説明

車両用の乗員保護装置

【課題】車両が物体と斜めに衝突したことによりエアバッグが展開しないような場合でも、衝突による衝撃から乗員を適切に保護することができる車両用の乗員保護装置を提供する。
【解決手段】乗員保護装置では、検出された車両の加速度VGFBに基づいて車両が物体と衝突したかが判定され、衝突したと判定されたとき(ステップ8:YES)に、エアバッグを展開させる(ステップ10)。また、エアバッグが展開しない場合において、検出されたウェビングの引出量の変化度合BLCHが所定値BLCHREFに達したとき(ステップ14:YES)に、ウェビングを巻き取るように回転駆動機構が制御される(ステップ15)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突による衝撃から乗員を保護する車両用の乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の乗員保護装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この従来の乗員保護装置は、運転席と運転席側のドアとの間に展開される側面エアバッグと、車両のシートに乗員を拘束するためのウェビングと、ウェビングに張力を付与するための、火薬式のプリテンショナを備えている。また、乗員保護装置では、車両の前後方向の加速度と、左右方向の加速度が、センサによって検出されるとともに、検出された前後方向の加速度が所定のしきい値を超えたときには、車両が物体と正面衝突したとして、上記のプリテンショナを駆動することによって、ウェビングに張力が付与される。さらに、検出された左右方向の加速度が所定のしきい値を超えたときには、車両が物体と側面衝突したとして、側面エアバッグを展開させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−15586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、従来の乗員保護装置では、車両の前後方向の加速度がしきい値を超えたことを条件として、プリテンショナを駆動するにすぎず、また、車両の左右方向の加速度がしきい値を超えたことを条件として、側面エアバッグを展開させるにすぎない。これに対して、例えば車両が、物体と前後方向に対して斜めに衝突(以下「斜め衝突」という)したときには、前後方向の加速度や左右方向の加速度がしきい値を超えない場合がある。その場合には、この従来の乗員保護装置では、衝突による衝撃が乗員に作用するにもかかわらず、プリテンショナや側面エアバッグが作動せず、この衝撃をプリテンショナや側面エアバッグで吸収できないため、乗員を適切に保護することができない。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、車両が物体と斜め衝突したことによりエアバッグが展開しないような場合でも、衝突による衝撃から乗員を適切に保護することができる車両用の乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明による車両用の乗員保護装置は、車両Vのシート(実施形態における(以下、本項において同じ)運転席SE)に乗員(運転者DR)を拘束するためのウェビング5が巻回されたリール8と、リール8を回転駆動するための回転駆動機構(プリテンショナ10)と、ウェビング5の引出量の変化度合を検出する変化度合検出手段(回転角センサ31、ECU2、ステップ13)と、車両Vの加速度を検出する加速度検出手段(第1加速度センサ32)と、検出された車両の加速度(前後方向加速度VGFB)に基づいて、車両Vが物体と衝突したか否かを判定する衝突判定手段(ECU2、ステップ8)と、車両Vが物体と衝突したと判定されたとき(ステップ8:YES)に、車両Vの乗員を保護するためにエアバッグ4aを展開させるエアバッグ展開手段(ECU2、ステップ10)と、エアバッグ展開手段によってエアバッグ4aが展開しない場合(ステップ8:NO)において、検出されたウェビング5の引出量の変化度合(ウェビング引出変化量BLCH)が所定値BLCHREFに達したとき(ステップ14:YES)に、ウェビング5を巻き取るように回転駆動機構を制御する制御手段(ECU2、ステップ15)と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、車両のシートに乗員を拘束するためのウェビングが、リールに巻回されており、このウェビングの引出量の変化度合が変化度合検出手段によって検出されるとともに、車両の加速度が加速度検出手段によって検出される。