説明

車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムおよび車両の駆動装置用油圧ポンプ装置の制御方法

【課題】車両のエンジンの回転速度にかかわらず、油圧ポンプからの十分な油圧の吐出量を確保できる車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムおよび車両の駆動装置用油圧ポンプ装置の制御方法の提供。
【解決手段】エンジン3の駆動力が入力されるトロコイドポンプ11はポンプボディ内に収容されるインナロータを有し、エンジン3の回転速度に応じて変速装置本体2に油圧を供給する。電動モータ14により作動されるベーンポンプ13は、ポンプボディ内に収容されるベーンポンプロータを有し、トロコイドポンプ11と共用する吸入口112を介して作動油を吸入した後、変速装置本体2に油圧を供給する。エンジン3の回転速度が切換点よりも低い場合、トロコイドポンプ11とともにベーンポンプ13が駆動され、エンジン3の回転速度が切換点を超えた場合、ベーンポンプ13を停止してトロコイドポンプ11のみが駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動装置に油圧を供給する車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムおよび車両の駆動装置用油圧ポンプ装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンの駆動力を車輪に伝達する駆動装置において、変速機構のクラッチあるいはブレーキ等を作動させるために、必要な油圧を供給する油圧ポンプ制御システムには従来より様々なものがあった。このシステムに使用される油圧ポンプは通常の場合、車両のエンジンにより駆動されており、エンジンの回転速度に応じて作動している。このため、図6において二点鎖線にて示すように、車両の走行中のようなエンジンの回転速度が比較的高い場合には、油圧ポンプは十分な油圧の吐出量を確保することができるが、例えば、車両の停止時のようなエンジンの回転速度が低い場合には、油圧ポンプからの吐出量が駆動装置が必要とする量に対して不足気味となる。したがって、車両が停止状態から発進する場合等に、駆動装置の作動応答性が悪化するという問題があった。
【0003】
これに対して、油圧ポンプをエンジンが低回転速度で駆動している場合にも、駆動装置が必要とする十分な吐出量を確保できる仕様のものにすることが行われていたが、このようにした場合、図6において破線にて示すように、エンジンが高回転速度にある場合においては、油圧ポンプからの大量の吐出油が過剰なものとして排出されることになり、車両の走行経済上好ましくなかった。また、この場合は油圧ポンプ自体も容量の大きなものを使用する必要があり、油圧ポンプの高コスト化を招くとともに車両への搭載性を困難にしていた。
【0004】
こういった課題に対して、エンジンが低回転速度にある場合に、油圧ポンプを電動モータにより駆動する油圧ポンプ制御システムに関する従来技術があった(例えば、特許文献1参照)。これは、単一の油圧ポンプをエンジンの回転速度に応じてエンジンと電動モータとに選択的に接続するもので、エンジンが高回転速度にある場合には油圧ポンプをエンジンにより駆動し、エンジンが低回転速度にある場合には、油圧ポンプとエンジンとの接続を切り離し電動モータにより油圧ポンプを駆動する。こうすることにより、エンジンの回転速度にかかわらず駆動装置の必要とする油圧の吐出量を確保可能なものであった。
【特許文献1】特開2002―227978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術においては、エンジンの回転速度に応じて、油圧ポンプとエンジンおよび電動モータとの間の接続を切換えるためのクラッチ機構等を必要とし、装置の構造が複雑化するとともに装置全体が大型化し、油圧ポンプ制御システムのコストおよび車両への搭載性において課題を残していた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両のエンジンの回転速度にかかわらず、油圧ポンプからの十分な油圧の吐出量を確保できる車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムおよび車両の駆動装置用油圧ポンプ装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムは、エンジンの駆動力により作動するメカ油圧ポンプと、電動モータにより駆動される電動油圧ポンプとを備え、エンジンが回転速度の所定の切換点よりも低速度で回転している場合には、エンジンにより駆動されるメカ油圧ポンプとともに電動油圧ポンプを作動させ、エンジンの回転速度が上昇し切換点を越えた場合には、電動油圧ポンプを停止させる。
