説明

車両の制動制御装置

【課題】 機械式および電気式のブレーキ装置により車両を制動させるときにブレーキペダルにおける反力変化を適切に生じさせる車両の制動制御装置を提供すること。
【解決手段】 電子制御ユニット26は、インホイールモータ15〜18およびブレーキ機構21〜24による制動トルクの制御中において、ブレーキセンサ28によって検出されたペダル操作量を入力し車両Veを制動するために必要な要求制動トルクを決定する。そして、ユニット26は、要求制動トルクが所定値よりも大きければ、モータ15〜18による制動トルクを周期的に変動させる。一方、ユニット26は機構21〜22が発生する制動トルクをモータ15〜18による周期的に変動する制動トルクと逆位相となるように周期的に変動させる。これにより、ユニット26は機構21〜24に機械的に接続されたペダルにおける反力を周期的に変動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも車輪に駆動力または制動力を発生させる電動力発生手段を有する車両に適用される車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、少なくとも車輪に駆動力または制動力を発生させる電動力発生手段を有する車両としての電気自動車の一形態として、車輪のホイール内部もしくはその近傍に電動機(モータ)を配置し、この電動機により車輪を直接駆動する、所謂、インホイールモータ方式の車両が開発されている。このインホイールモータ方式の車両においては、各車輪(駆動輪)ごとに設けた電動機を個別に回転制御する、すなわち、各電動機を個別に力行制御または回生制御することにより、各駆動輪に付与する駆動トルクまたは制動トルクを個別に制御して、車両の駆動力および制動力を走行状態に応じて適宜制御することができる。
【0003】
そして、このように各駆動輪に付与する駆動トルクまたは制動トルクを個別に制御できることを利用して、特に、電気式のブレーキ装置として作動させたインホイールモータと油圧によって作動する機械式のブレーキ装置とを協働させて各輪に発生させる制動トルクを制御することが提案されている。例えば、下記特許文献1には、機械的および電気的ブレーキからなる複合ブレーキ装置を備え、各車輪に設けられた回転周波数センサによって検出された回転周波数に基づきモータの固定子周波数を制御することにより、アンチロック・ブレーキを作動させる車両が示されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、ABS制御を実行している際に、油圧制動力指令値を前回の油圧制御指令値と同じ値に保持しておき、回生制動力指令値を制動力補正値によって補正して、トータル制動力を小さい値に制御する電気自動車の制動制御装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−335105号公報
【特許文献2】特開平5−270387号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、上記従来の車両や制動制御装置においては、例えば、図5(a),(b)に示すように、運転者によるブレーキ操作に応じて車両を制動させるための要求制動トルクが決定され、この要求制動トルクを機械式のブレーキ装置による制動トルクと電気式のブレーキ装置(すなわち、インホイールモータ)による制動トルクとの合計である総制動トルクとして発生させる。そして、例えば、ABS制御によってタイヤのロック状態を解除するときには、状況に応じて、機械式のブレーキ装置による制動トルクと電気式のブレーキ装置による制動トルクとを使い分けるようになっている。
【0007】
この場合、機械式のブレーキ装置を用いてタイヤのロック状態を解除する場合(すなわち、ABS制御)においては、図5(c)に示すように、機械式のブレーキ装置を作動させる油圧(液圧)の周期的な変動に伴ってブレーキペダルにおける反力が変動するため、運転者は、ブレーキペダルを介して変動する反力を知覚することによって路面状態を把握することができる。これに対して、電気式のブレーキ装置を用いてタイヤのロック状態を解除する場合においては、ブレーキペダルにおける上記反力の変動が生じないため、運転者は、路面状態を的確に把握できない可能性がある。さらには、電気式のブレーキ装置によってタイヤのロック状態を解除する状況から機械式のブレーキ装置によってタイヤのロック状態を解除する状況に移行する場合においては、唐突にブレーキペダルの反力が周期的に変動するようになるため、運転者は、路面状態が把握しにくいばかりではなく急激なブレーキペダルの反力変化に違和感を覚える可能性がある。
