この加圧した状態で加熱して接着剤38を硬化させ、振動子10を中継基板30に接合する。ここで、本加圧に先立って呼び加圧を行うのは、本加圧の際に、振動子10が横滑りし、位置ズレが生じるのを避けるためである。
【0028】
以上の説明から明らかなとおり、従来では、目視により位置決めを行っていた。そのため、作業工程が煩雑になるばかりでなく、熟練の技が必要で、位置決め精度を高く保つことが困難であった。また、振動子10の外形寸法を介した間接的な位置決めであるため、誤差が累積しやすく、位置決め精度の低下を招きやすかった。また、従来の技術では、中継基板30に位置決めマーク58を設ける必要があり、当該位置決めマーク58の分だけ、中継基板30が大型になり、結果として、超音波探触子の小型化が難しかった。
【0029】
本実施形態は、こうした従来の問題に鑑みて構成されており、より簡易に、好適な超音波探触子が製造できるようになっている。以下、本実施形態での超音波探触子の製造工程のうち振動子10と中継基板30との接合工程を図4〜図9を参照して詳細に説明する。
【0030】
振動子10と中継基板30とを接合する際には、まず、振動子10の背面および中継基板30の上面、すなわち、両者の接合面に表面処理を施す。この表面処理は、接合面の洗浄や活性化を目的とした接着性向上のための処理であると同時に、濡れ性向上を目的とした処理でもある。この表面処理としては、例えば、酸素やアルゴンガスを用いたプラズマ処理などを採用することができる。
【0031】
ここで、本実施形態では、従来技術と異なり、振動子10および中継基板30の接合面の全面ではなく、互いに位置合わせすべき範囲(対象範囲)にのみ表面処理を施している。すなわち、振動子10と中継基板30は、その接合面に形成された電極20,32同士が、接合するべく位置合わせされることが望まれている。換言すれば、振動子10の背面のうち振動子側電極20の形成範囲と、中継基板30の上面のうち基板側電極32の形成範囲と、のみが互いに位置合わせされるのであれば、振動子10の外形位置が(外形寸法の誤差に起因して)ずれたとしても問題ないといえる。
【0032】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、振動子10の背面のうち振動子側電極20の形成範囲のみが露出するように、メタルマスク等でマスクをかけたうえで、表面処理を実施している。これにより、振動子側電極20の形成範囲のみが、他の範囲に比して、濡れ性が高まることになる。同様に、中継基板30についても、基板側電極32の形成範囲のみが露出するようにマスクをかけたうえで、表面処理を実施し、当該形成範囲の濡れ性を他の範囲に比して高めている。
【0033】
規定の範囲に表面処理を施せば、続いて、マスクを取り外し、振動子10の接合面および中継基板30の接合面のうち表面処理を施した範囲に、熱硬化性の液状接着剤38を塗布する。なお、ここでは、振動子10および中継基板30の両方に接着剤38を塗布しているが、場合によっては、いずれか一方のみに塗布するのでもよい。
【0034】
続いて、図5に示すように、振動子10および中継基板30の接合面が互いにあわさるように、中継基板30のうえに、振動子10を載置する。この載置の際、中継基板30に対する振動子10の位置が多少ずれていても、接着剤38の表面張力により自動的にずれが修正される。すなわち、図10に示すように、振動子10の電極形成範囲と、中継基板30の電極形成範囲がずれた状態で振動子10を載置したとする。この場合であっても、電極形成範囲以外の部分、すなわち、濡れ性の低い部分には接着剤38は付着しづらく、濡れ性の高い電極形成範囲にのみ接着剤38が広がる。そして、この接着剤38という液体がもつ表面張力(表面を出来るだけ小さくしようとする力)により、振動子10および中継基板30には、電極形成範囲(濡れ性の高い範囲)が互いに重なる方向の力が作用し、自動的にズレが修正され、図5の状態となる。なお、この重ね合わせる前段階で、振動子10の上面には、当該振動子10を保護する保護シート44を貼着しておくことが望ましい。
【0035】
振動子10を中継基板30の上に載置すれば、続いて、振動子側電極20と基板側電極32との間に介在する接着剤38を押し出す予備加圧を行う。具体的には、まず、上部加圧ブロック50の底面にワックス48を塗布する。この上部加圧ブロック50は、振動子10の上面より十分に大きい底面を持っている。また、ワックス48は、温度に応じて粘度が変わる粘度可変体として機能するものである。本実施形態では、このワックス48として、少なくとも接着剤38の硬化温度(たとえば80度など)で溶融するもので、かつ、液状化した際の粘度が低いもの、例えば、日化精工株式会社製のアルコワックスや、フルウチ化学株式会社製のエレクトロンワックスなどを用いることができる。
【0036】
