説明

超音波活性化抗感染症コーティング及びそれから作られる器具

血管アクセス器具及び血管アクセス器具の内面及び外面のうちの少なくとも1つの面上にコーティングを含む移植可能な医療器具が提供される。前記コーティングは、(a)光反応性部分及び音反応性部分のうちの少なくとも1つを含むポリマー成分;及び(b)前記ポリマー成分と放出可能であるように結合された少なくとも1つの治療剤を含み、前記医療器具の、光エネルギー源及び超音波エネルギー源のうちの少なくとも1つへのインサイツ曝露によって前記治療剤の放出速度を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
この国際出願は、2004年7月21日に出願された米国出願第10/896193号の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般には、治療剤の送達のための生体適合性ポリマーコーティングを有する移植可能な医療器具に関するものである。より詳細には、本発明は、少なくとも1つの治療剤を含む生体適合性ポリマーコーティングを有する移植可能な医療器具に関するものであり、それによって、治療剤は、超音波エネルギー及び光エネルギーのうちの少なくとも1つへの曝露によって前記コーティングから放出される。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
中心血管アクセス器具(CVAD)は、患者の血管系に移植される医療器具であり、典型的には患者の血管系に繰り返し到達するための手段を提供する用途で使用される。CVADの用途は様々であり、例えば静脈内供給、静脈内ドラッグデリバリー及び体外プロトコルなどが挙げられる。具体的な用途としては、化学療法による治療、集中的抗生物質治療、遷延性IV摂食及び体外血液処理プロトコル(例えば、血液透析、血液濾過及びアフェレーシス)などが挙げられる。
外部構成要素(患者の皮膚の外側に位置する)を有するCVADは、使用するのに都合がよく、殺菌したカニューレを用いてCVADに到達し、通常の洗浄及び包帯の交換の形で十分なメンテナンスを提供する熟練した開業医によって安全に使用される。しかしながら、外部構成要素の存在により、副次的な感染のリスクがある。具体的には、外部構成要素は、細菌のような気中浮遊汚染物質への曝露ルートとして作用する場合がある。
全移植静脈アクセス器具(本明細書においてTIVADとも呼ばれる。)は、患者の血管系に移植されるが、外部構成要素をもたない種々の血管アクセス器具である。前記器具全体は、患者の皮下に移植される。TIVADは、可能な場合には、外部構成要素を有する他の中心血管アクセス器具(CVAD)とは対照的に、より日常的に使用されるようになった。TIVADの例は、循環系に到達する場合、例えば透析処置を行う場合に使用される動脈-静脈(A-V)ポートである。このポートは、HUBER針又は他の結合管の経皮的配置によって皮膚を通って到達される。従来のポートの例を図1に示す。A-Vポート(一般には、参照番号2と呼ばれる。)は、カテーテルコネクタ8を通って1つ以上の貯蔵所アクセスポート6に結合したルーメンカテーテル4を含む。カテーテル4は血管内に留まる。ポート6は、流体の貯蔵所を画定する不浸透性ハウジング10を含む。ハウジング10は、中央に隔壁12を有するプラスチック又は金属ディスクを収容するための開口を含む。隔壁12は、針貫通性エラストマー(elastometric)材料であり、貯蔵所への入り口として作用する。市販のポートの別の例としては、米国特許第5399168号明細書に開示されるもの又はVAXGEL移植可能ポート(ボストンサイエンティフィック社、ネーティック、MAから入手可能)などが挙げられる。
【0004】
ポートのようなTIVADは、他のCVADよりもメンテナンスの必要性が少ない。例えば、正確に機能するポートは、1ヶ月に1回だけ洗浄すればよい。さらに、そのようなポートには、外部の包帯は必要ない。他のCVADに対する、TIVADを用いることの利点は、空気汚染への起こり得る曝露を回避する保護性の皮膚保護剤による感染のリスクの低減である。CVADに対する、TIVADの別の利点は、一般には、患者の許容性がより大きいことである。
CVADの使用に関連するリスクとしては、血栓症及び血栓静脈炎のような局所合併症及び塞栓症、肺水腫及び血流感染などの全身性合併症などが挙げられる。感染のリスクは、他のCVADと比較して、TIVADでは低減されるが、患者がポート、特にポートが到達する領域で感染する可能性が依然としてある。
TIVAD型A-VポートがA-V到達のために有用である平均時間は、約2年である。この2年間に、患者の約20%で、感染が生じ、しばしばポートの取り外しの原因となる。この場合に、A-V到達は再確認されなければならない。しばしば、これは、A-V到達のための別の部位を見つけ、通常の血液透析の予定が再開される前に、最大3週間の時間待つことを意味する。
A-Vポートの感染は、透析処置を受ける患者の死の主な原因として記録されていた。感染が、A-V到達セットアップの際に、又は血液透析手順自体で導入され得る原理的に3つの経路がある。第1に、細菌は、無菌を破る際にA-Vアクセス器具自体により移植され得る。第2に、細菌は、すでに前記器具の表面に存在している場合がある。第3に、細菌は、外部細菌源(例えば、中心静脈カテーテル及び針)から感染し得る。感染のための侵入部位は、典型的には穿刺部位である。
【0005】
CVADに関する感染のための治療過程は、医療器具のタイプ、患者の状態及び感染を引き起こす細菌自身に依存する。最も一般的な病原菌は、黄色ブドウ球菌、緑膿菌及び表皮ぶどう球菌である。これらの病原菌は、報告された血管感染すべての75%を超えるとされている。黄色ブドウ球菌及び緑膿菌は、ともに高いビルレンスを示し、術後(4ヶ月以内)に感染初期の臨床的症状につながり得る。それは、敗血症をもたらし、高い死亡率の1つの主要因であるこのビルレンスである。それは、遅れて発生し、術後最大5年で、感染の臨床的症状を示し得ることを意味する。この種の細菌は、血管移植感染すべての最大60%の原因であることが示されている。
血管ポート感染は、経口用の抗生物質の標準治療単位(course)で治療するのが難しい。したがって、この種の感染は、しばしば全移植切除術、周囲の組織のデブリドマン及び非感染性ルートによる血管再生を必要とする。そのような感染に対処するために、感染部位で、移植可能な医療器具(例えば、ポート)が治療剤を送達するための機構を有することは有利である。
一般に、ある特定の設計パラメータが、治療剤の適切な送達にとって重要であることが知られている。典型的には、(1)前記剤を標的組織へ送達すること;(2)前記剤を正しい時間的パターンで一定期間供給すること;及び(3)所望の空間的及び時間的パターンを与えるデリバリシステムを組み立てることである。調節された、又は徐放性のデリバリシステムは、従来の投薬と比較して、前述の利点を達成するために、これらのパラメータを操作することを目的としている。従来の非経口又は経口剤形(A)及び理想的な持続性ドラッグデリバリシステム(B)のための時間プロファイルに対する典型的な薬剤濃度は、図2に示されるようであるかもしれない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
医療器具担体に治療剤を与える現在可能な方法の欠点は、治療剤の放出速度を調節する手段がないことである。例えば、従来の生分解性ポリマーでは、薬剤の定常状態速度又は徐放性は、特にポリマーの分解速度に基づいて生じる。したがって、治療剤の送達の時間又は速度に対する調節ができない。このシステムを使用して、治療剤が患者によって必要とされる時間までに、治療剤が使い尽くされる可能性がある。したがって、患者は、感染がない場合でさえ、治療剤を投薬される。さらに、積極的な感染は、治療(すなわち、抗菌)剤の徐放性によって送達されるよりも多い投薬を必要とするかもしれない。
したがって、積極的な感染に対処する必要がある場合に、治療剤の投薬を増加させるために、CVAD、特にTIVADのような移植された医療器具が可変性薬剤放出を与えることは有利である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要約)
本発明は、少なくとも1つの治療剤を含むポリマー構造を含む医療器具のためのコーティングを提供し、治療剤のポリマー構造からの放出速度は、前記コーティングの、超音波エネルギー及び光エネルギーのうちの少なくとも1つへのインサイツ曝露によって調節される。患者に移植された医療器具のコーティングとして使用する場合、このコーティングは治療剤を必要に応じて患者に与える。
本発明によれば、血管アクセス器具及び前記血管アクセス器具の内面及び外面のうちの少なくとも1つの面上にコーティングを含む移植可能な医療器具が提供される。前記コーティングは、(a)光反応性部分及び音反応性部分のうち少なくとも1つを含むポリマー成分;及び(b)前記ポリマー成分と放出可能であるように結合された少なくとも1つの治療剤を含み、前記医療器具の、光エネルギー源及び超音波エネルギー源のうちの少なくとも1つへのインサイツ曝露によって前記治療剤の放出速度を調節する。
また、(a)本発明の医療器具を、それを必要とする患者に皮内移植し、(b)光エネルギー源及び超音波エネルギー源のうちの少なくとも1つへの皮内又は皮外曝露によって、前記治療剤を前記患者に対して放出することを含む、患者を治療する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(詳細な説明)
本発明は、ポリマー成分及びそれと結合された放出可能な治療剤を有するコーティングを含む医療器具に関するものである。前記コーティングは、1つ以上のポリマーを用いて1つ以上の治療剤を機械的に保持し、化学的に前記ポリマーに結合する。前記コーティングは、医療器具、好ましくはTIVADを必要とする患者にそれを移植する前に、その内面及び/又は外面のうちの少なくとも一部に配置される。治療剤の放出速度は、光又は超音波エネルギー源のうちの少なくとも1つへの曝露によって調節される。
【0009】
(好ましいポリマー)
本発明のコーティングを調製するのに有用なポリマーとしては、各種の公知のポリマーが挙げられる。個々のポリマー-治療剤の組合せの作用の機構は異なるかもしれないが、本発明で使用されるポリマーに共通なものは、化学的及び物理的安定性、生物学的不活性及び加工可能性の性質である。さらに、A-Vポートの隔壁部分をコーティングする際に使用するための別の望ましい性質としては、特に柔軟性の特性を与える低ガラス転移温度などが挙げられる。
有用なポリマー材料としては、ポリマー、コポリマー、ブロックポリマー及びこれらの混合物が挙げられる。なかでも、上記基準を満たす公知の有用なポリマー又はポリマー類は、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(L-乳酸)(PLLA)(PLA)、ポリオキサラート、ポリ(α-エステル)、ポリ無水物、ポリアセタート、ポリカプロラクトン、ポリ(オルトエステル)、ポリアミノ酸、ポリウレタン、ポリカルボナート、ポリイミノカルボナート、ポリアミド、ポリ(アルキルシアノアクリラート)及びこれらの混合物及びコポリマーである。さらに有用なポリマーとしては、L-及びD-乳酸のステレオポリマー、1, 3 ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパンとセバシン酸のコポリマー、セバシン酸コポリマー、カプロラクトンのコポリマー、ポリ(乳酸)/ポリ(グリコール酸)/ポールエチレングリコールターポリマー、ポリウレタンとポリ(乳酸)のコポリマー、α-アミノ酸のコポリマー、α-アミノ酸とカプロン酸のコポリマー、α-ベンジルグルタマートとポリエチレングリコールのコポリマー、ポリコハク酸とポリ(グリコール)のコポリマー、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシ-アルカノアート及びこれらの混合物が挙げられる。2成分及び3成分系が検討される。
好ましくは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(α-アミノ酸)、ポリウレタン、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリヒドロエチルメタクリラート、及びこれらのコポリマー及びブロックポリマーである。
【0010】
本発明で用いられるコーティングの形成において用いることができるいくつかの具体的なポリマーは、一般に以下のように分類される:
I.ポリエステル
a)ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL):
【化1】

