説明

超音波診断装置、超音波画像処理装置及び超音波画像処理プログラム

【課題】 スペックルパタンが好適に除去され、人工的でなく滑らかな画質を持つ超音波画像を生成可能な超音波診断装置等を提供すること。
【解決手段】 多重解像度分解により取得した各画像を低域信号成分、高域信号水平成分、高域信号垂直成分、高域信号斜め成分に分解し、分解された各信号成分に対して形態学的再構成処理を実行した後、多重解像度再構成することで、各画像からスペックルパタンを除去するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像処理装置に関し、特に被検体内に超音波を送信し、被検体内からの反射波に基づいて被検体内の診断情報を得る超音波診断装置、及び超音波診断装置によって取得された超音波画像を利用する超音波画像処理装置及び超音波画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断は、超音波プローブを体表から当てるだけの簡単な操作で心臓の拍動や胎児の動きの様子がリアルタイム表示で得られ、かつ安全性が高いため繰り返して検査を行うことができる。この他、システムの規模がX線、CT、MRIなど他の診断機器に比べて小さく、ベッドサイドへ移動していっての検査も容易に行えるなど簡便な診断手法であると言える。この超音波診断において用いられる超音波診断装置は、それが具備する機能の種類によって様々に異なるが、小型なものは片手で持ち運べる程度のものが開発されており、超音波診断はX線などのように被曝の影響がなく、産科や在宅医療等においても使用することができる。この様な超音波診断装置は、一般的には超音波振動子が1次元に配列された超音波プローブを用いて被検体の特定の断面をスキャンして2次元の断層画像を得るものであるが、近年では、超音波振動子が2次元に配列された2次元アレイ超音波プローブ等を用いることにより、被検体内部を空間的にスキャンして3次元の生体情報(ボリュームデータ)を収集することも可能になってきている。
【0003】
ところで、複数の近接する被検体組織からの受信信号は、それぞれの位相情報のために干渉し、振幅情報のみを合成する場合とは見え方が異なる画像パタン、すなわちスペックルパタンが生成される。このスペックルパタンは被検体組織の境界の位置・形状を正確に観測するのをしばしば妨げるため、これを除去するための各種の処理方法が提案されている。
【0004】
その一つに、ウェーブレット変換/逆変換等によって対象画像を多重解像度分解し、分解した各画像に処理を行う方法がある。多重解像度分解・再構成は、画像のノイズを低減したり、複数の画像を違和感なく合成したりする用途に利用されるものである。例えば、ノイズ除去を目的とし、数レベルにわたってウェーブレット多重解像度分解し、分解した画像の低域成分に対し、数理形態学(mathematical morphology)に基づくオープニング(opening)・クロージング(closing)処理を適用し、両者の差分を取ってノイズ成分を抽出し、その結果に基づいてノイズ除去処理を実施し、得られた画像を次のレベルの分解に供するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
他の手法として、超音波診断装置において、コンパウンドスキャン法によって得られた、領域が重複する複数枚の画像を合成する際、重複領域と非重複領域とのつなぎ目(境界)の不連続感をなくし分解能を向上させる目的で、合成すべき複数枚の画像を各々多重解像度分解し、分解した各画像に前記複数枚の画像の平均、最大値等のフィルタ演算処理を行うものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、コンパウンドスキャン法自体がスペックルパタン除去手段の一つであるが、スキャン法によらないスペックルパタン除去の方法として、多重解像度分解した画像の高域成分にフィルタをかける手法もある。
【0007】
一方、形状抽出やノイズ削減を目的とするものとして、形態学的再構成(morphological reconstruction)と呼ばれる手法が知られている(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−224421号公報
【特許文献2】特願2007−256338
【非特許文献1】H. Arefi, M. Hahn “A Morphological reconstruction algorithm for separating off-terrain points from terrain points laser scanning data”, ISPRS WG III/3, III/4, V/3 Workshop "Laser scanning 2005", Enschede, the Netherlands, September 12-14, 2005.
