説明

超音波診断装置

【課題】生体組織の変位の計測精度を向上して生体組織の性状をより忠実に現わした弾性画像を撮像する。
【解決手段】関心領域設定手段は、変位の探索方向が予め定められた関心領域を被検体101の生体組織に対応して設定し、超音波送受信部103は探触子102が被検体101との間で送受する超音波ビームを関心領域の変位の探索方向に合わせて偏向し、弾性画像構成手段105〜108は探索方向の変位を関心領域における各点で計測して弾性画像を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の生体組織の歪みや硬さなどの性状が現わされた弾性画像を撮像する超音波撮像技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波像を撮像する超音波診断装置は、超音波探触子に送波用の駆動信号を供給することによって被検体に超音波を射出し、被検体から発生した反射エコーを超音波探触子で受波し、超音波探触子から出力される受信信号に基づき超音波像を再構成して表示する。
【0003】
このような超音波診断装置として、被検体の生体組織の歪みや硬さなどの性状が現わされた弾性画像を撮像するものが知られている。例えば、超音波診断装置は、被検体に圧力が加えられた際の生体組織に関する時系列画像を取得し、取得した時系列画像の相関を取って生体組織の変位を計測し、計測した変位に基づき弾性データ(例えば、歪み、弾性率)を求めて弾性画像を構成する。
【0004】
生体組織の変位を計測するに際し、被検体に圧力を加える手法としては、例えば、組織を周期的に圧迫する体動(例えば、脈管の拍動)を圧力源として利用する方法や、被検体に超音波探触子を手動で押付けて圧迫する方法や、バイブレータなどで被検体を圧迫する方法(例えば特許文献1)がある。
【0005】
ところで、特許文献を含めた従前の方式は、被検体に圧力を与えた際に生体組織が実際に変位する方向(以下、組織変位方向という)と、生体組織の変位を計測する弾性演算方向(以下、変位探索方向という)との関係については十分に考慮されていない。すなわち、従前の変位探索方向は、例えば超音波送受面に対して垂直方向に固定的に設定されるのに対し、組織変位方向は、生体組織に対する圧迫方向や圧迫面の形状に由来して流動的に変化する。したがって、生体組織の変位を計測するに際し、変位探索方向と組織変位方向との間にずれが生じることがある。その場合、前記ずれに起因した誤差が計測値に含まれるおそれがある。このような計測値に基づいて弾性画像を構成すると、その弾性画像は、生体組織の性状を忠実に現わされたものにならない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−60853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、生体組織の変位の計測精度を向上して生体組織の性状をより忠実に現わした弾性画像を撮像するのに好適な超音波診断装置、超音波撮像プログラム及び超音波撮像方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するために、本発明の超音波診断装置は、被検体との間で超音波を送受する超音波探触子と、該超音波探触子に送波用の駆動信号を供給する送信手段と、前記超音波探触子から出力される受信信号を処理する受信手段と、該受信手段の出力信号から計測される生体組織の変位に基づき弾性画像を構成する弾性像構成手段と、前記弾性画像を表示する表示手段とを備え、前記生体組織が変位する組織変位方向に合わせて前記変位の探索方向を設定する変位探索方向設定手段を有し、前記弾性像構成手段は前記探索方向の変位を計測して前記弾性画像を構成することを特徴とする。
【0009】
本発明の望ましい一態様によれば、変位探索方向が組織変位方向に対してずれている場合でも、変位探索方向を組織変位方向に一致させることができる。そして、変位探索方向に沿って生体組織の変位を計測すると、生体組織が実際に変位した方向に沿って変位を計測することになるから、計測値の精度が向上する。このような計測値に基づいて弾性画像を構成することにより、弾性画像に生じるアーチファクトが低減される。その結果、生体組織の性状を忠実に現わした高品質の弾性画像が取得される。
【0010】
また、本発明の超音波撮像プログラムは、被検体の生体組織が変位する組織変位方向に合わせて前記変位の探索方向を設定する設定手順と、前記被検体との間で超音波を送受する超音波探触子に送波用の駆動信号を供給する手順と、前記超音波探触子から出力される受信信号を処理する手順と、前記受信処理後の信号から前記探索方向の変位を計測する手順と、前記変位の計測値に基づき弾性画像を構成する手順と、前記弾性画像を表示する手順とを制御用コンピュータに実行させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の超音波撮像方法は、被検体の生体組織が変位する組織変位方向に合わせて前記変位の探索方向を設定する設定工程と、前記被検体との間で超音波を送受する超音波探触子に送波用の駆動信号を供給する工程と、前記超音波探触子から出力される受信信号を処理する工程と、前記受信処理後の信号から前記探索方向の変位を計測する工程と、前記変位の計測値に基づき弾性画像を構成する工程と、前記弾性画像を表示する工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生体組織の変位の計測精度を向上して生体組織の性状をより忠実に現わした弾性画像を撮像することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した一実施形態の超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の制御演算部の構成を示す図である。
【図3】変位探索方向と組織変位方向が異なる場合の弾性像撮像形態を示す図である。
【図4】変位探索方向と組織変位方向が一致する場合の弾性像撮像形態を示す図である。
【図5】探索方向の変位を演算する処理を示す図である。
【図6】種々の脈管に対する関心領域の設定例を示す図である。
【図7】組織変位方向を自動検出する処理を示す図である。
【図8】関心領域に設定された変位探索方向を組織変位方向に合わせた場合の弾性像撮像形態を示す図である。
【図9】組織変位方向を自動検出する他の処理を示す図である。
