説明

車両のホイールの長手位置を同定する方法

【課題】応答性と信頼性の面で非常に強力な位置同定方法を提供する。
【解決手段】エンジンの回転から発生し、対応するホイールに応力を加える振動を測定する手段を各電子モジュールに組み込み、各車両のタイプを判定する準備段階において、エンジンの動作中にエンジンの少なくとも1回転にわたって、前端に取り付けられたホイールと後端に取り付けられたホイールのそれぞれの測定手段により供給された周波数に従って振動を表す信号のスペクトル分析を行い、信号間の周波数オフセットに基づいて信号を区別する基準を確立し、エンジンの動作中に、少なくとも同じ1つの時点tに異なる測定手段により供給された周波数に従って振動の振幅変化を表す信号を分析し、信号間の周波数オフセットから前記各ホイールの長手位置に関する情報を導き出すことから成るホイールの長手位置を同定する手続きを開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン付き車両の前端であれ後端であれ、ホイールの長手位置を同定するための方法に関するものである。なお、ホイールには電子モジュールが取り付けられており、これらの電子モジュールが、ホイールに取り付けられた中央処理ユニットに、各ホイールの動作パラメータを表すだけでなく各ホイールの識別コードをも含んだ信号を送る。
【背景技術】
【0002】
安全性のために、エンジン車両は車両の各ホイールに取り付けられたセンサを含む監視システムを装備することが増えている。なお、各ホイールに取り付けられたセンサは、専らこれらの車両に取り付けられたタイヤの圧力や温度のようなパラメータを測定し、測定されたパラメータの異常な変化を運転者に知らせるためのものである。
【0003】
従来、これらの監視システムは車両の各ホイールに取り付けられた電子モジュールと車両に取り付けられた中央処理ユニットを備えており、電子モジュールには上記センサの他にマイクロプロセッサと無線周波送信器(RF送信器)とが組み込まれており、中央処理ユニットが送信器によって送信された信号を受け取る。この中央処理ユニットはアンテナに接続された無線周波受信器(RF受信器)を組み込んだコンピュータを含んでいる。
【0004】
このような監視システムの解決すべき問題の1つは、中央処理ユニットの受信器が受信した各信号に、電子モジュールの位置同定に関する情報を、つまりこの信号を発しているホイールに関する情報を付随させなければならないことにある。このことは車両の全寿命を通して続く、つまり、ホイールを替えた後でさえ、あるいはもっと単純にホイールの位置を逆にした後でさえも考慮されなければならない。
【0005】
現在のところ、第1の位置同定方法は各電子モジュールに加速度計を組み込み、統計的手法に基づいた位置同定技法を実施することである。なお、上記の統計的手法とは、異なる複数のホイールの加速度を比較し、前記各ホイールのそれぞれの位置に関する情報を得るというものである。
【0006】
しかし、この位置同定方法は非効率的であることが判明している。なぜならば、異なる複数のホイールを区別するために相当な実行時間を要するからである。
【0007】
第2の位置同定方法は、車両の1つのホイールの近傍にそれぞれ配置された3つの低周波アンテナを用い、これら3つのアンテナを低周波磁場を送ることにより順次励起する様式の位置同定手続きを実行することである。
【0008】
この手続きによれば、励起されるアンテナの近傍に位置する車両に取り付けられた電子モジュールが、中央処理ユニットに応答して、中央処理ユニットに向けてこのモジュールの識別コードを含む低周波信号を送ることで、3つのアンテナの連続した励起がこれらのアンテナの近傍にあるホイールに取り付けられた2つの電子モジュールの位置同定が為される。
【0009】
このような方法の主な利点は、位置同定手続きが非常に迅速であり、車両のスタートアップ後、ほぼ瞬間的な位置同定がもたらされることにある。
【0010】
しかし、この解決手段は、車両に3つのアンテナを取り付けること、およびケーブルの接続、増幅器の制御など諸々の制限を伴うため、非常にコストが高い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方、本発明は専ら車両ホイールの長手位置(前端または後端)を同定することを目的とした第3の方法を目指している。本発明の主な課題は、応答性と信頼性の面で非常に強力であり、かつ、最終結果が同じならば、上で説明した現在の2つの方法を実施するよりも格段に全体的な実施コストの低い位置同定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、エンジン付き車両の前端であれ後端であれ、ホイールの長手位置を同定するための方法であって、前記ホイールには電子モジュールが取り付けられており、該電子モジュールが前記ホイールに取り付けられた中央処理ユニットに前記各ホイールの動作パラメータを表すだけでなく前記各ホイールの識別コードをも含んだ信号を送るようにした方法において、前記エンジンの回転から発生し、対応するホイールに応力を加える振動を測定する手段を前記各電子モジュールに組み込み、各車両のタイプを判定する準備段階において、前記エンジンの動作中に前記エンジンの少なくとも1回転にわたって、前端に取り付けられたホイールと後端に取り付けられたホイールのそれぞれの測定手段により供給された周波数に従って前記振動を表す信号のスペクトル分析を行い、前記信号間の周波数オフセットに基づいて前記信号を区別する基準を確立し、前記エンジンの動作中に、少なくとも同じ1つの時点tに異なる測定手段により供給された周波数に従って前記振動の振幅変化を表す信号を分析し、前記信号間の周波数オフセットから前記各ホイールの長手位置に関する情報を導き出すことから成る前記ホイールの長手位置を同定する手続きを開始するようにすることにより解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