【非特許文献2】”Morphological Reconstruction”, MathWorks, Inc. http://www.mathworks.com/access/helpdesk_r13/help/toolbox/images/morph10.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のスペックルパタン除去法には、次のような問題がある。
【0009】
すなわち、閾値設定、重み付けなどの簡単な処理、または特許文献1で利用されているような形態学的オープニング・クロージング処理によれば、スペックルパタンは低減することができる。しかしながら、結果として得られる画像は、観察者に人工的な印象を与えるものとなってしまう。
【0010】
また、形態学的再構成処理によれば、地域的な最高値が低減され、スペックルパタンの明るい部分が削れたような画像を得ることができる。しかしながら、形態学的再構成処理のみではスペックルパタンの暗い部分は除去されず、所々穴の開いたように残ってしまう。またスペックルパタンの削減された部分も滑らかでなく、境界・ギザギザが目立つという問題がある。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、スペックルパタンが好適に除去され、人工的でなく滑らかな画質を持つ超音波画像を生成可能な超音波診断装置、超音波画像処理装置、超音波画像処理プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0013】
請求項1に記載の発明は、超音波画像データを多重解像度分解し、低域信号成分に対応する第1の画像データと高域信号成分に対応する少なくとも一つの第2の画像データとを取得する多重解像度分解手段と、前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データに対して、第1のレベルより低い地域的最高値を低減する地域的最高値低減処理と、第2のレベルより高い地域的最低値を低減する地域的最低値低減処理とを実行する低減処理手段と、前記地域的最高値低減処理及び前記地域的最低値低減処理が施された前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データを用いて多重解像度再構成を実行し、再構成画像を生成する再構成手段と、を具備することを特徴とする超音波診断装置である。
【0014】
請求項7に記載の発明は、超音波画像データを多重解像度分解し、低域信号成分に対応する第1の画像データと高域信号成分に対応する少なくとも一つの第2の画像データとを取得する多重解像度分解手段と、前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データに対して、第1のレベルより低い地域的最高値を低減する地域的最高値低減処理と、第2のレベルより高い地域的最低値を低減する地域的最低値低減処理とを実行する低減処理手段と、前記地域的最高値低減処理及び前記地域的最低値低減処理が施された前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データを用いて多重解像度再構成を実行し、再構成画像を生成する再構成手段と、を具備することを特徴とする超音波画像処理装置である。
【0015】
請求項8に記載の発明は、コンピュータに、超音波画像データを多重解像度分解させ、低域信号成分に対応する第1の画像データと高域信号成分に対応する少なくとも一つの第2の画像データとを取得させる多重解像度分解機能と、前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データに対して、第1のレベルより低い地域的最高値を低減する地域的最高値低減処理と、第2のレベルより高い地域的最低値を低減する地域的最低値低減処理とを実行させる低減処理機能と、前記地域的最高値低減処理及び前記地域的最低値低減処理が施された前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データを用いて多重解像度再構成を実行させ、再構成画像を生成させる再構成機能と、を実現させることを特徴とする超音波画像処理プログラムである。
【発明の効果】
【0016】
以上本発明によれば、スペックルパタンが好適に除去され、人工的でなく滑らかな画質を持つ超音波画像を生成可能な超音波診断装置、超音波画像処理装置、超音波画像処理プログラムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施形態及び第2実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。同図に示すように、本超音波診断装置1は、超音波プローブ12、入力装置13、モニター14、超音波送信ユニット21、超音波受信ユニット22、Bモード処理ユニット23、ドプラ処理ユニット24、画像生成ユニット25、スペックルパタン除去処理ユニット26、画像合成ユニット27、制御プロセッサ(CPU)28、内部記憶装置29、インターフェースユニット30を具備している。以下、超音波診断装置1の個々の構成要素の機能について説明する。
【0019】
