説明

超音波送受信装置

【課題】 マルチビーム送信を行う超音波送受信装置において、複数の超音波ビーム間の相対的な強度差を補正して、表示画面内において不自然な明るさの変化を目立たなくする。
【解決手段】 この超音波送受信装置は、1組の超音波トランスデューサにそれぞれ供給される1組の駆動信号に従って超音波ビームを形成する超音波用探触子1と、超音波用探触子から3つ以上の方向に複数の超音波ビームを同時に送信するための複数組の駆動信号の振幅をそれぞれの超音波ビームの送信方向に従って調整した後に複数組の駆動信号を複数の超音波ビームについて重ね合わせて得られる波形を表す1組の波形データを出力する波形データ出力手段32と、波形データ出力手段から出力される1組の波形データに基づいて1組の駆動信号を生成して1組の超音波トランスデューサにそれぞれ供給する複数の送信回路21とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送受信して生体内の臓器等を観察するために用いられる超音波送受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超音波診断装置や工業用の探傷装置等として用いられる超音波送受信装置においては、超音波の送受信機能を有する複数の超音波トランスデューサを含む超音波用探触子(プローブ)が用いられる。複数の超音波トランスデューサに複数の駆動信号をそれぞれ供給して、複数の超音波を合波することにより形成される超音波ビームによって被検体を走査し、被検体内部において反射された超音波エコーを受信することにより、複数の超音波トランスデューサから複数の受信信号がそれぞれ出力される。それらの受信信号に対して様々な信号処理を施すことにより、被検体に関する画像情報が得られ、これに基づいて、被検体に関する2次元又は3次元画像が再現される。
【0003】
また、被検体を走査して画像情報を得る際に、同時に複数の方向に複数の超音波ビームをそれぞれ送信するマルチビーム送信方式も検討されている。このマルチビーム送信方式によれば、1フレームの画像情報を得るために要する期間(フレーム期間)を短縮して、フレームレートを向上させることができる。
【0004】
関連する技術として、下記の特許文献1には、1回の送信について複数の超音波送信ビームを同時に生成できると共に、これらの周波数帯域に対応して受信の周波数帯域を変化させた複数の超音波受信ビームを生成する超音波診断装置が開示されている。この超音波診断装置においては、送信回路が、1回の送信について周波数帯域及び焦域並びに方向が異なる複数の超音波送信ビームを同時に生成可能に構成され、受信回路が、送信回路によって発生した複数の超音波送信ビームによる反射波を同時に受信して周波数帯域の異なる複数の超音波受信ビームを生成可能に構成され、送信回路には、測定条件を任意に選択するための入力手段及びこの入力手段で入力された測定条件を記憶する記憶手段が接続され、システム制御回路からの制御により上記入力された測定条件によって自動的に超音波送信ビーム及び超音波受信ビームの周波数帯域及び焦域並びに方向が制御される。
【0005】
また、下記の特許文献2には、任意の送波波形で探触子を駆動して被検体内に超音波を送波可能な超音波診断装置が開示されている。この超音波診断装置は、探触子に超音波送信信号を与える超音波送信回路の内部構成として、探触子のチャンネル毎に独立に任意の送波波形を作成すると共に、これらの送波波形で探触子を駆動する任意波形発生回路を複数個備えている。これにより、任意の送波波形で探触子を駆動して、被検体内に超音波を送波することができる。特許文献2の図6には、2方向同時送波の場合の送波タイミングが示されている。
【特許文献1】特開平8−38473号公報(第1頁、図1)
【特許文献2】特開平8−628号公報(第1頁、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなマルチビーム送信を行う超音波送受信装置において、例えば、第1の方向に向けて超音波ビームを発生させるための第1組の駆動信号と、第2の方向に向けて超音波ビームを発生させるための第2組の駆動信号と、第3の方向に向けて超音波ビームを発生させるための第3組の駆動信号とを単純に加算すると、超音波ビームの送信方向(走査角)によってビーム強度が不連続に変化してしまうことが、本願の発明者によって最近明らかになった。
【0007】
図8は、1本の超音波ビームを送信する場合における走査角による超音波ビームの強度変化を示しており、図9は、3本の超音波ビームを同時に送信する場合における走査角による超音波ビームの強度変化を示している。図8及び図9において、横軸には走査角をとり、縦軸には相対ビーム強度(リニア)をとっている。
