説明

超音波診断装置

【課題】乳房の超音波診断装置において、微小石灰化による病変部を正確に抽出する。
【解決手段】相互に対向する2枚の胸挟板5,6に取付けられた2つの探触子1,2によって、透過式または反射式で断層画像を撮像し、2つのフレーム画像を合成して、感度良く前記病変部を撮像できるようにする。その際、胸挟板5,6に窓41を形成して探触子1,2を取付けるとともに、超音波吸収膜5b,6bを形成することで、一方の探触子が受信を行う際に、対向する他方の探触子や胸挟板によって反射される信号がノイズとなることを抑え、ノイズやスペックルを低減した画像を構成できるようにする。これによって、乳腺等の連続構造物と微小石灰化部分等の微小構造物とを正確に区別して抽出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に乳房の任意の位置の断層画像を表示可能にするものに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波パルス反射法などによって体表から生体内の軟組織の断層像を無侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高いので、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿科系(腎臓、膀胱)、および産婦人科系などで広く利用されている。特に、近年乳房診断においては、超音波診断が、腫瘤、腫瘍を高度に診断可能になり、乳癌の発見に大きな寄与を示すようになり、益々その重要性が認識されてきている。
【0003】
乳房組織においては、乳癌の徴候として微小石灰化が発生するケースが多いことが知られている。微小石灰化病変は、1個あるいは数個で局所に散在する。石灰は生体組織に比べて硬いので、超音波を良く反射して、画像上高輝度となることが期待される。しかしながら、実際に画像の中から目視する場合には、数百ミクロン程度の大きさがあっても、抽出するのは難しいと言われている。
【0004】
詳述すると、先ず超音波画像上には、超音波のランダムな干渉に起因するスペックルパタンと呼ばれる干渉縞が発生する場合がある。このスペックルパタンは、表面が平滑な臓器で顕著に現れる。このため、本来そのような平滑な表面を有する、例えば肝臓の場合では、或る程度の経験を積んだ医師であれば、出ることが分っているそのスペックルパタンを、自身で(頭の中で)キャンセルしつつ、そのスペックルパタンの現れ方から、平滑でなくなった肝硬変部分の診断を行うなど、診断に役立てるようなことが可能である。すなわち、前記表面が平滑な臓器では、ノイズである前記スペックルパタンを、逆に診断に役立てるようなことも可能である。
【0005】
これに対して、乳癌検診の場合には、初期の前記微小石灰化した病変部は、米粒状に現れる前記スペックルパタンに埋もれてしまい(酷似しており)、見落とされ易い。そこで、乳癌診断においては前記スペックルパタンを除去したいというニーズがあり、そのための技術として、たとえば、空間合成、CFAR(Contrast False Alarm Rate)処理、スペックル低減フィルタ等が挙げられる。
【0006】
前記空間合成とは、異なる周波数および異なる方向からの送受信信号を重畳し、スペックルを平滑化するものである(例えば、特許文献1)。前記CFAR処理とは、対象画素を周囲の輝度平均で減算し、これを用いて高輝度部分を抽出するものである(例えば、前記特許文献1参照)。前記スペックル低減フィルタは、濃度の平均化を移動平均法や選択的局所平均化法などによってスペックルを除去するものである。また、これらのスペックルパタン除去の手法の他、超音波診断の分野ではないが、微小石灰化を自動認識する試みが、主にX線診断画像の応用として種々報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭61−189476号公報
【特許文献2】特許第3596792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記乳癌診断において診断対象の乳腺は、樹木状に延びる乳腺などの構造が複雑であり、もとより均質な臓器ではない。このため従来のフィルタ処理を行うと、微小石灰化した病変部が検出されると同時に、乳腺構造も(構造物として)抽出されてしまい、両者を明確に区別することができないという問題がある。この点、乳腺などは微小石灰化した病変部に比べて明らかに大きな構造物であるので、フィルタ処理にて残存しても、目視にて弁別が可能となることが期待されるが、それでも弁別が困難となることを、本願発明者らは研究でしばしば経験している。特に乳腺構造の一部のみが残存する場合は、フィルタ処理後の画像は点状に見えてしまい、微小石灰化した病変部に類似した画像となる場合がある。
