説明

超音波診断装置

【課題】高調波画像を表示する超音波診断装置において、信号波形歪みに起因する装置由来高調波成分を検出し、その発生を防止又は軽減する。
【解決手段】高調波抽出部36は、特定高調波成分として三次高調波成分(3f0)を抽出し、また、参照成分(基本波成分(f0)又は2次高調波成分(2f0))を抽出する。状態信号生成部44は、特定高調波成分と参照成分の比較を行って状態信号を生成する。アナログ受信信号処理において振幅が過大となって信号波形が歪んだ場合、相対的に見て奇数次高調波成分(特に三次高調波成分)が強く出る。状態信号は、装置由来高調波成分の有無及び程度を示す信号である。その状態信号に基づいて表示画面上に所定の表示がなされ、あるいは、アナログ受信信号処理における利得が可変される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、高調波画像等の超音波画像を表示する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、生体に対する超音波の送受波により超音波画像を形成する装置である。高調波成分表示機能を備えた超音波診断装置において、生体からの反射波は複数の振動素子にて受波され、これにより複数の受信信号が生じる。複数の受信信号に対する整相加算処理によりビームデータが構成される。そのビームデータ内に含まれる高調波成分が抽出され、それによって高調波画像が生成される。生体組織での反射時に生成された高調波成分が画像化される場合と、生体内に注入された造影剤での反射や造影剤の破壊で生じた高調波成分が画像化される場合と、がある。前者はティッシュ―ハーモニックイメージングであり、後者はコントラストハーモニックイメージングである。高調波成分を抽出するための方式として、フィルタ法、パルスモジュレーション法、パルスインバージョン法、等が知られている。
【0003】
受信信号に含まれる高調波成分のレベルは、一般に、基本波成分のレベルに対して数十dB程度小さいので、高調波画像を形成するためには、受信信号全体の利得を大幅に上げる必要がある。しかし、生体内における臓器表面等の強反射体からの反射波が受信されると、受信信号の振幅が局所的に過大となって受信信号の振幅が飽和しつまり受信信号が歪むことになる。例えば、増幅後の受信信号の振幅がA/D変換器の入力レンジを超えると、あるいは、増幅器の線形動作域を超えると、そこで受信信号が歪み、装置内において高調波成分が生じてしまう。かかる高調波成分は、生体内の組織又は造影剤で生じた生体由来高調波成分とは区別されるべき余計な高調波成分であって、装置由来高調波成分と言い得る。
【0004】
装置由来高調波成分が生じると、高調波画像上に生体由来高調波成分と一緒に装置由来高調波成分も反映されてしまい、誤認等を生じさせる。例えば、造影剤の画像化に際しては、生体組織が画像化されないことあるいは強調表示されないことが望まれるが、組織境界等の強反射部位が存在すると、それが高調波画像上に現れることになり、あるいは、それが強調表示されてしまうという問題がある。その結果、そこに造影剤が存在すると誤認するおそれがある。受信部においては、複数の受信信号が整相加算されるので、個々のチャンネルで生じた不要な高調波成分も加算されて、高調波画像上においてそれがアーチファクトとして現れるのである。これを防止するために個々のチャンネルでの利得を一律に低く抑えると、生体由来高調波成分を十分に画像化できなくなる。
【0005】
上記の問題は高調波画像の表示時において特に問題となるが、通常の超音波画像(基本波成分画像)を表示する場合においても装置内での受信信号の飽和は回避すべき問題である。なお、受信信号が飽和した場合には個々の山状波形がクリップされて、受信信号が矩形波に近づくことになる。これを周波数軸上で見るならば奇数次高調波成分の増加として捉えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−135705号公報
【特許文献2】特許第4557579号公報
【特許文献3】特開2010−274111号公報
【特許文献4】特開2008−188266号公報
【特許文献5】特許第4597491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、受信信号に含まれる基本波成分と高調波成分の比を演算し、その比に基づいて利得を調整する超音波診断装置が開示されている。この装置は高調波画像の生成を行うものではなく、基本波成分と高調波成分の比を利用するのはサイドローブ低減のためである。特許文献2には、超音波診断装置において、増幅器の前段に低域周波数成分を低減するフィルタ(HPF)を設けることにより、基本波成分を減衰させて受信信号の歪みを防止する技術が開示されている。特許文献1,2には、装置内高調波成分の発生の可能性を表す情報を検出してそれを活用するような考え方は記載されていない。特許文献3−5にもそのような考え方は記載されていない。
