説明

車両の制御装置および車両の制御方法

【課題】車両の減速度が許容減速度よりも小さい場合には、コンプレッサの回生量を調整していない。
【解決手段】車両が減速状態で、かつ、燃料供給が停止状態である減速燃料カット時に、エンジン1により駆動されるオルタネータ2およびコンプレッサ3の回生を行う車両の制御装置であって、加速度検出部10によって検出された車両の減速度が所定の許容減速度よりも小さい場合に、オルタネータ2によって発電された電力により駆動し、エアコンのコンデンサ4を冷却する電動ファン5を駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の減速燃料カット時に、エアコンのコンプレッサの回生を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の減速走行時に、車両の減速度を予測し、予測した減速度に基づいて、回生させるエアコンのコンプレッサの稼働割合を制御する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−119387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、車両の減速度が許容減速度よりも大きくなる場合に、コンプレッサの稼働量を制限して、車両の減速度を調整しているが、減速度が許容減速度よりも小さい場合には、コンプレッサの稼働量、すなわち、回生量を調整していなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による車両の制御装置および車両の制御方法は、車両が減速状態で、かつ、燃料供給が停止状態である減速燃料カット時に、オルタネータおよびエアコンのコンプレッサの回生駆動を行うものであって、車両の減速度が所定の許容減速度よりも小さい場合に、オルタネータによって発電された電力により駆動し、エアコンのコンデンサを冷却する電動ファンを駆動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両の減速度が所定の許容減速度よりも小さい場合に、電動ファンを駆動させることにより、コンデンサを冷却して、エアコンの冷却能力を向上させて、エアコンの回生エネルギーを増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】一実施の形態における車両の制御装置の構成を示す図である。
【図2】減速燃料カット時に行われる処理内容を示すフローチャートである。
【図3】車速とコンデンサの放熱量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、一実施の形態における車両の制御装置の構成を示す図である。オルタネータ2およびコンプレッサ3は、ファンベルト15を介してエンジン1と接続されており、エンジン1の出力の一部を利用して駆動される。オルタネータ2で発電された電力は、モータファン(電動ファン)5の駆動時には、モータファン5に供給され、モータファン5の非駆動時には、バッテリ8に蓄電される。
【0009】
コンプレッサ3、コンデンサ(凝縮器)4、および、エバポレータ7は、冷媒配管6によって結合され、エアコンディショナー(空調装置)を構成している。エアコンディショナーの冷熱の生成について簡単に説明しておく。コンプレッサ3によって、吸入、圧縮、吐出された冷媒は、コンデンサ4によって、外気との熱交換によって凝縮液化された後、エバポレータ7で気化される。この時の気化熱によって、周囲の空気が冷却される。
【0010】
コンデンサ4は、車両走行時の走行風により冷却されるとともに、モータファン(電動ファン)5の駆動による送風により冷却される。コンデンサ4が冷却されることにより、エアコンの冷却能力が向上する。モータファン5は、モータファンコントロールユニット(以下、モータファンCU)11からの指令に基づいて、オルタネータ2により発電された電力により駆動する。
【0011】
車速検出部9は、車速を検出して、エンジンコントロールユニット(以下、エンジンCU)13に出力する。加速度検出部10は、加速度を検出して、エンジンCU13に出力する。
【0012】
モータファンCU11およびエアコンコントロールユニット(以下、エアコンCU)12は、エンジンCU13と接続されている。モータファンCU11は、エンジンCU13からの指令に基づいて、モータファン5の駆動を制御する。エアコンCU12は、エンジンCU13からの指令に基づいて、コンプレッサ3の駆動を制御する。
【0013】
エンジンCU13は、エンジン1の制御を含むシステム全体の制御を行う。特に、エンジンCU13は、車両が減速状態であり、かつ、燃料供給が停止している減速燃料カット中に、オルタネータ2の発電量、車速、加速度(減速度)に基づいて、エアコンの回生エネルギーを増加させるために、後述する制御を行う。
