説明

超音波診断装置

【課題】診断対象を複数に分離するための実用的な画像処理技術を提供する。
【解決手段】(A)の二値化画像データ内において、複数の卵胞Fに対して収縮処理が施され、(B)に示すように複数の卵胞Fが卵胞F1〜F3に分離される。さらに、(B)に示す収縮処理後の画像データ内において、ラベリング処理が施され、(C)に示すように、背景部分に対してラベル0が割り当てられ、卵胞F1〜F3に対して、それぞれラベル1〜3が割り当てられる。そして、(C)に示すラベリング処理後の画像データ内において、複数の卵胞の各々に対して膨張処理が施される。その膨張処理において、膨張処理されることにより互いに重なり合う膨張部分同士の重複部分に境界が形成され、複数の卵胞の大きさが復元される。これにより、(D)に示すように、卵胞間に境界が形成されつつ、各卵胞の大きさが収縮処理前の大きさに復元される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、診断対象を複数に分離する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像内において組織等に対して診断に適した画像処理を施す技術が従来からよく知られており、その画像処理は、組織等の種類や診断内容に応じて多種多様である。そして、その組織等として、生体内の卵胞も超音波診断の対象とされる。
【0003】
生体内において複数の卵胞は互いに密着して密集している。そのため、超音波画像内において複数の卵胞は互いに連結した状態で画像化され、各卵胞の大きさや形状等を個別に確認することは難しい。そこで、超音波画像内において、各卵胞を分離して個別に認識できることが望まれる。
【0004】
対象画像を分割する画像処理の一般的な技術としてウォーターシェッド(watershed:分水嶺)が知られており、このウォーターシェッドの処理を利用して、超音波画像内において各卵胞を分離してもよい。しかし、このウォーターシェッドの処理は、アルゴリズムの性質上、処理時間が膨大となってしまう。特に、例えば三次元画像に適用する場合においては処理時間が極めて膨大となってしまい、実用面において問題がある。
【0005】
こうした状況において、本願の発明者は、例えば卵胞等の分離において好適な画像処理について研究開発を重ねてきた。その画像処理においては、分離された卵胞等の複数部分を個別的に認識するために、複数部分の各々に対して互いに異なるラベルを割り当てることが望ましい。ちなみに、特許文献1には、超音波画像内において比較的大きなノイズの塊を抽出して除去するためにラベリング処理を利用する旨の発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−267584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、超音波の画像データ内において診断対象を複数に分離するための実用的な画像処理技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、診断対象を含む領域に対して超音波を送受するプローブと、前記プローブを制御することにより前記領域からエコーデータを収集する送受信部と、エコーデータから得られる画像データ内において、診断対象に対して収縮処理を施すことにより、診断対象を複数の孤立部分に分離する収縮処理部と、収縮処理された前記画像データ内において、複数の孤立部分に対してラベリング処理を施すことにより複数の孤立部分の各々に対して互いに異なるラベルを割り当てるラベリング処理部と、ラベリング処理された前記画像データ内において、複数の孤立部分の各々に対して膨張処理を施し、各孤立部分から得られる膨張部分に対してその孤立部分のラベルを割り当てつつ、診断対象の大きさを復元する膨張処理部と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記構成においては、収縮処理により診断対象が複数の孤立部分に分離され、複数の孤立部分の各々に対して互いに異なるラベルが割り当てられ、そして、各孤立部分から得られる膨張部分に対してその孤立部分のラベルを割り当てつつ診断対象の大きさが復元される。そのため、復元された診断対象について、複数の膨張部分の各々をラベルに基づいて識別することが可能になる。これにより、例えば、各ラベルごとにそのラベルに対応した膨張部分の形状や面積や体積を測定してもよいし、複数の膨張部分に関する測定量を統計的に分析してもよいし、注目すべき膨張部分のみを抽出して表示させることなども可能になるなど、実用面における応用範囲の広さや価値の高さは計り知れない。
