超音波照射装置
【課題】各サンプルに均一に超音波を照射する超音波照射装置を提供する。
【解決手段】超音波照射装置10は、処理槽12と、超音波振動子14と、互いに分離した状態で溶液を溜めることの可能な複数の容器Wを有するプレートPを処理槽12内で移動させる移動部16とを備え、超音波振動子14が超音波を発生させるときに移動部16はプレートPを移動させる。
【解決手段】超音波照射装置10は、処理槽12と、超音波振動子14と、互いに分離した状態で溶液を溜めることの可能な複数の容器Wを有するプレートPを処理槽12内で移動させる移動部16とを備え、超音波振動子14が超音波を発生させるときに移動部16はプレートPを移動させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波はさまざまな用途で用いられる。例えば、超音波は、細胞の破砕、混合物の懸濁化、固体の微粒子化、固体の溶解および反応の促進などに用いられる。また、超音波を用いて、アミロイド線維の形成の促進、および、アミロイド線維の分断および微細化が行われることも知られている。
【0003】
例えば、許文献1には、処理槽の外側に超音波振動子を設けた超音波発生装置が記載されている。特許文献1の超音波発生装置では、超音波の照射および中断が自動的に制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−211837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、プレートに保持される複数のサンプル(溶液)に対して単純に超音波の照射を行う場合、サンプルの位置に応じて超音波のサンプルに対する影響にばらつきが生じ、このばらつきは超音波の不均一な照射に起因することを見出した。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、各サンプルにほぼ均一に超音波を照射可能な超音波照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による超音波照射装置は、処理槽と、超音波振動子と、互いに分離した状態で溶液を溜めることの可能な複数の容器を有するプレートを前記処理槽内で移動させる移動部とを備える。
【0008】
ある実施形態において、前記超音波振動子が超音波を発生させるときに前記移動部は前記プレートを移動させる。
【0009】
ある実施形態において、前記移動部は、前記プレートを平面方向に移動させる。
【0010】
ある実施形態において、前記移動部は、スライド部と、前記プレートを載せた状態で前記スライド部に沿って移動可能な支持部とを有する。
【0011】
ある実施形態において、前記移動部は、前記プレートを垂直方向に移動させる。
【0012】
ある実施形態において、前記複数の容器のそれぞれは、遮光領域および透過領域を有する。
【0013】
ある実施形態において、前記複数の容器のそれぞれは、前記遮光領域の設けられた側部と、前記透過領域の設けられた底部とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、各サンプルにほぼ均一に超音波を照射可能な超音波照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による超音波照射装置の実施形態の模式図である。
【図2】(a)は本実施形態の超音波照射装置の模式的な平面図であり、(b)は(a)の模式的な側面図である。
【図3】(a)は本実施形態の超音波照射装置の模式的な平面図であり、(b)は(a)の模式的な側面図である。
【図4】本実施形態の超音波照射装置を備えた超音波処理装置の模式図である。
【図5】図4に示した超音波処理装置における測定部の一例を示す模式図である。
【図6】図5に示した測定部の一例を示す模式図である。
【図7】本実施形態の超音波照射装置を用いた場合の各容器内の溶液の蛍光強度の時間変化を示すグラフである。
【図8】本実施形態の超音波照射装置を用いた場合の各容器内の溶液のラグタイムを表したプレートの模式図である。
【図9】プレートの移動を行わない場合の各容器内の溶液の蛍光強度の時間変化を示すグラフである。
【図10】プレートの移動を行わない場合の各容器内の溶液のラグタイムを表したプレートの模式図である。
【図11】プレートの移動の有無に応じたラグタイムの分布を示すグラフである。
【図12】図4に示した超音波処理装置における測定部の一例を示す模式図である。
【図13】(a)は本実施形態の超音波照射装置に用いられるプレートの模式図であり、(b)はプレート内のサンプルの位置と菌体破砕量との関係を示すグラフである。
【図14】プレートの移動の有無に応じた菌体破砕量の分布を示すグラフである。
【図15】本実施形態の超音波照射装置を用いた場合の各容器内の溶液の菌体破砕率を示す模式図である。
【図16】プレートの移動を行わない場合の各容器内の溶液の菌体破砕率を示す模式図である。
【図17】プレートの移動の有無に応じた破砕率の分布を示すグラフである。
【図18】(a)は本実施形態の超音波照射装置を用いた場合の各容器内の溶液の濁度増加率を示す模式図であり、(b)は濁度増加率の分布を示す円グラフである。
【図19】(a)はプレートの移動を行わない場合の各容器内の溶液の濁度増加率を示す模式図であり、(b)は濁度増加率の分布を示す円グラフである。
【図20】プレートの移動の有無に応じた濁度増加率の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明による超音波照射装置の実施形態を説明する。
【0017】
図1に、本実施形態の超音波照射装置10の模式図を示す。超音波照射装置10は、処理槽12と、超音波振動子14と、互いに分離された状態で溶液を溜めることの可能な複数の容器(微小容器)Wを有するプレートPを処理槽12内で移動させる移動部16とを備える。処理槽12には液体(例えば、水)が溜められる。例えば、プレートPは複数の容器W(ウェル、穴または窪み)が固定して設けられた、いわゆるマイクロプレートであってもよい。または、プレートPは互いに分離可能な複数の容器(管状部材)Wを保持するように構成されてもよい。
【0018】
本実施形態の超音波照射装置10では、超音波振動子14がプレートPに向けて超音波を照射している間に移動部16はプレートPを移動させる。例えば、移動部16はプレートPを所定の点を中心に回転させ、これにより、プレートPは回転移動してもよい。例えば、プレートPの回転速度は0.5rpm以上11rpm以下の範囲内であることが好ましく、プレートPの回転速度は約6rpmであることがさらに好ましい。あるいは、移動部16により、プレートPは周回移動してもよいし、平行移動してもよい。
【0019】
本実施形態の超音波照射装置10では、移動部16が処理槽12内においてプレートPが移動することにより、プレートPの各容器Wの溶液にほぼ均一に超音波を照射することができる。プレートPの容器Wに成分の若干異なる溶液を入れた場合、超音波照射装置10は、プレートPの各容器Wの溶液にほぼ均一に超音波を照射するため、成分の違いに応じた超音波照射による影響を簡便に調べることができる。超音波照射装置10は、細胞の破砕、混合物の懸濁化、固体の微粒子化、固体の溶解または反応の促進などに利用してもよい。また、超音波照射装置10は、アミロイド線維の形成促進、分断および微細化に利用してもよい。
【0020】
以下、図2を参照して超音波照射装置10の一例を説明する。図2に示した超音波照射装置10では、移動部16は、スライド部16s1と、スライド部16s1に沿って移動可能に取り付けられた支持部16t1と、支持部16t1に固定されたスライド部16s2と、スライド部16s2に沿って移動可能に取り付けられた支持部16t2とを有している。支持部16t2の先端にはプレートPが載せられる。スライド部16s1に沿って支持部16t1はy方向に移動し、これに伴い、プレートPも処理槽12内をy方向に移動する。また、スライド部16s2に沿って支持部16t2はx方向に移動し、これに伴い、プレートPも処理槽12内をx方向に移動する。このように、移動部16により、プレートPは処理槽12内を平面方向に移動させることができる。なお、本明細書の以下の説明において、スライド部16s1、16s2を第1スライド部16s1、第2スライド部16s2と呼び、支持部16t1、16t2を第1支持部16t1、第2支持部16t2と呼ぶことがある。また、図2に示すように、処理槽12aの内側に、超音波振動子14の取り付けられた振動板14aが配置されてもよい。例えば、超音波照射装置10の処理槽12および超音波振動子14として、エレコン科学株式会社製のELESTEINが好適に用いられる。