超音波プローブ12は、超音波送受信ユニット21からの駆動信号に基づき超音波を発生し、被検体からの反射波を電気信号に変換する複数の圧電振動子、当該圧電振動子に設けられる整合層、当該圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有している。当該超音波プローブ12から被検体Pに超音波が送信されると、当該送信超音波は、体内組織の音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、エコー信号として超音波プローブ12に受信される。このエコー信号の振幅は、反射することになった反射することになった不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。また、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合のエコーは、ドプラ効果により移動体の超音波送信方向の速度成分を依存して、周波数偏移を受ける。
【0020】
入力装置13は、装置本体11に接続され、オペレータからの各種指示、条件、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示等を装置本体11にとりこむための各種スイッチ、ボタン、トラックボール、マウス、キーボード等を有している。例えば、操作者が入力装置13の終了ボタンやFREEZEボタンを操作すると、超音波の送受信は終了し、当該超音波診断装置は一時停止状態となる。
【0021】
モニター14は、画像生成ユニット25からのビデオ信号に基づいて、生体内の形態学的情報(通常のBモード画像)、血流情報(平均速度画像、分散画像、パワー画像等)等を所定の形態で表示する。
【0022】
超音波送信ユニット21は、図示しないトリガ発生回路、遅延回路およびパルサ回路等を有している。パルサ回路では、所定のレート周波数fr Hz(周期;1/fr秒)で、送信超音波を形成するためのレートパルスが繰り返し発生される。また、遅延回路では、チャンネル毎に超音波をビーム状に集束し且つ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間が、各レートパルスに与えられる。トリガ発生回路は、このレートパルスに基づくタイミングで、プローブ12に駆動パルスを印加する。
【0023】
超音波受信ユニット22は、図示していないアンプ回路、A/D変換器、加算器等を有している。アンプ回路では、プローブ12を介して取り込まれたエコー信号をチャンネル毎に増幅する。A/D変換器では、増幅されたエコー信号に対し受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与え、その後加算器において加算処理を行う。この加算により、エコー信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調され、受信指向性と送信指向性とにより超音波送受信の総合的なビームが形成される。
【0024】
Bモード処理ユニット23は、送受信ユニット21からエコー信号を受け取り、対数増幅、包絡線検波処理などを施し、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータを生成する。このデータは、画像生成ユニット25に送信され、反射波の強度を輝度にて表したBモード画像としてモニター14に表示される。
【0025】
ドプラ処理ユニット24は、送受信ユニット21から受け取ったエコー信号から速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、平均速度、分散、パワー等の血流情報を多点について求める。
【0026】
画像生成ユニット25は、Bモード処理ユニット23、ドプラ処理ユニット24、スペックルパタン除去処理ユニット26から受け取ったデータを用いて、超音波画像を生成する。
【0027】
スペックルパタン除去処理ユニット26は、Bモード処理ユニット23からのBモード画像データ又はドプラ処理ユニット24からのドプラモード画像データを用いて、後述するスペックルパタン除去機能に従う処理(スペックルパタン除去処理)を実行する。なお、本実施形態においては、説明を具体的にするため、スペックルパタン除去処理ユニット26は、Bモード画像データを用いてスペックルパタン除去処理を行うものとする。
【0028】
画像合成ユニット27は、画像生成ユニット25から受け取った画像を種々のパラメータの文字情報や目盛等と共に合成し、ビデオ信号としてモニター14に出力する。
【0029】
制御プロセッサ28は、情報処理装置(計算機)としての機能を持ち、本超音波診断装置本体の動作を制御する。制御プロセッサ28は、内部記憶装置29から後述するスペックルパタン除去機能を実現するための専用プログラム、所定のスキャンシーケンスを実行するための制御プログラムを読み出して自身が有するメモリ上に展開し、各種処理に関する演算・制御等を実行する。
【0030】