また、検出された車両の加速度に基づき、衝突判定手段によって、車両が物体と衝突したか否かが判定されるとともに、車両が物体と衝突したと判定されたときに、エアバッグを、エアバッグ展開手段によって展開させる。さらに、エアバッグ展開手段によってエアバッグが展開しない場合において、検出されたウェビングの引出量の変化度合が所定値に達したときに、回転駆動機構が、ウェビングを巻き取るように、制御手段によって制御される。
【0008】
上述したように、衝突判定手段では、車両の加速度に基づいて車両の衝突を判定するので、例えば、車両が物体と斜め衝突(前後方向に対して斜めに衝突)したことにより、当該衝突で発生した車両の加速度が比較的小さいことによって、車両が物体と衝突したと判定されず、その結果、エアバッグが展開しない場合がある。上述した構成によれば、例えば車両が斜め衝突したことによりエアバッグが展開しないような場合でも、この衝突による衝撃が乗員に作用することによって実際のウェビングの引出量の変化度合が所定値に達したときに、ウェビングが回転駆動機構によって巻き取られるので、シートに乗員を適切に拘束でき、したがって、衝突による衝撃から乗員を適切に保護することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車両用の乗員保護装置において、車両Vの加速度が所定加速度に達したときに、リール8を、ウェビング5を引き出す方向に回転しないようにロックするロック機構11をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、車両の加速度が所定加速度に達したとき、すなわち、車両が物体と衝突したときに、リールが、ウェビングを引き出す方向に回転しないように、ロック機構によってロックされる。これにより、車両の衝突時、シートに乗員を適切に拘束できるので、請求項1に係る発明による効果、すなわち、乗員を適切に保護できるという効果をより有効に得ることができる。また、ロック機構は、ウェビングの引出方向へのリールの回転を阻止するだけで、ウェビングを巻き取る方向へのリールの回転については許容するので、請求項1に係る発明の説明で述べた回転駆動機構によるウェビングの巻取を支障なく行うことができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の車両用の乗員保護装置において、回転駆動機構は、火薬の発火によって発生するガスを動力源とするものであり、リール8を回転駆動するためのモータ9をさらに備え、制御手段は、回転駆動機構によるウェビング5の巻取の完了後(ステップ17:YES)、巻き取られたウェビング5の引出量を保持するように、モータ9を制御する(ステップ20)ことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、回転駆動機構は、火薬の発火によって発生するガスを動力源としている。この種の回転駆動機構は、応答性が非常に高いので、車両の衝突時におけるウェビングの巻取を迅速に行うことができ、したがって、請求項1に係る発明による効果をより有効に得ることができる。また、回転駆動機構が火薬の発火によって発生するガスを動力源とするので、その動力が得られる期間は比較的短いのに対し、上述した構成によれば、回転駆動機構によるウェビングの巻取の完了後、当該巻き取られたウェビングの引出量を保持するように、リールを回転駆動するためのモータが制御される。これにより、回転駆動機構の動力が得られなくなった後にも、モータの動力によりウェビングに張力を付与し、シートに乗員を適切に拘束できるので、乗員を適切に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態による乗員保護装置を、車両の運転席や運転者とともに概略的に示す側面図である。
【図2】本実施形態による乗員保護装置を、車両の運転席などとともに概略的に示す正面図である。
【図3】乗員保護装置のシートベルト装置やエアバッグ装置、ECUを概略的に示す図である。
