説明

距離測定方法および距離測定装置

【課題】簡易な構成で、物標までの距離の測定精度を向上可能な距離測定方法および距離測定装置を提供する。
【解決手段】発光トリガ信号をきっかけに発光部から照射されたレーザ光の物標からの反射光を受光する受光部は、発光部からレーザ光が照射されるタイミングで、出力する電気信号に変動が生じるように構成されている。制御部では、測定部からトリガ信号が出力されてから、測定部にて検出される電気信号に最初に生じる電気信号の変動を第1変動信号、二番目に生じる変動を第2変動信号、第1変動信号が生じるまでの期間を第1期間、第2変動信号が生じるまでの期間を第2期間として、第1期間および第2期間の差を第1の距離測定時間として測定する(S110−S175)。続いて、第1の距離測定時間と予め定められた距離係数とを乗算した値を物標までの距離として算出する(S180)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物標までの距離を測定する距離測定方法および距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光、超音波、ミリ波等を送受信することによって、物標までの距離を測定する距離測定装置が知られている。これらの装置では、レーザ光等を照射してから物標に反射されて戻ってきた反射光を受けるまでに要した時間(以下「距離測定時間」という)を測定し、距離測定時間の半分とレーザ光等の伝播速度との乗算により物標までの距離を算出している。
【0003】
ところで、上記装置では、レーザ光等を照射するきっかけとなる信号(以下「トリガ信号」という)を出力した時点から戻ってきた反射光を装置内部にて検出した時間までを距離測定時間とすると、レーザ光等を照射する照射部およびレーザ光等を受光する受光部等における遅延時間が距離測定時間に含まれるため、実際より遠方に物標が存在するように測定されてしまうという問題があった。また、装置内部の遅延時間は温度により変動するため、物標までの距離の測定精度を向上するためには、温度ごとの遅延時間の変動を含めて距離測定時間を補正する必要があった。
【0004】
このような距離測定時間を補正する距離測定装置の一つとして、照射部から照射されるパルス状のレーザ光の一部を、恒温槽に設置された所定長の伝送路を経て、受光部の増幅回路に導く構成を備えるレーザレーダが知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
上記のレーザレーダでは、照射部から照射されるパルス状のレーザ光の一部が所定長の伝送路を伝播するために要する時間を測定すると、この測定値には装置内部の遅延時間が含まれる。このため、例えば上記レーザレーダにおいて、物標までの距離を測定するために要した時間と所定長の伝送路を伝播するために要した時間との差の半分にレーザ光の伝播速度を乗算し、伝送路の長さの半分を加算すれば、温度によらず物標までの距離を正確に検出することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−324145号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記レーザレーダでは、距離測定時間を補正して物標までの距離の測定精度を向上するために、モニタ回路や恒温槽内に設置された伝送路を備えるため、複雑な構成となり、装置が大型化するという問題があった。
【0008】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、簡易な構成で、物標までの距離の測定精度を向上可能な距離測定方法および距離測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた発明である請求項1に記載の距離測定方法は、トリガ信号をきっかけとして照射部からレーザ光を照射し、このレーザ光が物標に反射されて戻ってきた反射光を受光部にて受けて電気信号に変換し、トリガ信号が出力されてから受光部にて変換された電気信号に変動が検出されるまでの時間を測定部にて測定する距離測定装置を前提とするものである。ここで、受光部は、照射部からレーザ光が照射されたタイミングで、受光部から出力される電気信号に変動が生じるように構成されている。
【0010】
本発明の方法では、距離測定時間取得ステップにおいて、トリガ信号が出力されてから測定部にて最初に電気信号の変動が検出されるまでの期間を第1期間、2番めに電気信号の変動が検出されるまでの期間を第2期間として、第1期間および第2期間の差を第1の距離測定時間として取得する。
【0011】
