説明

車両の制動制御装置

【課題】 ABS制御時における応答性を改善した車両制動制御装置を提供する。
【解決手段】 各車輪の制動状態を検出する制動力検出手段と、少なくとも前記制動力検出手段の検出値に基づいて各車輪の要求制動力を演算し、各車輪の制動力制御を行う制動力制御手段とを備えた車両の制動力制御装置であって、前記制動力検出手段に基づき、スリップ輪が検出されたとき、ABS制御を実行すべく各車輪の要求制動力を演算するABS制御量演算手段と、前記スリップ輪が検出された時点で、前記要求制動力の演算結果にかかわらず強制的にABS制御を実行する制動力強制手段とを備えることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ駆動によって液圧を発生させるとともに、アンチロックブレーキシステム(ABS)を備えた車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の制動制御装置として、例えば特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報に記載されている車両の制動制御装置にあっては、車両の走行条件に合わせて通常ブレーキ制御とABS制御の2つが選択的に行われている。
通常ブレーキ制御は、運転者が要求する制動力に応じたペダルストロークに基づき要求制動力を算出し、実際の制動力(機械的制動力と回生制動力との総和)を要求制動力に等しくする制御が行われる。
一方、いずれかの車輪にロック傾向が生じた場合には、ABS制御輪のスリップ率が所定値を超えないように、ABS制御輪に付与される機械的制動力を減少させる減圧モード、機械的制動力を保持する保持モード、および機械的制動力を増加させる増圧モードを適宜切り替える制御が実行される。
なお、特許文献1の制御は回生制動を発生するシステムを前提としているが、機械的制動力を油圧により制御するブレーキシステムであって、運転者のブレーキ踏力により発生するマスタシリンダ圧によらず、ポンプ等の液圧供給源から発生する液圧により通常ブレーキ制御(いわゆるバイワイヤ制御)を実施する場合、ペダルストロークに基づく要求制動力を制御対象とする車輪の目標ホイルシリンダ圧の形で演算し、実際に発生しているホイルシリンダ圧を目標ホイルシリンダ圧に収束させる制御が行われる。
また、ABS制御の場合はABS制御輪の車輪速を検出し、スリップ率が所定値を超えないようにホイルシリンダ圧を減圧したり、スリップ率が所定値以下のときに機械的制動力を得るよう増圧・保持制御が実行される。
【特許文献1】特開2000−62590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来技術にあっては、通常ブレーキ制御およびABS制御を実行するにあたって機械的制動力を検出してから要求制動力を演算するため、実際に制動力が生じるまでにタイムラグが発生する。
例えば、ある駆動輪が通常ブレーキ制御により制動力が増加していた状態からABS制御を実行する所定のスリップ率に達して制動力を減少させる制御に移行する必要が生じた場合、制御移行の時点で演算された値は通常ブレーキ制御に基づく制御であって、ABS制御の実行が反映されるのは1トリップ後の制御となってしまう。そのため、減圧遅れによる車輪ロック時間の増加や増圧遅れによる制動距離増を招いてしまう、という問題があった。
【0004】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、ABS制御時における応答性を改善した車両制動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、各車輪の制動状態を検出する制動力検出手段と、少なくとも前記制動力検出手段の検出値に基づいて各車輪の要求制動力を演算し、各車輪の制動力制御を行う制動力制御手段とを備えた車両の制動力制御装置であって、前記制動力検出手段に基づき、スリップ輪が検出されたとき、ABS制御を実行すべく各車輪の要求制動力を演算するABS制御量演算手段と、前記スリップ輪が検出された時点で、前記要求制動力の演算結果にかかわらず強制的にABS制御を実行する制動力強制手段とを備えることとした。
【0006】