b)ポリ(グリコール酸)(PGA):
【化2】

c)ポリ(L-乳酸)(PLLA):
【化3】

d)ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA):
【化4】

e)ポリ(乳酸-co-ε-カプロラクトン)(PLACL):
【化5】

【0011】
II.ポリ(エチレングリコール)、PEGブロックコポリマー(ポリ(エチレンオキシド)(PEO)とも呼ばれる。)
a)PLA-PEG時ブロックコポリマー:
【化6】

b)PLA-PEG-PLAトリブロックコポリマー:
【化7】

c)ポリ(オルトエステル):
【化8】

水を含んだ環境内で、オルトエステル基は、加水分解してペンタエリスリトール(pentaethyritol)とプロピオン酸(proprionic acid)を形成する。これは、塩基又は酸成分をマトリックスに導入することによって調節される。
【0012】
III.ポリ無水物
a)ポリ[1,3 ビス(p-カルボキシフェノキシプロパン)]、x=3
ポリ[1, ビス(p-カルボキシフェノキシヘキサン)]、x=6
【化9】

b)ポリ(無水セバシン酸(sebactic anhydride)):
【化10】

【0013】
IV.ポリ(アクリル酸)(PAA)及び誘導体、及びこれらのビニルポリマー、例えば:
a)R=H-又はCH3-(メタクリル)
R'=H-又はHOCH2CH2-
【化11】

b)R=H-又はCH3-
R'=-CH2CH(OH)CH3、-CH(CH3)2
【化12】

c)ポリビニルアルコール(PVA):
【化13】

d)ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)(PEVAc):
【化14】

例えば、生理活性物質の徐放についての第28回国際シンポジウム(サンディエゴ、CA、2001年6月)の予稿集311〜312ページ(C. Aschkenasy及びJ. Kost)を参照のこと。
【0014】
V.ポリ(アミノ酸)及びコポリマー
(a)ポリ(リジン):
【化15】

b)ポリ(乳酸-co-リジン):
【化16】

【0015】
VI.ポリウレタン及びブロックコポリマー
a)R=(CH2)n
n=4-6
【化17】

市販のポリウレタンとしては、BIOMER、ACUTHANE(ダウケミカル社から入手可能)、PELLETHANE(ダウケミカル社(ウィルミントン、DE)から入手可能)、及びRIMPLASTなどが挙げられる。
【0016】
VII.ポリ(ジメチルシロキサン)
【化18】