【0008】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、機械式のブレーキ装置と電気式のブレーキ装置とを協働させて車両を制動させるときにブレーキペダルにおける反力変化を適切に生じさせる車両の制動制御装置を提供することにある。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、少なくとも車輪に駆動力または制動力を発生させる電動力発生手段を有する車両に適用されて、車両を制動するために運転者によって操作される制動操作手段の操作量を検出する制動操作量検出手段と、前記電動力発生手段によって回転された前記車輪に対して制動力を発生させる制動力発生手段と、前記制動操作量検出手段によって検出された前記制動操作手段の操作量に対応して前記電動力発生手段および前記制動力発生手段がそれぞれ発生する制動力を制御する制動制御手段とを備えた車両の制動制御装置において、前記制動制御手段が、前記電動力発生手段および前記制動力発生手段が制動力を発生しているときに、前記制動操作量検出手段によって検出された前記制動操作手段の操作量の大きさに応じて前記制動操作手段に対する運転者の操作に抗する反力の大きさを周期的に変動させる反力変動手段を備えたことにある。
【0010】
これによれば、電動力発生手段(電気式のブレーキ装置)および制動力発生手段(機械式のブレーキ装置)がそれぞれ制動力を発生して車両を制動させるとき、運転者による制動操作手段の操作量の大きさに応じて、すなわち、車両に発生した減速度の大きさに応じて、反力変動手段は、反力の大きさを周期的に変動させることができる。したがって、運転者は、制動操作手段をある操作量よりも大きく操作して車両を制動させるときには、制動操作手段を介して反力の大きさの周期的な変動を知覚することができる。これにより、反力変動手段が、例えば、ABS制御開始前から反力の大きさを周期的に変動させることにより、ABS制御が開始されることによる反力の変動に対して違和感を覚えることがない。
【0011】
また、ABS制御が開始される前から制動操作手段における反力の大きさを周期的に変動させることができるため、例えば、運転者はABS制御が開始されるか否かを予測することができる。したがって、運転者は、路面状態を適切に把握することができるとともに、ABS制御が開始されても落ち着いて車両を制動させることができる。
【0012】
この場合、前記制動力発生手段は、前記制動操作手段と機械的に連結されていて、運転者による前記制動操作手段に対する操作に起因して前記車輪に対して付与する制動力を発生するものであり、前記反力変動手段は、前記制動力発生手段によって前記車輪に対して付与される制動力を周期的に変動させて前記反力の大きさを周期的に変動させるとよい。そして、この場合、前記制動力発生手段は、例えば、運転者による前記制動操作手段の操作に伴って発生する液圧の大きさに応じた制動力を発生するものであるとよい。
【0013】
これらによれば、電動力発生手段および制動力発生手段がそれぞれ制動力を発生して車両を制動させるときには、制動力発生手段による制動力を周期的に変動させることによって、より具体的には、制動力発生手段に供給される液圧の大きさを周期的に変動させることによって、制動力発生手段に機械的に連結された制動操作手段における反力の大きさを周期的に変動させることができる。したがって、より確実に制動操作手段における反力の大きさを周期的に変動させることができる。また、電動力発生手段が主に制動力を発生させる状況においても、制動力発生手段の制動力を周期的に変動させて制動操作手段における反力の大きさを周期的に変動させることができるため、運転者は、常に、路面状態をより適切に把握することができる。
【0014】
また、これらの場合、前記反力変動手段は、例えば、前記制動操作量検出手段によって検出された前記制動操作手段の操作量の大きさに応じて、前記反力の大きさを周期的に変動させることによって発生する前記反力の振動の振幅を変化させるとよく、この場合、より具体的には、前記反力の振動の振幅は、例えば、前記制動操作量検出手段によって検出された前記制動操作手段の操作量の大きさと比例関係にあるとよい。また、これらの場合、前記反力の振動の振幅は、例えば、前記反力の大きさを周期的に変動させることによって発生する前記反力の振動の周波数に応じて変化するとよく、この場合、より具体的には、前記反力の振動の振幅は、例えば、前記反力の振動の周波数と反比例関係にあるとよい。
【0015】
これらによれば、反力の大きさを周期的に変動させることによって発生する反力の振動の振幅を制動操作手段の操作量の大きさに応じて(より具体的には、比例関係に基づいて)変化させることができる。これにより、運転者は、より確実に制動操作手段における反力の周期的な変動を知覚することができる。また、反力の振動の振幅を振動の周波数に応じて(より具体的には、反比例関係に基づいて)変化させることができる。これにより、運転者は、所謂、1/fゆらぎによる反力の振動を制動操作手段を介して知覚することができる。したがって、運転者は、心地よい振動を知覚することにより、落ち着いて正確に車両を制動させることができる。
【0016】