【0008】
本発明の目的は、乳腺等の連続構造物と微小石灰化部分等の微小構造物とをより正確に区別し、微小構造物を抽出することができる超音波診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超音波診断装置は、乳房の超音波断層画像を得る超音波診断装置において、前記乳房を挟み込むための一対の胸挟板と、前記胸挟板のそれぞれに設けられ、超音波の送受信が可能な超音波探触子と、前記各超音波探触子から超音波ビームを前記乳房の内部に送受信して、それぞれの超音波探触子で得られた(反射または透過)断層画像を加算処理して1枚の合成断層画像を得る画像処理部とを備えて構成され、前記各胸挟板には、前記超音波探触子が乳房に臨む窓が形成されるとともに、乳房に臨む面には、超音波吸収膜を有することを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、2枚の胸挟板に取付けられた2つの探触子によって透過式または反射式で2枚の断層画像を得て、それらを加算処理して1枚の合成断層画像を得ることで、感度良く病変部を撮像できるようにするにあたって、前記胸挟板に窓を形成して探触子を取付けるとともに、乳房に臨む面に超音波吸収膜を形成することで、一方の探触子が受信を行う際に、対向する他方の探触子や胸挟板によって反射される信号がノイズとなることを抑え、ノイズやスペックルを低減した画像を得る。
【0011】
したがって、合成断層画像につき、高いS/Nを得ることができ、乳腺等の連続構造物と微小石灰化部分等の微小構造物とを正確に区別して、前記微小構造物を抽出することができる。
【0012】
また、本発明の超音波診断装置では、前記超音波吸収膜は、樹脂中に金属または金属酸化物が分散された塗膜から成ることを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、金属または金属酸化物は超音波を吸収し易く、それを微粒子にすることで吸収を高めることができ、平均粒径が、20μm以下、特に10μm以下が好ましく、また10nm程度までがコストの面で実用的である。また、前記微粒子の含有量は、10〜90質量%が好ましく、10質量%未満にすると所望とする超音波吸収特性を得ることが困難になり、90質量%を超えると超音波吸収膜の靱性が弱くなって、ひび割れ等が発生し、剥離などの問題が発生する。
【0014】
さらにまた、本発明の超音波診断装置では、前記超音波吸収膜の厚さが、送信超音波の周波数における半波長の奇数倍〔(λ/2)(2n+1)〕(nは0または正の整数)であることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、超音波吸収膜の厚さを半波長(λ/2)の奇数倍(2n+1)に形成することで、基材の表面で、入射超音波と反射超音波との波長差が半波長となり、互いに打ち消し合う効果を利用することができる。前記nとしては、0〜50が好ましく、特に好ましくは1〜35である。
【0016】
好ましくは、前記各超音波探触子は、一方から送信された超音波ビームを他方側で受信し、乳房の透過情報を得ることを特徴とする。
【0017】
さらにまた、本発明の超音波診断装置では、前記超音波探触子は電子走査形の超音波探触子であり、前記超音波探触子に、その送信超音波ビームを走査させる操舵部をさらに備え、前記画像処理部は、走査された超音波ビームによる受信信号から、断層画像を再構成する際に、空間合成またはスペックルリダクション処理を行うことを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、前記超音波吸収膜を設けても、相互に対向する胸挟板の窓から覗く探触子には、他方の探触子で反射して来たノイズが入るので、送信超音波ビームを走査(斜め方向にも放射)させるとともに、断層画像を再構成する際に、ノイズを除去(影響を少なく)する処理を行うことで、一層S/Nの良好な画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の超音波診断装置は、以上のように、2枚の胸挟板に取付けられた2つの探触子によって透過式または反射式で2枚の断層画像を得て、それらを加算処理して1枚の合成断層画像を得ることで、感度良く病変部を撮像できるようにするにあたって、前記胸挟板に窓を形成して探触子を取付けるとともに、乳房に臨む面に超音波吸収膜を形成することで、一方の探触子が受信を行う際に、対向する他方の探触子や胸挟板によって反射される信号がノイズとなることを抑え、ノイズやスペックルを低減した画像を得る。
【0020】
