説明

車両の制動装置

【課題】車両衝突時にブレーキペダルをペダルブラケットから離脱させる車両の制動装置において、簡単な構造で、車両衝突後の自車両の前方移動を抑制する。
【解決手段】ダッシュパネルに取り付けられたペダルブラケット7,17に第1支持軸を介して揺動自在に支持されるブレーキペダル5と、車両前突時にブレーキペダル5を当該ペダルブラケット7,17から離脱させるための離脱機構と、を備えた車両の制動装置である。車両前突時に、ブレーキペダル5がペダルブラケット7,17から離脱した状態にあることを検出して、車輪に制動力を付与する、ペダルストロークセンサ11、係合部材15及びスキッドコントロールコンピュータをさらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時にブレーキペダルをペダルブラケットから離脱させるための離脱機構を備えた車両の制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の制動装置の一部を構成するブレーキペダル装置では、ブレーキペダルを、ダッシュパネルに取り付けられたペダルブラケットに支持軸を介して揺動自在に支持させるものが多い。
【0003】
この種のブレーキペダル装置では、車両衝突時における乗員の安全性確保の観点から、車両衝突時にダッシュパネルが変位してペダルブラケットが後退したときに、ブレーキペダルを当該ペダルブラケットから離脱させるようにしたものが知られている。例えば、特許文献1には、回生ブレーキ制御装置を備えた車両において、ペダルストロークセンサがリンク機構で構成される伝達機構を介してブレーキペダルの動きを検知するとともに、前方衝突時に、ブレーキペダルの支持シャフトの端部をペダルブラケットから離脱させるようにした離脱機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−002886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両衝突時にブレーキペダル等を単にペダルブラケットから離脱させる従来のブレーキペダル装置では、車両衝突時にブレーキペダルをペダルブラケットから離脱させた後でも、かかる車両が前方移動する可能性があることから、更なる衝突が発生するおそれがある。
【0006】
そこで、車両衝突時にブレーキペダルをペダルブラケットから離脱させた後でも、車両の前方移動を抑制できるように、既存のブレーキペダル装置とは別に、例えば、車両衝突時にダッシュパネルが変位したときにブレーキを作動させる装置等を設けることが考えられるが、これでは、部品点数や製造工数が大幅に増大するため、製造コストの上昇を招くという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両衝突時にブレーキペダルをペダルブラケットから離脱させるための離脱機構を備えた車両の制動装置において、簡単な構造で、車両衝突後の自車両の前方移動を抑制して、乗員の衝突安全性を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の車両の制動装置では、車両衝突時のブレーキペダルの離脱状態を検出して、車輪に制動力を付与するようにしている。
【0009】
具体的には、第1の発明は、車体に取り付けられたペダルブラケットに支持軸を介して揺動自在に支持されるブレーキペダルと、車両衝突時に当該ブレーキペダルを当該ペダルブラケットから離脱させるための離脱機構と、を備えた車両の制動装置を対象とする。
【0010】
そして、車両衝突時に、上記離脱機構の作動により上記ブレーキペダルが上記ペダルブラケットから離脱した状態にあることを検出して、車輪に制動力を付与する制動制御手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0011】
第1の発明によれば、車両衝突時にブレーキペダルがペダルブラケットから離脱したときに、車輪に制動力が付与されることから、既存のブレーキペダル装置を用いた簡単な構造で、車両衝突後の自車両の前方移動を抑制し更なる衝突の発生を抑えて、乗員の衝突安全性を高めることができる。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記制動制御手段は、上記ペダルブラケットに固定され、上記ブレーキペダルの揺動ストロークを検出するための検出子を有するペダルストロークセンサと、少なくとも、上記離脱機構の作動により上記ブレーキペダルが上記ペダルブラケットから離脱したときに、上記検出子と係合して上記ペダルストロークセンサを作動させる係合機構と、を備えていることを特徴とするものである。
