説明

車両前部構造

【課題】空気導入口からの導入空気を冷却ユニットに効果的に案内することができ、異物の排出も可能な車両前部構造を得る。
【解決手段】ロアアブソーバー32の上板34に排出口46が形成され、ヒンジ50によって回転可能に取り付けられた開閉板48で開閉可能とされる。ロアアブソーバー32の下方にはエンジンアンダーカバー44が設けられており、車両走行中におけるロアアブソーバー32の上板34の上方での導入空気の流速V2と、ロアアブソーバー32の上板34の下方での導入空気の流速V3との流速差(V2−V3)により、開閉板48が上方に回転して排出口46を閉塞する。流速差が小さいときは開閉板48は自重で下がり排出口46を開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関し、さらに詳しくは、車両前部に冷却ユニットが配置された車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前部構造においては、エンジン冷却水を冷却するためのラジエーターに、車両走行中の空気流を効果的に当てることが望まれる。たとえば特許文献1には、壁部及び衝撃吸収部を有するエア案内部材を設け、このエア案内部材により、車体前方から流入するエアをラジエーターへ案内するようにした車体前部構造が記載されている。
【0003】
ところで、特許文献1に記載のようなエア案内部材の上には、車両前方の空気導入口等から入った異物(小石等)が溜まることがある。このような異物を排出するためには、たとえば、エア案内部材に排出口を形成することが考えられるが、排出口から空気が逃げてしまうと、空気をラジエーター等を含む冷却ユニットに効果的に導くことができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−249816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、空気を冷却ユニットに効果的に案内することができ、異物の排出も可能な車両前部構造を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、車両前方側の空気導入口よりも車両後方側に設けられ、空冷式熱交換器を含んで構成された冷却ユニットと、前記空気導入口の下端側で空気導入口から前記冷却ユニットまで板状に延在され、空気導入口から導入された空気を前記冷却ユニットに案内する案内部材と、前記案内部材に形成され、案内部材上の異物を案内部材の下方に排出可能な排出口と、前記排出口を開放する開放位置と、該排出口を前記案内部材に沿って閉塞する閉塞位置との間で移動可能な弁部材と、車速があらかじめ設定された閾値車速を超えると前記弁部材を前記閉塞位置へと移動させ、閾値車速以下では弁部材を前記開放位置へ移動可能とする開閉手段と、を有する。
【0007】
この車両前部構造では、空気導入口から冷却ユニットまで案内部材が板状に延在され、さらに、案内部材には、弁部材によって開閉される排出口が形成されている。車速があらかじめ設定された閾値車速を超えると、開閉手段が弁部材を閉塞位置へと移動させる。閉塞位置では、弁部材は案内部材に沿って排出口を閉塞するので、空気導入口から導入された空気(以下、「導入空気」という)が排出口から逃げることを抑制でき、導入空気を冷却ユニットに効果的に案内できる。
【0008】
車速が閾値車速以下の場合には、開閉手段は、弁部材を開放位置へと移動可能とするので、排出口が開放されると、案内部材上に異物が溜まっていても、排出口を通じて異物を下方へ排出することができる。
【0009】
このように、本発明では、車速が閾値車速を超えると(たとえば車両走行中)、空気導入口から導入された導入空気を冷却ユニットに効果的に案内することができると共に、車速が閾値車速以下では(たとえば車両停止中)、排出口を通じて、案内部材上の異物を排出することが可能となる。
【0010】
なお、本発明における「冷却ユニット」には、エンジン冷却水を放熱により冷却するラジエーター等の空冷式熱交換器を含むが、さらに、たとえば、空冷式熱交換器の近傍に配置されるコンデンサやファンシェラウド、さらには、ラジエーター等の空冷式熱交換器等を支持するラジエーターサポートロア等も含む。すなわち、空気導入口から導入された空気を、案内部材によってこれらの部材に案内すれば、冷却ユニットに当たる風量も結果的に増えるので、案内部材を有さない構成と比較して、冷却ユニットから効果的に放熱させて冷却することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記空気導入口の下方に設けられ車両に作用した衝撃を吸収する衝撃吸収部材、を有し、前記衝撃吸収部材の一部が前記案内部材を兼ねている。