また、距離算出ステップにおいて、距離測定時間取得ステップにより取得された第1の距離測定時間と予め定められた距離係数とを乗算した値を物標までの距離として算出する。ここで、「予め定められた距離係数」とは、例えばレーザ光の伝播速度の二分の一の値をいう。
【0012】
本発明の方法では、第1期間は装置内部の遅延時間に相当し、第2期間はレーザ光が物標まで往復するために要する時間と装置内部の遅延時間との合計に相当する。装置内部の遅延時間は温度により変動するが、この遅延時間は第1期間と第2期間との差を算出することにより相殺される。
【0013】
つまり、本発明の方法によると、第1期間と第2期間との差、すなわち第1の距離測定時間は装置内部の遅延時間の影響が除去されている値であるため、この値を用いることにより、物標までの距離を精度よく算出することができる。その結果、距離測定時間を補正するために従来のようにモニタ回路や伝送路を別途設ける必要がなくなり、簡易な構成で、物標までの距離の測定精度を向上することができる。
【0014】
次に、請求項2に記載の距離測定装置は、トリガ信号をきっかけとしてレーザ光を照射する照射手段、照射手段からレーザ光が照射されるタイミングで、出力する電気信号に変動が生じるように構成されるとともに照射手段から照射されたレーザ光が物標に反射されて戻ってきた反射光を受けて電気信号に変換して出力する受光手段、および、トリガ信号が出力されてから受光手段にて変換された電気信号に変動が検出されるまでの時間を測定するとともに電気信号の変動の大きさを測定する測定手段を備える。
【0015】
ここで特に、本発明の装置では、距離測定時間取得手段により、トリガ信号が出力されてから測定手段にて最初に検出される電気信号の変動を第1変動信号、二番目に検出される電気信号の変動を第2変動信号、トリガ信号が出力されてから測定手段にて第1変動信号が検出されるまでの期間を第1期間、第2変動信号が検出されるまでの期間を第2期間として、第1期間と第2期間との差を第1の距離測定時間として取得する。
【0016】
また、距離算出手段により、距離測定時間取得手段にて取得された第1の距離測定時間と予め定められた距離係数とを乗算した値を物標までの距離として算出する。
つまり、このように構成された本発明の装置は、上述の距離測定方法を実現するものであり、上述の距離測定方法を実現した場合と同様の効果が奏される。
【0017】
ところで、第1変動信号および第2変動信号は、いずれも時間的な広がりを有している。このため、物標までの距離が近く、第1変動信号と第2変動信号とが非常に短期間に生じると、これらの変動信号の波形が重なることが考えられる。第1変動信号および第2変動信号の波形が重なると、第1期間および第2期間の検出、ひいては第1の距離測定時間の取得が困難となる虞がある。
【0018】
このような場合は、本発明の装置では、例えば請求項3に記載のように、測定手段にて測定された第1変動信号の大きさが予め定められた閾値より小さい場合に第1の距離測定時間を取得するように、距離測定時間取得手段が構成されてもよい。ここで、「予め定められた閾値」とは、具体的には、想定される第1変動信号の最大値より大きい値をいう。
【0019】
また、上述のような場合、本発明の装置では、例えば請求項4に記載のように、測定手段にて測定された第1変動信号の大きさが予め定められた閾値以上である場合に、第1期間と予め定められたオフセット期間との差を第2の距離測定時間として取得するように距離測定時間取得手段が構成され、第2の距離測定時間と予め定められた距離係数とを乗算した値を物標までの距離として算出するように距離算出手段が構成されてもよい。
【0020】
ここで、「予め定められた閾値」とは、具体的には、上記発明と同様に、想定される第1変動信号の最大値より大きい値をいう。また、「予め定められたオフセット期間」とは、例えば、ある温度における装置内部の遅延時間を予め測定して装置に格納した値をいう。
【0021】
これにより、本発明の装置では、第1変動信号および第2変動信号の波形が重なる程度に物標までの距離が近い場合であっても、精度を大きく劣化させることなく物標までの距離を測定することができる。
【0022】
なお、本発明の装置では、照射部からレーザ光が照射されたタイミングで受光部から出力される電気信号に変動を生じさせるために、具体的には請求項5に記載のように、照射部からレーザ光が照射されたタイミングで受光部から出力される電気信号に変動が生じる程度に受光部が照射部に近接して配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態の距離測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態の距離測定装置において、第1変動信号および第2変動信号の波形を示すグラフである。
