説明

超音波送受波装置

【課題】船体の振動における送受波周波数成分を超音波送受波器の超音波振動子で受信しないようにして、S/N比の優れる超音波送受波装置を実現する。
【解決手段】超音波送受波器110は超音波振動子11とこれを覆うウレタン等の保護部材112とからなる。超音波送受波器110は船体タンク102を構成する壁部201に対して、取り付け板212、防音部材215、保持部材214からなる部材群により保持される。保持部材214は保護部材112と固有音響インピーダンスが異なる鉄を材質とし、取り付け板212も保持部材214と同じ材質からなる。防音部材215は保持部材214および取り付け部材212と異なる固有音響インピーダンスのクロロプレンゴムを材質とし所定の厚みdからなる。このように互いに接する部材同士の固有音響インピーダンスが異なり、中間の部材の厚みが適宜設定されることにより、境界面で送受波周波数成分を反射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、魚群探知機やソナー装置等で用いる超音波送受波装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶に装備される魚群探知機やソナー装置では、探知信号である超音波を海中の放射して、魚群等の物標や海底面からの反射波を受信することで探知を行う。このため、通常は超音波送受波器が船底に取り付けられており、当該超音波送受波器を用いて超音波の送信および反射波の受信を行っている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
船底への超音波送受波器の取り付け手段としては、船底内部に超音波送受波器を取り付けるためのタンクを設置する方法と、船底の外側(下方)に超音波送受波器取り付け用の船底タンクを取り付ける方法とがあり、いずれの方法であっても、結果的に船底(船体)に対して超音波送受波器を何らかの形で機構的に固定することとなる。
【0004】
図8は、従来の船底への超音波送受波器の取り付け構造を示す側面図である。本図では、船体101の船底の外側に船底タンク102を設置した場合を示す。
【0005】
船底タンク102は、鉛直壁201Aと底壁201Bとからなり、鉛直方向から見た形状が例えば楕円形状からなる円筒体の壁部201を有する。壁部201を構成する鉛直壁201Aは、溶接等により船底へ接合されている。壁部201を構成する底壁201Bは、当該底壁面201Bを鉛直方向(船底の方向)から見た中央の領域が開口している。開口部には、取り付け板202が設置されている。取り付け板202は、外周形状が底壁201Bの開口形状と略同じ円板形状であり、この底壁201Bの開口端の部分でボルトとナット等の固定機構により底壁201Bへ固定されている。取り付け板202は、円板形状の中央に、超音波送受波器110の送受波面の径よりも若干狭い内径からなる開口部を有する。
【0006】
超音波送受波器110は、ウレタン等の材質からなる保護部材112と、当該保護部材112内に設置された圧電素子からなる超音波振動子111とを備え、鉛直方向から見た形状が円形の円柱形状である。超音波送受波器110は、鉛直下方向を向く送受波面が、取り付け板202により鉛直下側から保持されることで、船体101の船底、船底タンク102、取り付け板202により形成されるタンク内空間200内に設置される。
【0007】
取り付け板202には、鉛直方向に延びる軸形状からなる複数のスペーサ203が取り付けられている。複数のスペーサ203の取り付け板202と反対側の端部には、押さえ板204が接続されている。押さえ板204は、超音波送受波器110の送受波面と対向する面と当接するように設置されている。この構成により、超音波送受波器110は、取り付け板202、押さえ板204、スペーサ203により、タンク内空間200内の所定位置に固定される。この際、従来の超音波送受波器110の取り付け機構では、例えば、船体101、船底タンク102、取り付け板202の全てが剛性の高い鉄(Fe)を材質として形成されている。
【0008】
ところで、このような超音波送受波装置が設置された船舶では、停止中のみではなく航行中にも探知を行う。航行中の場合、船体101を進行させるために、船体101内のエンジンを駆動させ、プロペラが回転すると、これらから発生する振動が船底タンク102、取り付け板202を介して超音波送受波器110に伝達する。このような機械的な振動が超音波送受波器110に伝達すると超音波振動子111に歪みが生じ、当該歪みの影響により受信信号中にノイズが現れる。このような課題を解決する技術として、特許文献2では、圧電素子を高剛性体で覆って固定する機構が用いられている。