【0012】
このように、衝撃吸収部材の一部が案内部材を兼ねる構成とすることで、衝撃吸収部材と別に案内部材を設けた構成と比較して、部品点数を少なくできると共に、車両前部構造の軽量化、簡素化に寄与できる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記弁部材が、前記排出口の上側の空気の流速と排出口の下側の空気の流速との流速差が所定を超えると排出口の上下で生じた圧力差で上昇して排出口を閉塞し、該流速差が所定以下のときは自重で下方に移動して前記排出口を開放可能な開閉板であり、前記開閉手段が、少なくとも前記排出口の下方を覆うことで前記排出口の下側の空間を閉じるカバー部材である。
【0014】
カバー部材は、排出口の下方を覆って排出口の下側の空間を閉じており、車速が閾値車速を超えると、排出口の下側の空気の流速が、排出口の上側の空気の流速よりも低くなる。この流速差が所定を超えると、開閉板は、排出口の上下で生じた圧力差で上昇し排出口を閉塞する。すなわち、車速が閾値車速を超えた状態では(たとえば車両走行中)、排出口が開閉板によって閉塞される。これに対し、車速が閾値車速以下の場合(たとえば車両停止中)は、案内部材の上側と下側とで空気の流速差がゼロ(所定以下)なので、開閉板の自重によって下方へ移動可能となる。すなわち、開閉板が自重で下方に移動し、排出口を開放する。
【0015】
このように、開閉板とカバー部材を設けるだけの簡単な構造で、排出口の開閉を行うことができる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記案内部材の車幅方向両側において案内部材から立設され、車両走行時における案内部材の上側の空気の車幅方向外側への流出を抑制する壁部材、を有する。
【0017】
すなわち、車両走行時における案内部材の上側の空気が、車幅方向外側へ流出することを、壁部材によって抑制できる。このため、より効果的に冷却ユニットに導入空気を送ることが可能になる。
【0018】
また、車両走行中における案内部材の上側と下側との流速差をより大きくして、開閉板が排出口を閉塞している状態を安定的に維持することも可能になる。
【0019】
請求項5に記載の発明では、請求項3又は請求項4に記載の発明において、前記開閉板を前記案内部材に対し回転可能に支持する回転支持部材、を有する。
【0020】
このように、回転支持部材によって開閉板を案内部材に対し回転可能に支持する簡単な構造で、開閉板によって排出口を開閉する構成を実現できる。たとえば、開閉板が上下にスライドして排出口を開閉する構造等と比較すると、効率的且つ安定的に排出口を開閉できる。
【0021】
請求項6に記載の発明では、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記案内部材の上面の少なくとも一部が水平面に対し傾斜した傾斜面とされ、前記排出口が前記傾斜面の下部に形成されている。
【0022】
したがって、傾斜面上の異物は、自重で傾斜面の下部に移動する。排出口は傾斜面の下部に形成されているので、効率的に異物を排出口から排出することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は上記構成としたので、空気導入口からの導入空気を冷却ユニットに効果的に案内することができ、異物の排出も可能な車両前部構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の車両前部構造が適用された車両の外観形状を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態の車両前部構造を示す図1の2−2線断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の車両前部構造を拡大して示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態の車両前部構造を拡大して示す一部破断斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態の変形例の車両前部構造を拡大して示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の車両前部構造を拡大して示す一部破断斜視図である。