【0008】
本発明の目的は、生体で生じた高調波成分以外の高調波成分が生じていることを的確に検知できるようにすることにある。あるいは、そのような不要な高調波成分が抑圧されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
望ましくは、超音波診断装置が、超音波の送受波により得られた受信データに基づいて超音波画像を形成する超音波画像形成部と、前記受信データに含まれる特定高調波成分を抽出する第1抽出手段と、前記受信データに含まれる参照成分を抽出する第2抽出手段と、前記特定高調波成分と前記参照成分とを比較することによって、前記受信データに装置由来高調波成分が含まれている可能性の有無又はその程度を示す状態信号を生成する比較手段と、を含む。
【0010】
上記構成によれば、受信データに含まれる特定高調波成分と参照成分との比較から、受信データに装置由来高調波成分が含まれている可能性又はその程度を示す状態信号が生成され、その状態信号を動作制御や表示処理に利用することが可能となる。すなわち、装置由来高調波成分が有する固有の特質に着目し、生体由来高調波成分の存在下にあっても、装置由来高調波成分の存在を的確に特定できるように、抽出条件が定められ、また比較対象としての参照信号が定められ、更に比較処理が遂行される。生成された状態信号は、動作制御及び表示処理の少なくとも一方に利用されるのが望ましい。
【0011】
望ましくは、前記超音波画像は前記受信データに含まれる生体由来高調波成分を反映した高調波画像であり、前記特定高調波成分は奇数次高調波成分であり、前記参照成分は基本波成分及び偶数次高調波成分の少なくとも一方である。望ましくは、前記特定高調波成分は三次高調波成分である。アナログ信号処理において受信信号波形が歪んだ場合、生体由来高調波成分とは異なり、奇数次高調波成分が強く出ることが判明しており、そのような現象を利用すれば、装置由来高調波成分の存在割合、つまり信号歪みの程度を評価することが可能となる。奇数次高調波成分として、三次高調波成分、五次高調波成分、七次高調波成分、等をあげることができるが、通常その中で三次高調波成分のパワーがもっとも大きいことからそれを観測対象とするのが望ましい。参照成分としては二次高調波成分であるのが望ましいが、基本波成分であってもよい。それらのミックスでもよい。比較に先立って必要に応じて両成分又は一方成分に対して係数乗算等の規格化処理を適用してもよい。例えば、そのような前処理を経た三次高調波成分及び二次高調波成分を比較し、両者の差分や比率が所定値を上回った回数をカウントし、そのカウント値がフレーム等の所定単位で一定数以上となった場合に表示処理や動作条件の変更を行うようにしてもよい。なお、特定高調波成分だけを単独で評価することも可能であるが、その場合には特定高調波成分として観測されているものが装置由来高調波成分なのか生体由来高調波成分なのかを判別困難となるから、同じ受信信号から比較対象が抽出されるのが望ましい。フレームの全体にわたって比較を行うのではなく一部についてそのような比較を行うようにしてもよい。
【0012】
望ましくは、前記状態信号に基づいて前記装置高調波成分が含まれている可能性の有無又はその程度を視覚的に表すインジケータを表示する表示処理手段を含む。この構成によれば、画像観察上の便宜を図ることができ、また、ユーザーに対して利得調整、ビーム偏向角度調整、等を促すことができる。
【0013】
望ましくは、前記状態信号に基づいて前記受信データの元になるアナログ受信信号の利得を制御する利得制御手段を含む。振幅の飽和つまり信号波形歪みの可能性がある場合に利得を自動的に下げるようにするのが望ましい。勿論、特定高調波成分の出方に応じて利得を上げる制御を行うようにしてもよい。従来のAGC(自動利得調整機能)は基本的に信号振幅それ自体に基づく利得調整であるが、上記構成は特定高調波成分の大きさに応じた利得調整であって、装置内で発生する不要高調波の低減を目的とする点で従来技術とは相違するものである。
【0014】
望ましくは、前記利得制御手段は更に受信点の深さに応じて前記アナログ受信信号の利得を制御する。これによれば深さに応じて且つ歪みの発生に応じて利得調整を行える。TGC制御あるいはSTC制御に上記状態信号を利用するものである。
【0015】
望ましくは、前記アナログ受信信号の変換により求められる前記受信データとしてのデジタル受信信号に対して前記アナログ受信信号の利得の抑制分を補償する利得補償を行う補償制御手段を含む。この構成によればアナログ処理という上流側で利得を下げた場合にその下げ分を下流側で補うことができるから、画像の明るさの変動を抑制できる。
