説明

超音波検出装置及び超音波診断装置

【課題】比較的低周波帯域の弾性波を検出する静電容量型超音波検出装置を提供する。
【解決手段】超音波検出装置は、静電容量型電気機械変換装置6と、電圧源15と、電気回路14とを含む。静電容量型電気機械変換装置は、第1電極12と、この第1電極と対向し空隙9を隔てて配設された第2電極7とを備える。電圧源は、第1電極12と第2電極7の間に電位差を生じさせる。電気回路は、第2電極7の振動による第1電極12と第2電極7間の静電容量の変化に伴う電流を電圧に変換する。静電容量型電気機械変換装置の出力電流は、周波数に対して第1カットオフ周波数2を有するハイパス特性1を有し、前記電気回路の出力は、周波数に対して第2カットオフ周波数4を有するローパス特性3を有する。第1カットオフ周波数2よりも第2カットオフ周波数4が小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波検出装置、超音波診断装置などに関し、特に、静電容量型超音波検出装置及びそれを用いる超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、間隔を隔てて配置された電極を有するセルを含む静電容量型超音波検出装置は、知られている(特許文献1参照)。特に近年、マイクロマシンニング技術を用いた静電容量型超音波変換装置(CMUT)が盛んに研究されている。このCMUTは、軽量の振動膜を用いて超音波を送信または受信し、液体中及び気体中でも優れた広帯域特性が容易に得られる。このCMUTを利用し、従来の医用診断モダリティより高精度な超音波診断が有望な技術として注目されつつある。CMUTの超音波受信機能は、静電容量型電気機械変換装置と後段の電気回路で遂行される。前段の静電容量型電気機械変換装置の出力は、静電容量の時間変動によるものであるため、電流出力である。従って、後段に電流‐電圧変換増幅回路を用いるのが一般的である。
【0003】
他方、これまで、実用的な超音波変換装置には主に圧電材(ピエゾ)が使用されてきた。この圧電材(ピエゾ)型の装置の解像度は周波数に比例する為、3MHz乃至10MHzの範囲に中心感度のある超音波変換装置が普通であった。これと比較して、CMUTは広い周波数帯域を有することが特徴であるが、圧電材型に代わるものとして、従来の一般的な超音波診断用のセンサーとして用いようとしている為、これの中心周波数も3MHz乃至10MHz程度が普通である。但し、広い周波数帯域を有効に利用するため、後段の電気回路にも広い帯域が要求される。CMUTの超音波受信機能の周波数特性は、静電容量型電気機械変換装置のカットオフ周波数と増幅回路のカットオフ周波数との間のバンドパス型として構成されるのが通常である。よって、増幅回路は、カットオフ周波数が受信帯域よりも十分大きいものを用いることが多い。この点に関して、非特許文献1は、明示した帰還抵抗と、MOSトランジスタ回路に寄生的に存在する容量である帰還容量とを持つ増幅回路を示している。その結果、非特許文献1に記載されているCMUTの周波数帯域は2MHz乃至7MHzとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,430,109号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IEEETransactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, Vol.55,No.2, Feb. 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した技術状況で、検体の検査においては形態画像だけでなく機能画像を表示する超音波変換装置の開発も近年進められている。この様な装置の1つに光音響分光分析法を利用した装置がある。こうした光音響分光分析法で用いられる光音響波の周波数帯域は、超音波エコーで用いられる超音波の周波数帯域と比較すると一般的に低い。例えば、光音響波の周波数帯域は200KHz乃至2MHzの範囲に分布しており、これは、超音波エコーで用いられる超音波の中心周波数3.5MHzよりも低い。そのため、比較的低い周波数帯を高感度で検出できる超音波変換装置が開発される必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明の超音波検出装置は、静電容量型電気機械変換装置と、電圧源と、電気回路とを含み、以下の特徴を有する。