説明

超音波検査方法及び超音波検査装置

【課題】被検査体の内部を精度良く検査する。
【解決手段】超音波検査装置10を用い、被検査体1の第1の面1a側から発信部11によって超音波信号を発信し、被検査体1の第2の面1b側において、カンチレバー12を走査し、被検査体1を伝播した超音波信号をカンチレバー12によって受信する。カンチレバー12の走査位置ごとに、発信部11から発信した超音波信号と、カンチレバー12で受信した超音波信号との差分を、信号処理部14によって検出し、検出した差分を、表示部15によって2次元表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて検査を行う超音波検査方法及び超音波検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検査体の内部構造を検査する手法として、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)を用いる手法が広く知られている。このようなTEMやSEMを用いた検査では、被検査体を非破壊でそのまま検査することができない場合がある。
【0003】
一方、被検査体の内部構造を非破壊で検査する手法の1つとして、超音波を利用する手法がある。例えば、振動子を備えたプローブを使用する超音波探傷法や、音響レンズを使用する超音波顕微鏡を用いる方法が知られている。
【0004】
尚、主に材料表面の形状や物性を測定する方法として、先端部に微小な探針が取り付けられたカンチレバーをプローブとする、走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope;SPM)を用いる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−311822号公報
【特許文献2】特開平8−327611号公報
【特許文献3】特開平6−323843号公報
【特許文献4】特開平9−159681号公報
【特許文献5】特表2009−511876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超音波探傷法や超音波顕微鏡法等、超音波を利用する検査手法では、超音波の発信、受信に使用するプローブや音響レンズ等の構成上、検査可能な被検査体の種類や限定されたり、被検査体の内部を精度良く検査できなかったりする場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、発信部と、カンチレバーと、信号処理部と、表示部とを有する超音波検査装置を用いた超音波検査方法であって、被検査体の第1の面側から前記発信部によって第1の超音波信号を発信する工程と、前記被検査体の前記第1の面側と反対の第2の面側において、前記カンチレバーを走査し、前記被検査体を伝播した第2の超音波信号を前記カンチレバーによって受信する工程と、前記カンチレバーの走査位置ごとに、前記第1の超音波信号と前記第2の超音波信号との差分を前記信号処理部によって検出する工程と、前記差分を前記表示部によって2次元表示する工程と、を含む超音波検査方法が提供される。
【0008】
また、本発明の一観点によれば、被検査体の第1の面側から第1の超音波信号を発信する発信部と、前記被検査体の前記第1の面側と反対の第2の面側に走査可能に配置され、前記被検査体を伝播した第2の超音波信号を受信するカンチレバーと、前記カンチレバーの走査位置ごとに、前記第1の超音波信号と前記第2の超音波信号との差分を検出する信号処理部と、前記差分を2次元表示する表示部と、を含む超音波検査装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
開示の超音波検査方法及び超音波検査装置によれば、様々な被検査体の内部を精度良く検査することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】超音波検査装置の構成例を示す図である。
【図2】超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
【図3】第1の実施の形態に係る超音波検査装置の構成例を示す図である。
【図4】第1の実施の形態に係る超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
【図5】位相差を検出する信号処理の一例の説明図である。
【図6】電子デバイスの一例の要部断面模式図である。
【図7】電子デバイスの超音波2次元像の一例を模式的に示した図である。
【図8】超音波2次元像の一例である。
【図9】第2の実施の形態に係る超音波検査装置の構成例を示す図である。
【図10】第2の実施の形態に係る超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
【図11】コンピュータの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は超音波検査装置の構成例を示す図である。
図1に示す超音波検査装置10は、発信部11、カンチレバー12、位置制御部13、信号処理部14及び表示部15を有している。
【0012】
発信部11は、被検査体1の一方の面(第1の面)1a側に配置される。発信部11は、被検査体1に対し、第1の面1a側から超音波信号(連続波或いはバースト波)を発信する。発信部11には、例えば、超音波振動子を用いることができる。
【0013】
カンチレバー12は、被検査体1の他方の面(第2の面)1b側に配置される。カンチレバー12は、発信部11から発信されて被検査体1の内部を伝播した超音波信号を受信する。カンチレバー12には、先端部に例えばナノメートルオーダーの微小な探針が設けられたものを用いる。被検査体1の内部を伝播した超音波信号は、カンチレバー12が被検査体1に接している場合には被検査体1表面の振動信号として、また、カンチレバー12が被検査体1に接していない場合には被検査体1周辺の媒体(空気や水分)の音圧信号として、受信される。
【0014】
位置制御部13は、被検査体1に対するカンチレバー12(探針)の位置(x,y,z方向の位置)を制御する。カンチレバー12は、位置制御部13によって被検査体1上を走査される。
【0015】
信号処理部14は、発信部11から発信された超音波信号(発信信号)と、カンチレバー12によって受信された超音波信号(受信信号)を用い、発信信号と受信信号との差分を検出する。信号処理部14は、例えば、発信信号と受信信号から、それらの振幅、位相又は周波数の差分を検出する。信号処理部14は、位置制御部13によって制御されるカンチレバー12の走査位置に基づき、カンチレバー12の走査位置ごとに発信信号と受信信号の差分を検出する。
