説明

車両のシャフトシール構造

【課題】 車両組立作業において、作業性を向上させ、また構造が簡易的でコストダウンを図ることのできる車両のシャフトのシールを提供することを目的とする。
【解決手段】 シャフトシール1はダッシュパネル101の挿通孔102の周縁に係合する大径部2と、ステアリングシャフト16の外径に当接する小径部3を有し、シャフトシール1の内面を大径部2の内径から小径部3の内径までステアリングシャフト17を摺接案内するような連続形状とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングシャフトが挿通するダッシュパネルに設けられた挿通孔に用いて好適な車両のシャフトシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車等のステアリング装置において、ステアリングシャフトは、エンジンルームのステアリングギアと車室側のステアリングコラムを連結する部材であり、エンジンルームと車室側を区画するダッシュパネルに挿通配置される。ダッシュパネルにはステアリングシャフトが挿通する挿通孔が設けられ、該挿通孔の周縁に水や粉塵、騒音等が車室内に侵入しないようにシャフトシールが取り付けられる。シャフトシールは、ダッシュパネルに設けられた挿通孔の周縁と前記シャフトシールに形成した溝部で挟み込んだり、あるいはシャフトシールにフランジ部を設け、該挿通孔近傍に配設したネジ穴と螺合する等して固定する。
【0003】
ステアリングシャフトを組み付ける場合、まず、ステアリングギアや車輪軸方向左右に配設されるタイロッド等が実装されたサブフレームユニットとステアリングシャフトをユニバーサルジョイント等で連結させる。そして、ダッシュパネルに固定されたシャフトシールの挿通孔を目掛け、車室側にステアリングシャフトが延出するように挿通させる。
【0004】
ステアリングシャフトを挿通させ、車室側に延出させた後、連結ジョイントを取り付け、さらに所定の位置、また適宜な回転方向の位置決め行い、ステアリングコラムと連結させる。
【0005】
この種のシャフトシール構造の従来技術として、シール性を向上させたもの(特許文献1)や作業効率を向上させたもの(特許文献2)がある。
【0006】
【特許文献1】特開2000−16308号公報
【特許文献2】特開平10−129507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したステアリングシャフトを挿通させる作業は、車両を吊り上げた状態で、車両に対し下方から、ステアリングシャフトを連結させたサブフレームユニットをリフト等で持ち上げて行う。その際、作業者はステアリングシャフトを保持し、シャフトシールの挿通孔に導かなければならず、また同時にサブフレームユニットに実装されたその他の部品と車両との位置合わせもする必要があり、作業者にとって容易でない作業となる。また、仮に適正に位置合わせをできなかった場合、そのままでは、各構成部品が所定の位置以外で干渉する等、不具合が発生する可能性がある。
【0008】
また、従来のシャフトシールの内面は、蛇腹形状や段付きの形状による凹凸形状が形成されているものが多い。そのため、ステアリングシャフトを挿通させる際、ステアリングシャフトが凹凸形状に引っ掛かり、組み付けが円滑に進まない場合がある。
【0009】
本発明は係る実情に鑑み、車両組立作業において、上述したような煩わしい作業の問題を解消し、作業性を向上させ、また構造が簡易的でコストダウンを図ることのできるステアリングシャフトのシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車室外のステアリングギアと車室内のステアリングコラムを連結するステアリングシャフトと、該ステアリングシャフトが挿通する挿通孔を設けたダッシュパネルと、前記ステアリングシャフトと前記ダッシュパネルの挿通孔との隙間を塞ぐシャフトシールを有する車両のシャフトシール構造であって、該シャフトシールは前記ダッシュパネルの挿通孔周縁に係合する大径部と、前記ダッシュパネルの車室側で、前記ステアリングシャフトの外径に当接する小径部とを有し、前記シャフトシール内面の少なくとも車両の上方側の部位を大径部の内径から小径部の内径まで、前記ステアリングシャフトを摺接案内するように連続形状としたことを特徴とする。
【0011】
また、前記小径部は、その開口側内周方向に溝が形成された内側端部と、該内側端部よりダッシュパネル側に形成された蛇腹部と、該蛇腹部のダッシュパネル側端部で前記内側端部とほぼ同じ内径に形成された絞り部とを有することを特徴とする。
【0012】