【0017】
適した市販のポリマーの別の例としては、PLURONIC(BASF社(ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ)から入手可能);MEDISORB、ELVAX40P(エチレン酢酸ビニル)及びBIODEL(デュポン社(ウィルミントン、DE)から入手可能);及びポリマー番号6529C(ポリ(乳酸))及びポリマー番号6525(ポリ(グリコール酸))(ポリサイエンス社(ウォリントン、PA)から入手可能)などが挙げられる。
本発明の1つの局面では、使用されるポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチルであり、単独で、又は2つ以上組み合わせて使用される。
本発明の好ましい局面では、前記ポリマーは、体内での使用に関してFDA承認されている。ポリマーの混合物及びポリマーの層は、本発明で使用されるコーティングにおいて検討される。本明細書においてさらに考察されるように、公知のポリマーを用いて、又は誘導体化して、それに含まれる治療剤の放出速度を(感染点で直接)調節できるコーティングを提供してもよい。
【0018】
(本発明で有用なポリマーシステム)
治療剤を物理的に保持する公知のポリマーシステムは、ポリマーの構造的及び形態的配置に基づいて調節された放出様式で前記剤を送達する。具体的には、ポリマー膜の孔を通る粒子(例えば、治療剤)の輸送は、拡散及び対流のような質量輸送機構によって生じる。粒子の質量輸送は、ポリマー構造が孔を有するかどうか、及び孔を有する場合には、孔のサイズに依存する。約500オングストローム〜約1.0μmの範囲の相対的に大きな孔を有するマクロ孔質膜は、粒子を放出するために主に対流に頼る。マクロ孔質膜を形成できるポリマー材料の例としては、ポリウレタン、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールコポリマー及びポリ(乳酸-co-グリコール酸ポリエチレン)(poly(lactic-co-glycoide-polyethylene))などが挙げられる。
微孔性ポリマーシステムでは、その孔サイズが約100オングストローム〜約500オングストロームであり、輸送現象は、多孔質構造の幾何学的性質及び孔壁で区切られた孔の溶質によって制限される。微孔性膜を形成できるポリマー材料の例としては、マクロ分子治療剤が組み込まれたエチレン酢酸ビニルコポリマーなどが挙げられる。例えば、Fhine et al., J. of Pharmaceutical Sci., 69: 265-263 (1980)を参照のこと。
【0019】
非多孔性ポリマーシステム(例えば、ヒドロゲル)は、ポリマー内の絡み合った、架橋した又は結晶性の鎖ネットワークの分子鎖に基づく内部構造を有する。本明細書で使用される「ヒドロゲル」は、溶解することなく水に膨潤し、その構造内に有意な量の水を保持するポリマー材料である。ヒドロゲルは、弾力的に変形してもよい。マクロ分子鎖間の空間はメッシュサイズである。これらのポリマーシステムでは、拡散は、ポリマー構造の厚さ及び表面積のような幾何学的パラメータ及び膜を通る溶質の透過性に関連する生理化学的パラメータを調節することによってある程度の広がりに制限できる。結晶相、多孔質構造、膨潤度、添加濃度、架橋マクロ分子鎖のメッシュサイズ及び熱力学的ガラス/ゴム転移のようなポリマー構造の特性を調節することにより、拡散を調節することができる。特に、架橋及び/又は絡み合ったポリマー鎖は、拡散速度を下げるための篩い分け効果を生じる。本発明で有用なヒドロゲルとしては、例えばポリメタクリル酸ヒドロキシエチル、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
ポリマーシステムの別の形態は、ポリマー膜が治療剤のコアを囲む貯蔵システムである。この実施態様では、多孔性又は非多孔性ポリマーは、微粒子又はナノ粒子の中に治療剤を封入し、微粒子又はナノ粒子は、治療剤のための微小容器又はミセルを形成する。この実施態様で使用する好ましいポリマーの限定されない例としては、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(アクリル酸)(PAA)及びポリ(ビニルアルコール)(PVA)又はこれらのコポリマー又はブロックポリマーなどが挙げられる。例えば、Tian及びUhrich, Polymer Preprints, 43(2): 719-720 (2002)を参照のこと。好ましくは、前記ポリマーは両親媒性であり、環状ミセル内への前記ポリマーの組織化を促進する調節された疎水性及び親水性バランス(HLB)を含む。治療剤は、後の放出のためにミセル内に含まれている。適した貯蔵システムの例としては、膨潤ポリ(2-メタクリル酸ヒドロキシエチル)(PEMA)のようなヒドロゲル、シリコーンネットワーク、エチレン酢酸ビニルコポリマーなどが挙げられる。例えば、Pedley et al., Br. Polymer J., 12: 99 (1980)を参照のこと。別の例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキシドなどが挙げられる。
【0020】
さらに、それに含まれる治療剤を放出するために、化学的に分解する公知のポリマーシステムは、本発明で使用するために適応できる。具体的には、ポリマーマトリックスと呼ばれるポリマーシステムは、ポリマーの化学的分解又は侵食を促進して治療剤を放出する性質を有する。化学的に、バルクマトリックスのポリマー侵食には3つの機構がある。第1に、架橋の分解は、バルクマトリックスからポリマー鎖を取り除く。第2に、水不溶性ポリマーの可溶化は、側鎖の加水分解、イオン化又はプロトン化の結果として生じる。第3に、ポリマー鎖の骨格構造に付属した不安定な骨格結合の分解。この機構では、加水分解性の不安定な骨格又は側鎖を有するポリマーは、分解プロセスに寄与する。
架橋の分解は、ポリマーがエステル又はアミド官能基のような架橋内の不安定な部分を含むか、又は含むように誘導体化される場合に起こり得る。任意のポリマー材料は、一般に当業者に公知の方法を用いてそのような不安定な部分を含むように誘導体化してもよい。
化学的分解の第2のタイプを示すポリマーマトリックス材料の例としては、可溶化され得るペンダント基を含むものなどが挙げられる。このタイプの具体的なポリマーとしては、ポリ(L-リジン-co-ポリエチレングリコール)、ポリ(メタクリル酸-co-メタクリルオキシエチルグリコシド)及びポリ(メタクリル酸-co-エチレングリコール)などが挙げられる。
化学的分解の第3のタイプを示すポリマーマトリックス材料の例としては、ポリマー骨格内に不安定な結合を有する高分子量水不溶性ポリマーなどが挙げられる。これらの不安定な結合は切断され、ポリマーの切断された部分は小さい水溶性分子に変換される。あるいは、浸出技術は、骨格結合を切断してポリマーの量を減少させ、そこに捕獲されていた治療剤がポリマーの外に流れることができるようにする。そのような生侵食(bioerodible)ポリマーの例としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)及び乳酸/グリコール酸コポリマー、ポリアミド、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(オルトエステル)、及びポリ無水物などが挙げられる。マトリックスを形成するのに適したポリマーの別の限定されない例としては、ポリ無水物、エチレン-酢酸ビニル、ポリ(乳酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(ε-カプロラクトン)、乳酸/グリコール酸コポリマー、ポリオルトエステル、ポリアミドなどが挙げられる。非分解性ポリマーとしては、エチレン-酢酸ビニル及びシリコーンなどが挙げられる。
【0021】
あるいは、適切な光エネルギーを当てたときに、結合している治療剤を放出するように反応する適切なリンカーを用いて、光増感剤をポリマー骨格又は骨格の側鎖に結合することが可能である。この実施態様では、治療剤は、側鎖を介してポリマー骨格と結合されてもよく、光増感剤は、治療剤の近くに、同じ又は異なるポリマー骨格と結合されてもよい。また、光増感剤を直接治療剤と結合させることができ、又はリンカーと治療剤の間に光増感剤を挿入することもできる。この実施態様で使用するのに適したポリマーの例としては、N-(-2 ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドと酵素によって分解しうるオリゴペプチドポリ(L-リジン-コポリエチレングリコール)のコポリマーなどが挙げられる。
これらの公知の各ポリマーシステムでは、一度、設計基準が選択されれば、ポリマー構成をインサイツで変更して、移植後に、含まれる治療剤の放出速度を変えることは、従来は知られていなかった。従来、これらのポリマーシステムは、いずれも十分な投薬量を送達するために十分に高い速度で侵食せず、又は治療剤をあまりにも早く放出していた。さらに、Langerの参考文献は、医療器具とは無関係に移植されるポリマー構造の圧縮移植を示すが、含まれる治療剤の放出速度が調節され、最初にシステム全体にわたって循環される必要がなく、治療剤が感染の場所に直接送達され得るポリマー材料で医療器具をコートすることは知られていなかった。このように、公知のポリマーシステムは、長期にわたって分解され得るが、又は前記ポリマーシステムは、孔構造を通る拡散により治療剤を放出し得るが、又は移植されるポリマー骨格は、治療剤を放出するために処理され得るが、コートした医療器具が、感染部位に治療剤をすぐに直接放出するために、エネルギー源にインサイツ曝露されてもよいことは今まで知られていなかった。
【0022】
(超音波応答性ポリマー材料)
本明細書で使用される「超音波」又は「超音波エネルギー」という用語は、約16kHz〜約1GHzの周波数範囲の媒体における力学的(「音響」又は「圧力」に関する)な波を参照する。超音波は縦波であり、伝搬方向が振動方向と同じである。超音波エネルギーの効果としては、一般に波源から約半波長の距離での伝搬媒体の圧縮及び伸張などが挙げられる。これは、媒体中の圧力の変化をもたらす。超音波の波長は次の関係により表される:
λf=C
(式中、
λ=波長
f=周波数
C=伝搬速度)
透過する組織の密度及び半値深を明らかにすることによって、十分な超音波エネルギーを体内の特定の位置に向けることができる。均一な組織(すなわち、皮膚)に垂直に超音波を適用することによって、次のように、組織における吸収強度を示す吸収係数を計算することができる:
I(X)=I0・e-ax
(式中、
I(X)=深さXでの強度
0=皮膚表面での強度
a=吸収係数)
一般に、放出速度は、適用される音波の強度に比例する。皮膚の表面での前記波の強度を知ることによって、既知の深さXでの吸収係数は、aについての上記式を解くことによって得ることができる。吸収に関するパラメータは、ある特定の媒体における強度を半分だけ減少させる音響ビームの方向における距離である半値深(D1/2)である。皮膚に関して、D1/2は、1MHzで11.1mmであり、3MHzで4mmである。
【0023】
超音波の効果は、熱加熱、キャビテーション及び流動などのいくつかの異なる物理的機構に関連する。熱加熱では、ポリマーに適用される超音波エネルギーの一部は熱に変換される。例えば、軟部組織を1W/cm2の強度の超音波ビームに曝すと、熱伝導が無視される場合、0.5℃/sの温度上昇を生じ得る。調節された局所熱加熱を生じさせるために超音波エネルギーを用いることは、ポリマー材料において、架橋結合の切断など(ただし、これに限定されない)の熱誘導変化を生じる。調節された条件のもとで熱を適用することにより、ポリマー材料からの治療剤の拡散速度、ポリマー材料の分解速度又はこれらの組合せを調節することによって治療剤の放出速度を調節する。
キャビテーションでは、液体又は準液体媒体への超音波の適用により、媒体中にガス又は蒸気の空洞又は泡に影響を及ぼす力が生じる。キャビテーションは、既存の核、又は空洞又は孔において安定化された又は媒体中で他の手段によって安定化された多量のガスを必要とするかもしれない。安定な、及び過渡的なキャビテーションが可能である。安定なキャビテーションでは、生成された音場において共鳴するサイズのガス泡は大きな振幅で振動する。超音波圧力サイクルで振動する泡の膨張及び収縮は、ガス泡がないときに比べて、周囲の媒体をより高速で流入及び流出させる。水中で、1MHzでキャビテーション泡の共鳴する直径は約3.5μmである。そのような共鳴から生じる脈動するガス泡は空気/液体界面で非対称である。そのような脈動する非対称振動泡の表面は、直接隣接する液体中に、安定した渦運動を生じさせる(しばしば、マイクロ流動と呼ばれる)。この脈動は、ポリマーの内部構造の断片化を生じさせるのに十分に強い局所的剪断作用を生じる。例えば、主鎖断裂は、液体媒体のキャビテーション中に衝撃波によってもたらされる場合がある。
【0024】
アコースティックストリーミングは、流体の時間非依存性流れが音場によってもたらされる音波伝搬の固有の特性である。どんな特定の理論にも制限されることを意図しないで、流動は波の吸収及び伝搬によって分散される運動量の保存に関連すると考えられる。流動の結果として、熱及び質量の高められた移動、反応速度の変化及び解重合のような物理的効果が起こり得る。したがって、超音波エネルギーを用いてポリマーシステムにおいてキャビテーション及び/又はマイクロ流動を生じさせることは、ポリマー材料からの治療剤の拡散速度を高めるために、孔構造の細分化及び膨張のような構造における制御された変化をもたらす。
