説明

車両の制御装置

【課題】内燃機関1にクラッチ3を介して手動変速機2が接続されるパワートレーンを有する車両の制御装置7において、シフトチェンジの際に機関回転数が吹き上がることを抑制可能として、ドライバビリティ向上を図る。
【解決手段】制御装置7は、必要に応じて機関回転数の変化勾配を求めるとともに、この変化勾配の変化率を求める算出手段(S4)と、車両走行中におけるシフトチェンジの際に、前記算出手段により変化率を算出させるとともに、当該算出した変化率が所定の閾値以上であると判定したときに、内燃機関1の出力を制限する管理手段(S4〜S6)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(エンジン)にクラッチを介して手動変速機が接続されるパワートレーンを有する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関の駆動力は、変速機、最終減速機などを介して路面に伝達される。ここで、変速機は、内燃機関の駆動力を変化させるものであり、主として、自動変速機(オートマティックトランスミッション)と、手動変速機(マニュアルトランスミッション)とがある。
【0003】
手動変速機の場合、この手動変速機と内燃機関との間に介装されるクラッチが継合することにより、内燃機関の駆動力が伝達されるものである。
【0004】
この手動変速機を備える場合において、車両走行中にシフトチェンジ(シフトアップあるいはシフトダウン)、つまり手動変速機の変速段を変更するときに、通常、運転者は、アクセルペダルを戻してスロットルバルブをアイドル開度にするとともに、クラッチペダルを踏み込んでクラッチを切断することにより、内燃機関の駆動力を手動変速機に伝達されない状態とした後で、シフトレバーによる変速操作を行う。
【0005】
こうしたシフトチェンジが終わると、クラッチペダルを離してクラッチを継合させることにより、内燃機関の駆動力を手動変速機に伝達させるようにする。
【0006】
ところで、車両走行中にシフトチェンジする際に、シフトチェンジ操作を行うときの環境を確保するためにアクセルペダルを戻してクラッチを切断すると、機関回転数(またはエンジン回転数)が吹き上がる現象が発生する。
【0007】
このエンジン回転数の吹き上がり現象が発生する理由については、当業者において公知であるが、簡単に説明する。
【0008】
まず、近年では、性能向上のために、吸気系容積、つまり吸気通路(例えばインテークマニホールド)においてスロットルバルブより下流領域つまり燃焼室寄りの領域の容積を大きくする傾向にある。そこで、アクセルペダルが戻されると、それに伴いスロットルバルブがアイドル開度とされるが、このようにスロットルバルブが絞られて吸入空気量が減らされるときは、吸気通路においてスロットルバルブより下流領域に既に吸入されている多量の空気が燃焼室へ流入することになる。このように流入する空気量は、アイドル開度になっているスロットルバルブを通る空気量よりも多いために、エンジンの回転数が一時的に上昇することになるのである。
【0009】
このことに加えて、クラッチ切断によって負荷が抜けるために、エンジン回転数が吹き上がる現象が発生する。
【0010】
このようなエンジン回転数の吹き上がり現象を低減するために、例えば特許文献1では、吸気管(前記吸気通路においてスロットルバルブより下流領域)の圧力の差分に応じて点火時期の遅角量を規定し、これをエンジン回転数に応じて補正するようなことが記載されている。
【特許文献1】特開2007−63997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に係る従来例は、エンジン回転数の絶対値で吹き上がりの発生の有無を判断するようにしているが、その場合、運転者が意図的にエンジン出力を上げるようエンジン回転数を高くしている場合においても、吹き上がりと誤判定してしまうことがある。このような誤判定で点火時期を遅角させるように対処すると、運転者の意図に反してエンジン出力が低下することになる等、運転者に違和感を与えてしまうことが予測される。
【0012】
仮に、エンジン回転数の加速度(微分値)つまり変化勾配で吹き上がりを判断するようにした場合でも、運転者が意図的にエンジン回転数を急激に高くするような急加速を行うと、前記同様に、吹き上がりと誤判定することになってしまう。この場合も、前記同様に、点火時期を遅角させる対処を行うことになるので、運転者の意図に反してエンジン出力が低下することになる等、運転者に違和感を与えてしまうことが予測される。
【0013】
