説明

車両のシール構造

【課題】スプラッシュによるシールリップの捲れを防止して、シールリップを1本のみとしても十分な密閉性を確保することができるようにする。
【解決手段】車体を構成するパネル9に設けられた開口部10を、弾性材料からなるシール部材11で密閉するようにした車両のシール構造において、シール部材が、開口部の周囲に設けられたシール面23に当接する環状のシールリップ31と、シール面に当接しない態様でシールリップの外周側を覆うように設けられたガードリップ32とを備えたものとする。特にガードリップは、スプラッシュの水滴の衝突により弾性変形してシール面に当接するように形成されたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体を構成するパネルに設けられた開口部を、弾性材料からなるシール部材で密閉するようにした車両のシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両においては、エンジンルームと車室とを仕切るパネル(ダッシュボード)に、ステアリングシャフトが挿通される開口部が設けられており、この開口部を介して雨水、塵埃、騒音などがエンジンルームから車室内に侵入することを防止するため、パネルの開口部をシール部材(グロメット)で密閉するようにしたシール構造が採用されている。
【0003】
このような車両のシール構造では、シール部材において、パネルの開口部の周囲に設けられたシール面に当接するシール部に、環状のシールリップを複数本設けて密閉性を確保するようにした技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−143367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、このような車両のシール構造においては、図6に示すように、組み付け状態でシール部材51が撓むことで生じる弾性力で、シール部52をパネル53のシール面54に密着させるための押圧力を得る構成が簡便である。
【0006】
一方、シールリップ55を多数設けてラビリンス構造とすると、密閉性を高めることができるものと考えられるが、シール部材51やシール面54の形状などが原因で、シール部材の弾性変形による押圧力をすべてのシールリップ55に均等に作用させ、さらに押圧力を各シールリップ55の全周に渡って均一に作用させることが難しいため、シールリップ55を多数設けても、シールリップ55の多くはシール面54に部分的に接触するだけで、シールリップ55を多数設けることによる効果を期待することができない場合がある。
【0007】
このような場合、シールリップを1本のみとして、シール部材の弾性変形による押圧力が1本のシールリップに集中的に作用するように構成すると、シール性を確保することができる上に、製造コストを削減することができることから都合がよい。
【0008】
ところが、洗車時に高圧洗浄水のスプラッシュがシール部材に当たったり、また雨天走行時の路面の水跳ねによるスプラッシュがシール部材に当たったりすると、そのスプラッシュの圧力でシールリップが捲れる場合があり、シールリップを1本のみとすると、水が車室側に侵入することを確実に防止することができないという問題が生じる。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、スプラッシュによるシールリップの捲れを防止して、シールリップを1本のみとしても十分な密閉性を確保することができるように構成された車両のシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、車体を構成するパネル(9)に設けられた開口部(10)を、弾性材料からなるシール部材(11)で密閉するようにした車両のシール構造であって、前記シール部材は、前記開口部の周囲に設けられたシール面(23)に当接する環状のシールリップ(31)と、前記シール面に当接しない態様で前記シールリップの外周側を覆うように設けられたガードリップ(32)とを備えた構成とする。
【0011】
これによると、洗車や路面の水跳ねによる水などの異物がガードリップで遮られるため、異物がシールリップに直接衝突することで生じるシールリップの捲れを防止することができ、これによりシールリップを1本のみとしても十分な密閉性を確保することができる。
【0012】
この場合、ガードリップがシール面に当接しないため、シール部材の弾性変形による押圧力をシールリップに集中的に作用させることができるため、シールリップとシール面との密着が不完全になることを避けることができる。また、シール部に多数のシールリップを設けたラビリンス構造では、シール部が肉厚で大きなものになるが、本発明では、シールリップとガードリップを1本ずつ設ければ良く、ラビリンス構造のものに比較して、シール部を薄肉で小さく構成することができるため、シール部材の小型化および軽量化を図るとともに製造コストを削減することができる。
【0013】
また、第2の発明は、前記第1の発明において、前記ガードリップは、異物の衝突により弾性変形して前記シール面に当接可能な可撓性を有する構成とする。
【0014】
これによると、洗車や路面の水跳ねによる水などの異物がシールリップに直接当たることを確実に防止することができる。この場合、ガードリップは、全体的に薄肉に形成することで、異物の衝突により弾性変形する柔軟な可撓性を得ることができる。なお、この他に、ガードリップに部分的な薄肉部を形成した構成でも、同様の機能を得ることが可能である。
【0015】
また、第3の発明は、前記第1若しくは第2の発明において、前記ガードリップには、このガードリップと前記シールリップとの間に侵入した異物を排出する切り欠き(41)が形成された構成とする。
