説明

超音波診断装置及び超音波診断方法

【課題】被検体の音速が不均一で各格子の受信時刻を環境音速で近似しきれない場合でも精度良く局所音速を求める。
【解決手段】超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を出力する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子と、前記被検体内の、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点に対応する各素子の受信時刻と受信波の少なくとも一方を算出する受信時刻算出手段と、前記算出した受信時刻又は受信波を用いて局所的な領域の音速である局所音速を算出する局所音速算出手段と、を備えたことを特徴とする超音波診断装置を提供することにより前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置及び超音波診断方法に関し、特に超音波を用いて被検体の超音波画像を撮影して表示し、組織性状の診断に供する超音波診断装置及び超音波診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を用いて被検体内の一部(診断部位)における音速値(以下、局所音速値という)を測定する試みがなされている。例えば、送信用と受信用の2個の振動子を向かい合わせて配置し、振動子間の距離と超音波の伝播時間から被検体内における音速値を求める方法や、所定距離間隔で配置された2組の振動子をそれぞれ送信用・受信用として、振動子間の超音波の伝播時間と送波・受波角度と各組の振動子間の距離とから伝播速度を求める方法が提案されている。
【0003】
また、特許文献1には、下記のような局所音速値の測定方法が開示されている。特許文献1では、送波振動子から被検体内に出射角度を変えながら超音波を送波し、受波振動子により入射角度を変えながら受波して、送波から受波までの経過時間を全てメモリに格納しておく。次に、仮想的な音速分布を設定し、その音速分布に基づいて各出射角度・入射角度ごとに経過時間を計算する。そして、経過時間の計算値と実測値の差が最小になるように仮想的な音速分布を修正し、最終的に得られた音速分布によって被検体内の音速値を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−95946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
音速値が一定の媒質からなる被検体OBJ1内の音速値Vは下記のようにして算出することができる。図10(a)に示すように、被検体OBJ1内の反射点(領域)X1ROIから超音波探触子300Aまでの距離をLとすると、反射点X1ROIで超音波が反射されてから反射点X1ROIの直下の素子302Aで受信されるまでの経過時間Tは、T=L/Vである。素子302AからX方向(素子302Aの配列方向)に距離X離れた位置にある素子302Aで受信されるまでの経過時間をT+ΔTとすると、素子302Aと302Aとの間の遅延時間ΔTは下記の式(1)により表される。
【0006】
[数1] ΔT=ΔL/V(ここで、ΔL=√(L+X)−L) ・・・(1)
従って、超音波が送波されて反射点X1ROIで時間T後に反射された後、素子302A及び、その他の素子により受信されるまでの経過時間[2T,2T+ΔT]を測定することにより、反射点X1ROIまでの距離Lと速度Vを一意に求めることができる。
【0007】
なお、反射点X1ROIからの超音波が明確に判別できる場合には、素子302A及び、その他の1素子において測定された経過時間からLとVを求めることができる。しかしながら、一般に各素子302Aから出力される超音波検出信号は無数の反射点からの信号が干渉した結果であり、特定の反射点からの信号のみを弁別することが困難である。このため、実際には、反射点X1ROI近傍の着目領域における再構築画像の空間周波数、シャープネス及びコントラストから、反射点X1ROIまでの距離L、遅延時間ΔT及び音速値Vを一意に求めることとなる。
【0008】
上記のように、被検体内の音速が一定の場合には、音速値を求めることが可能であるが、図10(b)に示す被検体OBJ2のように、内部の音速が一定でない場合には、上記の方法では、反射点(領域)X2ROIまでの距離L及び音速値V、V’を求めることは困難である。
【0009】
そこで本出願人は、先に、被検体内の音速が不均一の場合に局所音速を求める方法を提案している(特開2010−99452号)。これは、被検体内の着目領域における仮定音速と、着目領域よりも浅い領域に設定された格子点における最適音速値に基づいて、超音波を着目領域に送信したときに得られる各素子受信信号から、着目領域の画像を生成、解析する事によって、または着目領域を代表する格子点における最適音速値または受信波を算出し、前記着目領域における仮定音速と、着目領域よりも浅い領域に設定された格子点における最適音速値に基づいて算出される最適音速値または受信波と比較する事によって着目領域における局所音速値を判定するものである。このように、本出願人が先に提案した方法は、各格子の受信波を環境音速(最適音速)で近似する方法であり、被検体内の音速が不均一であっても局所音速を計測することを可能としている。
【0010】
しかしながら、被検体内の音速が想定以上に不均一の場合には、上記のような各格子の受信波を環境音速で近似する方法では対応しきれない場合があるという問題がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、被検体の音速が不均一で各格子の受信時刻を環境音速で近似しきれない場合でも精度良く局所音速を求めることができる超音波診断装置及び超音波診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を出力する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子と、前記被検体内の、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点に対応する各素子の受信時刻と受信波の少なくとも一方を算出する受信時刻算出手段と、前記算出した受信時刻又は受信波を用いて局所的な領域の音速である局所音速を算出する局所音速算出手段と、を備えたことを特徴とする超音波診断装置を提供する。
【0013】
これにより、各格子点において環境音速ではなく受信時刻を求めて局所音速を算出するようにしたため、被検体の音速が不均一の場合にも、精度良く局所音速を求めることが可能となる。
【0014】
また、請求項2に示すように、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点は、前記被検体内の着目領域内の格子点と、前記着目領域よりも浅い領域に設定された格子点を含むことを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に示すように、前記局所音速算出手段は、前記浅い領域に設定された格子点の受信波を、前記着目領域において仮定される仮定音速によって決まる遅延で重ね合わせた合成受信波と、前記着目領域の受信波を比較して前記局所音速を算出することを特徴とする。
【0016】
これにより、被検体の音速が不均一の場合にも、精度良く局所音速を求めることが可能となる。
【0017】
また、請求項4に示すように、前記局所音速算出手段は、前記着目領域内の格子点から前記浅い領域に設定された格子点の間の、前記着目領域において仮定される仮定音速によって決まる伝播時間と、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻の和の最小値を、前記着目領域内の格子点の受信時刻と比較して前記局所音速を算出することを特徴とする。
【0018】
これにより、被検体の音速が不均一の場合にも、精度良く局所音速を求めることが可能となる。
【0019】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を出力する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子と、前記被検体内の、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点に対応する各素子の受信時刻と受信波の少なくとも一方を算出する受信時刻算出手段と、前記算出した受信時刻又は受信波を用いて局所的な領域の受信時刻である局所受信時刻を算出する局所受信時刻算出手段と、を備えたことを特徴とする超音波診断装置を提供する。
【0020】
これにより、着目領域内の音速が不均一の場合に、局所音速の代わりに局所受信時刻を求めることが可能となる。
【0021】
また、請求項6に示すように、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点は、前記被検体内の着目領域内の格子点と、前記着目領域よりも浅い領域に設定された格子点を含むことを特徴とする。
【0022】
また、請求項7に示すように、前記局所受信時刻算出手段は、前記浅い領域に設定された格子点を仮想素子と見做し、前記着目領域内の格子点の受信波を、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻を遅延として整合加算し、前記仮想素子の受信信号を位相収差解析することにより前記局所受信時刻を算出することを特徴とする。
【0023】
これにより、着目領域内の音速が不均一の場合に、局所音速の代わりに局所受信時刻を求めることが可能となる。
【0024】
また、請求項8に示すように、前記局所受信時刻算出手段は、前記浅い領域に設定された格子点を仮想素子と見做し、前記着目領域内の格子点の受信時刻から、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻を遅延として減算した時刻のうち最も遅い時刻を前記仮想素子の局所受信時刻として算出することを特徴とする。
【0025】
これにより、着目領域内の音速が不均一の場合に、局所音速の代わりに局所受信時刻を求めることが可能となる。
【0026】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項9に記載の発明は、複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子により超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を出力する工程と、前記被検体内の、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点に対応する各素子の受信時刻と受信波の少なくとも一方を算出する工程と、前記算出した受信時刻又は受信波を用いて局所的な領域の音速である局所音速を算出する工程と、を備えたことを特徴とする超音波診断方法を提供する。
【0027】
これにより、各格子点において環境音速ではなく受信時刻を求めて局所音速を算出するようにしたため、被検体の音速が不均一の場合にも、精度良く局所音速を求めることが可能となる。
【0028】
また、請求項10に示すように、前記受信時刻を算出する工程は、画像解析及び位相収差解析を用いて前記受信時刻を算出することを特徴とする。
【0029】
また、請求項11に示すように、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点は、前記被検体内の着目領域内の格子点と、前記着目領域よりも浅い領域に設定された格子点を含むことを特徴とする。
【0030】
また、請求項12に示すように、前記局所音速を算出する工程は、前記浅い領域に設定された格子点の受信波を、前記着目領域において仮定される仮定音速によって決まる遅延で重ね合わせた合成受信波と、前記着目領域の受信波を比較して前記局所音速を算出することを特徴とする。
【0031】
これにより、被検体の音速が不均一の場合にも、精度良く局所音速を求めることが可能となる。
【0032】
また、請求項13に示すように、前記局所音速を算出する工程は、前記着目領域内の格子点から前記浅い領域に設定された格子点の間の、前記着目領域において仮定される仮定音速によって決まる伝播時間と、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻の和の最小値を、前記着目領域内の格子点の受信時刻と比較して前記局所音速を算出することを特徴とする。
【0033】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項14に記載の発明は、複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子により超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を出力する工程と、前記被検体内の、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点に対応する各素子の受信時刻と受信波の少なくとも一方を算出する工程と、前記算出した受信時刻又は受信波を用いて局所的な領域の受信時刻である局所受信時刻を算出する工程と、を備えたことを特徴とする超音波診断方法を提供する。
【0034】
これにより、着目領域内の音速が不均一の場合に、局所音速の代わりに局所受信時刻を求めることが可能となる。
【0035】
また、請求項15に示すように、前記受信時刻を算出する工程は、画像解析及び位相収差解析を用いて前記受信時刻を算出することを特徴とする。
【0036】
また、請求項16に示すように、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点は、前記被検体内の着目領域内の格子点と、前記着目領域よりも浅い領域に設定された格子点を含むことを特徴とする。
【0037】
また、請求項17に示すように、前記局所受信時刻を算出する工程は、前記浅い領域に設定された格子点を仮想素子と見做し、前記着目領域内の格子点の受信波を、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻を遅延として整合加算し、前記仮想素子の受信信号を位相収差解析することにより前記局所受信時刻を算出することを特徴とする。
【0038】
これにより、着目領域内の音速が不均一の場合に、局所音速の代わりに局所受信時刻を求めることが可能となる。
【0039】
また、請求項18に示すように、前記局所受信時刻を算出する工程は、前記浅い領域に設定された格子点を仮想素子と見做し、前記着目領域内の格子点の受信時刻から、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻を遅延として減算した時刻のうち最も遅い時刻を前記仮想素子の局所受信時刻として算出することを特徴とする。
【0040】
これにより、着目領域内の音速が不均一の場合に、局所音速の代わりに局所受信時刻を求めることが可能となる。
【発明の効果】
【0041】
以上説明したように、本発明によれば、各格子点において環境音速ではなく各格子に対応する各素子の受信時刻又は受信波を求めて局所音速を算出するようにしたため、被検体の音速が不均一の場合にも、精度良く局所音速を求めることが可能となる。また、着目領域内の音速が不均一の場合に、局所音速の代わりに局所受信時刻を求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における処理を示すフローチャートである。
【図3】第1の実施形態に係る局所音速値の演算処理を示す模式図である。
【図4】本発明の第2の実施形態における処理を示すフローチャートである。
【図5】第2の実施形態に係る局所音速値の演算処理を示す模式図である。
【図6】本発明の第3の実施形態における処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第4の実施形態における処理を示すフローチャートである。
【図8】第4の実施形態において、着目領域の各素子受信時刻から遅延を減算する様子を示す模式図である。
【図9】同じく、受信波から遅延を減算した様子を示す説明図である。
【図10】局所音速値の演算処理を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る超音波診断装置及び超音波診断方法について詳細に説明する。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【0045】
図1に示すように、本実施形態の超音波診断装置10は、超音波探触子300から被検体OBJに超音波ビームを送信して、被検体OBJによって反射された超音波ビーム(超音波エコー)を受信し、超音波エコーの検出信号から超音波画像を作成し表示する装置である。
【0046】
CPU(Central Processing Unit)100は、操作入力部200からの操作入力に応じて超音波診断装置10の各ブロックの制御を行う。
【0047】
操作入力部200は、オペレータからの操作入力を受け付ける入力デバイスであり、操作卓202とポインティングデバイス204とを含んでいる。操作卓202は、文字情報(例えば、患者情報)の入力を受け付けるキーボードと、振幅画像(Bモード画像)を単独で表示するモードと局所音速値の判定結果を表示するモードとの間で表示モードを切り替える表示モード切り替えボタンと、ライブモードとフリーズモードとの切り替えを指示するためのフリーズボタンと、シネメモリ再生を指示するためのシネメモリ再生ボタンと、超音波画像の解析・計測を指示するための解析・計測ボタンとを含んでいる。ポインティングデバイス204は、表示部104の画面上における領域の指定の入力を受け付けるデバイスであり、例えば、トラックボール又はマウスである。なお、ポインティングデバイス204としては、タッチパネルを用いることも可能である。
【0048】
格納部102は、CPU100が超音波診断装置10の各ブロックの制御を行うための制御プログラムを格納する記憶装置であり、例えば、ハードディスク又は半導体メモリである。
【0049】
表示部104は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ又は液晶ディスプレイであり、超音波画像(動画及び静止画)の表示及び各種の設定画面を表示する。
【0050】
超音波探触子300は、被検体OBJに当接させて用いるプローブであり、1次元又は2次元のトランスデューサアレイを構成する複数の超音波トランスデューサ302を備えている。超音波トランスデューサ302は、送信回路402から印加される駆動信号に基づいて超音波ビームを被検体OBJに送信するとともに、被検体OBJから反射される超音波エコーを受信して検出信号を出力する。
【0051】
超音波トランスデューサ302は、圧電性を有する材料(圧電体)の両端に電極が形成されて構成された振動子を含んでいる。このような振動子を構成する圧電体としては、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)のような圧電セラミック、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)のような高分子圧電素子を用いることができる。上記振動子の電極に電気信号を送って電圧を印加すると圧電体が伸縮し、この圧電体の伸縮により各振動子において超音波が発生する。例えば、振動子の電極にパルス状の電気信号を送るとパルス状の超音波が発生し、また振動子の電極に連続波の電気信号を送ると連続波の超音波が発生する。そして、各振動子において発生した超音波が合成されて超音波ビームが形成される。また、各振動子により超音波が受信されると、各振動子の圧電体が伸縮して電気信号を発生する。各振動子において発生した電気信号は、超音波の検出信号として受信回路40に出力される。
【0052】
なお、超音波トランスデューサ302としては、超音波変換方式の異なる複数種類の素子を用いることも可能である。例えば、超音波を送信する素子として上記圧電体により構成される振動子を用いて、超音波を受信する素子として光検出方式の超音波トランスデューサを用いるようにしてもよい。ここで、光検出方式の超音波トランスデューサとは、超音波信号を光信号に変換して検出するものであり、例えば、ファブリーペロー共振器又はファイバブラッググレーティングである。
【0053】
次に、ライブモード時における超音波診断処理について説明する。ライブモードは、被検体OBJに超音波探触子300を当接させて超音波の送受信を行うことによって得られた超音波画像(動画)の表示や解析・計測を行うモードである。
【0054】
超音波探触子300が被検体OBJに当接されて、操作入力部200からの指示入力により超音波診断が開始されると、CPU100は、送受信部400に制御信号を出力して、超音波ビームの被検体OBJへの送信、及び被検体OBJからの超音波エコーの受信を開始させる。CPU100は、超音波トランスデューサ302ごとに超音波ビームの送信方向と超音波エコーの受信方向とを設定する。
【0055】
さらに、CPU100は、超音波ビームの送信方向に応じて送信遅延パターンを選択するとともに、超音波エコーの受信方向に応じて受信遅延パターンを選択する。ここで、送信遅延パターンとは、複数の超音波トランスデューサ302から送信される超音波によって所望の方向に超音波ビームを形成するために駆動信号に与えられる遅延時間のパターンデータであり、受信遅延パターンとは、複数の超音波トランスデューサ302によって受信される遅延時間のパターンデータである。上記送信遅延パターン及び受信遅延パターンは予め格納部102に格納されている。CPU100は、格納部102に格納されているものの中から送信遅延パターン及び受信遅延パターンを選択し、選択した送信遅延パターン及び受信遅延パターンに従って、送受信部400に制御信号を出力して超音波の送受信制御を行う。
【0056】
送信回路402は、CPU100からの制御信号に応じて駆動信号を生成して、該駆動信号を超音波トランスデューサ302に印加する。このとき、送信回路402は、CPU100によって選択された送信遅延パターンに基づいて、各超音波トランスデューサ302に印加する駆動信号を遅延させる。ここで、送信回路402は、複数の超音波トランスデューサ302から送信される超音波が超音波ビームを形成するように、各超音波トランスデューサ302に駆動信号を印加するタイミングを調整する(遅延させる)送信フォーカスを実行する。なお、複数の超音波トランスデューサ302から一度に送信される超音波が被検体OBJの撮像領域全体に届くように、駆動信号を印加するタイミングを調節するようにしもてよい。
【0057】
受信回路404は、各超音波トランスデューサ302から出力される超音波検出信号を受信して増幅する。上記のように、各超音波トランスデューサ302と被検体OBJ内の超音波反射源との間の距離がそれぞれ異なるため、各超音波トランスデューサ302に反射波が到達する時間が異なる。受信回路404は遅延回路を備えており、CPU100によって選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速(以下、仮定音速という)又は音速の分布に従って、反射波の到達時刻の差(遅延時間)に相当する分、各検出信号を遅延させる。次に、受信回路404は、遅延時間を与えた検出信号を整合加算することにより受信フォーカス処理を行う。超音波反射源XROIと異なる位置に別の超音波反射源がある場合には、別の超音波反射源からの超音波検出信号は到達時間が異なるので、上記受信回路404の加算回路で加算することにより、別の超音波反射源からの超音波検出信号の位相が打ち消し合う。これにより、超音波反射源XROIからの受信信号が最も大きくなり、フォーカスが合う。上記受信フォーカス処理によって、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号(以下、RF信号という)が形成される。
【0058】
A/D変換器406は、受信回路404から出力されるアナログのRF信号をデジタルRF信号(以下、RFデータという)に変換する。ここで、RFデータは、受信波(搬送波)の位相情報を含んでいる。A/D変換器406から出力されるRFデータは、信号処理部502とシネメモリ602にそれぞれ入力される。
【0059】
シネメモリ602は、A/D変換器406から入力されるRFデータを順次格納する。また、シネメモリ602は、CPU100から入力されるフレームレートに関する情報(例えば、超音波の反射位置の深度、走査線の密度、視野幅を示すパラメータ)を上記RFデータに関連付けて格納する。
【0060】
信号処理部502は、上記RFデータに対して、STC(Sensitivity Time gain Control)によって、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正をした後、包絡線検波処理を施し、Bモード画像データ(超音波エコーの振幅を点の明るさ(輝度)によって表した画像データ)を生成する。
【0061】
信号処理部502によって生成されたBモード画像データは、通常のテレビジョン信号の走査方式と異なる走査方式によって得られたものである。このため、DSC(Digital Scan Converter)504は、上記Bモード画像データを通常の画像データ(例えば、テレビジョン信号の走査方式(NTSC方式)の画像データ)に変換(ラスター変換)する。画像処理部506は、DSC504から入力される画像データに、各種の必要な画像処理(例えば、階調処理)を施す。
【0062】
画像メモリ508は、画像処理部506から入力された画像データを格納する。D/A変換器510は、画像メモリ508から読み出された画像データをアナログの画像信号に変換して表示部104に出力する。これにより、超音波探触子300によって撮影された超音波画像(動画)が表示部104に表示される。
【0063】
なお、本実施形態では、受信回路404において受信フォーカス処理が施された検出信号をRF信号としたが、受信フォーカス処理が施されていない検出信号をRF信号としてもよい。この場合、複数の超音波トランスデューサ302から出力される複数の超音波検出信号が、受信回路404において増幅され、増幅された検出信号、すなわち、RF信号が、A/D変換器406においてA/D変換されることによってRFデータが生成される。そして、上記RFデータは、信号処理部502に供給されるとともに、シネメモリ602に格納される。受信フォーカス処理は、信号処理部502においてデジタル的に行われる。
【0064】
次に、シネメモリ再生モードについて説明する。シネメモリ再生モードは、シネメモリ602に格納されているRFデータに基づいて超音波診断画像の表示や解析・計測を行うモードである。
【0065】