また、本発明の他の特徴は、前記制動制御手段が、前記制動操作量検出手段によって検出された前記制動操作手段の操作量に基づいて車両を制動するために必要な総制動力を決定する総制動力決定手段と、前記総制動力決定手段によって決定された前記総制動力を前記電動力発生手段による電気的な制動力と前記制動力発生手段による機械的な制動力とに配分する制動力配分手段とを備えて、前記制動力配分手段によって配分された前記電気的な制動力および前記機械的な制動力に基づいて前記電動力発生手段および前記制動力発生手段を制御するものであり、前記反力変動手段が前記反力の大きさを周期的に変動させることに伴って前記機械的な制動力が周期的に変動するとき、前記制動力配分手段は、前記機械的な制動力の周期的な変動に対応して、前記総制動力における前記電気的な制動力の配分を変更することにもある。
【0017】
これによれば、制動操作手段における反力を周期的に変動させるために、反力変動手段が制動力発生手段による機械的な制動力を周期的に変動させるとき、制動力配分手段は電動力発生手段による電気的な制動力の配分を変更することができる。これにより、機械的な制動力が周期的に増減する状況であっても、電気的な制動力の配分を適宜変更することにより、機械的な制動力と電気的な制動力との合計である総制動力の変化を効果的に抑制することができる。したがって、運転者は、制動操作手段における反力の振動を知覚しながら、車両を安定して制動させることができる。
【0018】
また、この場合、前記制動力配分手段は、例えば、前記機械的な制動力の周期的な変動に対して、逆位相により前記電気的な制動力の配分を変更するとよい。
【0019】
これによれば、機械的な制動力が周期的に増減する状況であっても、この機械的な制動力の増減に合わせて逆位相により電気的な制動力の配分を周期的に変更することによって電気的な制動力を周期的に減増させることができる。これにより、機械的な制動力と電気的な制動力との合計である総制動力の変化をより効果的に抑制することができる。したがって、運転者は、制動操作手段における反力の振動を知覚しながら、車両をより安定して制動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の車両の制動制御装置を適用可能な車両の構成を概略的に示す概略図である。
【図2】図1の電子制御ユニットによって実行される制動制御プログラムのフローチャートである。
【図3】(a)は要求制動トルクの時間変化を示すグラフであり、(b)は総制動トルクの時間変化を示すグラフであり、(c)はブレーキペダルにおける反力Fの時間変化を示すグラフである。
【図4】要求制動トルク(踏み込み力)と反力の変動(振動)における振幅との関係を示すグラフである。
【図5】(a)は従来における要求制動トルクの時間変化を示すグラフであり、(b)は従来における総制動トルクの時間変化を示すグラフであり、(c)は従来におけるブレーキペダルにおける反力の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両の制動制御装置が搭載される車両Veの構成を概略的に示している。
【0022】
車両Veは、左右前輪11,12および左右後輪13,14を備えている。そして、左右前輪11,12のホイール内部には電動機15,16が、また、左右後輪13,14のホイール内部には電動機17,18がそれぞれ組み込まれていて、それぞれ左右前輪11,12および左右後輪13,14に動力伝達可能に連結されている。すなわち、電動機15〜18は、所謂、インホイールモータ15〜18であり、左右前輪11,12および左右後輪13,14とともに車両Veのバネ下に配置されている。そして、各インホイールモータ15〜18の回転をそれぞれ独立して制御することにより、左右前輪11,12および左右後輪13,14に発生させる駆動力および制動力をそれぞれ独立して制御することができるようになっている。
【0023】
これらの各インホイールモータ15〜18は、例えば、交流同期モータにより構成されていて、インバータ19を介して、バッテリやキャパシタなどの蓄電装置20の直流電力が交流電力に変換され、その交流電力が各インホイールモータ15〜18に供給されることにより各インホイールモータ15〜18が駆動(すなわち力行)されて、左右前輪11,12および左右後輪13,14に駆動トルクが付与される。また、各インホイールモータ15〜18は、左右前輪11,12および左右後輪13,14の回転エネルギーを利用して回生制御することも可能である。すなわち、各インホイールモータ15〜18の回生・発電時には、左右前輪11,12および左右後輪13,14の回転(運動)エネルギーが各インホイールモータ15〜18によって電気エネルギーに変換され、その際に生じる電力がインバータ19を介して蓄電装置20に蓄電される。このとき、左右前輪11,12および左右後輪13,14には、回生・発電力に基づく電気的な制動トルクが付与される。
【0024】