【0008】
図8に示すように、1本の超音波ビームを送信する場合には、超音波ビームの送信方向が超音波用探触子の送信面と直交する場合、即ち、走査角が0°である場合に超音波ビームの強度が最大となり、走査角が0°から離れるにつれて超音波ビームの強度がなだらかに低下するシェーディングと呼ばれる現象が生じる。
【0009】
一方、図9に示すように、同時に第1〜第3の超音波ビームを送信して第1〜第3の走査範囲をそれぞれ走査する場合には、走査角が0°の近傍にある第2の走査範囲を走査する第2の超音波ビームの強度が、第1及び第3の走査範囲をそれぞれ走査する第1及び第3の超音波ビームの強度よりも、不連続的に増加してしまうという現象が生じる。この現象は、第1及び第3の超音波ビームを形成するための送信波のエネルギーの一部が、第1の超音波ビームと第3の超音波ビームとの間に挟まれている第2の超音波ビームに回り込むことによって生じると考えられる。この現象によって、画面の中心付近において超音波画像が不自然に明るくなってしまう。しかしながら、特許文献1及び特許文献2には、このような現象について述べられておらず、従って、その解決策についても記載されていない。
【0010】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、マルチビーム送信を行う超音波送受信装置において、複数の超音波ビーム間の相対的な強度差を補正して、表示画面内において不自然な明るさの変化を目立たなくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る超音波送受信装置は、1組の超音波トランスデューサを含み、1組の超音波トランスデューサにそれぞれ供給される1組の駆動信号に従って超音波ビームを形成して被検体に送信する超音波用探触子と、超音波用探触子から3つ以上の方向に複数の超音波ビームを同時に送信するために、複数の超音波ビームを発生させる複数組の駆動信号の振幅をそれぞれの超音波ビームの送信方向に従って調整した後に複数組の駆動信号を複数の超音波ビームについて重ね合わせて得られる波形を表す1組の波形データを出力する波形データ出力手段と、波形データ出力手段から出力される1組の波形データに基づいて1組の駆動信号を生成し、該1組の駆動信号を1組の超音波トランスデューサにそれぞれ供給する複数の送信回路とを具備する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マルチビーム送信を行う超音波送受信装置において、複数の超音波ビームを発生させる複数組の駆動信号の振幅をそれぞれの超音波ビームの送信方向に従って調整した後に複数組の駆動信号を複数の超音波ビームについて重ね合わせて得られる波形を表す1組の波形データに基づいて1組の駆動信号を生成することにより、複数の超音波ビーム間の相対的な強度差を補正して、表示画面内において不自然な明るさの変化を目立たなくすることができる。なお、本願においては、トランスデューサアレイを構成する1エレメント分のトランスデューサを、「超音波トランスデューサ」という。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波送受信装置の構成を示すブロック図である。この超音波送受信装置は、被検体に当接させて用いられる超音波用探触子(プローブ)1と、超音波用探触子1に接続された超音波送受信装置本体2とによって構成され、超音波用探触子1から被検体に向けて同時に3つ以上の方向に3つ以上の超音波ビームをそれぞれ送信し、被検体から反射された超音波エコーを受信して、超音波画像を生成する。
【0014】
超音波用探触子1は、2次元マトリックス状に配列されたN個の超音波トランスデューサ11を含むトランスデューサアレイ(「アレイトランスデューサ」ともいう)を内蔵している。これらの超音波トランスデューサ11は、信号線を介して、超音波送受信装置本体2に接続される。なお、2次元トランスデューサアレイの替わりに、1次元トランスデューサアレイを用いるようにしても良い。
【0015】
各々の超音波トランスデューサ11は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)に代表される高分子圧電素子等の圧電性を有する材料(圧電体)の両端に電極を形成した振動子によって構成される。また、近年において、超音波トランスデューサの感度及び帯域向上に寄与するとして期待が寄せられているPZNT(鉛、亜鉛、ニオブ、チタンを含む酸化物)単結晶を含む圧電材料を用いても良い。