さらに、前記シャフトシールの少なくとも車両の下方側の一部に薄肉部を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ステアリングシャフトをシャフトシール内周面の形状に沿って摺接させながら、スムースに挿通させることができ、組立作業の作業性が向上する。また、上述の小径部の開口側内側端部に溝を形成することで、ステアリングシャフトの摺動抵抗、摺動音を軽減し、前記内側端部よりダッシュパネル側に蛇腹部を形成することで柔軟性及び形状の可変的な追従性を確保し、シール性を向上させる。また、前記蛇腹部のダッシュパネル側端部で、前記内側端部とほぼ同じ内径の絞り部を形成することで、両者の位置的整合をとり、ステアリングシャフトを内側端部へとスムースに誘導・挿通させることができ、作業性が一層向上する。
【0014】
さらに、シャフトシールの少なくとも車両の下側の一部に薄肉部を形成することで、ステアリングシャフトを車室側に挿通させた後の、連結ジョイント及びステアリングコラムとの連結作業において、ステアリングシャフトを作業のし易いスペースに誘導が可能であり、作業性を向上させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明による車両のシャフトシール構造の好適な実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る車両の透視斜視図を示す。図1において、車両内部のステアリング装置100の概略説明をする。10はステアリングギアであり、ステアリングホイール11の回転運動を左右に配設したタイロッド12、13の往復運動に変換する。往復運動をするタイロッド12、13は相互に同調作動し、それぞれの先端でナックルアーム等(図示せず)を介し、車輪14、15と連結される。また、ステアリングギア10やタイロッド12、13等の複数の構成部品はサブフレーム(図示せず)に実装される。本実施の形態では、前記サブフレームに構成部品が実装されたユニットをサブフレームユニット16とする。
【0016】
17はステアリングシャフトであり、その一端はステアリングギア10と連結され、他端においてステアリングコラム18の一端と連結する。ステアリングコラム18の他端はステアリングホイール11と固定される。
【0017】
図2にステアリング装置100の概略構成を示す。図2において、ステアリングシャフト17の一端は、ユニバーサルジョイント19を介し、サブフレームユニット16に実装されたステアリングギア10の端部に連結される。また、その他端において、ステアリングジョイント20を介してステアリングコラム18の一端と連結される。
【0018】
101はエンジンルームA(車両前方Fr側)と車室B(車両前方Rr側)を区画するダッシュパネルであり、ステアリングシャフト17が挿通する挿通孔102が設けられ、挿通孔102の周縁にシャフトシール1が配置される。シャフトシール1は大径部2と小径部3からなる概略截頭円錐形状であり、大径部2の外周には挿通孔102の周縁と係合する係合溝4が形成されている。シャフトシール1を挿通孔102に取り付ける際、小径部3をエンジンルームA側から車室B側方向へ挿入し、大径部2の面位置を挿通孔102に合わせ、係合溝4によって挿通孔102の周縁を挟持させることで、シャフトシール1をダッシュパネル101に固定する。
【0019】
図3にシャフトシール1の正面図、側面図、下面図及び側断面図を示す。図3において、シャフトシール1は大径部2と小径部3とから成る概略截頭円錐形状をしている。また、大径部2の外周には挿通孔102の周縁と係合する係合溝4が形成されている。
【0020】
また、シャフトシール1の内面は、大径部2の内径から小径部3の内径(後述する絞り部7の内径)にかけて、連続形状とした直線状(側面視)に形成される。詳細は後述するが、このような連続形状とすることで、ステアリングシャフト17を挿通させる際、その内面形状に沿って案内されるように、ステアリングシャフト17の先端が小径部3の開口側まで導かれ、スムースに挿通が可能となり、組立作業の作業性が向上する。
【0021】
また、図3(d)を参照して、小径部3の内面車室側(内側端部)において、溝5を連設形成する。溝5の山部径P1はステアリングシャフト17の外径と当接するように設定され、ステアリングシャフト17の回動に対する摺動抵抗の軽減、及び摺動音を防止している。さらに、溝5よりもダッシュパネル101側において、内外面より肉厚を薄くするように蛇腹部6を形成する。蛇腹部6よりもさらにダッシュパネル101側端部に絞り部7を形成する。絞り部7の内径は小径部3の内径とほぼ同じ径P2に形成する。つまり“P1≒P2”となる。
【0022】