【0021】
なお、図2を参照して説明した超音波照射装置10では、移動部16は、プレートPをx方向およびy方向のそれぞれに沿って移動させることができるが、本発明はこれに限定されない。移動部16は、プレートPをx方向およびy方向の一方のみに沿って移動可能であってもよい。例えば、図2を参照して説明した超音波照射装置10から、第1スライド部16s1および第1支持部16t1を省略してもよい。または、図2を参照して説明した超音波照射装置10から、第2スライド部16s2および第2支持部16t2を省略し、プレートPは支持部16t1に載せられてもよい。
【0022】
なお、図2を参照して説明した移動部16はプレートPを処理槽12内で平面方向に移動させたが、本発明はこれに限定されない。移動部16はプレートPを垂直方向に移動させてもよい。
【0023】
以下、図3を参照して超音波照射装置10の別の構成を説明する。図3に示した超音波照射装置10において、移動部16は、支持部16t2に取り付けられた昇降部16uと、プレートPの載せられる支持部16vとをさらに備える点を除いて、図2を参照して上述した移動部16と同様の構成を有しており、冗長を避けるために重複する説明を省略する。
【0024】
支持部16vは昇降部16uに取り付けられており、昇降部16uは支持部16vをz方向に移動させる。これに伴い、プレートPは処理槽12内から処理槽12の外に、または、処理槽12の外部から処理槽12内に移動する。このため、スライド部16s1、16s2および昇降部16uにより、プレートPを互いに直交する3つの方向に移動させることができる。例えば、昇降部16uにより、プレートPを処理槽12内から処理槽12の外に移動させた後、プレートPの容器W内の溶液を測定してもよい。
【0025】
図4に、超音波照射装置10を備えた超音波処理装置100の模式図を示す。超音波処理装置100は、プレートPの容器W内の溶液に超音波を照射する超音波照射装置10と、プレートPの容器W内の溶液の特性を測定する測定部20とを備えている。
【0026】
超音波照射装置10は、処理槽12および超音波振動子14に加えて、処理槽12内の液体の循環に用いられる循環槽12aと、超音波振動子14を制御する制御部14sと、超音波振動子14を駆動する駆動部14tとを有している。なお、各容器W内の溶液への超音波照射の均一性をさらに改善するために、超音波振動子14の数はできるだけ多いことが好ましい。なお、超音波処理装置100において図3に示した超音波照射装置10を用いる場合、移動部16は、超音波の照射が終了した後、プレートPを測定部20まで移動させてもよい。
【0027】
例えば、超音波照射装置10は、アミロイド線維の誘導に用いられる。アミロイドの形成は、物質の結晶形成に似た現象であり、原因物質が危険レベルを超えていても、アミロイド形成のエネルギー障壁が高いため、過飽和状態に保たれている場合が多い。このような状況では、アミロイドやそのオリゴマーは形成されず、アミロイドーシスも発症せず、潜伏状態にある。原因タンパク質がアミロイドを形成する反応は遅く、一般に、アミロイド形成には、数日から数ヶ月の長時間が必要となる。しかしながら、タンパク質に超音波を照射することにより、アミロイド形成のエネルギー障壁を下げて、アミロイド線維の形成を促進することができる。
【0028】
タンパク質からアミロイドが誘導される場合、アミロイドはアミロイド特異性蛍光色素と結合することによって蛍光を発する。アミロイドが誘導されたプレートPの複数の容器W内にアミロイド特異性蛍光色素が存在することにより、蛍光が発せられ、測定部20はこの蛍光を検出することによって溶液内のアミロイドを検出することができる。例えば、測定部20としてプレートリーダーが用いられ、特異性蛍光色素としてチオフラビンTが用いられる。プレートリーダー20として、コロナ電気株式会社製のMTP−810またはSH−9000が好適に用いられる。
【0029】
なお、溶液をプレートPの容器Wに入れた後、蒸発等を防ぐために容器Wを封止することが好ましく、封止部材として自家蛍光の少ないものを用いることが好ましい。また、水温を測定するために、超音波振動子14の取り付けられた処理槽12にセンサを取り付ける場合、センサが音波に起因して破損することがある。このため、水温を測定するセンサを循環槽12aに取り付け、循環槽12aの温度を測定することが好ましい。
【0030】
図5に、本実施形態の超音波処理装置100におけるプレートリーダー20の模式図を示す。プレートリーダー20は、光源22と、入力光学系Oaと、出力光学系Obと、受光部24とを備えている。受光部24として、例えば、光電子増倍管が用いられる。
【0031】
光源22から出射された光は、入力光学系Oaを介してプレートPの各容器内の溶液に照射される。溶液内から蛍光が発せられる場合、蛍光は出力光学系Obを介して受光部24にて検出される。
【0032】
図6を参照して、入力光学系Oaおよび出力光学系Obの一例を説明する。図6に、プレートリーダー20の模式図を示す。入力光学系Oaは、レンズL1〜L4と、スリットS1〜S3と、カラーフィルタC1と、グレーティングG1、G2と、ハーフミラーH1とを有している。出力光学系Obは、スリットS4〜S6と、カラーフィルタC2と、グレーティングG3、G4と、ハーフミラーH2とを有している。
【0033】
例えば、光源22から出射された光は、レンズL1、L2、カラーフィルタC1およびスリットS1を介してグレーティングG1において反射される。例えば、レンズL1、L2のf値は60である。また。カラーフィルタC1により、特定の波長以外の波長の光が遮断される。反射された光はスリットS2を介してグレーティングG2において反射される。その後、光は、スリットS3、ハーフミラーH1、レンズL3、L4を通過し、最後に、ハーフミラーH2を介してプレートPの各容器内の溶液に照射される。なお、ハーフミラーH1によって進行方向の変更した光の強度を光検出器PDで検出してもよい。この強度に基づいて、プレートPの各容器内の溶液に照射される光の強度の調整を簡便に行うことができる。
【0034】
プレートPにおける容器Wの溶液内から蛍光が発せられる場合、蛍光はハーフミラーH2を介して進行方向が曲げられ、スリットS4を介してグレーティングG3において反射され、反射された光はスリットS5を介してグレーティングG4において反射される。その後、光は、カラーフィルタC2およびスリットS6を介して、最終的に受光部24に入射する。
【0035】
なお、図4を参照して上述した超音波処理装置100では、処理槽12の外部に移動したプレートPに対して蛍光強度の測定を行ったが、本発明はこれに限定されない。プレートPが処理槽12内にある状態でプレートPの容器W内の溶液からの蛍光を検出してもよい。例えば、光ファイバーは、その先端が固定されたプレートPの主面に対して2次元方向に動作可能なように構成されていてもよい。
【0036】
以下、図7〜図11を参照して超音波照射装置10を用いたアミロイド線維の誘導について説明する。タンパク質に超音波を照射することにより、アミロイド線維の誘導時間を短縮するとともに、誘導時間のバラツキを抑制できる。ここでは、超音波照射によってβ2ミクログロブリンからアミロイド線維を形成する。
【0037】
まず、複数の容器Wを有するプレートPを用意する。ここでは、プレートPとして、例えば、ハーフエリア黒タイプの96個の容器(ウェル)Wを有するマイクロプレートが用いられる。プレートPの各容器Wに、0.3mg/mlのβ2ミクログロブリン溶液(100mMのNaCl、5μMチオフラビンTを含む、pH2.5)を200μL入れる。例えば、プレートPは温度37℃に設定される。
【0038】
超音波照射装置10では、超音波を照射する際にプレートPを移動させている。ここでは、移動部16はプレートPを回転させており、回転速度は約6rpmである。超音波照射装置10は、1分間の超音波照射および9分間の中断を繰り返す。上述したように、アミロイド線維が誘導されると、アミロイドはチオフラビンTと結合して蛍光を発する。この蛍光を検出することにより、アミロイドを検出することができる。
【0039】
