説明

車両の前端構造

【課題】熱交換器周りをダクト化した車両の前提構造において、熱交換器の冷却能力を向上させる。
【解決手段】エンジン6が搭載されたエンジンルーム6a内に配置され、空気と熱媒体との熱交換を行う熱交換器1、2を備える車両の前端構造であって、熱交換器1、2の周囲に、車両前方側に突出し、エンジンルーム6a内の熱気が熱交換器1、2の前面側に回り込むことを防止するとともに、車両前方側に存在する空気を熱交換器1、2に導くダクト部材12〜14を設け、ダクト部材12〜14のうち車両下方側に配置される下方ダクト13に、車両上下方向に貫通する貫通孔13aを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体前端部を構成する車両の前端構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるラジエータやコンデンサ等の熱交換器は、車両前端側から空気を導入して冷却水や冷媒等の流体を冷却するものであるが、車両停止時や車両速度が小さい場合には、エンジンにて加熱されたエンジンルーム内の熱気が熱交換器(車両)の前面側に回り込んでしまい、熱交換器の冷却能力が低下するという問題があった。
【0003】
この問題に対して、熱交換器周り(上下左右)に車両前方側に突出するダクトを設けて、熱交換器への熱気回り込みを防止する方法が提案されている。これにより、車両速度が大きい場合において、走行風が熱交換器前面に有効に付与されるため、熱交換器を通過する風量を増加させることもできる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法のように熱交換器周りを完全にダクト化すると、通風経路が狭められるため通風抵抗が増加する。したがって、車両停止時や車両速度が小さい場合において、熱交換器を通過する冷却風が減少し、熱交換器の冷却能力が低下するという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記点に鑑み、熱交換器周りをダクト化した車両の前端構造において、熱交換器の冷却能力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、エンジン(6)が搭載されたエンジンルーム(6a)内に配置され、空気と熱媒体との熱交換を行う熱交換器(1、2)を備える車両の前端構造であって、熱交換器(1、2)の周囲には、車両前方側に突出し、エンジンルーム(6a)内の熱気が熱交換器(1、2)の前面側に回り込むことを防止するとともに、車両前方側に存在する空気を熱交換器(1、2)に導くダクト部材(12〜14)が設けられており、ダクト部材(12〜14)のうち車両下方側に配置される下方ダクト(13)には、車両上下方向に貫通する貫通孔(13a)が形成されていることを第1の特徴としている。
【0007】
これにより、車両停止時および低速走行時においては、通風抵抗を減少させることができるため、熱交換器(1、2)を通過する冷却風を増加させ、熱交換器(1、2)の冷却能力を向上させることが可能となる。また、車両下方側に樹脂カバー(9)が無い場合、高速走行時においては、貫通孔(13a)を通して新気が流入するため、熱交換器(1、2)を通過する冷却風を増加させ、熱交換器(1、2)の冷却能力を向上させることが可能となる。したがって、全車速領域において熱交換器(1、2)の冷却能力を向上させることが可能となる。
【0008】
また、本発明は、エンジンルーム(6a)の車両下方側を覆う樹脂カバー(9)を備えており、貫通孔を第1の貫通孔(13a)とし、樹脂カバー(9)における第1の貫通孔(13a)に対応する部位には第2の貫通孔(9a)が形成されていることを第2の特徴としている。
【0009】
これにより、車両下側に樹脂カバー(9)が設けられている場合でも、上記第1の特徴と同様の効果を得ることが可能となる。
【0010】
また、本発明は、下方ダクト(13)と樹脂カバー(9)との間には、第1の貫通孔(13a)と第2の貫通孔(9a)とを連結する筒状部材(15)が設けられていることを第3の特徴としている。
【0011】
これにより、熱交換器(1、2)前面側への熱気回り込みを防止することができるため、熱交換器(1、2)の冷却能力をより向上させることが可能となる。
【0012】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1および図2に基づいて説明する。図1は、本第1実施形態に係る車両の前端構造を示す断面図である。
【0014】
図1に示すように、本第1実施形態のコンデンサ1とラジエータ2は、共通のキャリア3を介して車両ボディに組み付けられている。コンデンサ1は、キャリア3のうち最上流部(最前方部)に配置され、コンデンサ1の下流側にラジエータ2が配置されている。また、ラジエータ2の下流側に、送風機5が配置されている。なお、コンデンサ1およびラジエータ2をまとめて熱交換器1、2ともいう。