また、各輪11〜14と、これらに対応する各インホイールモータ15〜18との間には、それぞれ、ブレーキ機構21,22,23,24が設けられている。各ブレーキ機構21〜24は、例えば、ディスクブレーキやドラムブレーキなどの公知の制動装置である。そして、これらのブレーキ機構21〜24は、具体的な図示を省略する制動操作手段としてのブレーキペダルの踏み込み操作に起因してマスタシリンダから圧送される油圧(液圧)により、各輪11〜14に機械的な制動力(制動トルク)を生じさせるブレーキキャリパのピストンやブレーキシュー(ともに図示省略)などを動作させるブレーキアクチュエータ25に接続されている。
【0025】
上記インバータ19およびブレーキアクチュエータ25は、各インホイールモータ15〜18の回転状態(より詳しくは、力行状態または回生状態)、および、ブレーキ機構21〜24の動作状態(より詳しくは、制動解除状態または制動状態)などを制御する電子制御ユニット26にそれぞれ接続されている。したがって、各インホイールモータ15〜18、インバータ19および蓄電装置20は本発明の電動力発生手段を構成し、ブレーキ機構21〜24およびブレーキアクチュエータ25が本発明の制動力発生手段を構成し、電子制御ユニット26は本発明の制動制御手段を構成する。
【0026】
電子制御ユニット26は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、後述するプログラムを含む各種プログラムを実行するものである。このため、電子制御ユニット26には、アクセルペダルの踏み込み量(または、角度や圧力など)から運転者のアクセル操作量を検出するアクセルセンサ27、ブレーキペダルの踏み込み力(または、角度や圧力など)から運転者のブレーキ操作量を検出する制動操作量検出手段としてのブレーキセンサ28を含む各種センサからの各信号およびインバータ19からの信号が入力されるようになっている。
【0027】
このように、電子制御ユニット26に対して上記各センサ27,28およびインバータ19が接続されて各信号が入力されることにより、電子制御ユニット26は車両Veの走行状態を把握してインホイールモータ15〜18およびブレーキ機構21〜24の作動を制御することができる。具体的には、電子制御ユニット26は、アクセルセンサ27およびブレーキセンサ28から入力される信号に基づいて、運転者のアクセル操作量およびブレーキ操作量に応じた要求駆動力および要求制動力を演算することができる。また、電子制御ユニット26は、インバータ19から入力される信号(例えば、各インホイールモータ15〜18の力行制御時または回生制御時に供給または回生される電力量や電流値を表す信号)に基づいて、各インホイールモータ15〜18の出力トルク(モータトルク)をそれぞれ演算することができる。
【0028】
これにより、電子制御ユニット26は、インバータ19を介して各インホイールモータ15〜18の回転をそれぞれ制御する信号やブレーキアクチュエータ25を介して各ブレーキ機構21〜24の操作をそれぞれ制御する信号を出力することができる。したがって、電子制御ユニット26は、アクセルセンサ27およびブレーキセンサ28から入力される信号に基づいて要求駆動トルクまたは要求制動トルクを求め、この要求駆動トルクまたは要求制動トルクを発生させるように各インホイールモータ15〜18の力行・回生状態、および、ブレーキアクチュエータ25すなわち各ブレーキ機構21〜24の制動解除・制動状態をそれぞれ制御する信号を出力して車両Veの走行状態を制御することができる。
【0029】
次に、電子制御ユニット26による制動制御について詳細に説明する。車両Veを制動制御するにあたり、電子制御ユニット26(より詳しくは、CPU)は、図2に示す制動制御プログラムを所定の短い時間ごとに繰り返し実行する。具体的に、電子制御ユニット26は、制動制御プログラムをステップS10にて実行を開始し、続くステップS11にて、現在、制動制御実行中であるか否かを判定する。ここで、電子制御ユニット26は、上述したように、ブレーキセンサ28から入力された信号により表される運転者によるブレーキペダル操作量(踏み込み力や角度、圧力など)に応じて、図3(a)に示す時間変化特性を有するように、車両Veを制動するために必要な制動トルクTr(以下、要求制動トルクTrという)を演算する。そして、電子制御ユニット26は、演算した要求制動トルクTrを左右前輪11,12および左右後輪13,14に発生させるために、インバータ19を介して各インホイールモータ15〜18を回生制御することによって各インホイールモータ15〜18が発生する電気的な制動トルク(以下、制動トルクTeという)とブレーキアクチュエータ25を介して各ブレーキ機構21〜24に供給する油圧(液圧)を制御することによって各ブレーキ機構21〜24が発生する機械的な制動トルク(以下、制動トルクTfという)とを合計して、演算した総制動トルクTtを発生させる。すなわち、電子制御ユニット26は、要求制動トルクTr(すなわち、総制動トルクTt)を決定する総制動力決定手段を実現するとともに、要求制動トルクTr(すなわち、総制動トルクTt)を制動トルクTeと制動トルクTfとにトルク配分する制動力配分手段を実現する。
【0030】