さらに、化学的変化はキャビテーションによって一般に生じる。再度、どんな特定の理論にも限定されることを意図しないで、高圧力及び高温の組合せが、その収縮の際に泡中の水蒸気の解離にさらされた媒体内で、水溶性フリーラジカル及び水和電子(高い反応性化学種)を生成し得ると考えられる。得られたフリーラジカル(特に、-H及び-OHラジカル)のポリマー構造との化学反応は、ポリマー構造を分解して治療剤を放出する速度を高めるのに十分である。超音波エネルギーを用いてポリマーシステムにおける化学的変化を生じさせることにより、ポリマー材料からの治療剤の放出速度を高めることによってポリマーの基礎構造の制御された分解がもたらされる。
深部体組織は、一般に光に対して不透明であるが、超音波は、通常浸透できる。したがって、集束超音波変換器又は整相列から放出される超音波は、体内の任意の位置で集中させることができる。周波数に応じて、超音波変換器は、曝露の中心点でポリマーに低温キャビテーション、局所加熱及び/又は流動効果を生じさせることができる。このように、超音波にさらすことによるポリマー材料からの治療剤の、温度、物理的及び/又は化学的関連放出を開始することは、本発明の範囲内で都合がよい。
【0025】
本発明の1つの実施態様では、超音波は、コーティングの少なくとも一部に局所化及び制御された温度、物理的及び/又は化学的効果を生じさせるのに十分に医療器具上のコーティングに適用し、これによってポリマー材料からの治療剤の拡散速度、ポリマー材料の分解速度又はこれらの組合せを調節する。したがって、含まれる治療剤の放出速度は、適用される波の周波数、時間及び強度に基づいて制御される。
この実施態様では、上述の効果の少なくとも1つを生じさせて所望の速度で治療剤を放出するのに十分な条件及び時間、放出性治療剤を含むポリマー材料を超音波エネルギーにさらす。
適用される超音波エネルギーの強度、周波数又は時間の1つ以上を変化させることによって、ポリマー材料からの治療剤の放出速度を調節できる。適用される波の周波数、時間及び強度には制限はないが、組合せは、医療器具基板及び治療剤の構造の健全性及び機能を保持しながら、治療剤の所望の放出速度を提供するのに十分でなければならない。
好ましくは、超音波エネルギーは、超音波変換器から生成される。ポリマー材料からの短期間治療剤放出を達成するのに効果的な超音波の強度の範囲は、好ましくは約0.1W/cm2〜約30W/cm2であり、より好ましくは約1W/cm2〜約50W/cm2である。上述の通り、治療剤の放出速度は適用される音波の強度に比例する。このように、適用される超音波エネルギーの強度を増加させて放出速度を高めることが可能である。
好ましくは、超音波エネルギーは、約20kHz〜約10MHzの周波数範囲で提供され、皮膚を通って移植された医療器具に提供される。好ましくは、周波数は約50kHz〜約200kHzの範囲である。キャビティー効果を最大にするために、好ましくは使用される周波数は約2.5MHzである。
【0026】
波形の持続時間及び/又はパルスサイクルは、また1回の曝露で放出される治療剤の量に対して影響を与える。曝露時間は、また放出速度を調節するために変えてもよい。曝露時間は特に限定されないが、患者の快適さ及び便利さのため、曝露時間を最小にするのが望ましい。適した時間は、数秒の連続又はパルスから1時間まで、又はそれ以上の範囲である。好ましくは、曝露は、約20秒〜約10分であり、連続又はパルスであってもよい。特定のポリマー及び治療剤の組合せについて放出速度曲線を作成して、所望の治療剤の放出量及び/又は放出速度を達成するのに必要な時間を知ることができる。
超音波又は光にさらすことなく、少なくとも約6ヶ月間、好ましくは少なくとも約1年間侵食に対して実質的に抵抗性を有すべきことを除いては、これらの実施態様で使用されるポリマー材料に特に制限はない。
本発明の1つの局面では、コーティングで使用されるポリマー材料は、局所加熱から予期される高温にさらされることが治療剤の放出速度の増大をもたらすように、十分な量の温度不安定性の結合を有する。
さらに、本発明の別の局面では、キャビテーション関連効果を利用するために、前記ポリマーは、好ましくは気泡を含む孔を有する。本発明のこの局面では、ポリマー材料が治療剤を囲むミセルを含み、気泡を含むことが望ましい。好ましくは、ミセルは、直径が約0.01〜100μmであり、その中にミセルの体積の約5%〜約30%のガス体積を有する。好ましくは、治療剤は光活性化可能剤である。例えば、米国特許第6527759号明細書(参照により本明細書に組み込まれるものとする)を参照のこと。この実施態様への別の限定は、治療剤を放出させるために使用される局所温度で安定であるコートされた医療器具表面又は基板を含む。さらに、使用される治療剤は、ポリマー材料を重合するために、又は医療器具をコートするために使用される任意の高温で安定でなければならない。好ましくは、ポリマー材料は、室温で、又はほぼ室温で硬化させてもよい。
本発明の1つの局面では、ポリマーマトリックスを通って拡散により容易に治療剤を放出するポリマーは、超音波エネルギーにさらされることによって分解する架橋内部構造を含むために架橋剤を用いて誘導体化されてもよい。
【0027】
本発明の1つの局面では、コーティングで使用されるポリマー材料は、超音波エネルギーにさらされることによる局所高温にさらされることによって切断する結合を含む。そのような結合の例としては、エステル又は酸とアミンのような側鎖反応によってポリマーに導入されるエステル又はアミドなどが挙げられる。この実施態様で使用するのに適したポリマー材料の例としては、ポリ(L-リジン-co-ポリエチレングリコール)、ポリ(メタクリル酸-co-メタクリルオキシエチルグルコシド)及びポリ(メタクリル酸-co-エチレングリコール)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリアミド、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(オルトエステル)、及びポリ無水物などが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、コーティングの形成において適したポリマーの限定されない例としては、ポリ無水物、エチレン-酢酸ビニル、ポリ(乳酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(ε-カプロラクトン)、乳酸/グリコール酸コポリマー、ポリオルトエステル、ポリアミドなどが挙げられる。適した架橋剤は、当業者に明らかであろう。
本発明の別の局面では、コーティングで用いられるポリマー材料は、超音波エネルギーにさらしたときに、孔を拡大し、含まれる治療剤を放出するために、孔の内部配置の局所変化を形成することによって反応する孔を含む。この実施態様で使用するのに適したポリマー材料の例としては、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールコポリマー及びポリ(ラクチド-co-グリコリドポリエチレンオキシド)などが挙げられるが、これらに限定されない。
この実施態様の別の局面では、ポリマー材料は、治療剤を放出するために使用される局所高温にさらすことによって反応性を高めるために、温度感受性結合を含むように誘導体化される。この実施態様では、ポリマー材料は、超音波エネルギーにさらされたときに、ポリマー材料からの治療剤の放出速度を調節して増大する超音波反応性成分を含むように誘導体化される。
本発明のさらに別の局面では、コーティングに使用されるポリマー材料は、治療剤を放出するために超音波エネルギーにさらされることによって反応する結合及び孔の両方を含む。
【0028】
(光反応性ポリマー材料)
本発明の別の実施態様では、光反応性であるか、又は光反応性部分を含むように誘導体化されたコーティングが医療器具に適用される。大抵の有機反応は基底状態の分子間で行われる。しかしながら、光化学反応(特定の波長範囲の光を用いる)は、電子励起状態に分子を励起する。電子は、外部エネルギーのこの適用により分子の基底状態エネルギー準位からより高い準位に移動できる。励起分子によって生じる物理的プロセスとしては、励起、振動緩和、項間交差、一重項-一重項転移又は三重項-三重項転移(光増感)などが挙げられる。
いくつかの化合物では、光のある特定の波長にさらすことによる励起により励起三重項状態となる。これらの化合物(「増感剤」又は「光増感剤」)は、種々の他の化合物(「アクセプター」)と相互作用でき、アクセプターにエネルギーを移動させるか、又はアクセプターから電子を移動させることができ、こうして増感剤はその励起していない状態又は基底状態にもどる。大抵の化合物では、励起により励起一重項となる。三重項状態の光増感剤は、基底状態の酸素(三重項)を励起一重項に変換できる。Singlet Molecular Oxygen, A. Schaap Ed., Dowden, Hutchinson and Ross, Stroudsburg, PA (1976)を参照のこと。一重項酸素により、回りの物質の電子状態を変え、その物質の結合を切断するのに十分なエネルギーを得ることができる。
【0029】
適切なリンカー(適切な光エネルギーにさらされたときに、反応して結合している治療剤を放出する)を用いて、光反応性化合物又は光増感剤をポリマー骨格に結合することが可能である。例えば、光増感剤を脂肪族アミノ基を有する治療剤と結合して光反応性/治療剤複合体を形成することが可能である。ポリマー骨格又はコポリマー前駆物質は、コポリマー側鎖又は活性なエステル官能基を有する「リンカー」を含むように誘導体化されてもよい。複合体の脂肪族アミノ基は、アミノ分解反応によってポリマー前駆物質の活性なエステル官能基に結合されてもよい。これらの安定な部分は、医療器具用のコーティングとして使用されるコポリマーを形成してもよい。適切な光エネルギーの適用は、リンカーとの結合を切断することによってポリマーから治療剤を放出させる。例えば、N.L. Krinick et al., J. Biomater. Sci Polymer Edn., 5(4): 303-324 (1994)を参照のこと。有利には、前記ポリマーは、ポリマーの架橋されたマトリックスを含み、その表面に結合した又はそれに組み込まれた1つ以上の治療剤を含む。有利には、光化学反応基は、フルフリルアルコール又はメソ-クロリン e6 モノエチレンジアミン二ナトリウム塩である。
したがって、光反応性剤は、医療器具のポリマーコーティングに結合した治療剤と共に使用してもよい。治療剤の放出は、適切な光エネルギーにコーティングをさらすことによって調節される。この実施態様に適したポリマーとしては、N(-2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドとリンカーとのコポリマー、例えばポリ(L-リジン-co-ポリメチレングリコール)などが挙げられる。さらに、この実施態様に適したポリマーの限定されない例としては、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)及びポリ(アクリル酸)(PAA)などが挙げられる。
【0030】
治療剤又はリンカーの結合に有用である光増感剤としては、dabcylスクシンイミジルエステル、dabcyl塩化スルホニル、マラカイトグリーンイソチオシアナート、QSY7スクシンイミジルエステル、SY9スクシンイミジルエステル、SY21カルボン酸スクシンイミジルエステル、SY35酢酸スクシンイミジルエステルなどが挙げられ、これらはインビトロゲンライフサイエンス社(カールズバッド、CA)から市販されている。これらの光反応性剤は、約450nm〜約650nmの範囲の光を吸収する。
したがって、本発明の1つの実施態様では、ポリマー材料及び治療剤は結合部分によって結合されてもよい。結合部分は、第1末端でポリマー材料と結合し、第2末端で光化学反応基を介して治療剤と結合する。例えば、米国特許第5263992号明細書及び第6179817号明細書(参照により本明細書に組み込まれるものとする)を参照のこと。光エネルギーにさらすことにより、光化学反応基は治療剤を放出する。
1つの実施態様では、光反応性基を介して治療剤に結合したポリマー材料は、所望の速度で治療剤をリンカーから放出させる条件及び時間で、光エネルギーにさらされる。放出速度は、適用される光エネルギーの時間及び/又は強度を増大することによって調節できる。放出をもたらす光の適切な波長の選択は、当業者に明らかであろう。好ましくは、適用される光は、それにさらされる治療剤の効率又は医療器具の状態に影響を与えない。
【0031】
本発明の別の局面では、反応性脂肪族アミノ基を有する、又は含むように誘導体化された治療剤を、エステル又は酸官能基を有する、又は含むように誘導体化されたポリマーと結合することが可能である。エステル又は酸部分は、例えばポリマー又はコポリマー側鎖に存在してもよい。アミド化(amidization)反応は、治療剤の脂肪族アミノ基をポリマーのエステル基に結合する。治療剤などをポリマーに可逆的に負荷する他の方法は、当業者に公知である。例えば、反応性ヒドロキシル基を有する、又は含むように誘導体化された治療剤は、エステル又は酸官能基を有する、又は含むように誘導体化されたポリマーに結合されてもよい。