【0010】
望ましい具体例において、前記膨張処理部は、膨張処理されることにより互いに重なり合う膨張部分同士の重複部分に境界を形成しつつ診断対象の大きさを復元する、ことを特徴とする。
【0011】
望ましい具体例において、前記収縮処理部は、段階的に前記診断対象を収縮させる収縮処理をn回(nは自然数)に亘って繰り返し実行し、前記膨張処理部は、段階的に前記各孤立部分を膨張させる膨張処理をn回に亘って繰り返し実行する、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記収縮処理により分離された複数の孤立部分の中から閾値よりも小さい孤立部分を前記膨張処理の対象から除去する除去処理部をさらに有する、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい具体例において、前記膨張処理により復元された診断対象について、各ラベルごとにそのラベルに対応した膨張部分の体積を算出する体積演算部をさらに有する、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記診断対象は、互いに密着した複数の卵胞であり、前記複数の孤立部分は、前記収縮処理により互いに分離された複数の卵胞である、ことを特徴とする。
【0015】
また、上記目的にかなう好適な超音波画像処理装置は、超音波のエコーデータから得られる画像データ内において、診断対象に対して収縮処理を施すことにより、診断対象を複数の孤立部分に分離する収縮処理部と、収縮処理された前記画像データ内において、複数の孤立部分に対してラベリング処理を施すことにより、複数の孤立部分の各々に対して互いに異なるラベルを割り当てるラベリング処理部と、ラベリング処理された前記画像データ内において、複数の孤立部分の各々に対して膨張処理を施し、各孤立部分から得られる膨張部分に対してその孤立部分のラベルを割り当てつつ、診断対象の大きさを復元する膨張処理部と、を有することを特徴とする。
【0016】
例えば、上述した収縮処理部とラベリング処理部と膨張処理部の機能を実現するためのプログラムを利用することにより、コンピュータを前記超音波画像処理装置として機能させてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、超音波の画像データ内において診断対象を複数に分離するための実用的な画像処理技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1の超音波診断装置による各種の処理を説明するための図である。
【図3】三次元データ空間内におけるフィルタの走査を説明するための図である。
【図4】膨張処理におけるフィルタ処理を説明するための図である。
【図5】ノイズ等に伴う小さな塊の膨張処理への影響を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。プローブ10は、診断対象を含む領域に対して超音波を送受波する超音波プローブである。プローブ10は、超音波を送受する複数の振動素子を備えており、複数の振動素子が送受信部12によって送信制御されて送信ビームが形成される。また、複数の振動素子が診断対象を含む領域内から得られる超音波を受波し、これにより得られた信号が送受信部12へ出力され、送受信部12が受信ビームを形成して受信ビームに沿ってエコーデータが収集される。
【0020】
プローブ10は、超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)を三次元空間内において走査して立体的にエコーデータを収集する三次元プローブが好適である。例えば、一次元的に配列された複数の振動素子(1Dアレイ振動子)によって電子的に形成される走査面を機械的に動かすことにより超音波ビームが立体的に走査される。また、二次元的に配列された複数の振動素子(2Dアレイ振動子)を電子的に制御して超音波ビームを立体的に走査してもよい。もちろん、超音波ビームを断層面内において走査する二次元の超音波プローブが利用されてもよい。
【0021】