【0016】
表示部15は、信号処理部14によってカンチレバー12の走査位置ごとに検出された、発信信号と受信信号の差分を、モニタ等を用いて2次元表示する。
図2は超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
【0017】
超音波検査装置10は、位置制御部13により、被検査体1の第2の面1b上の所定位置にカンチレバー12を制御し(ステップS1)、発信部11により、その被検査体1の第1の面1a側から超音波信号を発信する(ステップS2)。
【0018】
超音波検査装置10は、発信部11から発信され、被検査体1の内部を伝播した超音波信号を、振動信号や音圧信号として、カンチレバー12により受信する(ステップS3)。被検査体1の内部に材質の異なる部分が存在したり、何らかの構造物が存在したりする場合等、被検査体1の内部が一様でない場合、カンチレバー12で受信される超音波信号には、発信部11から発信される超音波信号に対し、振幅、位相又は周波数に変化が生じる。このように被検査体1の内部を伝播する過程で変化し得る超音波信号を、その信号に応じて変位する(たわむ)カンチレバー12によって受信する。
【0019】
次いで、超音波検査装置10は、信号処理部14により、発信部11から発信された超音波信号(発信信号)と、カンチレバー12で受信された超音波信号(受信信号)との差分を検出する(ステップS4)。信号処理部14は、差分として、例えば、発信信号と受信信号の振幅の差分、位相の差分、周波数の差分のうち、少なくとも1種を検出する。
【0020】
超音波検査装置10は、位置制御部13によりカンチレバー12を走査してその被検査体1上での位置を変え、ステップS1〜S4の処理を実行する(ステップS5)。
被検査体1上の所定の走査範囲について、ステップS1〜S4の処理を実行した後、超音波検査装置10は、カンチレバー12の各走査位置で取得された、発信信号と受信信号との差分を、表示部15により2次元表示する(ステップS6)。これにより、被検査体1の内部を伝播したことによる超音波信号の振幅、位相、周波数等の変化、即ち、被検査体1の内部構造が、コントラストとして2次元表示される。
【0021】
このように超音波検査装置10では、被検査体1を伝播した超音波信号を、カンチレバー12によって受信する。そのため、被検査体1の走査範囲において、カンチレバー12の先端部に設けた探針のサイズ程の微小領域ごとに、被検査体1を伝播した超音波信号を受信し、その内部構造に関する情報(振幅、位相又は周波数の変化量)を取得することができる。このようなカンチレバー12による、被検査体1を伝播した超音波信号の受信を、走査範囲全体に亘って行うことにより、走査範囲の内部構造に関する情報を、高い空間分解能で、精度良く、取得することが可能になる。
【0022】
尚、カンチレバー12の走査範囲は、第2の面1bの全体でも、一部でもよい。カンチレバー12による受信が行われる各微小領域の一辺の長さは、走査範囲の一辺の実寸を任意の数(256、512等)で割った値とすることができる。1つの微小領域は、2次元表示の際の1画素に相当するようになる。
【0023】
以下、上記のような超音波検査装置、及び超音波検査装置を用いた超音波検査方法について、より詳細に説明する。
まず、第1の実施の形態について説明する。
【0024】
図3は第1の実施の形態に係る超音波検査装置の構成例を示す図である。
図3に示す超音波検査装置100Aは、カンチレバー101、圧電素子102、位置制御部103、レーザー照射部104、光検出部105、信号生成部106を有している。更に、この超音波検査装置100Aは、発信部107、関数発生部108、増幅部109、信号処理部110(信号検出部110a、差分検出部110b)、記憶部111、表示部112、制御部113、入力部114を有している。
【0025】
カンチレバー101は、一端側(根元側)が固定され、他端側(自由端側)の先端部には、例えばナノメートルオーダーの微小な探針101aが設けられている。カンチレバー101は、被検査体1の第2の面1b側に接触又は非接触の状態で配置され、被検査体1を伝播した超音波信号を受信する。圧電素子102は、カンチレバー101の根元側に設けられ、入力される信号に従ってカンチレバー101をx,y,z方向に移動させる。位置制御部103は、圧電素子102への入力信号を制御する。位置制御部103及び圧電素子102により、カンチレバー101(探針101a)のx,y,z方向の位置が制御され、カンチレバー101が被検査体1上を走査される。
【0026】
レーザー照射部104は、カンチレバー101の背面にレーザー光を照射する。光検出部105は、カンチレバー101の背面にレーザー照射部104から照射されて反射されたレーザー光を検出する。例えば、カンチレバー101が上下(z方向)に変位すれば、レーザー光は光検出部105上で上下に動くようになる。ここに例示する超音波検査装置100Aでは、カンチレバー101の変位(たわみ)が、このような、いわゆる光テコ方式で検出されるようになっている。信号生成部106は、カンチレバー101の変位に伴って変化する、光検出部105による検出信号を入力とし、検出信号の差分に応じた信号(カンチレバー101による受信信号)を生成する。
【0027】
尚、信号生成部106で生成された信号の一部は、カンチレバー101の探針101aと被検査体1表面間の力が一定に保たれるように、位置制御部103にフィードバックされる。位置制御部103は、そのフィードバックされた信号を用い、カンチレバー101のz方向の位置を制御する。
【0028】
発信部107は、被検査体1の第1の面1a側に配置され、被検査体1に対し、超音波信号を発信する。例えば、発信部107の上に、超音波が伝播する水やグリセリン等の中間層115、或いは導電性接着剤や熱伝導性接着剤等の中間層115を介して、被検査体1がその第1の面1aを発信部107側に向けて設置される。発信部107には、例えば、超音波振動子を用いることができる。発信部107からは、例えば、超音波バースト信号を発信することができる。関数発生部108は、発信部107から発信する超音波信号の波形を発生する。増幅部109は、関数発生部108で発生した波形を増幅する。尚、増幅部109での増幅率を制御部113によって可変とする構成としてもよい。関数発生部108で発生され、増幅部109で増幅された波形が発信部107に入力され、発信部107から、その波形に応じた超音波信号が発信される。
【0029】
尚、ここでは一例として、発信部107から超音波バースト信号を発信する。