蛇腹部6を肉厚を薄くするように形成することで、柔軟性及び形状の可変的な追従性が得られ、ステアリングシャフト17を挿通後、ステアリングコラム18との連結時に発生し得る形状誤差等による隙間等を吸収し、シール性を向上することができる。また、絞り部7を“P1≒P2”となるように形成することで、ステアリングシャフト17を挿通する際、ステアリングシャフト17が挿通する角度がある程度制限されるため、小径部3の開口側まで誘導されるようにして、スムースに挿通が可能となり、また、蛇腹部6の凹部(内面側)に干渉する等せず、作業性が一層向上する。
また、シャフトシール1の外面の一部において、薄肉部8を凹状に形成する。この薄肉部8は、図5(a)を参照して、シャフトシール1の実装時には、車両下方側に位置する。
【0023】
図4〜6に基づき、ステアリングシャフト17の組付作業を説明する。図4(a)において、ダッシュパネル101は、車両下方において、前述したように挿通孔102が設けられている。シャフトシール1は図中の矢印の方向に、小径部3から挿入される。挿入させた後、前述したようにシャフトシール1に設けられた係合溝4と挿通孔102の周縁を係合し、挟持され固定される。
【0024】
つぎに、図4(b)に示すように、シャフトシール1がダッシュパネル101に固定され、サブフレームユニット16にステアリングシャフト17を連結させた状態で、サブフレームユニット16をリフト等で上昇させ、ステアリングシャフト17がシャフトシール1に矢印の方向から挿通される。
【0025】
ここで、図5は、ステアリングシャフト17が摺接されながら案内される挿通時の様子を示している。図5(a)において、本発明に係るシャフトシール1は、ダッシュパネル101に固定されている。シャフトシール1は、図示のように大径部2がエンジンルームA側、小径部3が車室B側かつ車両上方を向くように固定されている。
【0026】
シャフトシール1の内面は、大径部2の内径から小径部3の内径(絞り部7の内径)にかけて、連続形状とした略直線状の面を形成される。このような形状とすると、作業者は、ステアリングシャフト17の先端を大径部の開口された位置まで導き保持し、その後は、リフトの上昇に伴い、ステアリングシャフト17が略直線状の内面に沿って矢印の方向に案内されるので、作業者がステアリングシャフト17から手を離してもスムースに小径部3の開口された位置まで案内され挿通し、組付作業の作業性が向上する。
【0027】
また、前記略直線状の面は、作業上、ステアリングシャフト17が当接し易い部位、少なくとも車両上方の面に形成することが好適である。しかし、車両下方の面を連続形状としても構わず、ステアリングシャフト17が車両下面に最初に当接した場合においても同様に案内されスムースな挿通が可能である。さらに、ステアリングシャフト17は、シャフトシール1に挿通後シャフトシール1の剛性によって、車室内の正規の位置(組付け後の位置)付近に支えられて、起立状態に保たれている。これによって、他の部品(例えば、ペダル類やインパネ等)に当接し他部品が壊れることを回避できる。
【0028】
ここで、図5(b)において、従来のシャフトシールの場合について説明する。図5(b)において、従来のシャフトシール30は、ダッシュパネル101に固定されている。大径部31から段部32まで略円筒状の形状をしており、段部32にから小径部33にかけ、径が収束するような形状となっている。また、固定する位置は大径部31がエンジンルームA側、小径部33は車室B側で車両上方を向いている。
【0029】
従来のシャフトシール30のような形状であった場合、ステアリングシャフト17を挿通させる際、作業者は小径部33まで手でステアリングシャフト17を保持し位置合わせをしなければならない。また、ステアリングシャフト17の位置がずれた場合、段部32の内面の凸形状部にステアリングシャフト17が引っ掛かり、スムースに挿通されないほか、ステアリングシール30が外れる等の不具合が発生し得る。これに対し本発明に係るシャフトシール1は、その内面が略直線状に形成されるため、ステアリングシャフト17が面に沿って案内されるように小径部3の開口側までスムースに挿通されるため、組付作業において、作業性が飛躍的に向上する。
【0030】
図6にシャフトシール1の変形の様子を示す。図6(a)は、ステアリングシャフト17が車室B側に延出された状態を示している。ステアリングシャフト17は車室内の運転席前方の狭いスペースに突出するため、ステアリングコラム18との連結のためのステアリングジョイント20の取り付け作業等が困難な作業となる。