したがって、電子制御ユニット26は、現在、インバータ19およびブレーキアクチュエータ25を介して総制動トルクTtを発生させていれば制動制御実行中であるため、ステップS11にて「Yes」と判定してステップS12に進む。一方、現在、インバータ19およびブレーキアクチュエータ25を介して総制動トルクTtを発生させていなければ制動制御実行中ではないため、電子制御ユニット26はステップS11にて「No」と判定してステップS14に進み、制動制御プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短い時間の経過後、電子制御ユニット26は、ふたたび、ステップS10にて制動制御プログラムの実行を開始する。
【0031】
ステップS12においては、電子制御ユニット26は、前記ステップS11にて演算した要求制動トルクTrの大きさが予め設定された所定値Toよりも大きいか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット26は、要求制動トルクTrの大きさが所定値Toよりも大きければ、「Yes」と判定してステップS13に進む。一方、要求制動トルクTrの大きさが所定値To以下であれば、電子制御ユニット26は「No」と判定してステップS11に戻り、ステップS11およびステップS12の各ステップ処理を繰り返し実行する。なお、所定値Toの大きさについては、図3(a)に示すように、ABS制御の開始が必要な要求制動トルクTraの大きさよりも小さな値に設定されるとよい。
【0032】
ステップS13においては、電子制御ユニット26は、図4に示すように、前記ステップS11にて演算した要求制動トルクTrの大きさに比例した振幅Aを有するように各ブレーキ機構21〜24に供給される液圧を変動(振動)させて、緩制動から急制動にかけてブレーキペダルにおける反力Fを周期的に変動(振動)させる。以下、この反力Fの周期的な変動(振動)を具体的に説明する。
【0033】
上述したように、各ブレーキ機構21〜24に供給される液圧は、運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作に起因して発生するものであり、ブレーキアクチュエータ25の作動(より具体的には、図示しない各種バルブの切替作動)によって増減される。このため、各ブレーキ機構21〜24が発生する制動トルクTfは、運転者によるブレーキペダルの操作量(踏み込み力や、角度、圧力など)によって決定される。言い換えれば、制動トルクTfを周期的に変動(振動)させると、この変動(振動)に対応して各ブレーキ機構21〜24に供給される液圧が周期的に変動(増減)し、その結果、各ブレーキ機構21〜24と機械的に連結されたブレーキペダルにおける反力Fが周期的に変動(振動)する。一方、車両Veを制動するために必要な要求制動トルクTrは、上述したように、インホイールモータ15〜18が回生制御されることによって発生する制動トルクTeと各ブレーキ機構21〜24が発生する制動トルクTfの合計すなわち総制動トルクTtにより実現される。
【0034】
このため、電子制御ユニット26は、要求制動トルクTrの大きさ(すなわち、総制動トルクTtの大きさ)を維持したまま、各インホイールモータ15〜18による制動トルクTeの大きさと各ブレーキ機構21〜24による制動トルクTfの大きさを所定の周波数fで変化させて、各ブレーキ機構21〜24に供給される液圧を周期的に変動(振動)、言い換えれば、ブレーキペダルにおける反力を周期的に変動(振動)させる。この場合、電子制御ユニット26は、図3(b)に示すように、インバータ19を制御して、各インホイールモータ15〜18から回生される電力量を周波数fにより変化させて、各インホイールモータ15〜18による制動トルクTeを変化(振動)させる。このとき、電子制御ユニット26は、制動トルクTeを変化(振動)させるにあたり、図3(b)に示すように、振幅Aの大きさが周波数fに反比例するように、所謂、人間が快く感じる波形となる1/fゆらぎとなるように、制動トルクTeを変化(振動)させる。
【0035】
このように、制動トルクTeの大きさを変化(振動)させることにより、電子制御ユニット26は、要求制動トルクTrの大きさ(総制動トルクTtの大きさ)を維持させるために、各ブレーキ機構21〜24が発生する制動トルクTfの大きさを、制動トルクTeの変化(振動)と逆位相となるようにかつ1/fゆらぎとなるように変化(振動)させる。すなわち、電子制御ユニット26は、ブレーキアクチュエータ25を制御して、各ブレーキ機構21〜24に供給する液圧を制動トルクTeの変化(振動)と逆位相となるようにかつ1/fゆらぎとなるように変化(振動)させる。これにより、各ブレーキ機構21〜24は、制動トルクTeの変化(振動)と逆位相となるように変化(振動)する制動トルクTfを発生させることができ、互いに逆位相となる制動トルクTfと制動トルクTeとを合計した総制動トルクTtの大きさを継続して要求制動トルクTrの大きさに一致させることができる。すなわち、上述したように、制動トルクTfの大きさと制動トルクTeの大きさとを周波数fで互いに逆相に変化(振動)させても、要求制動トルクTrの大きさ(すなわち、総制動トルクTtの大きさ)を維持することができる。