内部記憶装置29は、異なる画角設定により複数のボリュームデータを収集するための所定のスキャンシーケンス、後述するスペックルパタン除去機能を実現するための専用プログラム、画像生成、表示処理を実行するための制御プログラム、診断情報(患者ID、医師の所見等)、診断プロトコル、送受信条件、ボディマーク生成プログラムその他のデータ群が保管されている。また、必要に応じて、画像生成ユニット25、ボリュームデータ生成ユニット26、画像合成ユニット27中の画像の保管などにも使用される。内部記憶装置29のデータは、インターフェースユニット30を経由して外部周辺装置へ転送することも可能となっている。
【0031】
インターフェースユニット30は、入力装置13、ネットワーク、新たな外部記憶装置(図示せず)に関するインターフェースである。当該装置によって得られた超音波画像等のデータや解析結果等は、インターフェースユニット30よって、ネットワークを介して他の装置に転送可能である。
【0032】
(スペックルパタン除去機能)
次に、本超音波診断装置1が有する、スペックルパタン除去機能について説明する。この機能は、多重解像度分解により取得した各画像を低域、高域等の信号成分に分解し、分解された各信号成分に対して形態学的再構成処理を実行した後、多重解像度再構成することで、各画像からスペックルパタンを除去するものである。
【0033】
図2は、本スペックルパタン除去機能を超音波診断装置において実現する場合の処理の流れを示したフローチャートである。同図に従って、スペックルパタン除去処理の内容について説明する。なお、本スペックルパタン除去機能を超音波画像処理装置において実現する場合には、予め取得された画像データを用いて、図2のステップS2〜S4の処理が実行されることになる。
【0034】
[画像データの取得:ステップS1]
まず、被検体の所定部位を対象に超音波走査が実行され、当該所定部位から得られたフレーム毎のエコー信号が取得される。Bモード処理ユニット23は、得られたフレーム毎のエコー信号を用いて、複数の二次元画像データ(生データ)を生成する(ステップS1)。
【0035】
[スペックルパタン除去処理:ステップS2]
スペックルパタン除去処理ユニット26は、Bモード処理ユニット23において生成された複数の二次元画像データに対して、スペックルパタン除去処理を実行する(ステップS2)。
【0036】
図3は、ステップS2におけるスペックルパタン除去処理の流れを示したフローチャートである。同図に示すように、スペックルパタン除去処理ユニット26は、まず各画像を多重解像度分解する(ステップS21)。ここでは、説明を具体的にするために、ウェーブレット変換(離散ウェーブレット変換)を用いた多重解像度分解を実行し、各画像を低域信号成分、高域信号水平成分、高域信号垂直成分、高域信号斜め成分の各成分に多重解像度分解するものとする。しかしながら、本スペックルパタン除去処理は、ウェーブレット変換による多重解像度分解の手法には拘泥されず、例えばラプラシアン・ピラミッド法、フレネル変換、ガボール変換等の他の手法を用いるようにしてもよい。
【0037】
画像の多重解像度分解の結果、低域信号成分に対応するA画像(A: Approximation)、高域信号水平成分に対応するH画像(H: Horizontal detail)、高域信号垂直成分に対応するV画像(V: Vertical detail)、高域信号斜め成分に対応するD画像(D: Diagonal detail)の各画像が得られる。
【0038】
次に、スペックルパタン除去処理ユニット26は、各信号成分(すなわち、低域信号成分、高域信号水平成分、高域信号垂直成分、高域信号斜め成分の各成分)に対応する各画像に対して形態学的再構成処理(Morphological Reconstruction)を実行し、地域的最高値を低減させる(ステップS22a〜S22d)。
【0039】
図4は、ステップS22における形態学的再構成処理の概念を説明するための図である。なお、同図においては、説明を容易にするために1次元で説明している。また、Bモード処理ユニット23から入力する画像をマスク(mask)と呼びIと表記する。このマスクからレベルhを減算した画像をマーカ(marker)と呼びJと表記する。入力画像(マスク)IとマーカJとの間には、次の式(1)の関係式がある。
【数1】

【0040】
ここで、ピクセルの近傍の形状を構造要素(structuring element)と定義して、マーカを構造要素により形態学的膨張(morphological dilation)の処理を行う。ここで、形態学的膨張とは、入力画像の各ピクセルに対し、ピクセルの構造要素のうちの最大値を得、それを出力画像のピクセルとする処理である。構造要素をSで表すと、形態学的膨張の演算は次の式(2)のように書ける。
【数2】

【0041】
ところが、マーカの膨張はマスクによって制限される。すなわち、膨張させたマーカと、マスクとの各ピクセルにおける最小値が、マスクによって制限された膨張である。
【数3】

【0042】
式(3)の左辺を新たなマーカとして演算を繰り返す。i回目のマーカをJi、i+1回目のマーカをJi+1とすれば、JとJi+1との間には次の式(4)が成り立つ。
【数4】

【0043】
なお、図4において、この繰り返しによって、マーカがマスクに制限されながら次々膨張していく状況を細線によって示してある。
【0044】