【0016】
望ましくは、前記状態信号に基づいてビーム偏向角度を制御する手段を含む。この構成によっても歪みの発生を抑制することが可能である。特に境界上で生じる歪みの抑制に効果がある。なお、超音波画像と共に表示するインジケータが、文字等の表示、グラフ表示、等であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、受信信号中に生体で生じた高調波成分以外の高調波成分が生じていることを的確に検知できる。あるいは、そのような不要な高調波成分を抑圧できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る実施形態の原理を説明するための説明図である。
【図2】本発明に係る超音波診断装置の実施形態を示すブロック図である。
【図3】実施形態における表示例を示す図である。
【図4】幾つかの走査方式を示す図である。
【図5】状態信号の生成とその利用を説明するための図である。
【図6】深さに応じて変化する利得カーブを示す図である。
【図7】関心領域の設定を説明するための図である。
【図8】関心領域に応じた利得カーブを示す図である。
【図9】複数の偏向走査の組み合わせを示す図である。
【図10】関心領域に対する複数の偏向走査を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1には、本発明に係る実施形態の原理が概念的に示されている。図1において、符号10は受信信号を表している。この受信信号は生体に対して超音波を送波し、生体内からの反射波を受波することによって得られたものである。受信信号には高調波成分(生体由来高調波成分)が含まれている。その高調波成分は、具体的には、生体組織での超音波の反射時に生じたものであり、あるいは、生体内に入れられた超音波造影剤での反射時あるいはその破壊時に生じたものである。この受信信号に対しては、符号12で示されるように、アナログ信号処理が適用される。この場合において、受信信号の振幅が過大となって、それが信号処理レンジあるいは各回路の入力レンジを超えた場合、各回路上において信号が歪み、すなわち装置由来の高調波成分が発生してしまう。したがって、アナログ信号処理を経た受信信号には、生体由来高調波成分に加えて、装置由来高調波成分が含まれる可能性がある。そのような受信信号に対してはデジタル変換処理が適用された上で、各種のデジタル信号処理が適用される。
【0021】
以上のような信号処理を経たデジタル受信信号から、符号14で示されるように、高調波成分が抽出される。符号16で示すように、抽出された高調波成分に基づいて高調波画像が形成され、それが表示される。基本波成分に基づく通常の超音波画像(Bモード断層画像)が表示されてもよい。
【0022】
本実施形態では、符号14で示す高調波成分の抽出に際して、二次高調波成分、三次高調波が抽出されている。三次高調波成分は特定高調波成分15Aとして利用され、二次高調波成分は特定高調波成分15Aとの比較対象である参照成分15Bとして利用される。参照成分として基本波成分を利用することも可能である。装置内で信号波形が歪んだ場合においては、偶数次の高調波成分ではなく奇数次の高調波成分が増加することが判明しており、そのような現象を上手く使って、画像化に当たって不要な装置由来高調波成分を特定するものである。よって、奇数次の高調波成分であれば三次以外の他の次数の高調波成分を利用することができる。但し、一般に次数が大きくなればなるほどパワーが下がるので、通常は三次高調波成分が利用される。複数の奇数次高調波成分を利用してもよい。同様に、参照成分として、基本波成分と二次高調波成分を組み合わせたもの、それに更に別の偶数次成分を加えたもの、等を利用することができる。例えばバンドパスフィルタを利用して所定次数の高調波成分が個別的に抽出される。パルスモジュレーション法やパルスインバージョン法によって高調波成分(特に二次高調波成分等)が抽出されており、そのような技術をもちろん適用可能である。
【0023】
特定高調波成分と参照成分は符号15Cで示されるように相互に比較される。それに先立って、それぞれの成分(あるいは一方の成分)には必要に応じて前処理が適用される。例えば、生体由来成分だけが生じている場合に観測される二次高調波ピークと三次高調波のピークの差に相応する係数が三次高調波成分(あるいは二次高調波成分)に乗算される。もっとも、両者の比率を演算し、その比率の大小から装置由来高調波成分の有無及び程度を特定することもできる。いずれにしても、装置内で生じた高調波だけを精度よく検出できるように比較演算が実行される。なお、三次高調波成分の絶対量だけに基づいて制御を行うことも可能であるが、生体由来高調波成分も三次高調波成分を含んでいるので、装置由来高調波成分の特定精度を高めるには、三次高調波成分を他の成分と比較するのが望ましい。