【0016】
これによると、洗車や路面の水跳ねによる水などの異物がガードリップとシールリップとの間に溜まることを避けることができる。
【0017】
また、第4の発明は、前記第1乃至第3の発明において、前記パネルは、エンジンルームと車室とを仕切るものであり、前記開口部は、ステアリングシャフトが挿通されるものであり、前記シール部材は、ステアリングギアボックスと前記パネルとの間に配置される構成とする。
【0018】
これによると、洗車や路面の水跳ねによる水などの異物が車室内に侵入することを防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
このように本発明によれば、洗車や路面の水跳ねによる水などの異物がガードリップで遮られるため、異物がシールリップに直接衝突することで生じるシールリップの捲れを防止することができ、これによりシールリップを1本のみとしても十分な密閉性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明が適用される車両用ステアリング装置を示す側面図である。
【図2】本発明によるシール構造を示す断面図であり、シール部24の組み付け前の初期状態を2点鎖線で示す。
【図3】シール部24を詳しく示す断面図であり、シール部24の組み付け前の初期状態を2点鎖線で示す。
【図4】スプラッシュによるガードリップ32の変形状態を示す断面図である。
【図5】シール部材11をシール部24の開放面側から見た正面図である。
【図6】従来構成によるシール構造を示す断面図であり、シール部52の組み付け前の初期状態を2点鎖線で示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1に示すように、本発明が適用される車両用ステアリング装置1は、ステアリングホイール2と、ラック・ピニオン式のステアリングギヤボックス3と、第1〜第3のステアリングシャフト4〜6とを有しており、エンジンルーム7と車室8とを仕切るパネル(ダッシュボード)9に設けられた開口部10に第3のステアリングシャフト6が挿通され、パネル9とステアリングギヤボックス3との間には、パネル9の開口部10を密閉するシール部材(グロメット)11が設けられている。
【0023】
第1〜第3のステアリングシャフト4〜6は、ユニバーサルジョイント13・14を介して相互に連結されている。第3のステアリングシャフト6の前端は、ステアリングギヤボックス3内のピニオン15に接続されている。ピニオン15は、車幅方向に往復動可能に設けられたラック軸16に歯合しており、このラック軸16の両端がタイロッドを介して左右の前輪のナックルアームに連結されて、ステアリングホイール2の回転操作に応じて左右の前輪が転舵される。
【0024】
また、このステアリング装置1では、ドライバがステアリングホイール2に加える手動操舵力を軽減するための補助操舵力を発生する電動モータ18がステアリングギヤボックス3に併設されている。この電動モータ18の駆動力は、ステアリングギヤボックス3内にピニオン15と共に収容されたウォームギヤ機構19を介してステアリングシャフト6に入力される。
【0025】
図2に示すように、シール部材11は、ゴム材料からなり、ステアリングシャフト6の周囲を覆う円筒状の筒状部21と、ステアリングギヤボックス3に対する取付部22と、パネル9の開口部10の周囲に形成されたシール面23に当接するシール部24と、を有している。このシール部材11により、開口部10を介して車室8側の空間と連通されたシール部材11の内部空間とエンジンルーム7とが遮断されて、エンジンルーム7側から車室8側に雨水、塵埃、騒音などが侵入することが防止される。
【0026】
取付部22は、円筒状をなし、ステアリングギヤボックス3の筒状部25の外周に嵌合してシール部材11をステアリングギヤボックス3に対して固定する。取付部22の内周面は、密閉性を高めるために鋸刃状の断面形状(ラビリンス形状)をなしている。
【0027】
筒状部21のパネル9側には、L字形状の断面をなす段部26が設けられている。段部26は、パネル9のシール面23に沿う、換言すると中心線がシール面23に対して略直交するように形成され、この段部26の外周面からシール部24が円錐台形状に延出されている。なお、筒状部21は、中心線に直交する平面で切断した断面が円形状をなすのに対して、段部26は、中心線に直交する平面で切断した断面が楕円形状をなしており(図5参照)、シール部24は正確には楕円錐台形状をなしている。
【0028】
シール部24と段部26とは、薄肉部27を介して接続されており、組み付け状態では、パネル9のシール面23にシール部24が規制されることで、薄肉部27が撓むと同時にシール部24が押し広げられるように変形し、これにより生じる弾性力で、シール部24をパネル9のシール面23に密着させる押圧力が得られる。
【0029】
図3に示すように、シール部材11のシール部24は、パネル9のシール面23に当接する環状のシールリップ31と、シール面23に当接しない態様でシールリップ31の外周側を覆うように設けられたガードリップ32とを備えている。
【0030】
シールリップ31は、シール面23に対して略直交する向きに基部33から突出し、先端が円弧状の断面をなしており、前記のように、組み付け状態で、薄肉部27が撓むと同時にシール部24が押し広げられるように変形することで生じる押圧力で、シールリップ31がシール面23に密着する。
【0031】
