説明

車両の操舵装置

【課題】 簡単な構成で摩擦力発生装置の摩耗による摩擦力の低下を抑制するステアバイワイヤ方式の車両の操舵装置を提供すること。
【解決手段】 摩擦力発生装置20は、操舵入力軸12に対して相対回転不能かつ軸線方向に変位可能に組み付けられた第1磁性体リング21と、軸12に一体的に組み付けられた第2磁性体リング22とを備える。また、装置20は、リング21,22間に配置されて軸12と一体的に回転可能かつ軸線方向変位可能に組み付けられた2枚一対の非磁性体リング23,24と、リング23,24間に配置された永久磁石25とを備える。さらに装置20はリング21をリング22の方向に付勢するばね26を備える。これにより、装置20は磁石25の磁力とばね26の付勢力との合力に起因する摩擦トルクを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を操舵するために運転者によって回動操作される操舵ハンドルと、前記操舵ハンドルの回動操作に対して反力を付与する反力アクチュエータと、転舵輪を転舵するための転舵アクチュエータと、操舵ハンドルの回動操作に応じて前記反力アクチュエータおよび前記転舵アクチュエータを駆動制御するコントローラとを備えたステアバイワイヤ方式の車両の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、この種のステアバイワイヤ方式を採用した操舵装置の開発は、積極的に行われるようになった。例えば、下記特許文献1には、ハンドルの操舵に連動して相互に相対回転するコンミテータとブラシとを有する転流装置を備え、この転流装置のコンミテータとブラシの摩耗を抑えるステアバイワイヤシステムが示されている。このステアバイワイヤシステムにおいては、転流装置に設けたブラシが、正常時にはコンミテータから離されており、故障時のみコンミテータに摺接するようになっており、ブラシやコンミテータの摩耗を抑えて耐久性を向上させることができる。
【0003】
また、例えば、下記特許文献2には、フェールセーフ機構として設けられるクラッチの空転時における引き摺りトルクが小さくなるステアバイワイヤシステムが示されている。このステアバイワイヤシステムにおいては、設けられるクラッチが機械式クラッチ部と電磁コイルとから構成されている。そして、このクラッチは、電磁コイルが通電状態では機械式クラッチ部が非連結状態となり、電磁コイルが非通電状態では永久磁石から発生する磁束によりアーマチュアを弾性部材に抗してロータ側に吸引してアーマチュアとロータとが摩擦接触することによって機械式クラッチ部が連結状態となる逆作動型クラッチとされており、空転時の引き摺りトルクを小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−13011号公報
【特許文献2】特開2005−262969号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記従来のステアバイワイヤシステムのように、ステアバイワイヤ方式の操舵装置においては、操舵ハンドルと転舵輪との機械的な連結が解除されている。このため、ステアバイワイヤ方式の操舵装置においては、ステアバイワイヤ方式以外の操舵装置で得られたステアリングシャフトの回転に伴う摩擦力(摩擦トルク)が極めて小さく、運転者が操舵ハンドルを回動操作するときに違和感を覚える場合がある。そこで、ステアバイワイヤ方式の操舵装置において、運転者が操舵ハンドルを回動操作する際に良好なフィーリングが得られるように、また、反力付与制御における中立位置付近での制御ハンチングを抑制するように、別途、摩擦力(摩擦トルク)を発生させる摩擦力発生装置を設けることが検討されている。
【0006】
ところが、操舵ハンドルの回動操作時に常に摩擦力発生装置が摩擦力(摩擦トルク)を発生させる場合には、長期使用に伴い摩擦部位における摩耗が発生する可能性があり、この摩耗の進行に伴って摩擦力(摩擦トルク)が低下することが懸念される。この場合、摩擦力発生装置においては、常に摩擦力(摩擦トルク)を発生させる必要があるため、上記従来のステアバイワイヤシステムのように、摩擦部位を接触状態と非接触状態とで切り替えることは難しく、摩耗の進行に伴う摩擦力(摩擦トルク)の低下を防止することが望まれている。
【0007】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、簡単な構成により、摩擦力発生装置の摩耗による摩擦力の低下を抑制するステアバイワイヤ方式の車両の操舵装置を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車両を操舵するために運転者によって回動操作される操舵ハンドルと、前記操舵ハンドルの回動操作に対して反力を付与する反力アクチュエータと、転舵輪を転舵するための転舵アクチュエータと、操舵ハンドルの回動操作に応じて前記反力アクチュエータおよび前記転舵アクチュエータを駆動制御するコントローラとを備えたステアバイワイヤ方式の車両の操舵装置において、磁性材料から形成されて、前記操舵ハンドルと一体的に回転する操舵入力軸に対して相対回転不能かつ前記操舵入力軸の軸線方向に変位可能に組み付けられた第1磁性体リングと、磁性材料から形成されて、前記操舵入力軸に対して相対回転不能かつ前記操舵入力軸の軸線方向変位不能に組み付けられた第2磁性体リングと、前記第1磁性体リングと前記第2磁性体リングとの間に配置されて、前記操舵入力軸と一体的に回転可能かつ軸線方向変位可能に組み付けられた2個一対の非磁性体材料から形成された非磁性体リングと、前記2個一対の非磁性体リング間に配置されて、前記操舵入力軸と一体的に回転可能かつ軸線方向変位可能に組み付けられた磁石と、前記第1磁性体リングを前記第2磁性体リングの方向に付勢する弾性部材とから構成された摩擦力発生装置を備えたことにある。
【0009】
この場合、前記摩擦力発生装置は、前記磁石の磁力によって前記第1磁性体リングと前記2個一対の非磁性体リングのうちの一方の非磁性体リングとの間、および、前記第2磁性体リングと前記2個一対の非磁性体リングのうちの他方の非磁性体リングとの間に発生する垂直抗力と、前記弾性部材の付勢力によって前記第1磁性体リングと前記2個一対の非磁性体リングのうちの一方の非磁性体リングとの間、および、前記第2磁性体リングと前記2個一対の非磁性体リングのうちの他方の非磁性体リングとの間に発生する垂直抗力との合計を一定とするとよい。
【0010】
これらによれば、ステアバイワイヤ方式の車両の操舵装置に対して、磁性材料から形成される第1磁性体リングおよび第2磁性体リングと、非磁性体から形成される2個一対の非磁性体リングと、非磁性体リング間に配置される磁石(例えば、永久磁石)と、第1磁性体リングを第2磁性体リング方向に付勢する弾性部材(例えば、ばね)とから構成される摩擦力発生装置を設けることができる。また、磁石の磁力によって第1磁性体リングと一方の非磁性体リングおよび第2磁性体リングと他方の非磁性体リングとの間に発生する垂直抗力と弾性部材の付勢力によって第1磁性体リングと一方の非磁性体リングおよび第2磁性体リングと他方の非磁性体リングとの間に発生する垂直抗力との合力を一定に維持することができる。
【0011】
この構成により、摩擦力発生装置が磁石の磁力と弾性部材の付勢力によって、第1磁性体リングと一方の非磁性体リングとの間、および、第2磁性体リングと非磁性体リングとの間に一定の垂直抗力を発生させることができる。そして、この発生した垂直抗力に依存して、操舵ハンドルの回動すなわち操舵入力軸の回転に対して摩擦力を発生させることができる。このとき、例えば、2個一対の非磁性体リングが摩耗によってその厚みが減少した場合、この厚みの減少に伴って弾性部材の付勢力による垂直抗力が減少するものの、第1磁性体リングおよび第2磁性体リングと磁石との距離が短くなって磁石の磁力による垂直抗力が増加する。これにより、付勢力すなわち垂直抗力の減少を補って予め設定した一定の垂直抗力が発生するように、磁石の磁力(吸引力)すなわち垂直抗力を発生させることができ、その結果、摩擦力の低下を効果的に防止することができる。
【0012】
また、この摩擦力発生装置においては、磁石の磁力(吸引力)と弾性部材の付勢力とを調整することによって、第1磁性体リングと一方の非磁性体リングとの間、および、第2磁性体リングと他方の非磁性体リングとの間に一定の垂直抗力を発生させることができる。したがって、摩擦力発生装置の構成を簡素化することが可能であり、その結果、摩擦力発生装置を小型化して軽量化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の操舵装置の概略的な構成図である。
【図2】図1の摩擦トルク発生装置の外観を示す図である。
【図3】図2の摩擦トルク発生装置の構成を示す概略的な斜視図である。
【図4】図2のA−Aにおける摩擦トルク発生装置の断面を示す断面図である。
【図5】非磁性体リングの摩耗に伴う付勢力と磁力の大きさの変化を説明するための図である。
【図6】非磁性体リングの厚みと垂直抗力との関係を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る車両の操舵装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車両の操舵装置の構成を概略的に示している。
【0015】