前記静電容量型電気機械変換装置は、第1電極とこの第1電極と対向し空隙を隔てて配設された第2電極とを備えるセルを有する。前記電圧源は、第1電極と第2電極の間に電位差を生じさせるためのものである。前記電気回路は、第2電極の振動による第1電極と第2電極間の静電容量の変化に伴う電流を電圧に変換する。前記静電容量型電気機械変換装置の出力電流は、周波数に対して第1カットオフ周波数を有するハイパス特性を有し、前記電気回路の出力は、周波数に対して第2カットオフ周波数を有するローパス特性を有する。そして、前記第1カットオフ周波数よりも前記第2カットオフ周波数が小さくされている。
【0008】
また、上記課題に鑑み、本発明の超音波診断装置は、上記超音波検出装置と、光源と、超音波検出装置によって検出された信号を処理する信号処理系とを含む。そして、前記光源から発せられた光を検査対象にあて、検査対象にあてられた光による光音響効果によって生じる弾性波を前記超音波検出装置で検出し、この検出結果を前記信号処理系で処理することで検査対象の情報を取得する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、電流‐電圧変換増幅回路のカットオフ周波数が静電容量型電気機械変換装置のカットオフ周波数より大きくなる様に構成して、両者の周波数特性を合わせることで超音波検出装置の周波数特性を目標のものとしている。よって、従来の超音波プローブよりも低周波数域を帯域とする超音波検出装置が実現できる。また、この超音波検出装置と光源と信号処理系によって、光音響分光分析法などに適する超音波診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の超音波検出装置の前段の静電容量型電気機械変換装置、後段の電気回路、及び装置全体の周波数特性の例を示して本発明の原理を説明するとともに、本発明の実施形態の超音波検出装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の他の実施形態の超音波検出装置の構成図である。
【図3】本発明の実施形態の超音波診断装置の構成図である。
【図4】従来例の周波数特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の超音波検出装置及び超音波診断装置の実施形態を説明する。本発明の装置において重要なことは、静電容量型電気機械変換装置の出力電流のハイパス特性の周波数特性の第1カットオフ周波数よりも電気回路の出力のローパス特性の周波数特性の第2カットオフ周波数を小さくすることである。これらカットオフ周波数、ハイパス特性、ローパス特性の意味する所を説明する。後述する様に、静電容量型電気機械変換装置の出力の周波数特性は、振動膜の真空中の共振周波数で最大となる。そして、本発明の周波数特性とは、最大値の周波数より低い周波数側で3dB程度低下している周波数(第1カットオフ周波数)から、上記共振周波数を経て、振動膜の反共振周波数の間のバンドパス特性の周波数特性である。実際に作製されるデバイスにおいては、最大出力となっている周波数近傍の範囲で平均した値を用いることで、第1カットオフ周波数を定義できる。このときの静電容量型機械電気変換装置の周波数特性は第1カットオフ周波数を有するハイパス特性となる。つまり、本発明におけるハイパス特性とは、カットオフ周波数よりも低い周波数領域ではほぼ決まった傾きで周波数に対して利得が増加し、カットオフ周波数よりも高い周波数領域で平坦な分布となることである。他方、後段の電流‐電圧変換増幅回路は、帰還抵抗と帰還容量の値によって第2カットオフ周波数が決まるローパス特性の周波数特性を有する。本発明におけるローパス特性とは、カットオフ周波数よりも高い周波数領域では決まった傾きで周波数に対して利得が減少し、カットオフ周波数よりも低い周波数領域で平坦な分布となることである。ここでは、第2カットオフ周波数は、低域での利得よりも3dB程度低下した利得を示す周波数を指す。本発明において、上記「平坦な分布」とは一定の利得であることを意味する。具体的には、ローパス特性は、カットオフ周波数より低い領域で「平坦」となり、カットオフ周波数より高い領域で「決まった傾きで利得が減少」する。同様にハイパス特性は、カットオフ周波数より低い領域で「決まった傾きで利得が増加」し、カットオフ周波数より高い領域で「平坦」となる。そして本発明における「平坦な分布」とは、全く平坦な場合だけでなく、利得の周波数特性に対する傾きの関係が装置設計上無視できる程度に小さい傾きを有するものも含む。