本発明の別の実施態様では、リンカーは、ポリマー材料と治療剤の間に配置された光反応性基を含む。光反応性基および治療剤は、ポリマー材料に組み込まれてもよく、又はその表面にコートされてもよい。光反応性基は、約200nm〜約800nmの波長範囲の光にさらすことによって治療剤を放出する。
【0032】
ここで、図3A及び3Bを参照すると、光反応性部分に結合したポリマー材料を用いる実施態様の略図が示される。医療器具14の表面は、ポリマー材料16の層のための基板として機能する。光反応性リンカー20は、ポリマー材料16と直接又は反応性基18を介して結合する。この実施態様では、リンカーの遊離端は、治療剤22と結合される光反応性部分20を含む。図3Bに示すように、適用されるエネルギー源24にさらすことによって、治療剤22はポリマー材料16から放出される。
ここで、図3C及び3Dを参照すると、本発明の別の実施態様の略図が示される。この実施態様では、医療器具14の表面は、ポリマー材料16'の層のための基板として機能する。層16'は、ポリマーA及びポリマーBとラベルされた2つの混和性ポリマー材料を含む。この実施態様では、ポリマーAは、光反応性部分20を含む。ポリマーBは、光反応性部分20の近くに、リンカー28と結合した治療剤22を含む。適用されるエネルギー源24にさらすことによって、光反応性部分20は、リンカー28と反応して、ポリマーBから治療剤22を放出する。
本発明のさらに別の局面では、光反応性薬剤はポリマーミセルに含まれる。ミセルは、医療器具基板とポリマーマトリックスとの間の層として加えられてもよく、又は基板上のポリマーコーティングに組み込まれてもよく、又は基板上のポリマーコーティング上に層として加えられてもよい。
ここで、図4A及び4Bを参照すると、さらに別の実施態様の略図が示される。この実施態様では、医療器具14の表面は、ポリマー材料16"によりコートされる。材料16"には、ミセル22が組み込まれ、及び/又はそのミセル22によってコートされる。ミセル22は、これに含まれる治療剤26を有する。適切な適用されるエネルギー源24にさらすことによって、ミセル22は、膨張して、又は開いて、これに保持されている治療剤26を放出する。また、好ましくは、治療剤は、光反応性であるか、又は光反応性であるように誘導体化される。
【0033】
(適した治療剤)
水溶性及び水に不溶性の治療剤は、いずれも本発明によって保護されるコーティングで使用できる。この出願の目的について、水溶性及び水に不溶性の治療剤という用語は、以下の定義を有する。水溶性治療剤は、1部の治療剤を完全に溶解するために必要とされる溶媒が30部以下であることを意味する。水に不溶性の治療剤という用語は、1部の治療剤を溶解するために必要とされる溶媒が30部よりも多いことを意味する。これらの用語についてさらに議論するために、U.S. Pharmacopia, National Formulary, latest editionを参照のこと(参照により、本明細書に組み込まれるものとする)。
適した治療剤の例としては、制限なく、抗血栓剤、抗菌剤、抗癌剤、抗ウイルス剤、細胞周期制御剤、これらの同族体、誘導体、断片(fragments)、医薬塩、及びこれらの組合せなどが挙げられる。好ましくは、治療剤は抗菌剤である。より好ましくは、治療剤は、光反応性であるか、又は光反応性部分を含むように誘導体化される。
有用な抗血栓剤としては、例えばヘパリン、ヘパリン硫酸、ヒルジン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸、溶解剤(lytic agents)(ウロキナーゼ及びストレプトキナーゼなどを含む)、これらの同族体、類似体、断片、誘導体及びこれらの医薬塩などが挙げられる。
有用な抗菌剤としては、例えばペニシリン、セファロスポリン、バンコマイシン、アミノグリコシド、キノロン、ポリミキシン、エリスロマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、スルホンアミド、これらの同族体、類似体、断片、誘導体、医薬塩及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0034】
有用な抗癌剤としては、例えばパクリタキセル、ドセタキセル、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン及びイホスファミドなどのアルキル化剤;メトトレキサート、6-メルカプトプリン、5-フルオロウラシル及びシタラビンなどの代謝拮抗剤;ビンブラスチン、ビンクリスチン及びエトポシドなどの植物アルカロイド;ドキソルビシン、ダウノマイシン、ブレオマイシン及びマイトマイシンなどの抗生物質;カルムスチン及びロムスチンなどのニトロソ尿素類(nitrosurea);シスプラチンなどの無機イオン;インターフェロンなどの生物機能修飾物質;アスパラギナーゼなどの酵素;及びタモキシフェン及びフルタミドなどのホルモン類;これらの同族体、類似体、断片、誘導体、医薬塩及びこれらの混合物などが挙げられる。
有用な抗ウイルス剤としては、例えばアマンタジン、リマンタジン、リバビリン、イドクスウリジン、ビダラビン、トリフルリジン、アシクロビル、ガンシクロビル、ジドブジン、フォスカーネット、インターフェロン、これらの同族体、類似体、断片、誘導体、医薬塩及びこれらの混合物などが挙げられる。
上述の治療剤は、種々の状態を予防又は治療するために使用されているが、それらは、一例として与えられ、本発明と共に使用するために等しく適用できる他の治療剤が開発されるかもしれないので、これに限定されることを意味しない。
治療剤の放出速度は、治療剤を含むポリマー構造がさらされる超音波エネルギー又は光エネルギーの強度、周波数及び時間によって調節される。前記放出速度は、また前記エネルギーにさらされる医療器具の面積によっても調節される。治療剤の原理的な制限は、治療剤がポリマーコーティングに組み込まれ、又は適用される超音波又は光エネルギー源にさらされる間分解されないこと、又は実質的に不活性にならないことである。さらに、治療剤は、それが含まれるポリマー材料と反応してはならない。一般に、本発明のコーティングに存在する治療剤の量は、投与される治療剤について、標準的な1回の投与量よりも多く、好ましくは標準的な1回の投与量よりも数桁多い。本発明の目的に適した治療剤の比率は、残りがポリマー成分である場合、一般にコーティングの約0.1〜約70重量部の範囲である。
【0035】
(コーティングを作製及び使用する方法)
コーティングは、本発明に従って、ポリマー材料を溶媒に溶解して第1溶液を形成し、この第1溶液を、治療剤を含む溶液又は懸濁液と混合することによって調製される。好ましくは、これらは、室温で、又はわずかに高い温度で攪拌することにより混合してもよい。室温で、又は治療剤を不活性化する温度よりも低い高められた温度でコーティングから容易に揮発する溶媒を用いることが好ましい。
用いられる治療剤が溶解したポリマー材料に不溶性である場合、乳鉢及び乳棒で粉砕することによって、前記剤を非常に細かく細分することが好ましい。好ましい形態は微扮されることである。すなわち、すべての粒子が5μm以下のサイズである粉末である。
コーティングは、最初に医用ポリウレタンのようなポリマー材料を溶媒に溶解することによるのが好ましい。次いで、治療剤を同じ又は異なる溶媒に溶解する。コーティングの生成において使用される溶媒は、具体的なポリマー材料及び治療剤又は治療剤の組合せによって異なる。例えば、有用な溶媒としては、酢酸、酢酸メチル(methyl acelate)、酢酸エチル、ヘキサン、N-Nジメチルアセトアミド(DMAC)、テトラヒドロフラン(tehahydrofuram)(THF)、アルコール、水、N-メチルピロリドン(NMP)又はN-エチルピロリドン(NEP)及びこれらの組合せなどが挙げられる。
ポリマー材料のためのある特定の所望の溶媒は、場合によって選ばれた治療剤のための良い溶媒ではないことがある。この場合、治療剤を溶解し、ポリマー材料のための溶媒と混和性である溶媒が選択される。このように、治療剤の溶媒溶液は、溶液中のポリマー材料と混合されてもよく、次いで2つの溶液は混合されて均一な混合物を形成する。
【0036】
粉末ポリマーと治療剤とを一緒に混合し、ディップコーティングすることによって医療器具に適用できる液体形状にこの混合物を溶融することによって、ポリマーマトリックスを形成してもよい。
あるいは、ポリマーマトリックスは、溶液を形成するために適切な溶媒と混合してもよい。次いで、ディップコーティング又はスプレーコーティングのような従来の方法を用いて医療器具に適用できる溶液に治療剤を加えてもよい。溶媒を乾燥工程で取り除き、ポリマーコーティングを残してもよい。
本発明の1つの局面では、前記ポリマーは、環状ミセルを形成するブロックポリマーである。例えば、Kim et al, J. of Controlled Release, 65(3), 345-358 (2000)を参照のこと。このように形成されたミセルは、治療剤を収容するのに十分に大きい。形成したら、公知の透析方法を用いて、ミセルに前記剤を組み込む。例えば、Kwon, et al., J. Controlled Release, 29, 17-23 (1994)を参照のこと。その後、組み込まれていない薬剤及び凝集粒子を除去するために、例えば遠心分離を用いて溶液を処理してもよい。このようにして形成されたミセルは、貯蔵のために凍結乾燥されてもよく、TIVADへの適用のために溶媒と混合されてもよく、又はヒドロゲル又はポリアミンマトリックス(単独で、又は先に記載したポリマーマトリックスと組み合わせて)を形成してもよい。
【0037】
したがって、別の実施態様では、治療剤の回りの環状ミセルは、医療器具へのコーティングとして適用されるポリマー材料及び混合物に添加される。この実施態様の略図が図4A及び4Bに示される。医療器具14は、治療剤22を含むミセル26を含むポリマー材料16を含む。ミセル26は、ポリマー材料16内に均一に分布していることが示され、それらは、細孔構造にトラップされ、広がったポリマー鎖に捕獲され、又はポリマー材料16の表面に存在し得る。図4Bに示されるように、エネルギー源24の適用により、ミセルは治療剤を放出する。
移植可能な医療器具は、本発明のポリマーコーティングでコートされ、それを必要とする患者に移植されてもよい。適したコーティング方法は、用いられる特定のポリマー材料に依存し、それは、当業者にとって明らかであろう。ディップコーティング、スプレーコーティング又はディップキャスティングのような従来のコーティング方法を用いてもよい。
【0038】
(本発明の医療器具の使用)
移植されると、医療器具は、含まれる治療剤を放出するために、治療剤の反応速度を高め、及び/又はポリマーを分解するエネルギー源にさらされる。治療剤の放出速度及び時間を調節するために必要なエネルギーは、容易に調整することができる。
安全で、効果的な投与量を生成するための最適エネルギーは、特定のポリマー構造及び用いられる治療剤に依存する。治療剤の安全な放出レベルを推定するために、インビボ環境を模倣し、既知のエネルギーレベルにさらすことによる治療剤の放出速度を観測するように設計された液体媒体内で移植物を試験することが可能である。このようにして、適用されるエネルギーに対する治療剤の放出速度曲線を導くことができる。コーティングは、この曲線に基づいて、適用されるエネルギーの適切な強度及び時間の選択により予め定められた治療剤の放出速度を達成するように作製することができる。
異なる治療剤を有する異なる光反応性ポリマーを用いることが可能であり、これにより第1光エネルギー源にさらすと、第1治療剤を放出し、第2(すなわち、異なる周波数)光エネルギー源にさらすと、第2治療剤を放出する。同様に、異なる治療剤を有する異なるポリマーコーティングを用いることが可能であり、これにより光エネルギー源にさらすと、第1治療剤のみを放出し、超音波エネルギー源にさらすと、第2治療剤を放出する。
医療器具を超音波エネルギーにさらすために、移植された器具を覆う皮膚の表面に超音波装置を配置することによって、市販の超音波変換器を用いてもよい。望ましくは、超音波エネルギーの伝達を改善するために、接触媒質を超音波装置と皮膚との間に配置してもよい。適した接触媒質は当業者に公知である。
移植された医療器具を光エネルギーにさらすために、皮内挿入のためのプローブを含む光源であって、適した光の波長を放出する光源を用いてもよい。前記プローブは、例えばAmirkhanian et al.の米国特許第6620154号明細書に開示されている。医療器具の上に直接又は医療器具内に皮内挿入することによって、前記プローブを用いて移植された医療器具の表面にレーザー療法を適用してもよい。
【実施例】
【0039】
(実施例1 超音波活性化可能ミセル)
この実施例では、治療剤を組み込んだミセルを形成する架橋ポリマー材料によって作製したコーティングを記載し、前記ミセルは超音波エネルギーにさらすことによって前記剤を放出する。下記に示すポリ(エチレングリコール)及びポリ(L-乳酸)からなる両親媒性交互共重合体を用いてミセルを形成する。ミセルのポリ(L-乳酸)内核においてN,N-ジエチルアクリルアミドを用いるポリマー化によって、ポリマーミセルをさらに安定化する。治療剤のための結合部位として、例えばCOOH、SO4H、NHなどの官能基を付加するためのアセチル化ヒドロキシアルキルカルボン酸誘導体の反応により、ミセルをさらに最適化する。
【0040】
【化19】