【0024】
表示される高調波画像には、生体由来高調波成分の他に装置由来高調波成分が含まれる可能性があり、それが画像診断上の障害となったり誤認の原因となったりする可能性がある。そこで、本実施形態においては、アナログ信号処理回路に過大振幅をもった信号が生じていることを検知し、装置由来高調波成分の発生可能性の事実及びその程度を表す信号を生成するようにしている。それを以下においては状態信号と称している。
【0025】
状態信号は、表示処理(状態表示18)に利用される他、動作制御(条件変更20)において利用される。つまり、画像を観察したユーザーにおいて装置由来高調波成分が生じている状況を認識できるようにするためにそのような状況を示す表示がユーザーに提供される。装置由来高調波成分の発生、つまり信号波形の歪みそれ自体を防止又は軽減するために、ユーザーにおいて利得の調整やリニア走査されるビームの偏向角度の可変等が行われる。一方、そのような制御の自動化に当たっては、状態信号に基づいて自動的に送受信条件や信号処理条件が変更される。例えば、深さに応じて利得の可変を行う場合(TGC技術、STC技術)、装置内で三次高調波成分が生じないように各深さでの利得が調整される。あるいは、フレーム全体にわたって三次高調波成分が相対的に少なくなるようにビーム偏向角度が調整される。その他、諸条件を変更することによって信号歪みを防止又は改善することが可能である。
【0026】
なお、通常、生体組織境界面に対して超音波ビームが直角に設定された場合にそこでの反射強度が最大となり、そこで信号波形の歪みが生じやすい。逆に言えば、生体組織境界面に対する超音波ビームの入射角度を変更すればそこでの反射強度を弱めることができ、信号波形歪みを改善することが可能である。そのような観点からビーム偏向角度が可変される。
【0027】
図2には、実施形態に係る超音波診断装置がブロック図として示されている。この超音波診断装置は生体の超音波診断を行うものであって、病院等の医療機関に設置される。本実施形態においては、上述したように生体組織あるいは生体内コントラスト剤を表す高調波画像が表示される。
【0028】
アレイ振動子22は、図示されていない超音波プローブ内に配置されている。このアレイ振動子22は、本実施形態において直線的に配列された複数の振動素子24によって構成されている。本実施形態においては、電子リニア走査が適用され、アレイ振動子22により形成された超音波ビームが電子的に直線走査される。これにより2次元のデータ取込領域(ビーム走査面)が形成される。もちろん、本実施形態において3次元空間内において超音波ビームが走査されてもよい。また、他の電子走査方式が適用されてもよい。
【0029】
送信部26は送信ビームフォーマーであり、複数の振動素子24に対して遅延処理された複数の送信信号を供給する。これによって送信ビームが形成され、生体内の各深さから反射信号(エコー)が生じてそれが再び複数の振動素子24によって受波される。これによって複数の受信信号(アナログ受信信号)が生成される。
【0030】
受信部28は受信ビームフォーマーであり、複数の受信信号に対して整相加算処理を実行する。具体的には、受信部28は、複数の受信チャンネル処理回路30を備えている。各受信チャンネル処理回路30は、上流から下流にかけて設けられた、プリアンプ(初段アンプ)30A、可変利得アンプ(TGCアンプ)30B、フィルタ(ハイカットフィルタ)30C、A/D変換器30D、遅延器30E等を備えている。ここで、フィルタ30Cは必要に応じて設けられるものであり、また他の回路が設けられることもある。例えば基本波成分を抑圧するフィルタが設けられてもよい。A/D変換器30Dは、アナログ受信信号をデジタル受信信号に変換する回路であり、それがフィルタ30Cの前段に設けられてもよい。遅延器30Eは、FIFOメモリにより構成されている。そのような受信チャンネル回路の構成は一般的なものである。加算器32は、遅延処理後の複数のデジタル受信信号を加算する回路であり、これによりデジタル信号としてのビームデータが得られる。そのビームデータは信号処理部34へ出力されている。可変利得アンプ30Bは受信点深さによって利得を可変可能なアンプである。本実施形態では、深さ方向における三次高調波成分の発生度合いに応じて深さ方向の関数をなす利得カーブが可変設定されている。これについては後に説明する。
【0031】
信号処理部34は、検波器、利得調整器、対数変換器等の各種の信号処理回路により構成される。信号処理後のビームデータは抽出部36へ出力される。この抽出部36は図示の例において三次高調波成分を抽出するバンドパスフィルタ(BPF)36A及び二次高調波成分を抽出するバンドパスフィルタ(BPF)36Bを備える。すなわち、図示の例では、特定高調波成分として三次高調波成分が利用されており、参照成分として二次高調波成分が利用されている。参照成分として基本波成分を利用することも可能である。高調波成分の抽出に際しては、パルスモジュレーション法やパルスインバージョン法が適用されてもよい。その場合には時分割で取得された複数のビームデータ間において所定の演算が実行され、これによって高調波成分が抽出される。
【0032】
画像形成部38は、デジタルスキャンコンバータ(DSC)によって構成され、複数のビームデータから超音波画像を形成する。入力される情報が高調波成分であればそれを画像化した高調波画像が形成される。その場合、二次高調波成分を表した画像が形成されてもよいし、三次高調波成分を表した画像が形成されてもよいし、それらの両成分を表した画像が形成されてもよい。基本波成分を表した通常の超音波画像が形成されてもよい。形成された画像のデータが表示処理部40を介して表示部42へ送られ、表示部42において超音波画像が表示される。表示処理部40はグラフィックイメージを合成する機能等を備えており、超音波画像と一緒にグラフィックイメージ(特に後述するインジケータ)も表示される。
【0033】
本実施形態においては状態信号生成部44が設けられている。その状態信号生成部44は特定高調波成分(例えば三次高調波成分)と参照成分(例えば二次高調波成分)との比較に基づいて状態信号を生成するモジュールである。状態信号は、過剰振幅等を原因として装置内において信号波形歪みが発生している可能性の有無及びその程度を示す信号である。特定高調波成分と参照成分をそのまま直接比較することも可能であるが、それら両方又は一方にレベル調整用の係数を乗算する等の前処理を施した上でそれらを比較することも可能である。また、特定高調波成分を参照成分で除算して比率を求め、その比率の大小によって状態を評価することも可能である。望ましくは、二成分の比率や差分が所定値を超える場合に歪み発生を認定し、その所定値を超えた度合いから歪みの程度を認定するようにしてもよい。例えば、フレーム単位、ビーム単位、深さ区分単位又は関心領域単位で比率が所定値を超えた回数(頻度)を計数し、そのカウント値が一定値を超えた場合に看過できない歪みの発生を認定するようにしてもよいし、カウント値そのものを状態信号として利用することもできる。カウント値を利用すれば瞬時過大振幅を無視して画像上ある程度広がった(ある程度の面積をもって表示される)過大振幅を捉えることが可能である。比率と比較される所定値、及び、カウント値と比較される一定値(閾値)を深さ区分ごとに個別的に設定するのが望ましい。
【0034】
上記のように生成される状態信号は、符号48で示されるように表示処理部40へ出力され、表示処理部40では状態信号に基づいてグラフィックイメージを生成し、それと超音波画像とを合成した合成画像を生成する。グラフィックイメージは後に図3に示すインジケータを含む。また、上記のように生成される状態信号は、符号46で示されるように、制御部50へ送られ、制御における動作制御(特に過大振幅を緩和解消する利得可変)に利用されている。
【0035】
制御部50は図2に示される各構成の動作制御を行う制御部であり、それはCPUと動作プログラムにより構成されている。制御部50には操作パネル等によって構成される入力部52が接続されている。ユーザーはその入力部52を利用して、インジケータを見ながらビーム偏向角度を調整することにより、つまりインジケータ上において過大振幅が最低になるようにあるいは消失するようにビーム偏向角度を調整することが可能である。また他のパラメータを操作するようにしてもよい。超音波プローブの当接位置や当接角度を可変することにより過大振幅が発生している状態を解消あるいは軽減することも可能である。
【0036】
制御部50は、状態信号に基づいて受信チャンネルごとに受信信号の利得を制御する機能を備えている。具体的には、TGC用のアンプ30Bに対して深さに応じた且つ状態信号に応じたゲイン値を与えている。複数のアンプ30Bに対して共通のゲイン値が設定されているが、開口内の位置等に応じてゲイン値を変更することも可能である。このような利得可変制御により、アナログ信号処理系での過大振幅の発生、特に、高調波画像観察上において誤認を生じる不要高調波成分の発生を解消又は軽減することが可能となる。受信チャンネルごとに振幅抑制を行った上で、例えば、整相加算後のデジタル受信信号(ビームデータ)を処理する段階で利得補償を行うようにしてもよい。信号処理部34には制御部50からの利得補償用の制御信号が入力されている。かかる構成によれば入力段で絞った分を後段で補えるから画像全体の輝度が不必要に変動してしまう問題を解消又は軽減できる。
【0037】