【0015】
コンデンサ1は、冷凍サイクル(図示せず)内を循環する冷媒と外気とを熱交換して冷媒を冷却する熱交換器である。また、ラジエータ2は、エンジン冷却水と外気とを熱交換してエンジン冷却水を冷却する熱交換器である。なお、冷媒およびエンジン冷却水が、本発明の熱媒体に相当している。
【0016】
また、図1ではコンデンサ1およびラジエータ2の具体的構成の図示を省略しているが、コンデンサ1およびラジエータ2は、周知のごとく扁平チューブとコルゲートフィンとの組み合わせからなる熱交換コア部と、熱交換コア部の扁平チューブに対して冷媒または冷却水の分配、集合の役割を果たすタンク部とを備えている。
【0017】
コンデンサ1におけるタンク部は、通常、熱交換コア部の左右両側に配置されている。これに対し、ラジエータ2におけるタンク部は、与えられる配置スペースの形態に応じて熱交換コア部の上下両側あるいは左右両側に配置されている。
【0018】
キャリア3は、熱交換器1、2等が組み付け固定されるもので、文献によってはフロントエンドパネルまたはラジエータサポートとも呼ばれる。また、キャリア3は、上方側に位置して水平方向に延びる上方側梁部材31、下方側に位置して水平方向に延びる下方側梁部材32、および上下方向に延びて両梁部材31、32を連結する支柱部33a、33bを有している。上方側梁部材31は、車両前方側に延びるブラケット31を有しており、このブラケット31aの車両下方側に熱交換器1、2が組み付けられている。
【0019】
ラジエータ2の車両後方側には、樹脂製のファンシュラウド4が設けられている。ファンシュラウド4は、熱交換器1、2に空気を送風する送風機5とラジエータ1との隙間を閉塞して送風機5にて誘起された空気流が熱交換器を迂回して流れることを防止する機能と、送風機5を支持する機能とを有している。
【0020】
また、本第1実施形態では、熱交換器1、2は車両の前端部、換言すると、エンジン6が搭載されるエンジンルーム6aの前端部においてバンパーリーンフォース7の車両後方側に搭載されている。
【0021】
ここで、バンパーリーンフォース7とは、車両の前端部にて車両幅方向に延びて車両前面側からの衝突力を吸収する梁状のものである。バンパーリーンフォース7の車両幅方向の左右両端部は応力吸収部(図示せず)を介して車両ボディのサイドメンバー(図示せず)に連結される。この応力吸収部は、一般にクラッシュボックスと称され、衝突力により容易に変形可能な部材である。
【0022】
このバンパーリーンフォース7の前面側には樹脂製の意匠部品としてのバンパーカバー7aが配置され、このバンパーカバー7aによりバンパーリーンフォース7の前面側を覆うようになっている。
【0023】
エンジン6、熱交換器1、2等が搭載されるエンジンルーム6aの上方側開口部は、蓋部材をなすエンジンフード(ボンネット)8によって閉塞されている。また、エンジンルーム6aの下方側は樹脂カバー9により概略覆われている。
【0024】
バンパーリーンフォース7の上方側および下方側には、それぞれ車両前方開口部10a、10bが設けられている。上方側の第1の車両前方開口部10aおよび下方側の第2の車両前方開口部10bは熱交換器1、2の冷却空気を導入するためのものである。
【0025】
図2は、本第1実施形態に係る車両の前端構造のエンジンルーム6a内を車両上方側から見た状態を示す平面図である。図2に示すように、熱交換器1、2、ファンシュラウド4および送風機5は、キャリア3における2つの支柱部33a、33bのどちらか一方側(本第1実施形態では、図2中右側の支柱部33a側)に寄って配置されている。そして、他方の支柱部33bとファンシュラウド4との間には、隔壁11が設けられている。この隔壁11は、エンジン6近傍の熱気が熱交換器1、2前方側に回り込むことを防止するとともに、車両前方側に存在する新気(熱気が混入していない空気)が熱交換器1、2を介さず車両後方側に流入することを防止するように構成されている。
【0026】
図1および図2に示すように、熱交換器1、2の車両上方側、下方側および側方側には、それぞれ車両前方側に突出する上方ダクト12、下方ダクト13および側方ダクト14が設けられている。これらのダクト12〜14は、エンジンルーム6aの熱気がキャリア3と車両ボディとの隙間から熱交換器1、2の前面側に回り込むことを防止するとともに、車両前方側に存在する新気を熱交換器1、2に導くようになっている。なお、上方ダクト12、下方ダクト13および側方ダクト14が、本発明のダクト部材に相当している。
【0027】
下方ダクト13には、車両上下方向に貫通する複数の第1の貫通孔13aが形成されている。また、樹脂カバー9における第1の貫通孔13aに対応する部位には、車両上下方向に貫通する第2の貫通孔9aがそれぞれ形成されている。これらの貫通孔13a、9aを介して、車両下方側から熱交換器1、2前面側に空気を取り入れることができるようになっている。
