説明

超音波診断装置

【課題】被検体内の散乱体により生じた散乱波が互いに位相干渉を起こすことにより発生するスペックルノイズの影響をより適切かつ良好に低減させることが可能な超音波診断装置である。
【解決手段】超音波診断装置20は、同一の走査線上において時間的に波面が変化するように、平面波でなく、かつ合焦波面でない超音波を被検体に送信する超音波送信手段21、22と、前記波面ごとに生じた各反射波を受信してそれぞれ画像信号を生成する画像信号生成手段21、27、28、29と、同一走査線上において異なる波面の送信超音波により生じた各反射波から得られた複数の信号を互いに加算することによりスペックルノイズを低減させた画像信号を得る信号加算手段29とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内部に超音波を送受信して画像信号を生成する超音波診断装置に係り、特に被検体内の散乱体により生じた散乱波が互いに位相干渉を起こすことにより発生するスペックルノイズの影響を低減させることが可能な超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置では、超音波プローブ内の微小振動素子毎に異なる遅延時間で電気パルスが印加され、得られた送信ビームが被検体内に照射される。そして、被検体内からの反射波を、送信ビームを照射した微小振動素子群と同一の微小振動素子群で受信し、増幅遅延加算することで受信ビームが形成される。さらに受信ビームから得られたRF信号が検波・圧縮されて画像信号が得られる。特に電子走査型超音波診断装置は、この超音波ビームにより電子的に被検体を走査することで被検体内の画像を得るものである。
【0003】
図8は、従来の超音波診断装置の構成図である。従来の超音波診断装置1では、フォーカス波面発生器2にて超音波プローブ3内の微小振動素子群に対応する複数の異なる遅延時間情報が生成されて、パルサー制御器4に与えられる。パルサー制御器4では、各遅延時間情報に応じた電気パルスがパルサー群5から発生されるように制御信号が生成され、生成された制御信号はパルサー群5に与えられる。
【0004】
さらに、パルサー群5は、パルサー制御器4から受けた制御信号に基づいて電気パルスを発生させ、発生させた電気パルスは超音波プローブ3内の微小振動素子群に異なる遅延時間を伴って印加される。この結果、超音波プローブ3内の微小振動素子群から図示しない被検体に、互いに異なる遅延時間を伴って超音波が送信され、送信フォーカスが得られる。すなわち、被検体内部には、超音波の送信ビームが形成される。
【0005】
さらに、被検体内部において生じた反射波は、超音波プローブ3内の同一の微小振動素子群で受信され、プリアンプ群6に与えられる。プリアンプ群6では、微小振動素子群から受けた反射波信号が増幅され、増幅された反射波信号は受信遅延回路群7に与えられる。受信遅延回路群7では、プリアンプ群6から受けた反射波信号の遅延加算が実行されて反射波の受信ビームが形成される。これにより、受信遅延回路群7において反射波の走査線RF信号が生成される。
【0006】
次に、受信遅延回路群7において生成された走査線RF信号が画像信号検出器8に与えられ、画像信号検出器8では走査線RF信号が検波、圧縮されて画像信号が得られる。画像信号検出器8で得られた画像信号は、画像表示回路9に与えられる。画像表示回路9は、画像信号検出器8から受けた画像信号を信号強度に応じてマッピングした画像の輝度信号に変換し、輝度信号を画像表示器10に与える。この結果、画像表示器10には、画像信号の信号強度に応じて被検体内部における画像が輝度表示される。
【0007】
一方、診断対象となる被検体内の一部、例えば肝臓実質等の器官は、照射される超音波ビームの幅に対して微細な構造を有している。これは無数の散乱体が超音波の照射領域に存在していることと等価である。このような微細な構造を有する部位に超音波を照射すると、多数の散乱体から散乱波がそれぞれ発生し、発生した各散乱波が互いに位相干渉を起こして、いわゆるスペックルノイズが発生する。
【0008】
このスペックルノイズはゆらぎが存在する大気にレーザー光を透過する場合に発生するスペックルノイズと同様であり、波面の位相干渉により発生する。一般にスペックルノイズは超音波診断装置の分解能と同等のサイズの斑点で構成され、平均強度は微小散乱体の散乱強度に比例する。スペックルノイズの斑点の形状そのものは被検体内の器官の構造を表すものではなく、このスペックルノイズによって、被検体内の微小な構造や、微小な散乱強度の差の視認性が阻害されるという問題がある。
【0009】
そこで近年、このスペックルノイズの影響を低減するために、複数の方向から被検体に超音波を送受信し、各方向からの反射波によりそれぞれ得られた複数の画像を加算する空間コンパウンドという方法が実現されている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
【0010】
図9は、従来の空間コンパウンド技術により画像を生成する場合に被検体に送信される超音波の波面および散乱波の一例を示す図である。
【0011】
尚、簡単のためここでは仮に超音波を垂直に被検体に送信した場合に、深さZが異なる位置に均等に、かつ超音波の深さ方向に垂直な方向Xにランダムに4つの同サイズの散乱体が存在する場合について考える。
【0012】
図9(a−1)に示すように、通常は平面波の波面が超音波プローブの送受面方向Xに対して垂直となるように超音波が送信され、被検体内部に存在する散乱体により散乱波が生じる。さらに、図9(b−1)に示すように、スペックルノイズの影響を低減するために、別途平面波の波面が超音波プローブの送受面方向Xに対して傾くように斜め方向Z’から超音波が送信され、被検体内部に存在する散乱体により散乱波が生じる。
【0013】
このように異なる向きで超音波が送信されると、送信された超音波の向きに応じた散乱波が生じる。図9(a−2)は、図9(a−1)に示すように平面波の波面が超音波プローブの送受面方向Xに対して垂直となるように超音波を送信した場合に、散乱体により生じた散乱波の波形を示す図である。また、図9(b−2)は、図9(b−1)に示すように平面波の波面が超音波プローブの送受面方向Xに対して傾くように超音波を送信した場合に、散乱体により生じた散乱波の波形を示す図である。
【0014】