【図3】(a)は発光トリガの波形を説明する説明図であり、(b)は発光部から照射されるレーザ光の波形を説明する説明図であり、(c)は受光部にて受光する波形を説明する説明図であり、(d)は距離算出部に入力される波形(装置温度T=20℃)を説明する説明図であり、(e)は距離算出部に入力される波形(装置温度T=80℃)を説明する説明図であり、(f)は物標までの距離近い場合(装置温度T=20℃、物標までの距離d≒0m)に距離算出部に入力される波形を説明する説明図である。
【図4】実施形態の距離測定装置において、遅延時間の温度による変動を示すグラフである。
【図5】制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【図6】制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【図7】他の実施形態の距離測定装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[第1実施形態]
[全体構成]
本発明が適用されたレーザレーダの構成を図1に示す。本実施形態のレーザレーダ1は、図示しない車両に搭載して使用する。レーザレーダ1は、例えば車両のバンパーなど、車両前方空間を見渡すことが可能な位置に取り付けられる。
【0025】
レーザレーダ1は、車両前方の複数の方位をレーザ光によってスキャンする発光部10、発光部10から照射されたレーザ光の物標からの反射光を受光する受光部20、発光部10にてレーザ光が照射されてから受光部20にて反射光が受光されるまでの時間に基づき物標までの距離を算出する距離算出部30を備えている。
【0026】
発光部10は、レーザ光を発生させるレーザダイオード(LD)11と、距離算出部30から出力される発光トリガ信号ETrをきっかけとしてLD11にパルス状のレーザ光を発生させるLD駆動回路12と、を有している。また、発光部10は、LD11が発生させたレーザ光を発光レンズ13を介して物標の存在する方向へ照射するスキャナ機構部(SC)14を有している。スキャナ機構部14は、図示しないCPU(Central Processing Unit)からのSC駆動信号DS_SCに従ってスキャナ駆動回路15によってその動作を制御され、二次元的なビームスキャンを実現する。
【0027】
受光部20は、レーザ光を反射した物標からの反射光を集光する受光レンズ21と、受光レンズ21を介して受光した反射光の強度に応じた電圧値を有する電気信号を発生させる受光素子22と、受光素子22からの電気信号を増幅するアンプ23とを備えている。
【0028】
受光部20は、発光部10からレーザ光が照射されたタイミングで、出力される電気信号に変動が生じる程度に発光部10に近接して配置されている。具体的には、発光部10からレーザ光が照射されたタイミングで、図2において実線で示すように、受光部20から出力される電気信号に変動が生じる。
【0029】
図2において実線で示す波形は、外部から受光部20に光が入らないようにして距離算出部30から発光トリガ信号ETrを出力したときに、受光部20から出力される波形である。実線で示されている波形に0ns付近で生じている変動は、発光部10にてLD11からレーザ光が照射される際に生じるノイズが受光部20のアンプ23にて増幅されて変動として生じたものであると考えられる。LD11からレーザ光が照射されるタイミングで生じるこの変動を、以下では照射時変動信号という。
【0030】
なお、図2において破線で示す波形は、物標までの距離を6mとし、外部から受光部20に光が入るようにしてLD駆動回路12に発光トリガ信号ETrが入力されたときに、受光部20から出力される波形である。破線で示す波形において、0ns付近に生じている一番目の変動が照射時変動信号であり、その後に生じている二番目の変動は、レーザ光の物標からの反射光を受光したことにより生じる変動である。レーザ光の反射光により生じるこの変動を、以下では反射光変動信号という。
【0031】
図1に戻り、距離算出部30は、測定部40および制御部50を有する。測定部40は、CPUから入力されたLD駆動信号DS_LDに基づき、LD駆動回路12に発光トリガ信号ETrを出力する。受光部20から出力される電気信号は測定部40に入力される。測定部40は、発光トリガ信号ETrを出力する毎に、当該発光トリガ信号ETrと受光部20からの電気信号に生じる変動との位相差を表す位相差データ、すなわち発光トリガ信号ETrが出力されてから受光部20からの電気信号に変動が生じるまでの時間を表すデータを生成する。また、測定部40は電気信号の振幅を連続的に表す強度データを生成する。位相差データおよび強度データは、測定データとして後述する制御部50へ出力される。