よって、ABS制御時に目標制動力に実際の制動力が収束する制御をキャンセルし、強制的に制動力を設定することで、応答性を改善した車両制動制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の車両の制動制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
[システム構成図]
実施例1につき図1ないし図11に基づき説明する。図1は車両の制動制御装置のシステム構成図である。本願車両の制動制御装置はいわゆるブレーキバイワイヤシステムであり、前輪には液圧ブレーキ装置を備える一方、リヤ側は油圧を用いず電気的にブレーキ制御を行う方式を採用している。本願実施例においては、液圧ブレーキ装置の制動制御について説明する。
【0009】
マスタシリンダ1にはストロークセンサ2及びストロークシミュレータ3が設けられている。ブレーキペダル4の踏み込みに伴ってマスタシリンダ1内に液圧が発生するとともに、ブレーキペダル4のストローク信号がメインECU10に出力される。発生したマスタシリンダ圧は油路31,32を介して液圧ユニット200に供給され、液圧制御が施された後油路33,34を介して前輪側ホイルシリンダ5に供給される。
【0010】
メインECU10はストローク信号に基づき車速やヨーレイトなど車両の状態量を考慮して前輪の要求液圧を演算し、ブレーキECU100を介して液圧ユニット200へ指令信号を出力してホイルシリンダ5の液圧を制御するとともに、制動時には回生ブレーキ装置9により前輪を制動する。また、後輪側ブレーキアクチュエータ6はメインECU10からの指令信号に基づいて電動キャリパ7の制動力を制御する。また、ブレーキECU100には各車輪FL〜RRに設けられた車輪速センサ8からの車輪速VSPが入力される。
【0011】
液圧ユニット200は、ブレーキバイワイヤシステムにおける通常制動時はマスタシリンダ圧とホイルシリンダ5との連通をシャットオフバルブ21,22により遮断する。一方、ポンプP1,P2によりホイルシリンダ5に液圧を供給し、制動力を発生する。また、運転者の急制動操作により車輪がロック傾向になると、ロックを解除するために、増圧バルブを駆動し、マスタシリンダ1側から前輪側ホイルシリンダ5への液圧の供給を遮断する。
【0012】
そして、減圧バルブを適宜駆動することで、前輪側ホイルシリンダ5内の液圧を減圧し、車輪のロックを回避しつつ制動力を得る。また、ブレーキバイワイヤ機能故障時には、マスタシリンダ圧を前輪ホイルシリンダ5に液圧を供給し、制動力を得る。
【0013】
なお、本実施例では後輪側ブレーキアクチュエータ6にマスタシリンダ圧を供給する油路構成を備えていない。すなわち、後輪は前輪に比べて制動力が小さく(一般的に前輪と後輪の制動力比は7:3程度)、フェールに陥ったとしても前輪のみで十分な制動力を確保できるためである。
【0014】
[液圧ユニットの油圧回路図]
図2は、液圧ユニット200の油圧回路図である。液圧ユニット200は左前輪に接続するS系統と、右前輪に接続するP系統とで構成されたタンデム型ユニットである。左右独立に設けられたポンプP1、P2(それぞれモータM1,M2により駆動)によりホイルシリンダ圧を上昇させ、所望の制動力を得る構成となっている。
【0015】
マスタシリンダ1は油路31,32、常開の(すなわち非励磁において開弁となる)シャットオフバルブ21,22、油路33,34を介してホイルシリンダ5,5へ接続する。ポンプP1、P2は一方を油路41,42を介してマスタシリンダ1と接続され、他方を油路43,44と接続される。
【0016】
油路43,44には常開のインバルブ23,24が設けられ、それぞれ油路45,46及び油路47,48と接続する。油路45,46には常閉比例弁であるアウトバルブ25,26が設けられ、油路41,42と接続する。また、油路47,48は油路33,34と接続する。さらに、油路43,44にはポンプP1,P2からインバルブ23,24への流れのみを許容するチェックバルブ27,28が設けられている。
【0017】
油路31,32であってマスタシリンダ1とシャットオフバルブ21,22の間には、マスタシリンダ圧を検出する液圧センサ51,52が設けられている。また、油路33,34であってホイルシリンダ5,5と油路47,48との接続点との間にも、ホイルシリンダ圧を検出する液圧センサ53,54が設けられている。検出された液圧はメインECU10に出力される。
【0018】
(増圧時)