信号処理部110は、信号検出部110a及び差分検出部110bを含む。信号処理部110は、被検査体1のカンチレバー101の走査範囲についての2次元超音波像を取得するための信号処理を実行する。
【0030】
信号処理部110の信号検出部110aは、信号生成部106で生成された受信信号、即ちカンチレバー101で受信された被検査体1からの超音波信号に関する情報を検出する。また、信号検出部110aには、発信部107から被検査体1に発信する超音波信号に関する情報が送信される。例えば、関数発生部108で発生させた波形、又は増幅部109で増幅した後の波形が信号検出部110aに送信され、それを信号検出部110aが検出する。尚、図3では、関数発生部108で発生させた波形が信号検出部110aで検出される場合を例示している。
【0031】
信号処理部110の差分検出部110bは、信号検出部110aで検出された、カンチレバー101で受信する受信信号、及び発信部107から発信する発信信号を用い、それらの差分を検出する。例えば、差分検出部110bは、信号検出部110aで検出された発信信号と受信信号の位相差を検出する。
【0032】
また、信号処理部110は、位置制御部103から、被検査体1上でのカンチレバー101の走査位置に関する情報を取得し、カンチレバー101の走査位置と、差分検出部110bで検出した差分(ここでは位相差)とを、関連付けて記憶部111に記憶する。例えば、記憶部111には、2次元メッシュの各メッシュに対応した記憶領域を用意しておき、カンチレバー101の走査位置に該当するメッシュに対応した記憶領域に、差分検出部110bで検出した差分を記憶する。尚、用意する2次元メッシュのメッシュ数は、超音波検査装置100Aにおいて設定され得る走査範囲の分割数、即ち画素数(256×256、512×512等)を上回るように設定しておく。
【0033】
表示部112は、記憶部111に記憶されている情報に基づき、被検査体1についての検査結果を表示する。
制御部113は、位置制御部103、関数発生部108、増幅部109、信号処理部110、表示部112の処理動作を制御する。
【0034】
入力部114からは、例えば、被検査体1の種類に応じ、位置制御部103及び関数発生部108の制御条件が入力される。入力部114から入力された制御条件は、記憶部111等に記憶され、制御部113は、その制御条件に応じた処理を実行する。
【0035】
例えば、入力部114からは、カンチレバー101の被検査体1上での走査範囲、走査範囲の分割数(画素数)、カンチレバー101の走査速度(1画素におけるカンチレバー101の滞在時間)等の条件が設定される。位置制御部103は、その条件に基づき、被検査体1上でのカンチレバー101の位置を制御する。
【0036】
また、入力部114からは、超音波信号の発生条件、この例では、超音波バースト信号の周波数、発生時間、及び発生タイミング(発生周期)等の条件が設定される。関数発生部108は、その条件に基づき、所定の超音波バースト信号を一定の発生周期で発生させる。
【0037】
尚、位置制御部103及び関数発生部108の制御条件は、走査範囲の1画素におけるカンチレバー101の滞在時間を、一の超音波バースト信号が発信されてから次の超音波バースト信号が発信されるまでの間で設定しておく。
【0038】
続いて、上記構成を有する超音波検査装置100Aの処理フローについて説明する。
図4は第1の実施の形態に係る超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
まず、超音波検査装置100Aでは、発信部107上に、被検査体1が設置される。発信部107と被検査体1の間には、水、グリセリン等の中間層115を介在させる。発信部107上に設置した被検査体1上に、カンチレバー101が設置される。更に、入力部114から位置制御部103及び関数発生部108の制御条件が入力されて設定される。例えば、上記のように、走査範囲とその分割数(256×256等)、カンチレバー101の走査速度等の条件が入力部114から入力され、位置制御部103の制御条件が設定される。また、超音波バースト信号の周波数、発生時間、発生周期等の条件が入力部114から入力され、関数発生部108の制御条件が設定される。
【0039】
尚、超音波バースト信号の周波数帯域は、カンチレバー101によって高感度で受信するためには、カンチレバー101の共振周波数又はその近傍の周波数を利用するのが望ましい。例えば、超音波バースト信号の周波数設定に先立ち、カンチレバー101を被検査体1上に設置し、低出力で超音波スイープ信号を被検査体1に入射してカンチレバー101の応答振幅を測定し、振幅が最大となる周波数、即ち最高感度周波数を、予め見つけておく。
【0040】
各制御条件の設定後、超音波検査装置100Aは、位置制御部103により、被検査体1上におけるカンチレバー101の位置を、走査範囲の所定位置(画素)に制御する(ステップS10)。
【0041】
次いで、超音波検査装置100Aは、関数発生部108により、超音波バースト信号を発生する(ステップS11)。関数発生部108で発生された超音波バースト信号(発信信号)は、2つに分岐され、その一方の信号は、信号処理部110の信号検出部110aに送信される(ステップS12)。また、分岐されたもう一方の信号は、増幅部109で増幅され、発信部107から被検査体1に発信(入射)される(ステップS13)。
【0042】
超音波検査装置100Aは、発信部107から被検査体1への超音波バースト信号の発信後、カンチレバー101により、被検査体1を伝播した超音波信号を受信する(ステップS14)。カンチレバー101で受信した信号(受信信号)は、信号検出部110aで検出される(ステップS15)。超音波検査装置100Aは、差分検出部110bにより、信号検出部110aで検出された受信信号と、先に関数発生部108から信号検出部110aに送信された発信信号との差分、ここでは位相差を検出する(ステップS16)。
【0043】
超音波検査装置100Aは、信号処理部110により、このようにして検出した位相差を、この位相差検出に用いた受信信号を受信したときのカンチレバー101の走査位置と関連付けて、記憶部111に記憶する(ステップS17)。即ち、予め用意した2次元メッシュの、カンチレバー101の走査位置に該当するメッシュに対応した記憶領域に、差分検出部110bで検出した位相差の値を記憶する。
【0044】
超音波検査装置100Aは、位置制御部103によってカンチレバー101を走査し、設定した走査範囲内でのカンチレバー101の走査位置(画素)を変えて、ステップS10〜S17の処理を繰り返す(ステップS18)。