図9(a−2)に示すように、超音波が垂直に被検体に送信されると、散乱体は深さZが異なる位置に均等間隔で4つ存在するため、4つの同様な波形の散乱波が超音波浸透深さに応じて等間隔で生じる。一方、図9(b−2)に示すように、超音波が斜め方向Z’に被検体に送信されると、散乱体は超音波プローブの送受面方向にランダムに存在するため、超音波の浸透深さZ’が異なる位置に不均等な間隔で4つ存在することとなる。このため、4つの同様な波形の散乱波も超音波浸透深さZ’に応じて不等間隔で生じる。
【0015】
この結果、送信された超音波の向きに応じて異なる干渉パターンの散乱波(スペックルノイズ)が得られる。図9(a−3)は、図9(a−2)に示す散乱波による干渉結果を示す図であり、図9(b−3)は、図9(b−2)に示す散乱波による干渉結果を示す図である。図9(a−3)に示すように、超音波が垂直に被検体に送信されると、均等間隔の散乱波が生じて互いに干渉しあうため、規則的な波形が得られる。一方、図9(b−3)に示すように、超音波が斜め方向に被検体に送信されると、不均等間隔の散乱波が生じて互いに干渉しあうため、不規則な波形が得られる。
【0016】
つまり散乱体の配置は同じであっても、送信される超音波の波面の方向が異なれば、同時に散乱を引き起こす散乱体の組合せが変化し、異なる位相干渉によるスペックルノイズが得られる。そして、このように超音波ビームの方向を変えて得られた画像が加算され、統計的に独立な画像の平均によりスペックルノイズの低減、すなわち変動の安定化が行なわれる。
【0017】
図10は、従来の空間コンパウンド技術により画像を生成する場合における超音波の走査方向の一例を示す図であり、図11は、図10に示す走査方向の走査により得られた画像の空間コンパウンドによる画像形成方法を説明するための概念図である。
【0018】
図10に示すように、例えば異なる3方向の走査方向により走査が行なわれると、3つの異なる干渉パターンの散乱波が得られる。そして図11に示すように、同一の位置から得られた3つの散乱波が加算される。このため、スペックルノイズの低減を図ることができる。
【特許文献1】特開昭62−72340号公報
【特許文献2】特開平3−99651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来の空間コンパウンド技術により超音波診断画像を生成する場合には以下の問題点がある。
【0020】
まず第1に、空間コンパウンドは、複数の方向から超音波を送受信することにより得られた複数の画像から単一の画像を加算して得る技術であるが、スペックル低減効果を得るには、加算対象となる画像におけるスペックルパターンの独立性が必要となる。そのためにはある超音波を送受信する角度がある程度離れている必要があるが、超音波プローブの口径は限られており、得ることが可能な独立な画像の数が制限される。このため、十分なスペックル低減効果が得られない恐れがあるという問題がある。
【0021】
第2に超音波の送信および受信の際、送受信方向を超音波プローブの送受面に対して傾ける場合には、画像加算の為に実際に表示する画角以上に走査する必要があり、取得データ当たりないし単位時間当たりに撮影することが可能なフレーム数の低下が生じるという問題がある。すなわち、図10において点線で囲まれた領域が、画像として表示させることが必要な表示領域である場合に、超音波の送受信方向を超音波プローブの送受面に対して垂直とすれば、表示領域のみ走査すればよいことになるが、超音波プローブの送受面に対して傾ける場合には、表示領域の外部の領域の走査を行なう必要がある。
【0022】
逆に、超音波の送受信方向を超音波プローブの送受面に対して傾ける場合に表示領域のみを走査すると、走査されない部分が生じてスペックル低減効果が画像の場所で異なることとなり、その結果、画像が不均一になる。つまり、図10に示すように正面と左右斜め方向の3方向から表示領域のみを走査すると、3つの走査線が交差している領域についてはスペックル低減効果が得られるが、走査線が交差しない領域については、スペックル低減効果を得ることができない。
【0023】
第3に、ある1点の画像を得るのために複数回に亘る超音波の送受信が必要となり、リアルタイム性が低下するという問題がある。図10に示すように正面と左右斜め方向の3方向から表示領域のみを走査する場合には、ある1点の画像を得るのために3回の超音波の送受信が必要となる。
【0024】
本発明はかかる従来の事情に対処するためになされたものであり、被検体内の散乱体により生じた散乱波が互いに位相干渉を起こすことにより発生するスペックルノイズの影響をより適切かつ良好に低減させることが可能な超音波診断装置を提供することを目的とする。
【0025】
また、本発明の別の目的は、リアルタイム性の低下を改善しつつ、被検体内の散乱体により発生するスペックルノイズの低減効果を得ることが可能な超音波診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明に係る超音波診断装置は、上述の目的を達成するために、請求項1に記載したように、同一の走査線上において時間的に波面が変化するように、平面波でなく、かつ合焦波面でない超音波を被検体に送信する超音波送信手段と、前記波面ごとに生じた各反射波を受信してそれぞれ画像信号を生成する画像信号生成手段と、同一走査線上において異なる波面の送信超音波により生じた各反射波から得られた複数の信号を互いに加算することによりスペックルノイズを低減させた画像信号を得る信号加算手段とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る超音波診断装置においては、被検体内の散乱体により生じた散乱波が互いに位相干渉を起こすことにより発生するスペックルノイズの影響をより適切かつ良好に低減させることができる。
【0028】
また、リアルタイム性の低下を改善しつつ、被検体内の散乱体により発生するスペックルノイズの低減効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明に係る超音波診断装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0030】
図1は本発明に係る超音波診断装置の実施の形態を示す構成図である。
【0031】