【0012】
上記考え方に基づき、本発明の超音波検出装置及び超音波診断装置の基本的な形態は、上述した様な構成を有する。この基本的な形態を基に、次に述べる様な実施形態が可能である。例えば、静電容量型電気機械変換装置は、基板に配設された第1電極と、第1電極と対向して設置された第2電極と、第1電極と第2電極の間に挟まれた絶縁体及び空隙と、第2電極を上下に振動可能に支持する振動膜を含む(後述の第1の実施形態参照)。また、超音波検出装置において、第1電極と第2電極で構成されるコンデンサが、複数の空隙と複数の第2電極または振動膜とを含んで構成される。そして、静電容量型電気機械変換装置の出力電流の特性は、複数の第2電極または振動膜の機械特性の平均とコンデンサの静電容量を含む因子で決定される(後述の第2の実施形態参照)。また、超音波検出装置において、前記コンデンサが2次元的に配列されており、第2電極または振動膜の振動情報を2次元で検出することが可能である(後述の第3の実施形態参照)。
【0013】
本発明の原理を説明する。静電容量型電気機械変換装置は設計上、中心周波数帯域を1MHz前後にすることが容易ではない。これは、中心周波数帯域を1MHz前後にするにはメンブレンである第2電極または振動膜の硬さを柔らかくする(バネ定数を小さくする)必要があり、そうすると感度が低下するという弊害などもあり、設計の自由度が制限されるためである。つまり、メンブレンの撓みが大きくなり、高感度化のための狭ギャップ構造を作ることが困難になるとともに、電極への印加電圧も小さくせざるを得ず、感度が低下することになる。そこで、本発明では、静電容量型電気機械変換装置は1MHz前後よりも高周波側に中心周波数がある様に設計した状態で、後段の電気回路のカットオフ周波数を調整することにより、トータルで中心周波数帯域が1MHz前後になるシステムとする。こうした目標とする比較的低い周波数帯域では、増幅ゲインを或る程度高くしつつ電気回路のカットオフ周波数を調整するのは、他の特性にあまり悪影響を及ぼすことなく比較的容易である。これに対して、電気回路の増幅ゲインを上げたままカットオフ周波数を高くすることは、帰還抵抗を小さくするか帰還容量を小さくすることに等しく、こうすると、S/Nが悪化したり全体の感度が低下したりすることになる。或いは、回路の性能上、限度がある。
【0014】
以上のことを、図1(a)、(b)、(c)を用いて更に説明する。静電容量変化を平行平板近似した際、入力音圧(入力する弾性波の圧力)に対する静電容量型電気機械変換装置の出力電流Iの周波数特性1(図1(a)参照)は次の式(1)で定式化される。
I=P/[(Zm+Zr)/(εA*Vb/d2)+jωC] (1)
ここで、eは真空の誘電率、Aは電気機械変換装置の電極(後述する上部電極7参照)の面積、Vbは電極間に印加するバイアス電圧、dは電極間の真空等価距離、Pは入力音圧、Zmは振動膜(後述する振動膜8参照)の機械インピーダンス、Zrは電気機械変換装置の周りの媒体の音響インピーダンス、ωは入力音圧の角周波数、Cは全静電容量である。この式で、全静電容量は相対的に小さいため、周波数の関数となっているのは振動膜の機械インピーダンスZmであると言ってよい。
【0015】
Zmは次の式(2)で表される。
Zm=j*km*{(ω/ω02)-1/ω} (2)
kmは振動膜のバネ定数であり、共振角周波数ω0(これは、第1のカットオフ周波数2の近くにある。図1(a)参照)よりも周波数が低い領域においては圧力Pに比例して振動膜が変位する。Zmは低周波数領域から共振周波数までは周波数に反比例して0に近づいていく。このことから、振動膜の共振周波数よりも小さい周波数領域において出力電流周波数特性1は周波数について一次特性となる。尚、図1(a)〜(c)の周波数特性の曲線について、これらは原理説明のために簡略化して見易く描いている。実際は、例えば肩部近辺ではもう少し形が崩れてなだらかに変化していて、カットオフ周波数は必ずしも図示した様に肩部の角に位置するものではない。また、図1(a)の横軸は対数表示された周波数を表し、上記一次特性は、対数表示された周波数に関して一次的な特性であることを意味する。同様に、上記反比例も、対数表示された周波数に関して反比例することを意味する。