【0008】
これにより、エンジンが切換点よりも低回転速度にある場合にも、メカ油圧ポンプと電動油圧ポンプとの双方の作動により、駆動装置に対して十分な油圧の吐出量を確保することができ、油圧ポンプを大型のものにしたり、電動モータを高回転可能なものにする必要もないため、低コストかつ車両への搭載の容易な油圧ポンプ制御システムにすることができる。また、エンジンが切換点よりも高回転速度にある場合には、メカ油圧ポンプのみが作動して駆動装置に適性な油圧を供給できるため、過剰な油圧を排出する必要がなく経済的な油圧ポンプ制御システムにすることができる。また、油圧ポンプをエンジンおよび電動モータに対して選択的に接続するためのクラッチ機構等を必要とせず、簡素な構造にすることが可能となり、さらにコストメリットが大きく車両への搭載性のよい油圧ポンプ制御システムにすることができる。
【0009】
また、本発明による車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムは、エンジンが停止された場合にも、電動油圧ポンプを作動させる。これにより、交差点において車両の停車時にエンジンを停止させる(アイドリングストップ)場合でも、油圧ポンプが継続して油圧を発生しているため、車両の再発進時における駆動装置に発生する作動遅れを低減することができる。
【0010】
また、本発明による車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムは、メカ油圧ポンプと電動油圧ポンプが、車両に取り付けられる以前の工程において互いに一体に組み立てられているため、車両への搭載性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明による車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムは、メカ油圧ポンプはエンジンの駆動力が入力されるスプロケットに取り付けられた入力軸と、入力軸に連結された第1ロータを有し、第1ロータは入力軸が貫通したハウジング内に収容され、ハウジングと第1ロータの外周面との間には複数の第1ポンプ容室が形成され、ハウジングには、第1ポンプ容室のうちのいずれかをオイル源と接続するための吸入口が第1ロータの半径方向外方に位置するように形成され、第1ロータが回転することにより、吸入口を介してオイル源から第1ポンプ容室内に作動油を吸入するとともに、他の第1ポンプ容室から駆動装置へ油圧を吐出している。
【0012】
一方、電動モータはハウジングに取り付けられるとともに、ハウジングを貫通してメカ油圧ポンプの入力軸と平行な方向に延びた出力軸を有し、電動油圧ポンプは出力軸に固着されるとともにハウジング内に収容された第2ロータを有し、第2ロータの外周面とハウジングとの間には複数の第2ポンプ容室が形成され、ハウジングの吸入口は第2ポンプ容室のいずれかに連通しており、第2ロータが回転することにより、吸入口を介してオイル源から第2ポンプ容室内に作動油を吸入するとともに、他の第2ポンプ容室から駆動装置へ油圧を吐出する。
【0013】
これにより、メカ油圧ポンプと電動油圧ポンプとを一体化でき、油圧ポンプ全体のコンパクト化が可能で、車両への取付部品数を低減できるとともに搭載作業が容易となる。また、メカ油圧ポンプと電動油圧ポンプとで吸入口を共用しているため、いっそうコンパクトで油圧経路の構成が簡単な油圧ポンプにすることができる。
【0014】
また、本発明による車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムは、第2ポンプ容室と駆動装置との間の油路中には、電動油圧ポンプの停止時に、駆動装置側から第2ポンプ容室への油圧の流れを防ぐ逆止弁が形成されている。
【0015】
これにより、エンジンが切換点よりも高回転速度にある場合に電動油圧ポンプの作動を停止しても、メカ油圧ポンプにより発生された油圧が第2ポンプ容室へ流入することがなく、第2ロータを介して電動モータが回転されることによる耐久性の低下を防ぐことができる。
【0016】
また、本発明による車両の駆動装置用油圧ポンプ装置の制御方法は、エンジンが回転速度の所定の切換点よりも低速度で回転している場合には、メカ油圧ポンプをエンジンにより駆動することに加えて電動油圧ポンプを作動させる低回転時制御工程と、エンジンの回転速度が上昇し切換点を越えた場合には、電動油圧ポンプを停止させる高回転時制御工程とを備えている。
【0017】