図7に、プレートPを移動させながら超音波を照射した場合の蛍光強度の時間変化を示す。ここでは、超音波の照射を開始してから蛍光強度の増加が開始するまでの時間に着目する。超音波の照射を開始してから蛍光強度の増加が開始するまでの時間が最も短いものは約50分であり、最も長いものは約100分である。なお、本明細書の以下の説明において超音波の照射を開始してから蛍光強度の増加が開始するまでの時間をラグタイムと呼ぶことがある。
【0040】
図8に、プレートPを移動させながら超音波を照射した場合のラグタイムを表したプレートPの模式図を示す。図8において、第1行〜第12行の容器をそれぞれ1、2、3・・・12と示し、第1列〜第8列の容器をそれぞれA、B・・・Hと示している。図8から理解されるように、ほとんどの容器内の溶液のラグタイムは70分〜80分程度である。
【0041】
参考のために、図9に、プレートPを移動させないで同様に超音波を照射した場合の蛍光強度の時間変化を示す。プレートPを移動させないで超音波の照射を行う場合、ラグタイムは、最短で約60分であり、最長で約270分である。
【0042】
図10に、超音波を照射する際にプレートPの移動を行わない場合のラグタイムを表したプレートPの模式図を示す。図10でも、第1行〜第12行の容器をそれぞれ1、2、3・・・12と示し、第1列〜第8列の容器をそれぞれA、B・・・Hと示している。図10から理解されるように、プレートPにおいて中央付近のほとんどの容器W内の溶液のラグタイムは100分程度であり、端部近傍の容器W内の溶液のラグタイムは120分程度である。このように、端部の容器W内の溶液のラグタイムは中央付近の容器W内の溶液のラグタイムよりも長い。また、図7、図8と図9、図10との比較から理解されるように、超音波を照射する際のプレートPの移動により、ラグタイムの平均を短縮するとともに、ラグタイムのバラツキを抑制することができる。
【0043】
図11に、ラグタイムの分布を示す。図11には、プレートPの移動の有無に応じた分布を示している。試料数はいずれも96である。表1に、移動の有無に応じた平均ラグタイムおよび標準偏差を示す。
【表1】
【0044】
図11および表1からも、超音波照射時にプレートPを移動させることにより、ラグタイムの平均時間を短縮するとともに分布のバラツキを抑制することが理解される。
【0045】
なお、上述した説明ではプレートPの各容器Wに同一の溶液を入れたが、プレートPの各容器Wには異なる溶液を入れてもよい。この場合、プレートPの各容器Wにほぼ均一な超音波が照射されると、アミロイドーシス発症のリスクの比較的高い被験者の溶液には所定量のアミロイドが形成される一方、アミロイドーシス発症のリスクの比較的低い被験者の溶液には所定量のアミロイドは形成されない。このため、超音波の照射をアミロイドーシス発症のリスクの閾値となるように設定し、被験者の陽性および陰性を判定することができる。
【0046】
なお、タンパク質が不定形に凝集した場合、濁度が増加する一方、アミロイド線維特異性蛍光色素とは反応しないため、蛍光が発せられないことがある。この場合、濁度を測定することにより、溶液内のタンパク質の凝集状態を調べることができる。
【0047】
以下、図12を参照して、溶液の濁度を測定する測定部20の一例を説明する。図12に測定部20の模式図を示す。上述したように、プレートPは複数の容器Wを有しているが、ここでは、図面が過度に複雑になることを避けるために、1つの容器Wのみを示している。
【0048】
測定部20は、光源22と、受光部24a、24bとを備える。光源22から出射された光は、プレートPの容器Wの下方から入射する。例えば、光源22としてレーザを用いてもよい。光源22としてレーザを用いることにより、容器Wよりも小さい径のビームスポットの形成を簡便に行うことができる。例えば、光源22として波長635nmの光を出射するレーザを用いてもよく、波長405nmの光を出射するレーザを用いてもよい。
【0049】
光源22とプレートPの容器Wとの間に、減光フィルタNDおよびピンホールPhが配置されてもよく、光源22から出射された光は、ミラーM1、M2において反射された後で、プレートPの容器Wの下方から入射してもよい。また、必要に応じて、レンズを用いて集光してもよく、また、プレートPの容器Wの下方から入射する前に、コリメータレンズを用いて平行光線を形成してもよい。
【0050】
プレートPの容器Wの下方から入射された光は、容器Wの上方から出射される。なお、容器W内の溶液における散乱の程度から、濁度を測定することができる。受光部24aは、光源22から出射されて容器Wを透過した光を検出し、受光部24bは、光源22から出射されて容器W内の溶液において散乱された光を検出する。また、この測定部20を用いて吸光度を測定することもできる。
【0051】
なお、ここでは、光源22からの光はプレートPの容器Wに下方から入射し、上方から出射したが、本発明はこれに限定されない。光源22からの光はプレートPの容器Wに上方から入射し、下方から出射されてもよい。
【0052】
また、アミロイドの溶解した溶液は、蛍光および濁度の両方を測定することが好ましい。このため、測定部20は、溶液から発せられた蛍光の検出、および、濁度の測定の両方を行うことが好ましい。蛍光だけでなく濁度を測定することにより、溶液内のタンパク質の凝集状態をより詳細に調べることができる。この場合、プレートPは、蛍光の測定だけでなく濁度の測定にも適していることが好ましい。例えば、プレートPはポリスチレンから形成されることが好ましい。また、プレートPの各容器Wは、遮光領域の設けられた側部と、透過領域の設けられた底部とを有することが好ましい。例えば、容器Wの側面は黒であり、容器Wの底面は透明である。
【0053】
なお、上述した説明では、超音波照射装置10はアミロイドの形成の促進に用いられたが、本発明はこれに限定されない。超音波照射装置10を細菌の破砕に用いてもよい。
【0054】
以下、図13〜図17を参照して超音波照射装置10を用いた大腸菌の破砕について説明する。本実施形態の超音波照射装置10は、プレートPの各容器Wの溶液内の大腸菌の粉砕をほぼ均一に行うことができる。例えば、大腸菌の破砕の程度は、超音波の照射前後の菌体の重量差(破砕量)から調べられる。
【0055】
図13(a)に、プレートPの模式図を示す。ここでは、プレートPは、容器Wとして互いに分離可能な複数のプラスチックチューブを保持するように構成されている。プレートPの各プラスチックチューブWには同様の溶液(サンプル)が入れられる。図13(a)には、各プラスチックチューブWの番号(サンプルの位置番号)が付されている。
【0056】
例えば、容量1.5mlのプラスチックチューブWに大腸菌を集菌、沈殿させて重量を測定した後に、50mMで1.0mlのTris−HCl(pH8.0)に再懸濁させる。その後、超音波照射装置10はプレートPが移動している状態で超音波を照射する。例えば、プレートPは回転し、その回転速度は6rpmであり、超音波の照射時間は10分である。その後、しばらく間隔を空けて再びプレートPの移動および超音波の照射を行う。このようにして、10分の超音波照射を3回行い、合計30分間超音波照射を行う。例えば、プレートPの温度は7℃に設定されている。超音波照射装置10が超音波を照射することにより、大腸菌は破砕され、菌体量が減少する。破砕量は、各プラスチックチューブWの初期集菌量から、超音波を照射した後に破砕されずに残ったものを差し引くことによって計算される。
【0057】
図13(b)に、サンプル位置番号に対する菌体破砕量を示す。例えば、超音波を照射した後に、各プラスチックチューブWにから集菌した大腸菌の平均重量は9.0mgである。
【0058】
参考のために、図13(b)には、プレートPを移動させないで同様に超音波を照射した場合の菌体破砕量を併せて示している。超音波を照射する際にプレートPを移動させることなく同様の条件を行う場合、超音波を照射した後に、各プラスチックチューブWから集菌した大腸菌の平均重量は9.2mgである。
【0059】
図14に、菌体破砕量の分布を示す。図14には、プレートPの移動の有無に応じた分布を示している。試料数はいずれも24である。表2に、移動の有無に応じた平均菌体破砕量および標準偏差を示す。
【表2】
【0060】
図14および表2から理解されるように、超音波照射時にプレートPを移動させることにより、菌体破砕量の平均が増加するとともに分布のバラツキが抑制される。
【0061】
なお、図13および図14を参照して上述した説明では、菌体の破砕を、菌体の重量に基づいて調べたが、別の方法で菌体の破砕を調べることもできる。例えば、溶液の濁度に基づいて菌体の破砕を調べてもよい。
【0062】
以下、図15〜図17を参照して超音波照射装置10を用いて大腸菌の破砕について説明する。ここでは、溶液の濁度に基づいて大腸菌の破砕を調べる。超音波によって大腸菌が破砕されると、溶液は白濁から透明に変化していき、溶液の濁度は減少する。
【0063】
例えば、プレートPとして96個の容器Wを有するマイクロプレートを用意し、プレートPの各容器Wに、大腸菌試料200μlを入れる。集菌した菌体を50mlのTris−HCl(pH8.0)で再懸濁し、溶液の濁度を平均3.1(10mmセルに換算した値)に調製する。例えば、濁度の測定は、波長600nmの光で、コロナ電気株式会社製のMicroplate reader SH−9000を用いて行われる。
【0064】
その後、超音波照射装置10はプレートPが移動している状態で超音波を照射する。例えば、プレートPは回転し、その回転速度は6rpmであり、超音波の照射時間は10分である。その後、しばらく間隔を空けて再びプレートPの移動および超音波の照射を行う。このようにして、10分の超音波照射を3回行い、合計30分間超音波照射を行う。例えば、プレートPの温度は7℃に設定されている。
【0065】
このように、合計30分の超音波照射を行った後に、再び、溶液の濁度を測定する。その後、超音波の照射前後における濁度を比較し、濁度の変化量を求める。変化量は、超音波照射前の各容器内の溶液の濁度値を1として変化量を規格化する。濁度の減少率は菌体破砕率に対応している。
【0066】
図15に、超音波を照射する際にプレートPの移動を行った場合の各容器Wの菌体破砕率(濁度減少率)を表したプレートPの模式図を示す。プレートPの複数の容器Wのうち端部を除く大部分の容器Wでは菌体破砕率は20%を超えている。
【0067】
参考のために、図16に、プレートを移動させないで同様に超音波を照射した場合の各容器Wの菌体破砕率(濁度減少率)を表したプレートPの模式図を示す。図16に示されるように、プレートPを移動させることなく超音波の照射を行う場合、プレートPの各容器Wにおける菌体破砕率のバラツキが比較的大きく、特に、プレートPの比較的端部に位置する容器W内の溶液の菌体破砕率が比較的低い。これに対して、プレートPを移動させながら超音波を照射する場合、プレートPの各容器内の溶液の菌体破砕率の均一化を図ることができる。
【0068】
図17に、菌体破砕率の分布を示す。図17には、プレートPの移動の有無に応じた分布を示している。試料数はいずれも96である。表2に、移動の有無に応じた平均菌体破砕率および標準偏差を示す。
【表3】
【0069】
図17および表3から、超音波照射時にプレートPを移動させることにより、平均菌体破砕率が増加するとともに分布のバラツキが抑制されることが理解される。
【0070】
なお、超音波照射装置10はタンパク質の凝集に用いてもよい。タンパク質に超音波を照射することにより、タンパク質の凝集が促進される。以下、図18〜図20を参照して超音波照射装置10を用いたタンパク質の凝集について説明する。ここでは、タンパク質として卵白を用いる、卵白に超音波を照射すると、凝集が促進されて濁度が増加する。
【0071】
ここでは、プレートPとして96個の容器Wを有するマイクロプレートを用い、プレートPに各容器Wに200μlの卵白を入れる。卵白は同一の卵から得られたものであり、超音波照射前の白濁を防ぐために希釈していない。その後、各容器内の卵白の濁度を測定する。例えば、濁度の測定は、波長600nmの光を用いて測定部20で行われる。測定部20としてコロナ電気株式会社製のMicroplate reader SH−9000が好適に用いられる。ここでは、濁度の平均は、1.2(10mmセルに換算した値)である。
【0072】
その後、超音波照射装置10は、超音波を照射している間にプレートPを移動させる。例えば、プレートPは回転し、その回転速度は6rpmである。ここでは、超音波照射装置10は、2分間の超音波の照射を5回(合計10分間)行う。温度は40℃に設定されている。このように超音波を照射した後、測定部20を用いて各容器内の濁度を同様に測定し、超音波照射の前後の濁度の変化量を求める。
【0073】
図18(a)に、超音波照射装置10を用いて得られた濁度の変化量を示す。図18(a)では、第1行〜第12行の容器をそれぞれ1、2、3・・・12と示し、第1列〜第8列の容器をそれぞれA、B・・・Hと示しており、第1行および第12行の容器に卵白試料を入れていない。濁度の変化量は、超音波を照射する前の濁度を1として規格化した濁度変化量を示している。
【0074】
また 図18(b)に、図18(a)の変化量の割合を表した円グラフで示している。複数の容器のうちの半分以上の容器内の濁度変化量が2以上に増加していることが理解される。
【0075】
参考のために、図19を参照して、超音波照射装置10において超音波を照射している際に、プレートPを移動させない点を除いて、上述したのと同様に超音波照射前および後の濁度を測定した結果を説明する。図19(a)に、プレートPを移動させないで得られた濁度の変化量を示す。図19(a)でも、第1行〜第12行の容器をそれぞれ1、2、3・・・12と示し、第1列〜第8列の容器をそれぞれA、B・・・Hと示しており、第1行および第12行の容器に卵白試料を入れていない。図19(b)に、図19(a)の変化量の割合を表した円グラフで示している。複数の容器のうちの半分以上の容器内の濁度変化量は2未満であることが理解される。
【0076】
図18(a)、図18(b)と図19(a)、図19(b)との比較から理解されるように、超音波照射装置10が超音波を照射する際にプレートPを移動させることにより、タンパク質の凝集効果を促進するとともにタンパク質の凝集の程度のばらつきを抑制することができる。
【0077】
図20に、プレートPの移動の有無に応じた濁度分布を示す。試料数はいずれも80である。表4に、移動の有無に応じた平均濁度増加率および標準偏差を示す。
【表4】
【0078】
図20および表4からも、超音波照射時にプレートPを移動させることにより、濁度増加率の平均が増加するとともに分布のバラツキが抑制されることが理解される。このように、超音波照射装置10が超音波照射時にプレートPを移動させることにより、タンパク質の凝集を促進させて濁度を増加させるとともに濁度のばらつきを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、プレートの各サンプルにほぼ均一に超音波を照射することができる。例えば、本発明の超音波照射装置は、サンプル(溶液)の成分の違いに応じた超音波照射による影響を簡便に調べることができる。本発明の超音波照射装置は、細胞の破砕、混合物の懸濁化、固体の微粒子化、固体の溶解または反応の促進、アミロイド線維の形成促進、分断および微細化に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0080】
10 超音波照射装置
12 処理槽
14 超音波振動子
16 移動部
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波はさまざまな用途で用いられる。例えば、超音波は、細胞の破砕、混合物の懸濁化、固体の微粒子化、固体の溶解および反応の促進などに用いられる。また、超音波を用いて、アミロイド線維の形成の促進、および、アミロイド線維の分断および微細化が行われることも知られている。
【0003】
例えば、許文献1には、処理槽の外側に超音波振動子を設けた超音波発生装置が記載されている。特許文献1の超音波発生装置では、超音波の照射および中断が自動的に制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−211837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、プレートに保持される複数のサンプル(溶液)に対して単純に超音波の照射を行う場合、サンプルの位置に応じて超音波のサンプルに対する影響にばらつきが生じ、このばらつきは超音波の不均一な照射に起因することを見出した。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、各サンプルにほぼ均一に超音波を照射可能な超音波照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による超音波照射装置は、処理槽と、超音波振動子と、互いに分離した状態で溶液を溜めることの可能な複数の容器を有するプレートを前記処理槽内で移動させる移動部とを備える。