【0014】
図2は、減速燃料カット時に行われる処理内容を示すフローチャートである。車両が起動すると、エンジンCU13は、ステップS10の処理を開始する。
【0015】
ステップS10では、車両が減速燃料カット中であり、かつ、オルタネータ2およびコンプレッサ3が回生中であるか否かを判定する。車両が減速燃料カット中であり、かつ、オルタネータ2およびコンプレッサ3が回生中であると判定するとステップS20に進み、それ以外の場合には、ステップS10に戻る。
【0016】
ステップS20では、車速V、減速度G、および、オルタネータ2の発電量を検出する。ただし、車速Vは、車速検出部9から入力し、減速度Gは、加速度検出部10から入力する。なお、減速度Gは、減速時の減速度合いを示す値であり、正の値とする。
【0017】
ステップS30では、ステップS20で検出した減速度Gが所定の許容減速度G0より小さいか否かを判定する。所定の許容減速度G0は、オルタネータ2およびコンプレッサ3の回生による回生制動時に、減速度が大きくなり過ぎるのを防ぐためのしきい値である。減速度Gが所定の許容減速度G0以上であると判定すると、ステップS130に進む。ステップS130では、エンジン回転速度およびモータファン5の回転速度のうちの少なくとも一方の回転速度を低下させることによって、減速度を小さくする。
【0018】
一方、ステップS30で減速度Gが所定の許容減速度G0より小さいと判定すると、ステップS40に進む。ステップS40では、所定の許容減速度G0と現在の減速度Gとの差(G0−G)を、余裕減速度として算出する。
【0019】
ステップS50では、ステップS20で検出した車速Vが、モータファン5を駆動させることによってコンデンサ4の放熱効果が得られる車速V0より小さいか否かを判定する。
【0020】
図3は、車速とコンデンサ4の放熱量との関係を示す図である。コンデンサ4の放熱量は、車両走行時の走行風、および、モータファン5の駆動による冷却風の影響が大きい。図3において、斜線領域は、モータファン5の駆動により放熱可能な領域である。コンデンサ4の最大放熱量は、車速によって変わらないが、車速が高くなるほど、コンデンサ4が受ける走行風が大きくなって、走行風による放熱量は多くなる。従って、図3に示すように、車速が高くなるほど、モータファン5の駆動により放熱可能な領域は狭くなる。特に、車速が車速V0以上になると、走行風による放熱量がコンデンサ4の最大放熱量に近くなり、モータファン5の駆動による放熱効果はほとんどなくなる。
【0021】
ステップS50において、車速Vが車速V0以上であると判定すると、ステップS190に進む。ステップS190では、モータファン5を駆動することによるエアコンの回生エネルギーの増大が見込めないため、車両の減速度が許容減速度G0を超えない範囲で、図示しない変速機の変速比を大きくするシフトダウンを行うことにより、エンジン回転速度を上昇させる。エンジン回転速度を上昇させることにより、オルタネータ2およびコンプレッサ3の回生エネルギーを増大させることができる。
【0022】
一方、ステップS50において、車速Vがモータファン5を駆動させることによってコンデンサ4の放熱効果が得られる車速V0より小さいと判定すると、ステップS60に進む。ステップS60では、ステップS20で検出したオルタネータ2の発電量がオルタネータ2の限界発電量より低いか否かを判定する。オルタネータ2の限界発電量は、エンジン回転速度に応じて異なる値となるため、エンジン回転速度を検出し、検出したエンジン回転速度に基づいて求める。オルタネータ2の発電量が限界発電量より低いと判定すると、ステップS70に進む。
【0023】
モータファン5の駆動量を増加させると、オルタネータ2の回生発電量が増加するため、車両の減速度も増加する。ステップS70では、モータファン5を最大限駆動させた場合の減速度G1を算出する。
【0024】
ステップS80では、ステップS70で算出した減速度G1が所定の許容減速度G0より小さいか否かを判定する。減速度G1が所定の許容減速度G1以上であると判定すると、ステップS140に進む。ステップS140では、モータファン5を最大限駆動させることができないため、車両の減速度がステップS40で算出した余裕減速度(G0−G)以下になる範囲で、モータファン5を駆動させるための指令をモータファンCU11に出力する。この指令に基づいて、モータファンCU11は、モータファン5を駆動する。モータファン5を駆動させることにより、コンデンサ4の放熱量が増加して、エアコンの冷却能力が向上し、エアコンの回生エネルギーが増大する。
【0025】
