説明

超音波診断装置

【課題】連続波を利用して選択的に目標位置から生体内情報を抽出する技術において目標位置の選択性を向上させる。
【解決手段】2相PSK変調処理部22Aは、コードAを用いて搬送波信号に対して2相のPSK変調処理を施す。2相PSK変調処理部22Bは、コードBを用いてπ/2シフト回路21を介して得られる搬送波信号に対して2相のPSK変調処理を施す。コードAとコードBは互いに相補関係にある。合成処理部24は、2相PSK変調処理部22Aから出力されるPSK変調処理後の搬送波信号と2相PSK変調処理部22Bから出力されるPSK変調処理後の搬送波信号とを合成し、QPSK連続波の送信信号を形成する。受信ミキサ30は、生体内の目標位置との間の相関関係が調整された参照信号を用いて、受信信号に対して復調処理を施すことにより、その目標位置に対応した復調信号を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、連続波を利用する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置の連続波を利用した技術として、連続波ドプラが知られている。連続波ドプラでは、例えば、数MHzの正弦波である送信波が生体内へ連続的に放射され、生体内からの反射波が連続的に受波される。反射波には、生体内における運動体(例えば血流など)によるドプラシフト情報が含まれる。そこで、そのドプラシフト情報を抽出して周波数解析することにより、運動体の速度情報を反映させたドプラ波形などを形成することができる。
【0003】
連続波を利用した連続波ドプラは、パルス波を利用したパルスドプラに比べて一般に高速の速度計測の面で優れている。こうした事情などから、本願の発明者は、連続波ドプラに関する研究を重ねてきた。その成果の一つとして、特許文献1において、周波数変調処理を施した連続波ドプラ(FMCWドプラ)に関する技術を提案している。
【0004】
一方、連続波ドプラでは、連続波を利用していることにより位置計測が困難である。例えば、従来の一般的な連続波ドプラの装置(FMCWドプラを利用しない装置)では、位置計測を行うことができなかった。これに対し、本願の発明者は、特許文献2において、FMCWドプラにより選択的に生体内組織の所望の位置からドプラ情報を抽出することができる極めて画期的な技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−253949号公報
【特許文献2】特開2008−289851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載されたFMCWドプラの技術は、それまでにない超音波診断の可能性を秘めた画期的な技術である。本願発明者は、この画期的な技術の改良についてさらに研究開発を重ねてきた。特に、連続波を利用して選択的に目標位置から生体内情報を抽出する技術に注目して研究開発を重ねてきた。
【0007】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、連続波を利用して選択的に目標位置から生体内情報を抽出する技術において目標位置の選択性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、互いに相補関係にある2つの周期的な信号列に基づいてデジタル変調処理された連続波の送信信号を出力する送信信号処理部と、前記送信信号に対応した超音波を生体に送波して当該生体から超音波を受波することにより受信信号を得る超音波送受部と、生体内の目標位置との間の相関関係を調整しつつ前記受信信号に対して復調処理を施すことにより、当該目標位置に対応した復調信号を得る受信信号処理部と、前記目標位置に対応した復調信号から生体内情報を抽出する生体内情報抽出部と、を有することを特徴とする。
【0009】
望ましい具体例において、前記送信信号処理部は、符号長Nの第1符号列を繰り返す周期的な信号列と、符号長Nの第2符号列を繰り返す周期的な信号列と、に基づいてデジタル変調処理された連続波の送信信号を出力する、ことを特徴とする。
【0010】
望ましい具体例において、前記符号長Nは2の累乗であり、前記第1符合列と前記第2符合列の各々は、第1符合列N/2と第2符号列N/2に基づいて形成される、ことを特徴とする。
【0011】