【図4】ECUによって実行される、乗員保護制御処理を示すフローチャートである。
【図5】図4に示す処理の続きを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1〜図3に示す車両用の乗員保護装置は、シートベルト装置3およびエアバッグ装置4を備えている。これらのシートベルト装置3およびエアバッグ装置4として、車両Vの運転者DR用のものと、助手席(図示せず)の乗員用のものが設けられている。まず、運転者DR用のシートベルト装置3およびエアバッグ装置4について説明する。また、運転者DRから見て前側を「前」、左側を「左」として説明する。
【0015】
シートベルト装置3は、いわゆる3点式のものであり、運転者DRを運転席SEに拘束するためのウェビング5と、ウェビング5を巻き取るためのリトラクタ6を有している。リトラクタ6は、車両Vの右側のセンタピラーCPの下部に取り付けられている。ウェビング5は、リトラクタ6から上方に延びるとともに、センタピラーCPの上部に取り付けられたスルーアンカTAに通されており、ウェビング5の先端部は、センタピラーCPの下部に、アウタアンカOAを介して固定されている。ウェビング5は、運転者DRに装着されていない非装着状態では、センタピラーCPに沿って、上下方向に延びている。
【0016】
また、ウェビング5には、スルーアンカTAとアウタアンカOAの間に、タングプレートTPが設けられている。このタングプレートTPは、ウェビング5の長さ方向に移動自在であるとともに、バックルBUに着脱可能になっている。バックルBUは、車両VのフロントフロアFFに固定されており、運転席SE付近の助手席寄りに配置されている。以上の構成のシートベルト装置3では、運転席SEに着座した運転者DRが、ウェビング5をリトラクタ6から引き出し、タングプレートTPをバックルBUに係合させることによって、ウェビング5が運転者DRに装着される。この装着状態では、運転者DRは、ウェビング5によって運転席SEに拘束される。
【0017】
図3に示すように、リトラクタ6は、センタピラーCPに固定されたフレーム7と、ウェビング5が巻回されたリール8と、リール8を回転駆動するためのモータ9と、プリテンショナ10と、ロック機構11などで構成されている。リール8は、フレーム7に回転自在に支持されており、復帰ばね(図示せず)によって、ウェビング5を巻き取る方向(以下「巻取方向」という)に付勢されている。この復帰ばねによる付勢によって、ウェビング5は、非装着状態では、リール8に巻き取られ、リトラクタ6に部分的に収容される。
【0018】
また、リール8の軸部8aは、動力伝達機構12を介してモータ9の出力軸9aに連結されている。モータ9は、例えばDCモータで構成され、供給された電力を動力に変換して出力軸9aから出力するものであり、動力伝達機構12とともに、車両Vの衝突時にウェビング5を巻き取るための電動式プリテンショナを構成している。モータ9の動作は、後述するECU2によって制御される。
【0019】
さらに、動力伝達機構12は、機械式のクラッチや遊星歯車装置(いずれも図示せず)などで構成されている。モータ9が正転したときには、このクラッチによって、モータ9の出力軸9aがリール8の軸部8aに接続されるとともに、遊星歯車装置によって、モータ9の動力が減速した状態でリール8に伝達される。これにより、リール8は、巻取方向に回転駆動される。一方、モータ9が逆転したときには、クラッチによって、出力軸9aと軸部8aの間が遮断される。車両Vの衝突時以外の通常時には、リール8とモータ9の間は、クラッチによって遮断された状態にある。
【0020】
また、プリテンショナ(以下「P/T」という)10は、火薬の発火によって発生するガスを動力源とする火薬式のものであり、インナロータ21、アウタロータ22、ガス発生器23、およびハウジング24などで構成されている。インナロータ21は、リール8の軸部8aに一体に取り付けられており、アウタロータ22は、インナロータ21の外周側に配置されている。通常時には、インナロータ21およびアウタロータ22は、互いに所定の間隔を存した状態で対向しており、インナロータ21の外周面およびアウタロータ22の内周面には、両ロータ21、22を互いに係合させるための係合部(図示せず)が形成されている。また、インナロータ21およびアウタロータ22は、ハウジング24に収容されており、ハウジング24にはさらに、複数のスチールボール(図示せず)が収容されている。アウタロータ22の外周面には、これらのスチールボールと係合可能な羽根部22aが形成されている。