【0016】
このような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電気信号を送って電圧を印加すると、圧電体が伸縮する。この伸縮により、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生し、これらの超音波の合成によって超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。これらの電気信号は、受信信号として出力される。
【0017】
超音波送受信装置本体2は、複数の切換回路20と、複数の送信回路21と、複数の受信回路22と、コンピュータ30と、記録部40と、表示部50とを含んでいる。
複数の切換回路20は、超音波の送信時において、超音波用探触子1に内蔵されている複数の超音波トランスデューサ11を複数の送信回路21にそれぞれ接続し、超音波の受信時において、超音波用探触子1に内蔵されている複数の超音波トランスデューサ11を複数の受信回路22にそれぞれ接続する。
【0018】
複数の送信回路21の各々は、D/Aコンバータと、A級パワーアンプとを含んでいる。D/Aコンバータは、コンピュータ30から供給される波形データに基づいて、超音波ビームのビームパターンに応じた遅延量を有する駆動信号を生成する。パワーアンプは、この駆動信号を増幅して、超音波用探触子1に供給する。
【0019】
複数の受信回路22の各々は、プリアンプと、TGC(time gain compensation:タイム・ゲイン・コンペンセーション)増幅器と、A/D(アナログ/ディジタル)変換器とを含んでいる。各々の超音波トランスデューサ11から出力される受信信号は、プリアンプによって増幅され、TGC増幅器によって、被検体内において超音波が到達した距離による減衰の補正が施される。
【0020】
TGC増幅器から出力される受信信号は、A/D変換器によってディジタル信号に変換される。なお、A/D変換器のサンプリング周波数としては、少なくとも超音波の周波数の10倍程度の周波数が必要であり、超音波の周波数の16倍以上の周波数が望ましい。また、A/D変換器の分解能としては、10ビット以上が望ましい。
【0021】
コンピュータ30は、記録部40に記録されているソフトウェア(制御プログラム)に基づいて超音波の送受信を制御する。記録部40としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、又はDVD−ROM等の記録媒体を用いることができる。コンピュータ30とソフトウェアとによって、走査制御部31と、波形データ生成部32と、位相整合演算部35と、表示画像演算部36とが、機能ブロックとして実現される。また、コンピュータ30は、送信メモリ33及び受信メモリ34を有している。
【0022】
走査制御部31は、超音波ビームの送信方向及び超音波エコーの受信方向を順次設定する。例えば、走査制御部31は、超音波用探触子1から送信される3つ以上の超音波ビームの方向を、互いに一定のオフセット量を保ちながら予め定められた走査方法に従って変化させるように、波形データ生成部32を制御する。
【0023】
波形データ生成部32は、走査制御部31の制御の下で、送信メモリ33に格納されている波形データを順次読み出し、マルチビーム送信における複数の超音波ビームの強度差を補正するために、波形データによって表される複数組の駆動信号の振幅を、それぞれの超音波ビームの送信方向に従って調整する。即ち、波形データ生成部32は、複数の超音波ビームを発生させる複数組の駆動信号に補正係数を掛けた後に、複数組の駆動信号を複数の超音波ビームについて重ね合わせ、これによって得られる波形を表す1組の波形データを生成して複数の送信回路21にそれぞれ出力する。これらの送信回路21は、1組の波形データに基づいて1組の駆動信号を生成し、超音波用探触子1に含まれている1組の超音波トランスデューサに供給する。
【0024】
あるいは、波形データ生成部32は、複数組の駆動信号の振幅をそれぞれの超音波ビームの送信方向に従って調整した後に複数組の駆動信号を複数の超音波ビームについて重ね合わせて得られる波形を表す1組の波形データを複数のビームパターンについて予め生成して記録部40に記録しておき、必要に応じて送信メモリ33に格納するようにしても良い。超音波ビームを送信する際には、波形データ生成部32が、走査制御部31の制御の下で、送信メモリ33に格納されている1組の波形データを順次読み出して複数の送信回路21にそれぞれ出力する。