スペックルパタン除去処理ユニット26は、演算の繰り返しループにおいて、繰り返しごとにJとJi+1とを比較し、Ji+1がJと等しければ繰り返し演算が収束したものとみなし、ループを終了する。収束したマーカ、すなわち図4の303が再構成された画像である。同図から明らかなように、画像が収束する回数はマスクの傾きによって異なり、急な部分では少ない回数で収束するが、なだらかな部分ではより多くの繰り返しが必要である。
【0045】
なお、繰り返しごとに画像のすべてのピクセルを計算するのは時間がかかるため、すでに収束したピクセルについては、式(4)の演算を省略することによって、処理の高速化をはかることができる。また、ある程度の回数の演算を繰り返せばスペックルパタン除去の効果が得られるため、所定の繰り返し回数で演算を打ち切ることもできる。
【0046】
次に、スペックルパタン除去処理ユニット26は、形態学的再構成処理が施された各信号成分を反転させた後(ステップS23a〜S23d)、地域的最低値を低減させるための形態学的再構成処理を実行する(ステップS24a〜S24d)。
【0047】
スペックルパタン除去処理ユニット26は、地域的最低値の低減を、次の(a)又は(b)のいずれかの処理によって実行する。
【0048】
(a)入力画像をマスクとし、マスクにレベルhを加算した画像をマーカとして、マーカに形態学的縮退(morphological erosion)の処理を行う。マーカの縮退はマスクによって制限されるものとし、マーカが収束するまで縮退を繰り返す。
【0049】
(b)画像を反転し、前式(4)の形態学的再構成処理を適用し、得られた画像を再び反転する。
【0050】
(a)と(b)の結果は、レベルhと構造要素Sが等しければ同一になり、地域的最低値が低減された画像が得られる。そのため、形態学的再構成処理に続いて(a)または(b)を適用すれば、スペックルパタンの明暗両方が削除された画像が得られる。また、(a)の処理手順は、前記の地域的最高値低減処理によく似ている。形態学的膨張は、入力画像の各ピクセルに対し、ピクセルの構造要素のうちの最大値を得、それを出力画像のピクセルとする処理である。
【0051】
入力画像(マスク)をI、マーカをJ=I+h、構造要素をS、ピクセルごとの最小値を表す演算子を記号vで表せば、地域的最高値低減処理の式(4)に相当するものは、次の式(5)となる。
【数5】

【0052】
スペックルパタン除去処理ユニット26は、この演算をJが変化しなくなるまで繰り返す。このようにして得られた各画像は、地域的最高値および最低値が各々独立に削減されたものとなる。
【0053】
次に、スペックルパタン除去処理ユニット26は、地域的最低値低減のための形態学的再構成処理が施された各信号成分を反転させた後(ステップS25a〜S25d)、各信号成分を多重解像度合成し、スペックルパタンが除去された各画像を生成する(ステップS26)。
【0054】
[超音波画像の生成・表示:ステップS3、S4]
画像生成ユニット25は、スペックルパタン除去処理後の画像データを用いて、超音波画像を生成する(ステップS3)。生成された超音波画像は、画像合成ユニット27において種々のパラメータの文字情報や目盛等と共に合成され、所定の形態でモニター14に表示される(ステップS4)。
【0055】
なお、以上述べた図2、図3を用いた説明においては、地域的最高値低減のための形態学的再構成処理の後、画像を反転させ、地域的最低値低減のための形態学的再構成処理を行うものとした。これに対し、地域的最低値低減のための形態学的再構成処理を先に実行し、画像を反転させた後、地域的最高値低減のための形態学的再構成処理を行うようにしてもよい。また、ステップS23a〜S23dの反転処理、ステップS24a〜S24dの(地域的最低値低減のための)形態学的再構成処理、ステップS05a〜S25dの反転処理を必要に応じて省略するようにしても、十分な効果を得ることができる。
【0056】
以上述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0057】
本超音波診断装置によれば、ウェーブレット分解により各画像を各信号成分に多重解像度分解し、分解された高域、低域等の各信号成分にhおよびSを設定し、それぞれ独立に形態学的再構成処理を実行する。従って、図5に示すような形態学的再構成処理が実行されていない場合に比して、各画像の各信号成分を図6に示すように滑らかにすることができる。また、この様に形態学的再構成処理が施された再度各信号成分を用いて各画像を再構成する。従って、図7に示す本スペックルパタン除去処理前の画像に比して、図8に示すような詳細かつ円滑にスペックルパタンが除去された超音波画像を修得することができる。また、特に、地域的最高値低減処理のみを適用した場合に比して、スペックルパタンの暗い部分を好適に除去することができ、また画像上の所々に穴が開くのを防止することができ、さらに、地域的最高値低減処理と地域的最低値低減処理とを適用した場合に比して、滑らかにスペックルパタンを削減することができ、境界・ギザギザが目立なくすることができる。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態に係る超音波診断装置1は、一次元アレイプローブを用いた揺動走査や二次元アレイプローブを用いたボリューム走査によりボリュームデータを取得し、これに対してスペックルパタン除去処理を実行するものである。なお、スペックルパタン除去処理の対象とするボリュームデータは、Bモードボリュームデータ、ドプラボリュームデータのいずれであってもよい。以下においては、説明を具体的にするため、Bモードボリュームデータを用いる場合を例とする。