【0032】
[測定データの詳細]
次に、測定データの詳細について説明する。
図3(a)−(d)に、発光トリガ信号ETr、発光部10から照射されるレーザ光SE、受光部20にて受光する信号SR、および距離算出部30に入力される信号Scalの波形を示す。
【0033】
時刻t0で発光トリガ信号ETrが出力されると(図3(a)参照)、時刻t1でレーザ光SEが照射される(図3(b)参照)。受光部20にて受光する信号SRでは、時刻t2で最初の変動が生じ、時刻t6で二番目の変動が生じる(図3(c)参照)。距離算出部30に入力される信号Scalでは、時刻t3で最初の変動が生じ、時刻t7で二番目の変動が生じる(図3(d)参照)。
【0034】
ここで、時刻t0から時刻t1までは、発光部10における遅延時間teに相当し、時刻t1から時刻t3までは、受光部20における遅延時間trに相当する。すなわち、発光トリガ信号ETrが出力された時刻t0から距離算出部30に入力される電気信号に最初に変動が検出される時刻t3までが、装置内部の遅延時間t_delayに相当する。
【0035】
また、発光トリガ信号ETrが出力された時刻t0から距離算出部30にて二番目の変動が検出される時刻t7までは、反射光の測定に要した時間としての反射光測定時間t_measに相当する。つまり、反射光測定時間t_measは、レーザ光が物標まで往復するために要する時間のほかに、装置内部の遅延時間t_delayを含んだ値である。
【0036】
装置内部の遅延時間t_delayおよび反射光測定時間t_measは、測定部40にて生成される位相差データに相当する。そして、測定部40に入力される信号Scalの振幅を連続的に表したものが、強度データに相当する。
【0037】
[測定データの温度変動]
なお、図2(d)は、一例として、装置温度が20℃のときの波形を示している。ここで、比較のため、装置温度が80℃のとき、距離算出部30に入力される信号Scalの波形を図3(e)に示す。図3(e)では、時刻t5で最初の変動が生じ、時刻t8で二番目の変動が生じる。
【0038】
参考のため、外部から受光部20に光が入らないようにし、装置温度を変化させて、発光トリガ信号ETrが出力されてから発光部10よりレーザ光SEが照射されるまでの時間t_SE、および、発光トリガ信号ETrが出力されてから距離算出部30に入力される信号Scalに最初に変動が生じるまでの時間t_delayを測定した結果を図4に示す。これらの時間の差は受光部20における遅延時間trに相当する。
【0039】
つまり、装置温度が変動すると、装置内部の遅延時間t_delayが変動する。
[物標までの距離が近い場合の測定データ]
ところで、照射時変動信号および反射光変動信号は、時間的な広がりを有している。このため、物標までの距離が近い場合、照射時変動信号と反射光変動信号とが重なることが考えられる(図3(f)参照)。照射時変動信号は、反射光変動信号より小さいため、照射時変動信号の検出が困難になることが考えられる。このような場合、発光トリガ信号ETrが出力されてから信号Scalに最初に生じる変動は、照射時変動信号ではなく、反射光変動信号となる。
【0040】
[制御部の構成]
制御部50は、CPU、ROM、RAM等により構成された周知のマイクロコンピュータからなる。制御部50では、上述のような測定データに基づき、物標までの距離を算出する距離測定処理がマイクロコンピュータ上で実行される(図1参照)。以下、詳細に説明する。
【0041】
[測距処理]
図5に示すフローチャートに沿って、距離測定処理を説明する。本処理は、距離算出部30にLD駆動信号が入力されることをきっかけとして実行される。
【0042】
なお、以下では、測定部40により発光トリガ信号ETrが出力されてから測定部40に入力される信号Scalに最初に生じる変動を第1変動信号S1、二番目に生じる変動を第2変動信号S2という。また、発光トリガ信号ETrが出力されてから第1変動信号S1が生じるまでの時間(発光トリガ信号ETrと第1変動信号S1との位相差)を第1期間T1といい、発光トリガ信号ETrが出力されてから第2変動信号S2が生じるまでの時間(発光トリガ信号ETrと第2変動信号S2との位相差)を第2期間T2という。
【0043】
最初のステップS110(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で示す)では、図示しないメモリに記憶されている距離係数K、オフセット期間R、および閾値Vmを読み出す初期設定を行う。