【0021】
上記のガス発生器23は、点火機器や、着火薬、ガス発生剤(いずれも図示せず)などで構成されており、車両Vの衝突時、ECU2による制御によって、火薬を発火させることでガスを発生させる。発生したガスは、ハウジング24内に供給される。このガスの圧力によって、スチールボールが、アウタロータ22の羽根部22aに打ち込まれ、それにより、アウタロータ22が、上記の係合部を介してインナロータ21に係合する。これにより、ガス発生器23のガスの圧力は、スチールボール、アウタロータ22およびインナロータ21を介して、回転力に変換され、リール8に伝達される。それにより、リール8が、巻取方向に回転駆動され、ウェビング5がリール8に瞬時に巻き取られる。
【0022】
また、前記ロック機構11は、クラッチや、ラチェット、振り子(いずれも図示せず)などで構成されている。ロック機構11は、車両Vの衝突方向にかかわらない車両Vの加速度(減速度)が所定値VGPAREFに達したときに、リール8を、ウェビング5を引き出す方向(以下「引出方向」という)に回転しないようにロックし、巻取方向へのリール8の回転については許容する。
【0023】
また、リトラクタ6には、回転角センサ31が設けられている。回転角センサ31は、ホール素子などで構成されており、リール8の回転角度位置を検出し、その検出信号をECU2に出力する。ECU2は、検出されたリール8の回転角度位置に基づいて、リトラクタ6から引き出されているウェビング5の引出量(以下「ウェビング引出量」という)BLを算出する。
【0024】
エアバッグ装置4は、エアバッグ4a(図1に仮想線で図示)およびインフレータ4bを有している。エアバッグ4aは、通常時には、車両VのステアリングホイールSWのパッドに、たたまれた状態で収容されており、エアバッグ4aには、ガス排出孔が形成されている。また、インフレータ4bは、点火機器や、着火薬、ガス発生剤(いずれも図示せず)などで構成されており、車両Vの衝突時、ECU2による制御によって、ガスを発生させるとともに、エアバッグ4aに供給する。これにより、エアバッグ4aは、運転者DRとステアリングホイールSWとの間に、瞬時に展開する。また、エアバッグ4aは、最大に展開し(展開しきった状態)、インフレータ4bからのガスの供給が終了すると、供給されたガスがガス排出孔から排出されることによって、瞬時にしぼむ。
【0025】
また、車両Vには、第1加速度センサ32、第2加速度センサ33およびバックルスイッチ(以下「BU・SW」という)34が設けられている。第1加速度センサ32は、半導体ピエゾ効果を利用した半導体式のものであり、車両Vの前後方向の加速度および減速度(以下「前後方向加速度」という)VGFBを検出し、その検出信号をECU2に出力する。また、第2加速度センサ33は、第1加速度センサ32と同様、半導体式のものであり、車両Vの左右方向の加速度および減速度(以下「左右方向加速度」という)VGLRを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0026】
上記のBU・SW34は、前述したウェビング5のタングプレートTPがバックルBUに係合しているとき、すなわちウェビング5が装着状態のときに、ON信号をECU2に出力する一方、タングプレートTPがバックルBUと係合していないとき、すなわちウェビング5が非装着状態のときに、OFF信号をECU2に出力する。
【0027】
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、前述した各種のセンサ31〜33からの検出信号およびBU・SW34からの出力信号などに応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、他の車両や電柱などの物体との車両Vの衝突による衝撃から運転者DRを保護するために、シートベルト装置3およびエアバッグ装置4の動作を制御する乗員保護制御処理を実行する。
【0028】