【図10】超音波探触子の傾斜方向と傾斜角度を示すガイド情報の表示例を示す図である。
【図11】関心領域に並べて角度情報を示すガイド情報を表示した形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を適用した超音波診断装置及び超音波撮像方法の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の超音波診断装置のブロック図である。図2は、図1の制御演算部の構成を示す図である。
【0015】
図1及び図2に示すように、超音波診断装置は、被検体101との間で超音波を送受する超音波探触子(以下、探触子102という)と、探触子102に送波用の駆動信号を供給すると共に探触子102から出力される受信信号を処理する超音波送受信部103と、超音波送受信部103の出力信号から計測される生体組織の変位に基づき弾性画像を構成する弾性画像構成手段と、弾性画像を表示する表示手段としての画像表示器112などを備えている。ここでの弾性画像構成手段は、変位演算部105、歪み演算部106、弾性率演算部107、カラーディジタルスキャンコンバータ108(以下、カラーDSC108)などから構成されている。また、超音波送受信部103や弾性画像構成手段などに制御指令を出力する制御演算部113が設けられている。
【0016】
そして、本実施形態の超音波診断装置に適用する制御演算部113は、図2に示すように、変位探索方向の設定手段113Bが実装されている。変位探索方向の設定手段113Bは、弾性画像を撮像するに際し、被検体101の生体組織の変位を計測する弾性演算方向(以下、変位探索方向という)を生体組織が実際に変位した方向(以下、組織変位方向という)に合わせて設定する。次いで、変位探索方向の設定手段113Bは、設定後の変位探索方向における生体組織の変位を弾性画像構成手段に計測させる。
【0017】
これにより、変位探索方向が組織変位方向に対してずれている場合でも、変位探索方向を組織変位方向に一致させることができる。したがって、生体組織が実際に変位した方向に沿って変位を計測することになるから、計測値の精度が向上する。このような計測値に基づいて弾性画像を構成することにより、生体組織の性状を忠実に弾性画像に現すことができる。
【0018】
より詳細に本実施形態の超音波診断装置について説明する。超音波診断装置は、超音波送受系、断層像撮像系、弾性画像撮像系、表示系、制御系に大別される。
【0019】
超音波送受系は、探触子102と超音波送受信部103を備えている。探触子102は、機械的又は電子的にビーム走査を行うことによって被検体101との間で超音波を送受する超音波送受面を有する。超音波送受面は、複数の振動子が並べて配設されている。各振動子は、電気信号と超音波とを相互に変換する。また、探触子102は、超音波送受面に圧力センサが配設されている。圧力センサは、超音波送受面に加えられた圧力を検出して圧力計測部に出力する。圧力計測部は、歪み演算部106や弾性率演算部107に圧力データを出力する。
【0020】
超音波送受信部103は、図2に示すように、探触子102に送受信手段121を介して送波用の駆動信号(パルス)を供給する送信手段120と、探触子102から送受信手段121を介して出力される受信信号を処理する受信手段122とを有する。
【0021】
超音波送受信部103の送信手段120は、探触子102の振動子を駆動して超音波を発生させる駆動信号としての送波パルスを設定間隔で送信する回路や、探触子102から射出される超音波送波ビームの収束点の深度を設定する回路を有する。ここで本実施形態の送信手段120は、送受信手段121を介してパルスを供給する振動子群を選択すると共に、探触子102から送信される超音波ビームが組織変位方向に走査するように、送波パルスの発生タイミングを制御する。すなわち、送信手段120は、該パルス信号の遅延時間を制御することにより、超音波ビームの走査方向を制御するようになっている。
【0022】
超音波送受信部103の受信手段122は、探触子102から送受信手段121を介して出力される信号に対して所定のゲインで増幅してRF信号すなわち受エコー信号を生成する回路や、RF信号の位相を整相加算してRF信号データを時系列に生成する回路を有する。このような受信手段122は、送受信手段121を介して探触子102から送信された超音波ビームによって取得した受信エコー信号に所定の遅延時間を与え位相を揃えて整相加算する。
【0023】
断層像撮像系は、断層像構成部104を備えている。断層像構成部104は、信号処理部や白黒スキャンコンバータを有する。信号処理部は、超音波送受信部103から出力されたRF信号に対し画像処理を施すことによって、被検体101に関する濃淡断層像データ(例えば、白黒断層像データ)を構成する。ここでの画像処理は、ゲイン補正、ログ圧縮、検波、輪郭強調、フィルタ処理などである。白黒スキャンコンバータは、フレームメモリに格納された被検体101に関する断層像データをフレーム単位で読出し、読み出した断層像データをテレビ同期で出力する。ここでの白黒スキャンコンバータは、信号処理部から出力された断層像データをディジタル信号に変換するA/D変換器と、ディジタル化された複数の断層像データを時系列に記憶するフレームメモリと、フレームメモリから断層像データを読み出す指令を出力する制御コントローラを有する。
【0024】
弾性画像撮像系は、超音波送受信部103の出力側から分岐して設けられた変位演算部105と、歪み演算部106と、弾性率演算部107と、カラーDSC108とを備えている。
【0025】
変位演算部105は、超音波送受信部103から出力されるRF信号データに基づき被検体101の生体組織の変位を計測する。この変位演算部105は、RF信号選択部と、計算部と、フィルタ部とを有する。
【0026】