【特許文献1】特開2000−241530号公報
【特許文献2】特開平6−3350909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年、船体壁の薄型化や船舶の航走速度の高速化等に伴い、上述のような船体に生じる振動が大きくなっている。このため、超音波送受波装置は、船体101で発生した振動の影響を受けやすくなってきている。現に、船体101で発生した機械的な振動を抑圧するため、船底タンク102、取り付け板202の間に緩衝材を設けたり、上述の特許文献2に開示された対策を設けるだけでは十分なノイズを抑制を行うことができなかった。
【0010】
本発明の目的は、上述の問題点を鑑みてなされたものであり、船体101で発生した振動の影響を大幅に抑制し、S/N比の優れる超音波送受波装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述のように、従来の各種技術では超音波送受波器のS/N比が改善されないため、発明者は、実験等により、次に示す事実を見いだした。
【0012】
すなわち、上述の機械的な振動は、人が体感できる程度の低周波数成分のみではなく、当該低周波から数十kHzオーダの高周波まで広い帯域に亘って分布している。そして、上述のような、所謂、振動の低周波数成分に対する対策により効果の生じない高周波数帯域に超音波送受波器の送受信する周波数帯域が存在することで、上述の振動による高周波成分を受信してしまう。また、上述の船体の高速化等とは別に、超音波送受波器の性能も近年向上しており、超音波送受波器で送受信可能な周波数が極狭い周波数帯域ではなく、数十kHzオーダの中心周波数に対して、4kHz〜5kHzの帯域幅を有するようになっている。このため、このような高性能な超音波送受波器では、振動の高周波成分をより広帯域で受信してしまうので、さらにS/N比が悪くなってしまう。
【0013】
したがって、このような新たに検知した事実に基づいて、本願発明は、以下に示す構成を用いて、前記課題の解決を行った。
【0014】
この発明は、超音波を発生する超音波振動子を備える超音波送受波器と、この超音波送受波器が装着される被装着体に超音波送受波器を装着する装着媒介部と、を備える超音波送受波装置に関するものである。この超音波送受波装置は、被装着体で発生した振動が装着媒介部を介して超音波送受波器に伝達される伝達経路内に、該振動の伝達方向に対して順に連接される複数の部分部材を有する。そして、この複数の部分部材の音響インピーダンスの差及び厚みを、超音波振動子が送受信する周波数帯域の高周波の振動が複数の部分部材の境界面で反射するように設定している。
【0015】
この構成では、複数の部分部材は、被装着体で発生した振動が超音波振動子へ伝達される経路内に設置される。複数の部分部材は、異なる固有音響インピーダンスからなる部分部材が隣接しあう形で連接される構造であるとともに厚みが適宜設定されていることで、部分部材の境界面により、振動の高周波成分が反射される。したがって、船体から伝達される振動の高周波成分は、超音波送受波器の超音波振動子には殆ど伝達されない。
【0016】
また、この発明の超音波送受波装置の複数の部分部材は、振動の伝達方向に対して順次連接する第1部分部材、第2部分部材、および第3部分部材の三つの部分部材からなる。そして、第1部分部材と前記第3部分部材とは、予め設定された固有音響インピーダンスを有する。第2部分部材は、高周波の波長と、第1部分部材および第3部分部材の固有音響インピーダンスと、第2部分部材の固有音響インピーダンスおよび厚みとから導かれる複数の部分部材での高周波の透過率を、予め設定した閾値以下になるように固有音響インピーダンスおよび厚みを設定する。
【0017】
この構成では、具体的な複数の部分部材の構成として、部分部材が三つである場合を示している。そして、三つの部分部材が連接される構造では、第1部分部材および第3部分部材の固有音響インピーダンスに対するこれらに挟まれた第2部分部材の固有音響インピーダンスと当該第2部分部材の厚みとにより、複数の部分部材における高周波の透過率が決まる。したがって、当該透過率を低下させるように、各固有音響インピーダンスおよび厚みを設定することで、振動における高周波成分が超音波振動子へ殆ど伝達しない。