【図7】本発明の第3実施形態の車両前部構造を拡大して示す一部破断斜視図である。
【図8】本発明の第4実施形態の車両前部構造を拡大して示す一部破断斜視図である。
【図9】本発明の第5実施形態の車両前部構造を拡大して示す一部破断斜視図である。
【図10】(A)は本発明の第6実施形態の車両前部構造を拡大して示す一部破断斜視図であり、(B)は第6実施形態の車両前部構造をさらに拡大して示す図10(A)のB−B線断面図である。
【図11】本発明の第7実施形態の車両前部構造を拡大して示す断面図である。
【図12】本発明の第8実施形態の車両前部構造を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1には、本発明の第1実施形態の車両前部構造12が適用された車両10が示されている。また、図2には、この車両前部構造12が、図1における2−2線断面にて示されている。以下、図面において、車両10の前方を矢印FRで、車幅方向外側を矢印OUTで、上方を矢印UPでそれぞれ示す。
【0026】
図2にも示すように、車両10のフード14の下方は、図示しないエンジンや、後述する冷却ユニット28等が搭載されるエンジンルーム16とされている。また、車両10の前部(フード14の下方)のバンパカバー18には、空気導入口20が形成されている。本実施形態では特に、上下2つの空気導入口20A、20Bが形成されている例を挙げているが、空気導入口20は1つでもよい。さらに空気導入口20にはフロントグリル22が装着されている。フロントグリル22は、車両10の前部の外観形状を構成すると共に、空気導入口20からが異物が入ることを抑制している。
【0027】
上側の空気導入口20Aと下側の空気導入口20Bの間では、バンパカバー18の後方に、アッパーアブソーバー24及びリインフォースメント26が配置されている。空気導入口20の下方では、バンパカバー18が車両前方に向かって膨出されており、膨出部18Bが構成されている。
【0028】
車両10は、空気導入口20の後方に配置された冷却ユニット28を有している。冷却ユニット28は、車両走行中に空気導入口20から導入された走行風(以下、「導入空気」という)が当たることでエンジン冷却水の熱を逃がすためのラジエーター本体(空冷式熱交換器)を有しているが、さらに、この導入空気をラジエーター本体に導くためのファンシェラウドや、図示しないコンプレッサから送り込まれた冷媒を冷却して凝縮液化するためのコンデンサ等を含んで構成されている。さらに、ラジエーター本体、ファンシェラウド及びコンデンサ等は、ラジエーターサポートによって支持されて車体に取り付けられている(図2及び図3では、特にラジエーターサポートロア30のみ示している)。ラジエーターサポートロア30も、ラジエーター本体、ファンシェラウド及びコンデンサ等と同様に、本発明の冷却ユニット28を構成する部材の例である。
【0029】
図3にも詳細に示すように、下側の空気導入口20Bの下方には、バンパカバー18の後方(膨出部18Bの内側)から、ラジエーターサポートロア30の前方まで延在し、車幅方向には所定の幅(たとえば、冷却ユニット28と同程度の幅であることが好ましい)を有するロアアブソーバー32が配置されている。
【0030】
本実施形態のロアアブソーバー32は、板状に形成されて空気導入口20Bから冷却ユニット28まで延在する上板34と、この上板34の周囲から下方に延出された四角枠状の枠板36を備えている。さらに、枠板36の内側には、車幅方向に延在する複数(図3では3本)のリブ38が形成されている。ロアアブソーバー32は、車両前方から衝撃が作用すると変形し、この衝撃を吸収する作用を有している。
【0031】
ロアアブソーバー32の上板34は、本実施形態では略水平(路面に対し平行、水平面LS参照)とされ、本発明に係る案内部材40を兼ねている。すなわち、上板34は空気導入口20Bの下端側に配置されており、車両走行時に、空気導入口20Bから導入された走行風(導入空気)を、冷却ユニット28まで案内する作用を有している。
【0032】
図4に詳細に示すように、ロアアブソーバー32の上板34の車幅方向両側(図4では車幅方向右側のみ示しているが、車幅方向左側も対称の構造とされる)からは、側板42が立設されている。側板42は、上板34から隙間をあけることなく連続するように立設されている。そして、導入空気が車幅方向外側に逃げることを抑制し、冷却ユニット28まで効率的に導入空気を送る作用を有している。
【0033】
