説明

路面標示用塗料の溶解装置

【課題】溶解釜1aの加熱方式として誘導加熱方式を採用した、路面標示用塗料の溶解装置であって、機能面に関する有利な効果を十分に得られる構造を実現する。
【解決手段】前記溶解釜1aの底壁部8aを誘導加熱する為の底壁部用コイル14a、14bと、同じく周壁部9aを誘導加熱する為の周壁部用コイル15a、15bとを設ける。これと共に、これら各コイル14a、14b、15a、15bへの通電を、互いに独立して行える機能を設ける。更に、必要に応じて、塗料吐出用パイプ6aを加熱する為の面状ヒータ29を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、区画線等の路面標示の施工に用いられる路面標示用塗料を加熱溶解する為の溶解装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
路面標示用塗料(以下、単に「塗料」と言う場合がある。)は、初めは粉体状であり、区画線等の路面標示の施工を行う際には、加熱溶解された状態で用いられる。即ち、当該施工を行う際には、搬送車両(トラック)の荷台に載せて施工現場まで搬送した溶解装置の溶解釜内で粉体状の塗料を加熱溶解した後、これを線引き用の施工装置の容器内に移し替える。そして、この施工装置を路上で走行させながら、当該塗料を用いて路面に区画線等を描く。
【0003】
又、上述の様な路面標示用塗料の溶解装置として従来から、図8に略示する様な構成を有するものが広く使用されている。この図8に示した溶解装置は、有底円筒状の溶解釜1と、この溶解釜1の下方に設置された、加熱機であるガスバーナー2と、この溶解釜1の内部に配置された撹拌羽根3を有する撹拌機4とを備える。この様な溶解装置を使用する場合には、前記溶解釜1の上部に設けた、塗料投入用の開閉蓋5を開放して、この溶解釜1の内部に粉体状の塗料を投入する。そして、当該塗料を前記撹拌羽根3により撹拌しながら、前記ガスバーナー2により前記溶解釜1の底面を加熱する事で、当該塗料を溶解する。その後、この溶解釜1の下端部に存在する塗料吐出用パイプ6の開閉ゲート7を開放する事により、この塗料吐出用パイプ6を通じて、前記加熱溶解された塗料を吐出し、上述した線引き用の施工装置の容器内に注ぎ込む。
【0004】
上述した様な従来の溶解装置には、以下に述べる様な幾つかの問題点がある。
先ず、搬送車両の荷台に、前記ガスバーナー2に燃料を供給する為のLPガスボンベを載せる必要がある為、搬送時に注意を要する。又、使用時に、前記溶解釜1以外の部分への伝熱や周囲への放熱が多く、この溶解釜1以外の部分や周囲が高温になる為、作業環境が良いとは言えない。又、前記ガスバーナー2の使用に伴い、二酸化炭素が多く排出される為、二酸化炭素の排出抑制を推進する観点から、好ましくない。
【0005】
又、前記ガスバーナー2による前記溶解釜1の加熱効率は余り高くない為、この溶解釜1の内部に投入した塗料の溶解速度を十分に高める事が難しく、必要量の塗料を加熱溶解するのに長時間を要する場合がある(例えば、300kgの塗料を加熱溶解するのに、優に1.5時間以上は掛かる)。更に、安全面に関する規制によって、搬送車両の走行中は前記ガスバーナー2を使用する事ができない為、塗料の溶解作業は、搬送車両が施工現場に到着してから開始する必要がある。従って、施工現場での塗料の溶解待ち時間が長くなり、施工作業の段取りが悪くなる。
【0006】
又、前記溶解釜1の内部に投入した塗料の溶解作業及び溶解後の保温作業を行う際には、当該塗料の変質、変色、更には焦げ付きが生じる事を防止すべく、当該塗料の温度を最適温度に維持する為の温度管理を行う必要がある。ところが、当該温度管理を、メインバーナーのON/OFFの切り換え制御によって自動で行う場合には、大まかな(20℃程度の幅を持った)温度調整しか行えない為、当該温度管理を適切に行う事が難しい。これに対して、当該温度管理を、作業者が前記ガスバーナー2の火力を調節する事によって手動で行う場合には、細かい温度調整を行える為、当該温度管理を適切に行える。但し、この様に当該温度管理を手動で行う場合には、熟練を要する上に、作業者が付きっきりで温度調整を行わなければならない為、作業負担が大きくなる。