超音波診断装置20は、超音波プローブ21に超音波送信系22と超音波受信系23とを接続して構成される。超音波送信系22は、インコヒーレント波面発生器24、パルサー制御器25およびパルサー群26を備える。また、超音波受信系23は、プリアンプ群27、受信遅延回路群28、画像信号検出加算器29、画像表示回路30および画像表示器31を備える。
【0032】
超音波プローブ21は、超音波微小振動素子群を備え、送信系22から受けた電気パルスを各微小振動素子においてそれぞれ超音波信号に変換して被検体内に送信する機能と、被検体内で生じた反射波を受信して電気信号に変換し、反射波信号として超音波受信系23に与える機能とを有する。
【0033】
そして、超音波診断装置20には、各構成要素の機能により、少なくとも平面波でも合焦波面でもない超音波を同一の走査線上において時間的に波面が変化するように被検体に送信する超音波送信手段、被検体内で波面ごとに生じた各反射波からそれぞれ画像信号を生成する画像信号生成手段、同一走査線上の異なる波面の送信超音波により生じた各反射波から得られた複数の信号を互いに加算することによりスペックルノイズを低減させた画像信号を得る信号加算手段としての機能が備えられる。
【0034】
被検体に送信される超音波としては、例えば送信波面としてフォーカスを持たせていないランダムな波面の超音波とすることができる。つまり、波面がランダムである超音波のように平面波でない超音波を同一の走査線上において時間的に波面が変化するように送信すれば、異なる位相干渉パターンが得られるため、同一走査線上の異なる波面の送信超音波により生じた各反射波から得られた複数の信号を互いに加算することによりスペックルノイズを低減させた画像信号を得ることができる。
【0035】
尚、通常の超音波診断装置では合焦波面の超音波が送信されるが、合焦波面の超音波は焦点近傍で平面波的な振る舞いをするものであるため、超音波診断装置20から送信される超音波は、平面波でないのみならず、合焦波面でもないことが必要である。
【0036】
従って、被検体に送信される超音波の波面は、ランダムな波面とする他、異なる位相干渉パターンが得られるような波面であればよい。つまり、超音波の波面は完全にランダムである必要はなく、異なる位相干渉パターンが得られる程度に十分にランダムであるとみなせる擬似ランダムな波面であればよい。
【0037】
図2は、図1に示す超音波診断装置20の超音波プローブ21から被検体に送信される超音波の波面の一例を示す図である。
【0038】
超音波の波面を擬似ランダムな波面とする場合には、各々の波面で得られる画像信号に不要な重みがかかるのは望ましくないことから、超音波の送信波面の振幅分布は、概ね矩形又はある程度の領域で平坦な振幅特性を有する振幅分布が望ましい。
【0039】
このため、擬似ランダムな波面としては、例えば、図2(a)に示すような所望の限られた領域で階段状に位相が変化する波面群、図2(b)に示すような2値位相でその周期を変えた波面群、あるいは図2(c)に示すようなN値位相(Nは整数)でそれぞれの順番や周期が異なる波面群等の波面群とすることができる。
【0040】
つまり、超音波の波面を擬似ランダムな波面あるいはランダムな波面と擬似ランダムな波面とを組み合わせた波面としても、超音波の波面をランダムな波面とした場合と同様な効果を得ることができる。そこで、以下、擬似ランダムな波面あるいはランダムな波面と擬似ランダムな波面とを組み合わせた波面がランダムな波面に含まれるものとして説明する。
【0041】
尚、同一走査線上において超音波の波面を変化させる方法としては、被検体と超音波プローブ21の超音波送受面との相対的な位置関係を固定しつつ複数種類の異なる波面の超音波を発生させて複数回に亘って被検体に送信する方法や、ある平面波ではない波面の超音波を連続的あるいは断続的に送信し、被検体と超音波プローブ21の超音波送受面との相対的な位置関係を変化させる方法が挙げられる。
【0042】
超音波の送信波面をランダムな波面とする場合には、ランダムな超音波送信波面の発生手法として、ランダム波面の逆伝搬による方法や近似的にフーリエ変換によりランダムな超音波送信波面を発生させる方法が知られている。
【0043】
図3は、図1に示す超音波診断装置20の超音波プローブ21から被検体に送信されるランダムな波面の超音波の一例を示す図である。
【0044】
図3に示すように、超音波プローブ21から被検体に送信される超音波によりランダムな波面の送信ビームB1が形成される一方、受信ビームB2にはフォーカスを持たせる場合において、超音波プローブ21の送受面に平行な方向をx方向、超音波プローブ21の送受面に垂直な超音波の深さ方向をz方向とする。
【0045】
まず、図3に示す座標系を用いてランダム波面の逆伝搬による方法について説明する。
【0046】
時刻tに超音波プローブ21から所望の距離x、zにおいて波面F(x,z,t)が必要である場合には、波面F(x,z,t)を超音波プローブ21方向に逆伝搬させた場合に超音波プローブ21の各超音波微小振動素子において検出される信号を式(1)により求めることができる。
【数1】

【0047】
このため、式(1)により、超音波プローブ21の位置ξにおける超音波微小振動素子から被検体に送信すべき超音波信号f(ξ,0,t)を得ることができる。従って、位置ξにおける各超音波微小振動素子から超音波信号f(ξ,0,t)を被検体に送信すれば、ランダムな波面F(x,z,t)を形成することが可能となる。
【0048】
ただし、超音波信号f(ξ,0,t)そのものを各超音波微小振動素子から送信すると、超音波微小振動素子毎に異なる波形の超音波を送信することとなり、超音波送信系22において制御対象となるデータ量が増加するという問題がある。そこで、f(ξ,0,t)を送信信号の遅延時間又は位相に換算し、各超音波微小振動素子からは同一波形の超音波を遅延時間又は位相を変えて送信することが実用的である。
【0049】
次に、フーリエ変換によるランダムな超音波送信波面の発生方法について説明する。
【0050】
超音波の伝搬はフレネル近似が成立するような遠方場ではフーリエ変換で近似することができる。そこで、超音波の送信波形を単一周波数の連続波で近似することにより、各超音波微小振動素子から被検体に送信すべき送信信号を求めることができる。すなわち、図3に示す座標系において、超音波の中心角周波数をω、発生させるべき所望のランダムな波面を複素数F(x,z,ω)とすると、式(2)により超音波プローブ21の位置ξにおける超音波微小振動素子から被検体に送信すべき超音波信号f(ξ,0,ω)を得ることができる。