【0018】
また、この発明は、超音波を発生する超音波振動子を備える超音波送受波器と、該超音波送受波器が装着される被装着体に超音波送受波器を装着する装着媒介部と、を備える超音波送受波装置に関するものである。この超音波送受波装置は、被装着体で発生した振動が装着媒介部を介して超音波送受波器に伝達される伝達経路内に、該振動の伝達方向に対して順に連接される第1部分部材、第2部分部材、および第3部分部材の三つの部分部材を少なくとも有する。そして、超音波振動子が送受信する周波数帯域の振動に対する、第1部分部材、第2部分部材、および第3部分部材からなる三層媒質構造の透過率を0.1以下とする。
【0019】
この構成では、複数の部分部材の具体例として三層媒質構造の場合を示す。そして、三層媒質構造において具体的に透過率が0.1以下となることで、振動における高周波成分が超音波振動子へ伝達しなくなる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、船体等の超音波送受波器が装着される被装着体の振動に含まれるノイズとなる高周波成分が超音波送受波器の超音波振動子で受信されない。これにより、超音波送受波器のS/N比を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の第1の実施形態に係る超音波送受波装置について、図を参照して説明する。
図1は、本実施形態の超音波送受波装置を搭載した船舶の超音波探知システムの構成を示す構成図である。このような構成の超音波探知システムとしては、例えば魚群探知機が挙げられる。
【0022】
船舶100の船体101の甲板上には操舵室が設置されており、船体101内に探知信号送受信装置120が設置され、操舵室内に表示操作装置130が設置されている。船体101の船底には、船底タンク102が船体101に対して溶接等により固定設置されている。船底タンク102内には、超音波送受波器110が設置されている。
【0023】
超音波送受波器110、探知信号送受信装置120、表示操作装置130は、伝送ケーブル150で接続されている。探知を行う場合、オペレータが表示操作装置130で探知実行操作を行うと、探知信号送受信装置120は、所定周波数(例えば、38kHz)のパルスバースト信号のような探知信号を生成して、超音波送受波器110へ与える。超音波送受波器110は、この探知信号を音響変換して、海中へ送信する。このような送信された超音波は、海中の物標や海底で反射して、超音波送受波器110で受信され、超音波送受波器110は、受信した超音波を電気信号である探知受信信号に変換する。探知信号送受信装置120は、探知受信信号に対して所定の探知検出用処理を行い、処理後のデータを表示操作装置130へ与える。表示操作装置130は、処理後のデータに基づいて探知結果を表示する。
【0024】
このような探知システムにおいて、超音波送受波器110は、次に示す構造により船底タンク102へ設置される。
【0025】
図2は、本実施形態の超音波送受波器の設置構造を示す図であり、図2(A)が設置構造を船底側から見た平面構成図であり、図2(B)が設置構造を側面視した側面断面構成図であり、図2(C)が当該設置構造の特徴部分を拡大した側面断面構成図である。なお、図2(B)と図2(C)はともに断面図であるが、構造的特徴を分かりやすくするために、それぞれ異なる断面で表している。
【0026】
まず、船体101に対して設置される超音波送受波器110は、円形状の超音波振動子111と、該超音波振動子111の全面を被覆する円柱形状の保護部材112とを備える。超音波振動子111は、円板形状を構成する一方の円形面が送受波面となり、当該送受波面と対向する円形面側に伝送ケーブル150が接続されている。保護部材112は、円柱形状の円形面が超音波振動子111の円形面と平行になるように形成されている。この保護部材112において、円形面(送受波面)側から見た略中央で、且つ、円形面に平行な側面から見て略中央から一方の円形面側に偏る位置に、超音波振動子111が設置されている。保護部材112は、海水に対する耐性を有し、海水(水)に対して固有音響インピーダンスが略同じ(1.7〜1.8(MPa/(m/s))程度)で、且つ外部から超音波振動子111へ与えられる衝撃を緩和可能なウレタン等の材質により形成されている。