又、前記ガスバーナー2の火力によって、前記溶解釜1の底壁部8だけでなく、周壁部9までも加熱される為、特にこの溶解釜1の内部に存在する塗料の量が少ない場合には、前記周壁部9の内面で塗料の焦げ付きが生じ易い。
【0007】
一方、特許文献1には、溶解装置を構成する溶解釜の加熱方式として、誘導加熱方式を採用できる点が記載されている。この誘導加熱方式を採用した溶解装置の場合には、上述したガスバーナーによる加熱方式を採用した溶解装置に比べて、安全面や機能面に関して有利な効果を得られると考えられるが、かかる効果の数や度合いは、具体的な構成の選び方によって異なってくると考えられる。しかしながら、前記特許文献1には、誘導加熱方式を採用した溶解装置の具体的な構成が記載されていない為、上述した有利な効果を、より多く、より十分に得られる構成を実現する事が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−336615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、誘導加熱方式を採用した溶解装置に関して、ガスバーナーによる加熱方式を採用した溶解装置に比べて、安全面や機能面に関して有利な効果を、より多く、より十分に得られる構成を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の路面標示用塗料の溶解装置は、溶解釜と、加熱機と、撹拌機とを備える。
このうちの溶解釜は、円筒状の周壁部の下端部を底壁部で塞いだ有底円筒状に造られたもので、下端部に塗料を吐出する為の塗料吐出用パイプを接続固定している。
又、前記加熱機は、前記溶解釜を加熱する機能を有するものである。
又、前記撹拌機は、前記溶解釜の内部で塗料を撹拌する機能を有するものである。
特に、本発明の路面標示用塗料の溶解装置に於いては、前記加熱機は、前記底壁部の下面に対向する位置に配置された、この底壁部を誘導加熱する為の誘導加熱コイルである、底壁部用コイルと、前記周壁部の外周面に対向する位置に配置された、この周壁部を加熱する為の誘導加熱コイルである、周壁部用コイルとを有し、且つ、これら両コイルへの通電を互いに独立して行える機能を有する。
【0011】
本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した発明の構成を採用する。即ち、加熱機が、水平方向に関して互いに異なる位置に配置された複数個の底壁部用コイルを有すると共に、これら各底壁部用コイルへの通電を互いに独立して行える機能を有する、と言った構成を採用する。
【0012】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項3に記載した発明の構成を採用する。即ち、加熱機が、高さ方向に関して互いに異なる位置に配置された複数個の周壁部用コイルを有すると共に、これら各周壁部用コイルへの通電を互いに独立して行える機能を有する、と言った構成を採用する。
【0013】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の構成を採用する。即ち、加熱機が、底壁部用、周壁部用各コイルに加えて、塗料吐出用パイプを加熱する為のパイプ用電気加熱手段を有する、と言った構成を採用する。
ここで、電気加熱手段とは、電気エネルギを熱エネルギに変換して加熱を行う方式の加熱手段を言い、前記パイプ用電気加熱手段としては、誘導加熱コイル、抵抗発熱体等を採用する事ができる。
尚、前記パイプ用電気加熱手段への通電は、前記底壁部用、周壁部用各コイルへの通電と独立して行える様にする事もできるし、或いは連動して行える様にする事もできる。