それゆえ、合成断層画像につき、高いS/Nを得ることができ、乳腺等の連続構造物と微小石灰化部分等の微小構造物とを正確に区別して、前記微小構造物を抽出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明の実施の一形態に係る超音波診断装置の電気的構成を示すブロック図であり、図2はその使用方法を説明するための模式図である。この超音波診断装置は、乳腺等の連続構造物から微小石灰化部分等の微小構造物を抽出するのに好適に用いられる超音波診断装置であり、以下では乳癌診断に用いる場合を例に説明する。この超音波診断装置は、相互に対向して配置される一対の電子走査形超音波探触子(以下、探触子と言う)1,2と、前記探触子1,2がそれぞれ取付けられ、被験者3の片側の乳房4を挟持する一対の胸挟板5,6と、前記胸挟板5,6を支持するアーム7、支柱8および基台9と、前記探触子1,2から超音波ビームを放射させるとともに、受信信号を処理して断層画像を再構成する信号処理装置10と、適宜設けられる表示装置30や入力装置31などとを備えて構成される。前記アーム7は、被験者3の体格および撮影面(上下断面、水平断面等)に合わせて、胸挟板5,6を一対で、支柱8上を昇降変位および前後軸線回りに回転させるとともに、それらの間隔を調整可能となっている。支柱8は、この図2のように基台9に立設されてもよいが、壁面に固定されてもよい。
【0022】
前記探触子1,2は、それぞれの超音波送受信部(T/R)11,12から送信信号が与えられ、診断に必要な超音波信号を乳房4内に入射し、前記乳房4内で反射して来た超音波、または反対側の探触子2,1から送信され、前記乳房4内を透過して来た超音波を受信する。この探触子1,2は、前記超音波送受信部11,12からの送信信号に基づいて超音波を発生し、被検体である乳房4からの反射波または透過波を電気信号に変換する複数の圧電振動子と、前記圧電振動子と乳房4との間に介在される音響整合層と、前記圧電振動子の背面側で不要な超音波を吸収するダンパー層とを備えて構成される。
【0023】
前記超音波送信部11,12は、トリガ発生回路、遅延回路およびパルサ回路等を備えて構成される。パルサ回路では、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスが繰返し発生される。また、遅延回路では、チャンネル毎に超音波をビーム状に集束しかつ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間が、各レートパルスに与えられる。トリガ発生回路は、このレートパルスに基づくタイミングで、前記探触子1,2に駆動パルスを印加する。なお、この超音波送信部11,12は、操舵回路17,18を介して与えられる該信号処理装置10内の動作を制御するCPU(制御プロセッサ)20の指示に従って、所定の走査演算機能を実行し、そのため、送信周波数、送信駆動電圧等をただちに変更可能な機能を有している。
【0024】
前記CPU20からの指示に従って、前記超音波送受信部11,12は、対応する探触子1,2からの送信信号に対する反射波だけでなく、上述のように対向する探触子2,1からの送信信号に対する反射波も受信できるようになっている。前記探触子1,2は、電子走査形の超音波探触子であり、前記超音波送受信部11,12は、前記CPU20からの指示に従い、前記操舵回路17,18によって、前述のようにチャンネル毎の遅延時間が制御されて超音波の放射方向を走査し、受信された信号を前記チャンネル毎に増幅する。その増幅された信号は、アナログ/デジタル変換器(ADC)13,14から再生画像構成部であるDSP15,16に入力されて、その増幅された信号に対し受信指向性を決定するのに必要な遅延時間が与えられる。
【0025】
こうして電子走査された走査毎の信号はBモード処理部23またはドプラ処理部24に入力されて、正相加算され、所定の画像変換のプログラムに従って、1フレームの断層画像に顕像化されるとともに、必要に応じて、CPU20を介して画像記憶部21に記憶されてゆく。
【0026】
前記Bモード処理部23は、DSP15,16から或いは前記画像記憶部21に蓄積されている受信信号を受取り、前記画像変換のプログラムに従って、対数増幅、包絡線検波などの処理を施し、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータを生成する。このデータは、前記DSP15,16に送信され、反射波または透過波の強度を輝度にて表したBモード画像が作成される。また、ドプラ処理部24は、DSP15,16から或いは画像記憶部21に蓄積されている受信信号を受取り、画像変換のプログラムに従って速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、平均速度、分散、パワー等の血流情報を多点について求める。得られた血流情報は、表示モードに従って前記DSP15,16に送信され、平均速度画像、分散画像、パワー画像、これらの組合わせのカラー画像が作成される。このような広視野の画像(B、Mモード像およびドプラ像)を得るためには、探触子1,2と乳房4との相対位置を遂次検出し、その相対位置情報が画像記憶部21に記憶され、また表示装置30で表示することができる。
【0027】
注目すべきは、本実施の形態では、前記B、Mモード像およびドプラ像が、表示モードに従ってDSP15,16から加算器19に入力され、この加算器19において2枚の断層画像の加算処理が行われることである。この加算器19は、さらに前記2枚の断層画像を合成した後、種々のパラメータの文字情報や目盛等を合成し、ビデオ信号として出力する。この加算処理によって、受信信号の受信指向性に応じた方向からの成分が強調され、受信指向性と前記操舵回路17,18による送信指向性とによって超音波送受信の総合的なビームが形成される。前記加算器19で得られた2つの探触子1,2による合成画像は、前記CPU20から画像記憶部21に入力されて適宜記憶されるとともに、インタフェイス22を介して外部へ出力され、走査装置32を介して表示装置30でリアルタイム画像表示が行われ、またネットワーク33などで伝送される。
【0028】
前記表示装置30には、表示モード等に従って、上述のようなB、Mモード像またはドプラ像の合成画像のビデオ信号が、前記画像記憶部21から、または加算器19から与えられる。そして、表示装置30は、走査装置32からのビデオ信号に基づいて、生体内の形態学的情報や、血流情報を画像として表示する。そのため、前記走査装置32は、超音波走査の走査線信号列を、テレビジョンなどに代表される一般的なビデオフォーマットの走査線信号列に変換し、表示画像としての超音波診断画像を生成する。
【0029】
一方、CPU20用のデータ記憶部25には、後述の走査演算機能、画像生成、表示処理を実行するための制御プログラムや、診断情報(患者ID、医師の所見等)、診断プロトコル、送受信条件、SRP制御プログラム、その他のデータ群が保管されている。このデータ記憶部25のデータは、インタフェイス回路22を経由して外部周辺装置へ転送することも可能となっている。
【0030】
前記CPU20は、入力装置31から入力された命令等に従って、各部の起動および自動動作を実行させるとともに、データ記憶部25から画像生成・表示等を実行するための制御プログラムを読出して自身が有する記憶領域上に展開し、各種処理に関する演算・制御等を実行するものである。
【0031】
前記入力装置31は、検査技師などの操作者からの各種指示、条件、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示等を信号処理装置10に取込むための各種スイッチ、ボタン、トラックボール、マウス、キーボード等を有しており、データ取得のための動作の開始および終了の指示、前記のような再生時の再生画像のモードの指定を入力する手段である。例えば、操作者がこの入力装置31の終了ボタンや一時停止ボタンを操作すると、超音波の送受信は終了し、当該超音波診断装置は停止状態となる。
【0032】
図3は前記探触子1,2および胸挟板5,6の構造を説明するための断面図であり、図4はその正面図である。上述のように構成される超音波診断装置において、注目すべきは、本実施の形態では、相互に対向し、それぞれ超音波ビームを送受信して得られた乳房4の反射情報、或いは、一方から送信された超音波ビームを他方側で受信して得られた乳房4の透過情報を、それぞれ合成して1枚の断層画像を得るにあたって、前記胸挟板5,6には、前記探触子1,2が乳房4に臨む窓41が形成されるとともに、乳房4に臨む面5a,6aには、超音波の跳ね返りノイズを低減するための超音波吸収膜5b,6bを有することである。
【0033】
胸挟板5,6は、基材5c,6cに前記超音波吸収膜5b,6bが塗布されて成り、それらを連通して窓41が形成され、その窓41内には、前記探触子1,2の音響整合層1a,2aが嵌り込んで乳房4に密着する。前記探触子1,2の圧電素子1b,2bの幅、すなわち窓41の幅は、狭い方が対向面での反射を捉え難く、ノイズ面で優位であるが、狭くなると、圧電素子1b,2bの各素子が小さくなり、感度が低下する。このため、前記窓41の幅は、2cm程度であり、その幅内に200μmピッチ、すなわち100個程度の素子が配列されている。
【0034】
前記基材5c,6cには、乳房4を挟み、平行に維持するための高い弾性率と、圧電素子1b,2bの発生する熱を放熱するための高い熱伝導率とを有する材料が選ばれる。前記熱伝導率としては、70W/m・K以上であることが好ましい。そのような条件を満足する材料としては、例えばJIS A5052P、2024のようなアルミニウム合金、JIS MT−1,MT−2のようなマグネシウム合金、JIS ZDC−2のような亜鉛合金、JIS C−1100のような銅合金等の金属を用いることができる。なお、基材5c,6cが金属であると、超音波を反射してしまうけれども、超音波吸収膜5b,6bでの吸収が充分に行われると問題はない。