【0008】
ある実施形態において、前記超音波振動子が超音波を発生させるときに前記移動部は前記プレートを移動させる。
【0009】
ある実施形態において、前記移動部は、前記プレートを平面方向に移動させる。
【0010】
ある実施形態において、前記移動部は、スライド部と、前記プレートを載せた状態で前記スライド部に沿って移動可能な支持部とを有する。
【0011】
ある実施形態において、前記移動部は、前記プレートを垂直方向に移動させる。
【0012】
ある実施形態において、前記複数の容器のそれぞれは、遮光領域および透過領域を有する。
【0013】
ある実施形態において、前記複数の容器のそれぞれは、前記遮光領域の設けられた側部と、前記透過領域の設けられた底部とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、各サンプルにほぼ均一に超音波を照射可能な超音波照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による超音波照射装置の実施形態の模式図である。
【図2】(a)は本実施形態の超音波照射装置の模式的な平面図であり、(b)は(a)の模式的な側面図である。
【図3】(a)は本実施形態の超音波照射装置の模式的な平面図であり、(b)は(a)の模式的な側面図である。
【図4】本実施形態の超音波照射装置を備えた超音波処理装置の模式図である。
【図5】図4に示した超音波処理装置における測定部の一例を示す模式図である。
【図6】図5に示した測定部の一例を示す模式図である。
【図7】本実施形態の超音波照射装置を用いた場合の各容器内の溶液の蛍光強度の時間変化を示すグラフである。
【図8】本実施形態の超音波照射装置を用いた場合の各容器内の溶液のラグタイムを表したプレートの模式図である。
【図9】プレートの移動を行わない場合の各容器内の溶液の蛍光強度の時間変化を示すグラフである。
【図10】プレートの移動を行わない場合の各容器内の溶液のラグタイムを表したプレートの模式図である。
【図11】プレートの移動の有無に応じたラグタイムの分布を示すグラフである。
【図12】図4に示した超音波処理装置における測定部の一例を示す模式図である。
【図13】(a)は本実施形態の超音波照射装置に用いられるプレートの模式図であり、(b)はプレート内のサンプルの位置と菌体破砕量との関係を示すグラフである。
【図14】プレートの移動の有無に応じた菌体破砕量の分布を示すグラフである。
【図15】本実施形態の超音波照射装置を用いた場合の各容器内の溶液の菌体破砕率を示す模式図である。
【図16】プレートの移動を行わない場合の各容器内の溶液の菌体破砕率を示す模式図である。
【図17】プレートの移動の有無に応じた破砕率の分布を示すグラフである。
【図18】(a)は本実施形態の超音波照射装置を用いた場合の各容器内の溶液の濁度増加率を示す模式図であり、(b)は濁度増加率の分布を示す円グラフである。
【図19】(a)はプレートの移動を行わない場合の各容器内の溶液の濁度増加率を示す模式図であり、(b)は濁度増加率の分布を示す円グラフである。
【図20】プレートの移動の有無に応じた濁度増加率の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明による超音波照射装置の実施形態を説明する。
【0017】
図1に、本実施形態の超音波照射装置10の模式図を示す。超音波照射装置10は、処理槽12と、超音波振動子14と、互いに分離された状態で溶液を溜めることの可能な複数の容器(微小容器)Wを有するプレートPを処理槽12内で移動させる移動部16とを備える。処理槽12には液体(例えば、水)が溜められる。例えば、プレートPは複数の容器W(ウェル、穴または窪み)が固定して設けられた、いわゆるマイクロプレートであってもよい。または、プレートPは互いに分離可能な複数の容器(管状部材)Wを保持するように構成されてもよい。
【0018】
本実施形態の超音波照射装置10では、超音波振動子14がプレートPに向けて超音波を照射している間に移動部16はプレートPを移動させる。例えば、移動部16はプレートPを所定の点を中心に回転させ、これにより、プレートPは回転移動してもよい。例えば、プレートPの回転速度は0.5rpm以上11rpm以下の範囲内であることが好ましく、プレートPの回転速度は約6rpmであることがさらに好ましい。あるいは、移動部16により、プレートPは周回移動してもよいし、平行移動してもよい。
【0019】
本実施形態の超音波照射装置10では、移動部16が処理槽12内においてプレートPが移動することにより、プレートPの各容器Wの溶液にほぼ均一に超音波を照射することができる。プレートPの容器Wに成分の若干異なる溶液を入れた場合、超音波照射装置10は、プレートPの各容器Wの溶液にほぼ均一に超音波を照射するため、成分の違いに応じた超音波照射による影響を簡便に調べることができる。超音波照射装置10は、細胞の破砕、混合物の懸濁化、固体の微粒子化、固体の溶解または反応の促進などに利用してもよい。また、超音波照射装置10は、アミロイド線維の形成促進、分断および微細化に利用してもよい。
【0020】
以下、図2を参照して超音波照射装置10の一例を説明する。図2に示した超音波照射装置10では、移動部16は、スライド部16s1と、スライド部16s1に沿って移動可能に取り付けられた支持部16t1と、支持部16t1に固定されたスライド部16s2と、スライド部16s2に沿って移動可能に取り付けられた支持部16t2とを有している。支持部16t2の先端にはプレートPが載せられる。スライド部16s1に沿って支持部16t1はy方向に移動し、これに伴い、プレートPも処理槽12内をy方向に移動する。また、スライド部16s2に沿って支持部16t2はx方向に移動し、これに伴い、プレートPも処理槽12内をx方向に移動する。このように、移動部16により、プレートPは処理槽12内を平面方向に移動させることができる。なお、本明細書の以下の説明において、スライド部16s1、16s2を第1スライド部16s1、第2スライド部16s2と呼び、支持部16t1、16t2を第1支持部16t1、第2支持部16t2と呼ぶことがある。また、図2に示すように、処理槽12aの内側に、超音波振動子14の取り付けられた振動板14aが配置されてもよい。例えば、超音波照射装置10の処理槽12および超音波振動子14として、エレコン科学株式会社製のELESTEINが好適に用いられる。
【0021】
なお、図2を参照して説明した超音波照射装置10では、移動部16は、プレートPをx方向およびy方向のそれぞれに沿って移動させることができるが、本発明はこれに限定されない。移動部16は、プレートPをx方向およびy方向の一方のみに沿って移動可能であってもよい。例えば、図2を参照して説明した超音波照射装置10から、第1スライド部16s1および第1支持部16t1を省略してもよい。または、図2を参照して説明した超音波照射装置10から、第2スライド部16s2および第2支持部16t2を省略し、プレートPは支持部16t1に載せられてもよい。
【0022】
なお、図2を参照して説明した移動部16はプレートPを処理槽12内で平面方向に移動させたが、本発明はこれに限定されない。移動部16はプレートPを垂直方向に移動させてもよい。
【0023】
以下、図3を参照して超音波照射装置10の別の構成を説明する。図3に示した超音波照射装置10において、移動部16は、支持部16t2に取り付けられた昇降部16uと、プレートPの載せられる支持部16vとをさらに備える点を除いて、図2を参照して上述した移動部16と同様の構成を有しており、冗長を避けるために重複する説明を省略する。
【0024】
支持部16vは昇降部16uに取り付けられており、昇降部16uは支持部16vをz方向に移動させる。これに伴い、プレートPは処理槽12内から処理槽12の外に、または、処理槽12の外部から処理槽12内に移動する。このため、スライド部16s1、16s2および昇降部16uにより、プレートPを互いに直交する3つの方向に移動させることができる。例えば、昇降部16uにより、プレートPを処理槽12内から処理槽12の外に移動させた後、プレートPの容器W内の溶液を測定してもよい。
【0025】
図4に、超音波照射装置10を備えた超音波処理装置100の模式図を示す。超音波処理装置100は、プレートPの容器W内の溶液に超音波を照射する超音波照射装置10と、プレートPの容器W内の溶液の特性を測定する測定部20とを備えている。
【0026】