【0014】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項5に記載された発明の様に、温度センサと、制御器とを付加する。そして、このうちの温度センサを、溶解釜の内部に存在する塗料の温度を検出する機能を有するものとする。又、前記制御器を、前記温度センサにより検出した、前記溶解釜の内部に存在する塗料の温度(より好ましくは、当該塗料の温度に加えて、測量センサにより検出した、又は、作業者が前記制御器に入力した、当該塗料の量や、外気温センサにより検出した外気温)に基づき、当該温度が予め設定した温度になる様に、加熱機を構成する底壁部用、周壁部用各コイルへの通電(より好ましくは、これら底壁部用、周壁部用各コイルへの通電に加えて、パイプ用電気加熱手段への通電や、撹拌機の運転状態)を制御(プログラミング制御)する機能を有するものとする。
【発明の効果】
【0015】
上述の様に構成する本発明の路面標示用塗料の溶解装置の場合には、溶解釜の加熱方式が誘導加熱方式であり、LPガス(燃料)を使用しない為、搬送車両(トラック)の荷台にLPガスボンベを載せる必要がない。従って、搬送時の安全性を向上させる事ができる。又、使用時には、溶解釜を集中して加熱できると共に、周囲への放熱が少ない為、溶解釜以外の部分や周囲の温度が殆ど上昇しない。従って、作業環境が良好になり、使用時の安全性を向上させる事ができる。又、ガスバーナーによる加熱方式に比べて、溶解釜の加熱時の二酸化炭素の排出量を少なくできる為、二酸化炭素の排出抑制を推進する観点から、好ましい。
【0016】
又、溶解釜を直接加熱する誘導加熱方式である為、この溶解釜の加熱効率を高くできる。従って、粉体状の塗料の溶解速度を十分に高める事ができ、この粉体状の塗料の溶解時間を十分に短縮できる。更に、溶解釜の誘導加熱は、搬送車両の走行中でも規制される事なく安全に行える為、粉体状の塗料の溶解作業は、搬送車両が施工現場に到着する以前から開始できる。従って、施工現場での塗料の溶解待ち時間を短縮若しくは完全になくして、施工作業の段取りを良くする事ができる。
【0017】
又、底壁部用コイルへの通電(溶解釜の底壁部の誘導加熱)と、周壁部用コイルへの通電(溶解釜の周壁部の誘導加熱)とを、互いに独立して行える為、溶解釜の内部に投入した塗料の溶解作業及び溶解後の保温作業を、当該塗料の量に合わせて、消費電力の無駄を少なく効率的に行える。即ち、これら各作業は、当該塗料の量が少ない場合には底壁部のみを加熱する事によって、当該塗料の量が多い場合には底壁部と同時に周壁部を加熱する事によって、それぞれ消費電力の無駄を少なく効率的に行える。又、当該塗料の量が少ない場合に周壁部の加熱を抑制若しくは停止する事で、この周壁部の内面で当該塗料の焦げ付きが生じる事を防止できる。
【0018】
又、底壁部用コイルへの通電(溶解釜の底壁部の誘導加熱)と、周壁部用コイルへの通電(溶解釜の周壁部の誘導加熱)とを、互いに独立して行える為、例えば請求項5に記載した発明の様に、当該塗料の温度管理を自動で行う場合でも、細かい温度調整(例えば1℃単位の温度調整)を行う事が可能となり、当該温度管理を適切に行う事が容易となる。
【0019】
又、請求項2に記載した発明の構成を採用すれば、水平方向に関して互いに異なる位置に配置された複数個の底壁部用コイルへの通電(溶解釜の底壁部のうち、これら各底壁部用コイルが対向する部分の誘導加熱)を、互いに独立して行える為、溶解釜の内部に投入した塗料の溶解作業及び溶解後の保温作業を、当該塗料の量に合わせて、より効率的に行える。又、これら各作業を行う際の温度管理を自動で適切に行う事が、より容易になる。
【0020】
又、請求項3に記載した発明の構成を採用すれば、高さ方向に関して互いに異なる位置に配置された複数個の周壁部用コイルへの通電(溶解釜の周壁部のうち、これら各周壁部用コイルが対向する部分の誘導加熱)を、互いに独立して行える為、溶解釜の内部に投入した塗料の量が少ない場合に、この溶解釜の周壁部のうち、その内面に当該塗料が接していない上部の加熱を行わない様にする事ができる。従って、当該塗料の溶解作業及び溶解後の保温作業を、当該塗料の量に合わせて、更に効率的に行える。又、これら各作業を行う際の温度管理を自動で適切に行う事が、更に容易になる。又、周壁部の内面で当該塗料の焦げ付きが生じる事を、より防止し易くできる。
【0021】