【0027】
船体タンク102は、船体101の船底に対して略垂直な鉛直壁201Aと、船底に対して略水平な底壁201Bとからなる壁部201を有する。壁部201は、船体101方向から見た形状が楕円形状となる円筒形である。壁部201は鉄(Fe)等の高剛性の金属で形成されており、壁部201の鉛直壁201Aは、船体101に溶接等により接合されている。底壁201Bは、船体102方向から見た中央の領域が、超音波送受波器110の送受波面よりも大きい径で開口された円板形状である。底壁201Bは、開口部に沿って、取り付け板212を固定するための取付部が形成されている。取付部は、例えば、図2(A)に示すように、開口部の外周から開口部の中央方向へ所定長さ延びる小片部である。なお、図2(A)では、二箇所しか小片部を形成していないが、開口部の全周に亘り所定角度間隔(例えば30°間隔)で複数の小片部を形成しても良い。さらに、このような小片部を形成することなく、底壁201Bの本体部分に取り付け用のスペースを設けても良い。
【0028】
取り付け板212は、壁部201と同じ比較的固有音響インピーダンスの高い(46.8MPa/(m/s))材質である鉄(Fe)で形成されており、円板形状部212Aと鉛直部212Bとが一体形成されてなる。円板形状部212Aは、外周形状が底壁201Bの開口形状と略同じであり、その円板面の中央領域に開口部を有する。この開口部は、超音波送受波器110の送受波面の径よりも大きい径からなる。円板形状部212Aの外周端付近には複数の固定用孔が形成されており、当該円板形状部212Aの固定用孔と底壁201Bの取付部とを、ボルトとナットとの組み合わせにより締め合わせることで、取り付け板212は、壁部201へ固定される。鉛直部212Bは、円板形状部212Aの開口部側端近傍に円筒形状で形成されている。鉛直部212Bの円板形状部212Aとの接合側と反対の端部には、所定の角度間隔(図2の例であれば、30°間隔)で雄ネジが形成されている。
【0029】
保持板214は、船体101方向から見て中央に開口を有する円形状で、船体101方向に対して垂直な水平方向から見た断面が二段の水平に延びる部分とこれらを繋ぐ鉛直に延びる部分とで形成される構造を有する。この保持板214も、壁部201、取り付け板212と同様に、鉄(Fe)で形成されている。この保持板214の二段の水平に延びる部分における径の大きい方が第1水平部214Aであり、径の小さい方が第2水平部214Cであり、鉛直に延びる部が鉛直部214Bである。第1水平部214Aには、複数の取付用孔214Dが形成されており、これら複数の取付用孔214Dは、取り付け板212の鉛直部212Bの雄ネジと対応する位置に形成されている。第2水平部214Cに形成された開口の径は、超音波送受波器110の送受波面の径よりも小さく設定されている。鉛直部214Bは、第1水平部214Aと第2水平部214Cとを鉛直方向へ所定距離離間する形状であり、具体的には、第1水平部214Aを取り付け板212の鉛直部212Bに設置した状態で、第2水平部214Cと取り付け板212の円板形状部212Aとが鉛直方向の同位置となる形状で形成されている。このような形状の保持板214の開口部には、超音波送受波器110が設置される。この際、超音波送受波器110の送受波面における外周から内側へ向けた所定長さの円環領域が、保持板214により、船体101と反対側から当接して保持される。
【0030】
防音部材215は、ボビン形状からなり、中央に開口を有する円板状の第1端面板215A、第2端面板215Bと、これら第1、第2端面板215A,215B間に設置された円筒形の円筒部215Cとからなる。防音部材215に形成された第1、2端面板215A,215Bおよび円筒部215Cを貫く孔の径は、取り付け板212の鉛直部212Bの雄ネジの外径以上で略同等であり、円筒部215Cの外径は、保持板214の第1水平部214Aに形成された孔の径以下で略同等である。また、防音部材215は、第1、第2端面板215A,215Bおよび円筒部215Cの厚みdが一定になるように形成されている。防音部材215は、鉄と比較して固有音響インピーダンスが大幅に小さく(約2.3(MPa/(m/s))、海水に対する耐性も高いクロロプレンゴムにより形成されている。なお、以上の取り付け板212、保持板214、防音部材215と、超音波送受波器110とを組み合わせた構成が、本発明の「超音波送受波装置」に相当し、取り付け板212と保持板214とが、本発明の「装着媒介部」に相当し、取り付け板212、保持板214、防音部材215とが、本発明の「複数の部分部材」に相当する。