この車両の操舵装置は、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を転舵するために、運転者によって回動操作される操作部としての操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は、操舵入力軸12の上端に固定され、操舵入力軸12の下端は電動モータおよび減速機構からなる反力アクチュエータ13に接続されている。反力アクチュエータ13は、運転者の操舵ハンドル11の回動操作に対して所定の反力トルクを付与する。
【0016】
また、この車両の操舵装置は、電動モータおよび減速機構からなる転舵アクチュエータ14を備えている。この転舵アクチュエータ14による転舵力は、転舵出力軸15、ピニオンギア16およびラックバー17を介して左右前輪FW1,FW2の伝達される。この構成により、転舵アクチュエータ14からの回転力は転舵出力軸15を介してピニオンギア16に伝達され、ピニオンギア16の回転によりラックバー17が軸線方向に変位して、このラックバー17の軸線方向の変位により、左右前輪FW1,FW2は左右に転舵される。
【0017】
そして、反力アクチュエータ13および転舵アクチュエータ14の作動は、コントローラ18によって制御される。コントローラ18は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、図示しないプログラムの実行により、反力アクチュエータ13および転舵アクチュエータ14の作動をそれぞれ制御する。なお、コントローラ18による反力アクチュエータ13および転舵アクチュエータ14の作動制御については、本発明と直接関係しないため、その説明を省略する。
【0018】
さらに、この車両の操舵装置は、操舵ハンドル11の回動に対して所定の摩擦力を付与する摩擦力発生装置20が組み付けられている。この摩擦力発生装置20は、図1および図2に示すように、操舵入力軸12に組み付けられており、操舵ハンドル11すなわち操舵入力軸12の回転に伴って所定の摩擦力(より詳しくは、摩擦トルク)を付与する。以下、具体的に摩擦力発生装置20の構成を説明する
【0019】
摩擦力発生装置20は、図3に示すように、磁性材料から形成されて操舵入力軸12に対して相対回転不能かつ操舵入力軸12の軸線方向に変位可能に組み付けられた第1磁性体リング21と、磁性材料から形成されて操舵入力軸12に対して相対回転不能かつ軸線方向変位不能に組み付けられた第2磁性体リング22と、第1磁性体リング21と第2磁性体リング22との間に配置されて、操舵入力軸12と一体的に回転可能かつ軸線方向変位可能に組み付けられた2枚一対の非磁性体材料から形成された非磁性体リング23,24と、非磁性体リング23,24間に配置されて、操舵入力軸12と一体的に回転可能かつ軸線方向変位可能に組み付けられたリング状の永久磁石25と、第1磁性体リング21を第2磁性体リング22の方向に付勢する弾性部材としてのばね26とから構成されている。なお、非磁性体リング23,24はボルトにより一体的に組み付けられている。
【0020】
そして、これら第1磁性体リング21、第2磁性体リング22、非磁性体リング23,24、永久磁石25およびばね26は、図2におけるA−A断面を図4に示すように、ハウジング内に収容されて、操舵ハンドル11の回動操作すなわち操舵入力軸12の回転に対して所定の摩擦トルクを発生する。具体的に説明すると、第1磁性体リング21は、ばね26の付勢力によって、非磁性体リング23,24および永久磁石25とともに第2磁性体リング22方向に付勢されている。これにより、ばね26の付勢力に対応した垂直抗力が第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間に発生する。したがって、操舵入力軸12が回転すると、非磁性体リング23,24および永久磁石25が一体的に回転するため、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間に摩擦トルクが発生する。
【0021】
また、永久磁石25は、その磁力により、非磁性体リング23,24を介して、第1磁性体リング21および第2磁性体リング22を吸引している。これにより、永久磁石25の磁力(吸引力)に対応した垂直抗力が第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間に発生する。したがって、操舵入力軸12が回転すると、非磁性体リング23,24および永久磁石25が一体的に回転するため、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間に摩擦トルクが発生する。このように、摩擦力発生装置20においては、永久磁石25の磁力(吸引力)とばね26の付勢力の合力に応じた垂直抗力が発生し、この垂直抗力により、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間に摩擦トルクを発生させる。
【0022】