【0025】
一方、受信メモリ34は、複数の受信回路22のA/D変換器から出力されるディジタルの受信信号を、超音波トランスデューサ毎に時系列に記憶する。位相整合演算部35は、走査制御部31において設定された受信方向に基づいて、記録部40に記録されている複数の受信遅延パターンの中から所定のパターンを選択し、そのパターンに基づいて複数の受信信号に遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、上記3つ以上の送信ビームについて、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線データが形成される。なお、受信フォーカス処理は、A/D変換の前、又は、TGC増幅器による補正の前に行うようにしても良い。
【0026】
表示画像演算部36は、位相整合演算部35によって形成された音線データに基づいて、画像データを生成する。表示部50は、例えば、CRTやLCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示画像演算部36によって生成された画像データに基づいて、超音波画像を表示する。
【0027】
次に、本実施形態に係る超音波送受信装置の動作について説明する。
図2は、超音波用探触子に内蔵されている複数の超音波トランスデューサの各チャンネルに供給される駆動波形と、それによって発生する超音波ビームとの関係を示す図である。図2の(a)は、位相の異なる第1組の駆動信号をそれぞれの超音波トランスデューサに供給することにより、走査角θ=−15°に向けて第1の超音波ビームが送信される状態を示している。図2の(b)は、位相の揃った第2組の駆動信号をそれぞれの超音波トランスデューサに印加することにより、走査角θ=0°に向けて第2の超音波ビームが送信される状態を示している。図2の(c)は、位相の異なる第3組の駆動信号をそれぞれの超音波トランスデューサに供給することにより、走査角θ=+15°に向けて超音波ビームが送信される状態を示している。
【0028】
図2の(d)は、図2の(a)〜(c)に示す駆動信号を合成することにより、走査角θ=−15°、0°、+15°に向けて第1〜第3の超音波ビームが同時に送信されることを示している。ここで、第1〜第3の超音波ビームは、第1〜第3の走査範囲をそれぞれ走査するものとする。例えば、第1の走査範囲を−30°〜−10°とし、第2の走査範囲を−10°〜+10°とし、第3の走査範囲を+10°〜+30°としても良い。
【0029】
図2の(d)に示すように、3組の駆動信号を合成することにより、3本の超音波ビームを同時に送信することができる。しかしながら、3本の超音波ビームについて同一振幅の駆動信号を合成すると、図9に示すように、第1及び第3の超音波ビームに挟まれた第2の超音波ビームの強度が、第1及び第3の超音波ビームの強度よりも不連続的に強くなってしまう。そこで、この例においては、図2の(b)に示す第2組の駆動信号の振幅が、図2の(a)及び(c)にそれぞれ示す第1組及び第3組の駆動信号の振幅よりも減少するように、これらの駆動信号の振幅を調整(補正)しておく。これにより、図3に示すように、第1〜第3の走査範囲をそれぞれ走査する第1〜第3の超音波ビームの強度をなめらかに連続させることができる。
【0030】
駆動信号の振幅を補正するために用いる補正係数は、以下のようにして求めることができる。まず、各々の超音波トランスデューサに対応する第i番目(i=1、2、・・・、M)のチャンネルにおける角度θに向けた超音波ビームを発生するための駆動波形x(θ)を用いて、全チャンネルにおける角度θに向けた超音波ビームを発生するための駆動波形ベクトルX(θ)を、次のように表す。
X(θ)=[x(θ),x(θ),・・・,x(θ)]
【0031】
また、第n回目の送信における超音波ビームの角度をθ(n)とする。例えば、−30°〜+29°の走査範囲を1°ピッチでカバーする場合には、θ(1)=−30°、θ(2)=−29°、・・・、θ(60)=29°となる。マルチビーム送信の場合には、1回の送信で3本の超音波ビームが同時に送信されるので、隣接する2本の超音波ビーム間の角度に相当するnの差をNOFFとし、それぞれの走査範囲に同時に送信されるそれぞれの超音波ビームを示す番号をmとすると(m=1,2,3)、第n回目の送信におけるそれぞれの超音波ビームの角度Φ(n)は、次式で表される。
Φ(n)=θ(n+NOFF×(m−1))