操作卓202のシネメモリ再生ボタンが押下されると、CPU100は、超音波診断装置10の動作モードをシネメモリ再生モードに切り替える。シネメモリ再生モード時には、CPU100は、オペレータからの操作入力により指定されたRFデータの再生をシネメモリ再生部604に指示する。シネメモリ再生部604は、CPU100からの指令に基づいて、シネメモリ602からRFデータを読み出して、画像信号生成部500の信号処理部502に送信する。シネメモリ602から送信されたRFデータは、信号処理部502、DSC504及び画像処理部506において所定の処理(ライブモード時と同様の処理)が施されて画像データに変換された後、画像メモリ508及びD/A変換器510を経て表示部104に出力される。これにより、シネメモリ602に格納されたRFデータに基づく超音波画像(動画又は静止画)が表示部104に表示される。
【0066】
ライブモード又はシネメモリ再生モード時において、超音波画像(動画)が表示されているときに操作卓202のフリーズボタンが押下されると、フリーズボタン押下時に表示されている超音波画像が表示部104に静止画表示される。これにより、オペレータは、着目領域(ROI:Region of Interest)の静止画を表示させて観察することができる。
【0067】
操作卓202の計測ボタンが押下されると、オペレータからの操作入力により指定された解析・計測が行われる。データ解析計測部106は、各動作モード時に計測ボタンが押下された場合に、A/D変換器406又はシネメモリ602から、画像処理が施される前のRFデータを取得し、当該RFデータを用いてオペレータ指定の解析・計測(例えば、組織部の歪み解析(硬さ診断)、血流の計測、組織部の動き計測、又はIMT(内膜中膜複合体厚:Intima-Media Thickness)値計測)を行う。また、データ解析計測部106は、詳しくは後述するような局所音速値を計測する処理を行う。データ解析計測部106による解析・計測結果は、画像信号生成部500のDSC504に出力される。DSC504は、データ解析計測部106により解析・計測結果を超音波画像の画像データに挿入して表示部104に出力する。これにより、超音波画像と解析・計測結果とが表示部104に表示される。
【0068】
また、表示モード切り替えボタンが押下されると、Bモード画像を単独で表示するモード、Bモード画像に局所音速値の判定結果を重畳して表示するモード(例えば、局所音速値に応じて色分け又は輝度を変化させる表示、又は局所音速値が等しい点を線で結ぶ表示)、Bモード画像と局所音速値の判定結果の画像を並べて表示するモードの間で表示モードが切り替わる。これにより、オペレータは、局所音速値の判定結果を観察することで、例えば、病変を発見することができる。
【0069】
なお、局所音速値の判定結果に基づいて、送信フォーカス処理及び受信フォーカス処理の少なくとも一方を施すことにより得られたBモード画像を表示部104に表示するようにしてもよい。
【0070】
以下、本実施形態の超音波診断装置10の作用について説明する。
【0071】
本発明は、被検体内の音速が不均一で各格子に対応する各素子の受信時刻(又は受信波)が環境音速で近似しきれない場合でも、局所音速を計測可能とするものである。また、本発明は、着目領域内の音速が不均一の場合に、局所音速の代わりに局所受信時刻を求めることを可能とするものである。
【0072】
以下ではまず、被検体内の音速が不均一で各格子に対応する各素子の受信時刻(又は受信波)が環境音速で近似しきれない場合でも、局所音速を計測可能とする第1の実施形態について、図2のフローチャートに沿って説明する。なお、以下の実施形態においては、各格子に対応する各素子の受信時刻又は受信波を用いて着目領域の局所的な音速又は受信時刻を求めるために、まず各素子受信時刻を求め、それから必要に応じて各素子受信波も求めているが、代わりに、まず各素子受信波を求め、それから必要に応じて各素子受信時刻も求めるようにしても良い。各素子受信波を求める方法としては、例えば、各格子に送信フォーカスを掛ける事により周囲散乱を低減し、各格子のみからの反射を受信した信号を用いれば良い。
【0073】
また、図3に、本実施形態に係る局所音速値の演算処理を模式的に示す。
【0074】
図3に示すように、被検体OBJ内の着目領域ROIを代表する格子点をXROIとし、格子点XROIよりも浅い(すなわち、超音波トランスデューサ302に近い)位置にXY方向に等間隔に配置された格子点をA1、A2、A3、・・・とし、少なくとも格子点XROIと各格子点A1、A2、A3、・・・との間の音速はそれぞれ一定であると仮定する。なお、ここで着目領域における局所音速値を求める演算に使用する格子点A1、A2、A3、・・・の範囲及び個数は予め決めておく。
【0075】
まず、図2のステップS10において、着目領域と、着目領域より浅い格子点A1、A2、A3、・・・の受信時刻を算出する。着目領域すなわち格子点XROIと、各格子点A1、A2、A3、・・・における受信時刻は、公知の画像解析及び位相収差解析の手法によって求めることができる。
【0076】
画像解析は、例えば、特開2007−7045号公報等に開示されているように、平均音速(及び深さ)を仮定し、音源の画像のシャープネスやコントラスト等の特性が最大となる値を求める方法である。
【0077】
また、位相収差解析は、例えば、特開平6−105841号公報等に開示されている。これは例えば、超音波探触子の各素子の受信信号に対して、同一の信号を参照信号として、これらの位相差を検出し、隣接する各素子の位相差検出結果を比較しその差をDとする一方、横軸に超音波探触子の素子番号をとり、縦軸に各素子の受信信号と参照信号Sとの位相差をプロットしたグラフにおいて、正から負への不連続点(すなわち、上記差Dが−180°より小のとき)においては360°を加算し、負から正への不連続点(すなわち、上記差Dが180°より大のとき)においては360°を減算して、不連続曲線を連続曲線とすることにより広範囲の位相収差を精度よく検出する方法である。
【0078】
次に、図2のステップS12において、着目領域の仮定音速の初期値を設定する。
【0079】
そして、ステップS14において、着目領域における仮定音速によって決まる遅延で各格子受信波を重ね合わせて格子点XROIの合成受信波を合成する。
【0080】
すなわち、図3に示すように、格子点A1、A2、A3、・・・からの受信波WA1、WA2、・・・と、仮定音速から得られる遅延から格子点XROIからの合成受信波WSUMが合成される。
【0081】
そして次のステップS16において、合成受信波WSUMと、上記ステップS10において求めた着目領域の受信時刻から決めた着目領域の受信波Wを比較する。そして今回比較した合成受信波WSUMと受信波Wとの誤差が、前回の比較における合成受信波WSUMと着目領域の受信波Wとの誤差よりも小さい場合には、その合成受信波WSUM(あるいはそれに対応する仮定音速)を保存する。
