説明

超音波溶接装置における超音波振動ホーン

【課題】 接合部材のために十分なパスラインを確保し、しかも縦成分の超音波振動が発生しない超音波振動ホーンの提供。
【解決手段】 超音波振動手段400によって超音波振動を誘発される超音波振動溶接装置1000における超音波振動ホーン100であって、前記振動手段に片持状に連設されるコラム部と、当該コラムの外端部に大径状に形成された接合動作部とで構成され、当該接合動作部の外周には、前記コラム部の長手方向の中心軸線に対して前方において交差するような傾斜角度をもって使用面を形成し、前記接合動作部における撓み振動によって前記使用面における使用面に交差する方向の縦振動成分を吸収させ、使用面に平行する横振動成分により溶接処理を実行しうるようにした超音波振動ホーン100。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、超音波振動を利用して共振体を作動させて熱可塑性樹脂や金属を溶着、溶接する超音波振動溶接技術の分野に属するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の超音波振動溶接技術にあっては、共振体(ホーン)を接合部材に当接させ、超音波振動を誘発させて、その中心軸方向に微細に伸縮させて接合部材を被接合部材に接着させるものであるが、この場合に、ホーンの中心軸線に直交する外端面を接合部材に当接させて溶着処理を実施する方式を縦振動方式と呼称し、ホーンの中心軸線に並行する方向である側面を利用する方式を横振動方式と呼称している。
【0003】前記の横振動方式の溶接技術としては、例えば図10に示すものが挙げられる(従来技術)。
【0004】即ち、サポート手段Eによってノーダルポイントを支持させた超音波ホーンMの側面(接合面)に真空吸着手段等を利用して一時的に接合部材W1を装着し、被接合部材W2の所望の位置に接合部材W1を圧接した状態で超音波振動発生器Pにより超音波ホーンMを共振させて溶着処理させるものである。
【0005】この際、超音波ホーンMの振動が被接合部材W2に対して平行状であれば、接着効率が向上するため、超音波ホーンMを通常水平方向に配置することが一般的である。
【0006】しかしながら、図10に示した水平向きの姿勢では横方向のみの超音波振動を与えることが出来るが、超音波ホーンMや超音波振動発生器Pが被接合部材W2上の周辺の図示しない部材と干渉し易く、又、超音波接合の作業が困難であった。
【0007】このような課題の対策として図11に示すように超音波ホーンMを斜め上方に傾斜して使用すると、被接合部材W2上の周辺との間にパスライン(空間部)Gが形成され、超音波接合の作業が容易になる。
【0008】しかしながら、図11に示すように軸方向に矢印で示した超音波ホーンMの伸縮方向の振動に同期して、直交方向に矢印で示すような伸縮する振動(縦成分)が発生する。
【0009】この縦成分の振幅は超音波ホーンMの横成分の振幅の約20%程度である。
【0010】しかしながら、この縦成分の振動は、接合部材W1と被接合部材W2との間に剥離方向の作用を引き起こすこととなり、接合精度を低下させるばかりでなく、損傷等のダメージを与えるおそれがあり、信頼性の高い超音波接合動作が期待し難いものであった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、前記のような課題を解消するためになされたもので、以下に述べる点を課題点とするものである。
【0012】即ち、この発明が解決しようとする第1の課題点は、接合部材上に十分なパスラインを確保出来て、溶着処理作業の容易化を図ることが出来るものを提供することである。
【0013】この発明が解決しようとする第2の課題点は、超音波ホーンによる縦方向に関する超音波振動成分を消去して、接合部材間の接着精度を大巾に向上させることが出来るものを提供することである。
【0014】この発明が解決しようとする第3の課題点は、超音波ホーンの撓み振動により、その先端からの振巾の減衰を小さくし、奥行きを長くしたので利用周波数を増大することも出来るばかりでなく、波長を一波長以下とし、コンパクト化を図ることが出来るものを提供することである。
【0015】この発明が解決しようとする第4の課題点は、縦成分の超音波振動に基因する接合部材の損傷の発生を未然防止しうるものを提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】前記の各課題点を解決する手段としては、特許請求の範囲に記載の通りであって、超音波振動ホーンの接合動作部の使用面を傾斜状とした際に、その前面と背面とをホーンの中心軸線に対して傾斜状に形成することによって使用面における縦振動の発生を防止しうるように構成したものである。
【0017】従って、超音波振動装置と、接合部材や被接合部材との間に十分な作業スペースをとることが出来、又、溶着精度の大巾な向上を図ることが出来るものである。
【0018】
【発明の実施の形態】次に、この発明における超音波振動溶接装置(この装置)1000と、その超音波振動ホーン(ホーン)100の実施形態を図面を参照して説明する。
