説明

車両のフロアパネル

【課題】特に、板厚を厚くしたり形状を変更することなくコスト低減、軽量化を維持しながら安定して確実に共振点を上昇させ振動騒音を低減し、快適性を向上させる。
【解決手段】フロントフロアパネル1は、左右のフロア部6l,6rのシートクロスメンバ前7l,7r、シートクロスメンバ後8l,8r、フロアフレーム9l,9rが溶接される部位は、それぞれ平面状に形成されており、これら各平面状部位により区画されるパネルには、それぞれ下方に向けて膨出する鍋底形状の膨出部10が形成されている。フロントフロアパネル1のフランジ部3l,3rには、複数の独立した溶接しろYSが設けられており、これら複数の溶接しろYS毎に上端側から下端側にかけて斜めにレーザ溶接することにより、サイドシルインナパネル4l,4rと接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複数の鍋底形状をした膨出部が下方に向けて形成され、両側のフランジ部がサイドシルと溶接にて固定された車両のフロアパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のフロアパネルにおいては、エンジンの振動騒音や排気音、路面からのロードノイズ等の周波数が、フロアパネル固有の共振周波数と一致すると、上述の振動騒音が一層倍増されて車室内に伝達されるため、乗員に不快感を与えることが知られている。このため、車両のフロアパネルでは、共振周波数を上述の振動騒音の周波数(例えば500Hz以上の周波数)より高くなるようにするために、様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、特開2002−160674号広報では、下方へ凸状に湾曲する曲面部と、該曲面部の周囲に一体に形成され、車体の骨格部材に結合される平坦部とを備える車両フロアパネル構造であって、曲面部と平坦部とを段差を設けて連続させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−160674号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1のように、フロアパネルに膨出部を形成することで剛性を向上し、これによって共振周波数を上昇させようとする技術は、従来より多く行われている。しかしながら、たとえ膨出部を形成してもサイドシルとフロアパネルの結合が点接合であるスポット溶接により行われているため、この部分の剛性が弱く、せっかく膨出部を形成して剛性を高めても共振点を確実に上昇させることができない虞があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、特に、板厚を厚くしたり形状を変更することなくコスト低減、軽量化を維持しながら安定して確実に共振点を上昇させ振動騒音を低減し、快適性を向上させることができる車両のフロアパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、両端の車両前後方向にかけてサイドシルと接続する屈曲したフランジ部を備え、下方に向けて膨出する膨出部を有する車両のフロアパネルにおいて、上記フランジ部に上記サイドシルと溶接接合する溶接しろを設け、該溶接しろの上端側から下端側にかけて斜めにレーザ溶接により接合したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両のフロアパネルによれば、特に、板厚を厚くしたり形状を変更することなくコスト低減、軽量化を維持しながら安定して確実に共振点を上昇させ振動騒音を低減し、快適性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至図7は本発明の実施の一形態を示し、図1はフロントフロアパネルの斜視図、図2は図1のII−II断面図、図3は図2の矢視Aによるレーザ接合の説明図、図4は図3とは異なるレーザ接合の例の説明図、図5は図3、4とは異なるレーザ接合の例の説明図、図6は図3、4、5とは異なるレーザ接合の例の説明図、図7は図3、4、5、6とは異なるレーザ接合の例の説明図である。
【0009】
図1において、符号1は車両のフロントフロアパネルを示し、このフロントフロアパネル1の前端縁1fは、車室とエンジンルームとを区画するトーボード2の下縁に連接されており、フロントフロアパネル1の後端縁1rは、図示しないリヤフロアパネルの前端縁と接続されている。
【0010】
また、フロントフロアパネル1の左右両端は、車両前後方向にかけて上方(車室内側)に向け屈曲されてフランジ部3l,3rが形成されており、該フランジ部3l,3rが、それぞれ車体のサイドシルインナパネル4l,4rと後述の如く溶接接合されている。
【0011】
フロントフロアパネル1の車幅方向の略中央には、車体前後方向に延在して車室内側に隆起する断面略逆U字状のトンネル部5が形成されており、このトンネル部5の両側にフロア部6l,6rが設けられている。
【0012】
フロア部6lの上面には、車幅方向に延在する断面略コ字状で、フロア部6lの上面とで中空閉断面を形成すると共に、サイドシルインナパネル4lとトンネル部5の側面とを連結するシートクロスメンバ前7l、シートクロスメンバ後8lが溶接されている。
【0013】
また、フロア部6rの上面にも同様に、車幅方向に延在する断面略コ字状で、フロア部6rの上面とで中空閉断面を形成すると共に、サイドシルインナパネル4rとトンネル部5の側面とを連結するシートクロスメンバ前7r、シートクロスメンバ後8rが溶接されている。
【0014】
更に、左右のフロア部6l,6rには、それぞれ車幅方向の下面略中央には、車体前後方向に延在する断面略コ字状で、フロア部6l,6rの下面とで中空閉断面を形成するフロアフレーム9l,9rが溶接されている。
【0015】
左右のフロア部6l,6rの上述のシートクロスメンバ前7l,7r、シートクロスメンバ後8l,8r、フロアフレーム9l,9rが溶接される部位は、それぞれ平面状に形成されており、これら各平面状部位により区画されるパネルには、それぞれ下方に向けて膨出する鍋底形状の膨出部10が形成されている。
【0016】
すなわち、シートクロスメンバ前7l,7rの前方でフロアフレーム9l,9rにより左右に区画される部分には、それぞれ1つの膨出部10が形成されている。
【0017】
また、シートクロスメンバ前7l,7rとシートクロスメンバ後8l,8rとの間でフロアフレーム9l,9rにより左右に区画される部分、及び、シートクロスメンバ後8l,8rの後方でフロアフレーム9l,9rにより左右に区画される部分には、それぞれ2つの膨出部10が形成されている。
【0018】
本実施の形態によるフロントフロアパネル1では、このように複数の膨出部10を形成することにより剛性を高め、エンジンの振動騒音や排気音、路面からのロードノイズ等の周波数より高い領域に共振周波数を設定するようになっている。
【0019】
サイドシルインナパネル4l,4rとフロントフロアパネル1とは、図2に示すように、サイドシルインナパネル4l,4rの車室内側に突出した部分の下方にフロントフロアパネル1のフランジ部3l,3rを溶接することにより接合される。尚、図2中のhの部分が上下方向における溶接部位の範囲を示す。また、図2では、サイドシルインナパネル4lについて図示するものであるが、サイドシルインナパネル4rについても同様に接合される。
【0020】
そして、図3に示すように、フロントフロアパネル1のフランジ部3l,3rには、複数の独立した溶接しろYSが設けられており、これら複数の溶接しろYS毎に上端側から下端側にかけて斜めにレーザ溶接することにより、サイドシルインナパネル4l,4rと接合されている。すなわち、図3中、符号20がレーザ溶接部を示す。尚、溶接しろYSの寸法は、確保すべき剛性、フロントフロアパネル1の板厚等により適宜設定される。
【0021】
ここで、図3のレーザ溶接の例では、複数の溶接しろYSについて、溶接しろYSと溶接しろYSとの間には、予め設定した間隔αを設けてレーザ溶接する場合の例を示している。
【0022】
このように、本実施の形態では、フロントフロアパネル1のフランジ部3l,3rにサイドシルインナパネル4l,4rと溶接接合する溶接しろYSを設け、該溶接しろYSの上端側から下端側にかけて斜めにレーザ溶接により接合したので、前後方向のみならず、上下方向における接合の剛性を高めることができる。このため、フロントフロアパネル1に剛性の向上を狙って形成する膨出部10と相まって剛性を確実に向上し、コスト低減、軽量化を維持しながら安定して確実に共振周波数を上昇させ(例えば500Hz以上まで上昇させ)振動騒音を低減し、快適性を向上させることが可能となっている。
【0023】
尚、レーザ溶接の形態としては、図3に限るものではなく、例えば、図4に示すように、各溶接しろYSが隙間無く連続するようにしても良い。
【0024】
また、図5に示すように、各溶接しろYSの溶接部20同士が重なることなく、それぞれラップ(ラップ長さβ)させて設けるようにしても良い。
【0025】
更に、図6に示すように、溶接しろYSは、一つの長尺な溶接しろYSで形成し、該長尺な溶接しろYSの上端側から下端側にかけて長尺なレーザ溶接をするようにしても良い。
【0026】
また、複数の溶接しろYSにおいて、レーザ溶接を行う斜めの方向は同一方向(例えば、上端側から下端側、或いは、下端側から上端側の溶接方向を統一して設ける)である必要はなく、例えば、図7に示すように、レーザ溶接の上端側と上端側、下端側と下端側とが隣接するようにしても良い。
【0027】
尚、本実施の形態では、本発明をフロントフロアパネルに適用した例を説明しているが、リアフロアパネルでも適用できることは云うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】フロントフロアパネルの斜視図
【図2】図1のII−II断面図
【図3】図2の矢視Aによるレーザ接合の説明図
【図4】図3とは異なるレーザ接合の例の説明図
【図5】図3、4とは異なるレーザ接合の例の説明図
【図6】図3、4、5とは異なるレーザ接合の例の説明図
【図7】図3、4、5、6とは異なるレーザ接合の例の説明図
【符号の説明】
【0029】
1 フロントフロアパネル
3l,3r フランジ部
4l,4r サイドシルインナパネル
5 トンネル部
6l,6r フロア部
7l,7r シートクロスメンバ前
8l,8r シートクロスメンバ後
9l,9r フロアフレーム
10 膨出部
20 レーザ溶接部
YS 溶接しろ
代理人 弁理士 伊 藤 進