図4および図5は、この乗員保護制御処理を示している。本処理は、所定周期(例えば1msec)で繰り返し実行される。まず、図4のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、保護完了フラグF_DONEが「1」であるか否かを判別する。この保護完了フラグF_DONEは、後述するシートベルト装置3やエアバッグ装置4による運転者DRの保護が完了したときに「1」に設定されるものであり、車両Vの工場からの出荷時に「0」に初期化されている。その詳細については後述する。
【0029】
このステップ1の答がNO(F_DONE=0)のときには、前述したBU・SW34からON信号が出力されているか否かを判別する(ステップ2)。この答がNOのとき、すなわち、ウェビング5が非装着状態のときには、アップカウント式のP/Tタイマのタイマ値tP/Tを値0にリセットする(ステップ3)とともに、ステップ4および5においてそれぞれ、後述するP/T作動済みフラグF_P/Tおよびモータ保持制御フラグF_MCを「0」にリセットし、シートベルト装置3やエアバッグ装置4を作動させる必要がないため、そのまま本処理を終了する。
【0030】
一方、上記ステップ2の答がYESで、BU・SW34からON信号が出力されているとき、すなわち、ウェビング5が装着状態のときには、モータ保持制御フラグF_MCが「1」であるか否かを判別する(ステップ6)。このモータ保持制御フラグF_MCは、後述するモータ保持制御の実行中に「1」に設定されるものである。このモータ保持制御では、P/T10の作動完了後に、ウェビング引出量BLを保持するように、モータ9が制御される。
【0031】
上記ステップ6の答がNO(F_MC=0)のとき、すなわち、モータ保持制御の実行中でないときには、P/T作動済みフラグF_P/Tが「1」であるか否かを判別する(ステップ7)。このP/T作動済みフラグF_P/Tは、P/T10を作動させたときに「1」に設定されるものである。
【0032】
上記ステップ7の答がNO(F_P/T=0)のとき、すなわち、P/T10が作動していないときには、検出された前後方向加速度VGFBが所定加速度VGFBREF以上であるか否かを判別する(ステップ8)。この所定加速度VGFBREFは、車両Vが比較的高い速度で物体と正面衝突したか否かを判定するためのものであり、実験などによって、前述した所定値VGPAREFよりも大きな値に設定されている。
【0033】
上記ステップ8の答がYESで、前後方向加速度VGFBが所定加速度VGFBREFに達したときには、車両Vが比較的高い速度で正面衝突したと判定する。次いで、この正面衝突による衝撃から運転者DRを保護すべく、ステップ9および10において、P/T10およびエアバッグ4aをそれぞれ作動させる。これらのステップ9および10の実行により、前述したように、ガス発生器23で発生したガスによって、リール8が巻取方向に回転駆動され、ウェビング5がリール8に瞬時に巻き取られるとともに、インフレータ4bからエアバッグ4aにガスが供給されることによって、エアバッグ4aが瞬時に展開する。
【0034】
次いで、シートベルト装置3およびエアバッグ装置4による運転者DRの保護が完了したとして、そのことを表すために、図5のステップ22において、保護完了フラグF_DONEを「1」に設定し、本処理を終了する。
【0035】
上記ステップ22の実行により、前記ステップ1の答がYESになり、その場合には、前記ステップ3〜5を実行し、本処理を終了する。保護完了フラグF_DONEは、このように「1」に設定された後には、工場などにおいて、エアバッグ4aおよびP/T10が再度、使用可能になったときに「0」にリセットされる。
【0036】
一方、ステップ8の答がNOで、VGFB<VGFBREFのときには、車両Vが正面衝突していないと判定する。次いで、検出された前後方向加速度VGFBおよび左右方向加速度VGLRを用い、次式(1)によって、加速度パラメータVGPAを算出する(ステップ11)。この加速度パラメータVGPAは、車両Vの衝突方向にかかわらない車両Vの加速度(前後方向加速度VGFBおよび左右方向加速度VGLRのベクトル和)である。
VGPA=(VGFB2 +VGLR2 1/2 ……(1)
【0037】
次に、このステップ11で算出された加速度パラメータVGPAが、前述したロック機構11が作動する車両Vの加速度(減速度)である所定値VGPAREF以上であるか否かを判別する(ステップ12)。この答がNOで、VGPA<VGPAREFのときには、車両Vが斜め衝突していないと判定するとともに、前記ステップ3〜5を実行し、本処理を終了する。