このような事情に鑑み、本発明は、内燃機関にクラッチを介して手動変速機が接続されるパワートレーンを有する車両の制御装置において、シフトチェンジの際に機関回転数が吹き上がることを抑制可能として、ドライバビリティ向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、内燃機関にクラッチを介して手動変速機が接続されるパワートレーンを有する車両の制御装置であって、必要に応じて、機関回転数の変化勾配を求めるとともに、この変化勾配の変化率を求める算出手段と、車両走行中におけるシフトチェンジの際に、前記算出手段により変化率を算出させるとともに、当該算出した変化率が所定の閾値以上であると判定したときに、内燃機関の出力を制限する管理手段とを含む、ことを特徴としている。
【0015】
そもそも、一般的に公知のように、手動変速機を有する車両において、シフトチェンジを行うときの環境を確保するためにアクセルペダルを離すと同時にクラッチペダルを踏み込む初期動作を行うと、機関回転数が吹き上がる現象が発生する。この吹き上がり現象は、前記初期動作に伴い、吸気通路(インテークマニホールド)内に既に流入している空気が燃焼室へ充填されることや、クラッチ切断によって負荷が切り離されること等によって発生すると考えられている。
【0016】
この構成によれば、要するに、シフトチェンジの際に、機関回転数の偏差のさらに偏差をパラメータとして、機関回転数の吹き上がり現象の発生の有無判定を行うようにしているので、シフトチェンジの際に機関回転数が吹き上がる現象を早期段階で正確に検出することが可能になる。
【0017】
これにより、従来例のように機関回転数の絶対値や加速度等をパラメータとして吹き上がり判定を行う場合に起こしやすかった誤判定を防止することが可能になって、シフトチェンジの際に発生する機関回転数の吹き上がりを抑制するための対策(内燃機関の出力制限)を迅速かつ正確に行うことが可能になる。そのため、シフトチェンジの際に車両運転者に対して車両挙動の違和感を与えさせないようにできる等、ドライバビリティの向上に貢献できるようになる。
【0018】
好ましくは、車両の走行速度を検出する速度検出手段と、アクセルペダルのアクセル開度を検出するペダル開度検出手段と、前記クラッチの継合または切断状態を検出するクラッチ状態検出手段とをさらに含み、前記管理手段は、前記各検出手段からの出力に基づき、一定車速以上においてアクセル全閉でかつクラッチ切断状態になったときにシフトチェンジが行われると判定し、この判定をトリガーとして前記算出手段による処理を実行させる、ものとすることができる。
【0019】
この構成では、車両走行中のシフトチェンジを行うときの環境を確保するための初期動作であるアクセル全閉かつクラッチ切断の成立判定を行うためのデータを収集する検出手段を特定したうえで、管理手段によって、ペダル開度検出手段の出力とクラッチ状態検出手段の出力とに基づいて、機関回転数の吹き上がりの有無を調べるためのデータ収集を行うときのトリガーとするように特定している。
【0020】
そもそも、機関回転数の吹き上がりが、シフトチェンジの初期動作つまりアクセル全閉かつクラッチ切断という行為によって発生し始めるので、前記初期動作で機関回転数の吹き上がり現象の有無判定に必要なデータを収集するようにしていれば、機関回転数の吹き上がりの初期に、その発生を認識することが可能になる。
【0021】
そのため、シフトチェンジの際に機関回転数の吹き上がりが発生しても、その発生を、早期段階で正確に判定することが可能になるとともに、その対策つまり内燃機関の出力制限を早期に行うことが可能になるから、機関回転数の吹き上がりを抑制することが可能になる。
【0022】
好ましくは、必要に応じて内燃機関への燃料供給を停止するフューエルカット制御を実行するフューエルカット実行手段をさらに含み、前記管理手段は、前記内燃機関の出力制限を、前記フューエルカット実行手段によるフューエルカット制御とする、ものとすることができる。
【0023】
この構成では、内燃機関の出力制限を行うための形態として、フューエルカット制御に特定している。この特定により、機関回転数の吹き上がりを比較的簡単かつ効果的に抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、内燃機関にクラッチを介して手動変速機が接続されるパワートレーンを有する車両の制御装置において、シフトチェンジの際に機関回転数が吹き上がることを抑制することが可能になるから、シフトチェンジの際に車両運転者に対して車両挙動の違和感を与えさせないようにできる等、ドライバビリティの向上に貢献できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の最良の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1から図5に本発明の一実施形態を示している。まず、図1を参照して、本発明の適用対象となる車両のパワートレーンの概略構成を説明する。