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端の車両前後方向にかけてサイドシルと接続する屈曲したフランジ部を備え、下方に向けて膨出する膨出部を有する車両のフロアパネルにおいて、
上記フランジ部に上記サイドシルと溶接接合する溶接しろを設け、該溶接しろの上端側から下端側にかけて斜めにレーザ溶接により接合したことを特徴とする車両のフロアパネル。
【請求項2】
上記溶接しろは、独立して複数設け、各溶接しろ毎に上端側から下端側にかけて斜めにレーザ溶接することを特徴とする請求項1記載の車両のフロアパネル。
【請求項3】
上記複数の溶接しろは、予め設定する間隔を空けて設けたことを特徴とする請求項2記載の車両のフロアパネル。
【請求項4】
上記複数の溶接しろは、各溶接しろの溶接部同士が重なることなく、それぞれラップさせて設けたことを特徴とする請求項2記載の車両のフロアパネル。
【請求項5】
上記複数の溶接しろは、連続して設けたことを特徴とする請求項2記載の車両のフロアパネル。
【請求項6】
上記溶接しろは、一つの長尺な溶接しろで形成し、該長尺な溶接しろの上端側から下端側にかけて長尺なレーザ溶接をすることを特徴とする請求項1記載の車両のフロアパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−281957(P2006−281957A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103978(P2005−103978)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】