【0035】
前記超音波吸収膜5b,6bは、好ましくは、エポキシ樹脂中に、前記金属または金属酸化物の微粒子が分散されて成る。本実施の形態のエポキシ樹脂組成物においては、その性能を損なわない範囲で他のエポキシ樹脂、靭性付与樹脂、フィラー、着色剤等を配合することができる。本実施の形態の樹脂組成物に所望に応じて含有することのできる靭性付与樹脂としては、反応性エラストマー、ハイカーCTBN変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ニトリルゴム添加エポキシ樹脂、架橋アクリルゴム微粒子添加エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、熱可塑性エラストマー添加エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0036】
前記金属粒子としては、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、銀、白金、パラジウム、インジウム、スカンジウム、イットリウムおよびタンタル等が挙げられ、金属酸化物粒子としては、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン等が挙げられる。なお、前記金属または金属酸化物に限らず、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、カーボンおよび窒化硼素等から選ばれる少なくとも1つの無機系材料が選ばれてもよいが、金属粒子を含む場合は、より高密度になり、超音波の減衰率が一層大きくなって好適である。
【0037】
含有させる微粒子は、20μm以下、好ましくは10μm以下の平均粒径を有し、該平均粒径は小さい程好ましいが、10nm程度までがコストの面で実用的である。また、前記微粒子は、超音波吸収膜5b,6b中に、10〜90質量%の量で含有されることが好ましい。含有量を10質量%未満にすると、所望とする超音波吸収特性を得ることが困難になり、含有量が90質量%を超えると、超音波吸収膜5b,6bの靱性が弱くなって、ひび割れ等が発生し、塗設される該超音波吸収膜5b,6bの剥離などの問題が発生する。
【0038】
また、塗設される前記超音波吸収膜5b,6bの乾燥状態での厚さtは、使用する超音波の周波数における半波長の奇数倍〔(λ/2)(2n+1)〕(nは0または正の整数)が好ましい。例えば、生体温度36.5℃において、生体内での音の伝搬速度を約1500m/秒(脂肪1440m/秒、筋肉1550m/秒)とし、10MHzの超音波を使用する場合、t=75(2n+1)μmが好ましい厚さとなる。nとしては、0〜50が好ましく、特に好ましくは1〜35である。本実施の形態で使用する超音波の好ましい波長は2MHz〜20MHzで、特に好ましい波長は7.5MHz〜15MHzであるので、この周波数から求められる厚さが好ましい。半波長の奇数倍の厚さにすると、基材5b,6bの表面で、入射超音波と反射超音波との波長差が半波長となり、互いに打ち消し合う効果を利用することができる。含有される微粒子は前記半波長よりも充分小さく、前記のように平均粒径が10nm〜20μmが好ましい。
【0039】
上述のように構成される超音波診断装置において、本実施の形態では、2枚の胸挟板5,6に取付けられた2つの探触子1,2には、前述のように2つの使用方法を適用することができ、第1の方法は、一方の探触子1および2から順次超音波を発信し、他方の探触子2および1で信号を受信する透過式で、第2の方法は、一方の探触子1から超音波を送信して自身で反射音を受信し、次に他方の探触子2から超音波を送信して自身で反射音を受信する反射式で、何れの方法でも、それぞれの走査で得られたフレーム画像を記憶し、記憶された2つのフレーム画像を合成するものである。そして、このように2つのフレームを合成することで、感度良く病変部を撮像できるようにするにあたって、注目すべきは、上述のように胸挟板5,6に窓41を形成して探触子1,2を取付けるとともに、超音波吸収膜5b,6bを形成することで、一方の探触子が受信を行う際に、対向する他方の探触子や胸挟板によって反射される信号がノイズとなることを抑え、ノイズやスペックルを低減した画像を構成できる点にある。
【0040】