【0019】1.この装置1000(1) 構成■ 全体構成図9に示すように、この装置1000にあっては、サポート手段200によって、後述するホーン100の中心軸線(L)が接合部材W1を搬送可能に載置するX−Yテーブルのような担持手段300の搬送方向(M、M’)に対して約10〜20度程度に傾斜させて配設したものであって、支持ブラケット210によって支持された超音波振動発生器400にはホーン100を片持ち状に突設しており、このホーン100のノーダルポイントNPをノーダルサポート共振杆220によって保持させた構成とされており、後述するパソコン等の制御手段500によって起動させうるものである。
【0020】■ 各部の構成() サポート手段200図9の如く、支持ブラケット210により、超音波振動発生器400を懸架出来るサポート手段200には、ホーン100の昇降位置変更手段201、回転角度調整手段202、ホーン100上に接合部材W1を吸着しうる真空吸着手段203等が設けられ、制御手段500によって駆動制御させるように構成されている。
【0021】() 制御手段500図9の如く、データ処理機能を備えたパソコン等で構成されており、操作パネル510によってマニュアル操作されて各手段に動作を指令しうるものであり、又、その動作状況については、液晶パネル等の表示手段520に表示させうるものである。
【0022】() 超音波振動ホーン(ホーン)100例えば、チタン合金から出来ているホーン100は図1及び図2に示すように、超音波振動発生器400に挿填されて超音波振動を付与される円柱状のコラム部110の他端部にはコラム部110よりも大径状の接合動作部120を形成している。
【0023】又、図3及び図4の如く、この接合動作部120の外端には、コラム部110の中心軸線(L)位置を最も深い中心部121とした凹み状の前面122を形成し、コラム部110に連続する傾斜状の背面123を形成すると共に、これらの凹み状の前面122と背面123との間に振動溶着処理の際に接合部材W1に当接し、これを吸着して担持しうる多角形状の使用面124を形成しており、この使用面124を前記コラム部110の中心軸線(L)に対して先細状に交差するように傾斜角A(約10〜20度)を形成するように構成している。
【0024】又、この場合のコラム部110の長手方向の外周面111と背面123とは前傾角Bが鈍角状(約130±20度)になるように形成すると共に、前記凹入状の前面122が中心部121を中心とする凹み角Cについても鈍角状(約170±20度)となるように形成している。
【0025】このホーン100については、使用時には半波長の振巾で超音波振動される半波長ホーンであり、超音波振動発生器400より発生する所定の周波数により振巾が5μm程度の横振動が発生するようにされているが、図3及び図4に矢印で示す振動ベクトルについては後述する。
【0026】又、このホーン100には、使用面124に前記真空吸着手段203に連通された吸引口(H)が開設され、接合部材W1を吸着しうるように構成されている。
【0027】2.超音波振動溶接処理図9に示すように、ホーン100を超音波振動発生器400に装着し、使用面124を担持手段300上の接合部材W1上に臨ませた状態で操作手段510をマニュアル操作して制御手段500によりサポート手段200を動作させて前記各手段201〜203により接合部材W1を吸着させたホーン100の位置を調整し、超音波振動発生器400によってホーン100に、例えば半波長の超音波振動を誘発させて被接合部材W2に圧接させて溶接し、その後、ホーン100の使用面124を他の使用面124に交換し、担持手段300を矢印M−M’方向に移動させて次の溶接工程に進むものである。
【0028】ところで、この発明の要点は、ホーン100の使用面124をホーン100の長手方向中心軸線(L)に対して傾斜させて接合部材W1のパスラインGを確保し、しかも接合部材W1に対して縦成分の超音波振動が発生しないようにして結果的にホーン100の使用可能な奥行きを十分に確保出来るようにした点である。
【0029】次に、その原理と作用を詳しく説明する。
【0030】即ち、横振動のホーン100において、ホーン100の先端からの距離と、ホーン100の振巾の大きさとの関係は、図5に示すようにCOS波形に近似して変化するから、先端から1/8波長の位置では一般に振巾は約70%に低下し、溶着処理の品質の低下が危惧されるところである。
【0031】しかしながら、このホーン100にあっては、ホーン100の接合動作部120の形状を特定することにより、ホーン100自体に発生される撓み振動を有効利用して振巾の減衰率を10%以下に抑制し、しかも縦振動成分を含まない超音波振動を得ることが出来たものとした点である。
【0032】以下、矢印は、振動ベクトルを示すものであり、その長さが振巾値、方向が振動モードとして説明する。
【0033】即ち、図6及び図7に示すように、ホーン100の使用面124を傾斜させると、この使用面124において縦成分の振動が発生することは明白であり、これを回避することは困難である。
【0034】これに対して、図8に示すように、ホーン100のコラム部110に対して大径状の接合動作部120を形成すると振動ベクトルは、中心軸線(L)に対して集中されるように変化することが明白である。