【0045】
超音波検査装置100Aは、このようにして被検査体1の走査範囲の全走査位置(全画素)について、ステップS10〜S18の処理を実行し、走査範囲について、2次元メッシュの各メッシュ(対応した記憶領域)に位相差の値を記憶した情報を取得する。
【0046】
超音波検査装置100Aは、記憶部111に記憶されている、このような2次元メッシュを用い、被検査体1の走査範囲の2次元超音波像を、表示部112によって表示する(ステップS19)。例えば、超音波検査装置100Aは、2次元メッシュを、各メッシュの位相差の値に応じた濃淡情報、或いはカラー情報に変換し、表示部112によって表示する。
【0047】
被検査体1に入射された超音波信号(発信信号)は、被検査体1の内部を伝播する間に、その被検査体1の内部構造(材質、構造物等)に応じ、例えば、その位相に変化が生じる。超音波検査装置100Aでは、カンチレバー101により、微小領域(走査位置)ごとに、被検査体1の内部を伝播した超音波信号(受信信号)を受信し、その受信信号の、発信信号に対する位相変化を検出する。記憶部111には、被検査体1の内部構造の情報が、微小領域ごとに蓄積され、その蓄積情報を基に、分解能の高い2次元超音波像が取得される。これにより、被検査体1の内部構造について、精度の良い検査を行うことが可能になる。
【0048】
ここで、超音波検査装置100Aにおける、発信信号と受信信号の差分を検出する信号処理(ステップS15,S16)について、更に説明する。
上記の例の場合、超音波検査装置100Aの信号検出部110aでは、関数発生部108から送信されてくる発信信号と、カンチレバー101によって受信された受信信号が検出される。差分検出部110bでは、これら発信信号と受信信号の位相差が検出される。
【0049】
図5は位相差を検出する信号処理の一例の説明図である。
ここでは、カンチレバー101が走査範囲内の1画素にあるときに、被検査体1に1回分の超音波バースト信号が発信される場合を例にする。
【0050】
図5に示すように、信号検出部110aでは、カンチレバー101の走査位置(画素)ごとに、被検査体1に発信される発信信号が検出され、そして、被検査体1を伝播した受信信号が検出される。差分検出部110bでは、例えば差分回路を用いることにより、カンチレバー101の走査位置ごとに、発信信号に対する受信信号の位相遅れを検出することができる。
【0051】
受信信号には、発信信号に対し、被検査体1を伝播する過程でその位相に変化が生じ得る。差分検出部110bで検出される位相遅れには、そのような受信信号の位相変化が含まれる。走査範囲の全画素について、それぞれ差分検出部110bで発信信号と受信信号の間の位相遅れを検出すれば、被検査体1の伝播過程で生じた超音波信号の位相変化の、相対的な分布を取得することができる。超音波検査装置100Aは、このような情報を用い、被検査体1の内部構造の情報を、2次元超音波像として表示する。
【0052】
尚、このように発信信号に対する受信信号の位相遅れを検出する場合(図5)、各走査位置での受信信号の受信完了を待たずに、発信信号の発信から短時間で位相遅れを検出することもできる。そのため、差分検出部110bでの処理負担を軽減し、処理速度を高めることができる。
【0053】
ここでは、発信信号と受信信号の位相の差分を検出する場合を例にして説明したが、周波数や振幅の差分を検出することで、被検査体1の内部構造の情報を示す2次元超音波像を取得することも可能である。
【0054】
例えば、図5に示したように、カンチレバー101の各走査位置(画素)につき1回分の超音波バースト信号が発信される場合、カンチレバー101の走査位置ごとに、差分検出部110bにより、発信信号の周波数と、受信信号の周波数の差分を検出すればよい。この情報を用い、被検査体1の内部構造の情報を示す2次元超音波像を取得する。
【0055】
発信信号の振幅と、受信信号の振幅の差分を検出する場合には、関数発生部108で発生し、増幅部109で増幅した後の超音波バースト信号を発信信号として信号検出部110aに送信する。そして、カンチレバー101の走査位置ごとに、差分検出部110bにより、増幅後の発信信号の振幅と、受信信号の振幅の差分を検出する。この情報を用い、被検査体1の内部構造の情報を示す2次元超音波像を取得する。
【0056】
また、ここでは、超音波信号としてバースト波を用いる場合を例にして説明したが、連続波を用いることも可能である。
この場合は、カンチレバー101の各走査位置(画素)で発信信号と受信信号の差分を検出するために、各画素での差分検出に用いる信号の始点(差分検出の開始時刻)を設定しておく。例えば、1μm角の走査範囲において、256画素から成る1走査ラインあたり1Hzでカンチレバー101を走査させる場合、1画素あたりのカンチレバー101の滞在時間は1/256秒となるので、1/256秒ごとに差分検出の開始時刻を設定する。信号検出部110aでは、時刻が計測され、設定された開始時刻ごとに、次の開始時刻になるまで(カンチレバー101が次の画素に移るまで)の間の一定時間、発信信号と受信信号が検出される。差分検出部110bでは、設定された開始時刻ごとに一定時間検出された発信信号と受信信号の差分が検出される。差分として位相差を検出する場合には、位相比較器等を用いて位相差を検出する。周波数の場合は、発信信号と受信信号の周波数の差分を検出する。振幅の場合は、発信信号と受信信号の振幅の差分を検出する。
【0057】
尚、上記の超音波検査装置100Aは、位相、周波数、振幅のいずれの差分も検出可能な装置として構成することができ、その場合は、例えば、いずれの差分を検出して処理を行うかを予め入力部114から設定可能としておくことができる。また、超音波検査装置100Aは、予め、位相、周波数、振幅のうちのいずれかの差分を検出する装置として構成しておくことも可能である。
【0058】
続いて、上記のような超音波検査装置100Aを用いた超音波検査方法の適用例について説明する。ここでは、電子デバイスの検査に適用した場合を例にして説明する。
電子デバイスの製造においては、電流リークや断線等を引き起こす製造不良が発生し得る。例えば、トランジスタのゲート絶縁膜の耐性が不十分な場合、経時絶縁破壊(Time Dependent Dielectric Breakdown;TDDB)といった故障が起こり易い。また、配線の電気的、熱的な耐性が不十分な場合、エレクトロマイグレーションやストレスマイグレーションといった故障が起こり易い。
【0059】