増圧時には、ポンプP1,P2により油路41,42を介してリザーバ8から作動油を汲み出し、常開のインバルブ23,24を介してホイルシリンダ5,5を増圧する。このとき常開のシャットオフバルブ21,22は閉弁され、マスタシリンダ圧がホイルシリンダ5,5に導入されないものとしている。また、アウトバルブ25,26も閉弁され、ホイルシリンダ圧とリザーバ8とを遮断する。
【0019】
(減圧時)
減圧時にはポンプP1,P2を停止し、アウトバルブ25,26を開弁する。これによりホイルシリンダ5,5は油路47,48を介してリザーバ8と連通し、ホイルシリンダ圧の減圧が行われる。
【0020】
(保持時)
保持時にはポンプP1,P2を停止し、アウトバルブ25,26、及びシャットオフバルブ21,22を閉弁とする。これによりホイルシリンダ5,5はマスタシリンダ1及びリザーバ8との連通を遮断され、液圧が保持される。
【0021】
(フェイル時)
フェイル時には各電磁弁21〜26は非通電状態となり、常開のシャットオフバルブ21,22及びインバルブ23,24は自動的に開弁し、常閉のアウトバルブ25,26は閉弁となる。これによりマスタシリンダ1とホイルシリンダ5,5は連通され、ホイルシリンダ5,5とリザーバ8とが遮断されてマニュアルブレーキが確保される。
【0022】
[ブレーキECUの詳細]
図3は、ブレーキECU100の制御ブロック図である。ブレーキECU100は、通常ブレーキ制動力演算部110、ABS制御部120、制御切替部130、サーボ制御ユニット140(目標液圧演算手段)を有する。
【0023】
通常ブレーキ制動力演算部110は、ブレーキペダル4から出力された踏力及びペダルストローク量に基づき通常ブレーキ時における通常ブレーキ要求液圧Pnを演算し、ABS制御部120及び制御切替部130へ出力する。
【0024】
ABS制御部120は、通常ブレーキ時要求液圧Pn及び車輪速VSPに基づきABS制御時における制動力P*を演算し、制御切替部130へ出力する。また、ABS制御開始時にはABS制御フラグF1を立て、制御切替部130へ出力する。
【0025】
制御切替部130は、通常ブレーキ要求液圧Pn及びABS要求液圧Pabsのいずれかを選択して出力する。ABS制御フラグF1=1であればABS要求液圧Pabsを選択し、F1=0であれば通常ブレーキ要求液圧Pnを選択する。
【0026】
サーボ制御ユニット140は、電源電圧V、ホイルシリンダ5の実液圧P、通常ブレーキ要求液圧PnとABS要求液圧Pabsのいずれか一方、及び電磁弁21〜26の実電流値iに基づきモータM1,M2の目標電圧Vm*及び電磁弁21〜26の目標電流Iv*を演算し、それぞれモータM1,M2及び電磁弁21〜26の目標電流Iv*へ出力する。
【0027】
[サーボ制御ユニットの制御構成]
図4は、サーボ制御ユニット140の制御ブロック図である。サーボ制御ユニット140はモード切替部141、フィードフォワード(FF)制御部142、フィードバック(FB)制御部143、目標液圧決定部144、モータ電圧変換部145、電磁弁電流変換部146を有する。
【0028】
モード切替部141には通常ブレーキ要求液圧PnまたはABS要求液圧Pabsが入力され、加えてホイルシリンダ5からの実液圧Pも入力される。このPn及びPabsに基づき、目標液圧決定部144へ制御モード指令を出力する。通常ブレーキ要求液圧Pnが入力された場合は通常モード指令、ABS要求液圧Pabsが入力された場合はABS制御モードを出力する。
また、ABS制御開始時におけるホイルシリンダ5の目標液圧P*と実液圧Pとの乖離が規定値を超えている場合、速やかに所望の液圧に到達するよう強制急減圧/強制保持/強制急増圧のいずれかの制御モード指令を出力する。
【0029】
FF制御部142には通常ブレーキ要求液圧PnまたはABS要求液圧Pabsが入力される。入力されたPnまたはPabsにフィードフォワード制御を施し、Pn(FF)またはPabs(FF)として目標液圧決定部144へ出力する。
【0030】
同様に、FB制御部143にも通常ブレーキ要求液圧PnまたはABS要求液圧Pabsが入力される。入力されたPnまたはPabsにフィードバック制御を施し、Pn(FB)またはPabs(FB)として目標液圧決定部144へ出力する。
【0031】
目標液圧決定部144は、モード切替部141から入力された各制御モードに基づき、ホイルシリンダ5の目標液圧P*を決定する。通常時、ABS制御時において、それぞれ入力された要求液圧のFF成分とFB成分とを重ね合わせ、目標液圧P*として出力する。