【0027】
図中、1は内燃機関、2は手動変速機、3はクラッチ、4はアクセルペダル、5はクラッチペダル、6はシフトレバー、7は本発明に係る制御装置としてのENG_ECU(Electronic Control Unit)である。
【0028】
この実施形態で例示する内燃機関1は、図2に示すように、例えば4サイクルガソリンエンジンとされ、シリンダブロック11の気筒12内に、ピストン13が上下方向に往復変位可能に収容されている。このピストン13の往復運動は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15の回転運動に変換される。
【0029】
クランクシャフト15には、外周面に複数の突起(歯)を有するシグナルロータ15aが取り付けられている。このシグナルロータ15aの側方近傍にはクランクポジションセンサ(機関回転速度センサ)51が配置されている。このクランクポジションセンサ51は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト15が回転する際にシグナルロータの突起に対応するパルス状の信号(出力パルス)を発生する。
【0030】
ピストン13の頂面とシリンダブロック11の気筒12の内周面とシリンダヘッド16とにより燃焼室17が区画形成されている。
【0031】
この燃焼室17には、シリンダヘッド16の吸気ポート16aおよび排気ポート16bがそれぞれ接続されている。吸気ポート16aおよび排気ポート16bは、吸気バルブ18および排気バルブ19により開閉されるようになっている。この吸気バルブ18および排気バルブ19は、クランクシャフト15により回転駆動される吸気カムシャフトおよび排気カムシャフト(図示省略)により開閉作動される。
【0032】
また、シリンダヘッド16において吸気ポート16aの所定位置には、燃料噴射弁21が取り付けられている。この燃料噴射弁21には、燃料タンク22から燃料ポンプ23で吸い上げられる燃料が供給される。なお、燃料噴射弁21の燃料噴射圧は、例えば燃料ポンプ23の吐出量を適宜変更することにより調節が可能である。
【0033】
吸気ポート16aには、燃焼室17に供給する空気を吸入するための吸気通路24が、また、排気ポート16bには、燃焼室17内の排気ガスを車両外部へ排出するための排気通路25がそれぞれ接続されている。
【0034】
排気通路25には、例えば三元触媒20が設けられている。この排気通路25において三元触媒20の上流側には、空燃比センサ58が、また、三元触媒20の下流側には、酸素センサ59が設けられている。空燃比センサ58は、燃焼室17から排出された排気の空燃比に対応した出力電圧を発生する。酸素センサ59は、三元触媒20の下流側における排気の酸素濃度に対応した出力電圧を発生する。
【0035】
吸気通路24には、図示していないエアクリーナや、内燃機関1の吸入空気量を調整するスロットルバルブ26が設けられている。
【0036】
スロットルバルブ26は、サーボモータ等のアクチュエータ27によって作動される電子制御式とされている。このアクチュエータ27は、ENG_ECU7から与えられるスロットル開度信号に基づきスロットルバルブ26を作動するものである。
【0037】
スロットル開度は、スロットルバルブ26の開度に応じて吸気通路24に形成される開口の面積をパーセントで表すものであり、内燃機関1をアイドリング回転数とするために僅かな隙間を作る閉塞状態がアイドル開度とされる。
【0038】
このスロットルバルブ26の開度は、スロットル開度センサ54によって検出される。また、吸気通路24においてスロットルバルブ26より上流には、吸入空気量を検出するエアフローメータ52が設けられている。
【0039】
スロットルバルブ26の開度は、少なくとも運転者によるアクセルペダル4の踏み込み量に基づいて制御される。アクセルペダル4には、アクセル開度センサ53が付設されている。このアクセル開度センサ53は、運転者によるアクセルペダル4の踏み込み量を検出し、この踏み込み量をアクセル開度として、後述するENG_ECU7に入力する。このアクセル開度は、アクセルペダル4の踏み込み量をパーセントで表したものであり、例えばアクセルペダル4を踏み込まない全閉状態が0(%)となり、最後まで踏み込まれた全開状態が100(%)となる。
【0040】
このような内燃機関1では、スロットルバルブ26により燃焼室17に導入する吸入空気が調量される。吸気通路24から吸入された空気は、燃料噴射弁21から噴射される燃料と混合されて、燃焼室17に導入される。この混合気は、内燃機関1の圧縮行程を経た後、点火プラグ28の点火によって爆発燃焼されることによりピストン13を往復運動させてクランクシャフト15を回転させる。この後、燃焼室17内の排気ガスが排気バルブ19の開弁時に排気ポート16bを経て排気通路25に排出される。