【0036】
一方で、各ブレーキ機構21〜24による制動トルクTfすなわち液圧を周波数fでかつ1/fゆらぎとなるように変化(振動)させると、図3(c)に示すように、ブレーキペダルにおける反力Fも周波数fでかつ1/fゆらぎとなるように変化(振動)する。これにより、運転者は、要求制動トルクTrの大きさが所定値Toよりも大きくなる、言い換えれば、車両Veに所定の減速度が発生する状況においては、ブレーキペダルにおける反力Fの周期的な変動を知覚することができる。そして、例えば、図3(a)に示すように、時間の経過とともに増大する要求制動トルクTrの大きさが、ABS制御が開始されるトルクTra以上まで増大すると、電子制御ユニット26は、図3(b)に示すように、インバータ19を介して各インホイールモータ15〜18を回生制御し、変動(振動)している状態から一定となるように制動トルクTeを発生させる。また、電子制御ユニット26は、ブレーキアクチュエータ25を介して各ブレーキ機構21〜24をABS制御する。このとき、図3(c)に示すように、ブレーキペダルの反力Fは、ABS制御開始前に周波数fで変動(振動)した状態からABS制御開始に伴ってブレーキペダルの反力Fが変動(振動)する状態に連続的に変化するため、急激な変化が生じない。
【0037】
したがって、運転者は、ABS制御の開始に伴ってブレーキペダルの反力Fが緩やかに変化するため、反力Fの変化に対する違和感を覚えることがない。また、運転者は、周波数fでの反力Fの変動(振動)を知覚することによってABS制御が開始されることを予測することができ、その結果、路面状態を的確に把握することができる。また、ABS制御の開始を予測することができるため、運転者は、実際にABS制御が開始された状況であっても、落ち着いて車両Veを適切に制動させることができる。
【0038】
このように、反力Fを適切に変動(振動)させると、電子制御ユニット26は、前記ステップS12に戻り、ふたたび、ステップS12およびステップS13の各ステップ処理を実行する。
【0039】
以上の説明からも理解できるように、本実施形態によれば、電子制御ユニット26が、インバータ19を介して各インホイールモータ15〜18(電気式のブレーキ装置)を回生制御して制動力Teを発生させるとともに、ブレーキアクチュエータ25を介して各ブレーキ機構21〜24(機械式のブレーキ装置)を制御して制動力Tfを発生させて車両Veを制動させることができる。このとき、電子制御ユニット26は、運転者によるブレーキペダル操作量(踏み込み力や角度、圧力など)の大きさに応じて(具体的には、ブレーキペダル操作量に基づいて決定される要求制動トルクTrの大きさが予め設定された所定値Toよりも大きい)、すなわち、車両に発生した減速度の大きさに応じて、ブレーキペダルにおける反力Fの大きさを周期的に変動させることができる。したがって、運転者は、ブレーキペダルをあるブレーキペダル操作量よりも大きく操作して車両Veを制動させるときには、ブレーキペダルを介して反力Fの大きさの周期的な変動を知覚することができる。これにより、電子制御ユニット26が、例えば、ABS制御開始前から反力Fの大きさを周期的に変動させることにより、ABS制御が開始されることによる反力Fの変動に対して違和感を覚えることがない。
【0040】
また、ABS制御開始前からブレーキペダルにおける反力Fの大きさを周期的に変動させることができるため、例えば、運転者はABS制御が開始されるか否かを予測することができる。したがって、運転者は、路面状態を適切に把握することができるとともに、ABS制御が開始されても落ち着いて車両を制動させることができる。
【0041】
また、各ブレーキ機構21〜24に供給される液圧の大きさを周期的に変動させることによって、ブレーキアクチュエータ25を介してブレーキ機構21〜24に機械的に連結されたブレーキペダルにおける反力Fの大きさを周期的に変動させることができる。したがって、より確実にブレーキペダルにおける反力の大きさを周期的に変動させることができる。また、各インホイールモータ15〜18が主に制動力Teを発生させる状況においても、各ブレーキ機構21〜24の制動力Tfを周期的に変動させて反力Fの大きさを周期的に変動させることができるため、運転者は、常に、路面状態をより適切に把握することができる。
【0042】
また、反力Fの大きさを周期的に変動させることによって発生する反力Fの振動の振幅Aを比例関係に基づいてブレーキペダル操作量(具体的には、踏み込み力)の大きさに応じて変化させることができる。これにより、運転者は、より確実にブレーキペダルにおける反力Fの周期的な変動を知覚することができる。また、反力Fの振動の振幅Aを反比例関係に基づいて振動の周波数fに応じて変化させることができる。これにより、運転者は、所謂、1/fゆらぎによる反力Fの振動をブレーキペダルを介して知覚することができる。したがって、運転者は、心地よい振動を知覚することにより、落ち着いて正確に車両を制動させることができる。