【0082】
次に、ステップS18において、仮定音速を1ステップ変更し、ステップS20において、全ての仮定音速での演算が終了したか否か判断する。なお、演算する仮定音速の範囲は予め決めておく。
【0083】
その結果、まだ全ての仮定音速に対する演算が終了していない場合には、ステップS14に戻り、上記処理を繰り返す。
【0084】
また、全ての仮定音速についての演算が終了した場合には、次のステップS22において、着目領域における局所音速値を判定する。それには、上記処理を繰り返した結果、最終的に保存されている合成受信波WSUM(あるいはそれに対応する仮定音速)から着目領域における局所音速値を判定する。
【0085】
次に、被検体内の音速が不均一で各格子に対応する各素子の受信時刻(又は受信波)が環境音速で近似しきれない場合でも、局所音速を計測可能とする第2の実施形態について、図4のフローチャートに沿って説明する。
【0086】
また、図5に、本実施形態に係る局所音速値の演算処理を模式的に示す。
【0087】
図5において、図3と同様に、被検体OBJ内の着目領域ROIを代表する格子点をXROIとし、格子点XROIよりも浅い(すなわち、超音波トランスデューサ302に近い)位置にXY方向に等間隔に配置された格子点をA1、A2、A3、・・・とし、少なくとも格子点XROIと各格子点A1、A2、A3、・・・との間の音速はそれぞれ一定であると仮定する。なお、ここで着目領域における局所音速値を求める演算に使用する格子点A1、A2、A3、・・・の範囲及び個数は予め決めておく。
【0088】
まず、図4のステップS30において、着目領域と、着目領域より浅い格子点A1、A2、A3、・・・の受信時刻を算出する。着目領域すなわち格子点XROIと、各格子点A1、A2、A3、・・・における受信時刻は前述した第1の実施例と同様に公知の画像解析及び位相収差解析の手法によって求めることができる。
【0089】
次にステップS32において、着目領域の仮定音速の初期値を設定し、ステップS34において、仮定音速から決まる、着目領域→各格子の伝播時間と、各格子受信時刻の和をとり、合成受信時刻を算出する。
【0090】
すなわち、着目領域ROIにおいて設定した仮定音速によって決まる、着目領域(格子点XROI)から各格子点A1、A2、A3、・・・への伝播時間を算出し、これと上で求められている各格子点A1、A2、A3、・・・における受信時刻との和を求める。
【0091】
今、図5に示すように、着目領域ROIにおける仮定音速をVとすると、格子点XROIから各格子点A1、A2、A3、・・・への伝播時間は、それぞれXROIA1/V、XROIA2/V、XROIA3/V、・・・で求められる。ここで、XROIA1、XROIA2、XROIA3、・・・は、格子点XROIから各格子点A1、A2、A3、・・・までの距離を表し、着目領域ROIの深さ方向の幅ΔY(Y方向の距離)及び格子点XROIと各格子点A1、A2、A3、・・・とのX方向の距離ΔXA1、ΔXA2、ΔXA3、・・・から三平方の定理により√(ΔXA12+ΔY2)、√(ΔXA22+ΔY2)、√(ΔXA32+ΔY2)、・・・として求める事ができる。そしてΔYは、Vと着目領域ROIの深さ方向の時間幅ΔT(格子点XROIとその直下の格子点Anの直下の素子における受信時刻、または最小受信時刻の差)からΔY= ΔT *V / 2として求める事ができる。
【0092】
一方、各格子点A1、A2、A3、・・・における受信時刻はすでに求めてあるので、着目領域→各格子の伝播時間と、各格子受信時刻の和を求めて、その合成受信時刻を算出することができる。
【0093】
また、次のステップS36において、各素子について、上記合成受信時刻のうち最小となる合成受信時刻をその素子の合成受信時刻とする(すなわち、格子点XROIから格子点Aを通って(Aで屈折して)ある素子に至る経路のうち伝播時間が最小となる経路を求めることとなる)。
【0094】
そして、次のステップS38において、上で求めた各素子の(伝播時間が最小となる経路に対応する)合成受信時刻と、各素子の格子点XROIからの受信時刻とを比較する。各素子の合成受信時刻と、各素子の受信時刻を比較してその誤差を求め、前回の比較のときよりもその誤差が小さい合成受信時刻(あるいはそれに対応する仮定音速)を保存する。
【0095】
そして、ステップS40において、仮定音速を1ステップ変更し、ステップS42において、全ての仮定音速に対しての演算が終了したか否か判断する。なお、演算すべき仮定音速の範囲は予め設定しておく。
【0096】
そして、まだ全ての仮定音速についての演算が終了していない場合には、ステップS34に戻り、上記処理を繰り返す。
【0097】
また、全ての仮定音速についての演算が終了した場合には、次のステップS44において、最終的に保存されている合成受信時刻(あるいはそれに対応する仮定音速)から着目領域における局所音速を判定する。
【0098】
上記第1及び第2の実施形態において、着目領域の局所音速を判定するために、一格子点のみでなく、着目領域内の深さ方向にまたは2次元的(あるいは3次元的)に設定した複数の格子点で求めた受信波または受信時刻の誤差の総和をとるようにすることで、より高精度に局所音速を判定することができる。なお、この時、複数の格子点で求めた受信波または受信時刻の誤差ではなく、各格子の局所音速の平均をとってもよい。
【0099】
また、着目領域より浅い格子点のとり方としては、図3や図5に示したものに限定されず、着目領域より下側(超音波トランスデューサ302側)に、任意の曲面上に設置するようにしてもよい。例えば、組織や病変の境界上に設置しても良い。
【0100】
次に、着目領域内の音速が不均一の場合に、局所音速の代わりに局所受信時刻を求めることを可能とする実施形態として、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0101】
図6は、第3の実施形態の処理の流れを示すフローチャートである。
【0102】
本実施形態においても、上述した実施形態と同様に、例えば、図3に示すように、被検体OBJ内の着目領域ROIを代表する格子点XROI及びそれよりも浅い格子点A1、A2、A3、・・・を設定し、少なくとも格子点XROIと各格子点A1、A2、A3、・・・との間の音速はそれぞれ一定であると仮定する。
【0103】
まず図6のステップS50において、着目領域よりも浅い各格子点A1、A2、A3、・・・の受信時刻を、画像解析及び位相収差解析の手法を用いて求め、それを各格子点A1、A2、A3、・・・における遅延とする。