【0028】
以上説明したように、下方ダクト13および樹脂カバー9に貫通孔13a、9aをそれぞれ設けることで、主に送風機5の負圧により熱交換器1、2に冷却風を供給する車両停止時および低速走行時においては、通風抵抗を減少させることができる。このため、熱交換器1、2を通過する冷却風を増加させ、熱交換器1、2の冷却能力を向上させることが可能となる。また、主に走行風により熱交換器1、2に冷却風を供給する高速走行時においては、貫通孔13a、9aを通して新気を熱交換器1、2の前面側に流入させることができる。このため、熱交換器1、2を通過する冷却風を増加させ、熱交換器1、2の冷却能力を向上させることが可能となる。したがって、全車速領域において熱交換器1、2の冷却能力を向上させることが可能となる。
【0029】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図3に基づいて説明する。上記第1実施形態と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略する。図3は、本第2実施形態に係る車両の前端構造を示す断面図である。
【0030】
上記第1実施形態の構成では、車両停止時および低速走行時に、エンジンルーム6a内の熱気がキャリア3の下方側梁部材32と樹脂カバー9との隙間を通って熱交換器1、2の前面側に回り込み、熱交換器1、2の冷却能力が低下するおそれがあった。
【0031】
これに対し、本第2実施形態では図3に示すように、下方ダクト13と樹脂カバー9との間には、第1の貫通孔13aとそれに対応する第2の貫通孔9aとを連結させる筒状部材15が設けられている。筒状部材15の一方の開口部は第1の貫通孔13aと連結しており、他方の開口部は第2の貫通孔9aと連結している。また、筒状部材15により形成される通路は、車両上下方向になっている。
【0032】
これにより、熱交換器1、2の前面側への熱気回り込みを防止することができる。さらに、第2の貫通孔9aを通過する空気が、車両後方側などに逃げるのを防止し、すべて熱交換器1、2の前方側に流入させることができる。したがって、熱交換器1、2の冷却能力をより向上させることが可能となる。
【0033】
(他の実施形態)
なお、上記第1実施形態では、樹脂カバー9が設けられていたが、樹脂カバーが設けられていない車両にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1実施形態に係る車両の前端構造を示す断面図である。
【図2】第1実施形態に係る車両の前端構造のエンジンルーム6a内を車両上方側から見た状態を示す平面図である。
【図3】第2実施形態に係る車両の前端構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1…コンデンサ(熱交換器)、2…ラジエータ(熱交換器)、9…樹脂カバー、9a…第2の貫通孔、12…上方ダクト(ダクト部材)、13…下方ダクト(ダクト部材)、13a…第1の貫通孔、14…側方ダクト(ダクト部材)、15…筒状部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(6)が搭載されたエンジンルーム(6a)内に配置され、空気と熱媒体との熱交換を行う熱交換器(1、2)を備える車両の前端構造であって、
前記熱交換器(1、2)の周囲には、車両前方側に突出し、前記エンジンルーム(6a)内の熱気が前記熱交換器(1、2)の前面側に回り込むことを防止するとともに、車両前方側に存在する空気を前記熱交換器(1、2)に導くダクト部材(12〜14)が設けられており、
前記ダクト部材(12〜14)のうち車両下方側に配置される下方ダクト(13)には、車両上下方向に貫通する貫通孔(13a)が形成されていることを特徴とする車両の前端構造。
【請求項2】
前記エンジンルーム(6a)の車両下方側を覆う樹脂カバー(9)を備えており、
前記貫通孔を、第1の貫通孔(13a)とし、
前記樹脂カバー(9)における前記第1の貫通孔(13a)に対応する部位には第2の貫通孔(9a)が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の前端構造。
【請求項3】
前記下方ダクト(13)と前記樹脂カバー(9)との間には、前記第1の貫通孔(13a)と前記第2の貫通孔(9a)とを連結する筒状部材(15)が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の車両の前端構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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