【0032】
ここで、強制急減圧/強制保持/強制急増圧モードとは、ABS制御時にFF,FB制御部142,143においてABS要求液圧PabsのFF,FB成分が演算され、目標液圧P*=Pabs(FF)+Pabs(FB)の演算が完了するまでの間に、ホイルシリンダの液圧を強制的に制御するものである。
強制急減圧モードでは減圧バルブであるアウトバルブ25,26の電流を最大値とし、強制急増圧モードではモータM1,M2のデューティを最大とする。さらに、強制保持モードでは、ABS要求液圧Pabsの発生後すみやかに所望の保持液圧へ到達させるため、ABS要求液圧Pabs演算中にあらかじめ減圧を実施するものである。
【0033】
すなわち、強制急減圧/強制保持/強制急増圧モードでは、FF制御部142及びFB制御部143における演算をショートカットして減圧/保持/増圧を行う。
【0034】
モータ電圧変換部145は、電源電圧に基づきモータ制御電圧Vmを補正し、電圧補正値VmγとしてモータM1,M2へ出力する。同様に、電磁弁電流変換部146も電源電圧に基づき電流値Ivを補正し、電磁弁電流補正値Ivγを各電磁弁21〜26に出力する。
【0035】
[強制モード判定制御]
通常、ABS制御においては要求制動力の前回値と今回値の差分を求め、この差分に基づきABS要求液圧Pabsを演算し、減圧/保持/増圧制御を行うフィードバック制御を実行している。しかし、フィードバック制御を実行するため目標液圧P*の演算開始から実際に制動が行われるまでのタイムラグが大きくなり、応答遅れが発生する。
【0036】
同様に、本願実施例においても、FB制御部143においてフィードバック制御を実行するため、ABS制御部120から入力されたABS要求液圧Pabsに対し、FB成分Pabs(FB)は応答遅れを生じることとなり、ホイルシリンダ5の目標液圧P*も応答遅れを生ずることとなる。そのためABS制御開始されてからFB成分Pabs(FB)を演算するための期間は、ホイルシリンダ5に対する目標液圧P*は存在しない。
【0037】
ここで、ABS制御時に減圧/保持/増圧のいずれを行うかは、ABS制御部120においてABS要求液圧Pabsが算出された時点であらかじめ判明している。したがって、FB成分Pabs(FF)が演算されるまでの間、すなわち目標液圧P*が存在しない間は、ホイルシリンダ5に対し強制的に減圧/保持/増圧制御を行えば、応答性は改善されることとなる。
【0038】
したがって本願実施例においては、モード切替部141において、ABS要求液圧Pabsが入力された時点でホイルシリンダ5における現在の目標液圧P*と実液圧Pの偏差を演算する。この偏差が規定値よりも大きい場合、ABS要求液圧Pabsの演算が完了するまでの間、強制急減圧/強制保持/強制急増圧モードを実行し、応答性を改善する。
【0039】
[強制モード判定制御処理]
図5は、強制モード判定制御処理の流れを示すフローチャートである。以下、各ステップにつき説明する。
【0040】
ステップS1ではABS制御中であるかが判断され、YESであればステップS2へ移行し、NOであればステップS400へ移行する。
【0041】
ステップS2では減圧モードであるかが判断され、YESであればステップS100へ移行し、NOであればステップS3へ移行する。
【0042】
ステップS3では保持モードであるかが判断され、YESであればステップS200へ移行し、NOであればステップS4へ移行する。
【0043】
ステップS4では増圧モードであるとされ、ステップS300へ移行する。
【0044】
ステップS100では強制急減圧制御を実行し、制御を終了する。
【0045】
ステップS200では保持制御を実行し、制御を終了する。
【0046】
ステップS300では強制急増圧制御を実行し、制御を終了する。
【0047】
ステップS400では通常ブレーキ制御を実行し、制御を終了する。
【0048】
[強制急減圧制御処理]
図6は、強制急減圧制御処理フローである。
【0049】
ステップS101では実液圧PとABS要求液圧Pabsの偏差P−P*を演算し、ステップS102へ移行する。
【0050】
ステップS102では急減圧を行う条件について判断する。すなわち液圧偏差P−P*<急減圧偏差規定値αであるかを判断し、YESであればステップS103へ移行し、NOであればステップS104へ移行する。