望ましい具体例において、前記第1符合列は、符号列Aであり、前記第2符合列は、符号列Bであり、符号列Aは、符号列AN/2と符号列BN/2を直列接続した符号列であり、符号列Bは、符号列AN/2と符号列−BN/2を直列接続した符号列であり、符号列−BN/2は、符号列BN/2の符号の値を反転させた符号列である、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記符号列Aと前記符号列Bの各々は、符号長2の符号列A=(1,1)と符号列B=(1,−1)から、前記直列接続を繰り返して形成される、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい具体例において、前記第1符合列は、符号列Aであり、前記第2符合列は、符号列B´であり、符号列Aは、符号列AN/2と符号列BN/2を直列接続した符号列であり、符号列B´は、符号列BN/2−1と符号列−AN/2−1を直列接続した符号列であり、符号列BN/2は、符号列AN/4と符号列−BN/4を直列接続した符号列であり、符号列BN/2−1は、符号列BN/2の符号の並び反転させた符号列であり、符号列−AN/2−1は、符号列AN/2の符号の値と並びを共に反転させた符号列であり、符号列−BN/4は、符号列BN/4の符号の値を反転させた符号列である、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記符号列Aと前記符号列B´の各々は、符号長2の符号列A=(1,1)と符号列B=(1,−1)から、前記直列接続を繰り返して形成される、ことを特徴とする。
【0015】
望ましい具体例において、前記送信信号処理部は、前記2つの周期的な信号列に基づいた位相シフトキーイングにより搬送波信号の位相を変化させた連続波の送信信号を出力する、ことを特徴とする。
【0016】
望ましい具体例において、前記送信信号処理部は、前記2つの周期的な信号列の一方から得られる符号と他方から得られる符号とに基づいた4相の位相シフトキーイングにより形成された連続波の送信信号を出力する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、連続波を利用して選択的に目標位置から生体内情報を抽出する技術において目標位置の選択性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】コードAに関する自己相関の計算結果を示す図である。
【図3】コードBに関する自己相関の計算結果を示す図である。
【図4】コードB´に関する自己相関の計算結果を示す図である。
【図5】本実施形態におけるPSK変調処理と位置選択性を説明するための図である。
【図6】位相検波器の特性を示す図である。
【図7】送信信号と受信信号と復調信号の周波数スペクトラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。送信用振動子10は、生体内へ超音波を連続的に送波し、また、受信用振動子12は、生体内からの超音波の反射波を連続的に受波する。このように、送信および受信がそれぞれ異なる振動子で行われて、いわゆる連続波ドプラ法による送受信が実行される。なお、送信用振動子10は複数の振動素子を備えており、これら複数の振動素子が制御されて超音波の送信ビームが形成される。また、受信用振動子12も複数の振動素子を備えており、これら複数の振動素子により得られた信号が処理されて受信ビームが形成される。
【0020】
送信ビームフォーマ(送信BF)14は、送信用振動子10が備える複数の振動素子に対して送信信号を出力する。送信ビームフォーマ14には、合成処理部24を介して連続波の送信信号が供給され、送信ビームフォーマ14は、その送信信号に対して、各振動素子に応じた遅延処理を施して各振動素子に対応した送信信号を形成する。なお、送信ビームフォーマ14において形成された各振動素子に対応した送信信号に対して、必要に応じて電力増幅処理が施されてもよい。こうして、超音波の送信ビームが形成される。
【0021】
本実施形態における連続波の送信信号は、2相PSK変調処理部22A,22Bと合成処理部24によって形成される。
【0022】
2相PSK変調処理部22Aは、RF波発振器20から得られるRF波(搬送波信号)に対して、2相の位相シフトキーイング(PSK)によるデジタル変調処理を施すことによりPSK連続波を発生する。一方、2相PSK変調処理部22Bは、RF波発振器20からπ/2シフト回路21を介して得られるRF波(搬送波信号)に対して、2相の位相シフトキーイング(PSK)によるデジタル変調処理を施すことによりPSK連続波を発生する。
【0023】
そして、2相PSK変調処理部22A,22Bから出力される2つのPSK連続波が合成処理部24において合成され、4相PSK連続波(QPSK連続波)が形成される。2相PSK変調処理部22A,22Bと合成処理部24によって形成される連続波の送信信号については後にさらに詳述する。