【0038】
一方、上記ステップ12の答がYESで、加速度パラメータVGPAが所定値VGPAREFに達したときには、車両Vが斜め衝突したと判定する。次いで、算出された今回のウェビング引出量BLからその前回値BLZを減算することによって、ウェビング引出変化量BLCHを算出する(ステップ13)。これにより、ウェビング引出変化量BLCHは、本処理の実行周期である所定周期当たりのウェビング引出量BLの変化量に算出される。
【0039】
次いで、上記ステップ13で算出されたウェビング引出変化量BLCHが所定値BLCHREF以上であるか否かを判別する(ステップ14)。この答がNOのときには、車両Vの斜め衝突による運転者DRの実際の移動量が比較的小さいとして、P/T10を作動させることなく、前記ステップ3〜5を実行し、本処理を終了する。
【0040】
一方、上記ステップ14の答がYES(BLCH≧BLCHREF)で、ウェビング引出変化量BLCHが所定値BLCHREFに達したときには、斜め衝突による運転者DRの移動によってウェビング5が大きく引き出されたとして、当該衝突による衝撃から運転者DRを保護すべく、運転席SEに運転者DRを拘束するために、P/T10を作動させる(ステップ15)。これにより、前記ステップ9と同様、ウェビング5がリール8に瞬時に巻き取られる。
【0041】
次いで、P/T10が作動したことを表すため、P/T作動済みフラグF_P/Tを「1」に設定し(ステップ16)、図5のステップ17を実行する。このステップ16の実行により、前記ステップ7の答がYESになり、その場合には、前記ステップ8〜16をスキップし、ステップ17を実行する。
【0042】
このステップ17では、前記ステップ3で設定されたP/Tタイマのタイマ値tP/Tが所定時間tP/TREF以上であるか否かを判別する。この所定時間tP/TREFは、P/T10の作動期間、すなわちP/T10の動力が得られる期間に設定されており、例えば7msecに設定されている。ステップ17の答がNOのときには、アップカウント式の保持制御タイマのタイマ値tMCを値0にリセットし(ステップ18)、本処理を終了する。
【0043】
一方、ステップ17の答がYES(tP/T≧tP/TREF)になったとき、すなわち、P/T10が作動を開始してから所定時間tP/TREFが経過したときには、P/T10によるウェビング5の巻取が完了したとして、ウェビング5を巻き取られた状態に保持すべく、モータ保持制御を実行するために、モータ保持制御フラグF_MCを「1」に設定し(ステップ19)、ステップ20を実行する。このステップ19の実行により、前記ステップ6の答がYESになり、その場合には、前記ステップ7〜19をスキップし、ステップ20を実行する。
【0044】
このステップ20では、モータ保持制御を実行する。具体的には、前記ステップ13と同様にしてウェビング引出変化量BLCHを算出するとともに、算出されたウェビング引出変化量BLCHが値0になるように、モータ9の動力を制御する。これにより、ウェビング引出量BLが変化しないように保持される。
【0045】
次いで、前記ステップ18で設定された保持制御タイマのタイマ値tMCが所定時間tMCREF以上であるか否かを判別する(ステップ21)。この答がNOのときには、本処理を終了する一方、YES(tMC≧tMCREF)になったとき、すなわち、モータ保持制御を開始してから所定時間tMCREFが経過したときには、シートベルト装置3による運転者DRの保護が完了したとして、前記ステップ22を実行し、本処理を終了する。
【0046】
なお、助手席の乗員用のシートベルト装置およびエアバッグ装置は、上述した運転手用のものとほぼ同様に構成されており、エアバッグ装置のエアバッグが、助手席の前方のインストルメントパネルに収容されていることが、主に異なる。このため、その詳細な説明については省略する。また、助手席用のシートベルト装置およびエアバッグ装置についても、車両Vの衝突による衝撃から助手席の乗員を保護するために、上述した乗員保護制御処理と同様の処理が実行される。その詳細な説明については省略する。
【0047】