【0035】しかしながら、この場合にも、イ、ロ位置で振巾の絶対値が略等しいことは振動ベクトルから見て明らかであるが、使用面124に対して縦成分の超音波振動が発生することは依然として回避し難いところであった。
【0036】これに対して、図3及び図4に示すように、このホーン100にあっては、使用面124を挾む接合動作部120の前面122と背面123の中心軸線(L)に対する傾斜角度Aを前記のように特定することによって超音波振動時にホーン100の接合動作部120に撓み振動を発生させて超音波振動の縦成分を消去させて使用面124における振動ベクトルが使用面124と完全に平行状となることが出来たものである。
【0037】又、半波長ホーンであっても先端からの振巾の減衰が比較的に少なく、奥行きを十分長く取れることとなるため、周波数を上げることが出来るものである。
【0038】尚、接合動作部120の形状については、6〜12面体状等の他の多面体上としてもよく、多面体状以外の例えば、2叉状とすることも設計変更の範囲内である。
【0039】
【実施例】参考までに前記の実施の形態の具体的な実施例を挙げるとすれば、次の如くである。
【0040】W1 … 半導体チップ部品W2 … 回路基板ホーン … チタン合金製傾斜角度A … 約10〜20度前傾角度B … 約130度凹み角度C … 約170度発振器振動数 … 40kHz振巾 … 5ミクロン時間 … 0.1〜0.3秒加圧力 … 5〜6kg重
【0041】
【発明の効果】以上説明したこの発明による顕著な効果は次の如くである。
【0042】■ 超音波振動溶接手段と加工材(接合部材等)との間に十分な作業空間を形成出来るので作業性が向上する。
【0043】■ 超音波振動ホーンの横振動使用面には縦成分の振動が発生しないので溶接品質が大巾に改善される。
【0044】■ 超音波振動ホーンの振巾の減衰を少なくし、奥行きを長くしたため、周波数を増大出来、超音波振動を一波長以下としても溶接効果に不具合が生ずることがなく、超音波振動溶接装置の小型、軽量化を図ることが出来る。
【0045】■ 前記■のように縦成分の振動が生じないため、加工材が破損されるおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態の超音波振動ホーンの側面図。
【図2】図1の超音波振動ホーンの正面図。
【図3】図1の超音波振動ホーンの振動ベクトルをシュミレーションした模式的縦断面図。
【図4】図3の一部拡大図。
【図5】超音波振動ホーンの振巾分布図。
【図6】図3の参考図。
【図7】図4の参考図。
【図8】図3の他の参考図。
【図9】超音波振動溶接装置の機能ブロック図。
【図10】従来技術の説明図。
【図11】他の従来技術の説明図。
【符号の説明】
1000 超音波振動溶接装置
100 超音波振動ホーン
110 コラム部
120 接合動作部
122 前面
123 背面
124 使用面
400 超音波振動手段(振動発生器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 超音波振動手段によって超音波振動を誘発される超音波振動溶接装置における超音波振動ホーンであって、前記振動手段に片持状に連設されるコラム部と、当該コラム部の外端部に大径状に形成された接合動作部とで構成され、当該接合動作部の外周には、前記コラム部の長手方向の中心軸線に対して前方において交差するような傾斜角度をもって使用面を形成し、前記接合動作部における撓み振動によって前記使用面における使用面に交差する方向の縦振動成分を吸収させ、使用面に平行する横振動成分により溶接処理を実行しうるようにした超音波振動ホーン。
【請求項2】 請求項1記載の超音波振動ホーンにおいて、前記接合動作部の前面に前記中心軸線を中心とするテーパー状の凹み部を凹設した超音波振動ホーン。
【請求項3】 請求項2記載の超音波振動ホーンにおいて、前記接合動作部の使用面の傾斜角度が10〜20度である場合に、前記凹み部の凹み角度が前記中心軸線上で170±20度であるように設定した超音波振動ホーン。
【請求項4】 請求項1記載の超音波振動ホーンにおいて、前記接合動作部の背面を前記中心軸線に対して前傾状に傾斜させた超音波振動ホーン。
【請求項5】 請求項4記載の超音波振動ホーンにおいて、前記接合動作部の使用面の傾斜角度が10〜20度である場合に、前記背面の前傾角度を前記中心軸線上で130±20度であるように設定した超音波振動ホーン。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図5】
image rotate


【図8】
image rotate


【図10】
image rotate


【図11】
image rotate


【図9】
image rotate


【公開番号】特開2002−210569(P2002−210569A)
【公開日】平成14年7月30日(2002.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−7240(P2001−7240)
【出願日】平成13年1月16日(2001.1.16)
【出願人】(591050523)
【Fターム(参考)】