【0043】
さらに、反力Fを周期的に変動させるために、各ブレーキ機構21〜24による制動力Tfが増減する状況であっても、この制動力Tfの増減に合わせて逆位相により各インホイールモータ15〜18による制動力Teを減増させることができる。これにより、制動力Tfと制動力Teとの合計である総制動力Ttの変化をより効果的に抑制することができる。したがって、運転者は、ブレーキペダルにおける反力Fの振動を知覚しながら、車両Veをより安定して制動させることができる。
【0044】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0045】
例えば、上記実施形態においては、車両Veが高μ路を走行している場合を想定し、ABS制御開始時点が比較的遅く、言い換えれば、要求制動トルクTrが予め設定されたトルクTraよりも大きいときに実行されるように実施した。この場合、車両Veが、例えば、雪路などの低μ路を走行する場合には、ABS制御開始時点が比較的早く、言い換えれば、トルクTraが小さな値に設定されて実行される。このように、車両Veが低μ路を走行する場合には、電子制御ユニット26は、例えば、ABS制御が早期に複数回実行される状況においては、図2に示した制動制御プログラムのステップS12における所定値Toをより小さな値に設定して判定し、早期にブレーキペダルにおける反力Fを周期的に変動させるようにする。これにより、路面μが変化した場合であっても、ブレーキペダルにおける反力Fを周期的に変動させることによって、運転者が路面状態を把握しやすくすることができる。したがって、この場合であっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0046】
また、上記実施形態においては、総制動トルクTtが各インホイールモータ15〜18による制動トルクTeと各ブレーキ機構21〜24による制動トルクTfとの合計であることに基づき、電子制御ユニット26がインバータ19を介して各インホイールモータ15〜18を回生制御して制動力Teを周期的に変動させることによって各ブレーキ機構21〜24による制動トルクTfを周期的に変動させ、その結果、ブレーキペダルにおける反力Fの大きさを周期的に変動させるように実施した。この場合、電子制御ユニット26がブレーキアクチュエータ25を介して各ブレーキ機構21〜24による制動トルクTfを直接周期的に変動させて、反力Fの大きさを周期的に変動させるように実施可能であることは言うまでもない。この場合であっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0047】
また、上記実施形態においては、反力Fの振動の振幅Aを要求制動トルクTr(または、踏み込み力)の大きさに対して比例関係にあるとして実施した。この場合、反力Fの振動の振幅Aは要求制動トルクTr(または、踏み込み力)の大きさに対していかなる関係にあってもよく、例えば、要求制動トルクTr(または、踏み込み力)の大きさに対して反力Fの振動の振幅Aが一定であるとして実施してもよい。また、上記実施形態においては、反力Fの振動の振幅Aを周波数fに対して反比例関係すなわち1/fの関係にあるとして実施した。この場合、反力Fの振動の振幅Aは周波数fに対していかなる関係にあってもよく、例えば、周波数fに対して反力Fの振動の振幅Aが一定であるとして実施してもよい。これらの場合には、反力Fの大きさの周期的な変動が運転者によって上記実施形態と異なって知覚される可能性があるものの、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0048】
さらに、上記実施形態においては、各インホイールモータ15〜18による制動トルクTeの周期的な変動と各ブレーキ機構21〜24による制動トルクTfの周期的な変動とが互いに逆位相となるようにし、反力Fの大きさを周期的に変動させることが総制動トルクTtに影響を与えないように実施した。この場合、各ブレーキ機構21〜24による制動トルクTfのみを周期的に変動させて、すなわち、各インホイールモータ15〜18による制動トルクTeを周期的に変動させることなく、実施することも可能である。また、この場合、各ブレーキ機構21〜24による制動トルクTfの周期的に変動に対して、各インホイールモータ15〜18による制動トルクTeを厳密に逆位相により周期的に変動させることなく、実施することも可能である。これらの場合、総制動トルクTtが制動トルクTfの周期的な変動によって若干変動するものの、ブレーキペダルにおける反力Fの大きさを周期的に変動させることができるため、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0049】