これにより、エンジンが切換点よりも低回転速度にある場合にも、メカ油圧ポンプと電動油圧ポンプとの双方の作動により、駆動装置に対して十分な油圧の吐出量を確保することができ、油圧ポンプを大型のものにしたり、電動モータを高回転可能なものにする必要もないため、低コストかつ車両への搭載の容易な油圧ポンプ装置にすることができる。また、油圧ポンプをエンジンおよび電動モータに対して選択的に接続するためのクラッチ等を必要とせず、簡素な構造にすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1乃至図5に基づき、本発明の一実施形態による車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムについて説明する。油圧ポンプ装置1はトロコイドポンプ11(本発明のメカ油圧ポンプに該当する)とベーンポンプ13(本発明の電動油圧ポンプに該当する)とを備えており、これらにより発生させた油圧を、変速装置本体2(本発明の駆動装置に該当する)の図示しないクラッチあるいはブレーキ等を作動させるために供給している。
【0019】
図1に示すように、トロコイドポンプ11のスプロケット111(本発明のスプロケットに該当する)は、車両のエンジン3(本発明のエンジンに該当する)の図示しないクランクシャフトとドライブチェーン4により連結されている。これにより、トロコイドポンプ11はエンジン3の駆動力が入力されてエンジン3の回転速度に応じて作動し油圧を発生させる。トロコイドポンプ11の吸入口112(本発明の吸入口に該当する)は油圧ポンプ装置1のオイル源としてのオイルパン5に接続され、また、トロコイドポンプ吐出口113は変速装置本体2のバルブボディ(図示せず)へと接続されている。トロコイドポンプ11はオイルパン5から作動油を吸入するとともに、油圧を変速装置本体2へと吐出する。
【0020】
一方、ベーンポンプ13はベーンポンプ本体15が電動モータ14により駆動され油圧を発生させる。ベーンポンプ本体15も吸入口112をトロコイドポンプ11と共用してオイルパン5に接続され、また、ベーンポンプ吐出口151は変速装置本体2のバルブボディへと接続されている。ベーンポンプ13もトロコイドポンプ11と同様に、オイルパン5の作動油を吸入するとともに、油圧を変速装置本体2へ向けて吐出する。また、ベーンポンプ吐出口151と変速装置本体2とを接続する油路中には、ベーンポンプ吐出口151から変速装置本体2側への作動油の流れを許容し、変速装置本体2側からベーンポンプ吐出口151への作動油の流れを防止する逆止弁6が設けられている。
【0021】
車両のエンジン3には、その回転速度(単位時間あたりの回転数)を検出する回転速度センサ7(本発明のエンジン回転速度検出手段に該当する)が取り付けられている。回転速度センサ7からの検出信号はコントローラ8(本発明の油圧ポンプ制御手段に該当する)に入力されており、コントローラ8は回転速度センサ7により検出されたエンジン3の回転速度に基づき、ベーンポンプ13の作動を制御する駆動信号を電動モータ14のドライバ(図示せず)に送信している。
【0022】
次に、図2乃至図4に基づき、油圧ポンプ装置1の構成を詳述する。尚、図2は、トロコイドポンプ11の断面については、その円周上の吸入口112とトロコイドポンプ吐出口113の位置において切断し、ベーンポンプ本体15の断面については、その円周上の吸入口112とベーンポンプ吐出口151の位置において切断した断面図である。図2に示したように、油圧ポンプ装置1の第1ポンプカバー114には、スプロケット111がベアリング115を介して回転可能に取り付けられている。上述したように、スプロケット111にはドライブチェーン4が噛合しており、ドライブチェーン4にはエンジン3のクランクシャフトの駆動力が入力される。
【0023】
スプロケット111の内周側にはトロコイドポンプ11の入力軸116(本発明の入力軸に該当する)の右端部が固定されており、入力軸116は第1ポンプカバー114を回転可能に貫通している。図2において、第1ポンプカバー114の左方にはポンプボディ117が接続されている。ポンプボディ117は、その右端面を第1ポンプカバー114の左端面に当接させた状態で、第1ポンプカバー114に貫通させた複数本の取付ボルト118を締め付けることにより第1ポンプカバー114に接合されている。第1ポンプカバー114を貫通した入力軸116の左端部は、ポンプボディ117に回転可能に支持されている。
【0024】
ポンプボディ117は第1ポンプカバー114と接合されることにより、その内部にロータ凹部119が形成されている。ロータ凹部119内には、アウタロータ120が軸方向(図2において左右方向)に移動不能で、かつ入力軸116に対して図2において上方へ偏心した位置を中心に回転可能に設けられている。
【0025】