又、請求項4に記載した発明の構成を採用すれば、塗料吐出用パイプの内部に存在する塗料を確実に溶解する事ができる。
即ち、前述した従来構造の様に、溶解釜の底面をガスバーナーによって加熱する方式の溶解装置の場合には、この溶解釜を構成する底壁部から周壁部及び塗料吐出用パイプへの伝熱が良好になる為、この塗料吐出用パイプの内部に存在する塗料を確実に溶解する事ができる。
これに対して、本発明の溶解装置の場合には、溶解釜を構成する底壁部及び周壁部のうち、底壁部用コイル及び周壁部用コイルが対向する部分及びその近傍部分を効率良く加熱する事ができる一方で、これら各部分から外れた部分への伝熱が良好に行われない。この為、塗料吐出用パイプの近傍に、前記底壁部用コイルや前記周壁部用コイルの一部が配置されていない場合には、この塗料吐出用パイプを十分に加熱する事ができない。従って、この塗料吐出用パイプの内部に存在する塗料を、何時までも溶解する事ができないか、或いは、前記溶解釜の内部で溶解された塗料からの伝熱によって溶解する事ができるとしても、相当に長い時間を要する可能性がある。
何れにしても、前記塗料吐出用パイプの内部に存在する塗料が溶解されないでいると、当該塗料がこの塗料吐出用パイプを塞ぐ栓となって、前記溶解釜の内部で溶解された塗料を、前記塗料吐出用パイプを通じて外部に吐出する事ができなくなる可能性がある。
これに対して、請求項4に記載した発明の構成を採用すれば、前記パイプ用電気加熱手段によって前記塗料吐出用パイプを十分に加熱する事ができる為、この塗料吐出用パイプの内部に存在する塗料を確実に溶解する事ができる。従って、上述の様な不具合が発生する事を回避できる。
尚、前記パイプ用電気加熱手段による前記塗料吐出用パイプの加熱も、搬送車両の走行中に、規制される事なく安全に行える。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す斜視図。
【図2】側板等を取り外した状態で示す、図1と同様の図。
【図3】図2の上方から見た図。
【図4】図2のA矢視図。
【図5】図4のB−B断面図。
【図6】2つの底壁部用コイルの形状及び配置状態を略示した平面図。
【図7】2つの底壁部用コイルの形状及び配置状態の別例を示す、図6と同様の図。
【図8】従来から広く使用されている、ガスバーナーによる加熱方式を採用した路面標示用塗料の溶解装置を略示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1〜6は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例の路面標示用塗料の溶解装置は、複数の枠材を互いに組み合わせて成る枠体10と、この枠体10に支持固定された溶解釜1aと、この溶解釜1aを加熱する為の加熱機11と、この溶解釜1aの内部に存在する塗料を撹拌する為の撹拌機4aと、図示しない制御器と、図示しない操作盤と、図示しない発電機とを備える。尚、前記枠体10の上面には天板27が、この枠体10の四周側面には側板28a、28b(図1にのみ図示)が、それぞれ固定されている。
【0024】
前記溶解釜1aは、一般構造用圧延鋼材(SS材、JIS G 3101)等の導電材製で、図5に詳示する様に、円筒状の周壁部9aの下端部を底壁部8aで塞いだ有底円筒状に造られている。この溶解釜1aの下端部には、この溶解釜1aの内部から塗料を吐出する為の塗料吐出用パイプ6aが接続固定されている。本例の場合、この塗料吐出用パイプ6aも、前記溶解釜1aと同じ材質である。この様な溶解釜1aを構成する周壁部9aの上端部は、蓋体12により塞がれている。この蓋体12は、塗料投入用の開閉蓋5aと、塗料の加熱時に前記溶解釜1aの内部で発生したガスを外部に排出する為の排気管13とを備えている。又、前記塗料吐出用パイプ6aの下流端は、図示しない開閉ゲート等の開閉手段により開閉可能な状態になっている。
【0025】