【0024】
受信ビームフォーマ(受信BF)16は、受信用振動子12が備える複数の振動素子から得られる複数の受波信号を整相加算処理して受信ビームを形成する。つまり、受信ビームフォーマ16は、各振動素子から得られる受波信号に対してその振動素子に応じた遅延処理を施し、複数の振動素子から得られる複数の受波信号を加算処理することにより受信ビームを形成する。なお、各振動素子から得られる受波信号に対して低雑音増幅等の処理を施してから、受信ビームフォーマ16に複数の受波信号が供給されてもよい。こうして受信ビームに沿った受信RF信号が得られる。
【0025】
受信ミキサ30は受信RF信号に対して直交検波を施して複素ベースバンド信号を生成する回路であり、2つのミキサ32,34で構成される。各ミキサは受信RF信号を所定の参照信号と混合する回路である。
【0026】
受信ミキサ30の各ミキサに供給される参照信号は、合成処理部24から出力される送信信号に基づいて生成される。つまり、合成処理部24から出力される送信信号が遅延回路25において遅延処理され、ミキサ32には遅延処理された送信信号が参照信号として直接供給され、一方、ミキサ34には遅延処理された送信信号がπ/2シフト回路26を経由して参照信号として供給される。
【0027】
π/2シフト回路26は、遅延処理された参照信号の位相をπ/2だけずらす回路である。この結果、2つのミキサ32,34の一方から同相信号成分(I信号成分)が出力されて他方から直交信号成分(Q信号成分)が出力される。そして、受信ミキサ30の後段に設けられたLPF(ローパスフィルタ)36,38により、同相信号成分および直交信号成分の各々の高周波数成分がカットされ、検波後の必要な帯域のみの復調信号が抽出される。
【0028】
加算部46,48は、LPF36,38から得られる復調信号を所定期間に亘って加算する。これにより、QPSK連続波に含まれる符号パターンが加算処理され、参照信号の符号パターンと一致する目標位置からの復調信号が選択的に抽出される。この位置選択性については後にさらに詳述する。
【0029】
FFT処理部(高速フーリエ変換処理部)50は、加算部46,48から得られる復調信号(同相信号成分および直交信号成分)の各々に対してFFT演算を実行する。その結果、FFT処理部50において復調信号が周波数スペクトラムに変換される。なお、FFT処理部50から出力される周波数スペクトラムは、回路の設定条件などにより周波数分解能δfの周波数スペクトラムデータとして出力される。
【0030】
ドプラ情報解析部52は、周波数スペクトラムに変換された復調信号からドプラ信号を抽出する。後に詳述するが、図1の超音波診断装置では、遅延回路25における遅延処理により目標位置が設定され、ドプラ情報解析部52において目標位置からのドプラ信号が選択的に抽出される。ドプラ情報解析部52は、例えば、時間的に変化するドプラ信号の表示波形を形成する。なお、生体内の各深さ(各位置)ごとにドプラ信号を抽出して、例えば、超音波ビーム(音線)上の各深さごとに生体内組織の速度を算出し、リアルタイムで出力してもよい。また、超音波ビームを走査させて二次元的あるいは三次元的に生体内組織の各位置の速度を算出してもよい。
【0031】
表示部54は、ドプラ情報解析部52において形成されたドプラ信号の波形などを表示する。なお、図1に示す超音波診断装置内の各部は、システム制御部60によって制御される。つまり、システム制御部60は、送信制御や受信制御や表示制御などを行う。
【0032】
以上、概説したように、図1の超音波診断装置では、PSK変調処理された連続波に対応した超音波を送受して受信信号を得て、生体内の目標位置の深さに応じて参照信号と受信信号との間の遅延関係を調整し、目標位置からの受信信号と参照信号との間の相関を強めて復調処理を施すことにより、目標位置からのドプラ情報を選択的に抽出している。そこで図1の超音波診断装置におけるPSK変調処理と目標位置からのドプラ情報が選択的に抽出される原理について詳述する。なお、図1に示した部分(構成)については、以下の説明においても図1の符号を利用する。
【0033】
図1の超音波診断装置では、互いに相補関係にある2つのコード(符号列)を用いて位相シフトキーイング(PSK)が行われる。つまり、2相PSK変調処理部22AにおいてコードAが利用され、2相PSK変調処理部22BにおいてコードBが利用され、コードAとコードBが互いに相補関係にある。
【0034】
まず、コードAとコードBの自己相関を数1式のように定義し、そして、数2式の条件を満足する具体的なコードを検討する。
【0035】
【数1】