【0013】
第2の発明によれば、少なくとも、離脱機構の作動によりブレーキペダルがペダルブラケットから離脱したときに、検出子と係合する係合機構を設けるという簡単な構成により、ペダルストロークセンサを確実に作動させて、換言すると、ブレーキペダルが踏み込まれたのと似た状態を作出して、車輪に制動力を付与することができる。
【0014】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記ペダルストロークセンサは、上記支持軸の近傍で上記ペダルブラケットに固定されており、上記係合機構は、上記ブレーキペダルの上下方向における中央部に固定され、上記支持軸の近傍まで上方に延びる部材であり、且つ、上端部に上記検出子と係合する第1係合部が形成されている一方、下端部に上記ブレーキペダルを戻し側に付勢するためのリターンスプリングと係合する第2係合部が形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
第3の発明によれば、係合機構は、ブレーキペダルに固定されていることから、通常時(車両衝突時にブレーキペダルが離脱したとき以外)にブレーキペダルを踏み込むと、かかる係合機構が支持軸を支点としてブレーキペダルと共に揺動し、第1係合部によりペダルストロークセンサの検出子が引き下げられる一方、ブレーキペダルを離すと、第2係合部と係合するリターンスプリングの付勢力によりブレーキペダルが元の位置に戻される。
【0016】
このように、係合機構は、通常時には、ブレーキペダルの揺動をペダルストロークセンサに伝えるとともにブレーキペダルを元の位置に戻すのに用いられる一方、車両衝突時の離脱機構の作動によってブレーキペダルが離脱したときには、検出子と係合したままブレーキペダルとともに下方に変位して、ペダルストロークセンサを作動させるようになっている。これにより、例えば複雑な構造の係合機構を設けたり、アクチュエータを用いて電気的にペダルストロークセンサを作動させたりすることなく、簡単な構造で機械的にペダルストロークセンサを作動させることができる。
【0017】
第4の発明は、上記第2又は第3の発明において、上記制動制御手段は、上記ペダルストロークセンサから出力される検出信号に基づいて作動する回生ブレーキ制御手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0018】
第4の発明によれば、ブレーキペダルがペダルブラケットから離脱したことを検出するためのセンサを別途設けることなく、回生ブレーキ制御手段用のペダルストロークセンサを用いて、離脱機構の作動によってブレーキペダルがペダルブラケットから離脱したときに、車輪に制動力を付与することができる。
【0019】
第5の発明は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、上記離脱機構は、上記ペダルブラケットに揺動自在に支持されるとともに、車両衝突時に車体側部材と干渉することにより回動変位し、上記支持軸を押し下げて当該ペダルブラケットから離脱させる回動レバーと、上記支持軸の下方に位置し、当該支持軸が上記ペダルブラケットから離脱するのを規制する離脱規制部と、上記支持軸と連結される連結部と、上記ペダルブラケットにより保持された軸部材と係合する係合部とを有し、上記回動レバーが回動変位したときに当該係合部と当該軸部材との係合が解除されて、当該ペダルブラケットからの上記支持軸の離脱を許可する脱落規制部材と、を備えていることを特徴とするものである。
【0020】
第5の発明によれば、通常時には、離脱規制部がペダルブラケットからの支持軸の離脱を規制するとともに、脱落規制部材が、支持軸と連結され且つペダルブラケットにより保持された軸部材と係合していることから、ブレーキペダルをしっかりと支持することができる。一方、車両衝突時には、回動レバーが支持軸を押し下げてペダルブラケットから離脱させるとともに、軸部材との係合が解除された脱落規制部材が、ペダルブラケットからの支持軸の離脱を許可することから、ブレーキペダルをスムーズに離脱させることができる。したがって、通常時のブレーキペダルの支持強度と、車両衝突時におけるブレーキペダルのスムーズな離脱とを達成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る車両の制動装置によれば、車両衝突時にブレーキペダルがペダルブラケットから離脱したときに、車輪に制動力が付与されることから、既存のブレーキペダル装置を用いた簡単な構造で、車両衝突後の自車両の前方移動を抑制し更なる衝突の発生を抑えて、乗員の衝突安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るブレーキペダル装置を車幅方向左側から見た側面図である。