アウタロータ120の内周側には、入力軸116に固着されたインナロータ121(本発明の第1ロータに該当する)が回転可能に配置されている。アウタロータ120の内周面には複数の内歯120aが形成されている。一方、インナロータ121の外周面にはアウタロータ120の内歯よりも1歯少ない外歯121aが形成されている。アウタロータ120とインナロータ121のそれぞれの回転中心は互いに偏心しているため、アウタロータ120の内歯120aのうちのいくつかはインナロータ121の外歯121aと噛合しており、残りの内歯120aと外歯121aとの間には複数のトロコイドポンプ室122(本発明の第1ポンプ容室に該当する)が形成されている(図3示)。
【0026】
図3に示すように、第1ポンプカバー114にはトロコイドポンプ室122のいくつかと連通するトロコイドポンプ吸入路123が形成され、これはポンプボディ117内部を通って、インナロータ121に対して半径方向外方に位置するように形成された吸入口112(上述)と連通している。また、第1ポンプカバー114にはその他のトロコイドポンプ室122と連通するトロコイドポンプ吐出路124が形成され、これもポンプボディ117内部を通って、インナロータ121に対して半径方向外方に位置するように形成されたトロコイドポンプ吐出口113(上述)と連通している。
【0027】
エンジン3の駆動力がドライブチェーン4を介してスプロケット111に入力されることにより入力軸116が駆動されると、インナロータ121が入力軸116とともに回転する。インナロータ121が回転することによりこれと噛合したアウタロータ120も回転し、内歯120aと外歯121aとの間においてトロコイドポンプ室122の容積が拡大と縮小を繰り返す。容積が増大するトロコイドポンプ室122は、吸入口112を介してオイルパン5から作動油をトロコイドポンプ室122内へ吸入した後、トロコイドポンプ室122の容積が縮小へと転じることにより作動油を昇圧させ、トロコイドポンプ吐出口113を介して圧油を変速装置本体2のバルブボディへと吐出する。
【0028】
一方、図2において、ポンプボディ115の左方には、第2ポンプカバー152および電動モータ14が接続されている。ポンプボディ115の左端面に第2ポンプカバー152の右端面を当接させ、さらに第2ポンプカバー152の左端面に電動モータ14のフランジ141を当接させた状態で、電動モータ14および第2ポンプカバー152に貫通させた複数本の取付ボルト142をポンプボディ117に締め付けることにより、電動モータ14および第2ポンプカバー152はポンプボディ117に接合されている。電動モータ14のアウトプットシャフト143(本発明の電動モータの出力軸に該当する)は第2ポンプカバー152を回転可能に貫通するとともに、その右端部がポンプボディ117に回転可能に支持されている。アウトプットシャフト143は、ポンプボディ117内において上述した入力軸116と平行な方向に延びている。
【0029】
電動モータ14のアウトプットシャフト143にはベーンポンプロータ153(本発明の第2ロータに該当する)が固着され、ベーンポンプロータ153はポンプボディ117内に回転可能に収容されている。ベーンポンプロータ153の外周面には、放射状に延びる複数の溝部153aが均等間隔に形成されており、各々の溝部153a内には平板状のベーン154が移動可能に設けられている(図4示)。
【0030】
また、ポンプボディ117は第2ポンプカバー152と接合されることにより、その内部にリング収容部155が形成されており、リング収容部155内には、支持プレート156およびカムリング157が軸方向(図2において左右方向)に並べられて収容されている。したがって、支持プレート156およびカムリング157は、ポンプボディ117と第2ポンプカバー152の押え部152aとの間で移動不能なように挟持されている。カムリング157はベーンポンプロータ153に対して半径方向外方に位置しており、その内周面は、図4において左右径が上下径よりも大きい楕円形状を呈するカム面157aに形成されている。
【0031】
したがって、ベーンポンプロータ153の外周面153bとカムリング157のカム面157aとの間には、互いに、ベーン154により仕切られた複数のベーンポンプ室158(本発明の第2ポンプ容室に該当する)が形成されており、図4に示すように、ベーンポンプロータ153の外周面153bの3時および9時位置(図4における左右位置)に形成されたベーンポンプ室158の容積が最大となり、6時および12時位置(図4における上下位置)に近づくにつれて、ベーンポンプ室158の容積は徐々に容積は減少していく。尚、上述したポンプボディ117、第1ポンプカバー114、第2ポンプカバー152、アウタロータ120およびカムリング157を包括したものが、本発明のハウジングに該当する。
【0032】
図2に示すように、ポンプボディ117には、ベーンポンプロータ153の半径方向外方に位置するように上述のベーンポンプ吐出口151が形成されている。ベーンポンプ吐出口151は支持プレート156に形成された図示しない吐出ポートを介して、ベーンポンプ室158のいずれかに連通している。また、ポンプボディ117に形成された吸入口112(上述)は、第2ポンプカバー152の押え部152aに形成された図示しない吸入ポートを介して、その他のベーンポンプ室158に連通している。
【0033】
電動モータ14によりアウトプットシャフト143が駆動されるとベーンポンプロータ153がカムリング157に対して回転し、その遠心力によりすべてのベーン154が溝部153a内を半径方向外方に移動する。したがって、ベーン154により互いに仕切られたベーンポンプ室158は、ベーンポンプロータ153の回転によりその容積が拡大と縮小を繰り返す。容積が増大するベーンポンプ室158は、吸入口112を介してオイルパン5から作動油をベーンポンプ室158内へ吸入した後、ベーンポンプ室158の容積が縮小へと転じることにより作動油を昇圧させ、ベーンポンプ吐出口151を介して圧油を変速装置本体2のバルブボディへと吐出する。
【0034】
上述したトロコイドポンプ11とベーンポンプ13とは、車両に取り付けられる以前の工程において、既に互いに一体に組み立てられ、図2に示したような状態にされている。
【0035】
次に、図5に基づき、本実施形態による車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムの制御方法について説明する。車両のエンジン3が始動されると、エンジン3の駆動力が入力されたトロコイドポンプ11が作動し、吸入口112を介してオイルパン5から作動油を吸入する。吸入された作動油はトロコイドポンプ室122内において昇圧され、トロコイドポンプ吐出口113を介して変速装置本体2のバルブボディへと供給される。トロコイドポンプ11はエンジン3の回転速度に応じた速度で駆動され、その回転速度に対応した量の油圧を吐出する(図5において、エンジン3の低回転速度時のトロコイドポンプ11の油圧の吐出量は二点鎖線にて示し、高回転速度時のトロコイドポンプ11の油圧の吐出量は実線にて示す)。
【0036】
一方、コントローラ8は、回転速度センサ7によって検出されたエンジン3の回転速度に基づき、エンジン3の回転速度が所定の切換点CP(図5示)よりも低い場合には、電動モータ14のドライバに駆動信号を送信してベーンポンプ13を作動させ、吸入口112を介してオイルパン5から作動油を吸入する。吸入された作動油はベーンポンプ室158内において昇圧され、ベーンポンプ吐出口151を介して変速装置本体2のバルブボディへと供給される(図5において実線にて示す)。この時、逆止弁6は開弁され、変速装置本体2への油圧の供給が許容されている。したがって、エンジン3が切換点CPよりも低回転速度で作動している時には、エンジン3により駆動されるトロコイドポンプ11とともにベーンポンプ13が作動し(低回転時制御工程)、トロコイドポンプ11が単独で作動している場合(図5において、二点鎖線にて示す)に比べて、その吐出量を一定量だけ増大させることができる(図5において、EXにて示す)。
【0037】
また、車両が信号等により停止した時、回転速度センサ7によりエンジン3の停止が検出され、かつ図示しない車両ドアスイッチあるいはシート着座スイッチ等により運転者が車両から降車していないことが検出された場合(アイドリングストップ)にも、コントローラ8は電動モータ14を駆動してベーンポンプ13を作動させる。このように、トロコイドポンプ11が非作動の時にベーンポンプ13のみを作動させた場合、ベーンポンプ13からの油圧がトロコイドポンプ室122内に流入するが、スプロケット111およびドライブチェーン4により、インナロータ121と接続されたエンジン3の抵抗が大きいため、トロコイドポンプ吐出口113と変速装置本体2とを接続する油路中に逆止弁6がなくてもインナロータ121が回転されることはない。
【0038】
エンジン3の回転速度が上昇して、回転速度センサ7が切換点CPを越えたことを検出した場合には、コントローラ8が電動モータ14のドライバへの駆動信号の送信を取りやめてベーンポンプ13を停止させる(図5において、SPにて示す)。これ以降、エンジン3の回転速度がさらに増大した場合、ベーンポンプ13は作動せずにトロコイドポンプ11のみが作動して、変速装置本体2へ油圧を供給する(高回転時制御工程)。ここで、ベーンポンプ13の停止時には、ベーンポンプ吐出口151と変速装置本体2との間の油路中に設けられた逆止弁6により、トロコイドポンプ11が発生した油圧がベーンポンプ室158へ流入することが妨げられるため、トロコイドポンプ11からの逆圧を受けて電動モータ14が回転されることがない。
【0039】
本実施形態によれば、エンジン3の駆動力により作動するトロコイドポンプ11と、電動モータ14により駆動されるベーンポンプ13とを備え、エンジン3が回転速度の切換点CPよりも低速度で回転している場合には、エンジン3により駆動されるトロコイドポンプポンプ11とともにベーンポンプ13を作動させ、エンジン3の回転速度が上昇し切換点CPを越えた場合には、ベーンポンプ13を停止させる。
【0040】
これにより、図5において実線にて示すように、エンジン3が切換点CPよりも低回転速度にある場合にも、トロコイドポンプ11とベーンポンプ13との双方の作動により、変速装置本体2に対して十分な油圧の吐出量を確保することができ、油圧ポンプ装置1を大型のものにしたり、電動モータ14を高回転可能なものにする必要もないため、低コストかつ車両への搭載の容易な油圧ポンプ装置1にすることができる。
【0041】
また、エンジン3が切換点CPよりも高回転速度にある場合には、トロコイドポンプ11のみが作動して変速装置本体2に適性な油圧を供給できるため、図5において破線にて示す従来技術のように油圧が過剰となることがなく、余分な油圧を排出する必要もなく経済的な油圧ポンプ装置1にすることができる。
また、油圧ポンプ装置1をエンジン3および電動モータ14に対して選択的に接続するためのクラッチ機構等を必要とせず、簡素な構造にすることが可能となり、さらにコストメリットが大きく車両への搭載性のよい油圧ポンプ装置1にすることができる。
【0042】
また、エンジン3が切換点CPよりも低回転速度にある場合には、エンジン3により駆動されるトロコイドポンプ11の作動に加えて、電動モータ14により駆動されるベーンポンプ13を作動させるため、電動モータ14を駆動する電流を変化させる等することにより、ベーンポンプ13の油圧の吐出量(図5において、EXにて示す)を変更させて、エンジン3の低回転速度時における油圧ポンプ装置1の吐出量の特性を容易に変化させることができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、車両停止時にエンジン3が停止された場合にも、ベーンポンプ13を作動させる。これにより、交差点等においてアイドリングストップする場合でも、油圧ポンプ装置1が継続して油圧を発生しているため、車両の再発進時に変速装置本体2に発生する作動遅れを低減することができる。
【0044】
すなわち、上述したような変速装置本体2においては、従来から油圧を使った駆動力の伝達であったために、常に若干の作動遅れが存在していた。ところが、通常(電動油圧ポンプがない車両において)、アイドリングストップの場合、エンジンにより駆動される油圧ポンプが停止して変速装置本体2へ供給される油圧が全くなくなり、運転者がアクセルを踏み込んで発進しようとした時になって、エンジンが再始動して油圧ポンプの駆動を再び開始する。このため、油圧ポンプの始動による油圧の立ち上がり時間をさらに必要とし、作動遅れの時間が一層増大する。これは、運転者の意識と車両の動きとが連動しないために、その置かれた運転環境によっては運転者に多大なストレスを与えていた。
本実施形態によれば、エンジン3の停止時においても電動モータ14によりベーンポンプ本体15が駆動されているため、上述したような油圧の立ち上がり時間に起因した作動遅れを大幅に低減できるわけである。
また、本実施形態によれば、トロコイドポンプ11とベーンポンプ13が、車両に取り付けられる以前の工程において互いに一体に組み立てられているため、車両への搭載性を向上させることができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、トロコイドポンプ13がエンジン3の駆動力が入力されるスプロケット111に取り付けられた入力軸116と、これに連結されるとともにポンプボデイ117内に収容されたインナロータ121を有し、アウタロータ120とインナロータ121の外周面との間には複数のトロコイドポンプ室122が形成され、第1ポンプカバー114には、トロコイドポンプ室122のうちのいずれかをオイルパン5と接続するための吸入口112と、他のトロコイドポンプ室122を変速装置本体2に接続するためのトロコイドポンプ吐出口113とがインナロータ121の半径方向外方に位置するように形成され、インナロータ121が回転することにより、吸入口112を介してオイルパン5からトロコイドポンプ室122内に作動油を吸入するとともに、トロコイドポンプ吐出口113を介して変速装置本体2へ油圧を吐出している。
【0046】
一方、ベーンポンプ13の電動モータ14は第2ポンプカバー152に取り付けられるとともに、第2ポンプカバー152を貫通してトロコイドポンプ11の入力軸116と平行な方向に延びたアウトプットシャフト143を有し、ベーンポンプ13はアウトプットシャフト143に固着されるとともにカムリング157内に収容されたベーンポンプロータ153を有し、ベーンポンプロータ153の外周面153bとカムリング157との間には複数のベーンポンプ室158が形成され、ポンプボディ117および第2ポンプカバー152にはベーンポンプ室158のいずれかを変速装置本体2に接続するためのベーンポンプ吐出口151がベーンポンプロータ121の半径方向外方に位置するように形成されるとともに、ポンプボディ117の吸入口112は他のベーンポンプ室158にも連通しており、ベーンポンプロータ153が回転することにより、吸入口112を介してオイルパン5からベーンポンプ室158内に作動油を吸入するとともに、ベーンポンプ吐出口151を介して変速装置本体2へ油圧を吐出する。
【0047】
これにより、トロコイドポンプ11とベーンポンプ13とを一体化でき、油圧ポンプ装置1全体のコンパクト化が可能で、車両への取付部品数を低減できるとともに搭載作業が容易となる。また、トロコイドポンプ11とベーンポンプ13とで吸入口112を共用しているため、いっそうコンパクトで油圧経路の構成が簡単な油圧ポンプ装置1にすることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、ベーンポンプ吐出口151と変速装置本体2との間の油路中に、ベーンポンプ13の停止時に変速装置本体2側からベーンポンプ室158への油圧の流れを防ぐ逆止弁6が形成されている。
これにより、エンジン3が切換点CPよりも高回転速度にある場合にベーンポンプ13の作動を停止しても、トロコイドポンプ11により発生された油圧がベーンポンプ吐出口151を介してベーンポンプ室158へ流入することがなく、ベーンポンプロータ153を介して電動モータ14が回転されることによる破損等を防ぐことができる。
【0049】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
エンジン3により作動される油圧ポンプは、トロコイドポンプ11に限られるものではなく、ベーンポンプあるいはその他のタイプの油圧ポンプであってもよい。
また、電動モータ14により作動される油圧ポンプは、ベーンポンプ13に限られるものではなく、トロコイドポンプあるいはその他のタイプの油圧ポンプであってもよい。
本発明による車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムは、多段式自動変速装置のみでなく無段式自動変速装置にも適用可能である。
【0050】
トロコイドポンプ吐出口113とベーンポンプ吐出口151を共用化してポンプボディ117中に単一のものを設け、これをトロコイドポンプ室122およびベーンポンプ室158と各々連通させてもよい。この場合、トロコイドポンプ室122と吐出口との間の油路と、ベーンポンプ室158と吐出口との間の油路とがポンプボディ117中において合流し、逆止弁6は油路中の当該合流点とベーンポンプ室158との間に形成する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態による車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムの全体図
【図2】図1に示した油圧ポンプ装置の軸方向断面図
【図3】図1に示した油圧ポンプ装置のトロコイドポンプを軸方向に垂直に切断した場合の断面図
【図4】図1に示した油圧ポンプ装置のベーンポンプを軸方向に垂直に切断した場合の断面図
【図5】図1の車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システムの油圧吐出量の特性を、従来技術による油圧ポンプの油圧吐出量の特性とともに表したグラフを示した図
【図6】従来技術による油圧ポンプの油圧吐出量の特性を、油圧ポンプが通常の仕様の場合は二点鎖線にて、油圧ポンプが大型の仕様の場合には破線にて表したグラフを示した図
【符号の説明】
【0052】
図面中、1は油圧ポンプ装置、2は変速装置本体(駆動装置)、3はエンジン、5はオイルパン(オイル源)、6は逆止弁、7は回転速度センサ(エンジン回転速度検出手段)、8はコントローラ(油圧ポンプ制御手段)、11はトロコイドポンプ(メカ油圧ポンプ)、13はベーンポンプ(電動油圧ポンプ)、14は電動モータ、111はスプロケット、112は吸入口、114は第1ポンプカバー(ハウジング)、116は入力軸、117はポンプボディ(ハウジング)、120はアウタロータ(ハウジング)、121はインナロータ(第1ロータ)、122はトロコイドポンプ室(第1ポンプ容室)、143はアウトプットシャフト(出力軸)、152は第2ポンプカバー(ハウジング)、153はベーンポンプロータ(第2ロータ)、153bはベーンポンプロータの外周面、157はカムリング(ハウジング)、158はベーンポンプ室(第2ポンプ容室)を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力が入力されて該エンジンの回転速度に応じて作動し、車両の駆動装置に供給する油圧を発生させるメカ油圧ポンプと、
電動モータにより駆動され、前記駆動装置に供給する油圧を発生させる電動油圧ポンプと、
前記エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段と、
該エンジン回転速度検出手段により検出された前記エンジンの回転速度に基づき、前記電動油圧ポンプの作動を制御する油圧ポンプ制御手段とを備え、
前記油圧ポンプ制御手段は、前記エンジンが回転速度の所定の切換点よりも低速度で回転している場合には、前記エンジンにより駆動される前記メカ油圧ポンプとともに前記電動油圧ポンプを作動させ、前記エンジンの回転速度が上昇し前記切換点を越えた場合には、前記電動油圧ポンプを停止させることを特徴とする車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システム。
【請求項2】
前記油圧ポンプ制御手段は、前記エンジン回転速度検出手段により前記エンジンの停止が検出された場合にも、前記電動油圧ポンプを作動させることを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システム。
【請求項3】
前記メカ油圧ポンプと前記電動油圧ポンプは、車両に取り付けられる以前の工程において互いに一体に組み立てられていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システム。
【請求項4】
前記メカ油圧ポンプは前記エンジンの駆動力が入力されるスプロケットに取り付けられた入力軸と、該入力軸に連結された第1ロータを有し、該第1ロータは前記入力軸が貫通したハウジング内に収容され、該ハウジングと前記第1ロータの外周面との間には複数の第1ポンプ容室が形成され、前記ハウジングには、前記第1ポンプ容室のうちのいずれかをオイル源と接続するための吸入口が前記第1ロータの半径方向外方に位置するように形成され、前記第1ロータが回転することにより、前記吸入口を介して前記オイル源から前記第1ポンプ容室内に作動油を吸入するとともに、他の前記第1ポンプ容室から前記駆動装置へ油圧を吐出し、
前記電動モータは前記ハウジングに取り付けられるとともに、前記ハウジングを貫通して前記メカ油圧ポンプの前記入力軸と平行な方向に延びた出力軸を有し、前記電動油圧ポンプは前記出力軸に固着されるとともに前記ハウジング内に収容された第2ロータを有し、前記第2ロータの外周面と前記ハウジングとの間には複数の第2ポンプ容室が形成され、前記ハウジングの前記吸入口は前記第2ポンプ容室のいずれかに連通しており、前記第2ロータが回転することにより、前記吸入口を介して前記オイル源から前記第2ポンプ容室内に作動油を吸入するとともに、他の前記第2ポンプ容室から前記駆動装置へ油圧を吐出することを特徴とする請求項3に記載の車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システム。
【請求項5】
前記第2ポンプ容室と前記駆動装置との間の油路中には、前記電動油圧ポンプの停止時に、前記駆動装置側から前記第2ポンプ容室への油圧の流れを防ぐ逆止弁が形成されたことを特徴とする請求項4に記載の車両の駆動装置用油圧ポンプ制御システム。
【請求項6】
エンジンの駆動力が入力されて該エンジンの回転速度に応じて作動し、車両の駆動装置に供給する油圧を発生させるメカ油圧ポンプと、電動モータにより駆動され、前記駆動装置に供給する油圧を発生させる電動油圧ポンプとを備えた車両の駆動装置用油圧ポンプ装置の制御方法であって、
前記エンジンが回転速度の所定の切換点よりも低速度で回転している場合には、前記メカ油圧ポンプを前記エンジンにより駆動することに加えて前記電動油圧ポンプを作動させる低回転時制御工程と、前記エンジンの回転速度が上昇し前記切換点を越えた場合には、前記電動油圧ポンプを停止させる高回転時制御工程とを備えたことを特徴とする車両の駆動装置用油圧ポンプ装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−243482(P2009−243482A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87294(P2008−87294)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000100827)アイシン機工株式会社 (122)
【Fターム(参考)】