ロアアブソーバー32の下方には、バンパカバー18の下端部からラジエーターサポートロア30まで連続するエンジンアンダーカバー44が配置されている。エンジンアンダーカバー44は、ロアアブソーバー32(本質的には、後述する排出口46)の下方を覆っており、車両走行時には、ロアアブソーバー32の上板34の下側への走行風の侵入を抑制している。
【0034】
ここで、図3に示すように、車両外側(車両前方側及び車両下側)での空気の速さ(流速)をV1、ロアアブソーバー32の上板34の上方での導入空気の速さ(流速)をV2、ロアアブソーバー32の上板34の下方での導入空気の速さ(流速)をV3とする。車速があらかじめ設定された閾値車速を超えている状態(以下、この状態を「車両走行中」という)は、V1≒V2であり、上板34の上方での導入空気の速さをV2は、車両外側の空気流の流速V1と略同速度であるが、上板34の下側での空気流の流速は、この部分が上板34とエンジンアンダーカバー44とで囲まれた領域(閉空間)となっていることから、V3≒0となる。まとめると、V1≒V2>V3≒0の関係が成立している。
【0035】
ロアアブソーバー32の上板34には、上下方向に貫通する排出口46が形成されている。排出口46は、空気導入口20から入った小石等の異物が上板34の上に溜まった場合でも、この異物を下方に排出できる程度の大きさに形成されている。本実施形態では、上板34が略水平とされており、異物は、車両後方側へ移動する可能性が高いことを考慮して、上板34の後辺34Rの近傍に形成されている。また、排出口46の形状は特に限定されないが、本実施形態では、四角形状とされている。
【0036】
また、ロアアブソーバー32の上板34には、排出口46の前縁部分に設けられた回転支持部材であるヒンジ50によって、開閉板48が回転可能に取り付けられている。開閉板48は、排出口46に嵌まり込んで排出口46を閉塞するのに十分な形状とされており、図2及び図3に実線で示すように、排出口46を開放する開放位置と、図2及び図3に二点鎖線で示すように、排出口46を閉塞する閉塞位置と、の間を回転可能(移動可能)とされている。開閉板48は閉塞位置にあるとき、その上面が、上板34の上面に沿って略面一となる。
【0037】
上板34は、排出口46の上方と下方との圧力差が生じていない場合(あるいは、圧力差が所定以下の場合)には、図2及び図3に実線で示すように、ヒンジ50を中心として自重で下方へと回転し、排出口46を開放する。
【0038】
これに対し、車両走行時において、上記したように、上板34の上方の導入空気の流速V2と、ロアアブソーバー32の上板34の下方での空気の流速V3との間には、V2>V3の関係が成立する。そして、この流速差が所定を超えると、上板34(排出口46)の上方と下方とに生じた圧力差により、開閉板48は上方への力を受けるので、図2及び図3に二点鎖線で示すように、ヒンジ50を中心として上方へ回転し排出口46を閉塞する。なお、上板34又は開閉板48には図示しないストッパが設けられており、開閉板48が排出口46を閉塞した状態からさらに上方へ移動(回転)しないようになっている。したがって、開閉板48が閉塞位置にあるとき、上板34の上面と開閉板48の上面とが略面一になった状態が維持される。
【0039】
開閉板48の形状は、所定の剛性と有することで、排出口46を閉塞した状態を維持できればよく、本実施形態では、ロアアブソーバー32と同一の材質とされている。
【0040】
次に、本実施形態の車両前部構造12の作用を説明する。
【0041】
車両走行中において、ロアアブソーバー32の上板34の上方の導入空気の流速V2と、ロアアブソーバー32の上板34の下方での導入空気の流速V3との間には、上記したように、V2>V3の関係が成立している。この流速差(V2−V3)が所定を超えると、上板34(排出口46)の上方と下方との圧力差も所定を超える。このとき、図2及び図3に二点鎖線で示すように、開閉板48は上方への力を受け、ヒンジ50を中心として上方に回転することで排出口46を閉塞する。
【0042】
したがって、この状態では、上板34の上面は、排出口46が形成された部分も含めて実質的に面一、すなわち平面状になっており、空気導入口20から導入された導入空気は、排出口46から下方に流出しない。このため、排出口46が閉塞されていない構成と比較して、冷却ユニット28に効率的に導入空気を送ることができる。
【0043】