このために、本発明は、エンジン車両の前端であれ後端であれ、ホイールの長手位置を同定するための方法を対象としている。なおここで、ホイールには電子モジュールが取り付けられており、これらの電子モジュールが、ホイールに取り付けられた中央処理ユニットに、各ホイールの動作パラメータを表すだけでなく各ホイールの識別コードをも含んだ信号を送る。
【0014】
本発明によれば、この位置同定方法は、エンジンの回転から発生し、対応するホイールに応力を加える振動を測定する手段を各電子モジュールに組み込み、各車両のタイプを判定する準備段階において、エンジン動作中にエンジンの少なくとも1回転にわたって、前記振動を表す信号を前端に取り付けられたホイールと後端に取り付けられたホイールのそれぞれの測定手段により供給された周波数に従ってスペクトル分析を行い、信号間の周波数オフセットに基づいて前記信号を区別する基準を確立し、ホイールの長手位置を同定する手続きを開始することから成る。なお、ホイールの長手位置を同定する手続きは、エンジン動作中に、少なくとも同じ1つの時点tに異なる測定手段によって供給された周波数に従って振動の振幅変化を表す信号を分析し、前記信号間の周波数オフセットから各ホイールの長手位置に関する情報を導き出すことから成る。
【0015】
注意すべきことは、本発明によれば、「測定手段」という用語は、例えば振動センサや音響センサのような、この測定手段が属している車両のエンジンの回転から生じた振動の振幅対周波数スペクトルを表す信号を供給するように設計された任意の手段を一般的に特徴付けるために用いられているということである。
【0016】
それゆえ、本発明は電子モジュールにおいて車両エンジンの回転により生じた振動の測定に基づいた位置同定技法を実施し、同一の端部に、すなわち前端または後端のいずれかに配置された測定手段によって供給される信号は実質的に差分オフセットを示さないが、異なる端部に配置された測定手段によって供給される信号はホイールの長手位置の決定を可能にする特徴的な差分オフセットを示すことを明らかにすることから成る。
【0017】
このような技法は応答性の面で非常に強力である。というのも、エンジン始動のほぼ直後にホイールの長手位置が同定されるからである。
【0018】
有利な実施形態によれば、ホイールに応力を加える固体伝搬振動を表す信号を供給することのできる振動センサから成る測定手段が使用される。
【0019】
このような振動センサは単純かつ実績のある技術に基づいたセンサから成っており、最終結果が同一ならば、加速度計を含む場合よりも全体的な取付コスト(調達、取付およびソフトウェア適合)が低くなる。
【0020】
3つの振動センサを用いる別の利点はその堅牢性であり、電子モジュールの環境条件が厳しい場合に特に適している。
【0021】
本発明の他の特徴、目的、および利点は、以下の詳細な説明と、本発明の有利な実施形態を非限定的な実施例として示す添付図面とから明らかとなる。
【実施例】
【0022】
図1aおよび1bに例として示された本発明による位置同定装置は、車両ホイールの長手位置を同定するためのものである。
【0023】
より具体的には、この位置同定装置は、図1aに示されているように、従来通りタイヤに取り付けられた4つのホイール、すなわち、2つのフロントホイール2,3と2つのリアホイール4,5を備えたエンジンMを有する車両1に取り付けられているような監視システムを備えた車両に設置されることを意図したものである。
【0024】
従来、このような監視システムはまず第1に、各ホイール2−5に付随して、タイヤカバー内に配置されるように例えば前記ホイールのリムに装着された1つの電子モジュール6−9を含んでいる。
【0025】
これらの電子モジュール6−9の各々には、例えば(図1b)、タイヤの圧力および/または温度のようなパラメータを測定するための専用のセンサ11が組み込まれている。センサ11はボタン電池13により給電されるマイクロプロセッサを用いた計算ユニット12に接続されており、高周波アンテナ14に接続されたRF送信器とつながっている。
【0026】
監視システムは車両1内に配置された集中型コンピュータまたは中央処理ユニット10(図1)を含んでおり、この中央処理ユニット10は、マイクロプロセッサと、4つの電子モジュール6−9の各々によって送られた信号を受け取ることのできるRF受信器とを含んでいる。
【0027】
通常、このような監視システム、特にその中央処理ユニット10は、ホイール2−5に属するセンサ11により測定されたパラメータの異常な変化を運転者に知らせるように設計されている。
この監視システムと共同し、しかもその不可欠な一部を成している本発明による位置同定装置の機能によれば、中央処理ユニット10により受信された各信号に、この信号を発した電子モジュール6−9が取り付けられているホイール2−5の長手位置に関する情報を付随させることが可能となる。
【0028】
このために、この位置同定装置は、振動センサまたは音響センサのような、各電子モジュール6−9に組み込まれた測定手段15(図1b)を含んでおり、測定手段15は、エンジンMが動作しているときに、この測定手段が被る振動の周波数に従った振幅の変化を表す信号を供給するように構成されている。