図3に基づき表示処理部の作用を説明する。表示画面100内には超音波画像としての高調波画像102が表示されている。符号104は超音波ビームを表している。本実施形態においては電子リニア走査が適用されているため、超音波ビーム104は図3において水平方向に平行移動走査される。図3に示す例では、高調波画像102は例えばいずれかの血管(頚動脈等)105を表した画像であり、そこには血管105についての前壁の境界106Aと後壁の境界106Bとが表れている。ちなみに、ここにおいては前壁の方が高輝度に表示されている。そこでは過大振幅が発生し易い。
【0038】
表示処理部は、表示画面100上に、超音波画像102と共に、状態信号に基づくインジケータを表示している。インジケータは、本実施形態において、グラフ110と文字表示108とからなり、ここで文字表示108は装置由来高調波成分の発生を表す文字によって構成されている。上述したカウント値が一定の値を超えた場合に、そのような文字表示108が現れる。また、そのような状態において、一定の値を超えたレベルつまり度合いがグラフ110として表示される。それは棒グラフに相当するものであり、過大状態が発光セルの個数として表されている。
【0039】
したがって、ユーザーは、図3に示すようなインジケータを参照することにより、高調波画像の観察にあたって、本来的な組織由来の高調波成分以外の装置由来の高調波成分が混入している事実、及び、混入度合いを直感的に理解し、画像診断に役立てることが可能となる。このように、状態信号に基づく表示を行えば、本来的な高調波であるかあるいはそれ以外の要因による高調波であるのかを定量的に認識して、ユーザーの便宜を図ることが可能となる。過大振幅の抑圧はユーザーによって行うことが可能であるが、図2に示した構成では、制御部の作用によって自動的に過大振幅が抑圧されている。深さ区分ごとに状態値をインジケータとして表示するようにしてもよい。
【0040】
本実施形態では、装置由来高調波成分の検出に当たって、深さ区分ごとに異なる条件を設定可能であり、例えば、深さ区分ごとに上記カウント値と比較される閾値を個別的に設定することができる。あるいは、深さ区分ごとに利得あるいは利得変化を異ならせることが可能である。
【0041】
図4を用いて深さ方向に並ぶ複数の区間について説明する。(A)には電子リニア走査における走査面(フレーム)が示されている。その走査面は超音波ビーム104を電子走査方向にリニア走査することによって形成されたものであり、深さ方向に複数の区間として複数の矩形サブエリア200−206が設定されている。(B)にはコンベックス走査における走査面が示されている。その走査面は超音波ビーム104を円弧方向にリニア走査することによって形成される。その走査面は円弧状の頂辺を有する扇状の形状を有し、そこには深さ方向に複数の湾曲サブエリア208−212が設定されている。同様に、(C)には電子セクタ走査における走査面が示されている。その走査面は超音波ビーム104のセクタ走査によって形成される。それは扇状の形態を有し、そこには深さ方向に複数の湾曲サブエリア214、216が設定されている。いずれの走査方式においても区間ごとに異なる閾値を設定可能であり、また、区間ごとに異なる利得を定めることが可能である。つまり、状態信号に基づいて深さ方向に沿った利得カーブをカスタマイズすることが可能である。利得カーブについては後に図6等を用いて説明する。
【0042】
図5には、状態信号に基づく利得制御がブロック図として示されている。状態信号生成部44には、特定高調波成分(3f0)及び参照成分(f0又は2f0)が入力されている。比較器54は、それらを比較し、比較結果信号を生成する。例えば、両成分の差分や比率が比較結果信号として出力される。信号生成器56は、比較結果信号のカウントを行い、カウント値が一定値(閾値)を越えた場合に状態信号の値を過大振幅の発生を示すものに変化させる。また、カウント値が一定値を超えた程度によって状態信号の値の大きさを決定する。このように状態信号生成部44において状態信号が生成され、それが表示処理部及び制御部50へ出力される(符号46、48参照)。制御部50は、状態信号に基づいてTGC用のアンプ34の利得を可変する。従来においても深さに応じてアンプ34の利得が可変されていたが、本実施形態において、その可変と共に過大振幅の発生状況によって利得が可変されており、つまりアナログ受信信号処理において信号振幅がアナログ回路の信号処理レンジや入力レンジを超えないように制御が行われている。
【0043】
図6には利得カーブが示されている。横軸は深さ軸であり、縦軸はTGCアンプの利得を示している。例示された一般的な利得カーブ226に対して、本実施形態によれば状態信号によって過大振幅の可能性を示す抑圧カーブ228が生成され、利得カーブ226から抑圧カーブ228を減算することにより、実際に利用する利得カーブ230が生成される。もちろん、図6に示した各カーブは例示である。
【0044】