【0051】
ステップS103では減圧バルブであるアウトバルブ25,26の電流を最大値とし、最大減圧として制御を終了する。
【0052】
ステップS104ではABS制御を実行し、制御を終了する。
【0053】
[保持制御処理]
図7は、保持制御フローである。
【0054】
ステップS201では実液圧PとABS要求液圧Pabsの偏差P−P*を演算し、ステップS202へ移行する。
【0055】
ステップS202では保持を行う条件について判断する。すなわち液圧偏差P−P*<保持偏差規定値βであるかを判断し、YESであればステップS204へ移行し、NOであればステップS203へ移行する。
【0056】
ステップS203では通常減圧を行う条件を判断する。すなわち、液圧偏差P−P*<通常減圧偏差規定値α0であるかを判断し、YESであればステップS205へ移行し、NOであればステップS206へ移行する。
【0057】
ステップS204では保持制御を実行し、制御を終了する。
【0058】
ステップS205では通常減圧を実行し、制御を終了する。
【0059】
ステップS206ではABS制御を実行し、制御を終了する。
【0060】
[強制急増圧制御処理]
図8は、強制急増圧制御フローである。
【0061】
ステップS301では実液圧PとABS要求液圧Pabsの偏差P−P*を演算し、ステップS102へ移行する。
【0062】
ステップS302では急増圧を行う条件について判断する。すなわち液圧偏差P−P*<急増圧偏差規定値γであるかを判断し、YESであればステップS303へ移行し、NOであればステップS304へ移行する。
【0063】
ステップS303ではモータM1,M2のデューティを100%とし、最大増圧として制御を終了する。
【0064】
ステップS304ではABS制御を実行し、制御を終了する。
【0065】
[従来例と本願における液圧補正制御の経時変化]
<減圧時>
図9は、減圧時における従来例と本願実施例1のタイムチャートの対比である。なお、従来例における実液圧P'を破線で、本願実施例の実液圧Pを太実線で示す。
【0066】
(時刻t1)
時刻t1において通常ブレーキ制御における液圧指令が出力され、目標液圧P*=Pn(FF)+Pn(FB)が上昇を開始する。
【0067】
(時刻t2)
時刻t2において実液圧Pが上昇を開始する。
【0068】
(時刻t3)
時刻t3においてABS制御が開始される。ここで、目標液圧P*と本願の実液圧Pの偏差P−P*が急減圧における規定値αを下回り、急減圧フラグが1となる。これに伴い、本願では減圧バルブであるアウトバルブ25,26の電流を最大値とする。
一方、この時点で従来例の実液圧P'も本願の実液圧Pと同一値であるが、従来例ではこのような制御は行わない。
【0069】
(時刻t3〜t4)
時刻t3〜t4はABS要求液圧Pabsに基づく目標液圧P*=Pabs(FF)*Pabs(FB)が演算される時間であり、目標液圧P*は発生していないが、本願ではすでに急減圧制御が施されているため実液圧Pは下降している。
一方従来例では、時刻t3における目標液圧P*を目標値とした制御が継続されており、本願のような急減圧制御は実行されないため、実液圧P'は継続して増圧されている。したがって、従来例においては時刻t3の時点で減圧を行う必要が生じているにもかかわらず、未だ増圧が継続されているため応答が遅れてしまう。
【0070】
(時刻t4)
時刻t4では、ABS制御部120において初回のABS要求液圧Pabsに基づく目標液圧P*の演算が完了し、ABS制御に基づく目標液圧P*=Pabs(FF)*Pabs(FB)が出力される。従来例においてはこの時点で減圧指令が出力され、実液圧P'が減少を開始する。本願実施例ではすでに強制急減圧が実行されているため、従来例よりも実液圧Pは低下している。
【0071】
(時刻t5)
時刻t5では、本願実施例における液圧偏差P−P*が急減圧における規定値αを上回り、急減圧フラグが0となる。これに伴い、減圧バルブであるアウトバルブ25,26の電流をABS制御に基づく電流値とし、強制急減圧を終了して通常のABS制御による減圧を開始する。
【0072】
(時刻t6)
時刻t6では、本願実施例において実液圧P=目標液圧P*となり、保持制御が開始される。一方、従来例では液圧減少が不十分であり、実液圧P'と目標液圧P*との乖離は未だ大きいものとなっている。