さらに、本実施形態の車両前部構造12では、図4に示したように、ロアアブソーバー32の上板34の車幅方向両側から側板42が立設されており、空気導入口20から導入された導入空気が、車幅方向外側へ流出することが抑制されている。このため、側板42を有さない構造の上板34(案内部材40)で導入空気を案内する構成と比較して、より確実に冷却ユニット28に導入空気を送ることが可能となる。また、上板34の上方での導入空気の流速V2も、側板42を有さない構造と比較してさらに速くなるので、車両速度が比較的低速の場合でも、上板34の上方と下方との上記圧力差を維持して、開閉板48が排出口46を閉塞した状態を確実に維持できるようになる。
【0044】
車速が上記の閾値車速以下の状態(これを「車両停止中」という。)では、ロアアブソーバー32の上板34の上方の導入空気の流速V2と、ロアアブソーバー32の上板34の下方での導入空気の流速V3とは、いずれもゼロになる(あるいはゼロに近くなる)ので、排出口46の上方と下方との圧力差もゼロになる。したがって、図2及び図3に実線で示すように、開閉板48はヒンジ50を中心として自重で下方へと回転し、排出口46を開放する。これにより、たとえば車両停止中に、空気導入口20から入り込んで上板34の上面に溜まっている小石等の異物を、排出口46から排出することが可能となる。
【0045】
特に、本実施形態では、ロアアブソーバー32の上板34の上面が略水平になっているので、車両走行中に、異物は上板34の後方に移動する可能性が高い。排出口46は上板34の車両後方側に形成されているので、排出口46が車両前方側に形成されている構成と比較して、異物の排出が容易になる。なお、車両が完全に停止していない状態であっても、実質的に上記の流速V2、V3の差が小さい場合には、上板34の上方と下方との圧力差も所定範囲内となるので、開閉板48は排出口46を開放する。
【0046】
図5には、本発明の第1実施形態の変形例の車両前部構造72が示されている。この変形例の車両前部構造72では、ロアアブソーバー32の上板34の下面において、排出口46の車両後方側の位置に、接触片74が形成されている。接触片74は、図5に二点鎖線で示すように、開閉板48が排出口46を閉塞している状態で、開閉板48の後辺48R(ヒンジ50の反対側の辺)に接触(あるいは係合)することで、開閉板48の不用意な上下動(ばたつき)を抑制している。しかし、車両停止中の状態において、上板34の上下での圧力差が所定以下になると、開閉板48が自重で下方へ回転する動作は妨げないようになっている。
【0047】
したがって、第1実施形態の変形例の車両前部構造72では、開閉板48が排出口46を閉塞している状態での開閉板48の不用意な上下動(ばたつき)が抑制され、導入空気をより安定的に冷却ユニット28に案内することができる。
【0048】
なお、以下の各実施形態に示すように、開閉板48をロアアブソーバー32の上板34に回転可能に支持する具体的構成は特に限定されない。また、本発明の弁部材も、上記の開閉板48に限定されない。
【0049】
図6には、本発明の第2実施形態の車両前部構造112が部分的に拡大して示されている。第2実施形態では、第1実施形態の車両前部構造12と比較して、開閉板48を上板34に対して回転可能に支持するヒンジ50の位置が異なっている。すなわち、第2実施形態では、ヒンジ50が排出口46の車幅方向外側に設けられている。
【0050】
図7には、本発明の第3実施形態の車両前部構造122が部分的に拡大して示されている。第3実施形態では、車幅方向左右に分割された2枚の分割開閉板124A、124Bによって、排出口46が開閉されるようになっている。車幅方向外側の分割開閉板124Aは、車幅方向外側のヒンジ50によって回転可能に上板34に支持されており、車幅方向内側の分割開閉板124Bは、車幅方向内側のヒンジ50によって回転可能に上板34に支持されている。
【0051】
図8には、本発明の第4実施形態の車両前部構造132が部分的に拡大して示されている。第4実施形態では、三角形状の4枚の分割開閉板134A、134B、134C、134Dによって、排出口46が開閉されるようになっている。車幅方向外側の分割開閉板134Aは、車幅方向外側のヒンジ50によって回転可能に上板34に支持されており、車幅方向内側の分割開閉板134Bは、車幅方向内側のヒンジ50によって回転可能に上板34に支持されている。また、車両前方側の分割開閉板134Cは、車両前方側のヒンジ50によって回転可能に上板34に支持されており、車両後方側の分割開閉板134Dは、車両後方側のヒンジ50によって回転可能に上板34に支持されている。
【0052】
図9(A)には、本発明の第5実施形態の車両前部構造142が部分的に拡大して示されている。また、図9(B)には、この車両前部構造142が図9(A)におけるB−B線断面にて、さらに拡大して示されている。