【0059】
図9は、第2の実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。図1に示した第1の実施形態に係る超音波診断装置1と異なる構成についてのみ説明する。
【0060】
超音波プローブ12は、被検体の三次元領域を超音波走査可能なものでり、例えば、一方向に沿って配列された複数の振動子をその配列方向の直交方向に沿って機械的に揺動させる揺動プローブ、或いは、超音波振動子が時二元マトリックス状に配列えされた二次元アレイプローブである。
【0061】
ボリュームデータ生成ユニット31は、Bモード処理ユニット23、ドプラ処理ユニット24から得られた各画像データを用いて、三次元走査領域に関する各時相毎のボリュームデータを生成する。
【0062】
スペックルパタン除去処理ユニット26は、生成されたボリュームデータに対して、後述するスペックルパタン除去処理を実行する。
【0063】
図10は、第2の実施形態に係るスペックルパタン除去処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップの処理の内容について説明する。
【0064】
[ボリュームデータの取得:ステップS11]
まず、被検体の所定部位を含む三次元領域が超音波走査が実行され、当該三次元領域から得られたエコー信号が取得される。Bモード処理ユニット23は、得られたエコー信号を用いて、複数の二次元画像データ(生データ)を生成する。また、ボリュームデータ生成ユニット31は、生成された複数の二次元画像データを用いて、ボリュームデータを生成する(ステップS11)。
【0065】
図11は、超音波画像診断におけるA面、B面、C面を説明するための図である。図12は、ステップS11において生成されるボリュームデータを説明するための図である。図11に示すように、超音波プローブ12を二次元アレイプローブとした場合、その中心軸に交差し互いに垂直に交わる2つの面をA面、B面と呼び、中心軸およびA面、B面に垂直な面をC面と呼ぶ。本ステップS11において生成されたボリュームデータは、図12に示すように、A面に平行なm個の二次元画像A、A、・・・Am−1の画像データ(又はこれらを用いて補間されるデータ)からなる。
【0066】
[スペックルパタン除去処理:ステップS12]
次に、スペックルパタン除去処理ユニット26は、生成されたボリュームデータに対して、スペックルパタン除去処理を実行する。すなわち、スペックルパタン除去処理ユニット26は、m個の二次元画像A、A、・・・Am−1の画像データのそれじれに対して、第1の実施形態において述べたスペックルパタン除去処理を実行する(ステップS12)。
【0067】
[超音波画像の生成・表示:ステップS13、S14]
画像生成ユニット25は、スペックルパタン除去処理後のボリュームデータ用いて、ボリュームレンダリング、多断面変換表示(MPR:multi planar reconstruction)、最大値投影表示(MIP:maximum intensity projection)等の処理を実行し、三次元画像を生成する(ステップS13)。生成された三次元画像は、画像合成ユニット27において種々のパラメータの文字情報や目盛等と共に合成され、所定の形態でモニター14に表示される(ステップS14)。
【0068】
本超音波診断装置によれば、表示される三次元画像では、A面のみならずB面、C面にもスペックルパタン除去処理の効果が及ぶ。特に、滑らかさが要求されるC面においては、スペックルパタンが細かく、組織の境界面がより明瞭になり、3次元空間全体で効果的なスペックルパタン除去が実現できる。
【0069】
なお、本実施形態はスペックルパタン除去処理を行う断面をA面とした。しかしながら、スペックルパタン除去処理の対象とする断面は当該例に拘泥されない。すなわち、ボリュームデータに含まれる任意の断面にスペックルパタン除去処理を行うことで、同様の効果を実現することができる。
【0070】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第2の実施形態においては、三次元画像生成前のボリュームデータ(すなわち、生データから構成されたボリュームデータ)に対して、スペックルパタン除去処理を行う例を示した。これに対し、本実施形態においては、三次元画像生成後のボリュームデータ(すなわち、画像データから構成されたボリュームデータ)に対して、スペックルパタン除去処理を行う例について説明する。なお、、第3の実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図は、図9と略同一である。
【0071】
図13は、第3の実施形態に係るスペックルパタン除去処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップの処理の内容について説明する。
【0072】
[ボリュームデータの取得:ステップS21]