三次元空間内において超音波ビームが走査されてエコーデータが収集されると、その三次元空間に対応した三次元データ空間を構成する複数のボクセルについてのエコーデータ(ボクセルデータ)が図示しないメモリなどに記憶される。そして、三次元データ空間を構成する複数のボクセルに対して、二値化処理部20から膨張境界処理部60において各種の処理が実行される。そこで、それら各種の処理について説明する。なお、図1に示した部分(構成)については、以下の説明において図1の符号を利用する。
【0022】
図2は、図1の超音波診断装置による各種の処理を説明するための図である。図2(A)は、二値化処理部20(図1)における二値化処理を示している。二値化処理部20は三次元データ空間を構成する複数のボクセルに対して二値化処理を施すことにより、図2(A)に示す二値化処理後の画像データを形成する。本実施形態における診断対象としては、生体内の卵胞が好適である。二値化処理部20は、所定の閾値と各ボクセルのボクセル値(エコーデータの大きさ)を比較することにより、卵胞Fに対応するボクセルとそれ以外のボクセルとを識別する。そして、例えば、卵胞Fに対応するボクセルのボクセル値を「1」とし、それ以外のボクセルのボクセル値を「0」とする。図2(A)においては卵胞Fに対応するボクセル群が白で描かれており、それ以外の背景に相当するボクセル群が黒で描かれている。
【0023】
生体内において複数の卵胞は互いに密着して密集している。そのため、超音波画像内においては、図2(A)に示すように、複数の卵胞Fが互いに連結した状態で画像化され、各卵胞Fの大きさや形状等を個別に確認することは難しい。そこで、本実施形態においては、後に説明する各種の処理により複数の卵胞Fが互いに分割される。なお、図2においては各画像データが二次元的に描かれているものの、各種の処理は三次元データ空間内において三次元的に実行される。
【0024】
図2(B)は、収縮分離処理部30(図1)における収縮分離処理を示している。収縮分離処理部30は、三次元データ空間を構成する二値化処理後のボクセルデータ内において、つまり図2(A)に示す二値化画像データ内において、複数の卵胞Fに対して収縮処理を施し、図2(B)に示すように複数の卵胞Fを卵胞F1〜F3に分離する。収縮分離処理部30は、段階的に卵胞Fを収縮させる収縮処理をn回(nは自然数)に亘って繰り返し実行する。その各段階における収縮処理には、収縮処理用のフィルタが利用され、そのフィルタが三次元データ空間内の全域に亘って走査される。
【0025】
図3は、三次元データ空間100内におけるフィルタ120の走査を説明するための図である。図3において、三次元データ空間100は、xyz直交座標系で示されている。また、フィルタ120は、x軸方向とy軸方向とz軸方向のそれぞれの長さが3個のボクセルに相当し、合計27個のボクセルに相当する立体的な構成となっている。フィルタ120の中心に位置するボクセルが注目ボクセルであり、それを取り囲む26個のボクセルが周辺ボクセルである。そして、三次元データ空間100内の全てのボクセルが注目ボクセルとなるように、フィルタ120がx軸方向とy軸方向とz軸方向に移動されて三次元データ空間100内の全域に亘って走査される。
【0026】
収縮分離処理では、各走査位置において、フィルタ120内の26個の周辺ボクセルの中に1つでもボクセル値「0」のボクセルがあれば、フィルタ120の中心に位置する注目ボクセルのボクセル値が「0」とされる。例えば、注目ボクセルが「1(卵胞)」であり、周辺ボクセルの中に1つでもボクセル値「0(背景)」のボクセルがあれば、その注目ボクセルが「0(背景)」に変換される。そして、フィルタ120が三次元データ空間100内の全域に亘って一通り走査され、各走査位置においてフィルタ処理が施されることにより、1段階の収縮処理が終了する。なお、注目ボクセルに関するボクセル値の変換は、フィルタ120が三次元データ空間100内の全域に亘って一通り走査された後に実行される。つまり、フィルタ120が走査されている途中においては、ボクセル値の変換は行われず、どの走査位置においても変換前のボクセル値を対象としてフィルタ処理が実行される。
【0027】
こうして、1段階の収縮処理が終了し、その結果に基づいてボクセル値の変換が行われると、その変換後のボクセル値で構成される三次元データ空間100に対して、2段階目の収縮処理が実行される。2段階目の収縮処理においても、1段階目と同じフィルタ処理が実行される。つまり、各走査位置において、フィルタ120内の26個の周辺ボクセルの中に1つでもボクセル値「0」のボクセルがあれば、フィルタ120の中心に位置する注目ボクセルのボクセル値が「0」とされ、フィルタ120が三次元データ空間100内の全域に亘って一通り走査された後に、ボクセル値が変換される。