【数2】

【0051】
式(2)で得られるf(ξ,0,ω)は位置ξの超音波微小振動素子から被検体に送信すべき複素信号であり、複素信号f(ξ,0,ω)から超音波の位相および振幅を得ることができる。従って、複素信号f(ξ,0,ω)から得られた位相および振幅を有する超音波パルスを各超音波微小振動素子から被検体に送信すれば、ランダムな波面F(x,z,ω)を形成することが可能となる。また、複素信号f(ξ,0,ω)から得られた位相を式(3)により遅延時間τに換算し、時間的に遅延させた同一位相の超音波パルスを各超音波微小振動素子から被検体に送信しても、同様にランダムな波面F(x,z,ω)を形成することができる。
【0052】
[数3]
τ=arg(f(ξ,0,ω))/ω ・・・(3)
【0053】
このように、ランダム波面の逆伝搬による方法あるいはフーリエ変換による方法により、各超音波微小振動素子から被検体に送信すべき送信信号を得ることができる。ただし、超音波診断装置20の感度の観点からは送信超音波の波面が必要以上に広がると、エネルギ効率の低下に繋がるため望ましくない。そこで、各超音波微小振動素子から被検体に送信すべき送信信号fを求める際の基礎となるランダムな波面Fは、所要の領域にエネルギが集中するように決定することが超音波診断装置20の感度の観点から有効である。
【0054】
所要の領域にエネルギが集中するようなランダム波面Fの一例としては、振幅分布が矩形で位相が一様乱数に従うようなランダム波面が現実的な例として挙げられる。特に、フーリエ変換による方法によりランダム波面を発生させる場合には、超音波を照射する物体面におけるランダム波面Fの振幅分布と位相を決定するための乱数との乗算は、超音波プローブ21の開口面における夫々のフーリエ変換のコンボリューションで表される。そこで、超音波プローブ21の開口面上で複素正規分布に従うような乱数を発生させ、発生させた乱数と物体面上で所望とされるランダム波面の振幅分布をフーリエ変換した関数とでコンボリューションをとることにより、ランダム波面を決定しても良い。
【0055】
また、このようにして得られたランダムな送信波面を有する超音波そのものを超音波診断装置20から送信してもよいし、又それを元にした近似波面、例えば得られたランダム波面の位相又は振幅又はその両者を量子化して得られる近似波面を有する超音波を超音波診断装置20から送信してもよい。
【0056】
そして、以上のような手法により求められた送信信号を、各超音波微小振動素子から被検体に送信させることによりランダム波面を形成することができる。すなわち、各超音波微小振動素子から送信される送信信号の波形がそれぞれランダム波面の逆伝搬による方法あるいはフーリエ変換による方法により得られた波形fとなるように制御する第1の方法、ランダム波面の逆伝搬による方法あるいはフーリエ変換による方法により得られた波形fを各超音波微小振動素子から送信される送信信号の遅延時間τおよび位相の一方または双方に換算し、送信信号の遅延時間および位相の一方または双方を制御する第2の方法、第1および第2の方法を組み合わせた第3の方法によりランダム波面を形成することができる。
【0057】
図4は、図1に示す超音波診断装置20の超音波プローブ21から被検体に送信される超音波の送信信号の遅延時間を制御した例を示す図であり、図5は、図1に示す超音波診断装置20の超音波プローブ21から被検体に送信される超音波の送信信号の位相を制御した例を示す図である。
【0058】
図4に示すように、例えば超音波プローブ21の各超音波微小振動素子から送信される送信信号の遅延時間τ1、τ2を制御することにより、ランダム波面を形成させることができる。すなわち、図4(a)に示すように、ある超音波微小振動素子からは、送信信号S1がランダム波面の逆伝搬による方法あるいはフーリエ変換による方法により得られた波形を換算して得られた遅延時間τ1だけ遅延されて送信される。また、図4(b)に示すように、別の超音波微小振動素子からは、送信信号S1の波形と同一波形の送信信号S2がランダム波面の逆伝搬による方法あるいはフーリエ変換による方法により得られた波形を換算して得られた遅延時間τ2だけ遅延されて送信される。
【0059】
また、図5に示すように、例えば超音波プローブ21の各超音波微小振動素子から送信される送信信号の位相を制御することにより、ランダム波面を形成させることができる。すなわち、図5(a)に示す、ある超音波微小振動素子からは、送信信号S3が遅延時間τだけ遅延されて送信され、図5(b)に示すように、別の超音波微小振動素子からは、送信信号S3と同一の遅延時間τの遅延を伴い、かつランダム波面の逆伝搬による方法あるいはフーリエ変換による方法により得られた波形を換算して得られた位相となるように位相制御された送信信号S4が送信される。つまり、位相の制御によるランダム波面の発生方法は送信信号の波形のエンベロープを超音波微小振動素子ごとに同一とする一方、搬送波の位相を変える方式である。
【0060】
さらに、望ましいランダム波面の発生方式としては、送信信号のエンベロープに対しては所望の送信ビームのエネルギ中心に対して遅延制御を行い、搬送波についてはランダムな位相となるような送信信号を各超音波微小振動素子からそれぞれ送信する方式が挙げられる。このようなランダム波面の発生方式とすれば、簡単な制御でエネルギ効率が良く、かつ十分にランダムな位相を持つ波面の形成を実現することができる。また、この時、十分に細かいランダムネスを波面に発生させる観点から、超音波プローブ21の送信口径は大きくした方が良い。従って、超音波プローブ21が有する各超音波微小振動素子のうちより多くの、望ましくは全ての各超音波微小振動素子から超音波送信信号を送信することが有効である。
【0061】
そして、超音波送信系22には、所要の電気パルスを発生させて超音波プローブ21内の微小振動素子群に印加することにより、上記のように超音波微小振動素子から被検体に送信される送信信号の波形、遅延時間、位相の少なくとも1つを制御する機能が備えられる。つまり、超音波送信系22には、超音波微小振動素子から被検体に送信される送信超音波の波形を制御する波形制御手段、各微小振動素子群に印加される電気パルスの発生タイミングを制御するタイミング制御手段、各超音波微小振動素子群から送信される送信超音波の位相を制御する位相制御手段並びに各超音波微小振動素子群から送信される送信超音波の振幅を制御する振幅制御手段としての諸機能のうち少なくとも1つの機能が備えられる。