三次高調波成分に基づく利得の可変制御を関心領域内についてだけ適用することも可能である。図7に示すように走査面230上において組織断面232を囲むように矩形の関心領域234が設定された場合には、そのような関心領域を通過するビームライン上において図8に示すような利得カーブ246に従って利得が調整される。図示の例において、区間238が関心領域内に相当し、区間236,240が関心領域の前後に相当する。元の利得カーブ242に対して状態信号が示す部分的な抑圧カーブ244を作用させて実際に利用する利得カーブ246が生成される。この構成によれば注目する関心領域内においてだけ特別な利得制御を適用できる。
【0045】
過大振幅の発生を防止するため、特に組織境界での反射時に生じる強大エコーに起因する波形歪の発生を防止するために、ビーム偏向角度を可変することも可能である。この場合には、制御部において状態信号を参照しつつビーム偏向角度を試行的に可変し、最も状態信号が良好となるビーム偏向角度にてリニア走査を行うようにしてもよい。その場合、ビーム偏向角度の異なる複数のフレームを時分割で生成し、それらを合成することによって1枚の超音波画像を形成するようにしてもよい。図9において、符号112は超音波ビームを傾けない通常のリニア走査によって形成されたフレームを示しており、符号114,116はそれぞれビーム偏向角度をプラス側及びマイナス側に設定した場合におけるフレームを示している。それらを合成して超音波画像を形成するようにしてもよい。図10に示すようにそれぞれのフレームの設定に当たって関心領域118が含まれるように走査条件を定め、関心領域118についてだけ画像合成及び画像表示を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
22 アレイ振動子、28 受信部、30 受信チャンネル処理回路、32 加算器、34 信号処理部、36 高調波抽出部、40 表示処理部、44 状態信号生成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送受波により得られた受信データに基づいて超音波画像を形成する超音波画像形成部と、
前記受信データに含まれる特定高調波成分を抽出する第1抽出手段と、
前記受信データに含まれる参照成分を抽出する第2抽出手段と、
前記特定高調波成分と前記参照成分とを比較することによって、前記受信データに装置由来高調波成分が含まれている可能性の有無又はその程度を示す状態信号を生成する比較手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記超音波画像は前記受信データに含まれる生体由来高調波成分を反映した高調波画像であり、
前記特定高調波成分は奇数次高調波成分であり、
前記参照成分は基本波成分及び偶数次高調波成分の少なくとも一方である、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記特定高調波成分は三次高調波成分である、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項2記載の装置において、
前記状態信号に基づいて前記装置高調波成分が含まれている可能性の有無又はその程度を視覚的に表すインジケータを表示する表示処理手段を含む、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項2記載の装置において、
前記状態信号に基づいて前記受信データの元になるアナログ受信信号の利得を制御する利得制御手段を含む、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、
前記利得制御手段は更に受信点の深さに応じて前記アナログ受信信号の利得を制御する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項5記載の装置において、
前記アナログ受信信号の変換により求められる前記受信データとしてのデジタル受信信号に対して前記アナログ受信信号の利得の抑制分を補償する利得補償を行う補償制御手段を含む、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項2記載の装置において、
前記状態信号に基づいてビーム偏向角度を制御する手段を含む、ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−351(P2013−351A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134630(P2011−134630)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】