又、前記加熱機11は、図5〜6に詳示する様に、前記底壁部8aの下面に対向する位置に配置された、それぞれがこの底壁部8aを誘導加熱する為の誘導加熱コイルである、2個の底壁部用コイル14a、14bと、前記周壁部9aの外周面に対向する位置に配置された、それぞれがこの周壁部9aを誘導加熱する為の誘導加熱コイルである、2個の周壁部用コイル15a、15bと、前記塗料吐出用パイプ6aの外周面に添設された、この塗料吐出用パイプ6aを加熱する為の電気加熱手段である、面状ヒータ29とを備える。このうちの2個の底壁部用コイル14a、14bは、それぞれが図6に示す様な渦巻状コイルで、前記塗料吐出用パイプ6aの軸方向に対して直角方向に並べて配置されている。この様な両底壁部用コイル14a、14bは、前記枠体10に対し、1対の支持ブラケット16、16を介して支持固定された、アルミ材やシリコンガラス繊維等の非磁性材製で直方体状の中空ケース17内に保持固定されている。又、前記2個の周壁部用コイル15a、15bは、それぞれが前記周壁部9aの周囲を囲む、この周壁部9aと同心の巻回コイルで、上下方向に関して互いに間隔をあけて配置されている。この様な両周壁部用コイル15a、15bは、それぞれが前記周壁部9aの外周面に対し、複数の支持ブラケット18、18を介して支持固定された、SUS304材(JIS G 4303)やシリコンガラス繊維等の非磁性材製で円筒状の2個の中空ケース19a、19b内に、別々に保持固定されている。又、前記面状ヒータ29は、抵抗発熱体を面状の保持材により保持して成るもので、前記塗料吐出用パイプ6aの外周面のほぼ全体を覆う状態で添設されている。又、前記加熱機11は、前記底壁部用、周壁部用各コイル14a、14b、15a、15b及び前記面状ヒータ29への通電を、それぞれ独立して行える構成を有している。
【0026】
又、前記撹拌機4aは、前記溶解釜1aの内部の中心軸上に回転自在に支持された撹拌軸20と、この溶解釜1aの内部の下部に寄った部分でこの撹拌軸20に結合固定された撹拌羽根21と、この撹拌軸20の上端部で前記溶解釜1aの外部に突出した部分に接続された、この撹拌軸20を回転駆動する為の撹拌用モータ22とを備える。
【0027】
又、前記溶解釜1aを構成する周壁部9aの外周面の一部で、上下方向に関して前記2個の中空ケース19a、19b同士の間に挟まれた部分に、前記溶解釜1aの内部に通じる段付円筒状の取付用パイプ23を突設している。そして、この取付用パイプ23の内側を通じて、前記溶解釜1aの内部に存在する塗料の温度を測定する為の温度センサ24の検出部である先端部を、この溶解釜1aの内部に(前記撹拌羽根21の回転時に、この撹拌羽根21と干渉しない位置まで)挿入している。又、この状態で、前記取付用パイプ23の小径側円筒部25の内周面と前記温度センサ24の外周面との間は、気密及び液密が図られた状態になっている。尚、この温度センサ24の先端部は、前記周壁部9aの内周面と面一な位置や、この内周面よりも径方向外側の位置(前記取付用パイプ23の大径側円筒部26の内径側)に配置して、当該先端部に前記撹拌羽根21が万が一にもぶつからない様にする事もできる。
【0028】
又、前記図示しない制御器は、前記温度センサ24により検出した、前記溶解釜1aの内部の塗料の温度(必要に応じて、当該塗料の温度に加え、図示しない測量センサにより検出した、又は、作業者が次述する操作盤から入力した、当該塗料の量や、図示しない外気温センサにより検出した外気温)に基づき、当該温度が予め設定した温度になる様に、前記底壁部用、周壁部用各コイル14a、14b、15a、15b、及び、前記面状ヒータ29への通電{必要に応じて、この通電に加え、前記撹拌機4aの運転状態(前記撹拌羽根21の回転方向及び回転速度)}を制御(プログラミング制御)する機能を有するものである。
【0029】
又、前記図示しない操作盤は、前記加熱機11の操作(前記底壁部用、周壁部用各コイル14a、14b、15a、15b、及び、前記面状ヒータ29への通電量の調整)及び前記撹拌機4aの操作(前記撹拌羽根21の回転方向の選択及び回転速度の調整)を、手動で行う場合や、前記制御器に自動で行わせる為の設定を行う場合に、それぞれ使用するものである。
【0030】
