説明

車両のフード構造

【課題】被衝突物への衝突時に被衝突物へ与える衝撃を十分に吸収する車両のフード構造を提供する。
【解決手段】フード構造1では、フードリインフォースメントパネル30の第1フランジ30Aから第2フランジ30Bまでの長さが、第1フランジ30Aが接合するインナーパネル20の第1の接合部位20Aから第2フランジ30Bが接合するインナーパネル20の第2の接合部位20Bまでのインナーパネル20の線長に合わせていて、フロント骨格部に対向したアウターパネルの領域周辺に車両外部から荷重が加えられると、アウターパネルが変形してフードリインフォースメントパネルに当たり、さらに荷重によってアウターパネル及びフードリインフォースメントパネルがインナーパネル側へ変形して荷重を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフード構造に関し、特に自動車等の車両の前面衝突時に被衝突物への衝撃を低減するフード構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前部にボンネットフードを備えた自動車において、そのフード構造100は、図8に示すように、フードの車体外側面を構成するアウターパネル110と、このアウターパネル110の下方に配置されるインナーパネル120と、フードを補強するためにアウターパネル110とインナーパネル120との間に配置されたフードリインフォースメントパネル130と、から構成されている。なお、図8は、フード前側の部分断面図であり、図中の符号Frは車両前方を、Upは車両上方を示す。
【0003】
近年、この種のフード構造は、車両が被衝突物と衝突した際における被衝突物への衝撃を低減させる機能を備えている。
特許文献1には、フードの前側構造として、フードリインフォースメントパネルとインナーパネルとの間に衝撃吸収のための十分な空間を形成し、エネルギ吸収途中に強固な構造物、例えば、ストライカなどに障害物が達することを未然に防ぐことで、障害物への衝撃を緩和するフード構造が開示されている。
【特許文献1】特開平11−321714号公報 (段落〔0022〕、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に示すフード構造では、衝突時に被衝突物がアウターパネルに押し付けられ、被衝突物よってアウターパネル及びフードリインフォースメントパネルがインナーパネル側へ変形するが、アウターパネルが変形の過程でインナーパネルに当たり、被衝突物への衝撃を十分に吸収することができなかった。
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み創作されたものであり、衝突時に被衝突物への衝撃を十分に低減するフード構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、フードの車体外側面を構成するアウターパネルと、このアウターパネルの下方に配置されるインナーパネルと、フードリインフォースメントパネルと、を備え、インナーパネルがアウターパネルの前縁に沿って車幅方向に延びたフロント骨格部を有し、フードリインフォースメントパネルが、前端の第1フランジ及び後端の第2フランジをインナーパネルに接合してフロント骨格部の上方に配置されていると共に、インナーパネルからアウターパネル側へ隆起しているフード構造であって、フードリインフォースメントパネルの第1フランジから第2フランジまでの長さが、第1フランジが接合するインナーパネルの第1の接合部位から第2フランジが接合するインナーパネルの第2の接合部位までのインナーパネルの線長に合わせていて、フロント骨格部に対向したアウターパネルの領域周辺に車両外部から荷重が加えられると、アウターパネルが変形してフードリインフォースメントパネルに当たり、さらに荷重によってアウターパネル及びフードリインフォースメントパネルがインナーパネル側へ変形して、荷重を吸収することを特徴としている。
【0007】
インナーパネルは、好ましくは、アウターパネルの外縁に沿って配置される外周骨格と、この外周骨格の内側で車両前後方向に配置した複数の内骨格を有し、外周骨格がフロント骨格部を備えていて、フードリインフォースメントパネルの第2フランジが内骨格に接合されている。
【0008】
フードリインフォースメントパネルは、好ましくは、フロント骨格部に対向したベース部と、このベース部の後端から車両後方へ延出していて互いに離間して並設した複数の中間連結部と、各中間連結部の後端を連結したリア連結部と、を有し、第1フランジがベース部の前縁から前方へ延出した第1の傾斜部に連成されており、第2フランジがリア連結部の後縁から後方へ延出した第2の傾斜部に連成されている。