上部加圧ブロック50の底面にワックス48を塗布すれば、続いて、この上部加圧ブロック50を加熱し、ワックス48を溶融、液化する。そして、図6に示すように、その状態で、この液化したワックス48が振動子10の上面に接触する高さまで、上部加圧ブロック50を下ろす。液化したワックス48が振動子10の上面に接触した高さで上部加圧ブロック50を離すと、図7に示すように、ワックス48の表面張力により支えられた状態で上部加圧ブロック50が静止する。このとき、上部加圧ブロック50は、表面張力により、水平に保たれており、振動子10には、上部加圧ブロック50の重さ分の力が均等に働くことになる。この均等な荷重を受けて、振動子10が軽く押され、振動子10と中継基板30との間にある接着剤38が、濡れ性の高い範囲、すなわち電極形成範囲の全体に広がる。このとき、接着剤38がもつ表面張力により、電極形成範囲同士が重なり合うように、振動子10および中継基板30の位置がより正確に合わせられる。つまり、本実施形態によれば、目視による位置確認が不要となり、極めて簡易に位置合わせを行うことができる。
【0037】
次に、図8に示すように、上部加圧ブロック50をペルチェなどを用いて冷却し、当該上部加圧ブロック50と振動子10との間に介在するワックス48を固化させる。そして、その状態で、上部加圧ブロック50を下方に押す予備加圧を行い、電極20,32間の接着剤38を押し出す。
【0038】
その後、図9に示すように、加圧治具を用いて、本加圧を実行するとともに、振動子ユニット全体を加圧し、接着剤38を硬化させる。このとき、固化していたワックス48が溶融し、上部加圧ブロック50と振動子10との間に介在していたワックス48が外部に押し出される。そして、最終的に、接着剤38が硬化した後に、ブロック50,52を取り外せば、振動子10と中継基板30との接合が完了となる。
【0039】
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態によれば、振動子10および中継基板30のうち、互いに位置合わせが必要な範囲、すなわち、電極形成範囲のみに濡れ性向上処理を施している。その結果、表面張力による自動的な位置決めが可能となり、より簡易、かつ、より高精度に両者の接合を行うことができる。また、ワックス48を介してブロックを配置することにより、振動子10に均等に力を加えることが可能となり、表面張力による位置決めを妨げることなく予備加圧を行うことができる。さらに、本実施形態によれば、中継基板30上に位置決めマーク58を設ける必要がないため、中継基板30、ひいては、超音波探触子を小型化することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 振動子、12 バッキング材、14 圧電材、16 整合層、18 信号線、20 振動子側電極、30 中継基板、32 基板側電極、34 ケーブル接続用電極パッド、38 接着剤、44 保護シート、48 ワックス、50,52 加圧ブロック。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子の背面にアレイ状に配設された振動子側電極と、基板の上面にアレイ状に配設された基板側電極と、が互いに密着した状態で振動子および基板が接合された振動子ユニットを内蔵した超音波探触子の製造方法であって、
予め、前記振動子および基板のうち、互いに位置合わせすべき対象範囲にのみ、濡れ性を高める表面処理を施す表面処理工程と、
前記振動子および基板のうち少なくとも一方の対象範囲に熱硬化性の液状接着剤を塗布したうえで、前記振動子および基板の対象範囲が対向するべく、前記振動子を基板上に載置する載置工程と、
前記振動子を基板に押し当てる予備加圧を行い、前記振動子側電極および基板側電極の間に介在する接着剤を押し出す予備加圧工程と、
前記振動子および基板を、互いに密着する方向に加圧する本加圧を行いつつ加熱することで、前記接着剤を硬化させる硬化工程と、
を備え、前記載置工程および予備加圧工程の過程で、前記対象範囲に広がる接着剤の表面張力により振動子および基板の位置決めがなされる、
ことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探触子の製造方法であって、
前記予備加圧工程は、
粘度可変体を底面に塗布した上部ブロック体を、前記粘度可変体を液状化させたうえで、振動子の上に載置し、粘度可変体の表面張力で上部ブロック体が支持された状態にする工程と、
前記載置工程の後、前記粘度可変体を固体化させたうえで、前記上部ブロック体を振動子側に押圧する工程と、
を備えることを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波探触子の製造方法であって、
前記粘度可変体は、少なくとも前記接着剤の硬化温度において溶融するワックスであり、
前記硬化工程において、接着剤硬化のための加熱により溶融したワックスが、前記上部ブロック体を振動子側に押圧する本加圧により、上部ブロックと振動子との間から押し出される、
ことを特徴そる超音波探触子の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波探触子の製造方法であって、
前記濡れ性を高める表面処理は、プラズマ処理であり、