まず、第2の実施形態と同様に、被検体の所定部位を含む三次元領域が超音波走査が実行され、当該三次元領域から得られたエコー信号が取得される。Bモード処理ユニット23(或いはドプラ処理ユニット24)は、得られたエコー信号を用いて、複数の二次元画像データ(生データ)を生成する。ボリュームデータ生成ユニット31は、Bモード処理ユニット23からの超音波画像データを用いて、ボリュームデータを生成する(ステップS21)。
【0073】
[三次元画像の生成:ステップS22]
画像生成ユニット25は、生成されたボリュームデータを用いて、ボリュームレンダリング、多断面変換表示(MPR:multi planar reconstruction)、最大値投影表示(MIP:maximum intensity projection)、サーフェイスレンダリング(surface rendering)等の処理を実行し、一つ以上の三次元画像を生成する(ステップS22)。
【0074】
[スペックルパタン除去処理:ステップS23]
次に、スペックルパタン除去処理ユニット26は、生成された一つ以上の三次元画像に対して、スペックルパタン除去処理を実行する。スペックルパタン除去処理の内容は、既述の通りである。
【0075】
[超音波画像の表示:ステップS24]
スペックルパタン除去処理が施された三次元画像は、画像合成ユニット27において種々のパラメータの文字情報や目盛等と共に合成され、所定の形態でモニター14に表示される(ステップS24)。
【0076】
図14は、スペックルパタン除去処理が施された三次元画像の表示形態の一例を示した図であり、モニター14の画面に、ボリュームレンダリング画像40、MPR画像41、42が表示された様子を示している。本実施形態においては、これらの画像のうちの少なくとも一つにスペックルパタン除去処理をかけ、それを表示することができる。また各画像のそれぞれに、共通のスペックルパタン除去処理パラメータを適用することも、異なるパラメータを適用することもできる。
【0077】
以上述べた超音波診断装置によっても、三次元画像上のスペックルパタンに起因する不自然な画像を、比較的少ない計算量で補正することができる。
【0078】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。例えば、本実施形態に係る各機能は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体に格納して頒布することも可能である。
【0079】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上本発明によれば、スペックルパタンが好適に除去され、人工的でなく滑らかな画質を持つ超音波画像を生成可能な超音波診断装置、超音波画像処理装置、超音波画像処理プログラムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。
【図2】図2は、本スペックルパタン除去機能を超音波診断装置において実現する場合の処理の流れを示したフローチャートである。
【図3】図3は、ステップS2におけるスペックルパタン除去処理の流れを示したフローチャートである。
【図4】図4は、ステップS22における形態学的再構成処理の概念を説明するための図である。
【図5】図5は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の効果を説明するための図である。
【図6】図6は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の効果を説明するための図である。
【図7】図7は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の効果を説明するための図である。
【図8】図8は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の効果を説明するための図である。
【図9】図9は、第2の実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。
【図10】図10は、第3の実施形態に係るスペックルパタン除去処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップの処理の内容について説明する。
【図11】図11は、超音波画像診断におけるA面、B面、C面を説明するための図である。
【図12】図12は、ステップS11において生成されるボリュームデータを説明するための図である。
【図13】図13は、第3の実施形態に係るスペックルパタン除去処理の流れを示したフローチャートである。
【図14】図14は、スペックルパタン除去処理が施された三次元画像の表示形態の一例を示した図であり、モニター14の画面に、ボリュームレンダリング画像40、MPR画像41、42が表示された様子を示している。
【符号の説明】
【0082】
1…超音波診断装置、12…超音波プローブ、13…入力装置、14…モニター、21…超音波送信ユニット、22…超音波受信ユニット、23…Bモード処理ユニット、24…ドプラ処理ユニット、25…画像生成ユニット、26…スペックルパタン除去処理ユニット、27…画像合成ユニット、28…制御プロセッサ(CPU)、29…内部記憶装置、30…インターフェースユニット、31…ボリュームデータ生成ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波画像データを多重解像度分解し、低域信号成分に対応する第1の画像データと高域信号成分に対応する少なくとも一つの第2の画像データとを取得する多重解像度分解手段と、