ところで、操舵ハンドル11の回動操作すなわち操舵入力軸12の回転に伴って、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間で摩擦トルクを発生させる場合、第1磁性体リング21、第2磁性体リング22および非磁性体リング23,24に摩耗が発生すると、経時的に摩擦トルクが低下することが懸念される。ところが、摩擦力発生装置20においては、永久磁石25の磁力(吸引力)とばね26の付勢力の合力に応じた垂直抗力を発生させて摩擦トルクを発生させるため、経時的な摩擦トルクの低下が効果的に抑制される。
【0023】
すなわち、図5に概略的に示すように、例えば、非磁性体リング23,24が摩耗する前の状態においては、ばね26が十分に圧縮されており、相対的に大きな付勢力によって第1磁性体リング21は軸線方向に固定されている第2磁性体リング22方向に付勢される。このため、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間には相対的に大きな垂直抗力が発生する。一方、非磁性体リング23,24が摩耗する前においては、非磁性体リング23,24の厚みが大きいため、第1磁性体リング21と永久磁石25との間、および、第2磁性体リング22と永久磁石25との間の距離が大きい。このため、永久磁石25の第1磁性体リング21および第2磁性体リング22に対する磁力(吸引力)は相対的に小さくなり、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間には相対的に小さな垂直抗力が発生する。すなわち、非磁性体リング23,24が摩耗する前の状態においては、ばね26の付勢力が摩擦トルクの発生に大きく寄与する。
【0024】
これに対して、非磁性体リング23,24が摩耗した後の状態においては、ばね26の圧縮が減少しており、第1磁性体リング21に付与する付勢力が相対的に小さくなる。このため、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間に発生する垂直抗力は相対的に小さくなる。一方、非磁性体リング23,24が摩耗した後においては、非磁性体リング23,24の厚みが小さくなるため、第1磁性体リング21と永久磁石25との間、および、第2磁性体リング22と永久磁石25との間の距離が小さくなる。このため、永久磁石25の第1磁性体リング21および第2磁性体リング22に対する磁力(吸引力)は相対的に大きくなり、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間には相対的に大きな垂直抗力が発生する。すなわち、非磁性体リング23,24が摩耗した後の状態においては、永久磁石25の磁力(吸引力)が摩擦トルクの発生に大きく寄与する。
【0025】
このように、永久磁石25の磁力(吸引力)とばね26の付勢力とがそれぞれ垂直抗力を発生させる場合、非磁性体リング23,24の摩耗前後において、適切な大きさの摩擦トルクを発生させるために必要な垂直抗力が磁力(吸引力)と付勢力との合力によって常に発生していれば、摩擦トルクの低下を防止することができる。言い換えれば、予め設定された一定の垂直抗力が常に発生するように、永久磁石25の磁力(吸引力)とばね26の付勢力とを調整して合力を発生させることによって、摩擦トルクの低下を防止することができる。
【0026】
このことを具体的に説明すると、今、適切な摩擦トルクをTとするとともに、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間で摩擦が発生する位置に対応する永久磁石25の(平均)直径をaとし、摩擦トルクTを回転方向への力Frに変換する場合、力Frは下記式1によって計算することができる。
Fr=T/(a/2) …式1
そして、回転方向への力Frを発生するために必要な垂直抗力Fvは、下記式2によって計算することができる。
Fv=Fr/μ …式2
ただし、前記式2中のμは、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間における予め設定された動摩擦係数を表す。
【0027】
ここで、永久磁石25による磁力(吸引力)およびばね26による付勢力は垂直抗力の発生方向と一致する。このため、磁力(吸引力)をFmとし、付勢力をFsとすれば、下記式3に示すように、磁力(吸引力)Fmと付勢力Fsの合力が垂直抗力Fvと等しくなる。なお、磁力(吸引力)Fmは永久磁石25が非磁性体リング23,24と接触する両面で発生する磁力(吸引力)の合計を表す。
Fv=Fm+Fs …式3
【0028】