【0029】
例として、使用するセンサは、「固体伝搬」波を、つまり、図2に示されているように、発生源(エンジンM)から固体チャネル(車体)を通って行き先(ホイール2−5)まで固体経路を伝搬する振動を測定するように設計された振動センサから成るものであってよい。
【0030】
本発明に従って配置されたこのような測定手段またはセンサ15は、本発明の原理にとって決定的に重要な以下の特別な特徴を示す。
同一の端部に、すなわち、前端または後端のいずれかに配置されたセンサ15によって供給される振幅スペクトルを表す信号は実質的に信号間の差分オフセットを示さない。
異なる端部に配置されたセンサ15によって供給される振幅スペクトルを表す信号はホイールの長手位置の決定を可能にする特徴的な差分オフセットを示す。
【0031】
図解として、図3には、フロントホイール2,3(実線)とリアホイール4,5(破線)にそれぞれ配置された2つのセンサにより供給される2つの信号が示されており、この例では実質的に3ヘルツに等しいこれら2つの信号の間に存在する特徴的な周波数オフセットAfが明らかにされている。
これらの特別な特徴は次に述べる位置同定方法の実施を可能にする。すなわち、この位置同定方法は、本発明によれば、標準的な車両1について、各準備段階において、エンジンMの動作中にこのエンジンの少なくとも1回転にわたって、表す信号を前端に取り付けられたホイール2,3と後端に取り付けられたホイール4,5のそれぞれのセンサ15により供給された周波数に従って振動を表す信号のスペクトル分析を行い、前記信号間の周波数オフセットを明らかにし、ホイール2−5の長手位置を同定する手続きを開始することから成る。なお、ホイール2−5の長手位置を同定する手続きは、エンジン動作中に(車両が停まっていようと動いていようと)、少なくとも同じ1つの時点tに異なるセンサ15によって供給された周波数に従って振動の振幅変化を表す信号を分析し、前記信号間の周波数オフセットから各ホイール2−5の長手位置に関する情報を導き出すことから成る。
【0032】
したがって、上に述べた本発明による位置同定方法によれば、車両ホイールに取り付けられたそれぞれの電子モジュールに振動センサや音響センサのような測定手段を設置することで、前記ホイールの長手位置を非常に迅速に、高い信頼性をもって測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1a】本発明による車両ホイールの長手位置を同定する装置に付随する監視システムを備えた車両の概略的な上面図である。
【図1b】この車両のホイールの一部およびこの車両に取り付けられた電子モジュールを示す概略的な詳細透視図である。
【図2】エンジンの回転から生じる「固体伝搬」波を図式的に示した車両の上面図である。
【図3】フロントホイール(破線)とリアホイール(太線)にそれぞれ配置された測定手段により供給される2つの信号を比較したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(M)付き車両(1)の前端であれ後端であれ、ホイール(2−5)の長手位置を同定するための方法であって、前記ホイール(2−5)には電子モジュール(6−9)が取り付けられており、該電子モジュール(6−9)が前記ホイール(2−5)に取り付けられた中央処理ユニット(10)に前記各ホイールの動作パラメータを表すだけでなく前記各ホイールの識別コードをも含んだ信号を送るようにした方法において、前記エンジン(M)の回転から発生し、対応するホイールに応力を加える振動を測定する手段(15)を前記各電子モジュール(6−9)に組み込み、各車両のタイプを判定する準備段階において、前記エンジン(M)の動作中に前記エンジンの少なくとも1回転にわたって、前端に取り付けられたホイール(2,3)と後端に取り付けられたホイール(4,5)のそれぞれの測定手段(15)により供給された周波数に従って前記振動を表す信号のスペクトル分析を行い、前記信号間の周波数オフセットに基づいて前記信号を区別する基準を確立し、前記エンジンの動作中に、少なくとも同じ1つの時点tに異なる測定手段(15)により供給された周波数に従って前記振動の振幅変化を表す信号を分析し、前記信号間の周波数オフセットから前記各ホイール(2−5)の長手位置に関する情報を導き出すことから成る前記ホイール(2−5)の長手位置を同定する手続きを開始する、ことを特徴とするエンジン付き車両のホイールの長手位置を同定するための方法。
【請求項2】
前記ホイール(2−5)に応力を加える「固体伝搬」振動を表す信号を供給することのできる振動センサ(15)から成る測定手段を使用する、請求項1記載の位置同定方法。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−145350(P2009−145350A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318731(P2008−318731)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(398050939)コンティネンタル オートモーティヴ フランス (60)
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive France
【住所又は居所原語表記】1, Avenue Paul Ourliac, F−31036 Toulouse, France
【Fターム(参考)】