【0073】
(時刻t7)
時刻t7において、従来例における実液圧P'=目標液圧P*となる。
【0074】
<保持時>
図10は、保持時におけるタイムチャートの対比である。
(時刻t11〜t13)
時刻t11〜t13は図9のt1〜t3と同様であり、本願では通常ブレーキ時の目標液圧P*=Pn(FF)+Pn(FB)に対する実液圧Pの偏差P−P*が保持における規定値βを上回り、減圧フラグが1となる。これに伴い、本願では減圧制御が開始される。一方、従来例ではこのような制御は行わない。
【0075】
(時刻t13〜t14)
時刻t13〜t14はABS制御に基づく目標液圧P*=Pabs(FF)*Pabs(FB)が演算される時間であり、目標液圧P*が発生していない点は減圧時と同様である。本願ではすでに減圧制御が施されているため実液圧Pは下降している。
これに対し従来例では時刻t3における目標液圧P*を目標値とした制御が継続され、本願のように減圧制御が実施されないため、実液圧P'は継続して増圧されている。したがって従来例においては、時刻t3の時点で減圧制御を行う必要が生じているにもかかわらず、未だ増圧が継続されているため応答が遅れてしまう。
【0076】
(時刻t14)
時刻t14において保持時の目標液圧P*hojiの演算が完了し、保持フラグが1となる。本願実施例ではすでに減圧が実行されているため、この時点において実液圧Pが保持時の目標液圧P*hojiに到達し、実液圧Pはすみやかに目標液圧P*に保持される。
一方、従来例においてはこの時点で保持指令が出力され、従来例の実液圧P'が保持時目標液圧P*hojiに向けて実液圧Pが減少開始する。
【0077】
(時刻t15)
時刻t15において、従来例における実液圧P'=目標液圧P*となる。
【0078】
<増圧時>
図11は、増圧時におけるタイムチャートの対比である。
(時刻t21)
時刻t21においてABS制御における液圧指令が出力され、ABS要求液圧Pabsが上昇を開始する。
【0079】
(時刻t22)
時刻t22において実液圧Pが上昇を開始する。
【0080】
(時刻t23)
時刻t23においてABS制御が開始される。この時点の目標液圧P*と本願の実液圧Pの偏差P−P*が急増圧における規定値γを下回り、急増圧フラグが1となる。これに伴い、本願ではモータM1,M2のデューティを100%とし、最大増圧とする。
一方、この時点で従来例の実液圧P'も本願の実液圧Pと同一値であるが、従来例ではこのような制御は行わない。
【0081】
(時刻t23〜t24)
時刻t23〜t24はABS制御に基づく目標液圧P*=Pabs(FF)+Pabs(FB)が演算される時間であり、目標液圧P*は発生していないが、本願ではすでに急増圧制御が施されているため実液圧Pは上昇している。
一方従来例では常時ABS制御における目標液圧P*に基づいて制御を行い、目標液圧P*が存在しない時間領域時刻t23〜t24間においては制御は行われない。したがって、従来例においては時刻t23〜t24の間は待機時間となり、増圧が開始されないため増圧応答が遅れてしまう。
【0082】
(時刻t24)
時刻t24においてABS制御部120において初回のABS要求液圧Pabsに基づく目標液圧P*の演算が完了し、ABS制御に基づく目標液圧P*=Pabs(FF)*Pabs(FB)が出力される。これに伴い、従来例、本願ともに目標液圧P*に基づき増圧指令が出力される。したがって従来例の実液圧P'も増加を開始するが、本願実施例ではすでに強制急増圧が実行されているため、従来例よりも実液圧Pは増加している。
【0083】
(時刻t25)
時刻t25において本願実施例において実液圧P=目標液圧P*となり、保持制御が開始される。一方、従来例では液圧増加が不十分であり、実液圧P'と目標液圧P*との乖離は未だ大きいものとなっている。
【0084】
(時刻t26)
時刻t26において、従来例における実液圧P'= 目標液圧P*となる。
【0085】
[本願実施例の効果]
本願においては、モード切替部141において、ABS要求液圧Pabsが入力された時点でホイルシリンダ5における現在の目標液圧P*と実液圧Pの偏差を演算する。この偏差がABS制御における減圧/保持/増圧それぞれの規定値よりも大きい場合、ABS要求液圧Pabsの演算が完了するまでの間、強制急減圧/強制保持/強制急増圧モードを実行することとした。