故障原因の解明のために、故障に伴う電子デバイス内の構造の破壊や変化をTEMやSEMで検査する場合には、例えば、予め故障箇所を特定して試料の薄片化、或いは端面出しが行われる。但し、故障箇所は、上記のTDDB試験やエレクトロマイグレーション試験等では特定できない場合がある。OBIRCH(Optical Beam Induced Resistance Charge)法により故障箇所を特定する方法も知られているが、この方法では、赤外線レーザーを利用するため、比較的分解能が低い。そのため、電子デバイスに含まれる、ゲート長が1μm以下の微小トランジスタを検査対象とする場合等には、そのトランジスタ内の故障個所を精度良く特定できない場合がある。また、TEMやSEMの試料作製では、作製時に入る欠陥や水分の影響が懸念される。このほか、局所的に加工されたTEM試料やSEM試料は、端面から内部歪みが開放されるので、バルク状態とは歪み分布が異なることが予想される。歪み分布が変化すると、本来負荷がかからない箇所に集中して変形したり、試料作製の結果として構造的な不具合が生じたりしかねない。
【0060】
検査対象物を物理的に破壊することなく、その内部構造を検査する手法として、超音波探傷法が知られているが、この手法では、フェーズドアレイ等のプローブの構造上、分解能に限界がある。また、音響レンズを使用した超音波顕微鏡を用いる方法も知られているが、サブミクロンオーダーの構造を精度良く検査できない場合がある。また、超音波顕微鏡の場合、透過性を向上させるために試料を水中に入れるのが一般的であるが、電子デバイスの場合、水中に入れてしまうと、その電子デバイスの構造観察以外の評価(電気的試験等)が適切に行えなくなる。このように、超音波探傷法や超音波顕微鏡を用いた方法では、電子デバイスを精度良く検査できないことが起こり得る。
【0061】
一方、上記の超音波検査方法によれば、電子デバイスを、その検査対象部位を破壊することなく、高い分解能で、精度良く、検査することができる。ここでは、上記の超音波検査方法を用いる電子デバイスとして、半導体基板を用いて形成されたトランジスタを含むものを例にする。
【0062】
図6は電子デバイスの一例の要部断面模式図である。
電子デバイス200は、図6(A)に示すように、半導体基板210、及び半導体基板210の第1の面(表面)210a側に形成されたトランジスタ220を有している。トランジスタ220は、STI(Shallow Trench Isolation)等の素子分離領域230で画定された素子領域240に形成されている。
【0063】
トランジスタ220は、半導体基板210上に形成されたゲート絶縁膜221、ゲート絶縁膜221上に形成されたゲート電極222、及びゲート電極222両側の半導体基板210内に形成された不純物拡散領域(ソース領域、ドレイン領域)223を含む。トランジスタ220は、絶縁層250で被覆され、不純物拡散領域223には、絶縁層250を貫通するコンタクト電極260が接続されている。
【0064】
このような構成を有する電子デバイス200を被検査体1として、図3に示した超音波検査装置100Aを用いて検査する。その場合、電子デバイス200は、例えば、半導体基板210の表面210a側を発信部107側に対向させて、発信部107の上に適当な中間層を介在させて設置する。カンチレバー101は、半導体基板210の第2の面(裏面)210b側に設置されるようになる。
【0065】
電子デバイス200をこのように超音波検査装置100Aに設置し、入力部114からその電子デバイス200の検査に応じた各種条件(位置制御部103及び関数発生部108の制御条件等)を設定する。そして、図4の例に従い、電子デバイス200における所定走査範囲(ここでは図6に示した部分の裏面210bとする)の2次元超音波像を取得する。
【0066】
尚、電子デバイス200を検査する場合、電子デバイス200は、図6(B)に示すように、予め半導体基板210の裏面210b側を研磨し、半導体基板210を薄く加工するようにしてもよい。
【0067】
半導体基板210を研磨する場合には、例えば、電子デバイス200の絶縁層250(半導体基板210の表面210a側)を補強材300の上に接着剤310で接着し、半導体基板210の裏面210bを研磨する。例えば、半導体基板210を、数μmの厚さまで、裏面210b側から研磨することができる。半導体基板210の研磨には、例えば、耐水研磨紙を用いることができる。その場合は、例えば、研磨途中で電子デバイス200の半導体基板210を光学顕微鏡で観察し、半導体基板210がまだ存在しており、且つ、干渉縞が出現すれば、研磨を終了する。また、半導体基板210の研磨には、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いることもできる。
【0068】
このように半導体基板210、そして電子デバイス200を薄くすることにより、発信部107から発信された超音波信号が裏面210b側に向かって電子デバイス200の内部を伝播する際の減衰量を低減することが可能になる。それにより、裏面210b側において、電子デバイス200の内部を伝播した超音波信号を、カンチレバー101によって高感度で受信することが可能になり、電子デバイス200の検査精度を向上させることが可能になる。
【0069】
上記のように、電子デバイス200を、超音波検査装置100Aを用いて素子分離領域230、素子領域240に形成されたトランジスタ220、絶縁層250内に形成されたコンタクト電極260等の検査対象部位を、破壊することなく、検査することができる。そのため、検査対象部位を、外気や液媒体に触れさせず、また、元々存在する歪み分布を変化させることなく、高い分解能で、精度良く、2次元超音波像を取得することができる。
【0070】
図7は電子デバイスについて得られる超音波2次元像の一例を模式的に示した図である。
ここで、電子デバイス200には、図6に示したように、素子分離領域230に構造不良箇所230a,230bが存在しており、また、トランジスタ220のゲート絶縁膜221に構造不良箇所221aが存在しているものとする。
【0071】
このような電子デバイス200について、上記のように超音波検査装置100Aを用いて検査を行うと、例えば、図7に示すような、電子デバイス200の内部構造(3次元)が2次元で表示された、2次元超音波像が得られる。2次元超音波像では、電子デバイス200内に存在していた構造不良箇所230a,230b,211aが、不良でない箇所とは異なるコントラストで表示されるようになる。
【0072】
超音波検査装置100Aでは、カンチレバー101を用いるため、このような2次元超音波像を高い分解能で得ることができ、コントラストの異常箇所を、精度良く特定することができる。
【0073】