11,12…前輪、13,14…後輪、15,16,17,18…電動機(インホイールモータ)、19…インバータ、20…蓄電装置、21,22,23,24…ブレーキ機構、25…ブレーキアクチュエータ、26…電子制御ユニット、27…アクセルセンサ、28…ブレーキセンサ、Ve…車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも車輪に駆動力または制動力を発生させる電動力発生手段を有する車両に適用されて、車両を制動するために運転者によって操作される制動操作手段の操作量を検出する制動操作量検出手段と、前記電動力発生手段によって回転された前記車輪に対して制動力を発生させる制動力発生手段と、前記制動操作量検出手段によって検出された前記制動操作手段の操作量に対応して前記電動力発生手段および前記制動力発生手段がそれぞれ発生する制動力を制御する制動制御手段とを備えた車両の制動制御装置において、
前記制動制御手段が、
前記電動力発生手段および前記制動力発生手段が制動力を発生しているときに、前記制動操作量検出手段によって検出された前記制動操作手段の操作量の大きさに応じて前記制動操作手段に対する運転者の操作に抗する反力の大きさを周期的に変動させる反力変動手段を備えたことを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両の制動制御装置において、
前記制動力発生手段は、前記制動操作手段と機械的に連結されていて、運転者による前記制動操作手段に対する操作に起因して前記車輪に対して付与する制動力を発生するものであり、
前記反力変動手段は、
前記制動力発生手段によって前記車輪に対して付与される制動力を周期的に変動させて前記反力の大きさを周期的に変動させることを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載した車両の制動制御装置において、
前記制動力発生手段は、
運転者による前記制動操作手段の操作に伴って発生する液圧の大きさに応じた制動力を発生することを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか一つに記載した車両の制動制御装置において、
前記反力変動手段は、
前記制動操作量検出手段によって検出された前記制動操作手段の操作量の大きさに応じて、前記反力の大きさを周期的に変動させることによって発生する前記反力の振動の振幅を変化させることを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載した車両の制動制御装置において、
前記反力の振動の振幅は、
前記制動操作量検出手段によって検出された前記制動操作手段の操作量の大きさと比例関係にあることを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載した車両の制動制御装置において、
前記反力の振動の振幅は、
前記反力の大きさを周期的に変動させることによって発生する前記反力の振動の周波数に応じて変化することを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載した車両の制動制御装置において、
前記反力の振動の振幅は、
前記反力の振動の周波数と反比例関係にあることを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか一つに記載した車両の制動制御装置において、
前記制動制御手段が、
前記制動操作量検出手段によって検出された前記制動操作手段の操作量に基づいて車両を制動するために必要な総制動力を決定する総制動力決定手段と、
前記総制動力決定手段によって決定された前記総制動力を前記電動力発生手段による電気的な制動力と前記制動力発生手段による機械的な制動力とに配分する制動力配分手段とを備えて、
前記制動力配分手段によって配分された前記電気的な制動力および前記機械的な制動力に基づいて前記電動力発生手段および前記制動力発生手段を制御するものであり、
前記反力変動手段が前記反力の大きさを周期的に変動させることに伴って前記機械的な制動力が周期的に変動するとき、
前記制動力配分手段は、前記機械的な制動力の周期的な変動に対応して、前記総制動力における前記電気的な制動力の配分を変更することを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載した車両の制動制御装置において、
前記制動力配分手段は、
前記機械的な制動力の周期的な変動に対して、逆位相により前記電気的な制動力の配分を変更することを特徴とする車両の制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40964(P2012−40964A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184609(P2010−184609)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】