【図2】ブレーキペダル装置を車両前後方向後側から見た正面図である。
【図3】ブレーキペダル装置を車幅方向右側から見た側面図である。
【図4】ブレーキペダル装置の一部の分解斜視図である。
【図5】ブレーキペダル装置を斜め後方から見た斜視図である。
【図6】回生ブレーキ装置の全体の回路図である。
【図7】ブレーキペダル装置の通常状態を模式的に示す側面図である。
【図8】ブレーキペダル装置の車両前突時の初期状態を模式的に示す側面図である。
【図9】車両前突に伴いブレーキペダルが離脱した状態を模式的に示す側面図である。
【図10】ブレーキペダルが離脱した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る制動装置の一部を構成するブレーキペダル装置を車幅方向左側から見た側面図であり、図2は、車両前後方向後側から見た正面図であり、図3は、車幅方向右側から見た側面図であり、図4は、ブレーキペダル装置の一部の分解斜視図である。このブレーキペダル装置3は、ハイブリット車両における、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネル(車体)27の運転席側に設けられるものであり、かかるダッシュパネル27には、ハイドロブースタ21と、ブレーキペダル5を支持する左右一対のペダルブラケット7,17とが取り付けられている。
【0025】
左右のペダルブラケット7,17は、ダッシュパネル27にボルト止めされる取付部7b,17bと、この取付部7b,17bの側縁部から車両後方に延びるブラケット本体部7a,17aとをそれぞれ有している。各ブラケット本体部7a,17aには、図4に示すように、下方に開口する、車幅方向視で略円弧状の切欠凹部37,47が形成されており、かかる切欠凹部37,47の円弧状部37a,47aに、車幅方向に延びるブレーキペダル5の第1支持軸25が挿通されるようになっている。
【0026】
なお、切欠凹部37,47の下端部は絞られて狭くなっており、かかる絞り部37b,47bは、車両前突時(厳密にはブレーキペダル5の離脱時)以外の通常時には、第1支持軸25を支持してその下側への脱落を規制する一方、車両前突時には、後述する回動レバー9の回動に伴って第1支持軸25が下方へ押し下げられることで広がって、当該第1支持軸25の脱落を許可するようになっている。これにより、絞り部37b,47bが、本発明で言うところの、第1支持軸25(支持軸)の下方に位置し、当該第1支持軸25がペダルブラケット7,17から離脱するのを規制する離脱規制部を構成している。
【0027】
また、左右のペダルブラケット7,17の先端部(車両前後方向後側の端部)における下端部には、ブラケット連結部材57が設けられている。このブラケット連結部材57は、ペダルブラケット7,17の後端部における下端部から下方に向かうほど前方に傾斜して延びる本体部57aと、当該本体部57aの下端部から下方に向かうほど後方に傾斜して延びるストッパ受部57bとを有していて、車幅方向から見てく字状に形成されている。そうして、このブラケット連結部材57は、本体部57aの車幅方向両端部を前側に折り曲げた取付部57cが、左右のブラケット本体部7a,17aの内側面に取り付けられることで、左右のペダルブラケット7,17に固定されている。なお、図2の符号39は、左右のブラケット本体部7a,17aにおける切欠凹部37,47の後方に形成された下側貫通孔7e,17eと、ブラケット連結部材57の取付部57cに形成された貫通孔とに挿通された第2軸部材を示す。
【0028】
さらに、左側ペダルブラケット7には、ブレーキペダル5の揺動ストロークを検出するための検出子11aを有するペダルストロークセンサ11が固定されている。このペダルストロークセンサ11は、第1支持軸25の近傍で左側のブラケット本体部7aに、より詳しくは、車幅方向視で切欠凹部37,47と重なるような位置で左側のブラケット本体部7aにスペーサー部材11bを介して固定されている。ペダルストロークセンサ11は、車幅方向左側から見て、検出子11aが時計回りに回動すると、その回動量に基づいてブレーキペダル5の揺動ストローク(踏み込み量)を検出する一方、検出子11aが下方に引っ張られると、ブレーキペダル5が左右のペダルブラケット7,17から離脱した状態にあることを検出するように構成されている。
【0029】
ブレーキペダル5は、図2及び図4に示すように、第1支持軸25が取り付けられる部位から下方に延びる第1アーム部5aと、当該第1アーム部5aの下端部から下方に向かうほど車幅方向内側(左側)に傾斜して延びる第2アーム部5bと、当該第2アーム部5bの下端部から下方に延びる第3アーム部5cと、当該第3アーム部5cの下端部から下方に向かうほど車幅方向内側(左側)に傾斜して延びる第4アーム部5dと、当該第4アーム部5dの下端部に設けられたペダル踏込み部35とを有している。このブレーキペダル5では、第1アーム部5aの上端部に、車幅方向に貫通する挿通孔が形成されたボス部5eが設けられている一方、プッシュロッド21aを介して、第3アーム部5cに上記ハイドロブースタ21が連結されている。第1支持軸25は、一端部にネジが切られ、他端部にボルトヘッドが設けられたボルトであるところ、ブレーキペダル5は、ボス部5eに形成された挿通孔と左右一対の切欠凹部37,47の円弧状部37a,47aとにかかる第1支持軸25を挿通させた状態で、当該第1支持軸25のネジにナットを螺合させることによって、ペダルブラケット7,17に対して円弧状部37a,47aを中心として揺動自在に支持されるようになっている。
【0030】
このブレーキペダル5の上下方向における中央部には、より具体的には、第3アーム部5cの左側面には、当該第3アーム部5cの下端部から第1支持軸25の近傍(第1支持軸25と略同じ高さ)まで上方に延びる係合部材(係合機構)15が固定されている。この係合部材15の上端部には、検出子11aと係合する、前方に開口するコ字状の切欠部からなる第1係合部15aが形成されている一方、この係合部材15の下端部には、当該下端部から車幅方向外側(左側)に突出し且つ貫通孔が形成された突出片からなる、ブレーキペダル5を戻し側に付勢するためのリターンスプリング45と係合する第2係合部15bが形成されている。このリターンスプリング45は、コイルばねであり、その前端部が第2係合部15bと係合している一方、その後端部が、ストッパ受部57bから車幅方向外側(左側)に突出された係合片57dと係合している。さらに、この係合部材15の下端部には、当該下端部から後方に延びた後、ブレーキペダル5の後方且つストッパ受部57bの前方で、車幅方向外側(右側)に延びるストッパ部15cが形成されている。
【0031】
このように構成されたブレーキペダル装置3では、通常時で且つ運転者がペダル踏込み部35を踏み込んでいないときは、ブレーキペダル5がリターンスプリング45により後方に付勢されているとともに、係合部材15に形成されたストッパ部15cがストッパ受部57bに当たっていることから、ブレーキペダル5は所定の戻り位置(図1及び図3におけるブレーキペダル5の位置)に止まっている。そうして、運転者がリターンスプリング45の付勢力に抗してペダル踏込み部35を踏み込むと、その踏み込み量に応じて、ブレーキペダル5が第1支持軸25(円弧状部37a,47a)を中心として前方に揺動する。
【0032】
ブレーキペダル5が第1支持軸25を中心として前方に揺動すると、プッシュロッド21aを介してハイドロブースタ21が作動するとともに、ブレーキペダル5に固定された係合部材15が第1支持軸25を中心として前方に揺動し、これにより、ペダルストロークセンサ11の検出子11aと係合する第1係合部15aが当該検出子11aを回動させて、ペダルストロークセンサ11を作動させる。
【0033】
そうして、運転者がペダル踏込み部35の踏み込み力を弱めると、ブレーキペダル5がリターンスプリング45によって戻し側に付勢され、ストッパ部15cがストッパ受部57bに当たることによって、ブレーキペダル5は所定の戻り位置に戻る。
【0034】
図6は、回生ブレーキ装置の全体の回路図である。ペダルストロークセンサ11が作動すると、検出子11aの回動量によって、運転者がペダル踏込み部35をどれ位踏み込んだかを当該ペダルストロークセンサ11が検出し、かかる踏込み量に関する情報が、図6に示すように、スキッドコントロールコンピュータ55に入力される。
【0035】
ハイドロブースタ21は、ブレーキブースタと一体的に構成されたマスタシリンダブースタ31、ブレーキペダル5を踏んだときの反力を発生させるストロークシミュレータ41、アクチュエータ51、ストロークシミュレータ41に設けられた油圧センサ61、ECU71(電子制御ユニット)などから構成されている。このハイドロブースタ21は、リザーブタンク33やポンプモータ43と配管を介して繋がれていて、ブレーキペダル5が揺動してプッシュロッド21aが押されると、油圧を発生させるように構成されており、かかる発生油圧を油圧センサ61が検出し、検出された発生油圧に関する情報が、スキッドコントロールコンピュータ55に入力されるようになっている。