【0053】
第5実施形態では、開閉板144が弾性を有する板状の部材(樹脂やゴム等)によって構成されており、排出口46の車両前方側において、上板34に固定(接着や溶着等、固定方法は特に限定されない)されている。開閉板144は、第1実施形態に係る開閉板48と同様に、排出口46の上方と下方との流速差に起因する圧力差が所定範囲内のときには、図9(B)に実線で示すように、上板34の角部34Cを実質的なヒンジとして回転しつつ、全体として自重で下方に湾曲し、排出口46を開放している。そして、この圧力差が所定範囲を超えると、図9(B)に二点鎖線で示すように、車両後方側が上方へ変形し、排出口46を閉塞する。
【0054】
図10には、本発明の第6実施形態の車両前部構造152が部分的に拡大して示されている。第6実施形態では、円形の排出口154がロアアブソーバー32の上板34に形成されている。また、開閉板156は、全体として排出口154を閉塞可能な円形を成す複数の扇形の開閉扇板156Sで構成されている。開閉扇板156Sのそれぞれは、第5実施形態に係る開閉板144と同様に、排出口46の上方と下方との流速差に起因する圧力差が所定範囲内のときには、自重で下方に湾曲する。このとき、隣りあう開閉扇板156Sどうしの半径部156Rが離間し、排出口154を開放している。そして、この圧力差が所定範囲を超えると、車両後方側が上方へ変形し、隣りあう開閉扇板156Sどうしの半径部156Rが互いに接触して、排出口154を閉塞する。
【0055】
このように、上記したいずれの実施形態においても、排出口46(又は排出口154)を、弁部材である開閉板を用いて、車両走行中は閉塞し車両停止中は開放することが可能である。そして、車両走行中は開閉板48が排出口46を閉塞することで、導入空気を効率的に冷却ユニット28に送ることができると共に、車両停止中(車速が低い場合)には、開閉板48が排出口46を開放することで、上板34の上に溜まった異物を排出口46から排出することが可能となる。
【0056】
しかも、上記した各実施形態の構成では、開閉板48を移動させて排出口46、154を開閉するための特別な部材や構造が不要となり、車両前部構造として構成の簡素化を図ることができる。もちろん、開閉板48を移動させて排出口46、154を開閉するための構成として、上記した各実施形態の例以外のものを用いることも可能である。たとえば、開閉板を移動させるためのアクチュエーターを設け、車速に応じてアクチュエーターを駆動して、開閉板を移動させる構成でもよい。このようにアクチュエーターを用いた構成では、開閉板48を支持すると共に、接触的に力を作用させて開放位置へ移動させることも可能であるが、開閉板48の支持を解除するだけでも、開閉板48はフリーとなり、閉塞位置へ移動可能となる。したがって、上記各実施形態と同様に、開閉板48を自重で開放位置へ移動させる構成とすることが可能である。
【0057】
また、アクチュエーターを用いた構成では、ヒンジ50によって開閉板を回転させる構造に代えて、開閉板を上下方向あるいは水平方向に移動(スライド)させて、排出口46を開閉する構成も実現可能である。また、アクチュエーターを用いた構成では、ロアアブソーバー32の上板34の上方の導入空気の流速V2と、ロアアブソーバー32の上板34の下方での導入空気の流速V3との流速差(V2−V3)を生じさせる必要がないので、エンジンアンダーカバー44の構造の制約が少なくなる。
【0058】
また、上記各実施形態では、ロアアブソーバー32の上板34が略水平とされているものを例に挙げたが、以下の各実施形態に示すように、上板34の全部又は一部が傾斜している構造でもよい。このように上板34の全部又は一部が傾斜している構造では、上板34の水平方向の高さが低い位置に、排出口46、154が設ければ、これ以外の高さ位置に排出口を形成したものと比較して、異物を効果的に排出可能となる。
【0059】
図11に示す第7実施形態の車両前部構造162では、ロアアブソーバー32の上板34は、その車両後方側が下になるように全体的に傾斜されている。したがって、排出口46も車両後方側に形成されている。
【0060】
図12に示す第8実施形態の車両前部構造172では、ロアアブソーバー32の上板34は、その車両前方側が下になるように全体的に傾斜されている。したがって、排出口46も車両後方側に形成されている。
【0061】