【0041】
手動変速機2は、一般的に公知のいわゆる同期噛み合い式変速機と呼ばれるものであり、図示していないが、変速機構として多段の変速ギヤ列を備え、要求される変速段に応じてシンクロメッシュ機構のハブスリーブをシフトフォークで軸方向にスライドさせることにより、ハブスリーブの両側に配置されかつ回転軸に相対回転可能に外装される二つの変速ギヤのうちの片方に噛合させることによって、必要な変速段を成立させるような構成になっている。
【0042】
このシフトフォークは、シフトレバー6で選択操作されるシフトポジションに対応する変速段を成立するように作動される。なお、シフトレバー6とシフトフォークとの連結は、例えば機械的に連結される形態、あるいは電気的に連結される形態とされる。後者の電気的連結形態では、シフトレバー6で選択されるシフトポジション(例えば、ニュートラル、前進1速〜5速、後退1速)をシフトポジションセンサ55で検出し、この検出したシフトポジションに対応する電気信号に基づいて油圧式アクチュエータを駆動してシフトフォークを作動させるようなシフトバイワイヤとなる。
【0043】
なお、シフトチェンジの際には、シフトレバー6で必ず手動変速機2をニュートラルポジションにしてから、目的となるシフトポジションへと操作するようになっている。
【0044】
クラッチ3は、一般的に公知の単板乾式構造の摩擦式クラッチとされており、詳細に図示していないが、クラッチディスク、プレッシャプレート、ダイアフラムスプリング、レリーズベアリング、機械式または油圧式の操作機構等を含んで構成されている。
【0045】
このクラッチ3は、クラッチペダル5が踏み込まれていないとき、つまり外的操作を受けていないときに、前記レリーズフォークが不動のままであるから、レリーズベアリングがダイアフラムスプリングを押圧しない状態、つまりプレッシャプレートがクラッチディスクをクランクシャフト15に連結されるフライホイールに押圧した、クラッチ継合状態になっている。
【0046】
一方、クラッチペダル5が踏み込まれたとき、つまり外的操作を受けたときに、レリーズフォークが傾いてレリーズベアリングがダイアフラムスプリングをフライホイール側へ押圧して、プレッシャプレートがフライホイールから離される側へ引っ張られた状態、つまりクラッチディスクがフライホイールから離れるクラッチ切断状態になる。
【0047】
クラッチペダル5には、クラッチペダルスイッチ56が付設されている。このクラッチペダルスイッチ56は、運転者がクラッチペダル15を踏み込んでクラッチ3を切断する状態とされたときに、クラッチ3の切断を意味するオン信号を後述するENG_ECU7に入力する。なお、クラッチ3が継合している状態では、クラッチペダルスイッチ56がオフになっている。
【0048】
ENG_ECU7は、内燃機関1における種々の制御(例えば空燃比制御、燃料噴射制御、点火制御、フューエルカット制御等)を統括して実行するもので、中央処理装置(CPU)、プログラムメモリ(ROM)、データメモリ(RAM)、ならびに不揮発性メモリ(バックアップRAM)等を含んだ一般的に公知の構成である。なお、CPU、ROM、RAM、バックアップRAMには符号を付していない。
【0049】
ROMは、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。また、RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは、例えば内燃機関の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0050】
ENG_ECU7の入力インタフェース(符号省略)には、図2および図3に示すように、少なくとも、クランクポジションセンサ51、エアフローメータ52、アクセル開度センサ53、スロットル開度センサ54、シフトポジションセンサ55、クラッチペダルスイッチ56、車速センサ57、空燃比センサ58、酸素センサ59等が接続されている。
【0051】
なお、車速センサ57は、図示していない車輪の回転を検出するものであり、この検出信号に基づいてENG_ECU7が車速を算出する。そして、車速センサ57が請求項に記載の速度検出手段に相当し、また、アクセル開度センサ53が請求項に記載のペダル開度検出手段に相当し、さらに、クラッチペダルスイッチ56が請求項に記載のクラッチ状態検出手段に相当している。
【0052】
ENG_ECU7の出力インタフェース(符号省略)には、図2および図3に示すように、例えば燃料噴射弁21、燃料ポンプ23、スロットルバルブ26のアクチュエータ27、点火プラグ28のイグナイタ29等が接続されている。
【0053】