【0016】
また、上記式(1)から分かる様に、出力電流周波数特性1は振動膜の機械インピーダンスZmのみならず、使用環境の一定の音響インピーダンスZrにも依存する。静電容量型電気機械変換装置は、通常、液体に漬けて使用する場合が多い。液体の音響インピーダンスは振動膜の機械インピーダンスよりも大きく、この場合、周波数特性1に対しては液体の音響インピーダンスが支配的となる。上述した様に、振動膜の機械インピーダンスZmが0になる周波数が振動膜の共振周波数であり、ここで出力電流周波数特性1は最大値をとる。振動膜の機械インピーダンスは、本来、振動膜の反共振周波数で無限大となるが、共振周波数よりも低い領域辺りで使用する際は、反共振周波数は無関係であるため、図1(a)の出力電流周波数特性1では反共振周波数近辺の領域は省いている。こうした点を総合的に考慮に入れて、上記式(1)で表される出力電流周波数特性1が図1(a)に示されている。
【0017】
他方、電流‐電圧変換増幅回路の周波数特性3(図1(b)参照)は次の式(3)で定式化され、第2のカットオフ周波数4は次の式(4)で表される。
G=Rf/(1+jωRf*Cf) (3)
f=1/(2πRf*Cf) (4)
Gは電気回路のゲイン、Rfは帰還抵抗、Cfは帰還容量、fとωは入力電流の周波数と角周波数である。本発明の構成で用いる電気回路は、式(3)の様に周波数に対して一次特性(上記周波数特性1と同様に、対数表示された周波数に関しての特性である)のものを用いることが望ましく、高次特性を持つ回路を使用することは好ましくない。
【0018】
本発明では、静電容量型電気機械変換装置の出力電流の周波数特性1と電気回路の出力の周波数特性3を組み合わせて、従来の超音波プローブよりも低周波数域を帯域とする超音波検出装置を実現しようとする。この組み合わせに際し、目標とする特性5(図1(c)参照)を持つ超音波検出装置を実現するために、静電容量型電気機械変換装置の出力電流の周波数特性1の第1カットオフ周波数2よりも電気回路の出力の周波数特性3の第2カットオフ周波数4を小さくする。その理由は上述した通りである。
【0019】
こうして、静電容量型電気機械変換装置の出力電流周波数特性1と電流‐電圧変換増幅回路の周波数特性3が合わさって、超音波検出装置の出力周波数特性5となる。図1(c)に示す様に、有効周波数帯域は低域側カットオフ周波数101から高域側カットオフ周波数102の間となる。このとき、低域側カットオフ周波数101及び高域側のカットオフ周波数102は、夫々、第2カットオフ周波数4及び第1カットオフ周波数3とは必ずしも一致しない。これは、第1カットオフ周波数3と第2カットオフ周波数4が近接している場合には、超音波検出装置の出力周波数特性5が、低域側カットオフ周波数101と高域側カットオフ周波数102の間においてほぼ平坦な分布となりにくいからである。周波数特性1と周波数特性3は、低域側カットオフ周波数101と高域側カットオフ周波数102の間で一定程度の大きさを保ちつつほぼ平坦な分布となる様に、設計するのが良い。それには、例えば、周波数特性1の傾斜部の傾きと周波数特性3の傾斜部の傾きは、符号が逆で絶対値が出来るだけ等しいのが良い。また、周波数特性3のゲインを大きくするのが良い。
【0020】
以上のことから、広帯域・高感度な超音波検出装置において、例えば、カットオフ周波数2とカットオフ周波数4の相乗平均となる周波数が0.4MHz乃至1.0MHzの範囲にあり図1(c)に示す様な周波数特性5を持つのが好ましい。周波数特性5の平坦な周波数帯域をその中心値で割った値が130%のとき、カットオフ周波数2とカットオフ周波数4の相乗平均を0.4MHzに設定すれば、0.2MHzの超音波を検出できる。また、同様に、カットオフ周波数2とカットオフ周波数4の相乗平均を1.0MHzに設定すれば、2.0MHzの超音波を検出できる。
【0021】
従来、通常の半導体やマイクロマシニング関連材料を使った場合、生体などからの超音波が透過しやすい液体中において、静電容量型電気機械変換装置の周波数特性は約3MHz以上で飽和して安定である。しかしながら、上述した様に1MHz付近に中心があり高感度なCMUTを得るのは困難であった。上記原理による本発明によれば、こうした困難も解消できる。比較のために、従来の静電容量型電気機械変換装置の周波数特性、電気回路の周波数特性、超音波検出装置の周波数特性を図4(a)、(b)、(c)に示す。図4(a)の周波数特性は図1(a)の周波数特性とあまり変わらないが、図4(b)の周波数特性は図1(b)の周波数特性と比べてカットオフ周波数4が高周波側にあり全体的にゲインが低くなっている。その結果、図4(c)の周波数特性は、低域側カットオフ周波数101と高域側カットオフ周波数102の範囲が高周波側にあり、例えば3MHz乃至10MHzにある。