又、前記図示しない発電機は、本例の溶解装置を構成する他の機器(前記加熱機11、前記撹拌機4a、前記図示しない制御器、前記図示しない操作盤等)に、それぞれ必要な電力を供給する為のものである。
【0031】
尚、図示は省略するが、前記枠体10に固定した天板27及び側板28a、28b(図1)の内側に、前記溶解釜1aと、前記各中空ケース17、19a、19bと、前記塗料吐出用パイプ6aと、前記面状ヒータ29との周囲を取り囲む状態で断熱材を設ける事により、前記溶解釜1a及び塗料吐出用パイプ6aの保温と、作業者の火傷の防止とを図れる様にする事が好ましい。更には、当該断熱材の周囲を取り囲む状態で、シート状等の磁気シールド材を設ける事により、前記底壁部用、周壁部用各コイル14a、14b、15a、15bが発生する磁界によって、前記枠体10、前記天板27、前記側板28a、28b等の周囲の部材が、多少なりとも誘導加熱される事を防止できる様にする事が好ましい。
【0032】
上述の様な構成を有する本例の路面標示用塗料の溶解装置を使用する場合には、前記開閉手段により、前記塗料吐出用パイプ6aの下流端を閉じた状態で、前記開閉蓋5aを開き、前記溶解釜1aの内部に粉体状の塗料を投入する。そして、当該塗料を前記撹拌機4aを構成する撹拌羽根21により撹拌しながら、前記加熱機11を構成する底壁部用、周壁部用各コイル14a、14b、15a、15bにより前記溶解釜1aを加熱する事で、当該塗料を溶解する。これと共に、前記加熱機11を構成する面状ヒータ29により前記塗料吐出用パイプ6aを加熱する事で、この塗料吐出用パイプ6aの内部に入り込んだ塗料を溶解する。その後、前記開閉手段により、前記塗料吐出用パイプ6aの下流端を開く事により、この塗料吐出用パイプ6aを通じて、前記加熱溶解された塗料を吐出し、線引き用の施工装置の容器内に注ぎ込む。
【0033】
上述の様に構成し作用する本例の路面標示用塗料の溶解装置の場合には、溶解釜1aの加熱方式が誘導加熱方式であると共に、塗料吐出用パイプ6aの加熱方式が面状ヒータ29による加熱方式であり、LPガス(燃料)を使用しない為、搬送車両(トラック)の荷台にLPガスボンベを載せる必要がない。従って、搬送時の安全性を向上させる事ができる。又、使用時には、前記溶解釜1a及び塗料吐出用パイプ6aを集中して加熱できると共に、周囲への放熱が少ない為、これら溶解釜1a及び塗料吐出用パイプ6a以外の部分や周囲の温度が殆ど上昇しない。従って、作業環境が良好になり、使用時の安全性を向上させる事ができる。又、ガスバーナーによる加熱方式に比べて、前記溶解釜1a及び塗料吐出用パイプ6aの加熱時の二酸化炭素の排出量を少なくできる為、二酸化炭素の排出抑制を推進する観点から、好ましい。
【0034】
又、前記溶解釜1aを直接加熱する誘導加熱方式である為、この溶解釜1aの加熱効率を高くできる。一方、前記面状ヒータ29による前記塗料吐出用パイプ6aの加熱効率は、誘導加熱の場合ほどは高くできないが、前記塗料吐出用パイプ6aの熱容量は、前記溶解釜1aの熱容量に比べて十分に小さい為、前記面状ヒータ29によって前記塗料吐出用パイプ6aを十分に加熱する事ができる。従って、前記粉体状の塗料の溶解速度を十分に高める事ができ、この粉体状の塗料の溶解時間を十分に短縮できる(本発明者が実機を作製して確かめたところ、外気温によって多少の違いはあったが、300kgの塗料を1時間程度で完全に加熱溶融する事ができた)。更に、前記溶解釜1aの誘導加熱及び前記塗料吐出用パイプ6aの加熱は、搬送車両の走行中でも規制される事なく安全に行える為、粉体状の塗料の溶解作業は、搬送車両が施工現場に到着する以前から開始できる。従って、施工現場での塗料の溶解待ち時間を短縮若しくは完全になくして、施工作業の段取りを良くする事ができる。
【0035】