変位演算部105のRF信号選択部は、フレームメモリと選択部とを有する。このRF信号選択部は、超音波送受信部103から出力された時系列のRF信号データをフレームメモリに格納し、格納後のRF信号フレームデータ群から1組すなわち2つのRF信号フレームデータを選択部により選択する。より具体的には、RF信号選択部は、画像フレームレートに従って超音波送受信部103から出力される時系列のRF信号データをフレームメモリに順次確保する。そしてRF信号選択部は、制御演算部113から出力された指令に応じ、フレームメモリに格納されたRF信号データ群の中から第1のデータとしてのRF信号フレームデータ(N)を選択する。次いで、RF信号選択部は、制御演算部113から出力された指令に応じ、フレームメモリに格納されたRF信号データ群の中から第2のデータとしてのRF信号フレームデータ(X)を選択する。ここでのRF信号フレームデータ(X)は、RF信号フレームデータ(N)よりも時間的に過去にフレームメモリに格納されたRF信号フレームデータ群(N−1,N−2,N−3,…N−M)の中から選択されたものである。なお、N、M、Xは、RF信号フレームデータに関連付けられたインデックス番号としての自然数である。
【0027】
変位演算部105の計算部は、1組のRF信号フレームデータから生体組織の変位探索方向における変位を求める。より具体的には、その計算部は、RF信号選択部により選択された第1のRF信号フレームデータ(N)と第2のRF信号フレームデータ(X)との間で一次元又は二次元の相関処理を実行する。例えば、計算部は、相関処理としてブロックマッチング法を適用することによって、断層像の各ピクセルに対応する生体組織の変位探索方向における変位や移動ベクトル(以下、変位と総称する)を求める。ここでの移動ベクトルとは、変位の方向と大きさに関する一次元又は二次元変位分布である。ブロックマッチング法とは、画像を例えばN×N画素からなるブロックに分け、関心領域内のブロックに着目し、着目後のブロックに近似するブロックを時間的に過去のフレームから探し、これを参照して予測符号化すなわち差分により標本値を決定する処理である。
【0028】
なお、変位演算部105のフィルタ部は、変位計算部から出力された生体組織の変位のばらつきを平準化するフィルタ回路を有し、後段の信号処理をスムースに実行するための前処理を施す。
【0029】
歪み演算部106は、変位演算部105から出力された生体組織の移動量例えば変位ΔLを空間微分して生体組織の歪みデータ(S=ΔL/ΔX)を算出する。また、弾性率演算部107は、圧力変化を変位の変化で除することによって生体組織の弾性率データを算出する。例えば、弾性率演算部107は、探触子102の超音波送受面に加えられた圧力ΔPを圧力計測部から取得する。次いで、弾性率演算部107は、圧力ΔPと変位ΔLに基づき弾性率データとして例えばヤング率Ym(Ym=(ΔP)/(ΔL/L)を求める。このように弾性率演算部107は、断層像の各点に対応して弾性率データをそれぞれ求めることによって二次元の弾性画像データを取得する。なお、ヤング率とは、物体に加えられた単純引張り応力と、引張りに平行に生じるひずみに対する比である。また、歪みデータと弾性率データを含めて弾性データと適宜総称し、フレーム単位の弾性データを弾性フレームデータと適宜称する。
【0030】
カラーDSC108は、歪み演算部106又は弾性率演算部107から出力された弾性データに基づき、被検体101の生体組織に関するカラー弾性画像を構成する。例えば、カラーDSC108は、弾性データ処理部と、カラースキャンコンバータと、フレームメモリを有する。弾性データ処理部は、歪み演算部106又は弾性率演算部107から出力される弾性フレームデータをフレームメモリに格納する。弾性データ処理部は、制御演算部113から出力された指令に応じ、フレームメモリから読み出した弾性フレームデータに対して画像処理を施す。
【0031】
カラーDSC108のカラースキャンコンバータは、弾性データ処理部から出力された弾性フレームデータに対し、カラーマップに基づき色調変換処理を実行する色調変換部である。ここでのカラーマップは、弾性データの大きさに対し、光の3原色つまり赤(R)、緑(G)、青(B)で定まる色相情報を関連付けたものである。なお、赤(R)、緑(G)、青(B)のそれぞれは256階調を有し、255の階調に近づくにつれて大輝度に表示されるし、ゼロの階調に近づくにつれて低輝度に表示される。
【0032】
例えば、カラーDSC108のカラースキャンコンバータは、弾性データ処理部から出力された歪みデータが小さいときに赤色コードに変換するとともに、歪みデータが大きいときは青色コードに変換してフレームメモリに格納する。そして、カラースキャンコンバータは、制御指令に応じ、フレームメモリから弾性フレームデータをテレビ同期で読み出して画像表示器112に表示させる。ここでの色調変換後の弾性フレームデータに基づいた弾性画像は、生体組織の硬い部位(例えば、腫瘍)が赤色系に描画されるとともに、硬い部位の周辺部位が青色系に描画されたものになる。そのような弾性画像を視認することにより、例えば腫瘍の広がりや大きさを視覚的に把握できる。なお、カラーDSC108は、制御演算部113を介してキーボードなどの操作部114が接続されている。操作部114を介して入力された指令に応じ、カラーDSC108は、カラーマップの色合いなどを変更できる。
【0033】
表示系は、グラフィック部109と、カラースケール発生部110と、画像合成部111と、画像表示器112などを備えている。グラフィック部109は、断層像や弾性画像以外の画像(例えば、画面のフレームワークやグラフィカルユーザインターフェース)を生成する。カラースケール発生部110は、色相の変化が段階を追って表示されたカラースケールを生成する。ここでのカラースケールは、カラーDSC108のカラーマップに対応させることができる。
【0034】
画像合成部111は、断層像構成部104から出力された断層像と、カラーDSC108から出力された弾性画像と、グラフィック部109から出力された画像と、カラースケール発生部110から出力されたカラースケールとを合成して1つの超音波像を生成する。例えば、画像合成部111は、フレームメモリと、画像処理部と、画像選択部とを有する。ここでのフレームメモリは、断層像構成部104から出力された断層像や、カラーDSC108から出力された弾性画像や、グラフィック部109から出力されたフレームワーク画像や、カラースケール発生部110から出力されたカラースケールを格納する。画像処理部は、制御指令に応じ、フレームメモリから断層像や弾性画像を読出し、断層像や弾性画像の同一座標系で相互に対応する画素に対し、その各画素の輝度情報や色相情報を設定割合で加算して合成する。すなわち、画像処理部は、断層像上に弾性画像を同一座標系で相対的に重畳させる。画像選択部は、制御指令に応じ、フレームメモリに格納された画像群のうちから画像表示器112に表示させる画像を選択する。画像表示器112は、画像合成部111から出力された画像データを表示するモニタなどを有する。