前記各インタフェースに接続する要素は、本発明の特徴に関連するもののみとし、本発明の特徴に直接的に関連しない要素についての記載や説明は割愛している。
【0054】
そして、ENG_ECU7が行う内燃機関1の各種制御のうち、本発明に関係する制御として、空燃比制御と、フューエルカット制御とを簡単に説明する。
【0055】
空燃比制御は、例えば、内燃機関1の排気通路25に配置した空燃比センサ58及び酸素センサ59の各出力に基づいて排気ガス中の酸素濃度を算出し、その算出した酸素濃度から得られる実際の排気空燃比を目標空燃比(例えば理論空燃比)に一致させるように、燃料噴射弁21からの燃料噴射量を制御するものである。例えば、実際の排気空燃比が理論空燃比よりリッチであれば、燃料噴射量が減量調整され、逆に、実際の排気空燃比が理論空燃比よりリーンであれば、燃料噴射量が増量調整される。
【0056】
また、フューエルカット制御は、所定のフューエルカット条件が成立したときに燃料噴射弁21からの燃料噴射を停止するものである。このフューエルカットは、燃料消費率や排気エミッションを改善するために行われる。
【0057】
なお、フューエルカット中において、車速が低下し、エンジン回転数がフューエルカット回転数よりも低くなったときには、エンジンストールを防止するためにフューエルカットを中止して燃料噴射弁21による燃料噴射を行わせる。また、フューエルカット中にアクセルペダル4が踏まれた場合(再加速時)にも、フューエルカットを中止して燃料噴射弁21による燃料噴射を行わせる。
【0058】
ここで、本発明では、車両走行中におけるシフトチェンジの際にエンジン回転数の吹き上がりが発生するので、この吹き上がりを抑制するように工夫している。
【0059】
具体的に、この実施形態では、シフトレバー6による直接的な変速操作そのものではなく、変速操作を行うときの環境を確保するための初期動作つまりアクセルオフ(全閉)かつクラッチオン(切断)が行われたか否かを調べて、この初期動作が行われたときに、エンジン回転数が吹き上がるかどうかを正確に検出して、内燃機関1の出力を制限するための作業としてのフューエルカット制御の実行を許容または禁止するようにしている。
【0060】
ここでのシフトチェンジとは、シフトアップやシフトダウンのいずれも含むものである。シフトアップの場合、シフトアップに至る状況が加速中である関係より空気吸入量が多いために、アクセルオフかつクラッチオンになると、エンジン回転数の吹き上がりが発生しやすくなる。そのため、シフトアップの際にエンジン回転数の吹き上がりを検出して、抑制するように対処することが有利となる。
【0061】
次に、図4を参照して、本発明の特徴を適用した動作を詳細に説明する。図4は、ENG_ECU7の動作を主として示すフローチャートである。
【0062】
図4に示すフローチャートは、例えば一定周期毎にエントリーされる。まず、ステップS1において、車両が停止または極低速状態ではなく、走行中であるか否かを判定する。ここでは、車速センサ57の出力に基づいて車速が所定の規定値(例えば0km/h〜10km/h)以上であるか否かを調べる。
【0063】
ここで、車両が停止または極低速状態である場合には、フューエルカット制御の対象外であるので、前記のステップS1で否定判定して、このフローチャートを抜ける。
【0064】
その一方で、一定速度以上で走行中である場合には、フューエルカット制御の対象となりえるので、前記のステップS1で肯定判定して、続くステップS2に移行する。
【0065】
ステップS2では、アクセルオフ条件が成立したか否かを判定する。ここでは、アクセル開度センサ53の出力に基づいて運転者がアクセルペダル4を離した状態が所定時間以上続いたか否かを調べている。
【0066】
ここで、アクセルオフ条件が成立していない場合には、フューエルカット制御の対象外であるので、前記のステップS2で否定判定して、このフローチャートを抜ける。
【0067】
その一方で、アクセルオフ条件が成立した場合には、フューエルカット制御の対象となりえるので、前記のステップS2で肯定判定して、続くステップS3に移行する。
【0068】
ステップS3では、クラッチオン(切断)条件が成立したか否かを判定する。ここでは、クラッチペダルスイッチ56のオン・オフ状態に基づいて調べるとともに、そのオン・オフ状態の継続時間を調べるようにする。この継続時間を調べるのは、一時的なものか、意図的なものかを正確に区別するためである。
【0069】
ここで、クラッチペダルスイッチ56からオフ信号が所定時間以上入力された場合、クラッチ3が継合状態であり、フューエルカット制御の対象外であるので、前記ステップS3で否定判定して、このフローチャートを抜ける。
【0070】
その一方で、クラッチペダルスイッチ56からオン信号が所定時間以上入力された場合、クラッチ3が切断状態であり、フューエルカット制御の対象となりえるので、前記ステップS3で肯定判定して、続くステップS4に移行する。