ガードリップ32は、シールリップ31の突出方向に対して斜めに傾斜した態様でひさし状に基部33から突出し、シールリップ31の外周側を全周に渡って覆う。これにより、洗車や路面の水跳ねによるスプラッシュがガードリップ31で遮られるため、スプラッシュの水滴がシールリップ31に直接衝突することで生じるシールリップ31の捲れを防止することができる。
【0032】
また、ガードリップ32はシール面23に当接せず、ガードリップ32とシール面23との間に隙間が形成されており、弾性変形による押圧力がシールリップ31に集中的に作用するため、シールリップ31とシール面23との密着が不完全になることを避けることができる。
【0033】
また、図6に示したように、シール部52に多数のシールリップ55を設けたラビリンス構造のものでは、シールリップ55が形成されたシール部52が肉厚で大きなものになるが、図2および図3に示したように、本発明によるシール部材11では、シールリップ31とガードリップ32を1本ずつ設ければ良く、図6に示したラビリンス構造のものに比較して、シール部24を薄肉で小さく構成することができるため、シール部材11の小型化および軽量化を図るとともに製造コストを削減することができる。
【0034】
図4に示すように、ガードリップ32は、洗車や路面の水跳ねによる水滴の衝突により弾性変形してシール面23に当接するように形成されている。特にここでは、ガードリップ32を全体的に薄肉に形成することで、ガードリップ32が屈曲変形し易くなっており、ガードリップ32にスプラッシュが当たると、そのスプラッシュの水滴に押されてガードリップ32がパネル9側に変形してシール面23に当接し、ガードリップ32とシール面23との隙間が塞がれる。これにより、洗車や路面の水跳ねによる水がシールリップ31に直接当たることを確実に防止することができる。
【0035】
なお、ガードリップ32は、図示するように全体的に薄肉に形成することで、スプラッシュの水滴の衝突により弾性変形する柔軟な可撓性を得ることができるが、ガードリップに部分的な薄肉部を形成した構成でも、同様の機能を得ることが可能である。
【0036】
このようにガードリップ32は、シールリップ31の外周側を覆い、またガードリップ32にスプラッシュが当たるとシール面23に当接するように変形するが、ガードリップ32の内側に水が侵入することは皆無とはいえない。
【0037】
そこで、図5に示すように、ガードリップ32には、このガードリップ32とシールリップ31との間に侵入した水を排出する切り欠き41が形成されている。これにより、水がガードリップ32とシールリップ31との間に溜まることを避けることができる。
【0038】
なお、切り欠き41は、エンジンルーム内の部品に遮られて、スプラッシュが直接かかりにくい位置に設けることが望ましく、これにより、切り欠き41からガードリップ32の内側に水が侵入することを避けることができる。また、重力による排出を促進するため、ガードリップ32の最も下側に位置する部分に切り欠き41を設けることが望ましい。
【0039】
以上のように、ステアリングシャフト6が挿通される開口部10を密閉するシール構造の例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。車体を構成するパネルには、ケーブルハーネスなどの種々の部品が挿通される開口部が設けられており、本発明は、このような開口部を密閉するシール構造にも広く適用することができる。
【0040】
また、ステアリングシャフト6が挿通される開口部10を密閉するシール構造では、洗車や路面の水跳ねにより生じるスプラッシュによる水の侵入が特に問題となることから、スプラッシュに対するガードリップ32の機能について説明したが、このようなスプラッシュによる水の他に、小石や粉塵などの異物に対してもガードリップ32は有効に機能する。
【符号の説明】
【0041】
1 ステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングギヤボックス
4〜6 ステアリングシャフト
7 エンジンルーム
8 車室
9 パネル
10 開口部
11 シール部材
23 シール面
24 シール部
31 シールリップ
32 ガードリップ
41 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体を構成するパネルに設けられた開口部を、弾性材料からなるシール部材で密閉するようにした車両のシール構造であって、
前記シール部材は、前記開口部の周囲に設けられたシール面に当接する環状のシールリップと、前記シール面に当接しない態様で前記シールリップの外周側を覆うように設けられたガードリップとを備えたことを特徴とする車両のシール構造。
【請求項2】
前記ガードリップは、異物の衝突により弾性変形して前記シール面に当接可能な可撓性を有することを特徴とする請求項1に記載の車両のシール構造。
【請求項3】
前記ガードリップには、このガードリップと前記シールリップとの間に侵入した異物を排出する切り欠きが形成されたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の車両のシール構造。
【請求項4】
前記パネルは、エンジンルームと車室とを仕切るものであり、
前記開口部は、ステアリングシャフトが挿通されるものであり、
前記シール部材は、ステアリングギアボックスと前記パネルとの間に配置されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−107673(P2012−107673A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255887(P2010−255887)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】