【0035】
制御系は、図2に示すように、制御演算部113と操作部114などを備えている。制御演算部113は、基本制御手段113Aと、変位探索方向の設定手段113Bと、組織変位方向の検出手段113Cと、関心領域の設定手段113Dと、関心領域の角度補正手段113Eと、ガイド情報の生成手段113Fとを有する。
【0036】
基本制御手段113Aは、超音波送受系、断層像撮像系、弾性画像撮像系、表示系に各種の制御指令を出力する。変位探索方向の設定手段113Bは、変位探索方向が組織変位方向に対してずれているときに、変位探索方向を組織変位方向に合わせて再設定する。ここでの変位探索方向は、被検体101の生体組織の変位を計測する際の基準とすべき弾性データ演算方向である。組織変位方向の検出手段113Cは、被検体101の生体組織に圧力が加えられた際に生体組織が実際に変位した組織変位方向を検出する。関心領域の設定手段113Dは、操作部114を介して入力された指令に応じ、画像表示器112に表示された断層像に関心領域(ROI: Region Of Interest)を設定する。関心領域の角度補正手段113Eは、設定手段113Dによって設定された関心領域を回転させることにより、関心領域の設定角度を補正する。ガイド情報の生成手段113Fは、変位探索方向が組織変位方向に一致するときの探触子102の傾きを示す誘導情報などを生成して画像表示器112に表示させる。なお、操作部114は、各種設定用のインターフェースとしてのキーボードやポインティングデバイスなどを有している。
【0037】
ここで本実施形態の制御演算部113について図面を参照してより詳細に説明する。
【0038】
<実施例1>
本実施例は、組織変位方向を半自動で指定し、その組織変位方向に合わせて設定した変位探索方向に超音波ビームを偏向する例である。図3は、変位探索方向と組織変位方向との間にずれが生じている形態を示す模式図である。図4は、変位探索方向を組織変位方向に合わせた形態を示す模式図である。
【0039】
図3に示すように、被検体101の例えば体表に、探触子102の超音波送受面201aが接触している。ここでの変位探索方向206a〜206hは、探触子102で送受される超音波ビーム方向、すなわち超音波送受面201aに対してほぼ垂直方向に初期設定されている。また、被検体101内の脈管(血管)204は、超音波送受面201aに対して傾斜して直線状に存在するものとしている。そして、弾性画像を取得すべき生体組織の関心領域203は、図の点線で示すように、超音波送受面201aに対して長辺部がほぼ平行な矩形つまり長方形に設定されている。なお、ここでの関心領域203は、操作部114を介して入力された指令に応じ、画像表示器112に表示された断層像上に設定されたものである。
【0040】
図3に示す形態においては、脈管204の周期的な拍動によって、脈管204の周辺組織が圧迫される。その周辺組織のうち関心領域203内の生体組織の変位が、変位演算部105により計測される。変位の計測値に基づいて、弾性データが歪み演算部106や弾性率演算部107により算出される。そして、弾性データの算出値に基づいて、弾性画像がカラーDSC108により構成される。
【0041】
しかし、図3に示す例では、関心領域203内の生体組織の変位を計測するに際し、変位探索方向206a〜206hは、超音波ビーム方向つまり関心領域203の短手方向であるのに対し、脈管204の拍動に由来する組織変位方向205a〜205jは、脈管204の径方向である。したがって、変位探索方向206a〜206hと組織変位方向205a〜205jが所定の角度で交差している。すなわち、変位探索方向206a〜206hと組織変位方向205a〜205jとの間にずれが生じている。このような状態で生体組織の変位を計測すると、例えば前記ずれを補正する演算精度の制限に起因して、変位の計測値に誤差が含まれるおそれがある。
【0042】
そこで、本実施例は、関心領域203の角度を半自動で補正することによって組織変位方向に合わせて変位探索方向を指定する。より具体的には、図3に示すように、操作者は、画像表示器112に表示された断層像を視認しながら、操作部114を介して、脈管204の上側縁部と関心領域203の短辺部が交わる二箇所のそれぞれに基準点(以下、交差点207、208という)を指定する。なお、脈管204の上側縁部に代えて、下側縁部における短辺部との交差点を指定してもよい。また、交差点207、208は、断層像の輝度を利用して設定してもよい。すなわち、画像表示器112の画面中で脈管204の壁面は、その輝度が高く表示される。制御演算部113は、この輝度特性を利用し、脈管204の壁面に形成される高輝度ラインと関心領域203との交点を交差点207、208として設定する。
【0043】
交差点207、208が指定されると、図4に示すように、組織変位方向の検出手段113Cは、交差点207、208間を結ぶ線分に直交する方向を組織変位方向と判定する。すなわち、本実施例は、交差点207、208を指定することによって組織変位方向を半自動的に検出する。
【0044】
そして、関心領域の角度補正手段113Eは、交差点207、208間を結ぶ線分に直交する方向と関心領域203の短手方向とのずれがゼロになるように、関心領域203を回転補正する。すなわち、関心領域の角度補正手段113Eは、交差点207、208間を結ぶ線分に直交する方向に短手方向が合致する関心領域308を再設定する。次いで、変位探索方向の設定手段113Bは、変位探索方向206a〜206hを関心領域308の短手方向に合わせて補正することによって、新たな変位探索方向306a〜306fを指定する。超音波送受信部103は、変位探索方向306a〜306fに合わせて超音波ビームを偏向する。そして、変位演算部105は、変位探索方向306a〜306fに沿って羅列された受信信号に基づき、変位探索方向306a〜306fにおける生体組織の変位を計測する。
【0045】
図5は、変位探索方向を組織変位方向に合わせた際の生体組織の変位を計測する例を示す図である。図5に示す関心領域501は、関心領域の角度補正手段113Eにより元の関心領域を角度補正した平行四辺形のものである。ここでの組織変位方向は、関心領域501の傾斜側辺に沿った方向、つまり関心領域501に矢印で図示した方向である。変位探索方向は、変位探索方向の設定手段113Bにより関心領域501の傾斜側辺に沿った方向に再設定される。要するに、ここでの関心領域501においては、変位探索方向が組織変位方向に一致している。