また、本実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、本実施形態における運転席SEおよびP/T10が、本発明におけるシートおよび回転駆動機構にそれぞれ相当し、本実施形態における回転角センサ21およびECU2が、本発明における変化度合検出手段に相当するとともに、本実施形態における第1加速度センサ32が、本発明における加速度検出手段に相当する。また、本実施形態におけるECU2が、本発明における衝突判定手段、エアバッグ展開手段、および制御手段に相当する。さらに、本実施形態における前後方向加速度VGFBおよびウェビング引出変化量BLCHが、本発明における検出された車両の加速度およびウェビングの引出量の変化度合にそれぞれ相当する。
【0048】
以上のように、本実施形態によれば、検出された前後方向加速度VGFBに基づいて、車両Vが正面衝突したと判定されたとき(ステップ8:YES)に、エアバッグ4aを展開させる(ステップ10)。さらに、エアバッグ4aが展開しない場合において(ステップ8:NO)、ウェビング引出変化量BLCHが所定値BLCHREFに達したとき(ステップ14:YES)に、P/T10が駆動され(ステップ15)、それによりウェビング5が瞬時に巻き取られる。これにより、例えば車両Vの斜め衝突によりエアバッグ4aが展開しないような場合でも、この斜め衝突による衝撃が運転者DRに作用することによって実際のウェビング引出変化量BLCHが所定値BLCHREFに達したときに、ウェビング5がP/T10によって巻き取られるので、運転席SEに運転者DRを適切に拘束でき、したがって、斜め衝突による衝撃から運転者DRを適切に保護することができる。
【0049】
また、車両Vの加速度が、その方向にかかわらず、所定値VGPAREFに達したときに、リール8が、ウェビング5を引き出す方向に回転しないように、ロック機構11によってロックされる。さらに、この所定値VGPAREFが、エアバッグ4aの作動の判定に用いられる所定加速度VGFBREFよりも小さな値に設定されているので、エアバッグ4aが展開しないような斜め衝突時に、ロック機構11によってウェビング5を確実にロックし、運転席SEに運転者DRを適切に拘束でき、したがって、上述した運転者DRを適切に保護できるという効果をより有効に得ることができる。また、ロック機構11は、引出方向へのリール8の回転を阻止するだけで、巻取方向へのリール8の回転については許容するので、上述したP/T10によるウェビング5の巻取を支障なく行うことができる。
【0050】
さらに、P/T10は、火薬の発火によって発生するガスを動力源としている。したがって、車両Vの斜め衝突時におけるウェビング5の巻取を迅速に行うことができ、それにより、上述した効果をより有効に得ることができる。また、P/T10によるウェビング5の巻取の完了後(ステップ17:YES)、モータ保持制が実行され(ステップ20)、それにより、ウェビング引出量BLが変化しないように保持される。これにより、P/T10の動力が得られなくなった後にも、モータ9の動力によりウェビング5に張力を付与し、運転席SEに運転者DRを適切に拘束でき、したがって、運転者DRを適切に保護することができる。また、以上の効果を、助手席の乗員についても同様に得ることができる。
【0051】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、モータ9は、DCモータであるが、ACモータでもよい。また、実施形態では、ロック機構11を、車両Vの衝突方向にかかわらない車両Vの加速度に応じて作動するように構成しているが、車両Vのある特定の方向の加速度、例えば、前後方向加速度VGFBまたは左右方向加速度VGLRに応じて作動するように構成してもよい。さらに、実施形態では、本発明における回転駆動機構として、火薬式のP/T10を用いているが、リール8を回転駆動可能な他の適当な機構、例えばモータ9を用いてもよい。
【0052】
また、実施形態では、本発明におけるウェビングの引出量の変化度合として、ウェビング引出変化量BLCHを、すなわち、所定周期(乗員保護制御処理の実行周期)当たりのウェビング引出量BLの変化量を用いているが、ウェビング引出量BLの変化度合を表す他の適当なパラメータを用いてもよい。例えば、通常時におけるウェビング引出量BLを記憶し、記憶された通常時におけるウェビング引出量BLに対する、斜め衝突時(ステップ12:YES)におけるウェビング引出量BLの変化量を算出するとともに、算出されたウェビング引出量BLの変化量を用いてもよい。あるいは、単位時間当たりのウェビング引出量BLの変化量すなわちウェビング5の引出速度や、このウェビング5の引出速度の逆数またはウェビング引出変化量BLCHの逆数を用いてもよい。この場合、ウェビング5の引出速度を、例えば電磁ピックアップ式のセンサで検出してもよい。