【0031】
このような構成の取り付け板212、保持板214、防音部材215の接続部は、図2(C)に示すような構造となる。すなわち、取り付け板212の鉛直部212Bの雄ネジの外周面には、防音部材215の貫通孔の内周面が当接する。この防音部材215の円筒部215Cの外周面には、保持板214の第1水平部214Aの孔の内面が当接する。さらに、保持板214の第1水平部214Aの二つの主面(水平方向に拡がる面)は、防音部材215の第1、第2端面板215A,215Bのそれぞれにより挟持されている。また、防音部材215の第1端面板215の鉛直下側の面は、鉛直部212Bの雄ネジの元部に当接している。また、この構造の元、取り付け板212と保持板214とは、直接接触しないように配置されている。このように、取り付け板212、保持板214、防音部材215が取り付けられた状態で、防音部材215の第2端面板の鉛直上側の面にワッシャWが配置され、さらに、ナットNが雄ネジに螺号されている。このような構成とすることで、取り付け板212と保持板214とが、防音部材215を介して固定設置される。
【0032】
スペーサ213は、円柱形状からなり、所定角度間隔で複数本設置されている。この際、各スペーサ213は、保持板214における、取り付け板212の鉛直部212Bの雄ネジ形成位置と異なる位置に固定設置されている。これら全てのスペーサ213は、保持板214と同じ鉄(Fe)で形成されている。
【0033】
押さえ板204は、鉄(Fe)を材質として形成されており、複数の長尺板から構成されたり、一枚の円板から形成されている。押さえ板204は、超音波送受波器110の送受波面と反対の船体101側の面に当接した状態で、各スペーサ213に対して固定される。
【0034】
以上のような構造を用いることで、超音波送受波器110は、タンク内空間200内において、船底タンク102に対して固定設置される。
【0035】
この構造において、船体101の航走中の振動が発生すると、当該振動が船体101、船底タンク102の壁部201を介して取り付け板212へ伝達する。船体101、船底タンク102および取り付け板212は同材質(鉄)で形成されているので、振動は殆ど減衰されることなく伝達する。取り付け板212まで伝達した振動は、次に、当該取り付け部材212、防音部材215、保持板214からなる所謂本発明の「複数の部分部材」に向かう。
【0036】
ここで、複数の部分部材は、上述のように振動の伝達方向に対して、当該取り付け部材212、防音部材215、保持板214の順に配列されており、固有音響インピーダンスでいえば、固有音響インピーダンスの高い鉄(46.8MPa/(m/s))、固有音響インピーダンスの低いクロロプレンゴム(2.3MPa/(m/s))、再度固有音響インピーダンスの高い鉄(46.8MPa/(m/s))の順に並ぶこととなる。さらに、固有音響インピーダンスの低いクロロプレンゴムからなる防音部材215の厚みdは、三層媒質構造の透過率の計算式である次式に基づいて設定される。
【0037】
【数1】

【0038】
ここで、Tpは透過率であり、λは振動における除去したい周波数に対応する波長である。また、Z1は取り付け板212の固有音響インピーダンス(46.8MPa/(m/s))、Z2は防音部材215の固有音響インピーダンス(2.3MPa/(m/s))、Z3は保持板214の固有音響インピーダンス(46.8MPa/(m/s))である。
【0039】
このような固有音響インピーダンスの設定を行った場合、厚みdにより、透過率Tpは変化する。図3は、本実施形態の構成を用いた場合の超音波振動子111の送受波周波数である38kHzの周波数波の透過率Tpの厚みdへの依存性を示す特性図である。この図3に示すように、透過率Tpは、厚みdを変化させることにより、約「1」から約「0」の間で変化する。そして、厚みdを決定する透過率閾値を例えば、「0.1」や、さらに「0」に近い「0.01」に設定し、当該透過率閾値以下となるように防音部材215の厚みdを決定する。この際、超音波送受波装置の大きさを加味して、出来る限り厚みdを薄く設定すると良い。例えば、上述の結果に基づいて、5mm程度にすると良い。また、超音波振動子111で送受信を行う周波数帯域に一定の帯がある場合(例えば、38kHz±2kHz)には、この周波数帯域における透過率が所定の閾値以下になるようにすればよい。