【0036】
【数2】

【0037】
例えば、n=2の場合に、A=(1,1)、B=(1,−1)が上述した条件を満足する。数1式と数2式に基づいた具体的な計算結果を数3式に示す。
【0038】
【数3】

【0039】
n=2(2ビット)のコードを拡張したn=4(4ビット)のコードは、数4式から得られる。
【0040】
【数4】

【0041】
=(1,1)、B=(1,−1)に基づいて得られるn=4のコードは、数5式に示すとおりである。
【0042】
【数5】

【0043】
数5式に示すコードAの自己相関(数1式参照)は、数6式に示すとおりとなる。
【0044】
【数6】

【0045】
また、数5式に示すコードBの自己相関は、数7式に示すとおりとなる。
【0046】
【数7】

【0047】
数6式と数7式に示すように、コードAとコードBの両コード共に、自己相関の値は、コードのずれが0(i=0)のときに極大値4となる。また、両コードの相関値の和についても、コードのずれが0(i=0)のときに極大値8となる。
【0048】
さらに、n=4(4ビット)のコードを拡張したn=8(8ビット)のコードは、数8式から得られる。
【0049】
【数8】

【0050】
数5式のA,Bから得られるn=8のコードは、数9式に示すとおりである。
【0051】
【数9】

【0052】
数9式に示すコードAの自己相関(数1式参照)は、数10式に示すとおりとなる。
【0053】
【数10】

【0054】
図2は、コードAに関する自己相関の計算結果を示す図である。コードのずれを示すτ(=i)が1,2,4,6,7の場合に相関値が0となり、τが3,5の場合に相関値が4となり、τが0,8の場合に相関値が8となっている。極大値である8よりは小さいものの、τが3,5の場合には相関値が4であり0になっていない。
【0055】
一方、数9式に示すコードBの自己相関は、数11式に示すとおりとなる。
【0056】
【数11】

【0057】
図3は、コードBに関する自己相関の計算結果を示す図である。コードのずれを示すτ(=i)が1,2,4,6,7の場合に相関値が0となり、τが3,5の場合に相関値が−4となり、τが0,8の場合に相関値が8となっている。τが3,5の場合の相関値が−4であり、コードAに関する自己相関の計算結果(図2)と比較すると、絶対値が等しく極性が逆になっている。
【0058】
そのため、コードAとコードBの両コードの相関値の和を算出すると、コードのずれを示すτが0,8の場合、つまりコードのずれが無い場合に、相関値の和が極大値16となり、τが他の値の場合、つまりコードのずれが有る場合に、相関値の和が常に0となる。このように、コードAとコードBは、コードがずれている場合に互いの相関値を打ち消し合う相補関係にある。
【0059】
なお、互いに相補関係にあるn=8のコードは、次の数12式から得ることもできる。数12式において、コードB−1は、コードBの符号の並び反転させたコードであり、コード−A−1は、コードAの符号の値と並びを共に反転させたコードである。
【0060】
【数12】

【0061】
数5式のA,Bから、数12式に基づいて得られるコードAは、数9式の場合と同じであり、数12式に基づいて得られるコードB´は、数13式に示すとおりとなる。
【0062】
【数13】