【0053】
さらに、実施形態では、第1および第2加速度センサ32、33として、半導体式のものを用いているが、例えば、ばねや慣性質量などで構成された機械式のものを用いてもよい。あるいは、これらを併用してもよい。また、実施形態では、運転者DRとステアリングホイールSW(インストルメントパネル)との間に展開するエアバッグ4aを用いていが、運転席と運転席側のドアとの間(助手席と助手席側のドアとの間)に展開する側面エアバッグを用いてもよい。あるいは、これらのエアバッグ4aおよび側面エアバッグの双方を用いてもよい。この場合、検出された左右方向加速度VGLRに基づいて車両の側面衝突が判定されるとともに、側面衝突が判定されたときに、側面エアバッグを展開させる。
【0054】
さらに、実施形態は、運転席SE用のエアバッグ4aおよび助手席用のエアバッグの双方が設けられた車両Vに、本発明を適用した例であるが、本発明は、運転席SE用のエアバッグ4aおよび助手席用のエアバッグの一方が設けられた車両にも適用可能である。また、実施形態では、3点式のシートベルト装置3を用いているが、左右一対のウェビングを備える4点式のシートベルト装置を用いてもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
V 車両
DR 運転者(乗員)
SE 運転席(シート)
2 ECU(変化度合検出手段、衝突判定手段、エアバッグ展開手段、
制御手段)
4a エアバッグ
5 ウェビング
8 リール
9 モータ
10 P/T(回転駆動機構)
11 ロック機構
31 回転角センサ(変化度合検出手段)
32 第1加速度センサ(加速度検出手段)
VGFB 前後方向加速度(検出された車両の加速度)
BLCH ウェビング引出変化量(検出されたウェビングの引出量の変化度合)
BLCHREF 所定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートに乗員を拘束するためのウェビングが巻回されたリールと、
当該リールを回転駆動するための回転駆動機構と、
前記ウェビングの引出量の変化度合を検出する変化度合検出手段と、
前記車両の加速度を検出する加速度検出手段と、
当該検出された車両の加速度に基づいて、前記車両が物体と衝突したか否かを判定する衝突判定手段と、
前記車両が物体と衝突したと判定されたときに、前記車両の乗員を保護するためにエアバッグを展開させるエアバッグ展開手段と、
当該エアバッグ展開手段によって前記エアバッグが展開しない場合において、前記検出されたウェビングの引出量の変化度合が所定値に達したときに、前記ウェビングを巻き取るように前記回転駆動機構を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用の乗員保護装置。
【請求項2】
前記車両の加速度が所定加速度に達したときに、前記リールを、前記ウェビングを引き出す方向に回転しないようにロックするロック機構をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の車両用の乗員保護装置。
【請求項3】
前記回転駆動機構は、火薬の発火によって発生するガスを動力源とするものであり、
前記リールを回転駆動するためのモータをさらに備え、
前記制御手段は、前記回転駆動機構による前記ウェビングの巻取の完了後、当該巻き取られたウェビングの引出量を保持するように、前記モータを制御することを特徴とする、請求項1または2に記載の車両用の乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−82334(P2013−82334A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223834(P2011−223834)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】