【0040】
このように、除去したい高周波成分、すなわち超音波送受波器110の超音波振動子111が送受信する周波数(送受波周波数成分と称する)に対して、取り付け部材212、防音部材215、保持板214の固有音響インピーダンスを決定するとともに、防音部材215の厚みdを決定することで、振動における送受波周波数成分が反射される。これにより、振動における送受波周波数成分が超音波送受波器110に伝達されない。
【0041】
この結果、超音波振動子111は、自身が送波して物標や海底から反射された超音波のみを受信して、振動における送受波周波数成分の影響を受けないので、S/N比の高い受信信号を得ることができる。
【0042】
図4は、本実施形態の構成を用いた場合と、用いない場合とでの探知結果を示した表示画面図であり、(A)が本実施形態の場合を示し、(B)が本実施形態の構成を用いなかった場合(図8参照)を示す。図4に示すように、本実施形態の構成を用いることで、用いない場合と比較して、ノイズレベルが低下し、目的とする物標や海底を、より鮮明に表示することができる。
【0043】
ところで、振動の伝達経路としては、取り付け板212からスペーサ213、押さえ板204を介して伝送する経路も考えられるが、スペーサ213が保持板214に接合しているので、スペーサ213にも振動の送受波周波数成分は伝達されない。したがって、振動の送受波周波数成分が押さえ板214を介して超音波送受波器110へ伝達することも防止できる。
【0044】
なお、当該送受波周波数成分とは異なる、所謂、人が体感可能な低周波数成分については、図示していないが既知の各種構造により減衰させることができる。
【0045】
次に、第2の実施形態に係る超音波送受波装置について、図5を参照して説明する。
【0046】
図5は、第2の実施形態に係る超音波送受波装置の構成を示す図である。
【0047】
本実施形態では、超音波送受波器110’の保護部材112内に防音部材220を挿入した構造を有し、超音波送受波器110’の保持構造は図8に示したものと同じである。
【0048】
防音部材220は、鉛直方向に沿って内径が一定の円筒形状の側壁と、当該側壁の鉛直方向の一方端に形成された円板形状の天面板とからなる構造を有する。そして、天面板が超音波振動子111の伝送ケーブル115側になるとともに、超音波振動子111に対して離間するように、保護部材112内に配置されている。側壁および天面板は、三層構造からなる。保護部材112に接する表層221,223は鉄等からなり、保護部材112に対して固有音響インピーダンスが異なる材質により形成されている。中間層222はクロロプレンゴム等からなり表層221,223に対して固有音響インピーダンスが異なる材質により形成される。この際、中間層222の厚みも、上述の第1の実施形態と同様の方法で決定される。
【0049】
防音部材220の側壁の天面板と反対側の端部は、超音波送受波器110’の送受波面に達するように側壁の形状が形成されており、これにより、保護部材112と中間層222とは直接接触しない。このような構成により、船体101から保護部材112まで伝達した振動の送受波周波数成分の超音波振動子111への伝達経路は、保護部材112、表層221、中間層222、表層223、保護部材112の順となる。しかしながら、上述のように、固有音響インピーダンスの異なる三層(表層221、中間層222、表層223)が伝送経路に直列に介在されて、中間層222の厚みが透過率に基づいて設定されているので、船体101から保護部材112に伝達された振動の送受波周波数成分は、この表層221、223、中間層222からなる防音部材220で反射、減衰されて超音波振動子11へは伝達されない。
【0050】
このように、本実施形態のような構成を用いても、超音波振動子111は、振動の送受波周波数成分を受信せず、高いS/N比を実現することができる。
【0051】
次に、第3の実施形態に係る超音波送受波装置について図6を参照して説明する。
【0052】
図6は第3の実施形態に係る超音波送受波装置の構成を示す図である。
【0053】
本実施形態では、図8に示した保持構造を維持しながら、押さえ板204と保護部材112との間、および取り付け板202と保護部材112との間に、それぞれ、防音部材230A、230Bをそれぞれ設置したものである。
【0054】