フードリインフォースメントパネルは、好ましくは、ロックリインフォースメントパネルとの接合部位を階段状に形成している。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、インナーパネルと干渉させずにアウターパネルをストロークさせて被衝突物の荷重を吸収する。即ち、本発明のフード構造では、アウターパネルの変形の過程でインナーパネルはアウターパネルの移動を妨げず、荷重によるアウターパネルが変形しながら移動するストロークを確保して、アウターパネルの変形によって荷重を吸収する。よって、従来のフード構造では、アウターパネルが変形の過程でその移動をインナーパネルによって妨げられて被衝突物に衝撃を与える虞があったが、本発明では、アウターパネルのストローク変形を多くしているため、被衝突物に与える衝撃を十分に低下させることができる。したがって、本発明によれば、従来のフード構造の衝撃吸収性能をより一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態に係るフード構造1を示す斜視図であり、図2は図1のA−A線断面図である。図1ではアウターパネルを省略している。図中の符号Frは車両前方を、Upは車両上方を、Wは車幅方向を示す。
【0011】
フード構造1は、車体外側面を構成するアウターパネル10と、このアウターパネル10の下方に配置されるインナーパネル20と、フードリインフォースメントパネル30と、を備えている。
インナーパネル20は、アウターパネル10の外縁に沿って配置された逆ハット型断面の外周骨格21と、この外周骨格21の内側に配置された逆ハット型断面の内骨格22とを有する。
【0012】
外周骨格21は、アウターパネル10の前縁に沿って車幅方向Wに延びたフロント骨格部21Aと、フロント骨格部21Aの両端部からそれぞれアウターパネル10の側縁に沿って車両後方へ延びたサイド骨格部21B,21Cと、各サイド骨格部21B,21Cの各後端部を連結するようにアウターパネル10の後縁に沿って車幅方向Wに延びたリア骨格部21Dと、から構成されている。
【0013】
内骨格22は、外周骨格21の内側に複数設けられている。図示例では、4本の内骨格22A〜22Dが、フロント骨格部21Aとリア骨格部21Dとを連結するように、サイド骨格部21B,21Cと同様に車両前後方向に延びて配置されている。なお、インナーパネル20には、サイド骨格部21B,21Cと内骨格22A,22Dとの間及び内骨格22A〜22D同士の間に開口23が開設されている。
【0014】
フードリインフォースメントパネル30は、フードを補強するための部材であり、前端の第1フランジ30A及び後端の第2フランジ30Bをインナーパネル20に接合して、フロント骨格部21Aの上方に配置されている。さらに、フードリインフォースメントパネル30は、インナーパネル20からアウターパネル10側へ隆起するように形成されている。
【0015】
図3は図1のB−B線断面図であり、この図に示すように、フード前端部中央の底面からはストライカ40が突出するように配置されている。このストライカ40がエンジンルーム側に設けたロック装置に係合することでフード閉状態が維持される。ストライカ40の取り付けを補強するために、ロックリインフォースメントパネル50がフードに設けられている。
【0016】
以上の構成は特許文献1のフード構造と同様であるが、本発明の実施形態に係るフード構造1は以下のように構成されている点に特徴がある。
先ず、本発明の実施形態に係るフード構造1では、フードリインフォースメントパネル30の第1フランジ30Aから第2フランジ30Bまでの長さが、第1フランジ30Aが接合するインナーパネル20の第1の接合部位20Aから第2フランジ30Bが接合するインナーパネル20の第2の接合部位20Bまでのインナーパネル20の線長に合わせている。
【0017】
このように長さが選定されているフードリインフォースメントパネル30について詳述する。フードリインフォースメントパネル30は、図1に示すように、フロント骨格部21Aに対向したベース部31と、このベース部31の後端から車両後方へ延出していて互いに離間して並設した複数の中間連結部32と、各中間連結部32の後端を連結したリア連結部33と、から構成されている。また、フードリインフォースメントパネル30には各中間連結部32の間に開口34が開設されていて、フードリインフォースメントパネル30の概ね前後方向中間部位から後方側の剛性が低くなるように形成されている。
【0018】