【0036】
また、ブレーキペダル5にはストップランプスイッチ53が接続されており、このストップランプスイッチ53は、ブレーキペダル5が踏み込まれたときに、車両後部に取り付けられたストップランプ(図示せず)を点灯させるとともに、所定の信号をスキッドコントロールコンピュータ55に入力するようになっている。
【0037】
そうして、スキッドコントロールコンピュータ55は、車両に設けられた各種センサから入力される信号に基づいて、回生協調制御、安定したブレーキングを実現するABS(Antilock Brake System)と運転状況に合わせて前後輪のブレーキングパワーを最適に配分するEBD(Electronic Brake force Distribution) とを組み合わせた制御、ブレーキアシスト制御(BA)、横滑り防止制御(ESC)、発進や加速時のタイヤの空転を防止する制御(TRC)などのブレーキ制御を実行するように構成されている。
【0038】
本実施形態では、スキッドコントロールコンピュータ55は、ペダルストロークセンサ11からの信号とハイドロブースタ21からの信号という2つの信号のうちの1つ信号を選択的に用いて、車速等をベースとして目標減速度を設定し、かかる目標減速度を達成できるように、左側の前輪のブレーキ63、右側の前輪のブレーキ73、左側の後輪のブレーキ83及び右側の後輪のブレーキ93を制御するように構成されている。具体的には、スキッドコントロールコンピュータ55は、ブレーキペダル5の踏み込み初期においては、応答性の高いペダルストロークセンサ11からの信号に基づいて目標減速度を設定する一方、ブレーキがかかった後は、主として油圧センサ61からの信号に基づいて目標減速度を設定するようになっている。これにより、かかるスキッドコントロールコンピュータ55が、本発明で言うところの、ペダルストロークセンサ11から出力される検出信号に基づいて作動する回生ブレーキ制御手段を構成している。
【0039】
さらに、本実施形態のブレーキペダル装置3は、車両前突時における乗員の安全性確保の観点から、車両前突時にダッシュパネル27が変位してペダルブラケット7,17が後退したときに、ブレーキペダル5を当該ペダルブラケット7,17から脱落させるように構成されている。具体的には、ペダルブラケット7,17には、車両前突時にブレーキペダル5の第1支持軸25を当該ペダルブラケット7,17から下側に脱落させる回動レバー9が第2支持軸19を介して取り付けられている。この回動レバー9は、それぞれ左右のブラケット本体部7a,17aの内側に設けられる左右一対の略矩形状のレバー本体部9aと、レバー本体部9aの上縁部を連結する天板9bと、を有していて、横断面略コ字状に形成されている。
【0040】
各レバー本体部9aの後端部における下端部には、後方且つ下方に延びる舌状の延出部9cが形成されており、かかる延出部9cに車幅方向に貫通する貫通孔9dが設けられている。また、左右のブラケット本体部7a,17aには、上記第2軸部材39が挿通される下側貫通孔7e,17eの上方に、車幅方向に貫通する上側貫通孔7c,17cがそれぞれ形成されている。そうして、回動レバー9は、左右一対の貫通孔9dと、左右一対の上側貫通孔7c,17cとに第2支持軸19を挿通させることにより、ペダルブラケット7,17に対して上側貫通孔7c,17cを中心として揺動自在に支持されるようになっている。この回動レバー9は、通常状態では、図7に示すように、その下端部が、第1アーム部5aに設けられたボス部5eの外周面に対して所定のクリアランスを保つような姿勢に設定されている。
【0041】
一方、各レバー本体部9aの後端部における上端部には、後方に向かうほど上方に傾斜して延びる当接突起部9eが形成されている。ここで、回動レバー9の後方には、車幅方向に延びるパイプからなる、ステアリングコラム支持用のインストルメントパネルレインフォースメント49が配設されており、このインストルメントパネルレインフォースメント49には、通常時に当接突起部9eの後端と所定間隔(約10mm)だけ離れて対向する当接部材(車体側部材)59が設けられている。
【0042】
また、回動レバー9の上端部における前端部には、左右一対のブラケット本体部7a,17aに形成された前後方向に延びる長孔7d,17dに変位可能に挿通されて、左右一対のブラケット本体部7a,17a間に架け渡された第1軸部材29に係合する、前方に開口した係合部9fが形成されている。この第1軸部材29は、通常状態では、図7に示すように、係合部9fと係合して長孔7d,17dの後端部に位置している。