ここでは被検査体1として、図6に示したような電子デバイス200を用いるようにした。このほか、絶縁層250上に多層配線等の配線構造が形成された電子デバイスや、更にそのような電子デバイスが回路基板等に実装されたものも、被検査体1として、超音波検査装置100Aを用いて検査することが可能である。
【0074】
尚、一例として、超音波検査装置100Aを用い、被検査体1としてSRAM(Static Random Access Memory)200aを検査したときに得られた像を、図8に示す。図8(A)には、超音波検査装置100AをSPMとして使用したときに得られたトポグラフィ像を示し、図8(B)には、超音波検査装置100Aで上記のような超音波検査方法(図4)を実施したときに得られた2次元超音波像を示している。尚、図8(B)は、発信信号と受信信号の差分として位相差(位相遅れ)を検出して得られた2次元超音波像である。上記のような超音波検査方法を実施することにより、図8(B)に示したような、SRAM200aの内部構造を2次元表示した像を取得することができ、その像を用いてコントラストの異常箇所を検出することが可能になる。
【0075】
2次元超音波像を取得した後の、コントラストの異常箇所の検出は、目測で行うことが可能である。また、適当な比較データを利用して超音波検査装置で行うことも可能である。続いて、このように異常箇所の検出を超音波検査装置で行う例を、第2の実施の形態として説明する。
【0076】
図9は第2の実施の形態に係る超音波検査装置の構成例を示す図である。
図9に示す超音波検査装置100Bは、その記憶部111に、発信信号と受信信号の差分検出の処理結果(検出データ)が記憶される検出データ記憶部111a、及びその検出データと比較するデータ(比較データ)が記憶される比較データ記憶部111bを含む。更に、超音波検査装置100Bは、その信号処理部110に、検出データ記憶部111aに記憶された検出データと、比較データ記憶部111bに記憶された比較データとを比較し、検出データの異常の有無を判定する判定部110cを含む。超音波検査装置100Bは、このような点で、上記の超音波検査装置100Aと相違する。
【0077】
超音波検査装置100Bを用いて被検査体1を検査する処理は、上記の超音波検査装置100Aの場合と同様に行うことができる。即ち、超音波検査装置100Bでも、図4に例示した処理フロー(ステップS10〜S19)に従い、設定した走査範囲について、発信信号と受信信号の差分(位相差又は周波数や振幅の差)を検出し、その検出データを基に、被検査体1の2次元超音波像を取得する。その際、超音波検査装置100Bでは、発信信号と受信信号の差分の検出データが、カンチレバー101の走査位置と関連付けられて、記憶部111の検出データ記憶部111aに記憶される(ステップS17)。そして、超音波検査装置100Bは、検出データ記憶部111aに記憶された検出データを用い、被検査体1の走査範囲の2次元超音波像を、表示部112によって表示する(ステップS19)。
【0078】
超音波検査装置100Bでは、このように2次元超音波像を取得するための処理に加え、その2次元超音波像内(検出データ内)の異常箇所の有無を判定する処理を実行させることが可能になっている。
【0079】
図10は第2の実施の形態に係る超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
超音波検査装置100Bは、例えば、被検査体1の走査範囲について発信信号と受信信号の差分の検出データを取得した後、この図10に示すような処理を実行する。
【0080】
超音波検査装置100Bでは、図10に示す処理の実行前に、予め比較データ記憶部111bに、後述のような比較データが用意される。また、超音波検査装置100Bでは、図10に示す処理の実行前に、検出データ内の比較データとの比較対象範囲、即ち、カンチレバー101の走査範囲のうちどの走査範囲を比較データと比較するかが設定される。尚、勿論、カンチレバー101の全走査範囲を比較対象範囲としてもよい。また、超音波検査装置100Bでは、図10に示す処理の実行前に、検出データと比較データとの比較に基づく異常箇所の有無の判定に用いる閾値が設定される。尚、上記の比較対象範囲の設定、及び閾値の設定は、例えば、入力部114から行うことができ、その設定に基づき、制御部113が信号処理部110の判定部110cの処理を制御する。
【0081】
超音波検査装置100Bは、判定部110cにより、設定された比較対象範囲について、カンチレバー101の走査位置(画素)ごとに、検出データ記憶部111aに記憶された検出データと、比較データ記憶部111bに記憶された比較データの差分を検出する(ステップS30)。
【0082】
検出データとの差分検出に用いる比較データとしては、例えば、今回検査した被検査体1と同種の被検査体であって、構造不良箇所を含まないものを検査したときに取得された検出データを、比較データ記憶部111bに記憶し、それを用いることができる。また、今回検査した被検査体1内の異なる箇所に同種の内部構造が含まれる場合には、そのような同種の内部構造が含まれる部分について取得された検出データを、比較データ記憶部111bに記憶し、それを比較データとして用いることもできる。
【0083】
超音波検査装置100Bは、検出データ記憶部111aに記憶された検出データと、比較データ記憶部111bに記憶された比較データの差分を検出した後、判定部110cにより、その差分を、設定された閾値と比較する(ステップS31)。
【0084】
超音波検査装置100Bは、ステップS31で差分が閾値を上回る場合には、判定部110cにより、この画素(カンチレバー101の走査位置)で検出された検出データ(位相差等の差分)が異常であると判定する(ステップS32)。即ち、超音波検査装置100Bは、このような検出データの画素は、2次元超音波像において、異常なコントラストで表示されると判定し、この画素に構造不良箇所が存在すると判定する。
【0085】
超音波検査装置100Bは、ステップS31で差分が閾値を下回る場合には、判定部110cにより、この画素(カンチレバー101の走査位置)で検出された検出データ(位相差等の差分)が正常であると判定する(ステップS33)。即ち、超音波検査装置100Bは、このような検出データの画素は、2次元超音波像において、正常なコントラストで表示されると判定し、この画素には構造不良箇所が存在しないと判定する。
【0086】
ステップS32,S33での判定部110cによる判定結果は、記憶部111に記憶される(ステップS34)。
超音波検査装置100Bは、このようなステップS30〜S34の処理を、設定された比較対象範囲の全画素について実行する(ステップS35)。
【0087】