【0086】
これにより、ABS制御開始時にFB成分Pabs(FF)が演算されるまでの間、すなわち目標液圧P*が存在しない間に、ホイルシリンダ5に対し強制的に減圧/保持/増圧制御を行うことで、応答性を改善することができる。
【0087】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0088】
さらに、上記各実施例から把握しうる請求項以外の技術的思想について、以下にその効果とともに記載する。
【0089】
(イ) 請求項1記載の車両の制動制御装置において、
前記目標液圧演算手段は、前記ABS制御量が減圧制御であって、かつ前記偏差がABS制御初期減圧における閾値を超過する場合、前記目標液圧を最大減圧とし、前記車輪の液圧を減圧するアクチュエータの駆動量を最大とすること
を特徴とする車両の制動制御装置。
【0090】
ABS制御開始時における減圧応答遅れを改善することができる。
【0091】
(ロ) 請求項1記載の車両の制動制御装置において、
前記目標液圧演算手段は、前記ABS制御量が保持制御であって、かつ前記偏差が保持時における閾値を超過する場合、前記目標液圧を保持とし、
前記偏差が通常ブレーキ減圧時における閾値を下回る場合、前記目標液圧を減圧とすること
を特徴とする車両の制動制御装置。
【0092】
ABS制御開始時における保持応答遅れを改善することができる。
【0093】
(ハ) 請求項1記載の車両の制動制御装置において、
前記目標液圧演算手段は、前記ABS制御量が増圧制御であって、かつ前記偏差がABS制御初期増圧における閾値を超過する場合、前記目標液圧を最大増圧とし、前記車輪の液圧を増圧するアクチュエータの駆動量を最大とすること
を特徴とする車両の制動制御装置。
【0094】
ABS制御開始時における増圧応答遅れを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本願車両の制動制御装置のシステム構成図である。
【図2】液圧ユニットの油圧回路図である。
【図3】ブレーキECUの制御ブロック図である。
【図4】サーボ制御ユニットの制御ブロック図である。
【図5】強制モード判定制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】強制急減圧制御フローである。
【図7】保持制御フローである。
【図8】強制急増圧制御フローである。
【図9】減圧時における従来例と本願実施例1のタイムチャートの対比である。
【図10】保持時における従来例と本願実施例1のタイムチャートの対比である。
【図11】増圧時における従来例と本願実施例1のタイムチャートの対比である。
【符号の説明】
【0096】
1 マスタシリンダ
2 ストロークセンサ
3 ストロークシミュレータ
4 ブレーキペダル
5 ホイルシリンダ
6 後輪側ブレーキアクチュエータ
7 電動キャリパ
8 リザーバ
8 車輪速センサ
9 回生ブレーキ装置
10 メインECU
21,22 シャットオフバルブ
23,24 インバルブ
25,26 アウトバルブ
27,28 チェックバルブ
31〜34 油路
41〜48 油路
51〜54 液圧センサ
100 ブレーキECU
110 通常ブレーキ制動力演算部
120 ABS制御部
130 制御切替部
140 サーボ制御ユニット
141 モード切替部
142 フィードフォワード制御部
143 フィードバック制御部
144 目標液圧決定部
145 モータ電圧変換部
146 電磁弁電流変換部
200 液圧ユニット
FL〜RR 車輪
M1,M2 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各車輪の制動状態を検出する制動力検出手段と、
少なくとも前記制動力検出手段の検出値に基づいて各車輪の要求制動力を演算し、各車輪の制動力制御を行う制動力制御手段と
を備えた車両の制動力制御装置であって、
前記制動力検出手段に基づき、スリップ輪が検出されたとき、ABS制御を実行すべく各車輪の要求制動力を演算するABS制御量演算手段と、
前記スリップ輪が検出された時点で、前記要求制動力の演算結果にかかわらず強制的にABS制御を実行する制動力強制手段と
を備えることを特徴とする車両の制動制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate