説明

車両の視認窓

【課題】運転者に車両に接近する物体を強調して認識させる車両の視認窓を提供する。
【解決手段】自動車の車室内から車外を視認するための車両の助手席側視認窓、運転席側視認窓、バックドア視認窓であって、各視認窓を通じて車室内から車外を見る際の像の視認性を高い状態と低い状態との間で変化させるための視認性調整装置(調光パネル17,21,29、ライト55,56,58)を備え、視認性調整装置は、視認性の高い状態と低い状態とを周期的に変化させる制御装置50を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の視認窓に係り、詳しくは、視認窓を通じて車室内から車外を見る際の像の視認性を変化させ、運転者に車両に接近する物体を強調して認識させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、一般にフロントウインドウやリアウインドウ、サイドウインドウが設けられているが、運転者等が車室内から車外を見る際の死角をより小さくする目的で、サイドドアの下部や、バックドア(テールゲート)に視認窓を設けた車両がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
これらの視認窓には、エレクトロクロミック素子を含む調光ガラスを設け、ウィンカーレバーの操作状態や車速に応じて調光ガラスの可視光線透過率を変化させ、運転者が車外を視認する必要がある場合にのみ、視認窓を通して車外を視認できるようにしたものがある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭64−41424号公報
【特許文献2】特開昭61−181720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の視認窓は、視認窓を通した車外の環境の視認を可能または不能にすることによって、適時に運転者の視界を単純に広げる効果を奏するが、運転者に車外物体の車両への接近等を強調して注意喚起するものではない。そのため、運転者は、比較的小型に形成される視認窓を通して、車外物体の車両への接近感を把握し難いという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の背景を鑑みてなされたものであって、視認窓を通じて車室内から車外を見る際の像の視認性を変化させ、運転者に車両に接近する物体を強調して認識させる車両の視認窓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、車両(10)の車室内から車外を視認するための車両の視認窓(18,22,27)であって、当該視認窓を通じて前記車室内から前記車外を見る際の像の視認性を高い状態と低い状態との間で変化させるための視認性調整装置(70)を備え、前記視認性調整装置は、視認性の高い状態と低い状態とを周期的に変化させる制御装置(50)を有することを特徴とする。ここでの視認性とは、像を明瞭に認識することができる程度を表し、視認性が高い状態とは観察者の目に到達する可視光線の強度が大きい状態をいう。視認性調整装置は、例えば、視認窓を物理的に開閉するルーバーやシャッター、エレクトロクロミック素子を含み電圧印加によって可視光線透過率を変化させるパネル、視認窓の車外側の明度を変化させる照明装置等であってよい。
【0008】
この構成によれば、車室内の運転者が視認窓を通して得る車外の像は、断続的になるため、車外の物体の像はコマ送りされているように見える。そのため、運転者は車外の物体の移動量を通常よりも大きく感じることができ、車外の物体の相対移動を明瞭に把握することができる。すなわち、視認窓は、運転者が視認窓を通して把握する車外の物体の接近感を強調することができる。
【0009】
また、本発明の他の側面は、前記車両の速度を検出する車速検出装置(61)を備え、前記制御装置は、前記車両の速度が大きくなるにつれて、視認性の高い状態と低い状態と変化させる周期を短くすることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、車外の物体に近づく車両の速度が遅い場合には、車両と車外の物体との単位時間当りの接近距離が小さく車外物体の移動量が小さいが、周期を長くすることによって、前回に視認した車外物体の位置から今回に視認する車外物体の位置への変化量を大きくすることができるため、運転者が感じる接近感をより強調することができる。一方、車両の速度が速い場合には、車両と車外の物体との単位時間当りの接近量が大きくなるため、周期を短くしても運転者は接近感を容易に感じることができる。
【0011】
また、本発明の他の側面は、前記車両の周囲に存在する物体を検出する物体検出装置(65)を備え、前記制御装置は、前記物体検出装置が検出した物体の前記車両への接近速度が大きくなるにつれて、視認性の高い状態と低い状態と変化させる周期を短くすることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、車外の物体と車両との接近速度(相対速度)に基づいて周期を設定するため、より適切に周期を設定することができ、運転者により適切な接近感を与えることができる。
【0013】
また、本発明の他の側面は、前記制御装置は、前記車両の後進時または前記車両のハザードランプの作動時に、前記視認性調整装置を視認性の高い状態と低い状態との間で周期的に変化させることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、制御装置は車両の状態から後進駐車や縦列駐車等の駐車時を認識し、駐車時に必要となる車外の物体に関する視覚情報を、運転者に接近感を強調して与えることができる。
【0015】
また、本発明の他の側面は、前記制御装置は、前記車両のウィンカーの作動時に、前記視認性調整装置を視認性の高い状態に維持することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、車両の左折または右折時に、運転者は視認窓を通して常時視認性が高い状態で車外の物体を視認することができる。
【0017】
また、本発明の他の側面は、前記制御装置は、前記車両の停車時に、当該車両の速度が0になった時から所定時間の間、前記視認性調整装置を視認性の高い状態に維持し、その後、前記視認性調整装置を視認性の低い状態に維持することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、車両の停車直後に運転者は視認窓を通して車外の物体を視認することができる一方、停車から所定時間経過した後には視認窓を通した視認性を低下させ、車外から車内を見えにくくすることができる。
【0019】
また、本発明の他の側面は、前記視認性調整装置は、前記車両の運転者が当該視認窓を通じて前記車室内から前記車外を見る際の視野範囲を照らす照明装置(55,56,58)を備え、前記制御装置は、視認性の高い状態として前記照明装置の照度を明るくする一方、視認性の低い状態として前記照明装置の照度を暗くする。
【0020】
この構成によれば、夜間において、視認窓を通した車内から車外の視認性を変化させることができる。また、応答性の高い照明装置の入手は比較的容易であり、周期の調節を容易に行うことができる。
【0021】
また、本発明の他の側面は、前記車両の車外の照度を検出する照度検出装置(66)を備え、前記視認性調整装置は、当該視認窓に設けられて当該視認窓の可視光線透過性を変化させる調光装置(17,21,29)を備え、前記制御装置は、前記照度検出装置が検出した照度が高いほど、前記調光装置の可視光線透過率を低下させることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、昼間において、照明装置のオンオフ操作による明暗変化によって、視認窓を通して車室内から車外を見る際の視認性を変化させることができる。
【0023】
また、本発明の他の側面は、前記視認性調整装置は、当該視認窓に設けられて当該視認窓の可視光線透過性を変化させる調光装置を備え、前記制御装置は、視認性の高い状態として前記調光装置の可視光線透過率を高める一方、視認性の低い状態として前記調光装置の可視光線透過率を低くする。
【0024】
この構成によれば、簡素な構成で、視認窓の視認性を変化させることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上の構成によれば、視認窓は、視認窓を通じて車室内から車外を見る際の像の視認性を変化させ、運転者に車両に接近する物体を強調して認識させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係る視認窓を備えた車両を示す斜視図
【図2】実施形態に係る運転席側調光パネルを示す断面図
【図3】視認性調整装置を模式的に示すブロック図
【図4】視認性調整装置の制御装置が行う制御手順を示すフロー図
【図5】車外照度に基づいて視認性が高状態となるときの調光パネルの可視光線透過率を設定する際に使用するマップ
【図6】車速および物体接近速度に基づいて切替周期を設定する際に使用するマップ
【図7】視認性の高い状態および低い状態の切替周期を示す説明図
【図8】運転席から車両後方を見た際の後続車両の接近を時系列で表す説明図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の視認窓をミニバン型の自動車に適用した一実施形態を詳細に説明する。以下の説明では、図1に示す座標軸のように、自動車の進行方向を前方として説明する。
【0028】
図1に示すように、ミニバン型の自動車10は、助手席側フロントサイドドア11と、助手席側リアサイドドア12と、運転席側フロントサイドドア13(図2参照)と、運転席側リアサイドドア(図示しない)と、バックドア(テールゲート)14とを備えている。助手席側フロントサイドドア11は、その上部にフロントサイドウインドウガラス15によって開閉されるフロントサイドウインドウ16が形成され、その下部前側に助手席側調光パネル17によって閉塞された助手席側視認窓18が形成されている。運転席側フロントサイドドア13は、助手席側フロントサイドドア11と対称形をなし、それぞれ対応する位置に、フロントサイドウインドウガラス(図示しない)によって開閉されるフロントサイドウインドウ(図示しない)と、運転席側調光パネル21によって閉塞された運転席側視認窓22とが形成されている(図2参照)。
【0029】
バックドア14は、その上部にリアウインドウガラス24が取り付けられたリアウインドウ25が形成され、その下部に2つのバックドア視認窓27がバックドア14の開閉ハンドル28を挟むように左右に分離して形成されている。2つのバックドア視認窓27のそれぞれには、バックドア調光パネル29が取り付けられている。
【0030】
図2に示すように、運転席側フロントサイドドア13は、車体の外面を構成するアウタパネル31と、アウタパネル31の車室側に配置され、周縁部においてアウタパネル31に結合されたインナパネル32とを備えている。アウタパネル31とインナパネル32とには、運転席側視認窓22となる部分にそれぞれ貫通孔が形成され、各貫通孔が周縁部で互いに結合されることによって運転席側視認窓22が画成されている。運転席側視認窓22の周縁部には、アウタパネル31の貫通孔の周縁部が、インナパネル32の貫通孔の周縁部を巻き込むようにヘミング加工されることによって形成された内向きのフランジ部33が形成されている。
【0031】
運転席側調光パネル21は、一方の面にエレクトロクロミック素子(EC素子)34が形成されたガラス基板35と、ガラス基板35のエレクトロクロミック素子34が形成された面を覆うようにスペーサ36を介してガラス基板35に結合された板ガラスからなる保護カバー37とを備えている。ガラス基板35および保護カバー37は、透明な樹脂成形物であってもよい。運転席側調光パネル21の周囲には、例えばPVC等からなる樹脂製のモール38が固着されている。モール38が、接着剤39によって内向きフランジ部33の車外側を向く部分に接着されることによって、運転席側調光パネル21が運転席側視認窓22に取り付けられている。
【0032】
エレクトロクロミック素子34は、図2の拡大図中に示すように、ガラス基板35の表面上に順次積層された、第1透明電極41、酸化発色層42、イオン供与体層(イオン伝導層)43、還元発色層44、第2透明電極45を備えている。ガラス基板35は、透明な板ガラスである。第1透明電極41および第2透明電極45は、例えばITO膜から構成されている。酸化発色層42は、例えば、Cr、IrO、NiO、Ni、Rh等を含む薄膜である。イオン供与体層43は、例えば、Ta、ZrO、SiO、CaF、MgF、Y、Na−β−アルミナ、LiN(Li)等を含むプロトン導電性を有する薄膜である。還元発色層44は、例えば、WO、MoO、TiO等を含む薄膜である。第1透明電極41および第2透明電極45には、それぞれリード線(図示しない)が接続され、後述する制御装置50から電力の供給を受ける(図3参照)。制御装置50は、バッテリと、第1透明電極41および第2透明電極45に印加する電圧を増減させる電圧調整装置を有している。エレクトロクロミック素子34は、制御装置50から電圧が印加されると、酸化発色層42および還元発色層44で酸化還元反応が可逆的に起こり、可視光線透過率を変化させる。エレクトロクロミック素子34は、可視光線透過率が最大となるときに概ね透明となる一方、最小となるときには肉眼で奥側を視認することが不可能となるように構成されており、印加される電圧の大きさに応じて、可視光線透過率を任意の割合で増減することができる。なお、他の実施形態では、エレクトロクロミック素子に代えて、印加電圧に応じて可視光線透過率を変化させる液晶素子等の別の素子を用いることができる。
【0033】
助手席側調光パネル17および2つのバックドア調光パネル29は、運転席側調光パネル21と同様の構成を有し、制御装置50から電圧を受けて、可視光線透過率を変化させる。また、助手席側調光パネル17および2つのバックドア調光パネル29は、運転席側調光パネル21の運転席側視認窓22への取り付け構造と同様の構造で、助手席側視認窓18またはバックドア視認窓27,27に取り付けられている。
【0034】
図1に示すように、助手席側フロントサイドドア11の外面の上部前方部には、助手席側サイドライト55が設けられている。助手席側サイドライト55は、路面側に向けて投光し、助手席側視認窓18の車外左方を照明する。図1に図示しないが、同様に、運転席側フロントサイドドア13の外面の上部前方部には、運転席側視認窓22の車外右方を照明する運転席側サイドライト56が設けられている。
【0035】
自動車10の後部左右両側のそれぞれに設けられたテールランプ57の内部には、路面側に向けて投光し、バックドア視認窓27の車外後方を照明するリアライト58,58が設けられている。
【0036】
自動車10の適所には、車速を検出するための車速センサ61と、シフトレバーの位置を検出するためのシフトレバー位置センサ62と、ハザードスイッチ63と、ウィンカースイッチ(ウィンカーレバー)64と、自動車10の周囲に存在する物体の位置および自動車10への接近速度を検出する物体検出センサ65と、自動車10の車外の照度を検出する照度センサ66とが設けられている。物体検出センサ65は、公知のレーダ装置であり、検知信号の送信装置と、反射信号の受信装置を備え、反射信号を信号処理することによって、自動車10の周囲に存在する物体との距離および物体の自動車10への接近速度を算出する。
【0037】
図3に示すように、車速センサ61が検出した車速Vに関する信号、シフトレバー位置センサ62が検出したシフトレバー位置Psに関する信号、ハザードスイッチ63がオン状態のときに発信されるハザードスイッチオン信号Sh、ウィンカースイッチ64が左折状態のときに発信されるウィンカー左信号Swl、ウィンカースイッチ64が右折状態のときに発信されるウィンカー右信号Swr、物体検出センサ65が検出した自動車10の周囲に存在する物体の自動車10への接近速度Voに関する信号、照度センサ66が検出した車外の照度Iに関する信号は、制御装置50に入力される。制御装置50は、CPUや、ROM、RAM等を備えたマイクロコンピュータであり、ROMに記憶されたプログラムを実行する。
【0038】
制御装置50は、各種センサおよびスイッチから受け取った信号に基づいて、助手席側調光パネル17、運転席側調光パネル21、バックドア調光パネル29、助手席側サイドライト55、運転席側サイドライト56、リアライト58に供給する電力を設定し、各調光パネル17,21,29の可視光線透過率および各ライト55,56,58の照度を調整して、運転席に着座した運転者が車室内から各視認窓18,22,27を通して車外を見る際の車外物体の像(車外環境)の視認性(以下、単に視認性という)を調整する。すなわち、制御装置50、助手席側調光パネル17、運転席側調光パネル21、バックドア調光パネル29、助手席側サイドライト55、運転席側サイドライト56、リアライト58は、視認性を高い状態と低い状態との間で変化させるための視認性調整装置70として機能する。
【0039】
本実施形態では、視認性は、最高状態と、高状態と、最低状態の3段階を取ることができる。最高状態では、各調光パネル17,21,29の可視光線透過率が最大値Tmaxとなるとともに、各ライト55,56,58が点灯状態(ON状態)となる。高状態では、各調光パネル17,21,29の可視光線透過率が、照度センサ66が検出した車外照度Iに基づいて、図5に示すマップ(曲線100)を参照して設定した値Th(以下、高状態の可視光線透過率という)になるとともに、各ライト55,56,58が点灯状態(ON状態)となる。最低状態では、各調光パネル17,21,29の可視光線透過率が最低値Tminとなるとともに、各ライト55,56,58が消灯状態(OFF状態)となる。
【0040】
次に、図4のフロー図を参照して、制御装置50が行う制御手順について説明する。最初にステップS1で、照度センサ66が検出した車外照度Iに基づいて、図5に示すマップ(曲線100)を参照し、高状態の可視光線透過率Thを設定する。高状態の可視光線透過率Thは、車外照度Iが大きくなるにつれて小さくなるように設定されている。このように高状態の可視光線透過率Thを設定することによって、夜間のような車外照度Iが低いときには、高状態の可視光線透過率Thが最大値Tmaxとなる一方、昼間のような車外照度Iが高いときには、高状態の可視光線透過率Thが最大値Tmaxより低い値に設定される。
【0041】
次に、ステップS2で、車速センサ61が検出した車速Vが0であるか否か、すなわち自動車10が停止しているか走行しているかを判定する。車速Vが0である場合には、ステップ3に進み、視認性を最高状態にする。続いて、ステップS4〜S6において、所定時間を計数し、所定時間が経過した時点で、視認性を最高状態から最低状態へと変化させる(ステップ7)。以上のステップS2〜S7の処理によって、自動車10を停車した際には、視認性を最高状態にして運転者に各視認窓18,22,27を通して自動車10の周囲を確認できるようにし、所定時間が経過した後、すなわち確認が終了した後には、視認性を最低状態にして車外から各視認窓18,22,27を通して車室内が見えないようにすることができる。
【0042】
ステップS2で、車速Vが0でない場合、すなわち自動車10が走行している場合には、ステップS8に進み、車速Vが所定速度V1未満であるか否かを判定する。所定速度V1は、自動車10の走行状態が低速走行あるいは高速走行のいずれであるかを判定するために用いられ、例えば40〜70km/hに設定されている。ステップS8で、車速Vが所定速度V1以上であると判定された場合(すなわち、自動車10が高速走行している場合)、ステップS14に進み、視認性を最低状態にする。ステップS8およびS14での処理によって、自動車10が高速走行している場合には、運転者は各視認窓18,22,27を通して車外を見ることができなくなるため、各視認窓18,22,27を通して路面等の像が運転者の視界内に入ることがなく、運転者に不快感を与えることが防止される。
【0043】
ステップS8で、車速Vが所定速度V1未満であると判定された場合(すなわち、自動車10が低速走行している場合)、ステップ9に進み、制御装置50は、ウィンカースイッチ64からウィンカー左信号Swlまたはウィンカー右信号Swrが入力されているか否かを判定する。判定がYesの場合にはステップS10に進み、視認性を最高状態にする。ステップS9およびS10での処理によって、自動車10が右折または左折、または車線変更する際に、運転者は各視認窓18,22,27を通して自動車10の周囲を容易に確認することができる。なお、ここでの処理は、ウィンカー左信号Swlが入力された場合に、助手席側視認窓18のみ視認性を最高状態にし、ウィンカー右信号Swrが入力された場合に、運転席側視認窓22のみ視認性を最高状態にしてもよい。
【0044】
ステップS9で判定のNoの場合には、ステップS11に進み、制御装置50は、シフトレバー位置PsがBack(後進)となっているか、あるいはハザードスイッチオン信号Shが入力されているか否かを判定する。判定がYesの場合、すなわち自動車10が後進しようとしている場合や駐車または停車しようとしている場合にはステップS12に進み、判定がNoの場合、すなわち自動車10が低速(速度V1未満)で前進している場合にはステップS13に進む。
【0045】
ステップS12では、制御装置50は視認性周期切替制御1を行う。視認性周期切替制御1では、各視認窓18,22,27の視認性を高状態と最低状態との間で周期的に切り替える。制御装置50は、車速Vと、物体検出センサ65が検出した自動車10の周囲に存在する物体のうち、自動車10に最も近接する物体の自動車10への接近速度である物体接近速度Voとに基づいて、図6に示すマップを参照し、視認性を高状態とする切替周期(切替周期)t2を決定する。切替周期t2は、車速Vおよび物体接近速度Voが大きくなるほど、短くなるように設定されている。図7に示すように、本実施形態では、視認性が高状態を維持する期間t3は一定となっている。ステップS12の処理によって、自動車10が後進しようとしている場合や駐車または停車しようとしている場合には、運転者は各視認窓18,22,27を通して車外の物体を断続的に確認することができる。これにより、運転者が各視認窓18,22,27を通して得られる車外の物体の像は、コマ送りとなる。そのため、運転者には車外の物体が見える度に前回見たときよりも大きく変化して見え、移動が強調して認識される。このとき、車速Vが小さいほど、あるいは車外の縁石や壁等の障害物と自動車10との接近速度Voが小さいほど切替周期t2が長くなり、運転者が受ける車外物体の接近感が強調される。一方、車速Vが大きい、あるいは接近速度Voが大きい場合には、運転者は車外物体の接近感を認識しやすいため、切替周期t2を短くして(視認性が高い状態の総時間を長くして)、よりタイムリーな視覚情報を運転者に与えることができる。
【0046】
ステップS13では、制御装置50は視認性周期切替制御2を行う。視認性周期切替制御2では、視認性周期切替制御1と異なり、バックドア視認窓27のみの視認性を高状態と最低状態との間で周期的に切り替える。切替周期t2の設定方法および視認性が高状態を維持する期間t3は、ステップS12と同様である。ステップS13の処理によって、自動車10の低速走行中に、自動車10に相対的に接近する後続車両を、運転者に認識させやすくすることができる。運転者がバックドア視認窓27を通して視認する後続車両は、図8に示すように、コマ送りの像として運転者に認識されるため、運転者は後続車両の接近をより認識しやすくなる。例えば、ある時点において、運転者は、視認性が高状態であるバックドア視認窓27を通して後続車両200を確認することができないが(図8(a)の状態)、バックドア視認窓27の視認性が一度最低状態(運転者のバックドア視認窓27を通した視界が遮られた状態、図8(b)の状態)となった後に、バックドア視認窓27の視認性が高状態となると、運転者のバックドア視認窓27を通した視界内に後続車両200が急に表れ(図8(c)の状態)、運転者は後続車両200の接近を強く認識することができる。同様に、再度バックドア視認窓27の視認性が最低状態(図8(d)の状態)となった後に、バックドア視認窓27の視認性が高状態(図8(e)の状態)となると、運転者がバックドア視認窓27を通して見る後続車両200は、前回に確認した時よりも急に接近したように運転者に認識され、運転者が受ける接近感が強調される。
【0047】
以上のように、自動車10の走行状態に応じて各視認窓18,22,27の視認性を変化させるようにしたことによって、運転者に各視認窓18,22,27を通して車外情報を必要なときに適切に認識させることができる。特に、自動車10が後進しようとしている場合や駐車または停車しようとしている場合、低速前進走行している場合には、各視認窓18,22,27を通した運転者の視界を断続的にすることによって、車外の障害物や後続車両の接近感を強調して運転者に認識させることができる。
【0048】
また、視認性が高状態における各調光パネル17,21,29の可視光線透過率Thを、車外照度Iに応じて設定するようにしたため、昼間においても各視認窓18,22,27の視認性を、各ライト55,56,58の点灯により変化させることができる。
【0049】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、視認性の最高状態と、高状態と、最低状態は様々な方法によって設定することができる。
【0050】
例えば、昼間においては、各ライト55,56,58を常時消灯状態とし、各調光パネル17,21,29の可視光線透過率を変更して、視認性の最高状態と、高状態と、最低状態を設定してもよい。この場合には、視認性の高状態における各調光パネル17,21,29の可視光線透過率Thを最大値Tmaxにしてもよい。また、夜間においては、各調光パネル17,21,29の可視光線透過率を常時最大値Tmaxに固定し、各ライト55,56,58の点灯および消灯によって、視認性の最高状態と、高状態と、最低状態を設定してもよい。この場合には、視認性の最高状態と、高状態とにおける各ライト55,56,58の照度を同じにしてもよい。以上のように、ライトまたは調光パネルのいずれか一方を使用する場合には、他方は自動車に設けなくてもよい。
【0051】
以上のような視認性の最高状態と、高状態と、最低状態の設定は、車外照度Iに応じて変更してもよい。すなわち、視認性の最高状態と、高状態と、最低状態の設定方法を予め各設定モードとして記憶しておき、検出した車外照度Iに基づいて、最適な設定モードを選択するようにしてもよい。
【0052】
また、各調光パネル17,21,29に代えて、ガラス等の透光性部材と、この透光性部材を開閉するシャッターやルーバー等とを各視認窓18,22,27に設けてもよい。この場合には、視認性の最高状態ではシャッターを開いて各視認窓18,22,27を通した車外の視認を可能にし、視認性の最低状態ではシャッターを閉じて各視認窓18,22,27を閉塞し、視認性の高状態ではシャッターを絞り、各視認窓18,22,27を通した視界を制限するようにすればよい。
【0053】
また、実施形態での各視認窓18,22,27の位置は例示であり、ドア以外の車体パネルに視認窓を形成してもよい。
【符号の説明】
【0054】
10…自動車(車両)、11…助手席側フロントサイドドア、13…運転席側フロントサイドドア、14…バックドア、17…助手席側調光パネル(調光装置)、18…助手席側視認窓(視認窓)、21…運転席側調光パネル(調光装置)、22…運転席側視認窓(視認窓)、27…バックドア視認窓(視認窓)、29…バックドア調光パネル(調光装置)、34…エレクトロクロミック素子、55…助手席側サイドライト(照明装置)、56…運転席側サイドライト(照明装置)、58…リアライト(照明装置)、61…車速センサ(車速検出装置)、62…シフトレバー位置センサ、63…ハザードスイッチ、64…ウィンカースイッチ、65…物体検出センサ(物体検出装置)、66…照度センサ(照度検出装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車室内から車外を視認するための車両の視認窓であって、
当該視認窓を通じて前記車室内から前記車外を見る際の像の視認性を高い状態と低い状態との間で変化させるための視認性調整装置を備え、
前記視認性調整装置は、視認性の高い状態と低い状態とを周期的に変化させる制御装置を有することを特徴とする車両の視認窓。
【請求項2】
前記車両の速度を検出する車速検出装置を備え、
前記制御装置は、前記車両の速度が大きくなるにつれて、視認性の高い状態と低い状態と変化させる周期を短くすることを特徴とする、請求項1に記載の車両の視認窓。
【請求項3】
前記車両の周囲に存在する物体を検出する物体検出装置を備え、
前記制御装置は、前記物体検出装置が検出した物体の前記車両への接近速度が大きくなるにつれて、視認性の高い状態と低い状態と変化させる周期を短くすることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両の視認窓。
【請求項4】
前記制御装置は、前記車両の後進時または前記車両のハザードランプの作動時に、前記視認性調整装置を視認性の高い状態と低い状態との間で周期的に変化させることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかの請求項に記載の車両の視認窓。
【請求項5】
前記制御装置は、前記車両のウィンカーの作動時に、前記視認性調整装置を視認性の高い状態に維持することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかの請求項に記載の車両の視認窓。
【請求項6】
前記制御装置は、前記車両の停車時に、当該車両の速度が0になった時から所定時間の間、前記視認性調整装置を視認性の高い状態に維持し、その後、前記視認性調整装置を視認性の低い状態に維持することを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかの請求項に記載の車両の視認窓。
【請求項7】
前記視認性調整装置は、前記車両の運転者が当該視認窓を通じて前記車室内から前記車外を見る際の視野範囲を照らす照明装置を備え、
前記制御装置は、視認性の高い状態として前記照明装置の照度を明るくする一方、視認性の低い状態として前記照明装置の照度を暗くする、請求項1〜請求項6のいずれかの請求項に記載の車両の視認窓。
【請求項8】
前記車両の車外の照度を検出する照度検出装置を備え、
前記視認性調整装置は、当該視認窓に設けられて当該視認窓の可視光線透過性を変化させる調光装置を備え、
前記制御装置は、前記照度検出装置が検出した照度が高いほど、前記調光装置の可視光線透過率を低下させることを特徴とする、請求項7に記載の車両の視認窓。
【請求項9】
前記視認性調整装置は、当該視認窓に設けられて当該視認窓の可視光線透過性を変化させる調光装置を備え、
前記制御装置は、視認性の高い状態として前記調光装置の可視光線透過率を高める一方、視認性の低い状態として前記調光装置の可視光線透過率を低くする、請求項1〜請求項6のいずれかの請求項に記載の車両の視認窓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−201343(P2011−201343A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68251(P2010−68251)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】