【0046】
まず、超音波送受信部103は、探触子102を介して変位探索方向に合わせて超音波ビームを送受することによって時系列に受信信号を取得する。次いで、変位演算部105は、現在取得されたRF信号フレームデータ(N)502を第1のデータとして選択する。ここでのRF信号フレームデータ(N)502は、関心領域501の側辺の傾斜方向、つまり変位探索方向に従って羅列された信号群である。変位演算部105は、時間的に過去に取得されたRF信号フレームデータ(X)503も選択する。ここでのRF信号フレームデータ(X)503も、関心領域501の側辺の傾斜方向、つまり変位探索方向に従って羅列された信号群である。そして、変位演算部105は、RF信号フレームデータ(N)502とRF信号フレームデータ(X)503に対して相関処理を実行することによって、変位探索方向における生体組織の移動分すなわち変位量を計測する。
【0047】
本実施例によれば、図2及び図3に代表されるように、変位探索方向206a〜206hが組織変位方向205a〜205jに対してずれている場合、組織変位方向205a〜205jに合わせた変位探索方向306a〜306fが再設定される。したがって、変位探索方向306a〜306fに沿って生体組織の変位を計測すると、生体組織が実際に変位した方向に沿って変位を計測することになるから、変位の計測値の精度が向上する。このような計測値に基づいて弾性画像を構成することにより、弾性画像に生じるアーチファクトが低減される。その結果、生体組織を圧迫する方向や生体組織を圧迫する面の形状などに左右されずに、生体組織の歪みや硬さなどの性状を忠実に現わした高品質の弾性画像を取得できる。
【0048】
例えば、甲状腺部位は、頸動脈の拍動に由来して周辺組織が歪みことは知られている。したがって、甲状腺部位に関する弾性像を撮像する際は、頸動脈の拍動によって歪んだ周辺組織の変位を計測し、変位の計測値に基づいて弾性像を構成できることになる。しかし、探触子102の超音波送受面に対して頸動脈が傾斜して存在するなど、変位探索方向と組織変位方向との間にずれが生じる場合がある。この点、本実施例によれば、変位探索方向を組織変位方向に一致させることにより、生体組織の変位の計測精度を向上させることができるため、有用な臨床データを取得できる。
【0049】
図6は、種々の脈管に対する関心領域の設定状態の例を示す図である。図6(A)及び図6(C)は、超音波送受面に対して脈管が傾斜して存在する形態を示す。この場合の関心領域(ROI)は、その短手方向が脈管の長手方向に対して垂直になるように設定されている。そして、関心領域の短手方向つまり組織変位方向に合致させて変位探索方向が設定されている。すなわち、変位探索方向と組織変位方向が一致している。なお、図6(C)に示す場合は、脈管が図6(A)に示す脈管に対して逆方向に傾いているので、図6(A)の場合に対して逆方向に関心領域を回転補正することによって、変位探索方向を組織変位方向に合わせることになる。図6(B)は、超音波送受面に対して脈管が平行に存在する形態を示す。この場合は、関心領域の短手方向つまり変位探索方向が組織変位方向と一致するので、関心領域の角度補正は不要である。
【0050】
また、図6(D)は、超音波送受面に対して脈管が湾曲して存在する形態を示す。この場合、関心領域は、脈管の曲部の曲率に対応した弧を有する扇形に設定される。変位探索方向の設定手段113Bは、関心領域の弧の接線に垂直になる方向を変位探索方向として再設定する。超音波送受信部103は、関心領域の弧に応じて超音波ビーム方向を徐々に変更しながら超音波ビームを送受させる。これによって、超音波送受面に対して脈管が湾曲して存在する場合でも、脈管の湾曲に由来する組織変位方向の変化に追従して変位探索方向を合わせることができる。
【0051】
この扇状の関心領域は、複数の微小矩形関心領域を繋いで生成される。例えば、図6(D)右図に示すように、図2,図3,図6(A)〜図6(C)と同様な手法を用いることにより、3つの微小矩形関心領域ROI1〜ROI3等の短手方向と脈管の接線方向とを一致させるとともに、長手方向と脈管の接線に垂直になる方向とを一致させて、脈管に沿って微小矩形関心領域ROI1〜ROI3が分割して複数設定される。このようにして扇状の関心領域全体に亘って複数の微小矩形関心領域が設定される。なお、この微小矩形関心領域は、脈管の曲率形状が無視できる範囲で設定されている。
【0052】
そして、それぞれの微小矩形関心領域ROI1,ROI2,ROI3等の長手方向つまり組織変位方向に合致させて変位探索方向が設定される。これによって各微小矩形関心領域において変位探索方向と組織変位方向を一致させることができる。つまり、扇状の関心領域全体に亘って変位探索方向と組織変位方向を一致させることができる。このような関心領域の設定手法によれば、脈管の形状は扇状に限らず、複雑な形状でも対応できる。
【0053】
なお、本例では、脈管204の拍動を圧力源とし、脈管204の拍動によって圧迫された際の生体組織の弾性画像を取得しているが、このような形態に限れたものではない。例えば、被検体101の体表に接触させた探触子102を手動で押付けて圧迫する形態や、被検体101の体表に接触させたバイブレータで圧迫する形態でも本発明を適用できる。要するに、変位探索方向と組織変位方向との間にずれが生じる場合に本発明を適用すればよい。
【0054】
<実施例2>
本実施例は、変位探索方向を組織変位方向に合わせるに際し、関心領域内に予め定められた弾性演算方向つまり関心領域内の変位探索方向だけを組織変位方向に合わせる点で、超音波ビーム自体を偏向させた実施例1と相違する。したがって、その相違点を中心に説明する。
【0055】
図7は、本実施例の変位探索方向の設定手段113Bの動作を説明するための図である。図7に示す形態は、超音波ビームの射出方向が超音波送受面201aに対して垂直なままである点で、図4に示す形態と異なる。
【0056】
被検体101の生体組織の弾性画像を撮像するに際しては、まず、超音波送受信部103は、超音波送受面201aに対して垂直に超音波ビームを送受することによって被検体101に関する信号を取得する。ここで、本実施例の変位探索方向の設定手段113Bは、関心領域303に予め設定された変位探索方向を組織変位方向205a〜205jに合わせて設定する。そして、変位探索方向の設定手段113Bは、超音波送受信部103から出力される信号のうち前記補正後の変位探索方向に対応して羅列した信号を選択させる指令と、選択後の信号に基づき生体組織の変位探索方向における変位を計測させる指令を変位演算部105に出力する。