超音波検査装置100Bは、ステップS30〜S35の処理によって得られた情報を、表示部112によって表示することができる。また、超音波検査装置100Bは、ステップS30〜S35の処理によって得られた情報を、2次元超音波像と重ね合わせ、例えば異常と判定された画素を正常と判定された画素と識別可能な表示にして、表示部112によって表示することもできる。
【0088】
また、ここでは比較データとして、超音波検査によって取得されたデータを利用する場合について説明した。このほか、比較データとしては、例えば被検査体1として電子デバイスを用いる場合等では、そのような被検査体1について行った電気的な検査の結果を利用することもできる。その場合は、上記の閾値を適宜変更する。
【0089】
上記のような超音波検査装置100Bによれば、被検査体1の内部構造について、精度の良い検査を行うことが可能になり、また、検査により得られたデータを用いて、被検査体1の異常の有無を自動で判定することが可能になる。
【0090】
尚、以上説明した超音波検査装置100A,100Bのカンチレバー101には、単一のカンチレバーを用いることができるほか、複数のカンチレバーを有するカンチレバー型プローブカードを用いることもできる。その場合は、当該プローブカードの複数のカンチレバーを被検査体1上に設置し、発信部107から発信されて被検査体1を伝播した超音波信号を、各カンチレバーによって受信する。これにより、単一のカンチレバーを走査したときと同様の処理を実現することができる。
【0091】
また、以上説明した超音波検査装置100A,100Bでは、カンチレバー101による信号受信を、光テコ方式で検出する場合を例示したが、カンチレバー101自身の振動を直接電気信号に変換する、自己検知式で検出するようにしてもよい。
【0092】
また、超音波検査装置100A,100Bが有する処理機能は、コンピュータを用いて実現することができる。
図11はコンピュータの構成例を示す図である。
【0093】
超音波検査装置100A,100Bでは、コンピュータ400のCPU(Central Processing Unit)401により、全体が制御される。例えば、CPU401を用いて制御部113の処理が実現され、位置制御部103、関数発生部108、増幅部109、信号処理部110、表示部112の処理が制御される。CPU401にバス408を介して接続されたRAM(Random Access Memory)402には、CPU401に実行させるOS(Operating System)のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAM402には、CPU401による処理に必要な各種データが格納される。
【0094】
ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)403には、OSのプログラム、アプリケーションプログラム、及び各種データが格納される。例えば、HDD403は、記憶部111として用いられる。
【0095】
グラフィック処理装置404には、モニタ501が接続され、グラフィック処理装置404は、CPU401からの命令に従って、画像をモニタ501の画面に表示させる。例えば、グラフィック処理装置404及びモニタ501を用いて表示部112の処理が実現される。
【0096】
入力インタフェース405には、キーボード502やマウス503が接続され、入力インタフェース405は、キーボード502やマウス503から送られてくる信号をCPU401に送信する。例えば、入力インタフェース405とキーボード502やマウス503を用いて入力部114の処理が実現される。
【0097】
光学ドライブ装置406は、DVD(Digital Versatile Disc)、DVD−RAM、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD−R(Recordable)/RW(ReWritable)等の光ディスク504に対し、データの読み取り、書き込みを行う。
【0098】
通信インタフェース407は、ネットワーク600に接続され、ネットワーク600を介して、他のコンピュータ又は通信機器との間でデータの送受信を行う。
また、超音波検査装置100A,100Bの制御部113が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供される。そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。尚、処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体(磁気記憶装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等)に記録しておくことが可能である。
【0099】
以上説明したように、上記の超音波検査装置、及びそれを用いた超音波検査方法によれば、被検査体の内部構造を、高い分解能で、精度良く、非破壊で検査することが可能になる。尚、カンチレバーを用いているため、この超音波検査装置をSPMとして用い、被検査体の内部構造と共に、密度や粘弾性等の物性分布も併せて検査することも可能である。
【0100】
以上説明した実施の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) 発信部と、カンチレバーと、信号処理部と、表示部とを有する超音波検査装置を用いた超音波検査方法であって、
被検査体の第1の面側から前記発信部によって第1の超音波信号を発信する工程と、
前記被検査体の前記第1の面側と反対の第2の面側において、前記カンチレバーを走査し、前記被検査体を伝播した第2の超音波信号を前記カンチレバーによって受信する工程と、
前記カンチレバーの走査位置ごとに、前記第1の超音波信号と前記第2の超音波信号との差分を前記信号処理部によって検出する工程と、
前記差分を前記表示部によって2次元表示する工程と、
を含むことを特徴とする超音波検査方法。
【0101】
(付記2) 前記被検査体は、前記被検査体内部に検査対象部位を含み、
前記第1の超音波信号を発信する工程前に、前記検査対象部位は非破壊で、前記被検査体を研磨する工程を更に含むことを特徴とする付記1に記載の超音波検査方法。
【0102】
(付記3) 前記被検査体は、半導体基板と、前記半導体基板の一方の面側に形成された素子とを含む電子デバイスであり、前記検査対象部位は、前記素子であり、
前記被検査体を研磨する工程では、前記一方の面側の前記素子は非破壊で、前記半導体基板の他方の面側を研磨し、