【0022】
以下、上記原理に基づいて具体化した静電容量型電気機械変換装置と電流‐電圧変換増幅回路の構成を持つ実施形態を図に沿って説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態の超音波検出装置を説明する。本実施形態の静電容量型電気機械変換装置6(以下、セルとも言う)と電気回路14の構成を図1(d)に示す。1つのセルとして示す静電容量型電気機械変換装置6は、上部電極7、振動膜8、キャビティ9、絶縁層10、振動膜8を支持する支持部11、下部電極12、これらを支持する基板13で構成される。電気回路14は、上部電極7及び下部電極12と接続された抵抗R1、帰還抵抗Rfと帰還容量Cfを含む演算増幅器を有する。これらの変換装置6と電気回路14は、上述した周波数特性を有する様に構成されている。
【0023】
図1(d)は構成の一例である。振動膜8が絶縁体であれば絶縁層10はあってもなくてもよい。また、その場合、振動膜8と支持部11は同一物質でもよい。絶縁層10と支持部11が同一物質でもよい。構成上、上部電極7と振動膜8は接着しており、一体で振動する。感度向上の観点から、キャビティ9は大気よりも低い圧力に維持されているのが望ましい。基板13がシリコンなどの半導体基板等の導電性基板である場合、基板13と下部電極12は一体でもよい。出力電流周波数特性1は、振動膜8の機械インピーダンスと使用環境の音響インピーダンスに依存する。静電容量型電気機械変換装置は、通常、液体18に漬けて使用する場合が多い。液体18の音響インピーダンスは振動膜8の機械インピーダンスよりも大きく、液体は具体的には、水、超音波診断用グリス、ひまし油などの油等である。
【0024】
一般的に、上部電極7、下部電極12は金属であればよいが、低抵抗の半導体などでもよい。例えば、第2の電極である上部電極7は、Al、Cr、Ti、Au、Pt、Cu、Ag、W、Mo、Ta、Ni等から選択される導電体、Si等の半導体、AlSi、AlCu、AlTi、MoW、AlCr、TiN、AlSiCu等から選択される合金のうちの少なくとも1つの材料で形成することができる。また、上部電極7は、振動膜8の上面、裏面、内部のうちの少なくとも一箇所に設けるか、若しくは振動膜8を導電体又は半導体で形成する場合は振動膜が上部電極7を兼ねる構造とすることもできる。第1の電極である下部電極12も、上部電極7と同様の導電体や半導体等により形成することができる。また、下部電極12と上部電極7の電極材料は異なっていてもよい。
【0025】
本実施形態における各部の寸法を例示すると次の様になる。例えば、キャビティ9の高さは100nm程度であるが、10nmから500nmの範囲にあってもよい。キャビティ9の一片の長さは、例えば、10μmから200μmの範囲にある。振動膜8は、例えば、SiNにより形成されるが、その他の絶縁材料でもよい。キャビティ9は大気圧に対して減圧状態に保たれており、振動膜8は多少凹形状となる。振動膜及び電極は、例えば、角形としたが、円形、多角形などであっても構わない。セルのキャビティ9の形状も、例えば、角形であるが、その他の形状でもよい。
【0026】
受信動作時には、超音波検出装置のセル6の上部電極7と下部電極12の間に電位差を生じさせるために電圧源15により直流電圧Vをかける。超音波を受信する際には、振動膜8が振動し、振動に伴う容量変化分だけ電流が流れる。その電流を電流‐電圧変換増幅回路14で増幅する。