図6(b)は、シャフトシール1の変形後の様子を示している。前述したように、シャフトシール1の外面略中央において、凹状の切込みを入れ、薄肉部8を形成することで、部分的な剛性の低下により変形が容易となる。ステアリングシャフト17を薄肉部8の中央の方向(回転矢印方向)に把持しながら誘導させることで、薄肉部8が変形起点部となって容易に変形し、作業者は取り付けし易い位置で作業を行うことができる。つまり、ステアリングシャフト17挿入時と挿通後では、シャフトシール1の形状に起因する剛性によって、車室内の正規の位置付近にステアリングシャフト17を起立状態に保つことができるとともに、車室内側の組み付け時には容易に変形させることができて、ステアリングシャフト17を作業しやすい位置に移動させることが可能となる。
【0031】
シャフトシール1における薄肉部8の位置は、車室B側において、ステアリングシャフト17を手前(車両後方側)に誘導できる位置に設けることが好適である。つまり、シャフトシール1をダッシュパネル101に固定した状態で車両の下方に配置される位置に形成する。また、薄肉部8は部分的に形成されるので、シャフトシール1のほぼ截頭円錐形状は保持されたままであり、自由状態での剛性を確保でき、また、前述したようにステアリングシャフト17のシャフトシール1への挿通後の状態において起立状態を保つことができる。
【0032】
なお、本実施の形態において、シャフトシールの内面の形状を略直線状としたが、容易に案内する形状、例えば緩やかな円弧状等であれば、適応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両の透視斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るステアリング装置を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るシャフトシールの正面図、側面図、下面図及び側断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る車両の組付作業の様子を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るステアリングシャフトの組付作業の様子を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るシャフトシールの変形の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 シャフトシール
2 大径部
3 小径部
4 係合溝
5 溝
6 蛇腹部
7 絞り部
8 薄肉部
10 ステアリングギア
11 ステアリングホイール
12 タイロッド
13 タイロッド
14 車輪
15 車輪
16 サブフレームユニット
17 ステアリングシャフト
18 ステアリングコラム
19 ユニバーサルジョイント
20 ステアリングジョイント
100 ステアリング装置
101 ダッシュパネル
102 挿通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室外のステアリングギアと車室内のステアリングコラムを連結するステアリングシャフトと、該ステアリングシャフトが挿通する挿通孔を設けたダッシュパネルと、前記ステアリングシャフトと前記ダッシュパネルの挿通孔との隙間を塞ぐシャフトシールを有する車両のシャフトシール構造であって、
該シャフトシールは前記ダッシュパネルの挿通孔周縁に係合する大径部と、前記ダッシュパネルの車室側で、前記ステアリングシャフトの外径に当接する小径部とを有し、
前記シャフトシール内面の少なくとも車両の上方側の部位を大径部の内径から小径部の内径まで、前記ステアリングシャフトを摺接案内するように連続形状としたことを特徴とする車両のシャフトシール構造。
【請求項2】
前記連続形状が直線状であることを特徴とする請求項1に記載の車両のシャフトシール構造。
【請求項3】
前記小径部は、その開口側内周方向に溝が形成された内側端部と、該内側端部よりダッシュパネル側に形成された蛇腹部と、該蛇腹部のダッシュパネル側端部で前記内側端部とほぼ同じ内径に形成された絞り部とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の車両のシャフトシール構造。
【請求項4】
前記シャフトシールの少なくとも車両の下方側の一部に薄肉部を形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両のシャフトシ−ル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−55467(P2007−55467A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244210(P2005−244210)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】