【0028】
収縮分離処理部30は、この段階的な収縮処理をn回(nは自然数)に亘って繰り返し実行する。この繰り返し回数nは、各ボクセルの大きさやフィルタの大きさなどに応じて適宜に決定され、例えば10以内程度に設定される。もちろん、ユーザが回数nを調整できるようにしてもよい。
【0029】
なお、二次元の場合には、図3に示すフィルタ120に代えて、縦と横の長さがそれぞれ3個のボクセルに相当する合計9個のボクセルに対応した二次元フィルタを利用し、中心に位置するボクセルを注目ボクセルとし、それを取り囲む8個のボクセルを周辺ボクセルとすればよい。
【0030】
図2に戻り、収縮処理により図2(B)に示すように複数の卵胞F1〜F3に分離されると、ラベリング処理部40(図1)は、三次元データ空間を構成する収縮処理後のボクセルデータ内において、つまり図2(B)に示す収縮処理後の画像データ内において、ラベリング処理を施し、複数の卵胞F1〜F3に対して互いに異なるラベルを割り当てる。ラベリング処理としては公知の手法を用いることができ、例えば三次元データ空間内において同じボクセル値を持つ複数のボクセルの塊が検出されて各塊ごとにラベル番号が付与される。例えば、図2(C)に示すように、ボクセル値「0」の塊である背景部分に対してラベル0が割り当てられ、ボクセル値「1」の塊である卵胞F1〜F3に対して、それぞれラベル1〜3が割り当てられる。
【0031】
ラベリング処理が施されると、膨張境界処理部60(図1)は、三次元データ空間を構成するラベリング処理後のボクセルデータ内において、つまり図2(C)に示すラベリング処理後の画像データ内において、複数の卵胞の各々に対して膨張処理を施す。その膨張処理において、各卵胞から得られる膨張部分には、その卵胞のラベルが割り当てられ、さらに、膨張処理されることにより互いに重なり合う膨張部分(膨張した卵胞)同士の重複部分に境界を形成しつつ、複数の卵胞の大きさが復元される。これにより、図2(D)に示すように、互いに異なるラベルに対応した卵胞間に境界(背景画素)が形成されつつ、各卵胞の大きさが収縮処理前(二値化処理直後)の大きさに復元される。
【0032】
膨張境界処理部60は、段階的に卵胞Fを膨張させる膨張処理をn回(nは収縮処理の回数と同じ)に亘って繰り返し実行する。その各段階における膨張処理には、膨張処理用のフィルタが利用され、そのフィルタが三次元データ空間内の全域に亘って走査される。膨張処理においても、図3に示した合計27個のボクセルに相当する立体的なフィルタ120が利用され、フィルタ120の中心に位置するボクセルが注目ボクセルとされ、それを取り囲む26個のボクセルが周辺ボクセルとされる。そして、三次元データ空間100内の全てのボクセルが注目ボクセルとなるように、フィルタ120がx軸方向とy軸方向とz軸方向に移動されて三次元データ空間100内の全域に亘って走査される。但し、収縮処理と膨張処理とではフィルタ処理が異なっている。
【0033】
図4は、膨張処理におけるフィルタ処理を説明するための図であり、図4には、境界を形成しつつ膨張させる処理(膨張境界処理)におけるボクセル値の変換に関する条件テーブルが示されている。膨張境界処理においては、各ボクセルのラベル値が参照される。
【0034】
フィルタ120(図3)の中心に位置する注目ボクセルがラベル0(背景)の場合において、26個の周辺ボクセルの全てがラベル0(背景)であれば、注目ボクセルはラベル0とされる。また、注目ボクセルがラベル0(背景)の場合において、26個の周辺ボクセルの中にラベル0以外(卵胞)のラベルがあり、それらの全てが同じラベルN(同一の卵胞)であれば、注目ボクセルはラベルNに変換される。つまり、ラベルNの卵胞が膨張されることになる。
【0035】
さらに、注目ボクセルがラベル0(背景)の場合において、26個の周辺ボクセルの中にラベル0以外(卵胞)のラベルがあり、それらの中に互いに異なるラベル番号(互いに異なる卵胞)が含まれていれば、注目ボクセルはラベル0とされる。つまり、注目ボクセルがラベル0に維持され、互いに異なる卵胞の境界となる。
【0036】
一方、フィルタ120の中心に位置する注目ボクセルがラベルM(卵胞)の場合には、周辺ボクセルの状況に関わらず、注目ボクセルがラベルMに維持される。
【0037】