【0043】
以上のように構成された回動レバー9を設けることにより、車両前突時に、ダッシュパネル27が車両後方に移動して、当接突起部9eと当接部材59とが当接(干渉)すると、当接突起部9eが前方且つ上方に起き上がるように、回動レバー9が上側貫通孔7c,17cを中心として回動変位する。このように、上側貫通孔7c,17cを中心として回動レバー9が回動変位すると、第1軸部材29が係合部9fから押し出されるように、長孔7d,17d内で前方に移動するとともに、回動レバー9の下端部が、第1アーム部5aに設けられたボス部5eを下側に押し、これにより、第1支持軸25が押し下げられて切欠凹部37,47から抜け出し、ブレーキペダル5がペダルブラケット7,17から離脱するようになっている。
【0044】
さらに、本実施形態のブレーキペダル装置3では、例えば運転者がブレーキペダル5を前方ではなく下向きに踏み込んだ場合等に、ブレーキペダル5が不用意に脱落するのを防止するべく、脱落規制部材13,23が採用されている。この脱落規制部材13,23は左右一対となっており、左右のブラケット本体部7a,17aの内側且つ左右のレバー本体部9aの外側に設けられている。
【0045】
各脱落規制部材13,23は、略上下に延びる本体部13a,23aと、本体部13a,23aの下端部から後方且つ上方に延びる延出部13b,23bとを有している。そうして、各本体部13a,23aの上端部には前方に開口する前側切欠凹部(係合部)13c,23cが、各本体部13a,23aの下端部には車幅方向に貫通する貫通孔13d,23dが、また、延出部13b,23bの後端部には下方に開口する後側切欠凹部13e,23eがそれぞれ形成されている。
【0046】
前側切欠凹部13c,23cは、長孔7d,17dに挿通された第1軸部材29に係合可能となっており、通常状態では、長孔7d,17dの後端部に位置している第1軸部材29に係合している一方、回動レバー9の回動によって第1軸部材29が長孔7d,17dの前端部まで押されると、第1軸部材29との係合が解除されるようになっている。これに対し、後側切欠凹部13e,23eは、左右のブラケット本体部7a,17aの下側貫通孔7e,17eと、ブラケット連結部材57に形成された貫通孔とに挿通された第2軸部材39に係合可能となっており、通常状態のみならず車両前突時に回動レバー9が回動した状態でも、かかる第2軸部材39との係合が維持されるようになっている。
【0047】
各脱落規制部材13,23の貫通孔13d,23dには、第1支持軸25が挿通されている。より詳しくは、第1支持軸25は、右側ペダルブラケット17の切欠凹部47、右側の脱落規制部材23の貫通孔23d、ブレーキペダル5のボス部5eに形成された挿通孔、左側の脱落規制部材13の貫通孔13d、左側ペダルブラケット7の切欠凹部37の順に挿通されて、そのネジ部にナットが螺合されている。
【0048】
以上のように構成された脱落規制部材13,23を設けることにより、例えばブレーキペダル5に下向きの荷重が加えられると、第1支持軸25が下側に引っ張られ、これに伴い、脱落規制部材13,23が下向きに引っ張られることとなるが、前側切欠凹部13c,23cが第1軸部材29に係合しているとともに、後側切欠凹部13e,23eが第2軸部材39との係合していることから、脱落規制部材13,23が下側に押し下げられ難くなっている。これにより、ブレーキペダル5が不用意にペダルブラケット7,17から脱落するのを防止することができる。以上により、回動レバー9、切欠凹部37,47及び脱落規制部材13,23が、本発明で言うところの、離脱機構を構成している。
【0049】
次に、車両前突時における制動装置1の作用について説明する。車両前突時に、ダッシュパネル27及びペダルブラケット7,17が車両後方に移動すると、回動レバー9の当接突起部9eと当接部材59に当接する。これに伴い、回動レバー9が、図8に示すように、第2支持軸19を中心として白抜き矢印で示す方向に回動する。かかる回動レバー9の回動に伴い、第1軸部材29が係合部9fから押し出されるように長孔7d,17d内で前方へ移動する。第1軸部材29が所定量変位すると、第1軸部材29に対する脱落規制部材13,23の前側切欠凹部13c,23cの係合が解除される。
【0050】