【0071】
このように、ステップS2,S3で共に肯定判定となるようなアンド条件が成立したことを調べているのは、シフトチェンジの初期動作の有無を調べるようにしている。その理由を説明する。
【0072】
仮に、シフトポジションセンサ55からの出力に基づいて、シフトレバー6をニュートラルポジションを経てから目的となるシフトポジションへと操作するといったシフトチェンジそのものの行為を検出する場合だと、シフトチェンジを行う段階で既にエンジン回転数が吹き上がっていることになる。つまり、シフトチェンジそのものの行為を行う前の前記初期動作(アクセルオフかつクラッチオン)を認識したときに、即座に吹き上がりの発生の有無を調べるようにすれば、吹き上がりを早期段階で検出することが可能になるからである。
【0073】
ステップS4では、エンジン回転数の吹き上がりが発生したか否かを判定する。ここでは、クランクポジションセンサ51から入力される信号に基づいて現在のエンジン回転数を認識し、現在のエンジン回転数とこのフローチャートへの前回エントリー時におけるエンジン回転数との偏差に基づいてエンジン回転数の変化勾配を算出するとともに、前記偏差のさらに偏差に基づいて前記変化勾配の変化率を算出し、この変化率が所定の吹き上がり閾値以上であるか否かを調べるようにしているのである。
【0074】
ここで、変化率が所定の吹き上がり閾値以上である場合、つまりエンジン回転数の吹き上がりが発生している場合には、フューエルカット制御を実行する必要があるので、前記のステップS4で肯定判定して、続くステップS5に移行する。このステップS5では、フューエルカット制御の条件が成立したものとし、フューエルカット制御の実行を許可した後、このフローチャートを抜ける。
【0075】
しかし、変化率が所定の吹き上がり閾値未満である場合、つまりエンジン回転数の吹き上がりが発生していない場合には、フューエルカット制御を実行する必要がないので、前記のステップS4で否定判定して、続くステップS6に移行する。このステップS6では、フューエルカット制御の条件が成立していないものとし、フューエルカット制御の実行を禁止した後、このフローチャートを抜ける。
【0076】
ここで、図5を参照して、具体的な事象を例に挙げて説明する。図5は、ENG_ECU7の動作に関連したタイムチャートである。
【0077】
例えば図5(a)に示すように、時刻t1で運転者がアクセルペダル4を踏み込んでから、所定時間が経過した時刻t2でシフトチェンジのためにアクセルペダル4を離してアクセルオフするとともに、図5(b)に示すように、クラッチペダル5を踏み込んでクラッチオフ(切断)したとすると、アクセルオフに伴い図5(c)に示すように、伝達トルクが低下し始めるとともに、図5(d)に示すように、エンジン回転数が吹き上がり始める。
【0078】
これにより、エンジン回転数の変化勾配が図5(e)に示すように、急峻に立ち上がり、それに伴い変化勾配の変化率が図5(f)に示すように大きくなる。
【0079】
このように、図5(a)および(b)に示すようにアクセルオフかつクラッチオフの条件が成立することにより図4のステップS2,S3で肯定判定された状態において、図5(f)に示すように、例えば時刻t3において、変化率が所定の吹き上がり閾値以上になると、図4のステップS4にて肯定判定されてステップS5に移行して図5(g)に示すようにフューエルカット制御の実行を許可することになる。
【0080】
このようにして、シフトチェンジの初期動作の検出時点で吹き上がり判定を行うから、吹き上がり検出を早期に行えるようになる。なお、シフトチェンジの際に、アクセルオフしてからクラッチオンする場合の他に、クラッチオンしてからアクセルオフする場合もありうる。そのような場合でも、ステップS2,S3によって、所定時間以内にアクセルオフとクラッチオンとのアンド条件の成立を調べるようにしているから、前記いずれの初期動作であっても正確に判定できるようになっている。
【0081】
ところで、図4に示すフローチャートでは、ENG_ECU7による詳しい制御内容を記載しているのではなく、機能的な流れを示しており、ステップS4の処理内容の一部が請求項に記載の算出手段に相当し、ステップS4〜S6が請求項に記載の管理手段に相当している。
【0082】
以上説明したように、本発明の特徴を適用した実施形態では、シフトチェンジの初期動作において、エンジン回転数の偏差のさらに偏差をパラメータとして、エンジン回転数の吹き上がり現象の発生の有無判定を行うようにしている。そのため、シフトチェンジの際にエンジン回転数が吹き上がる現象を早期段階で正確に検出することが可能になる。
【0083】