これにより、摩擦トルクTの低下を防止するために、垂直抗力Fvを、図6にて実線で示すように、非磁性体リング23,24の厚み変化に対して一定となるように設定する。この場合、非磁性体リング23,24の厚みが摩耗により減少すると、図6にて一点鎖線で示すように、付勢力Fs(すなわち垂直抗力)は一様に減少し、図6にて破線で示す磁力(吸引力)Fm(すなわち垂直抗力)は前記式3に従って、付勢力Fs(すなわち垂直抗力)の減少を補うように増加する。したがって、前記式3が常に成立するように、永久磁石25の磁力(吸引力)とばね26の付勢力、すなわち、それぞれによる垂直抗力を調整することにより、非磁性体リング23,24の摩耗すなわち厚みの減少に対して摩擦トルクTを低下させることなく発生させることができる。
【0029】
以上の説明からも理解できるように、本実施形態によれば、摩擦力発生装置20が永久磁石25の磁力(吸引力)とばね26の付勢力によって、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間に垂直抗力を発生させることができる。そして、この発生した垂直抗力に依存して、操舵ハンドル11の回動すなわち操舵入力軸12の回転に対する摩擦トルクを発生させることができる。このとき、例えば、非磁性体リング23,24の摩耗による厚みの減少に伴ってばね26の付勢力すなわち垂直抗力が減少するものの、第1磁性体リング21および第2磁性体リング22と永久磁石25との距離が小さくなって永久磁石25の磁力(吸引力)すなわち垂直抗力が増加する。これにより、ばね26の付勢力すなわち垂直抗力の減少を補って予め設定した一定の垂直抗力が発生するように、永久磁石25の磁力(吸引力)すなわち垂直抗力を発生させることができ、その結果、摩擦トルクの低下を効果的に防止することができる。
【0030】
また、摩擦力発生装置20においては、永久磁石25の磁力(吸引力)とばね26の付勢力とを調整することによって、第1磁性体リング21と非磁性体リング23との間、および、第2磁性体リング22と非磁性体リング24との間に一定の垂直抗力を発生させることができる。したがって、摩擦力発生装置20の構成を簡素化することが可能であり、その結果、摩擦力発生装置20を小型化して軽量化することが可能となる。
【符号の説明】
【0031】
11…操舵ハンドル、12…操舵入力軸、13…反力アクチュエータ、14…転舵アクチュエータ、15…転舵出力軸、16…ピニオンギア、17…ラックバー、18…コントローラ、20…摩擦力発生装置、21…第1磁性体リング、22…第2磁性体リング、23,24…非磁性体リング、25…永久磁石、26…ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を操舵するために運転者によって回動操作される操舵ハンドルと、前記操舵ハンドルの回動操作に対して反力を付与する反力アクチュエータと、転舵輪を転舵するための転舵アクチュエータと、操舵ハンドルの回動操作に応じて前記反力アクチュエータおよび前記転舵アクチュエータを駆動制御するコントローラとを備えたステアバイワイヤ方式の車両の操舵装置において、
磁性材料から形成されて、前記操舵ハンドルと一体的に回転する操舵入力軸に対して相対回転不能かつ前記操舵入力軸の軸線方向に変位可能に組み付けられた第1磁性体リングと、
磁性材料から形成されて、前記操舵入力軸に対して相対回転不能かつ前記操舵入力軸の軸線方向変位不能に組み付けられた第2磁性体リングと、
前記第1磁性体リングと前記第2磁性体リングとの間に配置されて、前記操舵入力軸と一体的に回転可能かつ軸線方向変位可能に組み付けられた2個一対の非磁性体材料から形成された非磁性体リングと、
前記2個一対の非磁性体リング間に配置されて、前記操舵入力軸と一体的に回転可能かつ軸線方向変位可能に組み付けられた磁石と、
前記第1磁性体リングを前記第2磁性体リングの方向に付勢する弾性部材とから構成された摩擦力発生装置を備えたことを特徴とする車両の操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両の操舵装置において、
前記摩擦力発生装置は、
前記磁石の磁力によって前記第1磁性体リングと前記2個一対の非磁性体リングのうちの一方の非磁性体リングとの間、および、前記第2磁性体リングと前記2個一対の非磁性体リングのうちの他方の非磁性体リングとの間に発生する垂直抗力と、前記弾性部材の付勢力によって前記第1磁性体リングと前記2個一対の非磁性体リングのうちの一方の非磁性体リングとの間、および、前記第2磁性体リングと前記2個一対の非磁性体リングのうちの他方の非磁性体リングとの間に発生する垂直抗力との合計を一定とすることを特徴とする車両の操舵装置。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−254210(P2010−254210A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108740(P2009−108740)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】