【0104】
またステップS52において、着目領域(格子点XROI)における受信時刻(又は受信波)を、同様に画像解析及び位相収差解析の手法を用いて求める。
【0105】
なお、ステップS50とステップS52の順序を逆にして、着目領域における受信時刻を先に求めるようにしてもよい。
【0106】
次に、ステップS54において、各格子点A1、A2、A3、・・・を仮想素子と見做し、各仮想素子の受信信号として、上で求めた各格子点A1、A2、A3、・・・の受信時刻を遅延として、着目領域の受信波を整合加算した信号を設定する。
【0107】
そして、ステップS56において、各仮想素子の受信信号の位相収差解析を行うことによって、着目領域の局所受信時刻を求める。
【0108】
着目領域の局所受信時刻が求まれば、これから局所音速を判定することが可能となる。
【0109】
次に、着目領域内の音速が不均一の場合に、局所音速の代わりに局所受信時刻を求めることを可能とする他の実施形態として、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0110】
図7は、第4の実施形態の処理の流れを示すフローチャートである。
【0111】
本実施形態においても、上と同様に、例えば、図3に示すように、被検体OBJ内の着目領域ROIを代表する格子点XROI及びそれよりも浅い格子点A1、A2、A3、・・・を設定し、少なくとも格子点XROIと各格子点A1、A2、A3、・・・との間の音速はそれぞれ一定であると仮定する。
【0112】
まず図7のステップS60において、着目領域よりも浅い各格子点A1、A2、A3、・・・の受信時刻を、画像解析及び位相収差解析の手法を用いて求め、それを各格子点A1、A2、A3、・・・における遅延とする。
【0113】
またステップS62において、着目領域(格子点XROI)における受信時刻(又は受信波)を、同様に画像解析及び位相収差解析の手法を用いて求める。
【0114】
なお、ステップS60とステップS62の順序を逆にして、着目領域における受信時刻を先に求めるようにしてもよい。
【0115】
次に、ステップS64において、各格子点A1、A2、A3、・・・を仮想素子と見做し、着目領域の各素子受信時刻から遅延を減算する。
【0116】
この様子を図8に模式的に示す。
【0117】
図8において、各格子点A(A1、A2、A3、・・・)を仮想素子と見做し、ある仮想素子n’から各超音波トランスデューサ302への受信波の受信時刻をそれぞれt0、t1、t2、t3、・・・とする。これに対して、図8の下側に表示したWを格子点XROIからの実際の受信波とし、これから各受信時刻t0、t1、t2、t3、・・・を遅延として、この受信波Wから減算する。
【0118】
図9に、この受信波から遅延を減算した様子を示す。
【0119】
図9において、実線で各素子、破線で仮想素子を表し、図の下方に受信時刻が増すように表している。図の下向きが受信時刻が増す方向なので、遅延t0、t1、t2、t3、・・・の減算を表す矢印は上向きに表される。ここで、各遅延t0、t1、t2、t3、・・・を表す矢印の根本が着目領域の受信時刻Tを表している。
【0120】
次に、図7のステップS66において、各素子受信時刻から遅延を減算した時刻のうち最も遅い時刻を各仮想素子の局所受信時刻とする。
【0121】
図9において、受信時刻は下向きが時刻が増す向きなので、遅延の減算を表す矢印の先端が最も下の位置にあるものが、最も遅い時刻を表している。すなわち、この場合、図9において、遅延t3を減算した時刻T’が最も遅い時刻であり、これが仮想素子n’の局所受信時刻として採用される。
【0122】
このようにして、本実施形態においても、局所音速の代わりに局所受信時刻を求めることができる。そして、着目領域の局所受信時刻が求まれば、これから局所音速を判定することが可能となる。
【0123】
また、着目領域よりも浅い各格子点A1、A2、A3、・・・の受信波(受信時刻)を、皆同じ受信波WAと見なせる場合には、着目領域内の局所受信時刻を以下の方法によっても求めることもできる。着目領域(格子点XROI)における受信波は、受信波WAを格子点XROIから各格子点A1、A2、A3、・・・への伝播時間だけ遅らせて畳み込んだ結果と見なす事ができる。従って、格子点XROIの受信波に受信波WAによる逆畳込み(デコンボルーション)を施す事によって格子点XROIから各格子点A1、A2、A3、・・・への伝播時間(局所受信時刻)を求める事ができる。逆畳込み処理は、各素子受信信号に対して、またはその周波数空間上で実施する事ができる。または、格子点XROIの受信波(受信時刻)と、各格子点A1、A2、A3、・・・の受信波(受信時刻)及び格子点XROIから各格子点A1、A2、A3、・・・への伝播時間から求まる格子点XROIの受信波(受信時刻)との誤差が最小となる様に、格子点XROIから各格子点A1、A2、A3、・・・への伝播時間を探索しても良い。最小値探索アルゴリズには種々のものがあるが、例えば準ニュートン法を用いても良い。
【0124】
以上説明したように、本発明の第1及び第2の実施形態においては、各格子点において、環境音速ではなく、受信時刻を求めて保持するようにしており、また第3及び第4の実施形態においては、着目領域の局所音速ではなく、局所受信時刻を求めるようにしている。いずれにしても、被検体の音速が不均一で各格子の受信時刻を環境音速で近似しきれない場合でも精度良く局所音速を求めることが可能となる。
【0125】
以上、本発明に係る超音波診断装置及び超音波診断方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0126】
10…超音波診断装置、100…CPU、104…表示部、106…データ解析計測部、200…操作入力部、300…超音波探触子、302…超音波トランスデューサ、400…送受信部、500…画像信号生成部、502…信号処理部、506…画像処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を出力する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子と、
前記被検体内の、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点に対応する各素子の受信時刻と受信波の少なくとも一方を算出する受信時刻算出手段と、
前記算出した受信時刻又は受信波を用いて局所的な領域の音速である局所音速を算出する局所音速算出手段と、