前記第2の超音波信号を受信する工程では、研磨した前記他方の面側において、前記カンチレバーを走査し、前記第2の超音波信号を前記カンチレバーによって受信する、
ことを特徴とする付記2に記載の超音波検査方法。
【0103】
(付記4) 前記差分を検出する工程では、前記差分として、前記第1の超音波信号と前記第2の超音波信号との振幅、位相又は周波数の差分を検出することを特徴とする付記1乃至3のいずれかに記載の超音波検査方法。
【0104】
(付記5) 前記第2の超音波信号を受信する工程では、前記カンチレバーを前記被検査体に接触させ、前記被検査体から生じる振動信号を前記第2の超音波信号として受信することを特徴とする付記1乃至4のいずれかに記載の超音波検査方法。
【0105】
(付記6) 前記第2の超音波信号を受信する工程では、前記カンチレバーを前記被検査体と非接触の状態とし、前記被検査体から生じる音圧信号を前記第2の超音波信号として受信することを特徴とする付記1乃至4のいずれかに記載の超音波検査方法。
【0106】
(付記7) 前記第1の超音波信号を発信する工程では、前記第2の超音波信号を受信する前記カンチレバーの走査位置ごとに、前記第1の超音波信号をバースト発信することを特徴とする付記1乃至6のいずれかに記載の超音波検査方法。
【0107】
(付記8) 前記差分を用いて前記被検査体内部の異常の有無を判定する工程を更に含むことを特徴とする付記1乃至7のいずれかに記載の超音波検査方法。
(付記9) 被検査体の第1の面側から第1の超音波信号を発信する発信部と、
前記被検査体の前記第1の面側と反対の第2の面側に走査可能に配置され、前記被検査体を伝播した第2の超音波信号を受信するカンチレバーと、
前記カンチレバーの走査位置ごとに、前記第1の超音波信号と前記第2の超音波信号との差分を検出する信号処理部と、
前記差分を2次元表示する表示部と、
を含むことを特徴とする超音波検査装置。
【0108】
(付記10) 前記信号処理部は、前記差分として、前記第1の超音波信号と前記第2の超音波信号との振幅、位相又は周波数の差分を検出することを特徴とする付記9に記載の超音波検査装置。
【0109】
(付記11) 前記発信部は、前記第2の超音波信号を受信する前記カンチレバーの走査位置ごとに、前記第1の超音波信号をバースト発信することを特徴とする付記9又は10に記載の超音波検査装置。
【0110】
(付記12) 前記差分を用いて前記被検査体内部の異常の有無を判定する判定部を更に含むことを特徴とする付記9乃至11のいずれかに記載の超音波検査装置。
【符号の説明】
【0111】
1 被検査体
1a 第1の面
1b 第2の面
10,100A,100B 超音波検査装置
11,107 発信部
12,101 カンチレバー
13,103 位置制御部
14,110 信号処理部
15,112 表示部
101a 探針
102 圧電素子
104 レーザー照射部
105 光検出部
106 信号生成部
108 関数発生部
109 増幅部
110a 信号検出部
110b 差分検出部
110c 判定部
111 記憶部
111a 検出データ記憶部
111b 比較データ記憶部
113 制御部
114 入力部
115 中間層
200 電子デバイス
200a SRAM
210 半導体基板
210a 表面
210b 裏面
220 トランジスタ
221 ゲート絶縁膜
221a,230a,230b 構造不良箇所
222 ゲート電極
223 不純物拡散領域
230 素子分離領域
240 素子領域
250 絶縁層
260 コンタクト電極
300 補強材
310 接着剤
400 コンピュータ
401 CPU
402 RAM
403 HDD
404 グラフィック処理装置
405 入力インタフェース
406 光学ドライブ装置
407 通信インタフェース
408 バス
501 モニタ
502 キーボード
503 マウス
504 光ディスク
600 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発信部と、カンチレバーと、信号処理部と、表示部とを有する超音波検査装置を用いた超音波検査方法であって、
被検査体の第1の面側から前記発信部によって第1の超音波信号を発信する工程と、
前記被検査体の前記第1の面側と反対の第2の面側において、前記カンチレバーを走査し、前記被検査体を伝播した第2の超音波信号を前記カンチレバーによって受信する工程と、
前記カンチレバーの走査位置ごとに、前記第1の超音波信号と前記第2の超音波信号との差分を前記信号処理部によって検出する工程と、
前記差分を前記表示部によって2次元表示する工程と、
を含むことを特徴とする超音波検査方法。
【請求項2】
前記被検査体は、前記被検査体内部に検査対象部位を含み、
前記第1の超音波信号を発信する工程前に、前記検査対象部位は非破壊で、前記被検査体を研磨する工程を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の超音波検査方法。
【請求項3】
前記差分を検出する工程では、前記差分として、前記第1の超音波信号と前記第2の超音波信号との振幅、位相又は周波数の差分を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波検査方法。
【請求項4】
前記第1の超音波信号を発信する工程では、前記第2の超音波信号を受信する前記カンチレバーの走査位置ごとに、前記第1の超音波信号をバースト発信することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の超音波検査方法。
【請求項5】
前記差分を用いて前記被検査体内部の異常の有無を判定する工程を更に含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の超音波検査方法。
【請求項6】
被検査体の第1の面側から第1の超音波信号を発信する発信部と、
前記被検査体の前記第1の面側と反対の第2の面側に走査可能に配置され、前記被検査体を伝播した第2の超音波信号を受信するカンチレバーと、
前記カンチレバーの走査位置ごとに、前記第1の超音波信号と前記第2の超音波信号との差分を検出する信号処理部と、
前記差分を2次元表示する表示部と、
を含むことを特徴とする超音波検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−88159(P2012−88159A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234693(P2010−234693)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】