すなわち、図5は、前記探触子1,2を上下に配置して、それぞれの探触子からの超音波信号が乳房4中で減衰する様子を概念的に示す。この図5から明らかなように、上述のように両者の信号を加算することで、信号強度を一定に保ち、S/Nの高い診断画像を得ることができる。これによって、乳腺等の連続構造物と微小石灰化部分等の微小構造物とを正確に区別して、前記微小構造物を抽出することができる。
【0041】
さらに、前述のように前記探触子1,2は電子走査形の探触子であり、前記操舵回路17,18が超音波送信部11,12に、前記探触子1,2からの送信超音波ビームを走査させ、前記DSP15,16は、走査された超音波ビームによる受信信号から、断層画像を再構成する際に、空間合成またはスペックルリダクション処理を行う。
【0042】
図3には、探触子1側について、走査の様子を示す。前記遅延時間制御によって、記号△−△、○−○、□−□で示すように、胸挟板5,6の垂直方向および左右斜め方向に送信超音波が走査され、それによる受信信号を合成することで、前記スペックルパタンが平滑化(前記干渉縞となる部分の表示輝度が低下)される空間コンパウンド法が示されている。この図3の例は、垂直な超音波ビームに加えて、左右θa、θcの角度で3方向の照射をする3方向コンパウンド(合成)を示している。探触子2側についても同様で、この場合、合計6本のビームを合成することになる。それぞれ、ビームを3,5,7,9,11,13,15,・・・本と増大してゆくことで、精度の高い画像を得ることができる。
【0043】
このように構成することで、前記超音波吸収膜5b,6bを設けても、相互に対向する胸挟板5,6の窓41から覗く探触子1,2に他方の探触子で反射して来たノイズが入っても、送信超音波ビームの走査(斜め方向にも放射)によって、合成断層画像を再構成する際に、ノイズを除去(影響を少なく)する処理を行うことができ、一層S/Nの良好な画像を得ることができる。
【0044】
なお、スペックルパタンを除去するための手法としては、上記空間コンパウンド法に限らず、統計的性質を利用してスペックルパタンを除去するスペックル低減フィルタ法や、SRP(Speckle Reduction Processing)法などを用いることができる。前記SRP法は、超音波画像を構成する領域を小領域に分割し、その分割された小領域に通常画素の他に標的画素を設け、標的画素εi毎に、当該画素εiの近傍画素の輝度平均値を求めてそれを減算した結果Qiに対して、予め設定した閾値をVとすれば、Qi≧Vの場合には元の輝度を用いて当該標的画素εiを表示し、Qi<Vである場合は当該標的画素εiの輝度値はゼロとして表示を行わないことでスペックルパタンを除去する手法である。ここで、従来の空間コンパウンド法のいくつかは、スペックルを平滑化するのみで、全体の輝度は保持したままである表示形態を採るものであるが、本発明の主旨からみれば、空間合成はスペックルの平滑化と共にスペックル部の輝度低減を行うことが好ましい。
【0045】
以下の表1に、本願発明者の実験結果を示す。表1は、前記超音波吸収膜5b,6bにおける金属微粒子の含有量を変化させたものである。前記一対の胸挟板5,6の基材5b,6bとしては、厚さ3mmの炭素繊維板を用い、その上に、アラルダイトCY232に平均粒径5μmのタングステン微粒子(密度19.2g/cm3)を含有する前記超音波吸収膜5b,6bを塗設し、乾燥膜厚で825μm(以下の10MHzでn=5)とした。各サンプルは、前記超音波吸収膜5b,6b自体の無い胸挟板(板番号1)、超音波吸収膜5b,6bを塗設したが、タングステン微粒子を含まないもの(板番号2)、前記タングステン微粒子を2%(以下質量%)含むもの(板番号3)、10%含むもの(板番号4)、50%含むもの(板番号5)、90%含むもの(板番号6)、98%含むもの(板番号7)を作成した。これらのサンプルに、前記探触子1,2として、10MHzの周波数を0.5mW/cmで送受信する64素子超音波探触子を取付け、乳房ファントム(微少石灰化の模擬として、アガロース中にリン酸カルシウム微粒子(粒子径30〜750μmのものを含む)に挟み、超音波影像を得た。使用した超音波診断装置は、ウルトラソニックス・メディカルル・コーポレーション(Ultrasonix・Mediccal・Corporation)社製のES500である。前記2つの探触子1,2からの超音波の影像は、加算器19で加算処理し、得られた断層影像中のリン酸カルシウム微粒子を目視観察して評価した。リン酸カルシウム微粒子が鮮明に見える影像を5、やや鮮明を4、普通を3、やや不鮮明を2、不鮮明を1の5段階評価を行った。送受信は、(A)が各探触子1,2で送受信して整相加算する反射式で、(B)が一方から送信し、他方で受信する透過式である。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から明らかなように、反射式および透過式で共に、上述のとおり、タングステン微粒子を10%含むもの(板番号4)〜90%含むもの(板番号6)で良好な結果が得られ、50%含むもの(板番号5)で、特に良好な結果が得られた。その50%サンプルでも、透過式が特に良好である。