【0041】
親水性/疎水性コポリマーを塩化メチレンに溶解し、2分間の超音波処理により抗生物質及び/又は血栓形成剤を含むアルブミンの5%水溶液で乳化し、噴霧乾燥により粒子(10μm)を生成する。ミセルヒドロゲル微粒子を塩化ナトリウムの水溶液に再び溶解する。ポリマーミセル組成物をTIVAPの内側又は外側、あるいはその両方にディップコート及び/又はスプレーコートして、コートした医療器具を形成する。治療剤の放出は、移植物を覆う皮膚の表面に超音波エネルギーを適用することによって達成される。超音波エネルギーは、約20KHz〜約90KHzの周波数範囲で約0.1秒〜約20秒間である。治療剤は、ミセルの核から放出され、回りの組織に対して有効である。
【0042】
(実施例2 超音波活性化可能ミセル)
この実施例では、治療剤を組み込んだミセルを形成する架橋ポリマー材料によって作製したコーティングを記載し、前記ミセルは超音波エネルギーにさらすことによって前記剤を放出する。ポリ(エチレンオキシドグリコール)/ポリ(プロピレンオキシドグリコール)コポリマーとポリ(ε-カプロラクトン)を用いて下記に示すブロックポリマーを形成する。
【0043】
【化20】