【0062】
すなわち、インコヒーレント波面発生器24は、超音波微小振動素子から被検体に送信される送信信号の波形、遅延時間、位相の少なくとも1つが制御されてランダムな波面が形成されるように送信信号の制御情報を生成し、生成した制御情報をパルサー制御器25に与える機能を有する。
【0063】
また、パルサー制御器25は、インコヒーレント波面発生器24から受けた送信信号の制御情報に基づいて、超音波微小振動素子から被検体に送信される送信信号の波形、遅延時間、位相が制御情報に従う波形、遅延時間、位相となるようにパルサー群26の制御信号を生成し、生成した制御信号をパルサー群26に与えることにより、送信信号の制御情報に応じた電気パルスをパルサー群26から発生させる機能を有する。
【0064】
パルサー群26は、パルサー制御器25から受けた制御信号に基づいて電気パルスを発生させる機能と、発生させた電気パルスを超音波プローブ21内の微小振動素子群に印加する機能を有する。この結果、超音波プローブ21内の各微小振動素子からは、インコヒーレント波面発生器24で生成した制御情報に従う波形、遅延時間、位相の送信信号が被検体に送信される。
【0065】
尚、実際の超音波送信系22の装置構成は、物理的にインコヒーレント波面発生器24、パルサー制御器25およびパルサー群26に分離させて構成する必要はなく、ランダム波面の形成方法に応じて実質的にこれらの機能を備えた装置構成であればよい。
【0066】
例えば、各微小振動素子から被検体に送信される送信信号の波形を、それぞれランダム波面の逆伝搬による方法で得られた波形となるように制御することによってランダム波面を形成する場合には、アナログ信号生成器と高圧アンプとをDA変換器を介して接続することにより超音波送信系22を構成することができる。
【0067】
この場合には、アナログ信号生成器により波形f(ξ,0,t)のアナログ信号を生成し、生成したアナログ信号がDA変換器により波形f(ξ,0,t)のデジタル信号に変換されて、高圧アンプに与えられる。さらに、高圧アンプにより波形f(ξ,0,t)のデジタル信号が増幅されて電気パルスとなって超音波プローブ21内の各微小振動素子に印加され、各微小振動素子が駆動せしめられる。そして、超音波プローブ21内の各微小振動素子からは、それぞれ異なる波形f(ξ,0,t)の送信信号が被検体に送信され、ランダム波面F(x,z,t)が形成される。
【0068】
つまり、高圧アンプがパルサー群26として、アナログ信号生成器およびDA変換器がインコヒーレント波面発生器24およびパルサー制御器25として機能し、かつ超音波送信系22に送信超音波の波形を制御する波形制御手段としての機能が備えられる。
【0069】
また、例えば各微小振動素子から被検体に送信される送信信号の遅延時間を制御することによってランダム波面を形成する場合には、インコヒーレント波面発生器24においてランダム波面の逆伝搬による方法あるいはフーリエ変換による方法により得られた波形を換算して遅延時間を求め、遅延時間情報としてパルサー制御器25に与えるように構成ことができる。そして、パルサー制御器25が遅延時間情報に従って生成した制御信号をパルサー群26に与えて電気パルスの発生タイミングを制御するタイミング制御手段として機能するように構成すれば、各微小振動素子から所要の遅延時間を伴う送信信号が送信されてランダムな波面を形成することができる。
【0070】
一方、超音波診断装置20の超音波受信系23には、被検体内で波面ごとに生じた各反射波からそれぞれ画像信号を生成する画像信号生成手段および同一走査線上の異なる波面の送信超音波により生じた各反射波から得られた複数の信号を互いに加算することによりスペックルノイズを低減させた画像信号を得る信号加算手段としての機能が備えられる。
【0071】
超音波受信系23において、スペックルノイズ低減のために行なわれる加算処理の対象としては、画像信号とする他、加算される信号間において位相干渉が起きないように、画像信号から位相の情報を除いた走査線信号の振幅、強度あるいは圧縮後における走査線信号の振幅、強度のいずれであってもよい。
【0072】
そして、超音波受信系23のプリアンプ群27、受信遅延回路群28、画像信号検出加算器29、画像表示回路30および画像表示器31には、上述した機能が具備されるように詳細機能が備えられる。
【0073】
すなわち、プリアンプ群27は、超音波プローブ21の超音波微小振動素子群から反射波信号を受けて増幅し、増幅した反射波信号を受信遅延回路群28に与える機能を有する。
【0074】
受信遅延回路群28は、プリアンプ群27から受けた反射波信号の遅延加算を実行することにより反射波の受信ビームを形成させる受信ビームフォーマとしての機能と、当該受信ビームの形成により反射波の走査線RF信号を生成する機能を有する。
【0075】
画像信号検出加算器29は、受信遅延回路群28から走査線RF信号を受けて検波、圧縮することにより画像信号を得る機能と、各画像信号を加算することによりスペックルノイズを低減させた画像信号を得る機能を有する。このとき、必要に応じて各画像信号の加算は重み付け加算としてもよい。
【0076】
画像表示回路30は、画像信号検出加算器29からスペックルノイズを低減させた加算後における画像信号を受けて、画像信号を信号強度に応じてマッピングした画像の輝度信号に変換する機能と、得られた輝度信号を画像表示器31に与える機能とを有する。
【0077】
次に、超音波診断装置の作用について説明する。
【0078】
まず、予めランダムな波面が決定され、ランダムな波面を被検体内において形成させるために必要な各超音波微小振動素子からの送信信号の波形、遅延時間および位相が求められる。そして、送信信号の波形、遅延時間および位相は、制御情報としてインコヒーレント波面発生器24からパルサー制御器25に与えられる。パルサー制御器25は、インコヒーレント波面発生器24から受けた送信信号の制御情報に基づいて、超音波微小振動素子から被検体に送信される送信信号の波形、遅延時間、位相が制御情報に従う波形、遅延時間、位相となるようにパルサー群26の制御信号を生成し、生成した制御信号をパルサー群26に与える。さらに、パルサー群26は、パルサー制御器25から受けた制御信号に基づいて制御情報に応じた波形、遅延時間、位相の電気パルスを発生させて超音波プローブ21内の微小振動素子群に印加する。