【0044】
続くS120では、発光部10のLD駆動回路12に測定部40から発光トリガ信号ETrを出力させる。
次にS130では、測定部40にて測定された位相差データから第1期間T1を取得する。
【0045】
続くS135では、測定部40にて測定された強度データから第1変動信号S1の最大値V1を取得する。
次にS140では、第1変動信号S1の最大値V1が閾値Vm以上であるか否かを判断する。具体的には、閾値Vm以上である場合に肯定判断する。ここで、閾値Vm以上であると判断した場合(S140:YES)、S170へ移行する。一方、閾値Vmより小さいと判断した場合(S140:NO)、S150へ移行する。ここで、閾値Vmは、想定される第1変動信号S1の最大値より大きい値である。
【0046】
つまり、第1変動信号S1の最大値V1が閾値Vmより小さい場合は、第1変動信号S1として照射時変動信号を検出しており、その後に第2変動信号S2として反射光変動信号を検出するものとして続く処理を実行する(図3(d)、(e)参照)。一方、第1変動信号S1の最大値V1が閾値Vm以上である場合は、物標までの距離が近い場合であり、第1変動信号S1として反射光変動信号を検出しているものとして続く処理を実行する(図3(f)参照)。
【0047】
閾値Vmより小さいと判断した場合に移行するS150では、測定部40にて測定された位相差データから第2期間T2を取得する。
続くS155では、第2期間T2から第1期間T1を減算した値を第1の距離測定時間Tcal_1として取得する。
【0048】
次にS160では、第1の距離測定時間Tcal_1を距離測定時間t_distとして、S180に移行する。
つまり、図3(d)、(e)において、第1期間T1はt_delayに相当し、第2期間T2はt_measに相当する。第2期間T2から第1期間T1を減算することにより、装置内部の遅延時間t_delayの影響が除去される。
【0049】
S140にて閾値Vm以上であると判断した場合に移行するS170では、第1期間T1からオフセット期間Rを減算した値を第2の距離測定時間Tcal_2として取得する。ここで、オフセット期間Rは、ある温度における装置内部の遅延時間を予め測定した値であり、装置のメモリに格納されている値である。
【0050】
続くS175では、第2の距離測定時間Tcal_2を距離測定時間t_distとして、S180に移行する。
つまり、S170における第1期間T1は、図3(f)におけるt´_measに相当する。t´_measは、発光トリガ信号ETrが出力されてから反射光変動信号が生じるまでの時間であるため、t´_measからオフセット期間Rを減算することにより、装置内部の遅延時間の影響が抑制される。
【0051】
S180では、距離係数Kと距離測定時間t_distとを乗算することにより、物標までの距離dを算出し、S190へ移行する。ここで、距離係数Kは、レーザ光の伝播速度の二分の一の値である。
【0052】
次にS190では、発光部10にて全ての方位がスキャンされたか否かを判断する。具体的には、全ての方位のスキャンが終了したと判断した場合に肯定判断する。ここで、全ての方位のスキャンが終了していないと判断した場合(S190:NO)、S120へ移行する。すなわち、全ての方位のスキャンが終了するまで、S120からS180までの処理を繰り返し実行する。一方、全ての方位のスキャンが終了したと判断した場合(S190:NO)、本処理を終了する。
【0053】
[効果]
以上説明したように、本実施形態のレーザレーダ1によると、第1期間T1は装置内部の遅延時間に相当し、第2期間T2はレーザ光が物標まで往復するために要する時間と装置内部の遅延時間との合計に相当する。装置内部の遅延時間は温度により変動するが、この遅延時間は第1期間T1と第2期間T2との差を算出することにより相殺される。
【0054】
つまり、本実施形態のレーザレーダ1によると、第1期間T1と第2期間T2との差、すなわち第1の距離測定時間Tcal_1は装置内部の遅延時間の影響が除去されている値であるため、この値を用いて物標までの距離を精度よく算出することができる。その結果、距離測定時間を補正するために従来のようにモニタ回路や伝送路を別途設ける必要がなくなり、簡易な構成で、物標までの距離の測定精度を向上することができる。
【0055】
また、本実施形態のレーザレーダ1では、第1変動信号S1および第2変動信号S2の波形が重なる程度に物標までの距離が近い場合であっても、精度を大きく劣化させることなく物標までの距離を測定することができる。
【0056】