一方、回動レバー9の回動に伴い、回動レバー9の下端部が第1アーム部5aに形成されたボス部5eを下側に押し、これにより、第1支持軸25が下方に変位させられる。この変位に伴い、ペダルブラケット7,17の切欠凹部37,47の下端部が拡開変形し、その結果、第1支持軸25が切欠凹部37,47から離脱する。このように、第1支持軸25が切欠凹部37,47から離脱すると、予め第1軸部材29に対する係合が解除されていた脱落規制部材13,23が第2軸部材39を中心として回動するとともに、ブレーキペダル5がペダルブラケット7,17から離脱することとなる。これにより、ブレーキペダル5の車両後方への後退を確実に抑えて、車両前突時における乗員の安全性を確保することができる。
【0051】
ここで、本実施形態の制動装置1では、上述の如く、ペダルストロークセンサ11の検出子11aと係合する第1係合部15aと、リターンスプリング45と係合する第2係合部15bとを有する係合部材15がブレーキペダル5に固定されているので、ブレーキペダル5がペダルブラケット7,17から離脱すると、かかるブレーキペダル5は、検出子11aと係合する係合部材15と、ストッパ受部57bの係合片57dと係合するリターンスプリング45と、第2軸部材39に係合する脱落規制部材13,23と、に支えられて宙づり状態となる。
【0052】
かかる状態では、ペダルストロークセンサ11の検出子11aには係合部材15を介してブレーキペダル5の重量が作用するので、図10に示すように、検出子11aが下方に引っ張られたペダルストロークセンサ11が機械的に作動し、ブレーキペダル5がペダルブラケット7,17から離脱した状態にあることを検出する。これにより、係合部材15が、本発明で言うところの、少なくとも、離脱機構の作動によりブレーキペダル5がペダルブラケット7,17から離脱したときに、検出子11aと係合してペダルストロークセンサ11を作動させる係合機構を構成している。
【0053】
そうして、ペダルストロークセンサ11が作動すると、ブレーキペダル5の離脱状態に関する情報が、スキッドコントロールコンピュータ55に入力される。スキッドコントロールコンピュータ55は、ペダルストロークセンサ11から入力された信号に基づいて、ブレーキ制御を実行することから、ブレーキペダル5がペダルブラケット7,17から離脱した後でも、自車両の前方移動を確実に抑えることができる。以上により、ペダルストロークセンサ11、係合部材15及びスキッドコントロールコンピュータ55が、本発明で言うところの、車両衝突時に、離脱機構の作動によりブレーキペダル5がペダルブラケット7,17から離脱した状態にあることを検出して、車輪に制動力を付与する制動制御手段を構成している。
【0054】
−効果−
本実施形態によれば、車両前突時にブレーキペダル5がペダルブラケット7,17から離脱したときに、車輪に制動力が付与されることから、既存のブレーキペダル装置3を用いた簡単な構造で、車両衝突後の自車両の前方移動を抑制し更なる衝突の発生を抑えて、乗員の衝突安全性を高めることができる。
【0055】
また、係合部材15は、通常時には、ブレーキペダル5の揺動をペダルストロークセンサ11に伝えるとともにブレーキペダル5を元の位置に戻すのに用いられる一方、車両前突時に離脱機構の作動によりブレーキペダル5が離脱したときには、検出子11aと係合してペダルストロークセンサ11を作動させるようになっている。これにより、例えば複雑な構造の係合機構を設けたり、アクチュエータを用いて電気的にペダルストロークセンサ11を作動させたりすることなく、簡単な構造で機械的にペダルストロークセンサ11を作動させることができる。
【0056】
さらに、ブレーキペダル5の離脱を検出するためのセンサを別途設けることなく、回生ブレーキ制御手段用のペダルストロークセンサ11を用いて、車輪に制動力を付与することができる。
【0057】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0058】
上記実施形態では、通常時からペダルストロークセンサ11の検出子11aと係合している係合部材15によって、ブレーキペダル5がペダルブラケット7,17から離脱したときに検出子11aを回動させるようにしたが、これに限らず、例えば、係合部材15とは別に、ブレーキペダル5がペダルブラケット7,17から離脱したときに初めて検出子11aと係合する部材を設けてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、リターンスプリング45を係合部材15の第2係合部15bに係合させるようにしたが、これに限らず、例えば、リターンスプリング45を直接ブレーキペダル5に係合させるようにしてもよい。
【0060】
さらに、上記実施形態では、検出子11aと係合したままブレーキペダル5とともに下方に変位する係合部材15によって、ペダルストロークセンサ11を機械的に作動させるようにしたが、これに限らず、例えば、電気的にペダルストロークセンサ11を作動させるようにしてもよい。