そして、図3に示すフィルタ120が三次元データ空間100内の全域に亘って一通り走査され、各走査位置において、図4に示した条件に従ってフィルタ処理が施されることにより、1段階の膨張境界処理が終了する。なお、注目ボクセルに関するラベル値の変換は、フィルタ120が三次元データ空間100内の全域に亘って一通り走査された後に実行される。つまり、フィルタ120が走査されている途中においては、ラベル値の変換は行われず、どの走査位置においても変換前のラベル値を対象としてフィルタ処理が実行される。
【0038】
こうして、1段階の膨張境界処理が終了し、その結果に基づいてラベル値の変換が行われると、その変換後のラベル値で構成される三次元データ空間100に対して、2段階目の膨張境界処理が実行される。2段階目の膨張境界処理においても、1段階目と同じフィルタ処理が実行される。つまり、各走査位置において、図4に示した条件に従ってフィルタ処理が施され、フィルタ120が三次元データ空間100内の全域に亘って一通り走査された後に、ラベル値が変換される。
【0039】
膨張境界処理部60は、この段階的な膨張境界処理をn回に亘って繰り返し実行する。この繰り返し回数nは、収縮処理の繰り返し回数nと同じである。こうして、図2(D)に示したように、互いに異なるラベルに対応した卵胞間に境界(背景画素)が形成されつつ、各卵胞の大きさが収縮処理前の大きさに復元される。
【0040】
なお、膨張境界処理においても、二次元の場合には、図3に示すフィルタ120に代えて、縦と横の長さがそれぞれ3個のボクセルに相当する合計9個のボクセルに対応した二次元フィルタを利用し、中心に位置するボクセルを注目ボクセルとし、それを取り囲む8個のボクセルを周辺ボクセルとすればよい。
【0041】
図1に戻り、体積演算部70は、膨張境界処理により復元された複数の卵胞について、各ラベルごとにそのラベルに対応した各卵胞の体積を算出する。例えば、複数のボクセルの大きさが均一であれば、各ボクセルの体積と各ラベルを構成するボクセル数を乗算することにより、そのラベルに対応した卵胞の体積が算出される。もちろん、各ボクセルの大きさの相違を考慮しつつ、より正確に卵胞の体積を算出してもよい。また、複数の卵胞に関する体積値についての統計的な数値を算出してもよい。
【0042】
体積演算部70により算出された各卵胞の体積等は、表示部90に表示される。なお、二値化処理前の複数のボクセルのボクセル値に基づいて、画像形成部80が卵胞を立体的に映し出した三次元の超音波画像を形成し、その超音波画像が表示部90に表示されてもよい。三次元の超音波画像としては、例えば、ボリュームレンダリングによる画像などが好適である。
【0043】
このように、本実施形態においては、収縮処理により複数の卵胞を分離してから、ラベリング処理を経て、膨張処理により複数の卵胞の大きさを復元している。その収縮処理において、例えばノイズ等の影響により、卵胞とは異なるあるいは卵胞から離れてしまった小さな塊が残ってしまうと、膨張処理により復元される卵胞の形状に悪影響を与えてしまう場合が考えられる。
【0044】
図5は、ノイズ等に伴う小さな塊の膨張処理への影響を説明するための図である。例えば、図5(I)に示すように、収縮分離処理部30(図1)における収縮分離処理により1つの卵胞が分離され、その卵胞に対してラベリング処理によりラベルaが割り当てられたとする。その収縮分離処理において、例えばノイズ等の影響によりボクセル値が「1」のボクセルからなる小さな塊が発生したとすると、その塊に対してラベリング処理により例えばラベルbが割り当てられてしまう。
【0045】
このラベリングの状態で、膨張境界処理部60(図1)において膨張境界処理が実行されると、図5(II)に示すように、ラベルaの卵胞に加えてラベルbの塊も膨張され、しかも図4に示した条件に従ったフィルタ処理により、ラベルaの卵胞とラベルbの塊の間に境界が形成される。その結果、ラベルaの卵胞に関する膨張がラベルbの塊の近傍において抑制されてしまい、ラベルaの卵胞に関する本来の形状が復元できない場合が想定される。
【0046】
そこで、図1のノイズ除去処理部50は、収縮処理により分離された複数の塊(孤立部分)の中から、閾値よりも小さい塊を膨張処理の対象から除去する。例えば、ラベリング処理部40においてラベルが割り当てられた塊(同じボクセル値を持つ複数のボクセルの塊)のうち、ボクセル個数が所定の閾値以下のものをラベル0(背景)に変換する。これにより、例えば、図5に示したラベルbの塊が背景となって除去され、膨張処理(膨張境界処理)においてラベルaの卵胞が本来の形状に復元される。なお、所定の閾値を設定するにあたっては、背景以外の全てのラベルについて、各ラベルごとに大きさ(ボクセル数)を算出し、これら全てのラベルの大きさから得られる統計的な量に基づいて卵胞の大きさを予測して、卵胞以外の小さな塊を除去するための閾値を決定するようにしてもよい。