又、底壁部用コイル14a、14bへの通電(前記溶解釜1aの底壁部8aの誘導加熱)と、周壁部用コイル15a、15bへの通電(前記溶解釜1aの周壁部9aの誘導加熱)とを、互いに独立して行える為、前記溶解釜1aの内部に投入した塗料の溶解作業及び溶解後の保温作業を、当該塗料の量に合わせて、消費電力の無駄を少なく効率的に行える。即ち、これら各作業は、当該塗料の量が少ない場合には前記底壁部8aのみを加熱する事によって、当該塗料の量が多い場合には前記底壁部8aと同時に前記周壁部9aを加熱する事によって、それぞれ消費電力の無駄を少なく効率的に行える。又、当該塗料の量が少ない場合に前記周壁部9aの加熱を抑制若しくは停止する事で、この周壁部9aの内面で当該塗料の焦げ付きが生じる事を防止できる。
【0036】
又、前記底壁部用コイル14a、14bへの通電(前記溶解釜1aの底壁部8aの誘導加熱)と、前記周壁部用コイル15a、15bへの通電(前記溶解釜1aの周壁部9aの誘導加熱)とを、互いに独立して行える為、例えば前記図示しない制御器によって、当該塗料の温度管理を自動で行う場合でも、細かい温度調整(例えば1℃単位の温度調整)を行う事が可能となり、当該温度管理を適切に行う事が容易となる。
【0037】
特に、本例の場合には、前記両底壁部用コイル14a、14bへの通電(前記底壁部8aのうち、これら両底壁部用コイル14a、14bが対向する部分の誘導加熱)を、互いに独立して行える為、前記溶解釜1aの内部に投入した塗料の溶解作業及び溶解後の保温作業を、当該塗料の量に合わせて、より効率的に行える。又、これら各作業を行う際の温度管理を自動で適切に行う事が、より容易になる。
【0038】
更に、本例の場合には、前記両周壁部用コイル15a、15bへの通電(前記周壁部9aのうち、これら各周壁部用コイル15a、15bが対向する部分の誘導加熱)を、互いに独立して行える為、前記溶解釜1aの内部に投入した塗料の量が少ない場合に、前記周壁部9aのうち、その内面に当該塗料が接していない上部の加熱(上側の周壁部用コイル15aへの通電)を行わない様にする事ができる。従って、当該塗料の溶解作業及び溶解後の保温作業を、当該塗料の量に合わせて、更に効率的に行える。又、これら各作業を行う際の温度管理を自動で適切に行う事が、更に容易になる。又、前記周壁部9aの内面で当該塗料の焦げ付きが生じる事を、より防止し易くできる。
【0039】
又、本例の場合には、前記面状ヒータ29によって前記塗料吐出用パイプ6aを十分に加熱する事ができる為、この塗料吐出用パイプ6aの内部に存在する塗料を確実に溶解する事ができる。従って、この塗料吐出用パイプ6aの内部に存在する塗料が溶解されずに、この塗料吐出用パイプ6aを塞ぐ栓となって、前記溶解釜1aの内部で溶解された塗料を、この塗料吐出用パイプ6aを通じて外部に吐出する事ができなくなると言った不具合が発生する事を回避できる。
【0040】
尚、本発明の溶解装置を実施する場合、加熱機を構成する底壁部用、周壁部用各コイルの形状、個数、配置構成等は、それぞれ適宜決定する事ができる。例えば、底壁部用コイルに関しては、図7に示す様な、それぞれが渦巻形であり、互いに同心に配置された、2個の底壁部用コイル14c、14dを採用する事もできる。又、周壁部用コイルに関しては、高さ方向に関して互いに異なる位置に配置された周壁部用コイルの個数を、3個以上とする事もできる。又、加熱機を構成する底壁部用コイル(周壁部用コイル)の個数を複数とする場合、この加熱機には、必ずしもこれら各底壁部用コイル(各周壁部用コイル)への通電を互いに独立して行える機能を付加する必要はない。
【0041】
又、本発明を実施する場合、加熱機を構成する底壁部用、周壁部用各コイルによる誘導加熱方式は、低周波方式と高周波方式との、何れの方式を採用する事もできる。この場合に、底壁部用コイルと周壁部用コイルとで、同じ方式を採用しても良いし、異なる方式を採用しても良い。更には、底壁部用コイル(周壁部用コイル)の個数を複数とする場合に、これら各底壁部用コイル(各周壁部用コイル)同士で、同じ方式を採用しても良いし、異なる方式を採用しても良い。又、パイプ用電気加熱手段として誘導加熱コイルを使用する場合、当該誘導加熱コイルによる誘導加熱方式に就いても、低周波方式と高周波方式との、何れの方式を採用する事もできる。
【0042】