【0027】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の超音波検出装置を説明する。本実施形態の構成を図2(a)、(b)に示す。図の破線部分は、セル6の透視部を除いて、構造の描画を省略したことを示す。本実施形態では、セル6が基板13上に複数並んでいる。各セル6及び電気回路14の構造は第1の実施形態で説明した通りである。複数のセル6の上部電極7と下部電極12は、夫々、電極結合配線部16、17により電気的に接続され、複数のセル6間で夫々導通している。図2(b)に示す様に、セル6は二次元的に等間隔で配列され、1つのエレメント20を形成している。装置は、エレメント20の上部電極7が、例えば、超音波の伝播の良好な液体18に接した状態で使用される。検出感度、信号処理の容易さなどの観点から、複数のセル6間で、振動膜8の機械特性やキャビティ9の深さは均一であるのが望ましい。エレメント20内において、セル6の配列は、図示例では正方格子状になっているが、千鳥状、六方最密状などでも構わない。エレメント20内のセル6の配列形態や数は、場合に応じて適宜決めればよい。また、図示例では振動膜8の形状を円形に描いたが、多角形などでもよい。この様に、本実施形態では、下部電極12(第1電極)と上部電極7(第2電極)で構成されるコンデンサが、複数の空隙9と複数の第2電極ないし振動膜8とを含んで構成される。そして、エレメント20の出力電流の周波数特性は、複数の第2電極ないし振動膜8の機械特性の平均とコンデンサの静電容量を含む因子で決定される。
【0028】
本実施形態においては、複数の上部電極7が導通している領域が超音波検出領域となり、1つのセルを含む第1の実施形態よりも感度が増加する。本実施形態では、複数のセルを含むエレメント20で1つの静電容量型電気機械変換装置を構成するとも言える。このときの静電容量型電気機械変換装置の周波数特性1(図1(a)参照)は、上述した様に、複数の振動膜8の機械特性の平均値等で決定される。また、エレメント20の電流出力の大きさは複数の振動膜8上の上部電極7の総面積にほぼ比例する。その他の点は第1の実施形態と同様である。
【0029】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の超音波検出装置を説明する。本実施形態の構成を図2(c)、(d)に示す。上面図である図2(d)は超音波検出装置32の全体構成を示す。図2(c)、(d)でも、破線部分は構造の描画を省略したことを示す。本実施形態の超音波検出デバイス30は、第2の実施形態のエレメント20が二次元的に配列されている構成である。配線部16で繋がった上部電極7と配線部17で繋がった下部電極12のうち、どちらか一方はエレメント20ごとに電気的に分離されている。本実施形態でも、上部電極16は超音波の伝播の良好な液体18に接している。エレメント20ごとの出力を配線31で電流‐電圧変換増幅回路14に送って電圧変換することで、超音波信号を二次元の分布として検出することが可能である。ここでも、各エレメント20の周波数特性1は、複数の振動膜8の機械特性の平均値等で決定される。また、各エレメント20の電流出力の大きさは複数の上部電極7の総面積にほぼ比例する。本実施形態の超音波検出装置では、コンデンサは2次元的に配列されており、第2電極ないし振動膜8の振動情報を2次元で検出することが可能である。その他の点は第1の実施形態と同様である。
【0030】
ところで、上記実施形態の構成は、音波を発生させる装置として用いることもできる。上部電極7(若しくは上部電極結合配線部16)と下部電極12(若しくは下部電極結合配線部17)の間に電圧源15で、DC電圧に微小な交流電圧を重畳した電圧を印加することで、振動膜8を強制振動させて音波を発生させる。このときの周波数特性は、主に、静電容量型電気機械変換装置の出力電流周波数特性1と同じ様な送信特性を有する。この音波発生装置は、上述した第2の実施形態や第3の実施形態の様に、二次元的に振動膜8を配列することで、より大きな音波を発生させられる。また、発生面積を大きくすることで、音波の指向性を大きくでき、回折を小さくできる。
【0031】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の超音波診断装置を説明する。本実施形態の構成を図3に示す。光源40から発せられた光41が伝播して生体組織42にあたることによって、光音響波と呼ばれる超音波43が発せられる。すなわち、生体組織内部に存在する光吸収係数が大きい箇所にて光が吸収され、当該箇所が加熱される。そして、加熱された部分が膨張し、膨張に伴い弾性波が発生する。この超音波43の周波数は生体組織を構成する物質や個体によって異なるが、上述した様に、例えば、200kHz乃至2MHz程度である。超音波(光音響波)43は、その伝播の良好な液体18を通って、超音波検出装置32で検出される。電流電圧変換・増幅された信号は信号束線44を介して信号処理系45に送られる。検出結果の信号は信号処理系45で信号処理され、生体情報を抽出する。超音波検出装置32が上述した第3の実施形態の如き構成ならば、二次元的な超音波分布を検出することが可能であり、検出装置32を走査することによって広範囲な分布を捉えることができる。超音波は音速であるため、到達波(時間波形)の時間差を解析して時間情報を得て奥行き方向の情報も取得可能であり、その場合、信号処理系45に再構成機能を持たせてもよく、三次元の生体情報を抽出することができる。また、受信した信号をフーリエ変換して周波数特性を得ることで画像などを取得することもできる。