【0048】
一方、表2には、乾燥膜厚を変化させた場合の本願発明者の実験結果を示す。前記超音波吸収膜5b,6bは、表1の実験番号109のサンプルと同様で、アラルダイトCY232に平均粒径5μmのタングステン微粒子を50%含み、実験は透過式で行った。そして、前記超音波吸収膜5b,6bの厚さを、75(2n+1)μmでnを0〜50まで変化させて行った。前記超音波吸収膜5b,6bの上には、保護膜として25μm厚のスチレン−ブタジエン共重合膜(スチレン:ブタジエン=1:4組成、重合度120)膜を塗設した。各サンプルは、n=0の75μm厚(試料番号201)、n=10の1.575mm厚(試料番号202)、n=35の5.325mm厚(試料番号203)、n=50の7.575mm厚(試料番号204)である。
【0049】
【表2】

【0050】
表2から明らかなように、超音波影像の評価は、試料番号201は4、他の202〜204は5で、上述のようにn=0〜50で好ましく、試料番号204の塗膜の表面を400倍の光学顕微鏡で観察すると、やや乾燥収縮で不均一部分が観られたので、特に好ましくは1〜35である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の一形態に係る超音波診断装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】前記超音波診断装置の使用方法を説明するための模式図である。
【図3】前記超音波診断装置における探触子および胸挟板の構造およびビーム形成概念を説明するための断面図である。
【図4】前記胸挟板の正面図である。
【図5】探触子からの超音波信号の乳房中での減衰の様子を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1,2 探触子
3 被験者
4 乳房
5,6 胸挟板
5b,6b 超音波吸収膜
5c,6c 基材
7 アーム
8 支柱
9 基台
10 信号処理装置
11,12 超音波送受信部
13,14 アナログ/デジタル変換器
15,16 DSP
17,18 操舵回路
19 加算器
20 CPU
21 画像記憶部
22 インタフェイス
23 Bモード処理部
24 ドプラ処理部
25 データ記憶部
30 表示装置
31 入力装置
33 ネットワーク
41 窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房の超音波断層画像を得る超音波診断装置において、
前記乳房を挟み込むための一対の胸挟板と、
前記胸挟板のそれぞれに設けられ、超音波の送受信が可能な超音波探触子と、
前記各超音波探触子から超音波ビームを前記乳房の内部に送受信して、それぞれの超音波探触子で得られた断層画像を加算処理して1枚の合成断層画像を得る画像処理部とを備えて構成され、
前記各胸挟板には、前記超音波探触子が乳房に臨む窓が形成されるとともに、乳房に臨む面には、超音波吸収膜を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記超音波吸収膜は、樹脂中に金属または金属酸化物が分散された塗膜から成ることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記超音波吸収膜の厚さが、送信超音波の周波数における半波長の奇数倍であることを特徴とする請求項1または2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記各超音波探触子は、一方から送信された超音波ビームを他方側で受信し、乳房の透過情報を得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記超音波探触子は電子走査形の超音波探触子であり、
前記超音波探触子に、その送信超音波ビームを走査させる操舵部をさらに備え、
前記画像処理部は、走査された超音波ビームによる受信信号から、断層画像を再構成する際に、空間合成またはスペックルリダクション処理を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超音波診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−261492(P2009−261492A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112253(P2008−112253)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】