【0057】
すなわち、超音波送受信部103の出力信号から組織変位方向205a〜205jに対応した信号を選択して弾性演算を実行すると、関心領域303内の変位探索方向だけを組織変位方向に合わせたことになる。したがって、本実施例によれば、変位探索方向を組織変位方向に合わせるに際し、超音波ビームを偏向させずとも、関心領域303における変位探索方向を組織変位方向に合わせることができる。その結果、実施例1と同様な効果に加え、生体組織の複雑な動きに応じて変位探索方向を組織変位方向に合わせることが簡単になる。
【0058】
<実施例3>
本実施例は、組織変位方向を自動に検出する点で、組織変位方向を半自動で指定する実施例1と相違する。したがって、その相違点を中心に説明する。
【0059】
図8は、図2の組織変位方向の検出手段113Cの動作の例を示す概念図である。図8の横軸は、超音波送受面201aに対してほぼ平行な方向の被検体座標軸を示している。縦軸は、超音波送受面201aに対してほぼ垂直な方向の被検体座標軸を示している。横軸及び縦軸のそれぞれの単位はミリメートル(mm)である。
【0060】
図8に示すように、組織変位方向の検出手段113Cは、生体組織に圧力を加える前と後の断層像に対し、各ピクセルに対応する信号に基づき広範囲にわたって相関演算を実行する。より具体的には、検出手段113Cは、生体組織に圧力を加える前の信号601を取得する。ここでの信号601は、縦方向に1[mm]で横方向に1[mm]の位置にあるものとする。そして、検出手段113Cは、生体組織に圧力が加えられた際の信号601の移動先を相関処理によって検出し、検出結果に基づき組織変位方向を判定する。
【0061】
例えば、検出手段113Cは、信号601の移動先を信号602の位置(縦方向8[mm]、横方向1[mm])に検出したときは、組織変位方向は縦方向(例えば0度)であると判定する。また、検出手段113Cは、信号601の移動先を信号603の位置(縦方向1[mm]、横方向8[mm])に検出したときは、組織変位方向は横方向(例えば90度)であると判定する。また、検出手段113Cは、信号601の移動先を信号604の位置(縦方向8[mm]、横方向8[mm])に検出したときは、組織変位方向は斜め方向(例えば45度)であると判定する。検出手段113Cは、組織変位方向の検出処理を座標ごとに実行し、各座標の検出値を平均した値を組織変位方向として検出する。その組織変位方向は、関心領域の角度補正手段113Eや変位探索方向の設定手段113Bに出力される。なお、変位探索方向を組織変位方向に合わせて生体組織の変位を計測する処理は、実施例1と同様である。
【0062】
すなわち、甲状腺などの弾性画像を撮像する際、甲状腺の組織に対して縦方向に圧力を加えても組織が横方向に変位することがあるなど、組織変位方向の把握が困難な場合がある。この点、本実施例によれば、組織変位方向を客観的かつ定量的に自動検出できるため、生体組織の変位の計測精度をより一層高めることができる。
【0063】
<実施例4>
本実施例は、組織変位方向を自動検出するに際し、血管の血流方向を利用する点で実施例3と相違する。したがって、相違点を中心に説明する。
【0064】
本実施例の超音波診断装置は、図1に示すように、ドプラ像構成部900が設けられている。ドプラ像構成部900は、超音波送受信部103から取り込んだ時系列の受信信号に基づきドプラ偏位を演算し、そのドプラ偏位からドプラ像(例えば、カラー血流像)を構成する。そして、本実施例の変位探索方向の設定手段113Bは、ドプラ像構成部900によって判定可能な血流方向に基づき、組織変位方向に一致する変位探索方向を決定する。
【0065】
図9は、本実施例の変位探索方向の設定手段113Bの動作を説明するための図である。まず、図9Aは、カラー血流像が図3の脈管204に重畳して表示された図である。ここでのカラー血流像は、ドプラ像構成部900から画像合成部111を介して画像表示器112に出力されたものである。
【0066】
図9Bは、血流方向に基づき組織変位方向に合わせて変位探索方向を設定する形態を示す模式図である。組織変位方向の検出手段113Cは、図9Aに示すカラー血流像に基づき血流方向を検出し、その血流方向に直交する方向を組織変位方向と判定する。変位探索方向の設定手段113Bは、検出手段113Cにより判定された組織変位方向に合わせて変位探索方向を決定する。なお、関心領域303の設定処理又は回転補正処理や、変位探索方向に従って超音波ビーム方向を偏向する処理などは実施例1と同様である。また実施例2で説明したように、組織変位方向に合わせて関心領域303の変位探索方向を合わせる処理を適用してもよい。
【0067】
本実施例によれば、ドプラ血流像から検出可能な血流方向に基づき組織変位方向を自動判定できるため、組織変位方向に変位探索方向を合わせる作業が簡単になる。例えば、被検体101に血管が湾曲した複雑な形態で存在する場合でも、その血管に係るドプラ血流像に基づき変位探索方向を簡単に決めることができる。
【0068】
<実施例5>
本実施例は、変位探索方向を組織変位方向に合わせるに際し、探触子102の傾きを手動で調整する点で、探触子102で送受する超音波ビームを偏向させる実施例1と相違する。したがって、相違点を中心に説明する。
【0069】
探触子102の傾きを変更すると、探触子102の超音波送受面201aの傾斜角度が変わるため、超音波送受面201aで送受される超音波ビームの方向を調整できることになる。すなわち、超音波ビーム方向に変位探索方向が設定されている場合、探触子102の傾きを調整することにより、変位探索方向を組織変位方向に合わせることができる。
【0070】
ただし、探触子102の傾きを経験則や直感に頼って調整すると、変位探索方向を組織変位方向に合わせる作業が煩雑になる。そこで、図2のガイド情報の生成手段113Fは、変位探索方向が組織変位方向に一致するときの探触子102の傾斜方向や傾斜角度を示す誘導情報を生成して画像表示器112に表示させる。
【0071】