防音部材230Aは、固有音響インピーダンスが押さえ板204と異なるクロロプレンゴム等の第1層231Aと、クロロプレンゴムおよび保護部材112を構成するウレタンと異なる固有音響インピーダンスを有する第2層232Aとが層構造化された平板体からなる。一方、防音部材230Bは、固有音響インピーダンスが取り付け板202と異なるクロロプレンゴム等の第1層231Bと、クロロプレンゴムおよび保護部材112を構成するウレタンと異なる固有音響インピーダンスを有する第2層232Bとが層構造化された平板体からなる。ここで、防音部材230Aの第1層231Aと、防音部材230Bの第1層231Bとの厚みdは、上述の第1の実施形態の場合と同様に、送受波周波数成分の透過率に基づいて決定される。
【0055】
このような構成であっても、押さえ板204、防音部材203Aの第1層231A、第2層232Aにより、固有音響インピーダンスが異なる三層構造を実現することができる。また、取り付け板202、防音部材203Bの第1層231B、第2層232Bにより、固有音響インピーダンスが異なる三層構造を実現することができる。これにより、上述の第1の実施形態と同様に、船体101の振動の送受波周波数成分が反射されて、保護部材112へは伝達されない。この結果、超音波振動子111は、振動の送受波周波数成分を受信せず、高いS/N比を実現することができる。
【0056】
次に、第4の実施形態に係る超音波送受波装置について図7を参照して説明する。なお、本実施形態の超音波送受波装置は、ソナー装置に用いられる構成を示す。
【0057】
図7は、第4の実施形態に係る超音波送受波装置およびソナー装置の構成を示す図であり、(A)がソナー装置のシステム構成図であり、(B)が超音波送受波器310の取り付け構造を示し、(C)が(B)のより詳細な拡大図である。
【0058】
図7に示すように、本実施形態のソナー装置では、超音波送受波器310を船体101内に格納したり、船底から突出させたりできる構造を有する。このため、船体101には、超音波送受波器310を移動させる移動機構部320と、該移動機構部320と超音波送受波器310とを連結する軸311とが設置されている。なお、探知信号送受信装置120、表示操作装置130は、表示仕様、操作仕様、探知信号送受信仕様が異なるものの、基本的な概念としては第1の実施形態に示した探知信号送受信装置120、表示操作装置130と同じである。
【0059】
移動機構部320は、鉄等の高剛性の材質で形成されており、同じく鉄を材質とする円筒形状の取り付け部材331により船体101に固定される。移動機構部320と取り付け部材331との接続部には、移動機構部320および取り付け部材331と固有音響インピーダンスが異なるクロロプレンゴム等からなる防音部材330が設置されている。この防音部材330も上述の第1の実施形態と同様に振動の送受波周波数成分の透過率に基づいて厚みが設定されている。この防音部材330により移動機構部320と取り付け部材331とは直接接触しない。また、移動機構部320と取り付け部材331とは、ボルトBとナットNとによる締め付けにより固定されているが、図7(B)、(C)に示すように、これらボルトB及びナットNが、移動機構部320および取り付け部材331に直接接触しないように、防音部材330が設置されている。
【0060】
このような構造であっても、取り付け部材331、防音部材330、移動機構部320により、固有音響インピーダンスが異なる三層構造を実現することができる。これにより、上述の第1の実施形態と同様に、船体101の振動における送受波周波数成分が反射されて、移動機構部320および超音波送受波器310へは伝達されない。
【0061】
なお、上述の各実施形態では、固有音響インピーダンスの高い材質として鉄を利用し、固有音響インピーダンスの低い材質としてクロロプレンゴムを利用した例を示したが、これらの組み合わせに限ることなく、固有音響インピーダンスの異なる材質同士を組み合わせればよい。そして、これら複数の部分部材を構成する各部材の固有音響インピーダンスと、送受波周波数成分の透過率とに基づいて、複数の部分部材の中間の部分部材の厚みを適宜設定すればよい。この際、組み合わせる材質同士の固有音響インピーダンスの差は、少なくとも桁が異なる程度に大きければよい。また、本超音波送受波器が船舶用であるので、海水に対する耐性が高いもの同士を用いるとよい。
【0062】