超音波照射装置10は、処理槽12および超音波振動子14に加えて、処理槽12内の液体の循環に用いられる循環槽12aと、超音波振動子14を制御する制御部14sと、超音波振動子14を駆動する駆動部14tとを有している。なお、各容器W内の溶液への超音波照射の均一性をさらに改善するために、超音波振動子14の数はできるだけ多いことが好ましい。なお、超音波処理装置100において図3に示した超音波照射装置10を用いる場合、移動部16は、超音波の照射が終了した後、プレートPを測定部20まで移動させてもよい。
【0027】
例えば、超音波照射装置10は、アミロイド線維の誘導に用いられる。アミロイドの形成は、物質の結晶形成に似た現象であり、原因物質が危険レベルを超えていても、アミロイド形成のエネルギー障壁が高いため、過飽和状態に保たれている場合が多い。このような状況では、アミロイドやそのオリゴマーは形成されず、アミロイドーシスも発症せず、潜伏状態にある。原因タンパク質がアミロイドを形成する反応は遅く、一般に、アミロイド形成には、数日から数ヶ月の長時間が必要となる。しかしながら、タンパク質に超音波を照射することにより、アミロイド形成のエネルギー障壁を下げて、アミロイド線維の形成を促進することができる。
【0028】
タンパク質からアミロイドが誘導される場合、アミロイドはアミロイド特異性蛍光色素と結合することによって蛍光を発する。アミロイドが誘導されたプレートPの複数の容器W内にアミロイド特異性蛍光色素が存在することにより、蛍光が発せられ、測定部20はこの蛍光を検出することによって溶液内のアミロイドを検出することができる。例えば、測定部20としてプレートリーダーが用いられ、特異性蛍光色素としてチオフラビンTが用いられる。プレートリーダー20として、コロナ電気株式会社製のMTP−810またはSH−9000が好適に用いられる。
【0029】
なお、溶液をプレートPの容器Wに入れた後、蒸発等を防ぐために容器Wを封止することが好ましく、封止部材として自家蛍光の少ないものを用いることが好ましい。また、水温を測定するために、超音波振動子14の取り付けられた処理槽12にセンサを取り付ける場合、センサが音波に起因して破損することがある。このため、水温を測定するセンサを循環槽12aに取り付け、循環槽12aの温度を測定することが好ましい。
【0030】
図5に、本実施形態の超音波処理装置100におけるプレートリーダー20の模式図を示す。プレートリーダー20は、光源22と、入力光学系Oaと、出力光学系Obと、受光部24とを備えている。受光部24として、例えば、光電子増倍管が用いられる。
【0031】
光源22から出射された光は、入力光学系Oaを介してプレートPの各容器内の溶液に照射される。溶液内から蛍光が発せられる場合、蛍光は出力光学系Obを介して受光部24にて検出される。
【0032】
図6を参照して、入力光学系Oaおよび出力光学系Obの一例を説明する。図6に、プレートリーダー20の模式図を示す。入力光学系Oaは、レンズL1〜L4と、スリットS1〜S3と、カラーフィルタC1と、グレーティングG1、G2と、ハーフミラーH1とを有している。出力光学系Obは、スリットS4〜S6と、カラーフィルタC2と、グレーティングG3、G4と、ハーフミラーH2とを有している。
【0033】
例えば、光源22から出射された光は、レンズL1、L2、カラーフィルタC1およびスリットS1を介してグレーティングG1において反射される。例えば、レンズL1、L2のf値は60である。また。カラーフィルタC1により、特定の波長以外の波長の光が遮断される。反射された光はスリットS2を介してグレーティングG2において反射される。その後、光は、スリットS3、ハーフミラーH1、レンズL3、L4を通過し、最後に、ハーフミラーH2を介してプレートPの各容器内の溶液に照射される。なお、ハーフミラーH1によって進行方向の変更した光の強度を光検出器PDで検出してもよい。この強度に基づいて、プレートPの各容器内の溶液に照射される光の強度の調整を簡便に行うことができる。
【0034】
プレートPにおける容器Wの溶液内から蛍光が発せられる場合、蛍光はハーフミラーH2を介して進行方向が曲げられ、スリットS4を介してグレーティングG3において反射され、反射された光はスリットS5を介してグレーティングG4において反射される。その後、光は、カラーフィルタC2およびスリットS6を介して、最終的に受光部24に入射する。
【0035】
なお、図4を参照して上述した超音波処理装置100では、処理槽12の外部に移動したプレートPに対して蛍光強度の測定を行ったが、本発明はこれに限定されない。プレートPが処理槽12内にある状態でプレートPの容器W内の溶液からの蛍光を検出してもよい。例えば、光ファイバーは、その先端が固定されたプレートPの主面に対して2次元方向に動作可能なように構成されていてもよい。
【0036】
以下、図7〜図11を参照して超音波照射装置10を用いたアミロイド線維の誘導について説明する。タンパク質に超音波を照射することにより、アミロイド線維の誘導時間を短縮するとともに、誘導時間のバラツキを抑制できる。ここでは、超音波照射によってβ2ミクログロブリンからアミロイド線維を形成する。
【0037】
まず、複数の容器Wを有するプレートPを用意する。ここでは、プレートPとして、例えば、ハーフエリア黒タイプの96個の容器(ウェル)Wを有するマイクロプレートが用いられる。プレートPの各容器Wに、0.3mg/mlのβ2ミクログロブリン溶液(100mMのNaCl、5μMチオフラビンTを含む、pH2.5)を200μL入れる。例えば、プレートPは温度37℃に設定される。
【0038】
超音波照射装置10では、超音波を照射する際にプレートPを移動させている。ここでは、移動部16はプレートPを回転させており、回転速度は約6rpmである。超音波照射装置10は、1分間の超音波照射および9分間の中断を繰り返す。上述したように、アミロイド線維が誘導されると、アミロイドはチオフラビンTと結合して蛍光を発する。この蛍光を検出することにより、アミロイドを検出することができる。
【0039】
図7に、プレートPを移動させながら超音波を照射した場合の蛍光強度の時間変化を示す。ここでは、超音波の照射を開始してから蛍光強度の増加が開始するまでの時間に着目する。超音波の照射を開始してから蛍光強度の増加が開始するまでの時間が最も短いものは約50分であり、最も長いものは約100分である。なお、本明細書の以下の説明において超音波の照射を開始してから蛍光強度の増加が開始するまでの時間をラグタイムと呼ぶことがある。
【0040】
図8に、プレートPを移動させながら超音波を照射した場合のラグタイムを表したプレートPの模式図を示す。図8において、第1行〜第12行の容器をそれぞれ1、2、3・・・12と示し、第1列〜第8列の容器をそれぞれA、B・・・Hと示している。図8から理解されるように、ほとんどの容器内の溶液のラグタイムは70分〜80分程度である。
【0041】
参考のために、図9に、プレートPを移動させないで同様に超音波を照射した場合の蛍光強度の時間変化を示す。プレートPを移動させないで超音波の照射を行う場合、ラグタイムは、最短で約60分であり、最長で約270分である。
【0042】
図10に、超音波を照射する際にプレートPの移動を行わない場合のラグタイムを表したプレートPの模式図を示す。図10でも、第1行〜第12行の容器をそれぞれ1、2、3・・・12と示し、第1列〜第8列の容器をそれぞれA、B・・・Hと示している。図10から理解されるように、プレートPにおいて中央付近のほとんどの容器W内の溶液のラグタイムは100分程度であり、端部近傍の容器W内の溶液のラグタイムは120分程度である。このように、端部の容器W内の溶液のラグタイムは中央付近の容器W内の溶液のラグタイムよりも長い。また、図7、図8と図9、図10との比較から理解されるように、超音波を照射する際のプレートPの移動により、ラグタイムの平均を短縮するとともに、ラグタイムのバラツキを抑制することができる。
【0043】
図11に、ラグタイムの分布を示す。図11には、プレートPの移動の有無に応じた分布を示している。試料数はいずれも96である。表1に、移動の有無に応じた平均ラグタイムおよび標準偏差を示す。
【表1】
【0044】
図11および表1からも、超音波照射時にプレートPを移動させることにより、ラグタイムの平均時間を短縮するとともに分布のバラツキを抑制することが理解される。
【0045】