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点は、前記被検体内の着目領域内の格子点と、前記着目領域よりも浅い領域に設定された格子点を含むことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記局所音速算出手段は、前記浅い領域に設定された格子点の受信波を、前記着目領域において仮定される仮定音速によって決まる遅延で重ね合わせた合成受信波と、前記着目領域の受信波を比較して前記局所音速を算出することを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記局所音速算出手段は、前記着目領域内の格子点から前記浅い領域に設定された格子点の間の、前記着目領域において仮定される仮定音速によって決まる伝播時間と、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻の和の最小値を、前記着目領域内の格子点の受信時刻と比較して前記局所音速を算出することを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を出力する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子と、
前記被検体内の、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点に対応する各素子の受信時刻と受信波の少なくとも一方を算出する受信時刻算出手段と、
前記算出した受信時刻又は受信波を用いて局所的な領域の受信時刻である局所受信時刻を算出する局所受信時刻算出手段と、
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点は、前記被検体内の着目領域内の格子点と、前記着目領域よりも浅い領域に設定された格子点を含むことを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記局所受信時刻算出手段は、前記浅い領域に設定された格子点を仮想素子と見做し、前記着目領域内の格子点の受信波を、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻を遅延として整合加算し、前記仮想素子の受信信号を位相収差解析することにより前記局所受信時刻を算出することを特徴とする請求項6に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記局所受信時刻算出手段は、前記浅い領域に設定された格子点を仮想素子と見做し、前記着目領域内の格子点の受信時刻から、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻を遅延として減算した時刻のうち最も遅い時刻を前記仮想素子の局所受信時刻として算出することを特徴とする請求項6に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子により超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を出力する工程と、
前記被検体内の、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点に対応する各素子の受信時刻と受信波の少なくとも一方を算出する工程と、
前記算出した受信時刻又は受信波を用いて局所的な領域の音速である局所音速を算出する工程と、
を備えたことを特徴とする超音波診断方法。
【請求項10】
前記受信時刻を算出する工程は、画像解析及び位相収差解析を用いて前記受信時刻を算出することを特徴とする請求項9に記載の超音波診断方法。
【請求項11】
前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点は、前記被検体内の着目領域内の格子点と、前記着目領域よりも浅い領域に設定された格子点を含むことを特徴とする請求項9または10に記載の超音波診断方法。
【請求項12】
前記局所音速を算出する工程は、前記浅い領域に設定された格子点の受信波を、前記着目領域において仮定される仮定音速によって決まる遅延で重ね合わせた合成受信波と、前記着目領域の受信波を比較して前記局所音速を算出することを特徴とする請求項11に記載の超音波診断方法。
【請求項13】
前記局所音速を算出する工程は、前記着目領域内の格子点から前記浅い領域に設定された格子点の間の、前記着目領域において仮定される仮定音速によって決まる伝播時間と、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻の和の最小値を、前記着目領域内の格子点の受信時刻と比較して前記局所音速を算出することを特徴とする請求項11に記載の超音波診断方法。
【請求項14】
複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子により超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を出力する工程と、
前記被検体内の、前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点に対応する各素子の受信時刻と受信波の少なくとも一方を算出する工程と、
前記算出した受信時刻又は受信波を用いて局所的な領域の受信時刻である局所受信時刻を算出する工程と、
を備えたことを特徴とする超音波診断方法。
【請求項15】
前記受信時刻を算出する工程は、画像解析及び位相収差解析を用いて前記受信時刻を算出することを特徴とする請求項11に記載の超音波診断方法。
【請求項16】
前記超音波探触子に対する深さが異なる2つ以上の格子点は、前記被検体内の着目領域内の格子点と、前記着目領域よりも浅い領域に設定された格子点を含むことを特徴とする請求項14または15に記載の超音波診断方法。
【請求項17】
前記局所受信時刻を算出する工程は、前記浅い領域に設定された格子点を仮想素子と見做し、前記着目領域内の格子点の受信波を、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻を遅延として整合加算し、前記仮想素子の受信信号を位相収差解析することにより前記局所受信時刻を算出することを特徴とする請求項16に記載の超音波診断方法。
【請求項18】
前記局所受信時刻を算出する工程は、前記浅い領域に設定された格子点を仮想素子と見做し、前記着目領域内の格子点の受信時刻から、前記浅い領域に設定された格子点の受信時刻を遅延として減算した時刻のうち最も遅い時刻を前記仮想素子の局所受信時刻として算出することを特徴とする請求項16に記載の超音波診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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