【0079】
このため、超音波プローブ21内の各微小振動素子からは、インコヒーレント波面発生器24で生成した制御情報に従う波形、遅延時間、位相の送信信号が被検体に送信され、予め決定した所望のランダムな波面が形成される。
【0080】
さらに、被検体内部のランダムな波面を有する送信超音波により生じた反射波は、超音波プローブ21内の同一の微小振動素子群で受信され、プリアンプ群27に与えられる。プリアンプ群27では、微小振動素子群から受けた反射波信号が増幅され、増幅された反射波信号は受信遅延回路群28に与えられる。受信遅延回路群28では、プリアンプ群28から受けた反射波信号の遅延加算が実行されて所望の走査線上における反射波の受信ビームが形成される。これにより、受信遅延回路群28において反射波の走査線RF信号が生成される。
【0081】
次に、受信遅延回路群28において生成された走査線RF信号が画像信号検出加算器29に与えられ、画像信号検出加算器29では走査線RF信号が検波、圧縮されて画像信号が得られる。ここで、被検体内に存在する多数の散乱体により発生する各散乱波が互いに位相干渉を起こすことに起因して、画像信号は送信信号のランダムな波面に応じたパターンのスペックルノイズを伴うものとなる。
【0082】
次に、同様な手順で、送信信号の波形、遅延時間、位相制御により、異なるランダム波面を有する超音波が被検体内における同一の走査線上で送信され、新たに形成されたランダム波面に応じたスペックルパターンのスペックルノイズを伴う画像信号が画像信号検出加算器29において生成される。
【0083】
さらに、このような互いに異なるランダム波面を有する超音波が複数回に亘って所望の回数だけ繰り返して送信され、ランダム波面の数だけ互いにスペックルパターンの異なる画像信号が画像信号検出加算器29において得られる。そして、得られたスペックルパターンの異なる複数の画像信号が画像信号検出加算器29において加算され、スペックルノイズが低減された画像信号を得ることができる。従って、同一走査線上においてスペックルパターンの異なる画像信号がより多く得られれば、スペックル低減効果を向上させることができる。このため、超音波の送信回数は、必要とされるスペックル低減効果の度合いに応じて決定される。
【0084】
ここで、同一走査線上に異なるランダム波面を有する超音波を複数回送信する方法としては、前述の通り、各超音波微小振動素子から複数回に亘って異なるランダム波面を有する超音波を送信する方法としても良いし、各超音波微小振動素子から1回ランダム波面を有する超音波を送信し、被検体と各超音波微小振動素子の相対的な位置関係をシフトさせて、実質的に同一走査線上で異なるランダム波面を有する超音波が複数回送信されるようにする方法としても良い。
【0085】
尚、時系列的に同一の走査線上において、複数の画像信号を生成するような場合には、従来から超音波診断装置において行なわれている技術であるPersistenceによってもスペックル低減効果を得ることができる。つまり、あるフレームの画像信号が生成された場合に、過去の単一フレームにおける画像信号あるいは過去の複数フレーム分のそれぞれ画像信号の重み付け加算値と、生成された新たな画像信号とを重み付け加算することにより、リアルタイム性の向上や映像を滑らかにするといった効果とともにスペックル低減効果のある画像信号を得ることができる。
【0086】
次に、走査方向に走査線を電子的に走査することにより、必要な範囲における全ての画像信号が収集されるのであるが、ここで走査方法について説明する。
【0087】
異なる走査線間では、同一のランダムな波面群の送信信号を送信しても良いし、走査線毎に波面群を異なるものとしてもよい。ただし、最終的に得られる画像信号の均一性を向上させる観点からは、異なる走査線間で同一のランダムな波面群の送信信号を送信することが望ましい。
【0088】
さらに、時系列的に同一の走査線上において、複数の画像信号を生成するような場合においても、フレームごとに同一のランダムな波面群の送信信号を送信しても良いし、フレーム毎に波面群を異なるものとしてもよい。ただし、従来より超音波診断装置において行なわれているPersistenceによってもスペックルノイズの低減効果を得ることができるため、フレーム毎に異なるランダム波面を有する超音波を送信することが望ましい。
【0089】
ところで、上述した走査方法では、1枚の画像を得るのために必要な超音波の送受信回数は走査線数と加算対象となる画像信号の数との積で与えられる。この結果、スペックルノイズの低減を行なわない従来の超音波診断装置に対してリアルタイム性が劣化するという懸念がある。そこで1回の送信で複数の走査線上における受信信号を得ることができる並列同時受信の技術を併用することで、リアルタイム性の劣化を改善することができる。
【0090】
図6は、図1に示す超音波診断装置20の超音波プローブ21からランダムな波面を有する超音波の送信信号を送信し、反射波信号を並列同時受信できるように走査する方法を説明する図である。
【0091】
図6に示すように、並列同時受信は、超音波プローブ21から超音波を送受信して一定の幅を有するランダムな波面の送信ビームB1を形成する一方、送信ビームB1の波面の幅内に複数の受信ビーム B2を配置して同時に複数本の走査線信号を得る技術である。図6は、点線および実線で示す2本の受信ビームB2を配置した例を示す図である。そして、ランダム波面の超音波を、各走査線上において波面が変化するように所望の回数だけ送信すると、送信回数に応じて各走査線上において異なるスペックルノイズパターンを有する複数の画像信号を得ることができる。さらに、各画像信号を走査線ごとに加算すると、送信回数に応じてスペックルノイズを低減させた画像信号を複数の走査線上について得ることができる。
【0092】
次に、送信波面の位置を走査方向に移動させて同様な超音波の送信及び画像信号の加算を行なうことにより、すなわち送信波面走査を行なうことにより全範囲における画像信号を得ることができる。
【0093】
この並列同時受信の技術を併用した走査方式によれば、1枚の画像を得るために必要な超音波の送受信回数が、走査線数と加算すべき画像信号の数の積を並列同時受信のために配置される受信ビームB2の数で除算した数となるため、リアルタイム性の向上を図ることができる。例えば、加算すべき画像信号の数が4の場合に並列同時受信のために配置される受信ビームB2の数を4とすれば、スペックルノイズ低減効果を得るための加算を伴わない従来の超音波診断画像の撮像と同じリアルタイム性を得ることができる。