図2に示すように、第1フランジ30Aはベース部31の前縁から前方へ延出した第1の傾斜部31Aに連成して形成されており、第2フランジ30Bは連結部33の後縁から後方へ延出した第2の傾斜部33Aに連成して形成されている。図示例では、6つの第1フランジ30Aと2つの第2フランジ30Bとがそれぞれインナーパネル20に接合して、フードリインフォースメントパネル30が固定されている。なお、2つの第2フランジ30Bは、それぞれ、フードリインフォースメントパネル30の後部の各角部、即ち連結部33の両端から後方へ延出するように配置されている。そして、これらの第2フランジ30Bが車幅方向の最も外側に配置されている内骨格22A,22Dに接合されている。
【0019】
さらに、本発明の実施形態に係るフード構造1においては、インナーパネル20が、フロント骨格部21Aに対向したアウターパネル10の衝突領域αに車両外部から荷重が加えられてアウターパネル10が変形して移動する領域から外れるように、配置されている。即ち、インナーパネル20は、荷重によって変形するアウターパネル10に影響を与えないように、アウターパネル10が変形して移動する軌跡上に、位置が重ならないように構成され、配置されている。具体的には、インナーパネル20は、第1の接合部位20Aから第2の接合部位20Bまでが下方へ膨出して形成されている。また、インナーパネル20は、図2に示すように、フロント骨格部21Aから第2の接合部位20Bまでの領域が、対向するアウターパネル10面と直交するような縦壁を備えずに、車両後方にいくにつれて次第に高くなる傾斜面として形成されている。なお、衝突領域αとは、被衝突物に衝突した場合に、被衝突物が衝突によって押し付けられるフードの前側領域である。
【0020】
図4はロックリインフォースメントパネル50が接合されるフードリインフォースメントパネル30の後部を部分的に示した斜視図であり、図5は図4のC−C線断面図である。図に示すように、ロックリインフォースメントパネル50に対するフードリインフォースメントパネル30の接合部位を階段状に形成して、ここでも段階的に塑性変形させて加重を吸収する。
また、フード構造1では、フードリインフォースメントパネル30のリア連結部33のアウターパネル10と対向する面には、樹脂固形物であるマスチックシーラ60が取り付けられていて、このマスチックシーラ60がアウターパネル10に当接することで、アウターパネル10の張り剛性が高められている。
【0021】
以上のように構成された本発明の実施形態に係るフード構造1の作用について説明する。図6及び図7において、実線は被衝突物Hが衝突する前の状態を示し、一点鎖線は被衝突物への衝突後のアウターパネル10、二点鎖線は被衝突物への衝突後のフードリインフォースメントパネル30を示している。
車両が被衝突物に衝突した際、被衝突物がフロント骨格部21Aに対向したアウターパネル10の衝突領域αに押し付けられる。そして、図6及び図7に示すように、荷重Fを伴った被衝突物Hが当該領域αに侵入し、先ずアウターパネル10に衝接すると、アウターパネル10が荷重Fによって変形してフードリインフォースメントパネル30に当たり、荷重Fの一部が吸収される。さらに残りの荷重Fによってアウターパネル10及びフードリインフォースメントパネル30がインナーパネル20側へ変形する。このとき、荷重Fによって、アウターパネル10及びフードリインフォースメントパネル30が変形して移動する領域上にインナーパネル20が存在しないので、残りの荷重Fを全て吸収するまでアウターパネル10及びフードリインフォースメントパネル30は変形する。そして、アウターパネル10及びフードリインフォースメントパネル30はインナーパネル20と離れた位置で変形が止まって静止する。
【0022】
このように、本発明の実施形態に係るフード構造1によれば、インナーパネル20と干渉させずにアウターパネル10をストロークさせて被衝突物Hの荷重Fを吸収する。即ち、本実施形態のフード構造1では、アウターパネル10の変形の過程でインナーパネル20はアウターパネル10の移動を妨げず、荷重Fによるアウターパネル10が変形しながら移動するストロークを確保して、アウターパネル10の変形によって荷重Fを吸収する。よって、従来のフード構造では、アウターパネルが変形の過程でその移動をインナーパネルによって妨げられると被衝突物への衝撃の緩和が低くなりがちであったが、本実施形態では、アウターパネル10のストローク変形を多くしているため、被衝突物Hに与える衝撃を十分に低下させることができる。したがって、本発明のフード構造1によれば、従来のフード構造の衝撃吸収性能をより一層高めることができる。