従って、それぞれの走査範囲における超音波ビームに対する補正係数をwとすると、第n回目の送信における3本の超音波ビームの合成駆動波形ベクトルY(n)は、次式で表される。
【数1】


【0032】
図4は、走査範囲毎に駆動信号の振幅を補正するために用いる補正係数を求める方法を示すフローチャートである。
ステップS11において、m=1,2,3について、w=1を設定しておく。ステップS12において、各送信方向のビームプロファイルが、測定又は計算によって求められる。その結果、図5に示すようなビームプロファイルが得られる。図5においては、第1〜第3の走査範囲が、超音波ビームの角度Φ(n)〜Φ(n)によって示されている。
【0033】
ステップS13において、図5に示すビームプロファイルの第2の走査範囲における超音波ビーム(中央ビーム)のピーク強度の平均値aが求められる。ステップS14において、図5に示すビームプロファイルの第1の走査範囲における超音波ビームのピーク強度の平均値bと、第3の走査範囲における超音波ビームのピーク強度の平均値bとを平均することにより、第1及び第3の走査範囲における超音波ビーム(周囲ビーム)のピーク強度の平均値bが求められる。
【0034】
ステップS15において、|a/b−1|が所定の値ε(例えば、0.05とする)よりも小さいか否かが判定される。|a/b−1|がεよりも小さい場合には、処理が終了し、そうでない場合には、処理がステップS16に移行する。ステップS16において、wにb/aが掛けられる。なお、w及びwは、「1」のままである。その後、ステップS12〜S15が繰り返されて、|a/b−1|がεよりも小さくなると処理が終了する。
【0035】
上記の例においては、第2組の駆動信号の振幅を第1組又は第3組の駆動信号の振幅よりも減少させたが、逆に、第1組又は第3組の駆動信号の振幅を第2組の駆動信号の振幅よりも増加させることによって、第1〜第3の走査範囲をそれぞれ走査する第1〜第3の超音波ビームの強度をなめらかに連続させるようにしても良い。
【0036】
あるいは、各送信方向のビームプロファイルに基づいて、第1組〜第3組の駆動信号の振幅を、それぞれの超音波ビームの送信方向に従って超音波トランスデューサのチャンネル毎に補正することにより、図6に示すように、第1〜第3の走査範囲をそれぞれ走査する第1〜第3の超音波ビームの強度をほぼ等しくするようにしても良い。
【0037】
その場合には、駆動信号の振幅を補正するために用いる補正係数を、以下のようにして求めることができる。それぞれの超音波ビームに対する補正係数をw(n)とすると、第n回目の送信における3本の超音波ビームの合成駆動波形ベクトルY(n)は、次式で表される。
【数2】


【0038】
図7及び図8は、チャンネル毎に駆動信号の振幅を補正するために用いる補正係数を求める方法を示すフローチャートである。以下の説明においては、角度θ方向の超音波ビームの強度をI(θ)とする。
図7のステップS21において、m=1,2,3について、w(n)=1を設定しておく。ステップS22において、各送信方向のビームプロファイルが、測定又は計算によって求められる。その結果、図5に示すようなビームプロファイルが得られる。図5においては、第1〜第3の走査範囲が、超音波ビームの角度Φ(n)〜Φ(n)によって示されている。
【0039】
ステップS23において、図5に示すビームプロファイルの第2の走査範囲における超音波ビーム(中央ビーム)のピーク強度の平均値aが求められる。ステップS24において、n=1,2,・・・,NOFFについて、第1及び第3の走査範囲における超音波ビームのピーク強度が、次式を用いて補正される。
【数3】


【0040】
図8のステップS25において、各送信方向におけるビームプロファイルが、測定又は計算によって再び求められる。ステップS26において、図5に示すビームプロファイルの第2の走査範囲における超音波ビーム(中央ビーム)のピーク強度の平均値aが求められる。ステップS27において、図5に示すビームプロファイルの第1の走査範囲における超音波ビームのピーク強度の平均値bと、第3の走査範囲における超音波ビームのピーク強度の平均値bとを平均することにより、第1及び第3の走査範囲における超音波ビーム(周囲ビーム)のピーク強度の平均値bが求められる。
【0041】
ステップS28において、|a/b−1|が所定の値ε(例えば、0.05とする)よりも小さいか否かが判定される。|a/b−1|がεよりも小さい場合には処理が終了し、そうでない場合には処理がステップS29に移行する。ステップS29において、n=1,2,・・・,NOFFについて、w(n)にb/I(Φ(n))が掛けられる。その後、ステップS25〜S28が繰り返されて、|a/b−1|がεよりも小さくなると処理が終了する。