【0063】
図4は、コードB´に関する自己相関の計算結果を示す図である。コードのずれを示すτ(=i)が1,2,4,6,7の場合に相関値が0となり、τが3,5の場合に相関値が−4となり、τが0,8の場合に相関値が8となっている。つまり、コードBに関する自己相関の計算結果(図3)と同じ結果が得られており、コードAとコードB´の組み合わせも、互いに相補関係にあることがわかる。
【0064】
さらに、n=8(8ビット)のコードを拡張したn=16(16ビット)のコードは、数14式または数15式から得られる。
【0065】
【数14】

【0066】
【数15】

【0067】
さらに、32ビット、64ビット、128ビット、256ビット等のコードも同様の法則を適用して拡張できる。数14式に対応した一般式を示すと数16式のようになり、数15式に対応した一般式を示すと数17式のようになる。数16式と数17式におけるNは、コードに含まれるビット数(符号長)であり2の累乗となる。
【0068】
【数16】

【0069】
【数17】

【0070】
図1の超音波診断装置では、A=(1,1)、B=(1,−1)から、数16式または数17式を利用して得られるコードAとコードB(又はコードB´)を用いて、位相シフトキーイング(PSK)が行われ、コードの自己相関関係から目標位置が選択される。そこで、数9式に示したコードAとコードBを利用して、本実施形態におけるPSK変調処理と位置選択性を説明する。
【0071】
図5は、本実施形態におけるPSK変調処理と位置選択性を説明するための図である。2相PSK変調処理部22Aは、コードAを用いて、RF波発振器20から出力される搬送波信号(搬送波A)に対して、2相の位相シフトキーイング(PSK)変調処理を施す。つまり、2相PSK変調処理部22Aは、コードAの符号が「1」のビット期間において搬送波Aの位相をそのままとし、符号が「−1」のビット期間において搬送波Aの位相を反転する(πだけずらす)。これにより、図5に示すように搬送波Aの位相が調整される。
【0072】
一方、2相PSK変調処理部22Bは、コードBを用いて、RF波発振器20から出力されπ/2シフト回路21を介して得られる搬送波信号(搬送波B)に対して、2相の位相シフトキーイング(PSK)変調処理を施す。RF波発振器20から出力される搬送波信号の位相がπ/2シフト回路21において全体的にπ/2だけシフトされる。つまり、PSK変調処理前の搬送波Aの位相を0とすると、PSK変調処理前の搬送波Bの位相はπ/2となる。2相PSK変調処理部22Bは、コードBの符号が「1」のビット期間において搬送波Bの位相をそのまま(π/2)とし、符号が「−1」のビット期間において搬送波Bの位相を反転する(πだけずらす)。これにより、図5に示すように、搬送波Bの位相が調整される。
【0073】
合成処理部24は、2相PSK変調処理部22Aから出力されるPSK変調処理後の搬送波Aと2相PSK変調処理部22Bから出力されるPSK変調処理後の搬送波Bとを合成(加算)する。これにより、図5に示すQPSKの位相(送信)のように位相が調整され、コードAの符号とコードBの符号の組み合わせに応じて、π/4,−π/4,3π/4,−3π/4の4相からなるQPSK連続波が得られる。図5には、受信信号の位相であるQPSKの位相(受信)も示されている。
【0074】
本実施形態では、送信信号を遅延回路25において遅延処理して得られる参照信号が、受信ミキサ30において受信信号と乗算される。図5には、参照信号の位相(参照波の位相)をφ〜φまで変化させた場合における、参照信号と受信信号の位相差と、参照信号と受信信号の乗算結果(乗算器電圧)が示されている。
【0075】
例えば、参照波の位相(φ)は、QPSKの位相(送信)を1ビット期間だけ遅延して得られる参照波である。そして、乗算器電圧は、QPSKの位相(受信)と参照波の位相差から、例えば、図6に示す汎用の位相検波器の特性に基づいて得られる電圧である。
【0076】
図5に示す合計は、8ビットの期間内における乗算器電圧の合計値である。図5に示すように、QPSKの位相(受信)と完全に一致している参照波の位相(φ)の場合に、乗算器電圧が常に1となり合計値が極大値8となる。これに対し、QPSKの位相(受信)と一致していない参照波の位相(φ〜φ)の場合には、乗算器電圧がランダムに変化して合計値が0となる。
【0077】