なお、上述した説明ではプレートPの各容器Wに同一の溶液を入れたが、プレートPの各容器Wには異なる溶液を入れてもよい。この場合、プレートPの各容器Wにほぼ均一な超音波が照射されると、アミロイドーシス発症のリスクの比較的高い被験者の溶液には所定量のアミロイドが形成される一方、アミロイドーシス発症のリスクの比較的低い被験者の溶液には所定量のアミロイドは形成されない。このため、超音波の照射をアミロイドーシス発症のリスクの閾値となるように設定し、被験者の陽性および陰性を判定することができる。
【0046】
なお、タンパク質が不定形に凝集した場合、濁度が増加する一方、アミロイド線維特異性蛍光色素とは反応しないため、蛍光が発せられないことがある。この場合、濁度を測定することにより、溶液内のタンパク質の凝集状態を調べることができる。
【0047】
以下、図12を参照して、溶液の濁度を測定する測定部20の一例を説明する。図12に測定部20の模式図を示す。上述したように、プレートPは複数の容器Wを有しているが、ここでは、図面が過度に複雑になることを避けるために、1つの容器Wのみを示している。
【0048】
測定部20は、光源22と、受光部24a、24bとを備える。光源22から出射された光は、プレートPの容器Wの下方から入射する。例えば、光源22としてレーザを用いてもよい。光源22としてレーザを用いることにより、容器Wよりも小さい径のビームスポットの形成を簡便に行うことができる。例えば、光源22として波長635nmの光を出射するレーザを用いてもよく、波長405nmの光を出射するレーザを用いてもよい。
【0049】
光源22とプレートPの容器Wとの間に、減光フィルタNDおよびピンホールPhが配置されてもよく、光源22から出射された光は、ミラーM1、M2において反射された後で、プレートPの容器Wの下方から入射してもよい。また、必要に応じて、レンズを用いて集光してもよく、また、プレートPの容器Wの下方から入射する前に、コリメータレンズを用いて平行光線を形成してもよい。
【0050】
プレートPの容器Wの下方から入射された光は、容器Wの上方から出射される。なお、容器W内の溶液における散乱の程度から、濁度を測定することができる。受光部24aは、光源22から出射されて容器Wを透過した光を検出し、受光部24bは、光源22から出射されて容器W内の溶液において散乱された光を検出する。また、この測定部20を用いて吸光度を測定することもできる。
【0051】
なお、ここでは、光源22からの光はプレートPの容器Wに下方から入射し、上方から出射したが、本発明はこれに限定されない。光源22からの光はプレートPの容器Wに上方から入射し、下方から出射されてもよい。
【0052】
また、アミロイドの溶解した溶液は、蛍光および濁度の両方を測定することが好ましい。このため、測定部20は、溶液から発せられた蛍光の検出、および、濁度の測定の両方を行うことが好ましい。蛍光だけでなく濁度を測定することにより、溶液内のタンパク質の凝集状態をより詳細に調べることができる。この場合、プレートPは、蛍光の測定だけでなく濁度の測定にも適していることが好ましい。例えば、プレートPはポリスチレンから形成されることが好ましい。また、プレートPの各容器Wは、遮光領域の設けられた側部と、透過領域の設けられた底部とを有することが好ましい。例えば、容器Wの側面は黒であり、容器Wの底面は透明である。
【0053】
なお、上述した説明では、超音波照射装置10はアミロイドの形成の促進に用いられたが、本発明はこれに限定されない。超音波照射装置10を細菌の破砕に用いてもよい。
【0054】
以下、図13〜図17を参照して超音波照射装置10を用いた大腸菌の破砕について説明する。本実施形態の超音波照射装置10は、プレートPの各容器Wの溶液内の大腸菌の粉砕をほぼ均一に行うことができる。例えば、大腸菌の破砕の程度は、超音波の照射前後の菌体の重量差(破砕量)から調べられる。
【0055】
図13(a)に、プレートPの模式図を示す。ここでは、プレートPは、容器Wとして互いに分離可能な複数のプラスチックチューブを保持するように構成されている。プレートPの各プラスチックチューブWには同様の溶液(サンプル)が入れられる。図13(a)には、各プラスチックチューブWの番号(サンプルの位置番号)が付されている。
【0056】
例えば、容量1.5mlのプラスチックチューブWに大腸菌を集菌、沈殿させて重量を測定した後に、50mMで1.0mlのTris−HCl(pH8.0)に再懸濁させる。その後、超音波照射装置10はプレートPが移動している状態で超音波を照射する。例えば、プレートPは回転し、その回転速度は6rpmであり、超音波の照射時間は10分である。その後、しばらく間隔を空けて再びプレートPの移動および超音波の照射を行う。このようにして、10分の超音波照射を3回行い、合計30分間超音波照射を行う。例えば、プレートPの温度は7℃に設定されている。超音波照射装置10が超音波を照射することにより、大腸菌は破砕され、菌体量が減少する。破砕量は、各プラスチックチューブWの初期集菌量から、超音波を照射した後に破砕されずに残ったものを差し引くことによって計算される。
【0057】
図13(b)に、サンプル位置番号に対する菌体破砕量を示す。例えば、超音波を照射した後に、各プラスチックチューブWにから集菌した大腸菌の平均重量は9.0mgである。
【0058】
参考のために、図13(b)には、プレートPを移動させないで同様に超音波を照射した場合の菌体破砕量を併せて示している。超音波を照射する際にプレートPを移動させることなく同様の条件を行う場合、超音波を照射した後に、各プラスチックチューブWから集菌した大腸菌の平均重量は9.2mgである。
【0059】
図14に、菌体破砕量の分布を示す。図14には、プレートPの移動の有無に応じた分布を示している。試料数はいずれも24である。表2に、移動の有無に応じた平均菌体破砕量および標準偏差を示す。
【表2】
【0060】
図14および表2から理解されるように、超音波照射時にプレートPを移動させることにより、菌体破砕量の平均が増加するとともに分布のバラツキが抑制される。
【0061】
なお、図13および図14を参照して上述した説明では、菌体の破砕を、菌体の重量に基づいて調べたが、別の方法で菌体の破砕を調べることもできる。例えば、溶液の濁度に基づいて菌体の破砕を調べてもよい。
【0062】
以下、図15〜図17を参照して超音波照射装置10を用いて大腸菌の破砕について説明する。ここでは、溶液の濁度に基づいて大腸菌の破砕を調べる。超音波によって大腸菌が破砕されると、溶液は白濁から透明に変化していき、溶液の濁度は減少する。
【0063】
例えば、プレートPとして96個の容器Wを有するマイクロプレートを用意し、プレートPの各容器Wに、大腸菌試料200μlを入れる。集菌した菌体を50mlのTris−HCl(pH8.0)で再懸濁し、溶液の濁度を平均3.1(10mmセルに換算した値)に調製する。例えば、濁度の測定は、波長600nmの光で、コロナ電気株式会社製のMicroplate reader SH−9000を用いて行われる。
【0064】
その後、超音波照射装置10はプレートPが移動している状態で超音波を照射する。例えば、プレートPは回転し、その回転速度は6rpmであり、超音波の照射時間は10分である。その後、しばらく間隔を空けて再びプレートPの移動および超音波の照射を行う。このようにして、10分の超音波照射を3回行い、合計30分間超音波照射を行う。例えば、プレートPの温度は7℃に設定されている。
【0065】
このように、合計30分の超音波照射を行った後に、再び、溶液の濁度を測定する。その後、超音波の照射前後における濁度を比較し、濁度の変化量を求める。変化量は、超音波照射前の各容器内の溶液の濁度値を1として変化量を規格化する。濁度の減少率は菌体破砕率に対応している。
【0066】
図15に、超音波を照射する際にプレートPの移動を行った場合の各容器Wの菌体破砕率(濁度減少率)を表したプレートPの模式図を示す。プレートPの複数の容器Wのうち端部を除く大部分の容器Wでは菌体破砕率は20%を超えている。
【0067】
参考のために、図16に、プレートを移動させないで同様に超音波を照射した場合の各容器Wの菌体破砕率(濁度減少率)を表したプレートPの模式図を示す。図16に示されるように、プレートPを移動させることなく超音波の照射を行う場合、プレートPの各容器Wにおける菌体破砕率のバラツキが比較的大きく、特に、プレートPの比較的端部に位置する容器W内の溶液の菌体破砕率が比較的低い。これに対して、プレートPを移動させながら超音波を照射する場合、プレートPの各容器内の溶液の菌体破砕率の均一化を図ることができる。