[発明との対応]
本実施形態におけるレーザレーダ1が特許請求の範囲における「距離測定装置」に相当し、発光部10が特許請求の範囲における「照射手段」に相当し、受光部20が特許請求の範囲における「受光手段」に相当し、距離算出部30が特許請求の範囲における「測定手段」に相当し、発光トリガ信号ETrが特許請求の範囲における「トリガ信号」に相当する。
【0057】
また、本実施形態における制御部50が、特許請求の範囲における「距離測定時間取得手段」、「距離算出手段」を構成する。
また、本実施形態における距離測定処理のS110−S175が特許請求の範囲における「距離測定時間取得ステップ」に相当し、S180が特許請求の範囲における「距離算出ステップ」に相当する。
【0058】
[第2実施形態]
上記実施形態では、予め定められた複数の方位に順次レーザ光を照射してその反射光を受光する方式に対応するように発光部10および受光部20が構成されていたが、発光部および受光部は、予め定められた範囲にパルス状のレーザ光を照射してその反射光を一括して受光する方式に対応するように構成されてもよい。
【0059】
図6に示すレーザレーダ2では、発光部10は、予め定められた範囲、すなわち測定したい範囲にパルス状のレーザ光を照射する。
受光部60は、発光部10から照射されたレーザ光の物標からの反射光を受光部60にて受光する。受光部60は、複数の受光素子(CMOS、CCD等)を有する周知のイメージセンサからなる受光回路70と、受光素子にて光電変換された電気信号を増幅する複数のアンプを有する増幅回路80とを備えている。なお、レーザ光の照射範囲を車幅方向に複数に分割した領域を単位領域とすると、これらの単位領域からの反射光を個別に受光できるように、受光素子が一列に配置されている。
【0060】
受光部60にて受光された、これら複数の単位領域からの反射光、すなわち複数の方位からの反射光に基づく信号Scalは、距離算出部30の測定部40に設けられた図示しないメモリに入力される。制御部50は、メモリに入力された各方位からの反射光に基づく信号Scalを順次読み込み、物標までの距離を算出する距離測定処理を実行する。
【0061】
レーザレーダ2がこのように構成される場合、距離測定処理では、具体的には、図5のフローチャートのS190にて全方位の測定を終了していないと判断した場合(S190:NO)、S120ではなくS130に移行するように構成される。
【0062】
これにより、レーザ光の照射方式が異なる場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が奏される。
なお、本実施形態におけるレーザレーダ2が特許請求の範囲における「レーザレーダ」に相当し、受光部60が特許請求の範囲における「受光手段」に相当する。
【0063】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲にて様々な態様で実施することが可能である。
【0064】
(イ)上記第1実施形態では、距離測定処理において、一つの方位にレーザ光を照射するごとに第1期間T1すなわち装置内部の遅延時間を取得していたが、複数の方位にレーザ光を照射するごとに第1期間T1を取得する処理を実行するように構成してもよい。
【0065】
この場合、距離測定処理では、具体的には図7に示すように、図5のフローチャートのS120の後に、遅延時間を取得する周期であるか否かを判断するステップとしてS125を挿入するように構成される。S125では、遅延時間を取得する周期であると判断した場合、肯定判断する。つまり、S125にて遅延時間を取得する周期であると判断した場合(S125:YES)、S130へ移行し、S130にて第1期間T1を取得する。S125にて遅延時間を取得する周期でないと判断した場合(S125:NO)し、新たに第1期間T1を取得することなく、遅延時間を取得する周期において既に取得した第1期間T1の値を用いるものとしてS135へ移行する。
【0066】
これにより、方位を測定するごとに遅延時間を測定するのではなく、例えば、全方位のスキャンが終了するごとに一回、遅延時間を取得するというように、複数の方位を測定するごとに一回、遅延時間を取得するようにすれば、距離測定処理に要する時間を短縮することができる。結果として、上記実施形態と同様の効果が奏されることに加え、物標までの距離を測定するために要する時間の短縮を図ることができる。
【0067】
(ロ)上記(イ)の実施形態の距離測定処理は、予め定められた複数の方位に順次レーザ光を照射してその反射光を受光する方式のレーザレーダに対応するように構成されていたが、予め定められた範囲にパルス状のレーザ光を照射してその反射光を一括して受光する方式(図6参照)に対応するように構成されてもよい。