そのため、目標位置から得られる受信信号と参照信号の位相を一致させることにより、目標位置からの受信信号のみを選択的に抽出することが可能になる。例えば、遅延回路25における遅延時間を目標位置までの超音波の往復の伝播時間とすることにより、目標位置から得られる受信信号と参照信号の位相を一致させ、目標位置からの受信信号のみを選択的に抽出することが可能になる。
【0078】
図5に示す合計は、図2および図3を利用して説明したコードAとコードBの両コードの相関値の和に相当する。つまり、互いに相補関係にあるコードAとコードBを利用してQPSK連続波を形成することにより、目標位置以外から得られる受信信号の成分を極端に小さくすることができ、望ましくは完全に0とすることができ、レンジサイドローブが著しく低減される。
【0079】
なお、図5に示す合計は、例えば図1の加算部46,48の各々において得られるが、加算部46,48に代えて、例えばローパスフィルタなどにより、乗算器電圧のランダムな変化を消去して、図5に示した常に1となる乗算器電圧を抽出してもよい。
【0080】
また、図5においては、8ビットのコードAとコードBを利用してPSK変調処理と位置選択性を説明したが、装置の具現化においては、コードに含まれるビット数(符号長)が、例えば256ビット等に拡張されることが望ましい。ビット数を増やして1ビットの期間を小さくすることにより、位置分解能を高めることができる。
【0081】
図7は、送信信号と受信信号と復調信号の周波数スペクトラムを示す図である。図7(A)には、PSK変調処理された連続波の送信信号に関する周波数スペクトラムが示されている。周波数fは、RF信号(搬送波信号)の周波数である。RF信号の周波数fを中心として広がっている側帯波の周波数間隔は、コードAとコードBの繰り返し周波数fである。また、周波数fを中心として広がっている側帯波の電力が0(ゼロ)となる、いわゆるヌル(null)点が存在する。周波数fからヌル点までの周波数間隔はコードAとコードBの1ビットの時間間隔Tの逆数となる。
【0082】
図7(B)には、受信信号の周波数スペクトラムが示されている。受信信号は、生体内における減衰を無視すると、送信信号と同じ波形となる。したがって、図7(B)に示す受信信号の周波数スペクトラムは、図7(A)に示す送信信号の周波数スペクトラムとほぼ同じである。但し、生体内における超音波の伝搬時間に応じて、送信信号と受信信号との間では位相が異なる。
【0083】
本実施形態では、PSK変調処理された連続波の送信信号に対して遅延処理を施して参照信号を形成し、受信ミキサ(図1の符号30)においてその参照信号を用いて受信信号に対してミキサ処理(参照信号と受信信号の乗算)が行われる。
【0084】
図7(C)には、ミキサ処理により得られる復調信号の周波数スペクトラムが示されている。図7(C)の復調信号は、相関が最大の場合における参照信号と受信信号の乗算結果に相当する。つまり、目標位置からの受信信号と、目標位置の深さに位相を合わせた参照信号との間の乗算結果が、図7(C)の復調信号となる。
【0085】
図7(C)に示す復調信号には、直流信号成分と、RF信号の周波数fの2倍の高調波成分が含まれている。ドプラ信号は、これらの成分に付着した形で出現する。なお、LPF(図1の符号36,38)において、高調波成分がカットされて直流信号成分のみが抽出されるため、FFT処理部50においては、図7(C)に示す直流信号成分と周波数fの2倍の高調波成分のうち、直流信号成分の周波数スペクトラムのみが形成される。
【0086】
そして、ドプラ情報解析部52において、図7(C)に示す直流信号成分の周波数スペクトラムからドプラ信号が抽出され、ドプラシフト量などに基づいて、目標位置に存在する血流の流速などが算出される。受信ミキサ(図1の符号30)において、直交検波を施しているため、流速の極性を判断することもできる。直流信号成分の周波数スペクトラムからクラッタ信号を抽出して、目標位置に存在する血管壁の位置などを算出してもよい。
【0087】
なお、上述した実施形態においては、連続波をデジタル変調する際に位相シフトキーイング(PSK)を利用している。このPSKに代えて、デジタル変調方式として周波数シフトキーイング(FSK)を利用してもよい。なお、デジタル変調された連続波のデータをメモリなどに記憶しておき、このメモリから読み出されるデータに基づいて、当該連続波を生成してもよい。
【0088】