【0044】
架橋剤としてN,N-ジエチルアクリルアミドを用いて相互貫入架橋系を形成することによって、このポリマーミセルの核を安定化する。治療剤は、上述のとおり、ミセルに組み込まれる。ミセルを乾燥させて、医療器具基板上のコーティングとして直接使用するか、又はミセルを乾燥させて、前記基板上のポリマーコーティングに適用する。
【0045】
(実施例3 超音波活性化可能ミセル)
この実施例では、治療剤を組み込んだミセルを形成する架橋ポリマー材料によって作製したコーティングを記載し、前記ミセルは超音波エネルギーにさらすことによって前記剤を放出する。下記に示す市販のポリ(エチレン/グリコール)-ポリ(プロピレングリコール)トリブロックコポリマー(PEO-PPO-PEO)を用いてコーティングのポリマー材料を形成する。前記コポリマーは、必要により架橋されて、相互貫入ネットワークを形成する。
【0046】
【化21】

【0047】
市販のポリマー(PLURONIC 105又はPLURONIC 127(BASF社(ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ)から入手可能))に、N,N-ジエチルアクリルアミドを加えてミセルの疎水性核を安定化する。治療剤は、上述のとおり、ミセルに組み込まれる。ミセルを乾燥させて、医療器具基板上のコーティングとして直接使用するか、又はミセルを乾燥させて、前記基板上のポリマーコーティングに適用する。
【0048】
(実施例4 光活性化可能コーティング)
この実施例では、治療剤を含むポリマー材料によって作製したコーティングを記載し、前記治療剤は光反応性ペンダント鎖によって医療器具の表面に結合され、前記コーティングは光エネルギーにさらすことによって前記剤を放出する。下記に示すように、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドと治療剤を含む光反応性オリゴペプチドとの水溶性コポリマーを用意する。
【0049】
【化22】