図10は、探触子102の傾斜方向と傾斜角度を示すガイド情報の表示例である。なお、探触子102の位置や傾きをリアルタイムに検出する位置センサが配設されているものとする。ガイド情報の生成手段113Fは、例えば、図10に示すように、被検体101の体表に接触した探触子102の模式画像920と、探触子102の超音波ビーム方向に合致して設定された変位探索方向を示す矢印画像921と、被検体101の生体組織の組織変位方向を示す矢印画像922と、変位探索方向が組織変位方向に一致するときの探触子102の傾斜方向を示す誘導画像923とを生成して表示する。また、変位探索方向と組織変位方向とのずれに対応した補正角θを示す角度情報924を表示してもよい。ここでの補正角θも、探触子102の傾斜角度を示すガイド情報である。
【0072】
本実施例によれば、誘導画像923や角度情報924などのガイド情報は、探触子102の傾きを調整して変位探索方向と組織変位方向を合わせる作業を支援する客観的かつ定量的な指標になる。したがって、操作者は、探触子102の目標傾斜方向を視覚的に把握できるので、変位探索方向を組織変位方向に合わせる作業が的確かつ簡単に実施できる。その結果、生体組織の変位の計測精度が向上するとともに、装置の使い勝手が高まる。
【0073】
また、図11に示すように、ガイド情報の生成手段113Fは、変位探索方向と垂直方向(例えば、被検体101の深度方向)との間に形成される角度θを示す角度情報926と、変位探索方向と組織変位方向との間に形成される角度θを示す角度情報927などを関心領域925に並べて表示してもよい。これにより、操作者は、被検体101の関心領域925に対する変位探索方向と組織変位方向を相対的かつ視覚的に把握できる。
【0074】
以上、本実施形態によれば、生体組織を圧迫する方向や生体組織を圧迫する面の形状などに左右されずに、生体組織の歪みや硬さなどの性状を忠実に現わした高品質の弾性画像を簡単に取得できる。
【0075】
なお、図1又は図2などに示すように、本実施形態の超音波撮像に必要な制御機能をブロック単位で説明したが、各制御機能を超音波撮像プログラムとして集約し、その超音波撮像プログラムを制御用コンピュータに実行させることもできる。例えば、超音波撮像プログラムは、被検体101の生体組織が変位する組織変位方向に合わせて変位の探索方向を設定する設定手順と、被検体101との間で超音波を送受する探触子102に送波用の駆動信号を供給する手順と、探触子102から出力される受信信号を処理する手順と、受信処理後の信号から前記探索方向の変位を計測する手順と、その変位の計測値に基づき弾性画像を構成する手順と、その弾性画像を表示する手順とを制御用コンピュータに実行させる。
【0076】
上述のとおり、本発明を適用した一実施形態の超音波診断装置を説明したが、本発明を適用した超音波診断装置は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他の様々な形態で実施できる。そのため、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈されるものではない。すなわち、本発明の範囲は、均等範囲に属する変形や変更を含むものとする。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体との間で超音波を送受する超音波探触子と、該超音波探触子に送波用の駆動信号を供給する送信手段と、前記超音波探触子から出力される受信信号を処理する受信手段と、該受信手段の出力信号から計測される生体組織の変位に基づき弾性画像を構成する弾性像構成手段と、前記弾性画像を表示する表示手段とを備えた超音波診断装置において、
前記生体組織が変位する組織変位方向に合わせて前記変位の探索方向を設定する変位探索方向設定手段を有し、前記弾性像構成手段は前記探索方向の変位を計測して前記弾性画像を構成することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記変位探索方向設定手段は、前記超音波探触子の超音波ビーム方向に前記探索方向が設定されている際、前記超音波ビームを前記組織変位方向に合わせて偏向させる指令を前記送信手段又は前記受信手段に出力する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記変位の探索方向が予め定められた関心領域を前記被検体の生体組織に対応して設定する関心領域の設定手段と、前記関心領域を回転補正して前記探索方向を前記組織変位方向に合わせる関心領域の角度補正手段を備え、
前記変位探索方向設定手段は、前記回転補正後の関心領域の前記探索方向に合わせて前記超音波ビームを偏向させる指令を前記送信手段又は前記受信手段に出力する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記関心領域の設定手段は、前記被検体の生体組織に対応して矩形又は扇形の関心領域を設定する請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記変位探索方向設定手段は、前記受信手段から出力される信号のうち前記探索方向に対応して羅列した信号を選択させる指令と、該選択後の信号に基づき前記探索方向の変位を計算させる指令を前記弾性像構成手段に出力する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記変位の探索方向が予め定められた関心領域を前記被検体の生体組織に対応して設定する関心領域の設定手段と、前記関心領域を回転補正して前記探索方向を前記組織変位方向に合致させる関心領域の角度補正手段を備え、
前記変位探索方向設定手段は、前記受信手段から出力される信号のうち前記回転補正後の関心領域の前記探索方向に対応して羅列した信号を選択させる指令と、該選択後の信号に基づき前記探索方向の変位を計算させる指令を前記弾性像構成手段に出力する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記関心領域の設定手段は、前記被検体の生体組織に対応して矩形又は扇形の関心領域を設定する請求項6に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記変位探索方向設定手段は、前記生体組織に設定された関心領域を複数の微小矩形関心領域に分割し、それぞれの前記微小矩形関心領域の前記組織変位方向を特定し、該組織変位方向に合わせて前記探索方向を設定する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記組織変位方向を検出する組織変位方向の検出手段を備え、