【0094】
ただし、並列同時受信の技術を併用した走査方式では、送信信号の波面位置を変更するタイミングが、超音波の送受信間隔時間が加算すべき画像信号の数分だけ経過した時点となるため、走査線間に階段上に時相差が生じるという問題が生じる。例えば、加算すべき画像信号の数が4、並列同時受信の受信ビームB2の数が4の場合には、並列同時受信を行う4本の走査線から得られる各画像信号間には互いに時相差がないのに対し、走査方向に隣接する次の4本の走査線から得られる各画像信号との間では、4回分の超音波の送受信間隔時間だけ経過している。
【0095】
このため、動いている物体の画像を得る場合や、超音波プローブ21を速く動かした場合のように撮像対象と超音波プローブ21との間における相対速度が比較的速いような場合には、得られる画像に段差が生じる恐れがある。
【0096】
そこで、並列同時受信を行なう場合には、走査線間の時相差がより均一になるように超音波プローブ21の移動および超音波の送受信を行なうことで、上記のような問題を回避させることができる。
【0097】
図7は、図6に示す並列同時受信を行なうための超音波プローブ21の移動および超音波の送受信方法の一例を説明する図である。
【0098】
まず図7の実線で示すように有限の幅を持つランダムな波面を有する送信ビームB1を形成するように超音波送信信号を送信し、超音波送信信号の波面上となるように複数の受信ビームB2を配置して並列同時受信により複数の走査線上から画像信号を得る。次に、図7の点線で示すように送信ビームB1の波面を任意走査線分だけ移動させ、並列同時受信の受信ビームB2の位置も同じ走査線分だけ移動する。換言すれば、任意走査線分だけ送信ビームB1の波面および受信ビームB2の位置が重なるように走査する。
【0099】
そして、同様に送信ビームB1の波面と並列同時受信の受信ビームB2の位置とを同じ走査線分だけ移動させながら画像信号を得て走査線ごとに加算すると、時間的により均一で、かつスペックルノイズを低減させた画像信号を得ることができる。
【0100】
例えば、並列同時受信の受信ビーム数が4の場合に、送信ビームB1の波面を1走査線分だけ移動させるとともに受信ビームB2の位置を1走査線分だけ移動すると、重なっている3走査線については異なるスペックルパターンを伴う画像信号を得ることができる。このとき、重なっている3走査線上から得られる画像信号は、ランダムな波面の異なる位置における反射波から得られるため、異なるスペックルパターンを伴う画像信号となる。さらに、同様に、送信ビームB1の波面および受信ビームB2の位置を1走査線分だけ移動させながら、得られる画像信号を加算すると走査線ごとにスペックルノイズを低減させた1つの画像信号を得ることができる。
【0101】
尚、図7では、簡単のため並列同時受信の受信ビーム数を2として図示してあり、1走査線分だけ移動した送信ビームB1の波面および受信ビームB2を点線で、移動前における送信ビームB1の波面および受信ビームB2を実線で示してある。
【0102】
このような超音波プローブ21の移動および超音波の送受信方法により画像信号を生成すると、より時間的に均一な画像信号を得ることができる。特に送信ビームB1の波面および受信ビームB2の位置を1走査線分だけ移動させれば、隣接する走査線間における時相差は1回分の超音波送受信時間となり、かつ並列同時受信数分だけ画像信号が加算されることとなるため、さらに時間的に均一な画像信号を得ることができる。また、副次的な効果として、画像信号を得るためのランダムな超音波送信信号の波面が各走査線間において同一となるため、空間的により均一な画像信号を得ることもできる。
【0103】
勿論、上記の手法に限らずに、加算により1枚の画像を得た後に、次の画像信号を異なるランダムな波面を有する超音波の送信により得て重み付け加算することでPersistenceによるスペックルノイズ低減効果を得ることもできる。Persistenceによってスペックルノイズ低減効果を得る場合には、変更すべき超音波送信信号のランダムな波面の数は10種類も持てば十分である。Persistenceによる場合でも、並列同時受信の受信ビーム数が4の場合には合計40種のスペックルパターンを有する画像信号を得ることができるため、十分なスペックルノイズの低減効果が期待できる。
【0104】
尚、従来の空間コンパウンド技術では、スペックルパターンが10パターン以下であり、かつ各々のスペックルパターンを有する画像信号の独立性が低いため、空間コンパウンド技術に比べて超音波診断装置20のランダムな波面の超音波を利用した技術によれば、大幅なスペックルノイズの低減効果を期待することができる。
【0105】
そして、上述のような各手法によりスペックルノイズを低減させた加算後における画像信号は、画像信号検出加算器29から画像表示回路30に与えられる。さらに、画像表示回路30は、画像信号検出器から受けた画像信号を信号強度に応じてマッピングした画像の輝度信号に変換し、輝度信号を画像表示器に与える。この結果、画像表示器には、スペックルノイズが低減された被検体内部における画像が輝度表示される。
【0106】
つまり、以上に示す超音波診断装置20は、従来の空間コンパウンドのように画像を取るための超音波送受信角度を変えるのではなく、ランダムな位相の波面を有する超音波送信信号を複数回変化させて被検体に送信することにより、異なるスペックルパターンを有する画像信号を得るとともに、得られた複数の画像信号を加算することでスペックルノイズを低減するものである。
【0107】
このため、超音波診断装置20によれば、従来の超音波診断装置で得ることができる画像の走査線数を維持しつつ、かつ従来の超音波診断装置においてなされた処理と同様な比較的容易な処理を行なうのみで、スペックルノイズを適切に低減した画像を得ることができる。つまり、互いに独立な多数の異なるスペックルパターンを、発生させるランダムな送信信号の波面の数だけ得ることができるため、大幅なスペックルの低減効果を期待することができる。
【0108】
また、従来の空間コンパウンドによるスペックルノイズの低減手法においては、異なる方向から超音波を送受信して画像を得るため、どうしても送信開口が限られてしまい、元々発生するスペックルのサイズは大きな物となるのに対し、超音波診断装置20によれば、送信開口として超音波プローブ21の全開口が常に使用できるため、スペックルのサイズが小さくでき、より緻密な画像を得ることが可能である。