【0032】
光音響効果を用いて試料(検査対象)の断層像、三次元像などを取得する技術は、光音響トモグラフィー(PhotoAcoustic Tomography)として一般に知られており、その頭文字をとってPAT技術と称されている。
【符号の説明】
【0033】
6…静電容量型電気機械変換装置(セル)、7…上部電極(第2電極)、8…振動膜、9…キャビティ(空隙)、12…下部電極(第1電極)、14…電流‐電圧変換増幅回路、15…電圧源、32…超音波検出装置、40…光源、42…生体組織(検査対象)、43…光音響波(超音波)、45…信号処理系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、前記第1電極と対向し空隙を隔てて配設された第2電極とを備えるセルを有する静電容量型電気機械変換装置と、
前記第1電極と前記第2電極の間に電位差を生じさせるための電圧源と、
前記第2電極の振動による前記第1電極と前記第2電極との間の静電容量の変化に伴う電流を電圧に変換する電気回路と、
を含む超音波検出装置であって、
前記静電容量型電気機械変換装置の出力電流は、周波数に対して第1カットオフ周波数を有するハイパス特性を有し、
前記電気回路の出力は、周波数に対して第2カットオフ周波数を有するローパス特性を有し、
前記第1カットオフ周波数よりも前記第2カットオフ周波数が小さいことを特徴とする超音波検出装置。
【請求項2】
前記静電容量型電気機械変換装置は、基板に配設された第1電極と、前記第1電極と対向して設置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極の間に挟まれた絶縁体及び空隙と、前記第2電極を上下に振動可能に支持する振動膜と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の超音波検出装置。
【請求項3】
当該超音波検出装置の周波数特性において、
前記第1カットオフ周波数と前記第2カットオフ周波数の相乗平均が0.4MHz乃至1.0MHzの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波検出装置。
【請求項4】
前記第1電極と前記第2電極で構成されるコンデンサが、複数の前記空隙と複数の前記第2電極または振動膜とを含んで構成され、
前記静電容量型電気機械変換装置の出力電流の特性が、前記複数の第2電極または振動膜の機械特性の平均と前記コンデンサの静電容量を含む因子で決定されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の超音波検出装置。
【請求項5】
前記コンデンサが2次元的に配列されており、
前記第2電極または振動膜の振動情報を2次元で検出することが可能であることを特徴とする請求項4に記載の超音波検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の超音波検出装置と、
光源と、
前記超音波検出装置によって検出された信号を処理する信号処理系と、
を含む超音波診断装置であって、
前記光源から発せられた光を検査対象にあて、前記検査対象にあてられた光による光音響効果によって生じる弾性波を前記超音波検出装置で検出し、前記検出結果を前記信号処理系で処理することで前記検査対象の情報を取得することを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−98071(P2011−98071A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254752(P2009−254752)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】