前記組織変位方向の検出手段は、前記生体組織に関する断層像上に指定された二つの基準点間の線分に直交する方向を前記組織変位方向と判定する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記組織変位方向を検出する組織変位方向の検出手段を備え、
前記組織変位方向の検出手段は、前記生体組織の圧迫前の断層像と前記生体組織の圧迫中の断層像との相関処理を実行して前記断層像上の部位の移動方向を求め、該移動方向を前記組織変位方向と判定する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
前記組織変位方向を検出する組織変位方向の検出手段を備え、
前記組織変位方向の検出手段は、前記受信手段の出力信号からドプラ演算処理によって血流方向を求めさせ、前記血流方向に直交する方向を前記組織変位方向と判定する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項12】
前記表示手段は、前記超音波探触子の超音波ビーム方向に前記探索方向が設定されている際、前記超音波ビーム方向が前記組織変位方向に一致する際の前記超音波探触子の傾斜方向又は傾斜角度を示すガイド情報が表示される請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項13】
前記表示手段は、前記組織変位方向を示す矢印画像と、前記変位の探索方向を示す矢印画像と、前記超音波探触子の超音波ビーム方向を示す矢印画像の少なくとも1つが表示される請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項14】
前記表示手段は、前記組織変位方向と前記変位の探索方向との間に形成される角度が表示される請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項15】
被検体の生体組織が変位する組織変位方向に合わせて前記変位の探索方向を設定する設定手順と、
前記被検体との間で超音波を送受する超音波探触子に送波用の駆動信号を供給する手順と、前記超音波探触子から出力される受信信号を処理する手順と、前記受信処理後の信号から前記探索方向の変位を計測する手順と、前記変位の計測値に基づき弾性画像を構成する手順と、前記弾性画像を表示する手順とを制御用コンピュータに実行させることを特徴とする超音波撮像プログラム。
【請求項16】
被検体の生体組織が変位する組織変位方向に合わせて前記変位の探索方向を設定する設定工程と、
前記被検体との間で超音波を送受する超音波探触子に送波用の駆動信号を供給する工程と、前記超音波探触子から出力される受信信号を処理する工程と、前記受信処理後の信号から前記探索方向の変位を計測する工程と、前記変位の計測値に基づき弾性画像を構成する工程と、前記弾性画像を表示する工程とを備えたことを特徴とする超音波撮像方法。
【請求項17】
前記変位探索方向の設定工程は、前記超音波探触子の超音波ビーム方向に前記探索方向が設定されている際、前記超音波ビームを前記組織変位方向に合わせて偏向させる工程を含む請求項16に記載の超音波撮像方法。
【請求項18】
前記変位探索方向の設定工程は、前記受信手段から出力される信号のうち前記探索方向に対応して羅列した信号を選択させる工程と、該選択後の信号に基づき前記探索方向の変位を計算させる工程を含む請求項16に記載の超音波撮像方法。
【請求項19】
前記変位探索方向の設定工程は、前記生体組織に設定された関心領域を複数の微小矩形関心領域に分割し、それぞれの前記微小矩形関心領域の前記組織変位方向を特定し、該組織変位方向に合わせて前記探索方向を設定する工程を含む請求項16に記載の超音波撮像方法。
【請求項20】
前記組織変位方向に合わせて前記変位探索方向を設定する際に前記組織変位方向を検出する組織変位方向の検出工程を備え、
前記組織変位方向の検出工程は、前記生体組織に関する断層像上に指定された二つの基準点間の線分に直交する方向を前記組織変位方向と判定する工程を含む請求項16に記載の超音波撮像方法。
【請求項21】
前記組織変位方向に合わせて前記変位探索方向を設定する際に前記組織変位方向を検出する組織変位方向の検出工程を備え、
前記組織変位方向の検出工程は、前記生体組織の圧迫前の断層像と、前記生体組織の圧迫中の断層像との相関処理を実行して前記断層像上の部位の移動方向を求め、該移動方向を前記組織変位方向と判定する工程を含む請求項16に記載の超音波撮像方法。
【請求項22】
前記組織変位方向に合わせて前記変位探索方向を設定する際に前記組織変位方向を検出する組織変位方向の検出工程を備え、
前記組織変位方向の検出工程は、前記受信手段の出力信号からドプラ演算処理によって血流方向を求めさせ、前記血流方向に直交する方向を前記組織変位方向と判定する工程を含む請求項16に記載の超音波撮像方法。
【請求項23】
前記弾性画像を表示する工程は、前記超音波探触子の超音波ビーム方向に合致して変位探索方向が設定される際、前記超音波ビーム方向が前記組織変位方向に一致するときの前記超音波探触子の傾斜方向又は傾斜角度を示すガイド情報を表示する工程を含む請求項16に記載の超音波撮像方法。
【請求項24】
前記弾性画像を表示する工程は、前記組織変位方向を示す矢印画像と、前記変位の探索方向を示す矢印画像と、前記超音波探触子の超音波ビーム方向を示す矢印画像の少なくとも1つを表示する工程を含む請求項16に記載の超音波撮像方法。
【請求項25】
前記弾性画像を表示する工程は、前記組織変位方向と前記変位の探索方向との間に形成される角度を表示する工程を含む請求項16に記載の超音波撮像方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−34883(P2013−34883A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−223371(P2012−223371)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【分割の表示】特願2006−550791(P2006−550791)の分割
【原出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】