【0047】
以上、本発明の好適な実施形態である超音波診断装置について説明したが、例えば、図1に示した二値化処理部20と収縮分離処理部30とラベリング処理部40とノイズ除去処理部50と膨張境界処理部60と体積演算部70のうちの少なくとも一つをコンピュータにより実現し、そのコンピュータを超音波画像処理装置として機能させてもよい。
【0048】
なお、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0049】
10 プローブ、20 二値化処理部、30 収縮分離処理部、40 ラベリング処理部、50 ノイズ除去処理部、60 膨張境界処理部、70 体積演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象を含む領域に対して超音波を送受するプローブと、
前記プローブを制御することにより前記領域からエコーデータを収集する送受信部と、
エコーデータから得られる画像データ内において、診断対象に対して収縮処理を施すことにより、診断対象を複数の孤立部分に分離する収縮処理部と、
収縮処理された前記画像データ内において、複数の孤立部分に対してラベリング処理を施すことにより、複数の孤立部分の各々に対して互いに異なるラベルを割り当てるラベリング処理部と、
ラベリング処理された前記画像データ内において、複数の孤立部分の各々に対して膨張処理を施し、各孤立部分から得られる膨張部分に対してその孤立部分のラベルを割り当てつつ、診断対象の大きさを復元する膨張処理部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記膨張処理部は、膨張処理されることにより互いに重なり合う膨張部分同士の重複部分に境界を形成しつつ診断対象の大きさを復元する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超音波診断装置において、
前記収縮処理部は、段階的に前記診断対象を収縮させる収縮処理をn回(nは自然数)に亘って繰り返し実行し、
前記膨張処理部は、段階的に前記各孤立部分を膨張させる膨張処理をn回に亘って繰り返し実行する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記収縮処理により分離された複数の孤立部分の中から閾値よりも小さい孤立部分を前記膨張処理の対象から除去する除去処理部をさらに有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記膨張処理により復元された診断対象について、各ラベルごとにそのラベルに対応した膨張部分の体積を算出する体積演算部をさらに有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記診断対象は、互いに密着した複数の卵胞であり、
前記複数の孤立部分は、前記収縮処理により互いに分離された複数の卵胞である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
超音波のエコーデータから得られる画像データ内において、診断対象に対して収縮処理を施すことにより、診断対象を複数の孤立部分に分離する収縮処理部と、
収縮処理された前記画像データ内において、複数の孤立部分に対してラベリング処理を施すことにより、複数の孤立部分の各々に対して互いに異なるラベルを割り当てるラベリング処理部と、
ラベリング処理された前記画像データ内において、複数の孤立部分の各々に対して膨張処理を施し、各孤立部分から得られる膨張部分に対してその孤立部分のラベルを割り当てつつ、診断対象の大きさを復元する膨張処理部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−65995(P2012−65995A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215320(P2010−215320)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】