前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データに対して、第1のレベルより低い地域的最高値を低減する地域的最高値低減処理と、第2のレベルより高い地域的最低値を低減する地域的最低値低減処理とを実行する低減処理手段と、
前記地域的最高値低減処理及び前記地域的最低値低減処理が施された前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データを用いて多重解像度再構成を実行し、再構成画像を生成する再構成手段と、
を具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記多重解像度分解及び前記多重解像度再構成においては、ウェーブレット変換及びウェーブレット逆変換、又はラプラシアン・ピラミッド法を用いることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記地域的最高値低減処理は、複数回の形態学的膨張処理を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記地域的最高値低減処理は、複数回の形態学的縮退処理を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記低減処理手段は、
前記地域的最高値低減処理を実行した後、前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データを反転させ、
前記反転された前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データに対して、前記地域的最低値低減処理を実行し、
前記地域的最低値低減処理を実行た後、前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データを反転させること、
を特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記低減処理手段は、
前記地域的最低値低減処理を実行した後、前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データを反転させ、
前記反転された前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データに対して、前記地域的最高値低減処理を実行し、
前記地域的最高値低減処理を実行した後、前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データを反転させること、
を特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項7】
超音波画像データを多重解像度分解し、低域信号成分に対応する第1の画像データと高域信号成分に対応する少なくとも一つの第2の画像データとを取得する多重解像度分解手段と、
前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データに対して、第1のレベルより低い地域的最高値を低減する地域的最高値低減処理と、第2のレベルより高い地域的最低値を低減する地域的最低値低減処理とを実行する低減処理手段と、
前記地域的最高値低減処理及び前記地域的最低値低減処理が施された前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データを用いて多重解像度再構成を実行し、再構成画像を生成する再構成手段と、
を具備することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項8】
コンピュータに、
超音波画像データを多重解像度分解させ、低域信号成分に対応する第1の画像データと高域信号成分に対応する少なくとも一つの第2の画像データとを取得させる多重解像度分解機能と、
前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データに対して、第1のレベルより低い地域的最高値を低減する地域的最高値低減処理と、第2のレベルより高い地域的最低値を低減する地域的最低値低減処理とを実行させる低減処理機能と、
前記地域的最高値低減処理及び前記地域的最低値低減処理が施された前記第1の画像データ及び前記少なくとも一つの第2の画像データを用いて多重解像度再構成を実行させ、再構成画像を生成させる再構成機能と、
を実現させることを特徴とする超音波画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−44641(P2010−44641A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208952(P2008−208952)
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】