又、溶解釜の内部に存在する塗料の温度を測定する為の温度センサの設置位置や個数等に就いても、この温度センサが撹拌羽根にぶつかる等の不具合が生じない限り、自由に選択できる。例えば、温度センサを取り付ける為の取付用パイプを溶解釜の下端部に設ければ、この溶解釜の内部に存在する塗料の量が少なくなった場合でも、当該塗料の温度測定を引き続き行える。又、温度センサを溶解釜の上部から挿入する方式にすれば、取付用パイプの設置を省略できる。又、温度センサを異なる箇所に複数個設ければ、これら各箇所での塗料温度のばらつきを確認できたり、これらの各箇所での塗料温度の平均値を運転制御に使用できたりする為、より適切な運転制御を行える。
【符号の説明】
【0043】
1、1a 溶解釜
2 ガスバーナー
3 撹拌羽根
4、4a 撹拌機
5、5a 開閉蓋
6、6a 塗料吐出用パイプ
7 開閉ゲート
8、8a 底壁部
9、9a 周壁部
10 枠体
11 加熱機
12 蓋体
13 排気管
14a、14b、14c、14d 底壁部用コイル
15a、15b 周壁部用コイル
16 支持ブラケット
17 中空ケース
18 支持ブラケット
19a、19b 中空ケース
20 撹拌軸
21 撹拌羽根
22 撹拌用モータ
23 取付用パイプ
24 温度センサ
25 小径側円筒部
26 大径側円筒部
27 天板
28a、28b 側板
29 面状ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解釜と、加熱機と、撹拌機とを備え、
このうちの溶解釜は、円筒状の周壁部の下端部を底壁部で塞いだ有底円筒状に造られたもので、下端部に塗料を吐出する為の塗料吐出用パイプを接続固定しており、
前記加熱機は、前記溶解釜を加熱する機能を有するものであり、
前記撹拌機は、前記溶解釜の内部で塗料を撹拌する機能を有するものである、
路面標示用塗料の溶解装置に於いて、
前記加熱機は、前記底壁部の下面に対向する位置に配置された、この底壁部を誘導加熱する為の誘導加熱コイルである、底壁部用コイルと、前記周壁部の外周面に対向する位置に配置された、この周壁部を加熱する為の誘導加熱コイルである、周壁部用コイルとを有し、且つ、これら両コイルへの通電を互いに独立して行える機能を有する事を特徴とする、
路面標示用塗料の溶解装置。
【請求項2】
加熱機が、水平方向に関して互いに異なる位置に配置された複数個の底壁部用コイルを有すると共に、これら各底壁部用コイルへの通電を互いに独立して行える機能を有している、請求項1に記載した路面標示用塗料の溶解装置。
【請求項3】
加熱機が、高さ方向に関して互いに異なる位置に配置された複数個の周壁部用コイルを有すると共に、これら各周壁部用コイルへの通電を互いに独立して行える機能を有している、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した路面標示用塗料の溶解装置。
【請求項4】
加熱機が、塗料吐出用パイプを加熱する為のパイプ用電気加熱手段を有している、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した路面標示用塗料の溶解装置。
【請求項5】
温度センサと、制御器とを備え、
このうちの温度センサは、溶解釜の内部に存在する塗料の温度を検出する機能を有するものであり、
前記制御器は、前記温度センサにより検出した、前記溶解釜の内部に存在する塗料の温度に基づき、当該温度が予め設定した温度になる様に、加熱機を構成する底壁部用、周壁部用各コイルへの通電を制御する機能を有するものである、
請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した路面標示用塗料の溶解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−190633(P2011−190633A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58771(P2010−58771)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(390008246)株式会社東洋内燃機工業社 (4)
【Fターム(参考)】