これにより、従来例のようにエンジン回転数の絶対値をパラメータとして吹き上がり判定を行う場合に起こしやすかった誤判定を確実に防止することが可能になって、シフトチェンジの際に発生するエンジン回転数の吹き上がりを抑制するための対策であるフューエルカット制御を迅速かつ正確に行うことが可能になるから、シフトチェンジの際に運転者に対して車両挙動の違和感を与えさせないようにできる等、ドライバビリティの向上に貢献できるようになる。
【0084】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下で例を挙げる。
【0085】
(1)上記実施形態において、車両のパワートレーンは、フロントエンジン・リアドライブ(FR)形式、フロントエンジン・フロントドライブ(FF)形式、あるいはミッドシップエンジン形式等、特に限定されるものではない。
【0086】
(2)上記実施形態では、車両の制御装置として既存のENG_ECU7を利用しているが、これに限定されるものではなく、専用のECUを用いるようにすることも可能である。
【0087】
(3)上記実施形態では、クラッチペダルスイッチ56を備える場合を例に挙げているが、このクラッチペダルスイッチ56を備えていない場合には、図4のステップS3におけるクラッチオン条件の成立判定を行わないようにして、図4のステップS2において、アクセルオフ条件が成立したときに、即座に、図4のステップS4の吹き上がり判定を行うようにしてもよい。
【0088】
(4)上記実施形態では、エンジン回転数の吹き上がり対策であるエンジン出力の制限形態として、フューエルカット制御を行う形態を例に挙げているが、エンジン出力を制限する形態であれば特に限定されず、例えば点火時期(SA)を遅角させる形態とするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の適用対象となる車両用パワートレーンの一実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】図1の内燃機関の概略構成を模式的に示す図である。
【図3】図1の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図1の制御装置による動作説明に用いるフローチャートである。
【図5】図1の制御装置による動作説明に用いるタイムチャートである。
【符号の説明】
【0090】
1 内燃機関
2 手動変速機
3 クラッチ
4 アクセルペダル
5 クラッチペダル
6 シフトレバー
7 ENG_ECU(制御装置)
11 シリンダブロック
12 気筒
13 ピストン
16a 吸気ポート
16b 排気ポート
17 燃焼室
21 燃料噴射弁
24 吸気通路
26 スロットルバルブ
51 クランクポジションセンサ
53 アクセル開度センサ
54 スロットル開度センサ
55 シフトポジションセンサ
56 クラッチペダルスイッチ
57 車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関にクラッチを介して手動変速機が接続されるパワートレーンを有する車両の制御装置であって、
必要に応じて、機関回転数の変化勾配を求めるとともに、この変化勾配の変化率を求める算出手段と、
車両走行中におけるシフトチェンジの際に、前記算出手段により変化率を算出させるとともに、当該算出した変化率が所定の閾値以上であると判定したときに、内燃機関の出力を制限する管理手段とを含む、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
車両の走行速度を検出する速度検出手段と、アクセルペダルのアクセル開度を検出するペダル開度検出手段と、前記クラッチの継合または切断状態を検出するクラッチ状態検出手段とをさらに含み、
前記管理手段は、前記各検出手段からの出力に基づき、一定車速以上においてアクセル全閉でかつクラッチ切断状態になったときにシフトチェンジが行われると判定し、この判定をトリガーとして前記算出手段による処理を実行させる、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の制御装置において、
必要に応じて内燃機関への燃料供給を停止するフューエルカット制御を実行するフューエルカット実行手段をさらに含み、
前記管理手段は、前記内燃機関の出力制限を、前記フューエルカット実行手段によるフューエルカット制御とする、ことを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−281238(P2009−281238A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133114(P2008−133114)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】