【0050】
水溶性コポリマーの溶液をTIVADの内面及び外面の少なくとも一方に適用する。治療剤の放出は、650nmの波長の光をTIVADに60秒間、移植物を覆う皮膚の表面に適用することによって達成される。光は、皮膚を透過してオリゴペプチドからの薬剤の放出を活性化する。あるいは、隔壁を介して光プローブをポートに挿入して、ポートの貯蔵所に直接光を誘導する。放出速度は、露光時間の関数である。
本発明がある特定の好ましい又は例示的な実施態様を参照して本明細書に記載されていることは、明らかであろう。本明細書に記載された前記好ましい又は例示的な実施態様は、本発明の目的、意図及び範囲から離れることなく、修正、変更、付加又は逸脱させることができ、そのような付加、修正、変更及び/又は逸脱のすべてが特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
本明細書で参照されるすべての刊行物、特許及び特許出願は、個々の刊行物、特許又は出願がそれぞれ具体的に参照によって本明細書に組み込まれることが示されているかのように、参照によって本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】従来の移植可能なA-Vポートの透視図である。
【図2】徐放性投薬スキームと比較した従来の投薬スキームの典型的な放出プロファイルを示すグラフである。
【図3A】本発明のコートされた医療器具の実施態様の断面の略図である。
【図3B】本発明のコートされた医療器具の実施態様の断面の略図である。
【図3C】本発明のコートされた医療器具の別の実施態様の断面の略図である。
【図3D】本発明のコートされた医療器具の別の実施態様の断面の略図である。
【図4A】本発明のコートされた医療器具の別の実施態様の断面の略図である。
【図4B】本発明のコートされた医療器具の別の実施態様の断面の略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植可能な医療器具であって、
血管アクセス器具;及び
前記血管アクセス器具の内面及び外面のうちの少なくとも1つの面上にコーティングを含み、前記コーティングが:(a)光反応性部分及び音反応性部分のうちの少なくとも1つを含むポリマー成分;及び(b)前記ポリマー成分と放出可能であるように結合された少なくとも1つの治療剤を含み、前記医療器具の、光源及び超音波源のうちの少なくとも1つへのインサイツ曝露によって前記治療剤の放出速度を調節する、前記医療器具。
【請求項2】
前記血管アクセス器具が全移植静脈アクセス器具(TIVAD)である、請求項1記載の器具。
【請求項3】
前記コーティングが超音波反応性コーティングである、請求項1記載の器具。
【請求項4】
前記超音波反応性コーティングが、約20KHz〜約500KHzの周波数範囲での連続又はパルス超音波エネルギーへの曝露によって前記治療剤を放出する、請求項3記載の器具。
【請求項5】
前記超音波エネルギーへの曝露時間、前記超音波エネルギーの周波数及び前記超音波エネルギーの強度のうちの少なくとも1つによって前記コーティングの放出速度を調節する、請求項4記載の器具。
【請求項6】
前記ポリマー成分が、
(a)ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、ポリ (L-乳酸)(PLLA)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(α-アミノ酸)、ポリウレタン、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリヒドロエチルメタクリラート、及びこれらのコポリマー及びブロックコポリマー、又は
(b)ポリ(L-リジン-co-ポリエチレングリコール)、ポリ[(L-ラクチド-co-メテニル-キャップドオリゴ(エチレンオキシド)メタクリラート及び架橋デキストラン-ポリエチレングリコールヒドロゲル及びこれらのコポリマー及びブロックコポリマーからなる群より選ばれるポリマーを含む、請求項4記載の器具。
【請求項7】
前記治療剤が、抗血栓剤、抗菌剤、抗癌剤、抗真菌剤及び抗ウイルス剤のうちの少なくとも1つである、請求項3記載の器具。
【請求項8】
前記治療剤が、ペニシリン、セファロスポリン、バンコマイシン、アミノグリコシド、キノロン、ポリミキシン、エリスロマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、スルホンアミド、又はこれらの同族体、類似体、断片、誘導体又は薬剤的に容認できる塩のうちの少なくとも1つである、請求項7記載の器具。
【請求項9】
前記コーティングが光反応性コーティングである、請求項1記載の器具。
【請求項10】
前記光反応性コーティングが、約200nm〜約800nmの周波数を有する光源への曝露によって前記治療剤を放出する、請求項9記載の器具。
【請求項11】
前記光源への曝露時間、前記光源の波長及び前記光源の強度のうちの少なくとも1つによって前記コーティングからの前記治療剤の放出速度を調節する、請求項10記載の器具。
【請求項12】
前記ポリマー成分が、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(α-アミノ酸)、ポリウレタン、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリヒドロエチルメタクリラート、及びこれらのコポリマー及びブロックコポリマーからなる群より選ばれる、請求項10記載の器具。
【請求項13】
前記治療剤が、抗血栓剤、抗菌剤、抗癌剤、抗真菌剤及び抗ウイルス剤のうちの少なくとも1つである、請求項12記載の器具。
【請求項14】
前記治療剤が、ペニシリン、セファロスポリン、バンコマイシン、アミノグリコシド、キノロン、ポリミキシン、エリスロマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、スルホンアミド、又はこれらの同族体、類似体、断片、誘導体又は薬剤的に容認できる塩のうちの少なくとも1つである、請求項13記載の器具。
【請求項15】
前記光反応性コーティングが、さらに光増感剤を含み、前記ポリマーコーティングの骨格に結合したリンカーが光増感剤を前記骨格に結合させる、請求項9記載の器具。
【請求項16】
移植された医療器具から治療剤を放出する方法であって、
(a)請求項1記載の医療器具を、それを必要とする患者に皮内移植し、
(b)光エネルギー源及び超音波エネルギー源のうちの少なくとも1つへの皮内又は皮外曝露によって、前記治療剤を前記患者に対して放出することを含む前記方法。
【請求項17】
前記曝露が皮外曝露である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
(c)前記光エネルギー源又は前記超音波エネルギー源の所定時間の使用によって、前記コーティングからの前記治療剤の放出速度を調節することをさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記放出工程が超音波エネルギー源への皮外曝露である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記超音波エネルギー源が約20KHz〜約500KHzの周波数範囲の連続又はパルス超音波エネルギーを含む、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記放出工程が光エネルギー源への皮外曝露である、請求項18記載の方法。
【請求項22】
前記光エネルギー源が約200nm〜約800nmの波長範囲の光エネルギーを含む、請求項18記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2008−507336(P2008−507336A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522568(P2007−522568)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【国際出願番号】PCT/US2005/024903
【国際公開番号】WO2006/019848
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(505424055)ボストン サイエンティフィック リミテッド (17)
【Fターム(参考)】