【0023】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で様々な形態で実施をすることができる。例えば、第1フランジ30A,第2フランジ30B,マスチックシーラ60等の数は図示例に限定されるものではない。また、インナーパネル10の内骨格22は、車両前後方向に延出したものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るフード構造を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】図1のロックリインフォースメントパネルが接合されるフードリインフォースメントパネルの後部を部分的に示した斜視図である。
【図5】図4のC−C線断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るフード構造の作用を説明するための断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係るフード構造の作用を説明するための断面図である。
【図8】従来のフード構造の断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 フード構造
10 アウターパネル
20 インナーパネル
20A 第1の接合部位
20B 第2の接合部位
21 外周骨格
21A フロント骨格部
21B,21C サイド骨格部
21D リア骨格部
22,22A〜22D 内骨格
23,34 開口
30 フードリインフォースメントパネル
30A 第1フランジ
30B 第2フランジ
31 ベース部
31A 第1の傾斜部
32 中間連結部
33 リア連結部
33A 第2の傾斜部
40 ストライカ
50 ロックリインフォースメントパネル
60 マスチックシーラ
α 衝突領域
H 被衝突物
F 荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フードの車体外側面を構成するアウターパネルと、このアウターパネルの下方に配置されるインナーパネルと、フードリインフォースメントパネルと、を備え、
上記インナーパネルが上記アウターパネルの前縁に沿って車幅方向に延びたフロント骨格部を有し、
上記フードリインフォースメントパネルが、前端の第1フランジ及び後端の第2フランジを上記インナーパネルに接合して上記フロント骨格部の上方に配置されていると共に、上記インナーパネルから上記アウターパネル側へ隆起しているフード構造であって、
上記フードリインフォースメントパネルの上記第1フランジから上記第2フランジまでの長さが、該第1フランジが接合するインナーパネルの第1の接合部位から上記第2フランジが接合する上記インナーパネルの第2の接合部位までの上記インナーパネルの線長に合わせていて、
上記フロント骨格部に対向した上記アウターパネルの領域周辺に車両外部から荷重が加えられると、上記アウターパネルが変形して上記フードリインフォースメントパネルに当たり、さらに上記荷重によって上記アウターパネル及び上記フードリインフォースメントパネルが上記インナーパネル側へ変形して上記荷重を吸収することを特徴とする、フード構造。
【請求項2】
前記インナーパネルが、前記アウターパネルの外縁に沿って配置される外周骨格と、この外周骨格の内側で車両前後方向に配置した複数の内骨格を有し、
上記外周骨格が前記フロント骨格部を備えていて、
前記フードリインフォースメントパネルの第2フランジが上記内骨格に接合されていることを特徴とする、請求項1に記載のフード構造。
【請求項3】
前記フードリインフォースメントパネルが、前記フロント骨格部に対向したベース部と、このベース部の後端から車両後方へ延出していて互いに離間して並設した複数の中間連結部と、各中間連結部の後端を連結したリア連結部と、を有し、
前記第1フランジが上記ベース部の前縁から前方へ延出した第1の傾斜部に連成されており、前記第2フランジが上記リア連結部の後縁から後方へ延出した第2の傾斜部に連成されていることを特徴とする、請求項2に記載のフード構造。
【請求項4】
ロックリインフォースメントパネルを備え、
前記フードリインフォースメントパネルが、上記ロックリインフォースメントパネルとの接合部位を階段状に形成したことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のフード構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−110668(P2008−110668A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294983(P2006−294983)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】