【0109】
さらに、送信ビームとしてはランダムな波面(位相)を有する広い送信ビームとする一方、送信ビーム内における複数の走査線上の反射波信号を同時に受信できるように受信ビームを配置する並列同時受信の技術を併用することにより、リアルタイム性の低下を改善することができる。この際、超音波送信信号の波面および受信ビームの位置を1走査線分だけ移動させながら、画像信号を得ることにより、物体の動きによる画像段差や並列同時受信による画像段差を低減することができる。つまり、ある走査線に対する送信ビームの位置を変えつつ同じ波面の送信ビームで走査すれば、各走査線位置において独立なスペックルパターンを有する画像信号を得て加算することができるため、フレーム数を低下させることなくスペックルノイズの低減が可能となる。
【0110】
尚、超音波診断装置20によるランダム波面を利用した走査は、超音波プローブ21の走査方式の違いには依らず、セクタ,リニア,コンベクス,台形走査のいずれの走査方式であっても可能である。また、近年生体内や造影剤で発生する高調波成分を用いて映像を得るハーモニックイメージングにおいても、ランダム波面を利用した本技術によれば同様に異なるスペックルパターンが得られスペックルノイズの低減効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の実施の形態を示す構成図。
【図2】図1に示す超音波診断装置の超音波プローブから被検体に送信される超音波の波面の一例を示す図。
【図3】図1に示す超音波診断装置の超音波プローブから被検体に送信されるランダムな波面の超音波の一例を示す図。
【図4】図1に示す超音波診断装置の超音波プローブから被検体に送信される超音波の送信信号の遅延時間を制御した例を示す図。
【図5】図1に示す超音波診断装置の超音波プローブから被検体に送信される超音波の送信信号の位相を制御した例を示す図。
【図6】図1に示す超音波診断装置の超音波プローブからランダムな波面を有する超音波の送信信号を送信し、反射波信号を並列同時受信できるように走査する方法を説明する図。
【図7】図6に示す並列同時受信を行なうための超音波プローブの移動および超音波の送受信方法の一例を説明する図。
【図8】従来の超音波診断装置の構成図。
【図9】従来の空間コンパウンド技術により画像を生成する場合に被検体に送信される超音波の波面および散乱波の一例を示す図。
【図10】従来の空間コンパウンド技術により画像を生成する場合における超音波の走査方向の一例を示す図。
【図11】図10に示す走査方向の走査により得られた画像の空間コンパウンドによる画像形成方法を説明するための概念図。
【符号の説明】
【0112】
20 超音波診断装置
21 超音波プローブ
22 超音波送信系
23 超音波受信系
24 インコヒーレント波面発生器
25 パルサー制御器
26 パルサー群
27 プリアンプ群
28 受信遅延回路群
29 画像信号検出加算器
30 画像表示器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の走査線上において時間的に波面が変化するように、平面波でなく、かつ合焦波面でない超音波を被検体に送信する超音波送信手段と、前記波面ごとに生じた各反射波を受信してそれぞれ画像信号を生成する画像信号生成手段と、同一走査線上において異なる波面の送信超音波により生じた各反射波から得られた複数の信号を互いに加算することによりスペックルノイズを低減させた画像信号を得る信号加算手段とを有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記超音波送信手段は、超音波の位相および振幅の少なくとも一方を制御することにより前記平面波でない超音波を発生させるように構成されることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記超音波送信手段は、超音波微小振動素子群を備えた超音波プローブと、前記超音波微小振動素子群に電気パルスを印加して送信超音波を前記被検体に送信させるパルサー群とを備え、かつ前記電気パルスの発生タイミングを制御するタイミング制御手段、前記超音波微小振動素子群から送信される前記送信超音波の波形を制御する波形制御手段、前記超音波微小振動素子群から送信される送信超音波の位相を制御する位相制御手段並びに前記超音波微小振動素子群から送信される送信超音波の振幅を制御する振幅制御手段の少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記超音波送信手段は、複数種類の異なる前記平面波でない超音波を発生させることができるように構成されることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記画像信号生成手段は、複数の走査線から得られた各反射波を受信できるように複数の受信ビームを配置して、各反射波からそれぞれの画像信号を生成するように構成されることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記画像信号生成手段は、複数の走査線から得られた各反射波を受信できるように複数の受信ビームを配置し、かつ前記平面波でない超音波の波面および前記受信ビームの位置を任意走査線分だけ重なるように移動させながら走査することにより得られた各反射波からそれぞれの画像信号を生成するように構成されることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記信号加算手段は、過去の単一フレームにおける信号または過去の複数フレーム分のそれぞれ信号の重み付け加算値と、新たに生成されたフレームの信号とを重み付け加算することにより前記スペックルノイズを低減させた画像信号を得るように構成されることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−55282(P2006−55282A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238607(P2004−238607)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】