また、上述の各実施形態は、本願の作用効果を奏する例であり、本質的には、船体で発生した振動における送受波周波数成分が超音波振動子に伝達する経路内に、接触し合う層同士の固有音響インピーダンスが異なる複数層からなり、中間の層の厚みが上述のように決定されている部材を挿入すればよい。したがって、このような構成を有する機構であれば、上述の各実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1の実施形態の超音波送受波装置を搭載した船舶の超音波探知システムの構成を示す構成図である。
【図2】第1の実施形態の超音波送受波器の設置構造を示す図である。
【図3】第1の実施形態の構成を用いた場合の送受波周波数における透過率Tpの厚みdへの依存性を示す特性図である。
【図4】第1の実施形態の構成を用いた場合と、用いない場合とでの探知結果を示した表示画面図である。
【図5】第2の実施形態に係る超音波送受波装置の構成を示す図である。
【図6】第3の実施形態に係る超音波送受波装置の構成を示す図である。
【図7】第4の実施形態に係る超音波送受波装置およびソナー装置の構成を示す図である。
【図8】従来の船底への超音波送受波器の取り付け構造を示す側面図である。
【符号の説明】
【0064】
100−船舶、101−船体、102−船底タンク、110−超音波送受波器、111−超音波振動子、112−低周波振動抑制体、120−探知信号送受信装置、130−表示操作装置、150−伝送ケーブル、200−タンク内空間、201−壁部、201A−鉛直壁、201B−底壁、202、212−取り付け板、212A−円板形状部、212B−鉛直部、203−スペーサ、204−押さえ板、214−保持部材、214A−第1水平部、214B−鉛直部、214C−第2水平部、215−防音部材、215A−第1端面板、215B−第2端面板、220−防音部材、221,223−表層、222−中間層、230A、230B−防音部材、310−超音波送受波器、311−軸、320−移動機構部、330−防音部材、331−取り付け部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を発生する超音波振動子を備える超音波送受波器と、
該超音波送受波器が装着される被装着体に前記超音波送受波器を装着する装着媒介部と、を備える超音波送受波装置において、
前記被装着体で発生した振動が前記装着媒介部を介して前記超音波送受波器に伝達される伝達経路内に、該振動の伝達方向に対して順に連接される複数の部分部材を有し、
前記超音波振動子が送受信する周波数帯域の振動が前記複数の部分部材の境界面で反射するように、前記複数の部分部材の固有音響インピーダンス及び厚みを設定したことを特徴とする超音波送受波装置。
【請求項2】
前記複数の部分部材は、前記振動の伝達方向に対して順次連接する第1部分部材、第2部分部材、および第3部分部材の三つの部分部材からなり、
前記第1部分部材と前記第3部分部材とは、予め設定された音響インピーダンスを有し、
前記第2部分部材は、前記高周波成分の波長と、前記第1部分部材および前記第3部分部材の音響インピーダンスと、前記第2部分部材の音響インピーダンスおよび厚みとから導かれる、前記複数の部分部材での前記高周波の透過率を、予め設定した閾値以下になるように音響インピーダンスおよび厚みを設定した、請求項1に記載の超音波送受波装置。
【請求項3】
超音波を発生する超音波振動子を備える超音波送受波器と、
該超音波送受波器が装着される被装着体に前記超音波送受波器を装着する装着媒介部と、を備える超音波送受波装置において、
前記被装着体で発生した振動が前記装着媒介部を介して前記超音波送受波器に伝達される伝達経路内に、該振動の伝達方向に対して順に連接される第1部分部材、第2部分部材、および第3部分部材の三つの部分部材を少なくとも有し、
前記超音波振動子が送受信する周波数帯域の振動に対する、前記第1部分部材、第2部分部材、および第3部分部材からなる三層媒質構造の透過率が0.1以下である、超音波送受波装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−300282(P2009−300282A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155759(P2008−155759)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】