以上においては、3本の超音波ビームを同時に送信する場合について説明したが、4本以上の超音波ビームを同時に送信する場合においても、本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、超音波を送受信して生体内の臓器等を観察するために用いられる超音波送受信装置において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波送受信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態における複数の超音波トランスデューサの各チャンネルに供給される駆動波形と、それによって発生する超音波ビームとの関係を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における第1〜第3の超音波ビームの強度の第1の例を示す図である。
【図4】第1の例において走査範囲毎に駆動信号の振幅を補正するために用いる補正係数を求める方法を示すフローチャートである。
【図5】第1の例のビームプロファイルにおけるピーク強度の平均値を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態における第1〜第3の超音波ビームの強度の第2の例を示す図である。
【図7】第2の例においてチャンネル毎に駆動信号の振幅を補正するために用いる補正係数を求める方法を示すフローチャートである。
【図8】1本の超音波ビームを送信する場合における走査角による超音波ビームの強度変化を示す図である。
【図9】3本の超音波ビームを同時に送信する場合における走査角による超音波ビームの強度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 超音波用探触子
2 超音波送受信装置本体
11 超音波トランスデューサ
20 切換回路
21 送信回路
22 受信回路
30 コンピュータ
31 走査制御部
32 波形データ生成部
33 送信メモリ
34 受信メモリ
35 位相整合演算部
36 表示画像演算部
40 記録部
50 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1組の超音波トランスデューサを含み、前記1組の超音波トランスデューサにそれぞれ供給される1組の駆動信号に従って超音波ビームを形成して被検体に送信する超音波用探触子と、
前記超音波用探触子から3つ以上の方向に複数の超音波ビームを同時に送信するために、複数の超音波ビームを発生させる複数組の駆動信号の振幅をそれぞれの超音波ビームの送信方向に従って調整した後に前記複数組の駆動信号を複数の超音波ビームについて重ね合わせて得られる波形を表す1組の波形データを出力する波形データ出力手段と、
前記波形データ出力手段から出力される1組の波形データに基づいて1組の駆動信号を生成し、該1組の駆動信号を前記1組の超音波トランスデューサにそれぞれ供給する複数の送信回路と、
を具備する超音波送信装置。
【請求項2】
前記波形データ出力手段が、第1の超音波ビームと第2の超音波ビームとに挟まれて送信される第3の超音波ビームを形成するための駆動信号の振幅を第1又は第2の超音波ビームを形成するための駆動信号の振幅よりも減少させた後に前記複数組の駆動信号を複数の超音波ビームについて重ね合わせて得られる波形を表す1組の波形データを出力する、請求項1記載の超音波送受信装置。
【請求項3】
前記波形データ出力手段が、第1の超音波ビームと第2の超音波ビームとに挟まれて送信される第3の超音波ビームを形成するための駆動信号の振幅よりも第1又は第2の超音波ビームを形成するための駆動信号の振幅を増加させた後に前記複数組の駆動信号を複数の超音波ビームについて重ね合わせて得られる波形を表す1組の波形データを出力する、請求項1記載の超音波送受信装置。
【請求項4】
前記波形データ出力手段が、複数の超音波ビームを発生させる複数組の駆動信号の振幅をそれぞれの超音波ビームの送信方向に従って超音波トランスデューサ毎に補正した後に前記複数組の駆動信号を複数の超音波ビームについて重ね合わせて得られる波形を表す1組の波形データを出力する、請求項1記載の超音波送受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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