前記表面処理工程においては、前記振動子および基板のうち前記対象範囲以外の範囲をマスクした状態で、前記振動子および基板に対してプラズマ処理を施す、
ことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波探触子の製造方法であって、
振動子の対象範囲は、振動子背面のうちアレイ状の振動子側電極の形成範囲であり、
基板の対象範囲は、基板上面のうちアレイ状の基板側電極の形成範囲である、
ことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項6】
振動子の背面にアレイ状に配設された振動子側電極と、基板の上面にアレイ状に配設された基板側電極と、が互いに密着した状態で振動子および基板が接合された振動子ユニットを内蔵した超音波探触子であって、
互いに位置合わせすべき対象範囲にのみ、濡れ性を高める表面処理を施した前記振動子および基板が、当該対象範囲に塗布された熱硬化性接着剤により、位置決めされたうえで、振動子側電極と基板側電極とが互いに密着した状態で接合されている、
ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項1】
振動子の背面にアレイ状に配設された振動子側電極と、基板の上面にアレイ状に配設された基板側電極と、が互いに密着した状態で振動子および基板が接合された振動子ユニットを内蔵した超音波探触子の製造方法であって、
予め、前記振動子および基板のうち、互いに位置合わせすべき対象範囲にのみ、濡れ性を高める表面処理を施す表面処理工程と、
前記振動子および基板のうち少なくとも一方の対象範囲に熱硬化性の液状接着剤を塗布したうえで、前記振動子および基板の対象範囲が対向するべく、前記振動子を基板上に載置する載置工程と、
前記振動子を基板に押し当てる予備加圧を行い、前記振動子側電極および基板側電極の間に介在する接着剤を押し出す予備加圧工程と、
前記振動子および基板を、互いに密着する方向に加圧する本加圧を行いつつ加熱することで、前記接着剤を硬化させる硬化工程と、
を備え、前記載置工程および予備加圧工程の過程で、前記対象範囲に広がる接着剤の表面張力により振動子および基板の位置決めがなされる、
ことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探触子の製造方法であって、
前記予備加圧工程は、
粘度可変体を底面に塗布した上部ブロック体を、前記粘度可変体を液状化させたうえで、振動子の上に載置し、粘度可変体の表面張力で上部ブロック体が支持された状態にする工程と、
前記載置工程の後、前記粘度可変体を固体化させたうえで、前記上部ブロック体を振動子側に押圧する工程と、
を備えることを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波探触子の製造方法であって、
前記粘度可変体は、少なくとも前記接着剤の硬化温度において溶融するワックスであり、
前記硬化工程において、接着剤硬化のための加熱により溶融したワックスが、前記上部ブロック体を振動子側に押圧する本加圧により、上部ブロックと振動子との間から押し出される、
ことを特徴そる超音波探触子の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波探触子の製造方法であって、
前記濡れ性を高める表面処理は、プラズマ処理であり、
前記表面処理工程においては、前記振動子および基板のうち前記対象範囲以外の範囲をマスクした状態で、前記振動子および基板に対してプラズマ処理を施す、
ことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波探触子の製造方法であって、
振動子の対象範囲は、振動子背面のうちアレイ状の振動子側電極の形成範囲であり、
基板の対象範囲は、基板上面のうちアレイ状の基板側電極の形成範囲である、
ことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項6】
振動子の背面にアレイ状に配設された振動子側電極と、基板の上面にアレイ状に配設された基板側電極と、が互いに密着した状態で振動子および基板が接合された振動子ユニットを内蔵した超音波探触子であって、
互いに位置合わせすべき対象範囲にのみ、濡れ性を高める表面処理を施した前記振動子および基板が、当該対象範囲に塗布された熱硬化性接着剤により、位置決めされたうえで、振動子側電極と基板側電極とが互いに密着した状態で接合されている、
ことを特徴とする超音波探触子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−15851(P2012−15851A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151274(P2010−151274)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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