一方、ステップS80において、減速度G1が所定の許容減速度G1より小さいと判定するとステップS90に進む。ステップS90では、モータファン5を最大限駆動させるための指令をモータファンCU11に出力する。この指令に基づいて、モータファンCU11は、モータファン5を最大限駆動する。続くステップS100では、モータファン5を最大限駆動させた状態での余裕減速度(G0−G1)を算出する。
【0026】
ステップS110では、ステップS100で算出した余裕減速度(G0−G1)に対して上昇可能なエンジン回転速度を算出する。エンジン回転速度を上昇させると、オルタネータ2およびコンプレッサ3の回生量が多くなるため、車両の減速度が大きくなる。ステップS110では、現在のエンジン回転速度N1をN2に上昇させた場合に、減速度が余裕減速度(G0−G1)分だけ大きくなる場合のエンジン回転速度N2を求める。
【0027】
ステップS120では、図示しない変速機のシフトダウンを行うことにより、ステップS110で求めたエンジン回転速度N2までエンジン回転速度を上昇させる。エンジン回転速度を上昇させることにより、コンプレッサ3の回生量を多くして、エアコンの回生エネルギーを増大させる。
【0028】
一方、ステップS60の判定において、ステップS20で検出したオルタネータ2の発電量がオルタネータ2の限界発電量以上であると判定すると、ステップS150に進む。なお、実際には、オルタネータ2の発電量は限界発電量よりも大きくならないため、オルタネータ2の発電量が限界発電量に到達していると判定すると、ステップS150に進む。
【0029】
オルタネータ2の発電量が限界発電量に到達している場合、モータファン5を駆動させても、オルタネータ2の回生発電量を増やすことはできない。そこで、ステップS150では、車両の減速度がステップS40で算出した余裕減速度(G0−G1)を超えない範囲で上昇可能なエンジン回転速度を算出する。
【0030】
ステップS160では、図示しない変速機のシフトダウンを行うことにより、ステップS150で求めたエンジン回転速度までエンジン回転速度を上昇させる。エンジン回転速度を上昇させることにより、コンプレッサ3の回生量を多くして、エアコンの回生エネルギーを増大させる。この場合、エンジン回転速度の上昇に伴い、オルタネータ2の限界発電量が上昇する。
【0031】
ステップS170では、オルタネータ2の発電量が限界発電量より小さいか否かを判定する。オルタネータ2の限界発電量は、上昇後のエンジン回転速度に基づいて求める。オルタネータ2の発電量が限界発電量より小さいと判定すると、ステップS180に進む。ステップS180では、オルタネータ2の限界発電量の上昇分に応じて、モータファン5を駆動させる。モータファン5を駆動させることにより、コンデンサ4の放熱量が増加して、エアコンの冷却能力が向上し、エアコンの回生エネルギーが増大する。
【0032】
一方、ステップS170において、オルタネータ2の発電量が限界発電量以上である(限界発電量に到達している)と判定すると、モータファン5を駆動させずに、ステップS10に戻る。
【0033】
一実施の形態における車両の制御装置によれば、車両の減速燃料カット時に、オルタネータ2およびコンプレッサ3の回生を行うものであって、車両の減速度が所定の許容減速度より小さい場合に、エアコンのコンデンサ4を冷却するためのモータファン5を駆動する。これにより、コンデンサ4の冷却量を増加させて、エアコンの冷却能力を向上させることにより、エアコンの回生エネルギーを増加させることができる。
【0034】
特に、一実施の形態における車両の制御装置によれば、車両の減速度が所定の許容減速度より小さい場合に、モータファン5を駆動するとともに、車両の減速度が所定の許容減速度を超えない範囲でエンジン回転速度を上昇させる。エンジン回転速度を上昇させることにより、コンプレッサ3の回生量を多くして、エアコンの回生エネルギーをさらに増大させることができる。
【0035】
また、車両の減速度が所定の許容減速度より小さい場合に、モータファン5を最大限に駆動させることにより、エアコンの回生エネルギーをさらに増大させることができる。この時、モータファン5を最大限駆動させたときの車両の減速度が所定の許容減速度以上になる場合には、エンジン回転速度は上昇させずに、車両の減速度が所定の許容減速度を超えない範囲内でモータファン5を駆動させるので、許容減速度の範囲内でエアコンの回生エネルギーを増大させることができる。
【0036】
また、車速が所定車速V0以上の場合に、モータファン5を駆動させずに、エンジン回転速度を上昇させる。車速がモータファン5を駆動させることによってコンデンサ4の放熱効果が得られる車速V0以上になると、モータファン5を駆動することによるエアコンの回生エネルギーの増大が見込めないため、エンジン回転速度を上昇させることにより、オルタネータ2およびコンプレッサ3の回生エネルギーを増大させることができる。