【0068】
図17に、菌体破砕率の分布を示す。図17には、プレートPの移動の有無に応じた分布を示している。試料数はいずれも96である。表2に、移動の有無に応じた平均菌体破砕率および標準偏差を示す。
【表3】
【0069】
図17および表3から、超音波照射時にプレートPを移動させることにより、平均菌体破砕率が増加するとともに分布のバラツキが抑制されることが理解される。
【0070】
なお、超音波照射装置10はタンパク質の凝集に用いてもよい。タンパク質に超音波を照射することにより、タンパク質の凝集が促進される。以下、図18〜図20を参照して超音波照射装置10を用いたタンパク質の凝集について説明する。ここでは、タンパク質として卵白を用いる、卵白に超音波を照射すると、凝集が促進されて濁度が増加する。
【0071】
ここでは、プレートPとして96個の容器Wを有するマイクロプレートを用い、プレートPに各容器Wに200μlの卵白を入れる。卵白は同一の卵から得られたものであり、超音波照射前の白濁を防ぐために希釈していない。その後、各容器内の卵白の濁度を測定する。例えば、濁度の測定は、波長600nmの光を用いて測定部20で行われる。測定部20としてコロナ電気株式会社製のMicroplate reader SH−9000が好適に用いられる。ここでは、濁度の平均は、1.2(10mmセルに換算した値)である。
【0072】
その後、超音波照射装置10は、超音波を照射している間にプレートPを移動させる。例えば、プレートPは回転し、その回転速度は6rpmである。ここでは、超音波照射装置10は、2分間の超音波の照射を5回(合計10分間)行う。温度は40℃に設定されている。このように超音波を照射した後、測定部20を用いて各容器内の濁度を同様に測定し、超音波照射の前後の濁度の変化量を求める。
【0073】
図18(a)に、超音波照射装置10を用いて得られた濁度の変化量を示す。図18(a)では、第1行〜第12行の容器をそれぞれ1、2、3・・・12と示し、第1列〜第8列の容器をそれぞれA、B・・・Hと示しており、第1行および第12行の容器に卵白試料を入れていない。濁度の変化量は、超音波を照射する前の濁度を1として規格化した濁度変化量を示している。
【0074】
また 図18(b)に、図18(a)の変化量の割合を表した円グラフで示している。複数の容器のうちの半分以上の容器内の濁度変化量が2以上に増加していることが理解される。
【0075】
参考のために、図19を参照して、超音波照射装置10において超音波を照射している際に、プレートPを移動させない点を除いて、上述したのと同様に超音波照射前および後の濁度を測定した結果を説明する。図19(a)に、プレートPを移動させないで得られた濁度の変化量を示す。図19(a)でも、第1行〜第12行の容器をそれぞれ1、2、3・・・12と示し、第1列〜第8列の容器をそれぞれA、B・・・Hと示しており、第1行および第12行の容器に卵白試料を入れていない。図19(b)に、図19(a)の変化量の割合を表した円グラフで示している。複数の容器のうちの半分以上の容器内の濁度変化量は2未満であることが理解される。
【0076】
図18(a)、図18(b)と図19(a)、図19(b)との比較から理解されるように、超音波照射装置10が超音波を照射する際にプレートPを移動させることにより、タンパク質の凝集効果を促進するとともにタンパク質の凝集の程度のばらつきを抑制することができる。
【0077】
図20に、プレートPの移動の有無に応じた濁度分布を示す。試料数はいずれも80である。表4に、移動の有無に応じた平均濁度増加率および標準偏差を示す。
【表4】
【0078】
図20および表4からも、超音波照射時にプレートPを移動させることにより、濁度増加率の平均が増加するとともに分布のバラツキが抑制されることが理解される。このように、超音波照射装置10が超音波照射時にプレートPを移動させることにより、タンパク質の凝集を促進させて濁度を増加させるとともに濁度のばらつきを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、プレートの各サンプルにほぼ均一に超音波を照射することができる。例えば、本発明の超音波照射装置は、サンプル(溶液)の成分の違いに応じた超音波照射による影響を簡便に調べることができる。本発明の超音波照射装置は、細胞の破砕、混合物の懸濁化、固体の微粒子化、固体の溶解または反応の促進、アミロイド線維の形成促進、分断および微細化に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0080】
10 超音波照射装置
12 処理槽
14 超音波振動子
16 移動部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽と、
超音波振動子と、
互いに分離した状態で溶液を溜めることの可能な複数の容器を有するプレートを前記処理槽内で移動させる移動部と
を備える、超音波照射装置。
【請求項2】
前記超音波振動子が超音波を発生させるときに前記移動部は前記プレートを移動させる、請求項1に記載の超音波照射装置。
【請求項3】
前記移動部は、前記プレートを平面方向に移動させる、請求項1または2に記載の超音波照射装置。
【請求項4】
前記移動部は、
スライド部と、
前記プレートを載せた状態で前記スライド部に沿って移動可能な支持部と
を有する、請求項1から3のいずれかに記載の超音波照射装置。
【請求項5】
前記移動部は、前記プレートを垂直方向に移動させる、請求項1から4のいずれかに記載の超音波照射装置。
【請求項6】
前記複数の容器のそれぞれは、遮光領域および透過領域を有する、請求項1から5のいずれかに記載の超音波照射装置。
【請求項7】
前記複数の容器のそれぞれは、前記遮光領域の設けられた側部と、前記透過領域の設けられた底部とを有する、請求項6に記載の超音波照射装置。
【請求項1】
処理槽と、
超音波振動子と、
互いに分離した状態で溶液を溜めることの可能な複数の容器を有するプレートを前記処理槽内で移動させる移動部と
を備える、超音波照射装置。
【請求項2】
前記超音波振動子が超音波を発生させるときに前記移動部は前記プレートを移動させる、請求項1に記載の超音波照射装置。
【請求項3】
前記移動部は、前記プレートを平面方向に移動させる、請求項1または2に記載の超音波照射装置。
【請求項4】
前記移動部は、
スライド部と、
前記プレートを載せた状態で前記スライド部に沿って移動可能な支持部と
を有する、請求項1から3のいずれかに記載の超音波照射装置。
【請求項5】
前記移動部は、前記プレートを垂直方向に移動させる、請求項1から4のいずれかに記載の超音波照射装置。
【請求項6】
前記複数の容器のそれぞれは、遮光領域および透過領域を有する、請求項1から5のいずれかに記載の超音波照射装置。
【請求項7】
前記複数の容器のそれぞれは、前記遮光領域の設けられた側部と、前記透過領域の設けられた底部とを有する、請求項6に記載の超音波照射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−606(P2013−606A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130623(P2011−130623)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、近畿経済産業局、平成22年度地域イノベーション創出研究開発事業「疾患に関わる蛋白質異常凝集体の高速誘導検出装置の研究開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(302051083)エレコン科学株式会社 (6)
【出願人】(591084827)コロナ電気株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、近畿経済産業局、平成22年度地域イノベーション創出研究開発事業「疾患に関わる蛋白質異常凝集体の高速誘導検出装置の研究開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(302051083)エレコン科学株式会社 (6)
【出願人】(591084827)コロナ電気株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
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