【0068】
この場合、距離測定処理において、具体的には図7に示すフローチャートのS190にて全方位の測定を終了していないと判断した場合(S190:NO)、S120ではなくS125に移行するように構成される。
【0069】
これにより、レーザ光の照射方式が異なる場合であっても、同様に物標までの距離を測定するために要する時間の短縮を図ることができる。
【符号の説明】
【0070】
1・・・レーザレーダ 2・・・レーザレーダ 10・・・発光部 20・・・受光部 30・・・距離算出部 60・・・受光部 ETr・・・発光トリガ信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリガ信号をきっかけとしてレーザ光を照射する照射手段と、前記照射手段からレーザ光が照射されるタイミングで、出力する電気信号に変動が生じるように構成されるとともに前記照射手段から照射されたレーザ光の物標からの反射光を受けて電気信号に変換し出力する受光手段と、前記トリガ信号が出力されてから前記受光手段から出力された電気信号に変動が検出されるまでの時間を測定するとともに電気信号の変動の大きさを測定する測定手段と、を備える距離測定装置における距離測定方法であって、
前記トリガ信号が出力されてから前記測定手段にて最初に検出される電気信号の変動を第1変動信号、二番目に検出される電気信号の変動を第2変動信号、前記トリガ信号が出力されてから前記測定手段にて前記第1変動信号が検出されるまでの期間を第1期間、前記第2変動信号が検出されるまでの期間を第2期間として、前記第1期間および前記第2期間の差を第1の距離測定時間として取得する距離測定時間取得ステップと、
前記距離測定時間取得ステップにて取得された前記第1の距離測定時間と予め定められた距離係数とを乗算した値を物標までの距離として算出する距離算出ステップと、
を備えることを特徴とする距離測定方法。
【請求項2】
トリガ信号をきっかけとしてレーザ光を照射する照射手段と、
前記照射手段からレーザ光が照射されるタイミングで、出力する電気信号に変動が生じるように構成されるとともに、前記照射手段から照射されたレーザ光が物標に反射されて戻ってきた反射光を受けて電気信号に変換し出力する受光手段と、
前記トリガ信号が出力されてから、前記受光手段にて変換された電気信号に変動が検出されるまでの時間を測定するとともに電気信号の変動の大きさを測定する測定手段と、
前記トリガ信号が出力されてから前記測定手段にて最初に検出される電気信号の変動を第1変動信号、二番目に検出される電気信号の変動を第2変動信号、前記トリガ信号が出力されてから前記測定手段にて前記第1変動信号が検出されるまでの期間を第1期間、前記第2変動信号が検出されるまでの期間を第2期間として、前記第1期間と前記第2期間との差を第1の距離測定時間として取得する距離測定時間取得手段と、
前記距離測定時間取得手段により取得された前記第1の距離測定時間と予め定められた距離係数とを乗算した値を物標までの距離として算出する距離算出手段と、
を備えることを特徴とする距離測定装置。
【請求項3】
前記測定手段により測定された前記第1変動信号の大きさが予め定められた閾値より小さい場合に、前記距離測定時間取得手段は、前記第1の距離測定時間を取得することを特徴とする請求項2に記載の距離測定装置。
【請求項4】
前記測定手段により測定された前記第1変動信号の大きさが予め定められた閾値以上である場合、
前記距離測定時間取得手段は、前記第1期間と予め定められたオフセット期間との差を第2の距離測定時間として取得し、
前記距離算出手段は、前記距離測定時間取得手段により取得された前記第2の距離測定時間と前記距離係数とを乗算した値を物標までの距離として算出することを特徴とする請求項2に記載の距離測定装置。
【請求項5】
前記受光手段は、前記照射手段からレーザ光が照射されたタイミングで前記受光手段から出力される電気信号に変動が生じる程度に、前記照射手段に近接して配置されていることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の距離測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−229988(P2012−229988A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98358(P2011−98358)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】