【0037】
さらに、オルタネータ2の発電量が限界発電量に到達している場合、モータファン5を駆動する前に、エンジン回転速度を上昇させて、オルタネータ2の発電量を限界発電量より低くしてから、モータファン5を駆動させる。オルタネータ2の発電量が限界発電量に到達している場合に、モータファン5を駆動しても、オルタネータ2の回生効率が低下する。従って、エンジン回転速度を上昇させて、オルタネータ2の発電量を限界発電量より低くしてから、モータファン5を駆動することにより、オルタネータ2の回生効率を低下させずに、エアコンの回生エネルギーを増大させることができる。
【0038】
本発明は、上述した一実施の形態に限定されることはなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
1…エンジン
2…オルタネータ
3…コンプレッサ
4…コンデンサ
5…モータファン
9…車速検出部
10…加速度検出部
11…モータファンコントロールユニット
12…エアコンコントロールユニット
13…エンジンコントロールユニット
図2のS30〜S120、S140〜S180…制御手段
図2のS20…減速度検出手段
図2のS70…減速度算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が減速状態で、かつ、燃料供給が停止状態である減速燃料カット時に、オルタネータおよびエアコンのコンプレッサの回生駆動を行う車両の制御装置であって、
前記オルタネータによって発電された電力により駆動し、エアコンのコンデンサを冷却する電動ファンと、
車両の減速度を求める減速度検出手段と、
前記車両の減速度が所定の許容減速度よりも小さい場合に、前記電動ファンを駆動させる制御手段と、
を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電動ファンの駆動とともに、前記車両の減速度が前記所定の許容減速度を超えない範囲内でエンジン回転速度を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記電動ファンを最大限駆動させるとともに、前記車両の減速度が前記所定の許容減速度を超えない範囲内でエンジン回転速度を上昇させることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記電動ファンを最大限駆動させたときの車両の減速度である電動ファン駆動時減速度を算出する電動ファン駆動時減速度算出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記電動ファン駆動時減速度が前記所定の許容減速度以上の場合には、前記エンジン回転速度は上昇させずに、車両の減速度が前記所定の許容減速度を超えない範囲内で前記電動ファンを駆動させることを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
車速を検出する車速検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記車速検出手段によって検出された車速が所定車速以上の場合に、前記電動ファンを駆動させずに、エンジン回転速度を上昇させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記オルタネータの発電量が限界発電量に到達している場合、前記電動ファンを駆動させる前に、エンジン回転速度を上昇させることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記エンジン回転速度の上昇によって、前記オルタネータの発電量が前記限界発電量より低くなると、前記電動ファンを駆動させることを特徴とする請求項6に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
車両が減速状態で、かつ、燃料供給が停止状態である減速燃料カット時に、オルタネータおよびエアコンのコンプレッサの回生駆動を行う車両の制御方法であって、
車両の減速度を求め、
求めた車両の減速度が所定の許容減速度よりも小さい場合に、前記オルタネータによって発電された電力により駆動し、エアコンのコンデンサを冷却する電動ファンを駆動させることを特徴とする車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−179811(P2010−179811A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26152(P2009−26152)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】