【0061】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明は、車両衝突時にブレーキペダルをペダルブラケットから離脱させるための離脱機構を備えた車両の制動装置等について有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 制動装置
5 ブレーキペダル
5c 第3アーム部(中央部)
7 左側ペダルブラケット
9 回動レバー(離脱機構)
11 ペダルストロークセンサ(制動制御手段)
11a 検出子
13 脱落規制部材(離脱機構)
13c 前側切欠凹部(係合部)
13d 貫通孔(連結部)
15 係合部材(係合機構)(制動制御手段)
15a 第1係合部
15b 第2係合部
17 右側ペダルブラケット
23 脱落規制部材(離脱機構)
23c 前側切欠凹部(係合部)
23d 貫通孔(連結部)
25 第1支持軸(支持軸)
27 ダッシュパネル(車体)
29 第1軸部材(軸部材)
37b 切欠凹部の絞り部(離脱規制部)(離脱機構)
45 リターンスプリング
47b 切欠凹部の絞り部(離脱規制部)(離脱機構)
55 スキッドコントロールコンピュータ(回生ブレーキ制御手段)(制動制御手段)
59 当接部材(車体側部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に取り付けられたペダルブラケットに支持軸を介して揺動自在に支持されるブレーキペダルと、車両衝突時に当該ブレーキペダルを当該ペダルブラケットから離脱させるための離脱機構と、を備えた車両の制動装置であって、
車両衝突時に、上記離脱機構の作動により上記ブレーキペダルが上記ペダルブラケットから離脱した状態にあることを検出して、車輪に制動力を付与する制動制御手段をさらに備えていることを特徴とする車両の制動装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の制動装置において、
上記制動制御手段は、
上記ペダルブラケットに固定され、上記ブレーキペダルの揺動ストロークを検出するための検出子を有するペダルストロークセンサと、
少なくとも、上記離脱機構の作動により上記ブレーキペダルが上記ペダルブラケットから離脱したときに、上記検出子と係合して上記ペダルストロークセンサを作動させる係合機構と、を備えていることを特徴とする車両の制動装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両の制動装置において、
上記ペダルストロークセンサは、上記支持軸の近傍で上記ペダルブラケットに固定されており、
上記係合機構は、上記ブレーキペダルの上下方向における中央部に固定され、上記支持軸の近傍まで上方に延びる部材であり、且つ、上端部に上記検出子と係合する第1係合部が形成されている一方、下端部に上記ブレーキペダルを戻し側に付勢するためのリターンスプリングと係合する第2係合部が形成されていることを特徴とする車両の制動装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の車両の制動装置において、
上記制動制御手段は、上記ペダルストロークセンサから出力される検出信号に基づいて作動する回生ブレーキ制御手段をさらに備えていることを特徴とする車両の制動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の車両の制動装置において、
上記離脱機構は、
上記ペダルブラケットに揺動自在に支持されるとともに、車両衝突時に車体側部材と干渉することにより回動変位し、上記支持軸を押し下げて当該ペダルブラケットから離脱させる回動レバーと、
上記支持軸の下方に位置し、当該支持軸が上記ペダルブラケットから離脱するのを規制する離脱規制部と、
上記支持軸と連結される連結部と、上記ペダルブラケットにより保持された軸部材と係合する係合部とを有し、上記回動レバーが回動変位したときに当該係合部と当該軸部材との係合が解除されて、当該ペダルブラケットからの上記支持軸の離脱を許可する脱落規制部材と、を備えていることを特徴とする車両の制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−32115(P2013−32115A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169512(P2011−169512)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】