また、図1では、遅延回路25とπ/2シフト回路26と受信ミキサ30とローパスフィルタ36,38と加算部46,48の受信系回路が単独である構成を示したが、複数の目標位置に応じて複数の受信系回路を設けて、超音波ビームに沿った複数の目標位置から並列的にドプラ情報を抽出するようにしてもよい。
【0089】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した本発明の好適な実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0090】
22A,22B 2相PSK変調処理部、24 合成処理部、25 遅延回路、30 受信ミキサ、50 FFT処理部、52 ドプラ情報解析部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相補関係にある2つの周期的な信号列に基づいてデジタル変調処理された連続波の送信信号を出力する送信信号処理部と、
前記送信信号に対応した超音波を生体に送波して当該生体から超音波を受波することにより受信信号を得る超音波送受部と、
生体内の目標位置との間の相関関係を調整しつつ前記受信信号に対して復調処理を施すことにより、当該目標位置に対応した復調信号を得る受信信号処理部と、
前記目標位置に対応した復調信号から生体内情報を抽出する生体内情報抽出部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記送信信号処理部は、符号長Nの第1符号列を繰り返す周期的な信号列と、符号長Nの第2符号列を繰り返す周期的な信号列と、に基づいてデジタル変調処理された連続波の送信信号を出力する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記符号長Nは2の累乗であり、
前記第1符合列と前記第2符合列の各々は、第1符合列N/2と第2符号列N/2に基づいて形成される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記第1符合列は、符号列Aであり、
前記第2符合列は、符号列Bであり、
符号列Aは、符号列AN/2と符号列BN/2を直列接続した符号列であり、
符号列Bは、符号列AN/2と符号列−BN/2を直列接続した符号列であり、
符号列−BN/2は、符号列BN/2の符号の値を反転させた符号列である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波診断装置において、
前記符号列Aと前記符号列Bの各々は、符号長2の符号列A=(1,1)と符号列B=(1,−1)から、前記直列接続を繰り返して形成される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記第1符合列は、符号列Aであり、
前記第2符合列は、符号列B´であり、
符号列Aは、符号列AN/2と符号列BN/2を直列接続した符号列であり、
符号列B´は、符号列BN/2−1と符号列−AN/2−1を直列接続した符号列であり、
符号列BN/2は、符号列AN/4と符号列−BN/4を直列接続した符号列であり、
符号列BN/2−1は、符号列BN/2の符号の並び反転させた符号列であり、
符号列−AN/2−1は、符号列AN/2の符号の値と並びを共に反転させた符号列であり、
符号列−BN/4は、符号列BN/4の符号の値を反転させた符号列である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波診断装置において、
前記符号列Aと前記符号列B´の各々は、符号長2の符号列A=(1,1)と符号列B=(1,−1)から、前記直列接続を繰り返して形成される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記送信信号処理部は、前記2つの周期的な信号列に基づいた位相シフトキーイングにより搬送波信号の位相を変化させた連続波の送信信号を出力する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
請求項8に記載の超音波診断装置において、
前記送信信号処理部は、前記2つの周期的な信号列の一方から得られる符号と他方から得られる符号とに基づいた4相の位相シフトキーイングにより形成された連続波の送信信号を出力する、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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