これらの第7実施形態、第8実施形態の構成の他にも、たとえば、車両前後方向の中間部分が上に凸あるいは凹となっている形状のものでも本発明を適用可能である。また、第7実施形態や第8実施形態のように、ロアアブソーバー32の上板34が傾斜している構造において、第2実施形態〜第6実施形態の開閉板あるいは排出口の構成とすることも可能である。
【0062】
上記各実施形態では、本発明の案内部材が、ロアアブソーバー32の上板34として構成されているものを例に挙げている。すなわち、ロアアブソーバー32の上板34を案内部材として利用しており、案内部材をあらたに設ける必要がないので、部品点数を少なくできると共に、車両前部構造の軽量化、簡素化を図ることができる。ただし、本発明の案内部材が、ロアアブソーバー32の上板34とは別体で構成されていてもよい。フロントグリル22の下辺22B(図3参照)や、バンパカバー18の膨出部18Bにおける上部18T(同じく図3参照)を車両後方側まで板状に延長し、この延長部分を本発明の案内部材として用いてもよい。
【0063】
本発明のカバー部材としても、上記ではエンジンアンダーカバー44がこれを兼ねている構成を挙げたが、あらたにカバー部材を設けて、上記した流速差(V2−V3)を生じさせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 車両
12 車両前部構造
20 空気導入口
22 フロントグリル
28 冷却ユニット
30 ラジエーターサポートロア
32 ロアアブソーバー
40 案内部材
42 側板(壁部材)
44 エンジンアンダーカバー(カバー部材、開閉手段)
46 排出口
48 開閉板(弁部材)
50 ヒンジ(回転支持部材)
72 車両前部構造
74 接触片
112 車両前部構造
122 車両前部構造
124A、124B 分割開閉板(弁部材)
132 車両前部構造
134A、134B、134C、134D 分割開閉板(弁部材)
142 車両前部構造
144 開閉板(弁部材)
152 車両前部構造
154 排出口
156 開閉板(弁部材)
162 車両前部構造
172 車両前部構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方側の空気導入口よりも車両後方側に設けられ、空冷式熱交換器を含んで構成された冷却ユニットと、
前記空気導入口の下端側で空気導入口から前記冷却ユニットまで板状に延在され、空気導入口から導入された空気を前記冷却ユニットに案内する案内部材と、
前記案内部材に形成され、案内部材上の異物を案内部材の下方に排出可能な排出口と、
前記排出口を開放する開放位置と、該排出口を前記案内部材に沿って閉塞する閉塞位置との間で移動可能な弁部材と、
車速があらかじめ設定された閾値車速を超えると前記弁部材を前記閉塞位置へと移動させ、閾値車速以下では弁部材を前記開放位置へ移動可能とする開閉手段と、
を有する車両前部構造。
【請求項2】
前記空気導入口の下方に設けられ車両に作用した衝撃を吸収する衝撃吸収部材、
を有し、
前記衝撃吸収部材の一部が前記案内部材を兼ねている請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記弁部材が、
前記排出口の上側の空気の流速と排出口の下側の空気の流速との流速差が所定を超えると排出口の上下で生じた圧力差で上昇して排出口を閉塞し、該流速差が所定以下のときは自重で下方に移動して前記排出口を開放可能な開閉板であり、
前記開閉手段が、少なくとも前記排出口の下方を覆うことで前記排出口の下側の空間を閉じるカバー部材である請求項1又は請求項2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記案内部材の車幅方向両側において案内部材から立設され、車両走行時における案内部材の上側の空気の車幅方向外側への流出を抑制する壁部材、
を有する請求項3に記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記開閉板を前記案内部材に対し回転可能に支持する回転支持部材、を有する請求項3又は請求項4に記載の車両前部構造。
【請求項6】
前記案内部材の上面の少なくとも一部が水平面に対し傾斜した傾斜面とされ、
前記排出口が前記傾斜面の下部に形成されている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−1133(P2012−1133A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139017(P2010−139017)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】